液中レーザーアブレーションを用いたクエン酸安定化金、銀ナノ粒子の作製と形状操作 辻 剛志(九大) 、越崎 直人(産総研) 、橋本 修一(徳島大) 液中レーザーアブレーション法の特徴の一つは、化学合成法で作製したコロイド溶液のような対 イオンや保護剤を含まないナノ粒子が得られることであるが、添加物を適切に選択することによっ て、安定性を高めたり、新たな現象を引き出したりすることが可能である。ここでは、クエン酸溶 液中でレーザーアブレーションを行って作製した金、銀ナノ粒子の形状操作に関する2つの例を紹 介する。 1. 銀ナノ粒子の光誘起異方性形状転換 約 10 年前に Mirkin のグループは、球形銀ナノ粒子に蛍光灯の光を照射することによって、ナ ノプリズムへの形状転換が起きることを報告した[1]。その後の研究により、この反応には銀ナノ粒 子の局所プラズモン励起とクエン酸から銀ナノ粒子への電子移動が関与していることが推定され ているが、これまで、特定の化学還元法で作製した銀コロイド以外でこの反応は観察されてこなか った。 最近、我々は、クエン酸溶液中でレーザーアブレーションを行って作製した銀ナノ粒子を用いる と、この反応が再現性良く、かつ高効率 に起きることを見出した(図 1)[2]。系の シンプルさから、この反応には、クエン 酸の吸着状態、溶液中の酸素濃度、およ び銀ナノ粒子の粒径が重要な因子であ ることが確かめられた。また、プリズム から多面体粒子への転換も起きること を明らかにした。一方、金ナノ粒子では この反応は全く観察されず、金属の酸化 図 1:クエン酸溶液中の銀ナノ粒子の光誘起形状変化 還元電位も重要な因子であることが示 唆される。 2. ポストレーザー照射による金、銀ナノ粒子のサブミクロン化 越崎等による、ナノ粒子への非集光レーザー光照射による均一なサブミクロン粒子の作製は極 めて画期的な方法である。一方、この方法を金、銀 ナノ粒子に適用した場合、純水中で作製された粒子 が不安定(?)であるため、再現性が低く、得られる粒 子の均一性も低かった。また、アセトン中で作製し た金ナノ粒子の場合、全くサブミクロン化は観察さ れなかった。 一方、この問題はクエン酸溶液を用いることに よって解決されることを見出した(図 2)。クエン酸の 濃度を徐々に下げていくと、ある濃度以下でサブミ クロン化が観察された。また、サブミクロン化は徐々 に起きるのではなく、ある時間後に極めて早く起き ることが明らかになった。これらのことから、サブ 図 2: クエン酸溶液中の金ナノ粒子への ミクロン化が起きるためには適切なコロイドの安定 ポストレーザー照射によって生成した 性(または不安定性)が重要であることが明らかにな サブミクロン粒子 った。 [1] R.C. Jin, Y.W. Cao, C.A. Mirkin, K.L. Kelly, G.C. Schatz, J.G. Zheng, Science, 294 (2001) 1901. [2] T. Tsuji, M. Tsuji, S. Hashimoto, J. Photochem. Photobiol. A-Chem., in press (2011).
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