深夜の心意気

深夜の心意気
ある日の夜、子供部屋でカツオとワカメが寝ている。
深夜、物音がする。
カツオ、気になって起きる。
ワカメも起きる。
カツオ
ワカメ、起きちゃったか。
ワカメ
何の音だろうね。お父さんとお母さんの声もするよね。
玄関で、出かけようとする波平にフネが言葉をかける。
フネ
お父さん、あまり無理しないようにしてくださいよ。お父さんまで体を
壊したら、一大事ですよ。
波平
フネ、大丈夫だ。行かせてくれ。
フネ
引き留めはしませんが、心配ですよ。
波平
行かねばならん。これがワシの最大の使命だ。
フネ
そうですね。お父さんの気の済むようにしてください。
波平
では、行ってくる。
フネ
お気をつけて。
ワカメとカツオが玄関に行く。
ワカメ
お父さんは、どこへ行ったの?
フネ
散歩ですよ。
ワカメ
こんな夜中に?
フネ
そうですよ。
ワカメ
私の検査が決まってから告知まで毎夜、玄関先で物音がしてたよね。
カツオ
ワカメ、起きてたのかい?
ワカメ
うん、私、告知までは、ほとんど寝られなかったから。
カツオ
そっか・・・。
ワカメ
お父さんは、あれ以来、毎日散歩してるの?
フネ
そうですよ、お父さんの心意気ですよ。
カツオ
お父さんも帰するのもがあるのかなぁ。
フネ
さあ、もう遅いんだから、寝なさい。ぐっすり眠るんだよ。お父さんも
母さんも大丈夫だから。
ワカメ
はい、分かりました。
カツオとワカメは、部屋に戻り、眠りにつく。
朝、朝食をみんなで食べる。
ワカメ
お父さん、夜中に散歩することにしたの?
サザエ
夜中に散歩?
カツオ
そうだよ、姉さん。お父さんが夜中に散歩に行ってるんだ。
サザエ
どうしてなの?
波平
足腰が弱ってきたから運動することにしたんじゃ。
サザエ
どうして深夜なの?
波平
集中できるからじゃ。
ワカメ
今度私も連れてってほしいな。
波平
深夜なんだから、子供は、しっかり寝ていなさい。
食事を済ませ、各自、出かける。
その日の深夜、また物音でカツオとワカメが目を覚ます。
ワカメ
ねえ、お兄ちゃん。お父さんの後をつけてみない?
カツオ
怒られそうだ。
ワカメ
お父さんを驚かそうよ!
カツオ
そうだな、ワカメの頼みじゃ断れないよ。
ワカメとカツオ、こっそり家を出て、波平の後をつける。
ワカメ
この道、お墓に行く道じゃない?
カツオ
まさか、お父さん、毎日お墓参りしてるのかな?
ワカメとカツオは、波平がお墓を掃除し、線香をあげる姿を見る。
ワカメ
お兄ちゃん、帰ろう。
カツオ
そうだね、見てはいけないものを見てしまった気がする。
ワカメとカツオは家に帰り、部屋に戻る。
ワカメ
お父さん、私のために祈ってくれてるのかな。
カツオ
そうだと思う。お父さんらしいや。
ワカメ
私、止めてもらいたいな。
カツオ
どうして?
ワカメ
体を壊したら元も子もないわ。
カツオ
そうだね、お母さんに相談してみよう。
次の日、深夜、波平が出かけた後、玄関先にて。
ワカメ
ねえ、お母さん。お父さんがお墓参りに行ってるの知ってるの?
フネ
どうしてそれを知ってるの?
ワカメ
ごめんなさい、昨日、お父さんをつけたの。
カツオ
お母さん、ごめんなさい。僕が言い出したんだ。
ワカメ
お兄ちゃん、違う。私よ。
フネ
どちらでもいいですよ。二人の優しさがそうさせたことは分かります
よ。お父さんは、いてもたってもいられなかったんじゃないかしら。ち
ょうどいいわ、二人にお父さんのお墓参りを止めるように言ってもらえ
るかしら。
ワカメ
うん、私も止めてもらいたいと思ってたところ。
フネ
じゃ、帰りを待ちましょうか。
フネ、カツオ、ワカメがお茶を飲みながら待つ。
ワカメ
お茶、あったかい。
カツオ
どうしてこんな寒い深夜にお墓参りしてるの?
フネ
みんなに知られたくないのでしょう。
ワカメ
お父さん、本当に優しいね。
カツオ
そういうとこに惚れたんだね、お母さんは。
フネ
カツオ!変なことを言うもんじゃありません!
ワカメ
お母さん、顔赤くなってる。
フネ
ワカメまで、母親をからかうものではありませんよ。・・・でもね、本当
は嬉しいの。カツオがワカメのことしっかり見てくれてたことも分かっ
たし、ワカメが受け入れてくれたこともね。本当にね(泣)
。
ワカメ
お母さん、泣かないでよ。私は大丈夫。みんなが心配してくれて、みん
なの優しさを感じられた。
カツオ
お母さん、今だけは泣いていいよ。そういう時間も必要。僕だって泣い
たらすっきりしたよ。ワカメだって今、泣いておくといいよ。お父さん
が帰ってくるまでのこの時間を泣く時間にしよう(泣)!
三人、泣く。
波平、帰宅する。
フネ、カツオ、ワカメが涙をぬぐい、玄関に駆けつける。
ワカメ
お父さん、お墓参りに行ってたんでしょ。もう止めて。私は大丈夫だか
ら。
カツオ
そうだよ、お父さんが病気になっちゃうよ。
波平
こうでもしなければ、気が収まらないんじゃ。
フネ
お父さん、お話ししてあげましょうよ。隠すことでもないでしょうから。
波平
・・・そうじゃな。いずれは言うつもりだったことだ。ワカメ、それにカ
ツオ、よく聞きなさい。実は、海平兄さんの他に、もう一人、兄がいた
んだが、幼くして命を落とした。心臓病じゃ。
ワカメ
その兄さんのためにお墓参りをしてたの?
波平
それもあるんじゃが、兄は、ダウン症だったんじゃ。
ワカメ
え!お父さんのお兄さんが?
波平
これも何かの縁じゃ。ワシにはこんなことしかできん。すまん(泣)
。
ワカメ
何で、謝るの!お父さんがそんな気持ちだったなんて思いもよらなかっ
た。
カツオ
お父さん、ワカメの検査の時からずっと、そんな思いだったんだね。
フネ
お父さんは、薄情なんかじゃありませんよ。一番、ワカメのことを思う
良いお父さんです。
ワカメ
お父さんの気持ちは少ししか分からないけど、あまり無理はしてほしく
ないわ。
カツオ
そうだよ、お父さん。毎日深夜にお墓参りだなんて、苦だよ。
フネ
お父さん、子供たちもこう言ってるんですから、深夜のお墓参りは、止
めてもらえますか?
波平
そうだな、心配させてしまっているんじゃ、何のためにしてるか分から
んからな。ワカメと真剣に向き合うことで、道は開けるのかもしれない。
マスオとサザエ、話声で目を覚まし、布団の中で泣く。
サザエ
父さん・・・。知らなかった・・・(泣)
。
マスオ
サザエ、お父さんを頼むね。
サザエ
ええ、マスオさんは、ワカメたちのこと気にしないでね。
マスオ
気になるよ。だって大切な家族なんだから(泣)。
朝、みんな集まった朝食の席にて。
波平
みんな話がある。・・・実は、ワシの兄はダウン症じゃった。
みんな
・・・。
波平
・・・驚かんのか?
サザエ
昨日の会話全部聞こえてたの。私もマスオさんも知ってる。知らないの
はタラちゃんくらいよ。
波平
なんじゃ、それなら話は早い。くよくよしてもいられない。ワシも吹っ
切れた。これからも磯野家は元気にいくぞ(泣)!
みんな
おー!
タラちゃん
どこに行くですか?
マスオ
タラちゃんも連れてお墓参りに行きますか。
サザエ
そうね、みんなで行きましょう!
みんなでお墓参りに行く。
カツオ
流石にお墓がきれいだね。
フネ
お父さんが綺麗にしてくれたおかげだね。これならお掃除はしなくてい
いですね。お線香をあげて、ご先祖様にこれからの健康をよくお祈りし
なさい。
みんなで墓前で手を合わせて祈る。
カツオ
ワカメの健康を祈ったよ。
ワカメ
ありがとう。私は、お父さんとお母さんの健康を祈った。お母さんは?
フネ
家族みんなの健康ですよ。
カツオ
お母さんは、欲張りだなぁ。
ワカメ
あははは、お兄ちゃん、面白い(笑)。
カツオ
ワカメの笑顔、久しぶりかも。ワカメはいつも笑っててほしいな。
フネ
そうね、ワカメの笑顔が一番ですね。カツオ頼むね。
カツオ
任せといてよ、大切な妹だもん。僕が守らなくてどうするんだい。
ワカメ
お兄ちゃん・・・。
フネ
ありがとう(泣)
。
波平
・・・(泣)。
了
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