ダウンロード - 岡山大学病院 看護研究・教育センター

創刊号
発行元
2014.10.1発行 No.1
岡山大学病院 看護研究・教育センター
〒700‐8558 岡山市北区鹿田町2-5-1
創刊にあたって
「EB○」という概念は、「EBN(Evidence-based Nursing)」「EBM(Evidence-based Medicine)」をはじめとして、使用さ
れてきました。医療全体を包含する科学的根拠に基づいた臨床実践として「EBP(Evidence-based Practice)」を位置
づけ、良い成果をもたらしコストベネフィットのある、患者のニーズに合った質の高いケアを効果的に実施する1)をめざ
して、このEvidence-based Practice ニュースレターを創刊します。
専門看護師、認定看護師の皆様が日頃実践している「エビデンスに基づいた看護実践」を上げ、その根拠文献を紹
介していただいたり、保健学研究科の先生方からのEBPの紹介や、現場の皆さんの研究紹介をしていきながら、「科
学的根拠に基づいた看護実践の重要性」、「研究成果を実践に利用する必要性」について、考えることの一助となれ
ばと思います。
1)高見沢恵美子:クリティカルケア看護で使用されているevidence-based practice(EBP)プロセス,19,595-602,2012.
看護研究・教育センター
センター長 保科英子
ストーマ装具の装着面の茶色の粘着材「皮膚保護材」について
皮膚・排泄ケア認定看護師 青井 美由紀
この皮膚保護材の発見以前はアクリル性の粘着材の使用で、発汗にも対応できず、皮膚障害は必須と言っても
過言ではありませんでした。そのようなストーマ袋は見たことが無い方も多いと思いますが、皮膚保護材の出現は
ストーマ保有者にとって大きくQOLが向上しました。
皮膚保護材とは、排泄物を吸収するための親水性ポリマーと粘着するための疎水性ポリマーから成りたち、私
たちの皮膚と同じ弱酸性です。この皮膚保護材の主な作用緩衝作用と静菌作用です。緩衝作用として、便や尿な
どのアルカリ性の排泄物がこの皮膚保護材に付着すると緩衝作用で酸性に傾き、皮膚への刺激を与えないように
なっています。また、水分が付いて溶解や膨潤すると発揮すると言われており、汗程度の水分は吸収します。特に
イレオストミーの方特有の便の消化酵素は刺激が低下し、皮膚への刺激も低下します。静菌作用として、弱酸性
の環境下では細菌が増殖しにくいことが挙げられます。したがって、ストーマ周囲の皮膚を健康な皮膚に保護する
には、この面板、皮膚保護材を確実にストーマ近接まで密着しておくことが大切になります。私達、ストーマケアに
携わる看護師は、どのような体勢であっても腹壁に確実に密着できる装具の選択と患者
指導を行い、ストーマ周囲の皮膚を健康に保護し、またトラブルを起こした皮膚を改
善させストーマ保有者のQOLの向上を支援していきます。
1)ストーマリハビリテーション講習会実行委員会:ストーマリハビリテーション 実践と理論 p136~141
皮膚保護材と皮膚保護製品 金原出版 2010年
超急性期から食べられる「口」を目指す
集中ケア認定看護師 足羽 孝子
人の生きる糧は「食」にあります。ICU入室中の人工呼吸器装着患者では,二次的障害として,嚥下運動に関
与する筋系の廃用萎縮が原因の摂食・嚥下機能障害が起こっており,長期人工呼吸器装着患者の30%以上に
発生すると報告されています1)。廃用に伴う摂食・嚥下機能の低下は経口摂取の時期が遅れるだけでなく,誤嚥
性肺炎のリスクをはらんでいます。現在のところ,人工呼吸器装着患者の摂食・嚥下機
能を維持するエビデンスのあるケアは明らかにされていません。私が気管切開患者に
行った小規模な調査2)では,摂食・嚥下機能が低下している患者は,口唇や舌・頚部の
運動機能が低下している傾向にありました。そのため,私は意思疎通が可能な気管切開
患者とはなるべく読唇術でコミュニケーションをとり,口唇や舌を動かす嚥下体操を
指導しています。当然のことながら超急性期では,鎮静管理をされている場合もあり
ます。その場合は口腔ケア時に頬粘膜や舌をマッサージするようにしています。
1)DeVita MA,Spierer-Rundback L:Swallowing disorders in patients with prolonged orotracheal intubation or tracheostomy tubes,
Critical Care Medicine,18,1328-1330,1990.
2)足羽孝子, 深井喜代子:気管切開患者の摂食・嚥下機能評価尺度の開発, 日本看護技術学会誌, Vol. 12(3), 64-73,2014.
看護は実践の学問である
岡山大学大学院保健学研究科看護学分野
猪下 光
初めて看護学を学ぶ大学生には、看護は実践の
学問であることを教えている。
小児看護学では、子どもの成長と発育などの形
態的機能的発達、母子関係を中心とした心理・社
会的発達、健全な人間として生涯発達の視点など
全人的/包括的/総合的(bio-psycho-socio-ethical
(ecological) holistic total )な幅広い視点と知識
が必要となる。
しかし、これらの知識は、単に知っているレベルで
は価値はない。 病気の子どもに看護ケアとして実
践し、学んだ知識を子どもや母親達にわかりやすく
教え、何らかの効果や行動変容を起こすことによっ
て、初めて看護となる。これからの看護職者は、鳥
の目、虫の目、魚の目の視点を持ち、内省的実践
(Reflective practice)を継続しながら、エビデンス
に基づいた看護ケアを実践してゆくことが大切であ
る。
知っていますか? 橋渡し研究: 『背面開放座位』
看護研究・教育センター 保科 英子
8月17日に行われた第5回看護生理学研究会(代表:深
井喜代子教授)の教育講演は、大久保暢子先生の「看護実
践が‘サイエンス’になるとき ~背面開放座位の橋渡し研究
から~」というテーマでした。背面開放座位とは「背面を支
持せず、背筋を伸ばし脊柱の自然なカーブを損なわないで、
足底を設置した姿勢」1)のことです。背面密着座位よりも有
意に副交感神経が低下、交感神経の亢進が認められてい
る。2)これら研究を元に、「 “起きる”看護ケアプログラム」3)
4)を大久保研究室では補助具とともに開発されています。
1)大久保暢子,雨宮聡子,菱沼典子:背面開放端座位ケアの導入に
より意識レベルが改善した事例―遷延性意識障害患者1事例の
入院中から在宅での経過を追って―,聖路加看護学会誌,5(1),
58-63,2001.
2)大久保暢子,菱沼典子:背面開放座位が自律神経に及ぼす影響,
臨床看護研究の進歩,10,53-59,1998.
3)看護ネット:起きるケアについて/病院等の医療関係者へ
:http://www.kango-net.jp/project/14/14_2/p14_08.html
4)大久保暢子:“起きる”看護ケアプログラム,Nursing Today 24(11),
30-44,2009.
5)大久保暢子,菱沼典子:背面開放座位が
自律神経に及ぼす影響,
臨床看護研究の進歩,10,53-59,1998.
端座位保持テーブル Sittan(しったん)
®
メンバー:看護師・保健学研究科教員・薬剤師・医師・歯科医師・学生
開催日:毎月第4金曜日19時~20時半 場所:中央診療棟5階 卒後研修カンファレンスルーム
【タイトル】 Long-term results of a clinical trial comparing isolated vaginal stimulation with
combined treatment for women with stress incontinence.
【論文の紹介者】 新医療研究開発センター 山本満寿美
【検討内容】
【論文の概要】
膣の電気刺激に骨盤底筋体操を追加し腹圧性
尿失禁の治療効果を判定することを目的に、実施
された介入研究である。48名の腹圧性尿失禁女
性患者を対象に膣の電気刺激のみと電気刺激に
加え骨盤底筋体操を行う群に割り付け、治療直後、
12か月後、96か月後の排尿症状、満足度を調査
した。骨盤底筋体操を併用した群は、膣の電気刺
激のみの群と比較し、より良い結果を示さなかっ
た。
本研究のサンプルサイズを48名と決定してい
る根拠に見直すべき点がある。参考とした先行
研究の満足度にはばらつきがあり、96か月の長
期フォローを想定したサンプル数になっていない。
ランダム化にも疑問がある。主要評価項目が「満
足度」であるにも関わらず、調査方法の記載はな
く、結果を十分説明できていない。満足度の、結
果のメインは2群間の比較のない排尿症状となっ
ている。
C型慢性肝炎でインターフェロンを受ける患者に対する看護面談効果
看護研究・教育センター
難波志穂子
ウイルス性肝炎の患者に医療者が行った種々の教育は、どんな効果をもたらしているかをHemant A.SHAHら1)
はまとめています。D.Larreyら2)は看護師による患者教育がインターフェロンの投与率を向上させ、治療成績が改善
することを示しました。そこで、当院でもC型慢性肝炎でインターフェロンを受ける患者に消化器内科外来(外来Bフロ
ア看護師)が面談を行いその効果を検証したところ、治療開始24週以降でリバビリンの投与率が対照群に比べて維
持できており、治療効果も改善させる傾向を認めました。消化器内科外来看護師の日々行ってきた看護面談が患
者にとって役立つことが明らかとなった研究です。この結果を消化器内科 池田房雄医師の指導の下、論文として
報告しました。 Nursing support increases the efficacy of interferon therapy in patients with chronic hepatitis C.
Acta Med Okayama. 2014.vol68.No5.p263-268に詳細が掲載されているのでご覧ください。
1) Shah HA, Abu-Amara M. Education provides significant benefits to patients with hepatitis B virus or hepatitis C virus infection: a
systematic review. Abu-Amara M.Clin Gastroenterol Hepatol. 2013.11(8):922-33
2) D. Larrey, A. Salse, D. Ribard, et al. Education by a nurse increases response of patients with chronic hepatitis C to therapy with
peginterferon-alpha 2a and ribavirin. Clin Gastroenterol Hepatol, 2011 (9):781–785