1.【レポート】金属鉱物資源の安定供給に関する一考察

金属企画部企画課 有賀 大輔
金属鉱物資源は我が国の製造業の基礎を支え、高機能化が進む川下産業のさらなる発展に必要不可欠であり、資
源の乏しい我が国にとって、金属鉱物資源の安定的な確保は常に課題となっている。資源国における資源ナショナリ
ズムの先鋭化に伴う高付加価値化政策への転換等、鉱物資源の供給リスクが顕在化している。このような情勢のも
と、資源の安定供給に向け、探鉱開発や備蓄、リサイクルなどの取り組みが進められている。2014年7月に開催され
た総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会の鉱業小委員会において、さらに鉱種ごとに実態を踏まえた戦略的
な安定供給確保策を構築する必要があると提言されている。そこで、今後の戦略的な資源の安定確保に資するべく、
2010年に欧州委員会が発表した原材料のクリティカリティに関する評価手法を参考にして、41鉱種を対象に安定供
給に関する考察を行った。
2.我 が国の金属鉱物資源の安定確保に対
する取り組みや各国の鉱種別クリティ
カリティに関する考え方
我が国における鉱種別の産業上の重要度及び供給
リスクを検討するにあたり、我が国がこれまで実施し
てきた取り組みや、米国、欧州、韓国及び豪州のクリ
ティカリティに関する考え方を紹介する。
2.1 我が国のこれまでの取り組み
我が国では昭和40年代の高度経済成長後、鉱物資
源の安定供給に対する問題意識があり、1972年には
通商産業省(現、経済産業省)鉱業審議会鉱山部会に
より「今後の鉱業政策の基本的方向について」が発表
され、海外鉱石取引や備蓄等、安定供給に対する方針
が打ち出されている。また、その後の2度にわたる石
油ショックやザイール・シャバ紛争に起因するコバル
ト・ショック等を契機に、我が国における資源の供給
構造の脆弱性が認識されるようになり、1980年の一
次産品委員会においては「希少金属資源」というテー
マで22品目の希少金属について、電子産業、原子力・
太陽発電等を含むエネルギー産業、航空・宇宙産業、
触媒工業とこれら産業等に必要な素材としての電池等
の10分野の関わりについて検討され、1983年にはレ
アメタル備蓄制度が発足している。また、レアメタル
の需要拡大に伴い価格が上昇を始めた2000年代には、
レアメタルの安定確保に対する重要性の認識が高ま
り、2009年に経済産業省が「レアメタル確保戦略」を
策定し、以前まで取り組んできた①海外資源確保、②
リサイクル、③代替材料開発、④備蓄の4つの柱の内
容に資源外交等を取り入れることで、その安定確保へ
の対策を強化した。また、近年においては、2012年6
月に発表された「資源確保戦略」において30鉱種を戦
略的鉱物資源として定め、これら資源の確保に対し
て、政府による金融支援等を重点的に投入するととも
に、政策リソースを優先的に投入するとしている。さ
らに、2015年4月1日には経済産業省令で定める「金
属鉱物及び金属鉱産物の範囲」に新たにリン鉱及びカ
リウム鉱が追加されるなど、現在も鉱物資源の安定供
給に向けた取り組みがなされている。
2.2 米国のクリティカル・マテリアル
米国では国内外における急激な鉱物資源需給構造の
変化を受け、ナショナル・アカデミーが2006年秋に
「米国経済にとりクリティカル・マテリアルな鉱物資
源」とは何かを特定する審議会を発足させ議論し、
2007年に「Minerals, Critical Minerals, and The U.S.
Economy」に取り纏め、暫定的に白金族、レアアース、
インジウム、マンガン、ニオブをクリティカル・マテ
リアルとしている。その後、2010年には米国エネル
ギー省(DOE)がクリーンエネルギー経済を対象とし
たレポートを発表し、さらに翌年に情報が追加されて、
再検討がなされ、レアアースの中でもディスプロシウ
ムやユーロピウム、テルビウム、イットリウム、ネオ
ジムをクリティカル・マテリアルと報告した(図1)
。
同報告書では縦軸をImportance to clean energy(ク
リーンエネルギー分野における重要度)
、横軸にSupply
risk(供給リスク)として、2軸を用いて2015年までの短
期的な評価と2016〜2025年の長期的な評価を行ってい
る。評価方法は2軸を構成する各要素に対して「1〜4」
の評価を行い、各要素の評価点数に重み付けをするこ
とでなされている。それぞれの軸を構成する要素につ
2015.5 金属資源レポート
1
(1)
金属鉱物資源の安定供給に関する一考察
1.はじめに
レポート
金属鉱物資源の安定供給に関する一考察
レポート
金属鉱物資源の安定供給に関する一考察
図1. 米国のクリーンエネルギー経済におけるクリティカル・マテリアル(2011年 -2015年)
( 出典:U.S. DEPARTMENT OF ENERGY:“Critical Materials Strategy”(Dec. 2011))
表1.米国エネルギー省によるクリティカリティの計算結果
( 出典:U.S. DEPARTMENT OF ENERGY:“Critical Materials Strategy”(Dec. 2011))
2
(2)
2015.5 金属資源レポート
2.3 EU のクリティカル・ローマテリアル
図2.EU のクリティカル・ローマテリアル
( 出典:REPORT ON CRITICAL RAW MATERIALS FOR THE EU)
2.3.1 産業上の重要度
産業上の重要度(El)は産業セクター(s)におい
て、原材料(i)の使用割合や、その産業がどの程度の
付加価値を生み出したかという観点から、以下の式で
定義されている。
要度、GDP は EU における総生産である。この式に
おいて使用される産業セクターは NACE コード(欧
州の経済活動の統計的分類)に基づきメガセクターと
して18の産業に分類した区分のことであり、分類に
関する概念は図3に示す。
また、産業セクターの経済重要度は EU の GDP か
ら計算されたセクター毎の粗付加価値(GVA: gross
value added)を利用している。
A は原材料の使用割合、Q は産業セクターの経済重
2015.5 金属資源レポート
3
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金属鉱物資源の安定供給に関する一考察
EUは2008年に原材料イニシアティブ(Raw Materials
Initiative)としてEUの鉱物資源戦略を策定している。
その後、各国及び関係産業界による会議を重ね、2010
年にクリティカル・ローマテリアルに関する報告書を
発表した。同報告書では41鉱種を対象にSupply risk
(供給リスク)及びEconomic importance(産業上の重要
度)の2つの軸を用いてそれぞれのクリティカリティを
評価し、14鉱種をクリティカル・ローマテリアルとし
て選定している。また、2014年には改訂版が発表され、
改めて54の原材料を対象に同様の評価を行った結果、
20鉱種を選定している(図2)
。EUはこれらクリティカ
ル・ローマテリアルやその他の原材料も含めて、①国
際市場における原材料アクセスの確保、②EU域内から
の持続的供給体制の確立に向けた環境整備、③リサイ
クルや省資源化の推進による原材料消費の削減の加速
化の3つを柱として原材料政策を進めている。なお、
EUはクリティカル・ローマテリアルの選定に直接影響
を与えてはいないものの、前述の2軸の他、環境影響評
価として環境政策などを用いてEnvironmental country
risk(環境リスク)も評価している。
産業上の重要度及び供給リスクの2つのパラメータ
の算出方法を簡単に紹介する。
レポート
いて、縦軸は「Clean energy demand」と「Sustainability
limitations」の 二 つ の 要 素 か ら な り、 横 軸 は「basic
availability」
「 competing technology demand」
「 political,
regulatory, and social factors」
「 co-dependence with other
markets」
「 producer diversity」である。また、各要素の
評価結果は表1に示す。
レポート
金属鉱物資源の安定供給に関する一考察
図3.産業分類の概念
( 出典:REPORT ON CRITICAL RAW MATERIALS FOR THE EU)
2.3.2 供給リスク
もう一つの軸を構成する供給リスクは①生産国の
寡占度とカントリーリスク、②代替性、③リサイクル
の3つの要素で構成されている。
(1)生産国の寡占度とカントリーリスク(HHI)
生産国の寡占度とカントリーリスクは HerfindahlHirschman Index(HHI:ハーフィンダル・ハーシュ
マン指数)を用いて評価されている。HHI とは、寡占
度指数とも呼ばれ、各国の生産割合(S)
( %表示)を
二乗した値の総和で算出される値であり、対象の集中
度を図る際に用いられる。また、カントリーリスクを
考慮するために、世界銀行が政治的安定性や政府の影
響力、制度の質、法律、腐敗の管理等の6つの項目を
評価した数値を基に、EU ではこれら指数の平均値を
「0〜10」に す る よ う に 変 換 し た 数 値(WGI: world
governance indicator)を使っている。
(2)代替性(σ)
その原材料がどれだけ代替品を見つけることが難
しいかを示す数値であり、各産業に使用されるそれぞ
れの鉱種について評価されている。数値の設定には専
門家の意見を取り入れ、各産業セクター(s)に使用
される鉱種(i)の代替性(σis )を、コストの増大が
なく容易に代替できる場合は0.3、多少のコスト増で
代替できる場合は0.5、大幅にコストが増加する、ま
たは代替すると性能が低下する場合は0.7、代替が不
可能である場合は1.0と4段階に設定し、以下の式で代
替性を評価している。
4
(4)
2015.5 金属資源レポート
(3)リサイクル(ρ)
市中品からのリサイクル率として定義している。
以上の3つの要素を用いて供給リスク(SR)を以下
の式で計算している。
EU は供給リスクが1以上、かつ、産業上の重要度
が5以上に含まれる原材料をクリティカル・マテリア
ルとして選定している。
なお、2014年の報告において、2010年の報告では
検討がなされていなかった、錫や金が追加されている
が、鉛に関する検討はなされていない。
2.4 韓国及び豪州の報告
韓国では、韓国知識経済部が2009年12月にレアメタ
ル確保の方針として「希少金属原材料産業発展総合対
策」を発表し、原材料化する加工技術を開発すること
で、ニッケル、タングステン、マグネシウム、インジウ
ム、白金、コバルト、リチウム、希土類、ガリウム、チ
タンなど10大レアメタルの自給率を80%へ引き上げる計
画としている。また、韓国生産技術研究院(KITECH)
のJung-Chang Bae所長は2010年4月のAPS Workshopで
韓国の希少元素に対する確保戦略方針を示し、インジウ
ム、リチウム、ガリウム、レアアース、ケイ素、マグネ
シウム、チタン、タングステン、白金族、ニッケル、ジ
ルコニウムの11鉱種を戦略元素として報告である。
能力を示している。選定方法については EU や米国等
が定めるクリティカリティが高い鉱種を参考に点数付
けを行い評価している。
以上に述べた各国が設定したクリティカリティの
高い鉱種を表2に整理した。表2によるとレアアース
や白金族、インジウムやマグネシウム等がクリティカ
リティの高い鉱種となっている。
金属鉱物資源の安定供給に関する一考察
表2.各国が報告したクリティカリティの高い鉱種
鉱種
欧州
米国 1
韓国
豪州2
レアアース
○
○
○
○
インジウム
○
△
○
○
マグネシウム
○
○
○
ガリウム
○
○
○
タングステン
○
○
○
白金族
○
○
○
リチウム
△
○
○
ケイ素
○
○
アンチモン
○
○
コバルト
○
○
クロム
○
○
ニオブ
○
○
ニッケル
○
○
テルル
△
○
ゲルマニウム
○
黒鉛
○
フッ素
○
ベリリウム
○
ホウ素
○
リン
○
ジルコニウム
○
チタン
○
タンタル
○
バナジウム
○
マンガン
○
モリブデン
○
※○:critical, △:near critical、各レポートより筆者作成
1
米国におけるクリーン経済に関する短期的な評価結果
2
ハイテク産業に関する評価
2015.5 金属資源レポート
レポート
豪州では、豪州地球科学機構が2013年にハイテク
産業におけるクリティカル・コモディティーを発表し
ている。同報告書では、レアアース、ガリウム、イン
ジウム、タングステン、白金族、コバルト、ニオブ、
マグネシウム、モリブデン、アンチモン、リチウム、
バナジウム、ニッケル、タンタル、テルル、クロム、
マンガンの17鉱種をクリティカリティの高い鉱種と
して選定しており、これらの鉱種に関する自国の供給
5
(5)
レポート
3.我 が国における鉱種別の安定供給に関
する検討
金属鉱物資源の安定供給に関する一考察
EU の評価手法を基に、日本版の鉱種別産業上の重
要度と供給リスクを計算し、その評価及び考察を行っ
た。対象鉱種は戦略的鉱物資源で定められた30鉱種
(アンチモン、インジウム、ガリウム、グラファイ
ト、クロム、ゲルマニウム、コバルト、シリコン、ジ
ルコニウム、ストロンチウム、タングステン、タンタ
ル、チタン、ニオブ、ニッケル、バナジウム、白金
族、フッ素、マグネシウム、マンガン、モリブデン、
リチウム、レアアース、レニウム、鉄、アルミニウ
ム、銅、鉛、亜鉛、錫)の他に、バリウム、ベリリウ
ム、ホウ素、金、リン、カリウム、セレン、銀、テル
ル、 ビ ス マ ス、 カ ド ミ ウ ム を 加 え た41鉱 種 と し、
2012年のデータを基に検討を行った。しかし、EU の
評価手法をそのまま踏襲すると我が国の実態に馴染ま
ない点が多く、新たな要素を追加して再検討を行っ
た。
3.1 産業上の重要度
産業上の重要度については、EU の評価手法による
と産業セクターの経済重要度(Q)と原材料の使用割
合(A)の2つの項目で評価される。当然のことなが
ら、租付加価値(GVA)が高いセクターに多くの割合
が使用されていると、産業上の重要度が高く評価され
る。その結果、図2で示されるように、クロムやバナ
ジウム、ハフニウムなどのレアメタルが高い値を示し
ている。一方、銅などのあらゆる産業に幅広く使用さ
れている鉱種は、産業に欠かせないはずであるが、評
価として低くなる。
このように EU の評価手法は各鉱種の産業規模から
重要度を推定することが可能となるが、その使用量に
関係なく、使用割合と GVA のみで決定されてしまう
欠点があると考える。
そのため、使用量を反映されないことを考慮し、
新たに市場規模(国内需要量×平均輸入価格)という
概念を追加した。変更後の式は以下の通りであり、分
子に各鉱種の日本における市場規模の割合(R MS )を
加えた。
また、市場規模の割合(R MS )は以下の式で定義し
た。
V は平均輸入価格、D は国内需要量であり、各要素
は以下のように設定している。
(1)産業セクターの経済重要度(Q)
EU は NACE コードを用いたメガセクターにより産
業を分類しているが、日本において同様の産業分類を
行うことは困難である。そのため、今回の解析では内
閣府により設定された各産業分類を利用し、EU が定
めた分類に近くなるようにセクター分類を行った。ま
た、租付加価値(GVA)については分類したセクター
毎の名目 GDP を用いた。日本に置き換えたセクター
分類と GVA を表3に示す。
表3.日本における産業セクターの分類と GVA
日本における産業セクター
食料品
繊維
パルプ・紙
化学
石油・石炭製品
窯業・土石製品
金属
一般機械
輸送用機械
GVA(億円) 日本における産業セクター
121.2
電気機械
5.4
衣服・身回品
22.0
製材・木製品
74.0
家具
48.2
印刷
25.6
皮革・皮革製品
119.9
ゴム製品
100.8
その他の製造業
114.8
※内閣府経済活動別国内総生産(名目)より一部抜粋し筆者作成
6
(6)
2015.5 金属資源レポート
GVA(億円)
124.7
6.2
7.2
5.5
23.3
1.0
11.2
45.0
市場規模
(国内需要量×平均輸入価格)
(百万$)
図4.国内における各鉱種の市場規模(百万 $)
2015.5 金属資源レポート
7
(7)
金属鉱物資源の安定供給に関する一考察
(3)市場規模の割合(RMS )
市場規模の概念を取り入れる際は、鉄やベースメ
タルとレアメタルの市場規模は桁違いに差があるため
常用対数を用いて平滑化した。また、国内需要は各協
会数値等を利用しているが、統計値がないものについ
ては見かけの消費(輸入量-輸出量)を採用した。価
格については、すべてを鉱石価格などの同じ基準を用
いて評価することは難しい。そのため、今回の計算で
は各製品の輸入価格を輸入量で加重平均をとった鉱種
毎の平均輸入価格を用いた。参考までに国内における
各鉱種の市場規模を図4に示す。
輸入価格が小さいものの、需要量が非常に多い鉄
やベースメタル、需要量は少量であるが、価格が非
常に高い貴金属は市場規模が大きくなる。フェロク
ロムの形態で輸入されるクロムやフェロニッケル・
ニッケル地金として輸入されるニッケル等は付加価
値がついた価格となり、需要量が比較的多いため市
場規模が大きく見積もられる傾向にある。リチウム
やベリリウムなどは需要量がベースメタルと比較す
ると小さいため、市場規模が小さく評価されている
と考えられる。
レポート
(2)原材料の使用割合(A)
各セクターにおける、それぞれの鉱種の使用割合
については、鉱物資源マテリアルフロー2013の主要
用途別需要量や各協会等が発表している需要量を用い
た。なお、数値が無い鉱種については EU の報告書に
記載の値を採用した。
3. 2 供給リスク
レポート
金属鉱物資源の安定供給に関する一考察
供給リスクは、EU の評価手法を踏襲することで個
別鉱種の特徴をある程度捉えた内容となっている。例
えば、生産がほぼ中国の寡占状態にあるレアアースは
非常に供給リスクが高い評価となっている。レアアー
スの他にも中国が世界生産の大半を占めるアンチモン
やゲルマニウム、タングステン、マグネシウム等は供
給リスクが高い。その他、ブラジルのアラシャ鉱山に
生産がほぼ一極化しているニオブも供給リスクが高
い。一方、白金族金属は南ア及びロシアに生産が二極
化しているが、リサイクル率が高いため供給リスクが
低減されている。また、生産国が多角化されている
ベースメタルは供給リスクが低い。このように、生産
国から算出されるハーフィンダル・ハーシュマン指数
(HHI)を用いた供給リスクの評価手法は実態に合っ
た内容となっていると思われる。しかし、この評価手
法では、鉱種を上流から確保する際のリスクとして、
生産国のみで評価しており、実際のリスクを考える際
には、他の項目も想定される。例えば、東京大学 村
上進亮准教授はクリティカリティの要因として、供給
リスクを、①対日輸出量の寡占度、②生産量の寡占
度、③埋蔵量の寡占度、④対日輸出国のカントリーリ
スク、⑤主要生産国のカントリーリスク、⑥埋蔵量上
位国のカントリーリスク、⑦資源メジャーによる市場
の寡占、⑧リサイクル率、⑨産出形態(主産、併産、
副産)、⑩ R/P(埋蔵量 / 生産量)の10項目に分類し
ている。このうち、EU の供給リスクで考慮した項目
は、②、⑤、⑧の3項目と脆弱性に分類されている代
替可能性である。
そこで上記で示している供給リスク10項目のうち①
対日輸出量の寡占度、③埋蔵量の寡占度、④対日輸出
国のカントリーリスク、⑥埋蔵量上位国のカントリー
リスクを考慮するために、新たに輸入寡占度及び埋蔵
国の寡占度の項目、さらにそれぞれに対するカント
リーリスクの項目を追加した。なお、輸入国について
は特定の輸入品目ではなく、輸入品目全体における割
合として算出している。また、副産物の HHI について
は主産物に支配されることから、セレンやテルル、カ
ドミウム、ビスマスなどのほとんどが副産物として生
産される鉱種は主産物の供給リスクと同じ値にするこ
とで、⑨産出形態(主産、併産、副産)もある程度を
考慮した。これらの要素を追加した式を以下に記す。
HHI r は埋蔵国の寡占度とその国のカントリーリス
ク、HHI i は輸入相手国の寡占度とその国のカント
リーリスクである。また、各要素は以下に示す。
(1)寡占度やカントリーリスク(HHI)
生 産 国 の 寡 占 度 と そ の 国 の カ ン ト リーリ ス ク
(HHI i )については、各鉱種の生産国の寡占度やその
8
(8)
2015.5 金属資源レポート
表4. 主要資源国の WGI
国名
DR コンゴ
朝鮮民主主義人民共和国
ウズベキスタン
ギニア
ナイジェリア
エチオピア
ラオス
ベラルーシ
マダガスカル
ロシア
シェラレオネ
カザフスタン
パプアニューギニア
ボリビア
キューバ
ウクライナ
中国
ベトナム
ガボン
インドネシア
フィリピン
インド
モザンビーク
アルゼンチン
モロッコ
タイ
ペルー
ザンビア
モンゴル
WGI
8.25
8.12
7.52
7.40
7.27
6.86
6.71
6.67
6.53
6.47
6.45
6.30
6.29
6.20
6.16
6.13
6.11
6.05
5.94
5.79
5.77
5.74
5.71
5.70
5.60
5.54
5.49
5.41
5.41
国名
ルワンダ
ニューカレドニア
メキシコ
ヨルダン
トルコ
ジャマイカ
ブラジル
南アフリカ
マレーシア
アラブ首長国連邦
イスラエル
韓国
ポーランド
スペイン
台湾
エストニア
フランス
チリ
日本
米国
ベルギー
イギリス
ドイツ
豪州
カナダ
スェーデン
ニュージーランド
フィンランド
WGI
5.41
5.35
5.25
5.22
5.14
5.01
4.91
4.60
4.33
3.86
3.76
3.54
3.32
3.28
3.07
2.95
2.64
2.63
2.51
2.49
2.33
2.26
2.11
1.79
1.78
1.48
1.39
1.27
※ The World Governance Indicators, 2013 Update18よ
り一部抜粋し筆者作成)
国のカントリーリスクから決定しているため、日本と
して評価する際も EU と同値になる。参考までに主要
生産国の WGI を表4に示す。
また、HHI を算出する際に必要となる各鉱種の生
産国、埋蔵国、輸入国の上位3か国を表5に示す。
(2)代替性(σ)
代替性を日本版で議論する際には EU 同様に各鉱種
の全用途について数値付けをすることが望ましい。し
かし、既存の情報からは日本における代替度に関する
数値を収集することは困難であるため、本検討では
EU で使用している数値で代用し、EU の報告書に数
値のないものについては、「0.7」と仮定した。
(3)リサイクル率(ρ)
リサイクル率は公表情報を基に作成したデータが
鉱物資源マテリアルフロー2013に記載があるため、
それらの数値を用いて計算を行った。
表5.各鉱種の生産国・埋蔵国・輸入相手国一覧
亜鉛
アルミニウム
アンチモン
インジウム注1
カドミウム
ガリウム注1
金
銀
クロム
軽希土
ケイ素注1
ゲルマニウム注1
黒鉛
コバルト注2
ジルコニウム注2
重希土
錫
ストロンチウム注1
セレン
タングステン
タンタル
チタン
銅
テルル
鉄
鉛
ニオブ
ニッケル
白金族
バナジウム
バリウム
ビスマス
フッ素
ベリリウム注1
ホウ素
マグネシウム
マンガン
モリブデン
リチウム
リン
レニウム
生産国とその割合
2位
豪州
11.5
ロシア
8.4
3位
ペルー
9.8
カナダ
6.1
韓国
19.5
韓国
18
ロシア
16.7
カザフスタン
16.8
豪州
9.3
中国
15.3
カザフスタン
15.6
日本
9.2
日本
9
ベラルーシ
14.6
ウクライナ
13.7
米国
8.7
ペルー
13.6
インド
15.2
ロシア
9.4
フィンランド
14.4
インド
13.7
中国
6.8
南ア
26.5
ブラジル
9.4
カナダ
6.4
中国
10.8
インドネシア
17.1
スペイン
35.1
日本
9.9
ペルー
12.1
メキシコ
17.9
ベルギー
9.2
ブラジル
20.9
南ア
15.3
中国
9.6
日本
26.3
豪州
18
豪州
12.5
カナダ
9.4
ロシア
11.5
ロシア
28.2
南ア
26.4
インド
18.5
メキシコ
12
メキシコ
17
中国
8
米国
22.7
DR コンゴ
14.9
カナダ
13.7
ペルー
7.7
ロシア
22.6
ブラジル
13.5
米国
6.7
アルゼンチン
13.4
豪州
19.5
米国
22.4
豪州
37
米国
13.9
米国
15
中国
18.4
チリ
13
アルゼンチン
9.8
モロッコ
12.9
ポーランド
11.4
豪州
11.3
ロシア
20.3
モロッコ
10.9
モンゴル
6.7
1位
豪州
25.6
ギニア
26.4
中国
52.8
中国
53.2
中国
18
ベラルーシ
55
中国
52.6
豪州
18.3
豪州
16.9
カザフスタン
47.9
中国
39.3
中国
65
中国
75.7
ブラジル
44.6
DR コンゴ
47.2
豪州
59.7
中国
39.3
中国
31.9
中国
43.9
中国
21.7
中国
54.3
豪州
62
中国
26.7
チリ
27.5
ペルー
15
豪州
21
豪州
40.4
ブラジル
95.3
豪州
24.3
南ア
95.5
中国
36.4
中国
28.6
中国
75
南ア
17.1
米国
91.7
トルコ
45.8
ロシア
27.1
南ア
26.3
中国
39.1
チリ
57.7
モロッコ
74.6
チリ
52
埋蔵国とその割合
2位
3位
中国
ペルー
17.2
9.6
豪州
ブラジル
21.4
9.3
ロシア
ボリビア
19.4
17.2
韓国
日本
19.5
9.2
ペルー
ロシア
11
9
カナダ
ロシア
16.7
10
カザフスタン
ウクライナ
16.8
13.7
南ア
ロシア
11.1
9.3
ペルー
ポーランド
16.7
16.3
南ア
インド
41.7
11.3
ブラジル
米国
15.7
9.3
ロシア
9.4
フィンランド
14.4
中国
インド
42.3
8.5
豪州
キューバ
13.9
6.9
南ア
インド
20.9
5.1
ブラジル
米国
15.7
9.3
インドネシア
ブラジル
17
14.9
スペイン
メキシコ
35.1
17.9
チリ
ロシア
20.8
16.7
カナダ
ロシア
8.3
7.1
ブラジル
36
豪州
インド
24.6
12.4
豪州
ペルー
12.6
10.1
米国
14.6
ブラジル
ロシア
19.8
17.3
中国
ロシア
15.7
10.3
N カレドニア
16.2
ブラジル
11.4
ロシア
35.7
カザフスタン
24.3
南ア
25
ベトナム
10
メキシコ
13.3
中国
8.3
米国
22.7
中国
20.8
豪州
17
米国
24.5
中国
26.9
中国
5.5
米国
15.6
中国
10
アルゼンチン
13.4
北朝鮮
18.8
ブラジル
9.5
チリ
20.9
豪州
7.7
ロシア
12.4
輸入相手国とその割合
1位
2位
3位
豪州
ボリビア
ペルー
32
23
21
豪州
ロシア
中国
18.8
17.6
12.9
中国
ベトナム
83.5
7.8
韓国
カナダ
米国
54.5
16.3
7.6
中国
フランス
米国
73
7
6
カナダ
ロシア
ヨルダン
77.8
9.5
6.4
ブラジル
エストニア
中国
40
14
14
スイス
ウズベキスタン
台湾
22.5
17.9
14.5
チリ
アルゼンチン
55.5
42.7
カザフスタン
南ア
インド
46.2
40.4
9
米国
中国
フランス
40.8
30.5
18.5
中国
ロシア
ブラジル
66.2
12.7
10.7
カナダ
中国
米国
43.7
33.3
9.8
中国
88.5
DR コンゴ
カナダ
ザンビア
48.3
18.4
10.2
中国
ロシア
南ア
63.2
16.1
15.1
中国
93.9
インドネシア
タイ
マレーシア
55
30
8
ドイツ
中国
メキシコ
46.1
29.5
23.6
フィリピン
英国
ドイツ
44.6
18.6
16.1
中国
ベトナム
76.6
8.7
米国
タイ
ドイツ
37.5
21.9
11.7
インド
南ア
豪州
28.5
21
13
チリ
ペルー
カナダ
51
14
9
ドイツ
韓国
中国
45.1
17.3
16.3
豪州
ブラジル
南ア
61.8
7.8
5.6
豪州
ボリビア
カナダ
41.7
13.4
11.7
ブラジル
97.2
インドネシア
フィリピン
N カレドニア
53.8
28.5
11.1
南ア
ロシア
米国
53.9
21.5
6.1
南ア
中国
韓国
39.4
36.2
19.1
中国
98.7
中国
メキシコ
ベルギー
71.6
16.9
10.9
中国
メキシコ
69.1
23.6
米国
韓国
83.6
16.4
米国
チリ
トルコ
36.8
21.7
20.1
中国
95.3
南ア
豪州
インド
44.6
21.9
12.7
チリ
米国
カナダ
57.8
17.8
8.9
チリ
アルゼンチン
中国
75.3
18.6
5.6
中国
ベトナム
南ア
46.2
18.2
16.4
チリ
米国
ポーランド
52
18
12
※ USGS:Mineral Commodity Summaries、World Bureau of Metal Statistics、財務省貿易統計等より筆者作成
国名下数字は各割合(%)を示し、5% 以下の国は割愛している。
注1 埋蔵量が不明なため生産量と同値
注2 コバルト、ジルコニウムはそれぞれフィンランド、豪州から輸入されているが、生産もとは DR コンゴ、中国であるため、
カントリーリスクが高い国を採用した。
2015.5 金属資源レポート
9
(9)
金属鉱物資源の安定供給に関する一考察
カリウム
1位
中国
35.4
中国
44.2
中国
83.3
中国
53.2
中国
34
カナダ
27.5
中国
52.6
中国
15
メキシコ
21
南ア
43
中国
90.9
中国
65
中国
75.7
中国
68.4
DR コンゴ
49.5
豪州
43.6
中国
98.6
中国
41.7
中国
43.9
ドイツ
29.9
中国
87.7
ルワンダ
22.4
豪州
19.2
チリ
32.1
米国
37.6
中国
44.7
中国
54.2
ブラジル
89.8
フィリピン
19.1
南ア
55.9
中国
52.7
中国
45.7
中国
86
中国
62.2
米国
90
トルコ
45.8
中国
87
南ア
22.8
中国
38.5
チリ
38.9
中国
43.9
チリ
51.3
レポート
鉱種
レポート
3.3 我が国における鉱種別の安定供給に関する検討
結果
金属鉱物資源の安定供給に関する一考察
計算結果を図5に示す。各鉱種の円の大きさは市場
規模を表しており、背景の赤色が濃くなるほど(右上
の方向)産業上の重要度が大きく供給リスクが高い鉱
種と評価できる。なお、EU の評価では供給リスクが
1以上、かつ、産業上の重要度が5以上である鉱種を
クリティカル・マテリアルと定めているが、本検討で
は、EU の規格化値や評価項目が異なることから、し
きい値を用いた議論は行っていない。
最も供給リスクが高い鉱種はニオブとなる。ニオ
ブはブラジルのアラシャ鉱山が世界生産の約9割を占
めており、また、我が国の輸入量も全体の9割程度を
ブラジルに依存している。さらに埋蔵量もブラジルに
偏在しており同国は WGI も高いため、ハーフィンダ
ル・ハーシュマン指数(HHI)は他の鉱種と比べて極
端に大きい。レアアースは、生産がほぼ中国に寡占し
ているが、埋蔵量は中国以外の国も多いため、ニオブ
ほど供給リスクが高くないという結果となった。
ニオブを除いた供給リスクが高い鉱種はレアアー
スやアンチモン、タングステン、ケイ素、マグネシウ
ム等であり、これらは WGI が高い中国が寡占化して
いる鉱種であることから、中国の影響を大きく受けて
いることがわかる。次いで供給リスクが高い鉱種に、
コバルト、クロム、PGM がある。これらは一国によ
る資源の偏在や生産の寡占化が生じているわけではな
いが、DR コンゴや南ア、カザフスタン、ロシアと
いったカントリーリスクが高い国に集中しているた
め、供給リスクが高い評価となった。
一方、鉄やベースメタルはレアメタルと比べて資
源の偏在化が少なく、生産国・輸入相手国も複数ある
ため供給リスクは低く、それに伴い副産物である鉱種
も低い評価となった。金もベースメタルと同様の理由
により低い評価になった。
産業上の重要度は、市場規模を追加して評価する
ことにより EU の評価と比較して大きく異なることが
わかる。例えば、多様な産業に幅広く使用されるベー
スメタルは図5では産業においても重要であると評価
される。同様に PGM 等の自動車産業を中心に日本で
多く使用される鉱種も産業上で重要となる。一方で市
10
(10)
2015.5 金属資源レポート
場規模のみで産業の重要度が決定されているわけでは
なく、例えば、ガリウムやインジウム、タンタルなど
は市場規模が小さいものの、半導体、ITO ターゲッ
ト材やコンデンサなど、租付加価値(GVA)の高い電
気機械産業セクターに使用されているため、同程度の
市場規模の鉱種と比べて、産業上の重要度が高い。
また、各国が報告しているクリティカリティの高
いレアアースやタングステン、白金族等の鉱種は本検
討においても産業上の重要度及び供給リスクが高く評
価されている。一方、インジウムやガリウムについて
は、他国においてクリティカリティが高いと評価され
ているが、我が国ではあまり高い評価となっていな
い。この2鉱種は我が国において、リサイクル率が高
い鉱種であるため、供給リスクが低減されている。ま
た、リチウムについても各国の報告でクリティカリ
ティが高いが、価格が比較的安価であることから市場
規模が小さく、また、生産国や輸入相手国が豪州やチ
リなどのカントリーリスクが低い国であるため供給リ
スクが比較的低い。このように我が国産業構造や供給
状況の違いを反映して、各国が報告しているクリティ
カリティと異なる評価となる鉱種もある。
JOGMEC では、かねてより鉱種を取り巻く状況を
分析し、我が国の実態に則した重要鉱種イメージ図
(図6)を作成しており、このイメージ図も供給リスク
と産業上の重要度で個別鉱種を示したものであるが、
今回検討を行った図5と大きな相違がないことがわか
る。図6はある時期の鉱種別の供給上の支障可能性と
産業上の重要性を示したものであるが、レアアース、
タングステン、アンチモン、フッ素、ケイ素、ゲルマ
ニウムなど中国に生産が寡占されている鉱種は産業上
の支障可能性が他の鉱種より高い。資源政策や電力問
題、ストライキなど、カントリーリスクが高い南アに
依存している白金族、チタン、バナジウム、クロム、
マンガンも重要鉱種・要注意鉱種として位置付けてい
る。また、副産物の回収場所などの要因を考慮して分
析しており、両矢印で示すように各鉱種の位置は様々
な状況によって変化し得る。JOGMEC はこのような
鉱種分析のもと、金属鉱物資源の安定供給確保に向け
て海外資源確保やリサイクル技術開発などの事業を実
施している。
レポート
金属鉱物資源の安定供給に関する一考察
図5.我が国における安定供給上の鉱種別重要度マップ
図6.重要鉱種イメージ図
2015.5 金属資源レポート
11
(11)
4.課題・まとめ
レポート
金属鉱物資源の安定供給に関する一考察
41鉱種について EU によるクリティカリティに関す
る評価手法を参考にして、我が国における安定供給上
の産業上の重要度及び供給リスクを評価した。その結
果、EU の評価手法に新たにいくつかの項目を追加す
ることにより、日本の実態にある程度は則した評価と
なっていると考えられる。また、本評価手法で用いた
各ファクターを詳細に分析することにより、安定供給
に必要な要素が推定できる。例えば、HHI(寡占度と
カントリーリスク)を比べた場合、輸入国の寡占度と
そのカントリーリスク(HHI i )が高くても、生産国の
寡占度とカントリーリスク(HHI p )が高くない鉱種
は、生産国が輸入相手国以外にもあるため輸入相手国
を多角化することにより供給リスクを低減できると考
えられる。同様に埋蔵国の寡占度とカントリーリスク
(HHI r )が小さく、また、生産国の寡占度とカント
リーリスク(HHIp )が高い場合は新たな探査により生
産国の多角化を検討する必要がある。その他、代替度
が高い、あるいは、リサイクル率が低い鉱種について
は、それぞれの技術開発等が有用な手段であると考え
られる。さらに、これらが困難な場合は備蓄等の対応
が必要となるであろう。
しかし、本検討が各鉱種の特性やリスクを網羅し
ているとは限らず、資源メジャーによる市場の寡占度
合、将来の需要動向・価格の乱高下等もクリティカリ
ティになり得るだろう。また、今回の検討では、海外
鉱山に対する日本企業の出資比率などは考慮していな
いが、鉱物資源の安定供給という観点から日本企業に
よる海外鉱山への参画は供給リスクの低減を想定でき
る。例えば、ニオブを生産するブラジル・アラシャ鉱
山の権益を日本企業が保有していることは、ニオブの
供給リスクを低減させる要素となる。その他、今回の
評価では鉱種を定量的に評価しているが、セクターの
分類方法や用途先の分類などを変更することで産業上
の重要度が変わり得ることも注意しなければならな
い。
また、レアメタルはベースメタルと比べて市場規
模が小さいことや少数企業により生産されていること
等、鉱種・原材料毎の特異性もあり、鉱種の安定供給
を考える際には、それぞれを詳細に理解することが必
要である。例えば、チタン鉱石の90%が顔料や塗料
用途の酸化チタンとして供給され、残りの5%程度は
金属チタンとして供給される。この金属チタンは航空
機の機体部品等のハイテク産業に使用されるが、その
サプライヤーは限られている。酸化チタンや金属チタ
ンのように鉱種を更に詳細に分析して評価すべきであ
る。その他、我が国固有の課題として、諸外国に比べ
て厳しい環境規制や鉱業関連技術の衰退等が挙げられ
る。
種々の課題はあるが、41鉱種を同じ基準により評
価することで、金属鉱物資源全体における各々の鉱種
の大凡の位置づけを認識することができる。我が国の
産業競争力の維持・発展には金属鉱物資源の安定確保
が不可欠であり、本検討がその安定供給への対応方針
の策定や原料調達を考える際の一助となれば幸いであ
る。
1)廣川満哉、
『レアメタル資源政策動向と課題』環境情報科学 43巻3号 (2015)
2)萩原崇弘、
『欧州連合のクリティカルな原材料について』、JOGMEC カレントトピックス No10-40
3)
『資源確保戦略』平成24年6月、第15回パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合報告資料
4)馬場洋三、
『レアメタル・レアアースの今 ―鉱種別戦略の必要性―』、JOGMEC 金属資源レポート2014年7月号
5)堀琢磨、
『レアメタルに関する調達セキュリティー確保のための鉱種別戦略』地質ニュース623号
6)村上進亮 『技術開発・社会システム設計と金属資源戦略』環境情報科学 43巻3号 (2015) 7)National Research council of the national academies,“MINERALS, CRITICAL MINERALS, AND THE U.S.
ECONOMY”, 2007
8)U.S. DEPARTMENT OF ENERGY:“Critical Materials Strategy”
(Dec. 2011)
9)European Commission:“Critical raw materials for the EU”
(Jul. 2010)
10)European Commission:“REPORT ON CRITICAL RAW MATERIALS FOR THE EU”
(May 2014)
11)Massachusetts Institute of Technology,“Critical Elements for New Energy Technologies”, An MIT Energy
Initiative Workshop Report, 2010
12)Geoscience Australian,“Critical commodities for a high‑tech world: Australia’s potential to supply global
demand”, 2013
12
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2015.5 金属資源レポート