「地域防災力」への注目(PDFファイル)

「地域防災力」への注目
公益財団法人日本消防協会 会長 あきもと
としふみ
秋本 敏文
東日本大震災の教訓
災体制をつくらなければならない」といい、
東日本大震災は、およそ2万人もの方々が
その周知のためのビデオを制作したりした。
亡くなり消防団員も 254 人が死亡・行方不
発災直後の消火、救助などは地域で対応す
明になるという大変な被害をもたらした。こ
るほかない。大きな災害になると、常備消
のような被害を二度と繰り返さない消防防災
防だけでは対応不可能であり、消防団が
体制づくりのため、日本消防協会は、翌平
出動して、地域の皆さんと一緒に、初期段
成 24 年2月、地域総合防災力強化のための
階での消火や救助、応急手当などを行う必
新法制定を提唱した。ここでいう地域防災力
要がある。しかし、なかなか具体的な改善
では、災害発生時の救助、消火などだけでな
がなされないまま東日本大震災を迎えてし
く、早期の避難実行、その後の避難所の運営
まったのである。
などを含む防災減災活動全体をイメージして
いる。
消防団・地域防災力新法の制定
新法は、国会議員の方々のご尽力により、
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原点は阪神淡路大震災
平成 25 年 12 月、
「消防団を中核とした地
この考え方の原点は、大都市直撃の大規模
域防災力の充実強化に関する法律」として
地震で当時としては戦後最大の被害をもたら
全会一致で成立した。これは、地域防災の
した阪神淡路大震災にある。私は、その発災
中核として消防団が不可欠であり、国及び
後間もなく当時の自治省消防庁長官に就任
地方公共団体は、その充実のために必要な
し、緊急消防援助隊の創設などにより、常備
措置を講ずるものとし、また、女性、少年
消防の全国的な応援体制を整備した。これが
など一般住民、企業、団体など、地域の総
その後一層強化され、東日本大震災など数多
力を結集した地域防災力の強化を進めると
くの災害で大活躍するようになっている。し
いうものである。まさに画期的である。し
かし、いつも「これだけではダメ、地域の防
かし、成立をよろこんでいるだけでは、具
予防時報
2015vol.
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ずいひつ
体的な成果は生まれない。
での常識では考えられない災害が、全国い
つでも、どこでもあり得ると考えていなけ
消防団を中核とした地域防災力充実強化大会
ればならない。災害は他人事ではない。こ
の開催
のことを国民の共通認識としながら、具体
この法律の趣旨を実現するためには、消防
的な対応は、それぞれの地域の状況に即し
関係者だけでなく、幅広い国民の皆さんの
て、日頃から皆さんご一緒に相談し、避難
ご理解ご協力が不可欠である。そこで、8
体験などをすることが必要である。
月 29 日、東京都有楽町の国際フォーラムで、
これらの活動を地域で展開していくうえ
我が国初の国民的な大会を開催した。日本消
で、新法にうたわれているように、地域防
防協会が主催したが、各界のトップの方々9
災の中核である消防団の存在、具体的な活
人に発起人としてご参加頂き、およそ 160
動は極めて重要である。今後消防団員の確
もの団体にご後援ご参加頂いた。大会では、
保、装備の改善等を進め、さらに消防団の
地域防災のために活動している全国各地の事
充実強化を図る必要がある。
例を発表して頂き、最後にみんなで協力する
また、地域の防災体制には、地域のリー
ことを申し合わせて頂いた。大会には、急遽、
ダーが不可欠であり、地域の状況に応じな
安倍内閣総理大臣にもご出席頂き、地域防災
がらリーダーづくりを全国的計画的に展開
についての力強いご決意や消防団に対するあ
することが望まれる。
たたかいご激励のお言葉を頂いた。ご参加の
さらに、地域防災力の強化を総合的に進
皆さんからも評価して頂き、大会としては成
めていくためには、地域防災力強化の観点
功であったと思うが、これからの課題は、こ
からの国、地方公共団体の政策動向や各地
のような動きを全国各地で展開し、本当の国
の活動など総合的な情報の共有が必要であ
民的な動きに発展させることができるかどう
る。
かである。
このようなさまざまな活動による地域防
災力強化の効果は、単に、安全とか、防災
地域防災力の充実強化
にとどまるのではなく、地域コミュニティ
東日本大震災後も、さまざまな災害が発生
の再生、地域福祉や地域活性化などにとっ
している。東京都大島町や広島市などでの集
ても意義があると思う。
中豪雨、竜巻や雷の発生、火山噴火、秋が深
全国各地域の防災力が一段と強化され、
まってからの台風があり、また、近い将来の
地域の総合的な基盤がより強くなるよう、
大規模な地震発生も懸念されている。これま
切に願うものである。
予防時報
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