位相空間論からの準備 - lab.twcu.ac.jp

位相空間論からの準備
幾何学とグラフ (担当: 新國 亮)
2015 年 4 月 10 日 (金) 配付
以下で, 本講義を進めるにあたって必要となる, 位相空間論の超最小限の予備知
識を簡単に説明する. 本稿で触れられていない進んだ内容, 及びその細部について
は, 幾何学 AI, 幾何学 AII で述べられた (あるいはこれから述べられる) ことと思
う. 位相空間論の入門書で, 大学の講義で使用されている (のを私が見たことがあ
る) ものを, 以下に幾つか挙げておく. 位相空間論に関する書物は山のようにある
ので, 各自が自分に合ったものを使用すれば良いが, 個人的には松坂 [1] が手元に
あればそれで十分なのではないかと思う.
参考文献
[1] 松坂 和夫, 集合 · 位相入門, 岩波書店, 1968 年.
[2] 静間 良次, 位相, サイエンス社, 1975 年.
[3] 鈴木 晋一, 位相入門, サイエンス社, 2004 年.
[4] 内田 伏一, 集合と位相, 裳華房, 1986 年.
1. 位相空間
位相空間の正確な定義は, 以下の通りである.
定義 1.1. (位相空間) 集合 X において, O を X のある部分集合族とする (即
ち, X の幾つかの部分集合の集まり. 有限個でも無限個でも構わない). このと
き, O が X の位相であるとは, 次の 3 条件が全て成り立つことである.
( 1 ) X, ∅ ∈ O,
( 2 ) O1 , O2 , . . . , Ok ∈ O ならば, O1 ∩ O2 ∩ · · · ∩ Ok ∪
∈ O,
( 3 ) O の元から成る任意の集合族 {Oλ }λ∈Λ に対し,
Oλ ∈ O.
λ∈Λ
このとき, X と O との対 (X, O) を位相空間という.
1
定義 1.1 の条件 (2) と (3) には歴然とした違いがあって, (2) は O の有限個の元の
共通部分がまた O に属することを要請する一方, (3) は有限個でも無限個でも, と
にかく O の元から成る集合族について, それらの和集合がまた O に属することを
要請する. 位相空間 (X, O) に対し, X をその台といい, X の元は点と呼ばれる.
定義 1.2. (X, O) を位相空間とするとき,
( 1 ) O に属する X の部分集合を, X の開集合という. これより, O を X の開
集合系と呼ぶこともある.
( 2 ) X の部分集合 A が閉集合であるとは, X のある開集合 O が存在して, A =
X − O となるときをいう. 即ち, 閉集合はある開集合の補集合である.
例 1.3. 集合 X = {1, 2, 3} において, O = {∅, X, {2} , {1, 2} , {2, 3}} とおけば,
(X, O) は位相空間となる. このとき, X の閉集合は X, ∅, {1, 3} , {3} , {1} である.
位相とは, (凄く) 大雑把に言って, 集合における各点の間の繋がり具合を規定す
るものである. 以下, 幾つかの典型的な具体例を述べよう.
例 1.4. 任意の集合 X において, O∗ = {∅, X} は X の位相となる. この位相 O∗ を
密着位相といい, 位相空間 (X, O∗ ) を, X を台とする密着空間という.
例 1.5. 任意の集合 X において, X の全ての部分集合から成る集合族1 を O∗ とお
くと, これは X の位相となる. この位相を離散位相といい, 位相空間 (X, O∗ ) を, X
を台とする離散空間という.
例 1.6. (Rn の位相) n 次元 Euclid 空間 Rn を考えよう. いま, 点 a ∈ Rn 及び
ε > 0 に対し,
Nε (a; Rn ) = {x ∈ Rn | dn (x, a) < ε}
を, 点 a の Rn における ε 近傍という (図 1.1 参照). ここで dn (x, a) は x と a との
間の Rn における距離を表す. 即ち, x = (x1 , x2 , . . . , xn ), a = (a1 , a2 , . . . , an ) に
対し
v
u n
√
u∑
2
t
(xi − ai ) = (x1 − a1 )2 + (x2 − a2 )2 + · · · + (xn − an )2
dn (x, a) =
i=1
である. 特に n = 1 のとき, x, a ∈ R に対し
√
d1 (x, a) = (x − a)2 = |x − a|
となることに注意しよう.
1 通常,
これを X の巾 (べき) 集合といい, 例えば P(X) と表したりする.
2
ε
ε
ε
ε
a
a
a
図 1.1: 点 a の Rn における ε 近傍 (n = 1, 2, 3)
そこでいま, Rn の部分集合族 O を
O = {O ⊂ Rn | O は条件 (∗) を満たす } ∪ {∅}
で定義する. ここで条件 (∗) は次の通りである.
(∗) 任意の a ∈ O に対し, ある ε > 0 が存在して, Nε (a; R ) ⊂ O となる.
n
即ち, O の任意の点 a に対し, 適当に半径 ε を設定すれば, a の Rn における ε 近傍
を O の中で取れるということである. このとき, O は定義 1.1 の 3 条件を全て満た
し, Rn の位相となることが確かめられる (各自考えてみよ). これを Rn の自然な位
相といい, Rn を位相空間として考える場合, 通常はこの自然な位相による位相空
間 (Rn , O) を考える.
例 1.6 から, Rn の空でない部分集合 O が開集合であるための必要十分条件は, 上
の条件 (∗) が成り立つことである. 以下, n = 1, 2 の場合の具体例を挙げよう. ま
ず, n = 1 のとき, R の開区間及び閉区間は, それぞれ R の開集合及び閉集合の例で
ある. 次に n = 2 のとき, 図 1.2 の左の灰色の部分で示された R2 の部分集合を O1
とする. この絵は高校生ふうに描いている. 即ち, “境界” を含んでいないことに注
意しよう. このとき, この領域内の任意の点 a において, 半径 ε を十分小さく取れ
ば, その ε 近傍 Nε (a; R2 ) が O1 の中にすっぽり収まるようにできることは, 直感的
には明らかであろう. 従って O1 は上の条件 (∗) を満たすので R2 の開集合である.
次に, 右の灰色の部分で示された R2 の部分集合を O2 とする. この絵も高校生ふ
うに描いている. 即ち, 今度は “境界” を含んでいることに注意しよう. このとき, こ
の “境界” の上の点 a を考えると, いかなる正数 ε に対しても, その ε 近傍 Nε (a; R2 )
は O2 の外側にはみ出してしまうことが直感的に理解できるであろう. 従って O2
は上の条件 (∗) を満たさず, R2 の開集合ではない.
一方, R2 − O2 を O3 とおくと (O3 の絵を実際に描いてみよ), O1 の場合と全く同
様の理由により O3 は R2 の開集合であることがわかる. 従って, O2 は開集合の補
集合であるから, R2 の閉集合である.
3
O2
O1
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxx
図 1.2: R2 の開集合と閉集合の例
2. 部分位相空間
位相空間 (X, O) において, この位相 O を用いて, X の部分集合 A を以下のよう
に自然に位相空間と考えることができる.
定義 2.1. (部分位相空間) (X, O) を位相空間とし, A を X の部分集合とする.
このとき, A の部分集合族 OA を
OA = {O ∩ A | O ∈ O}
で定義すると, OA は定義 1.1 の 3 条件を全て満たし, A の位相となる (各自考
えてみよ). これを O から導かれた A の相対位相といい, 位相空間 (A, OA ) を,
(X, O) の部分位相空間という.
例 2.2. (単位 (n − 1) 次元球面, 単位 n 次元球体) n ∈ N に対し, Rn の部分集合
{
}
n
∑
Sn−1 = (x1 , x2 , . . . , xn ) ∈ Rn x2i = 1
i=1
を単位 (n − 1) 次元球面といい, また
{
Bn =
}
∑
n
(x1 , x2 , . . . , xn ) ∈ Rn x2i ≤ 1
i=1
を単位 n 次元球体という. 例えば S0 は 2 点集合 {−1, 1} であり, S1 は原点を中心
とする半径 1 の円周 (いわゆる単位円周), S2 は原点を中心とする半径 1 の球面で
ある (図 2.1 参照). また, Bn は “Sn−1 の中を詰めたもの” である. 例えば B1 は閉区
間 [−1, 1] であり, B2 は原点を中心とする半径 1 の円板 (これを単位円板ともいう),
B3 は原点を中心とする半径 1 の球体である. 逆に, Sn−1 は Bn の “境界” であると
いう表現もよく用いられる.
Sn−1 , Bn は, Rn の位相 O から導かれる相対位相 OSn−1 , OBn によってそれぞれ
Rn の部分位相空間となる. 例えば S1 及び B2 の開集合の例を挙げよう. 図 2.2 の上
4
1
1
-1
-1
1
-1
1
-1
1
1
-1
-1
図 2.1: 単位 n 次元球面 (n = 0, 1, 2)
段左に描かれた S1 の部分集合 U (灰色の部分) を考える. この U は, R2 のある開集
合と S1 との共通部分に等しいので (図 2.2 上段右), 相対位相の定義から S1 の開集
合である. 同様に, 図 2.2 の下段左に描かれた B2 の部分集合 U (斜線部分) は, R2 の
ある開集合と B2 との共通部分に等しいので (図 2.2 下段右), 相対位相の定義から
B2 の開集合である. では, S2 や B3 の開集合としては, 例えばどのようなものがあ
るだろうか. 各自考えてみよ.
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
U
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
xxxxxxxxxxxxx
U
図 2.2: S1 , B2 の開集合の例
以後, 特に断りのない限り, 位相空間 (X, O) を単に X と表すことにする. 但し,
X を位相空間と考える限り, 必ず何らかの位相 O が付随していることに注意せよ.
5
3. 連続写像
ベクトル空間の間の写像で, 特に和とスカラー倍を保存するものは線型写像と呼
ばれた. また, 群 (あるいは環) の間の写像で, 特に演算を保存するものは準同型写
像と呼ばれた. 要するに, 何かしらの構造が付随している集合を対象とする場合は,
通常, 単なる写像ではなく, その構造を保存するような写像を考えるのである. 特
に位相空間においては, 各点の間の繋がり具合を保存するような写像を考えたい.
そこで登場する概念が, 位相空間の間の連続写像である. 以下で正確に定義しよう.
定義 3.1. (連続写像) X, Y を位相空間とし, f : X → Y を写像とする. こ
のとき, f が連続であるとは, Y の任意の開集合 U に対し, その f による逆像
f −1 (U ) が X の開集合となるときをいう. 連続な写像を連続写像と呼ぶ.
定義 3.1 は, 「X の開集合 O に対し, その f による像 f (O) が Y の開集合となる」
ではないことに注意しよう2 .
例 3.2. X = {1, 2, 3, 4}, Y = {p, q, r} に対し, それぞれの部分集合族を
OX = {∅, X, {2, 3} , {1, 2, 3} , {2, 3, 4}} ,
OY = {∅, Y, {q} , {p, q} , {q, r}}
とおくと, (X, OX ), (Y, OY ) はそれぞれ位相空間となる (確かめよ). いま, 写像
f : X → Y を f (1) = p, f (2) = f (3) = q, f (4) = r で定義すると,
f −1 (∅) = ∅ ∈ OX ,
f −1 (Y ) = X ∈ OX ,
f −1 ({q}) = {2, 3} ∈ OX ,
f −1 ({p, q}) = {1, 2, 3} ∈ OX ,
f −1 ({q, r}) = {2, 3, 4} ∈ OX
となるので, Y の開集合の f による逆像は全て X の開集合である. 従って定義 3.1
から, f は連続写像である.
例 3.3. (連続関数) 写像 f : R → R, 即ち微分積分学でお馴染みの 1 変数実数
値関数を考えよう. いま, この f が定義 3.1 の意味で連続であるとする. このと
き, 定義域 R の点 a に対し, 終域 R において, 任意の ε > 0 に対し f (a) の ε 近傍
Nε (f (a); R) を取ると (図 3.1 左上), Nε (f (a); R) は R の開集合なので, 連続写像の
定義から f −1 (Nε (f (a); R)) は定義域 R の開集合である (図 3.1 右上). 従って, ある
δ > 0 が存在して, Nδ (a; R) ⊂ f −1 (Nε (f (a); R)) となる (図 3.1 右下). 即ち,
x ∈ Nδ (a; R) = {x ∈ R | |x − a| < δ}
2 これは開写像という別の概念である.
とてもよくある間違いなので注意すること.
6
ならば
x ∈ f −1 (Nε (f (a); R)) = {x ∈ R | |f (x) − f (a)| < ε}
であるから3 , まとめると R の任意の点 a について次が成り立つことになる:
任意の ε > 0 に対し, ある δ > 0 が存在して,
|x − a| < δ =⇒ |f (x) − f (a)| < ε.
これは微分積分学で学ぶ連続関数のイプシロン-デルタ論法による定義にほかなら
ない. 逆に, f がイプシロン-デルタ論法の意味で連続であれば, 定義 3.1 の意味で
連続となることもわかる (各自考えてみよ).
y
y
y=f(x)
N ε( f(a) ; R )
y=f(x)
N ε ( f(a) ; R )
ε
f(a)
ε
f(a)
ε
ε
x
a
x
a
f -1( N ε( f(a) ; R ) )
y
y
y=f(x)
N ε ( f(a) ; R )
ε
ε
f(a)
y=f(x)
N ε( f(a) ; R )
f(a)
ε
ε
N δ(a ; R )
N δ(a ; R )
a
x
a
x
f -1( N ε( f(a) ; R ) )
f -1( N ε( f(a) ; R ) )
図 3.1: イプシロン-デルタ論法による関数の連続性の図解
3 いま, x ∈ f −1 (N (f (a); R)) ⇐⇒ f (x) ∈ N (f (a); R)) = {y ∈ R | |y − f (a)| < ε} ⇐⇒ |f (x) − f (a)| < ε である
ε
ε
から, 従って f −1 (Nε (f (a); R)) = {x ∈ R | |f (x) − f (a)| < ε} となる. 念の為.
7
4. 位相空間の連結性
位相空間の連結性について述べよう.
定義 4.1. (連結位相空間) 位相空間 X が連結であるとは, X の開集合 O1 , O2
が存在して O1 ∪ O2 = X, O1 ∩ O2 = ∅ をみたすなら, O1 と O2 のいずれかは
空集合となるときをいう.
要するに, 位相空間 X が連結であるとは, 互いに共通部分を持たない 2 つの空で
ない開集合に X を分割できないということである.
例 4.2. (1) 例 1.4, 例 1.5 で述べた位相空間において, 密着空間は台に依らず連結
であるが, 離散空間は, 台が 1 点集合であるときに限り連結である.
(2) 例 3.2 の位相空間 X, Y はそれぞれ連結である (各自確かめよ).
位相空間 X の部分位相空間 A が相対位相に関して連結であるとき, A を X の連
結部分空間 (あるいは連結部分集合) という. A が X の連結部分空間であるために
は, X の開集合 O1 , O2 が存在して
A ⊂ O1 ∪ O2 , O1 ∩ O2 ∩ A = ∅
をみたすなら, O1 ∩ A と O2 ∩ A のいずれかは空集合となることが必要十分である
ことが, 定義 2.1 と定義 4.1 を合わせることでわかる (確かめよ).
連結位相空間の連続写像による像は, また連結である. 即ち次の定理が成り立つ.
定理 4.3. (連結位相空間と連続写像) X, Y を位相空間とし, f : X → Y を連
続写像とする. もし X が連結ならば, f (X) は Y の連結部分空間である.
(証明) 背理法で示そう. f (X) が連結部分空間でないと仮定すると, 上で述べたこ
とより, Y の開集合 U1 , U2 で
f (X) ⊂ U1 ∪ U2 ,
(4.1)
U1 ∩ U2 ∩ f (X) = ∅,
(4.2)
U1 ∩ f (X) ̸= ∅, U2 ∩ f (X) ̸= ∅
(4.3)
をみたすものが存在する. (4.1) の両辺の f による逆像を取ることで
f −1 (U1 ) ∪ f −1 (U2 ) = X
(4.4)
がわかり, 一方, (4.2) の両辺の f による逆像を取ることで
f −1 (U1 ) ∩ f −1 (U2 ) = ∅
8
(4.5)
もわかる4 . U1 , U2 は Y の開集合で f は連続であるから, f −1 (U1 ), f −1 (U2 ) はと
もに X の開集合である. 従って X が連結であることと (4.4), (4.5) から f −1 (U1 ),
f −1 (U2 ) のいずれかは空集合でなければならないが, (4.3) から, ある y ∈ Ui , 及び
f によってその y に写る x ∈ X が存在することがわかるので, f −1 (U1 ), f −1 (U2 ) は
いずれも空集合ではないはずである. これは矛盾である.
次に, 抽象的な定義 4.1 と比べてより直観的な, 位相空間の弧状連結性について
述べよう.
定義 4.4. (弧状連結な位相空間) 位相空間 X が弧状連結であるとは, X の任意
の 2 点 x1 , x2 に対し, R の閉区間 I = [0, 1] から X への連続写像 f で f (0) = x1
かつ f (1) = x2 をみたすものが存在するときをいう.
連続写像 f : I → X の像は, X において x1 = f (0) と x2 = f (1) を結ぶ連続曲線
であり, これを X の道ともいう. 要するに, X が弧状連結であるとは, X 上の任意
の 2 点の間に X 内で道を描けることにほかならない.
弧状連結性と定義 4.1 の連結性との間には, 次の包含関係がある.
定理 4.5. (連結性と弧状連結性) 弧状連結な位相空間は連結である.
(証明) 背理法で示そう. いま, X を弧状連結な位相空間とする. もし X は連結で
はないと仮定すると, X のある空でない開集合 O1 , O2 が存在して,
O1 ∪ O2 = X, O1 ∩ O2 = ∅
(4.6)
が成り立つ. そこで x1 ∈ O1 , x2 ∈ O2 に対し, X は弧状連結なので, ある連続写像
f : I → X で, f (0) = x1 , f (1) = x2 となるものが存在する. 定理 4.3 より, f (I) は
X の連結部分空間である. このとき, (4.6) から
f (I) ⊂ O1 ∪ O2 , O1 ∩ O2 ∩ f (I) = ∅
がわかるので (確かめよ), O1 ∩ f (I), O2 ∩ f (I) のいずれかは空集合でなければな
らないが, x1 ∈ O1 ∩ f (I), x2 ∈ O2 ∩ f (I) であるから, 矛盾が生じる.
例 4.6. (1) n 次元 Euclid 空間 Rn は弧状連結である. 実際, Rn の任意の 2 点 a, b
を結ぶ道として, a, b を両端点とする線分を考えれば良い.
(2) n ∈ N に対し, 単位 n 次元球体 Bn は弧状連結である. このことは, Bn の任意の
2 点 a, b を結ぶ線分がまた Bn に含まれることからわかる. 一方, 単位 (n − 1) 次元
4 写像 f : X → Y 及び A, A , A ⊂ X, B, B , B ⊂ Y に対し, 一般に次が成り立つ: (1) A ⊂ A ならば f (A ) ⊂
1
2
1
2
1
2
1
f (A2 ), (2) f (A1 ∪A2 ) = f (A1 )∪f (A2 ), (3) f (A1 ∩A2 ) ⊂ f (A1 )∩f (A2 ), (4) f (X −A) ⊃ f (X)−f (A), (5) B1 ⊂ B2
ならば f −1 (B1 ) ⊂ f −1 (B2 ), (6) f −1 (B1 ∪ B2 ) = f −1 (B1 ) ∪ f −1 (B2 ), (7) f −1 (B1 ∩ B2 ) = f −1 (B1 ) ∩ f −1 (B2 ),
(8) f −1 (Y − B) = X − f −1 (B), (9) f −1 (f (A)) ⊃ A, (10) f (f −1 (B)) ⊂ B. 以上, 集合論の復習.
9
球面 Sn−1 は, n = 1 のとき明らかに弧状連結でないが, n ≥ 2 のとき弧状連結であ
る. このことは, Bn と同様には示されない (なぜならば, Sn−1 の異なる 2 点 a, b を
結ぶ線分は, Sn−1 には含まれないからである). 各自考えてみよ.
定理 4.5 の逆は一般には成り立たない. 即ち, 連結であるが弧状連結ではない位
相空間が存在する5 . 従って, 位相空間の連結性と弧状連結性とは, 一般には異なる
概念である. しかしながら, 特に n 次元 Euclid 空間 Rn の開集合については, 定理
4.5 の逆が成り立つ. 即ち, 次の定理が知られている.
定理 4.7. Rn の空でない連結な開集合は弧状連結である.
証明は例えば松坂 [1] を参照せよ. 従って, 特に Euclid 空間の開集合については,
連結性と弧状連結性との間に数学的な違いはなく, 連結な開集合を考える際には,
始めから弧状連結な開集合を考えればよい.
5. 位相空間のコンパクト性
位相空間のコンパクト性について述べよう
∪. 一般に位相空間 X の部分集合族
Oλ が成り立つときをいい, 特に各
U = {Oλ }λ∈Λ が X の被覆であるとは, X =
λ∈Λ
Oλ が X の開集合であるとき, U を X の開被覆という.
定義 5.1. (コンパクト位相空間) 位相空間 X がコンパクトであるとは, X の
任意の開被覆 U = {Oλ }λ∈Λ に対し, U のある有限個の元 Oλ1 , Oλ2 , . . . , Oλk が
存在して
X = O λ1 ∪ O λ2 ∪ · · · ∪ O λk
が成り立つときをいう.
定義 5.1 は, 「位相空間 X は必ず有限個の開集合からなる開被覆を持つ」ではな
いことに注意しよう6 . どのような開被覆においても, 必ずその中から適当に有限
個の開集合を選んで, それらで X を覆ってしまえることを要請するのである.
例 5.2. (1) 有限個の開集合しか持たない位相空間は, 明らかにコンパクトである.
従って, 例えば例 1.4, 例 1.5 で述べた位相空間において, 密着空間は台に依らずコ
ンパクトであるが, 離散空間は台が有限集合であるときに限りコンパクトである.
また, 例 3.2 の位相空間 X, Y もそれぞれコンパクトである.
5 そのような位相空間の具体例は,
位相空間論の教科書には必ず書いてある (と思うよ).
定義 1.1 (1) から U = {X} は X の開被覆なので, 任意の位相
空間はコンパクトとなってしまう. これもとてもよくある間違いなので注意すること.
6 もしこれをコンパクト位相空間の定義としてしまうと,
10
(2) n 次元 Euclid 空間 Rn はコンパクトでない. 実際, i ∈ N に対し, 原点 0 の Rn に
おける i 近傍 Ni (0; Rn ) を Oi とおくと, U = {Oi }i∈N は Rn の開被覆であるが, U の
いかなる有限個の元も Rn を覆うことができない.
位相空間 X の部分位相空間 A が相対位相に関してコンパクトであるとき, A を
X のコンパクト部分空間 (あるいはコンパクト部分集合
) という. A が X のコンパ
∪
クト部分空間であるためには, A ⊂
Oλ なる任意の X の開集合族 U = {Oλ }λ∈Λ
λ∈Λ
に対し , U のある有限個の元 Oλ1 , Oλ2 , . . . , Oλk が存在して
7
A ⊂ O λ1 ∪ O λ2 ∪ · · · ∪ O λk
が成り立つことが必要十分であることが, 定義 2.1 と定義 5.1 を合わせることでわ
かる (確かめよ).
コンパクト位相空間の連続写像による像は, またコンパクトである. 即ち次の定
理が成り立つ.
定理 5.3. (コンパクト位相空間と連続写像) X, Y を位相空間とし, f : X → Y
を連続写像とする. もし X がコンパクトならば, f (X) は Y のコンパクト部分
空間である.
(証明) f (X) ⊂
∪
Uλ なる任意の Y の開集合族 V = {Uλ }λ∈Λ に対し, 両辺の f に
λ∈Λ
よる逆像を取ると
(
X ⊂ f −1
∪
)
Uλ
=
∪
f −1 (Uλ )
(5.1)
λ∈Λ
λ∈Λ
となる. 各 Uλ は Y の開集合で f は連続であるから, f −1 (Uλ ) は X の開集合である.
従って (5.1) から U = {f −1 (Uλ )}λ∈Λ は X の開被覆である. いま X はコンパクトな
ので, U のある有限個の元 f −1 (Uλ1 ), f −1 (Uλ2 ), . . . , f −1 (Uλk ) が存在して
X = f −1 (Uλ1 ) ∪ f −1 (Uλ2 ) ∪ · · · ∪ f −1 (Uλk )
(5.2)
が成り立つ. (5.2) の両辺の f による像を取ることで
)
(
f (X) = f f −1 (Uλ1 ) ∪ f −1 (Uλ2 ) ∪ · · · ∪ f −1 (Uλk )
= f (f −1 (Uλ1 )) ∪ f (f −1 (Uλ2 )) ∪ · · · ∪ f (f −1 (Uλk ))
⊂ Uλ1 ∪ Uλ2 ∪ · · · ∪ Uλk
となる. 従って f (X) は Y のコンパクト部分空間である.
7 このとき
U を A の X における開被覆という.
11
抽象的な定義 5.1 からは, コンパクトな位相空間の実像はなかなか掴みにくいが,
特に n 次元 Euclid 空間 Rn のコンパクト部分空間については, 別の条件に置き換え
て明快に理解することができる. いま, Rn の部分集合 A が有界であるとは, Rn の
ある点 a の適当な ε 近傍 Nε (a; Rn ) に A が含まれるときをいう. このとき, 次の定
理が知られている.
定理 5.4. R の部分位相空間 A がコンパクトであるための必要十分条件は, A
が Rn の有界な閉集合であることである.
n
証明は例えば松坂 [1] を参照せよ. 大雑把に言って, Rn のコンパクト部分空間と
は, “無限に広がる場所や, 無限に近づく場所のない” 部分空間のことであると考え
て差し支えない.
例 5.5. (1) Rn の点 a に対し, その Rn における ε 近傍 Nε (a; Rn ) は Rn のコンパク
ト部分空間ではない. 実際, Nε (a; Rn ) は有界ではあるが閉集合でない.
(2) 単位 n 次元球体 Bn , 及び単位 (n − 1) 次元球面 Sn−1 はいずれもコンパクトであ
る. 実際, これらは Rn において有界かつ閉集合である.
定理 5.3, 定理 5.4 を n = 1 の場合に組み合わせることにより, 微分積分学で良く
知られた次の定理が示される. 応用例として示しておこう.
定理 5.6. (最大値 · 最小値の定理) R の閉区間 [a, b] から R への連続関数 (即ち
連続写像)f は, 必ず最大値及び最小値を持つ.
(証明) 閉区間 [a, b] は R の有界な閉集合なので, 定理 5.4 から R のコンパクト部分
空間である. 従って定理 5.3 により, f の像 f ([a, b]) は R のコンパクト部分空間であ
るので, やはり定理 5.4 から, f ([a, b]) は R の有界な閉集合である. 有界なので, 実
数の連続性から f ([a, b]) の上限 M 及び下限 m が存在する8 . もし M ̸∈ f ([a, b]) だと
すると, M は f ([a, b]) の R における補集合 R − f ([a, b]) に属するが, f ([a, b]) が閉集
合であることから R − f ([a, b]) は R の開集合なので, ある ε > 0 が存在して, M の
R における ε 近傍 Nε (M ; R) が R − f ([a, b]) に含まれる. 従って M − ε < M ′ < M
なる M ′ を R − f ([a, b]) 内で取ることができるが, 明らかに M ′ は f ([a, b]) の上界
の 1 つなので, M が最小の上界であることに矛盾する. 故に M ∈ f ([a, b]) でなけ
ればならない. 全く同様に m ∈ f ([a, b]) であることも示され (確かめよ), このとき
M, m がそれぞれ f の最大値, 最小値である.
以上で本稿を終えることとする.
8 A が有界なので, 任意の a ∈ A に対し a ≤ a′ となる a′ ∈ R, 及び任意の a ∈ A に対し a′′ ≤ a となる a′′ ∈ R が存
在する. a′ , a′′ をそれぞれ A の上界, 下界といった. 更に最小の上界及び最大の下界が必ず存在することが実数の連続性か
ら示され, これらを A の上限及び下限と呼ぶのであった. 以上, 微分積分学の復習.
12