祈りと伝承の風景について考える 1.多様な祈りの場へ(死者とともに生きる) 2.大地の記憶(自然を基盤とした文明) 1.多様な祈りの場へ(死者とともに生きる) 人はいつかは死ぬ。戦争や災害での死と、通常の死はどこが違うのか? 一時期の大量死だから?社会になんらかの責任があるから?あるいは集団的であるがゆえ に社会性を帯びた死であるから? 特定の場所、特定の時刻、個人が「数」として取り扱われる名簿・・・・・一人一人が多 様な生を全うするのが幸せな人生であるならば、生の多様性を奪う(自然災害や戦争の) 「短 時間で大量の死をもたらす暴力」を否定すべきなのではないか? しかし、一方で遺された人々は心を一つにして支え合いたいと考える。また、理屈では理 解できない死を、荘厳な儀式をすることで受け入れることができるし、「記念碑的」な空間 や儀式が強烈なメッセージを発し、生きている人間の社会に警告や団結をもたらすことも 否定できない。 戦争に関する「記念碑的」な空間について、自然災害の場合との比較のために若干の考察 を加えたい。 広島平和記念公園は原爆ドームを焦点とした直線軸に、原爆を想起させる炎とその向こう の原爆ドーム、手前の水面と慰霊碑(名簿収納)を配置する、民族を超えて「戦争と平和」 「地獄と極楽」のメッセージが強く分かりやすく伝わる、秀逸なプランである。 沖縄県営平和祈念公園のメイン通路は 6 月 23 日(組織的戦闘の終結した「慰霊の日」)の 日の出の方位に合わせて設置され、その終点に立つと青い海が広がっている。メイン通路 の両側には国別、都道府県別に戦没者の氏名が彫られた「平和の礎」が扇状に配置されて いる。園内には 3 本の軸線と複数のエリアがある。 広島平和記念公園の単一の軸線構成に比べると、 「多様な祈り」を許容すような空間構成で、 雄大な自然、海でアジアの人々とつながった沖縄の歴史の中で、戦争に思いを致す場所で ある。 (沖縄戦はその宿命的な地政学的位置と切り離して考えることはできない) 広島では「核兵器廃絶」という明確なテーマが設定できる。沖縄の場合は「敵・味方」を 単純に識別しないおおらかさ(許容力)があるように思われる。 不条理な死に対して、整理しきれない気持ちを「浄化」 「昇華」させる空間や儀式は、生き てゆく人間のためには必要。それが、メッセージを他の人々に伝える力となる。 自然災害の慰霊は対象が(あえて言えば)自然であるがゆえに、より内省的になるのでは ないか。 自然、季節の移ろいの中で、凍った心が溶ける。 阪神淡路大震災で夫を亡くした女性の述懐。「春になると桜が咲く。自然の営みの中では、 人の悲しみはちっぽけなものだ」 生の多様性を基本にしつつ、遺族の緩やかな連帯、不条理な運命との和解、死者も参加す る街の復興・・・・多様な祈りを許容する大きな器としての慰霊空間が考えられる。 映画『愛と追憶の日々』 (Terms of Endearment)1983 年公開のアメリカ映画。 ラストの葬式シーン。広い庭園の中で、死者への謝罪や和解が個別・断片的に繰り広げら れる。 あたかも死者の見守る中で、バラバラだった家族がまとまってゆくようなシーンであった。 気持ちの「浄化」の例として「ハヤマ信仰」 死者の魂は 50 年間は身近な里山にいて、生きている者の社会は死者に見守られ、共に暮ら す。死者が山の神となって現れ、農作業を手伝い、収穫し、祭りをして去ってゆく。 哲学者、内山節は津波の死者に見守ってもらう気持ちで、死者を忘れないでまちづくりを すべきだと言っている。 『文明の災禍』 慰霊の空間は死者と共に海を眺め、身近な里山を眺め、街を眺めるような場所がいいので はないか。太古から続く自然や天空。日常から切り離され、大きな時の流れ、空間の広が りの中で、死者とともに一時を過ごし、自らを見つめ、コミュニティの将来を考える機会 となる。 現世の煩悩(目の前の利害関係)に惑わされず、大きな視野で街の未来を考えるための「浄 化」された時間を提供。 藤城清治作品 3.大地の記憶(自然を基盤とした文明) 沖積平野に都市を築いてきた文明史に想いを致す。 大地に刻まれた災害と人間の歴史を、現場で実感する。その指標としての災害遺跡。 沖積平野の都市への警告。自然の層(原地形)が都市の宿命。自覚とセンスが必要。 第 1 層 原風景としての低湿地(沖積層) 第 2 層 埋立地に築かれた都市(津波常襲地) 第 3 層 現在、嵩上げをしている地盤 災害遺跡 原地形・原植生 の復元 低湿地 埋没遺跡 2011 年の地盤 海 沖積平野に生きる覚悟 現状の都市で対応 津波タワー、避難ビル ピロティ校舎 第1層 海 第2層 高台移転 心機一転、里山利用 沖積平野からの撤退 抜本的解決としての嵩上げ 沖積平野をなくす 過去の埋立ての徹底(仕上げ) 第3層 第3層 嵩上げ地盤 新しい地形・新しい街
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