高齢者の介護予防としての口腔機能向上事業における姿勢・頸部機能へ

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Title
Author(s)
高齢者の介護予防としての口腔機能向上事業における
姿勢・頸部機能への介入効果
藤原, 健一
Citation
Issue Date
URL
2015-03-24
http://hdl.handle.net/10129/5631
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author
http://repository.ul.hirosaki-u.ac.jp/dspace/
細則様式第1-2号
学位請求論文の内容の要旨
領
域
氏
名
健康支援科学
分
野
老年保健学
藤原健一
(論文題目)
高齢者の介護予防としての口腔機能向上事業における姿勢・頸部機能への介入効果
主
査
若山 佐一
副
査
伊藤 巧一
副
査
木田 和幸
副
査
對馬 均
誤嚥性肺炎は,日本における高齢者の主要な死因になっており,嚥下機能の低下がそ
の誘因となっていることが示唆されている.そのため,高齢者においては,摂食・嚥下
機能の維持・向上を図り,誤嚥を未然に防ぐことが重要な課題となっている.また,摂
食・嚥下が行なわれる“口腔”は,呼吸や構音という機能をも担っており,日常生活に
おいて極めて重要な役割を果たしている.こうした口腔機能の向上を図るため,平成
18年度の介護保険の改定により,新たな事業として口腔機能向上プログラムが加えら
れ,全国で実施されてきている.しかしながら,厚生労働省が平成23年2月に行なった
介護給付費実態調査によれば,口腔機能向上サービスの算定状況は1.4%と,運動器機
能向上サービスの90.4%と比較して著しく低いものであった.その背景には,高齢者自
身が運動機能に比べて口腔機能向上の必要性を十分認識していないことや,事業提供者
が効果を具体的にイメージできないことがあると分析されている.
一方,脳卒中などの神経疾患の口腔機能障害に対するリハビリテーションでは,姿勢
調整が重要視されているが,これは,頭頸部と体幹のアライメントや頭頸部の運動が嚥
下に大きく影響することが明らかにされていることによる.これに対して介護予防事業
における口腔機能向上プログラムでは,対象者の大多数が脳卒中などの神経疾患に罹患
していないため,姿勢に対する介入が重視されることは少ない.しかし,加齢により姿
勢保持に不可欠な背筋力は低下し,円背など脊柱変形は徐々に進行する.したがって,
高齢者の口腔機能の維持・向上を図るためには,頭頸部のみならず,姿勢全体の改善を
(注)論文題目が外国語の場合は,和訳を付すこと.
【細則様式第1-2号続き】
プログラムに含める価値は十分あると思われる.
そこで本研究は,姿勢が口腔機能と呼吸機能に影響を及ぼすのかを健常成人,健常
高齢者,虚弱高齢者について明らかにすると共に,虚弱高齢者に対する姿勢改善を目
指した介入が嚥下機能に及ぼす効果を検証することを目的とした.
第1章では,健常成人8名を対象に姿勢,口腔機能,呼吸機能の調査を行い,それぞ
れの関係を検討した.その結果,円背姿勢は甲状軟骨の位置や咳嗽時の最大呼気流量
と,頸部屈曲筋力は%FVCやFEV1.0との間に相関関係が認められた.また,甲状軟骨
の位置は咳嗽時の最大呼気流量や反復唾液嚥下テストとの間に相関関係が認められ
た.筋電図および嚥下音と各測定値との関係では,舌骨上筋群の筋活動持続時間とFV
C,%FVC,FEV1.0と,舌骨上筋群の潜時および筋活動持続時間と嚥下音の潜時およ
び持続時間との間に相関関係が認められた.以上の結果から,円背姿勢は口腔機能と
呼吸機能に影響を及ぼすことと,嚥下音が舌骨上筋群の活動を表していることが示唆
された.
第2章では,健常高齢者11名とデイケアを利用している虚弱高齢者9名を対象に,姿
勢,口腔機能,呼吸機能の調査を行い,それぞれの関係を検討した.健常高齢者群と
虚弱高齢者群の比較では,円背指数,甲状軟骨の位置,%FVCに有意差が認められ,
舌骨上筋群の潜時に有意傾向が認められた.したがって,虚弱高齢者の方が健常高齢
者よりも円背姿勢が強く,甲状軟骨の位置が低下しており,%FVCが低値であること,
また,虚弱高齢者の方が健常高齢者よりも嚥下時の舌骨上筋群の活動開始が遅延する
傾向を示すことが明らかとなった.
健常高齢者群における姿勢(円背指数,頭頸部の位置,甲状軟骨の位置)と呼吸機
能,口腔機能の関係については,姿勢と呼吸機能との間には有意な相関関係が認めら
れなかったが,甲状軟骨の位置が嚥下回数および3回嚥下時間と有意な相関関係が認め
られた.一方,虚弱高齢者群では,頭頸部の位置と%FEV1.0,甲状軟骨の位置と%F
EV1.0の間に有意な相関関係が認められた他,円背指数とOral Diadochokinesisおよ
び円背指数と舌骨下筋群の活動時間との間にも有意な相関関係が認められた.このよ
うに健常高齢者群と虚弱高齢者群は,両群ともに姿勢が口腔機能と関連していること
から,高齢者の円背姿勢の改善を目指した介入は,口腔機能改善を図る上で重要であ
ることが示唆された.特に,虚弱高齢者群では,高齢者群よりも円背姿勢を呈して
【細則様式第1-2号続き】
いるとともに喉頭が下降しており,嚥下関連筋の筋活動が遅延しているため,誤嚥を
引き起こす要因になるものと考えられた.
第3章では,姿勢改善による介入が嚥下機能に及ぼす効果を検証する目的で,虚弱高
齢者群9名を2群に分け,通常の嚥下体操(8週間)と姿勢・バランス改善のための転倒
予防体操(8週間)による介入を,クロスオーバーデザインに則して計16週間実施した.
虚弱高齢者群の嚥下体操における実施の前後の比較では,円背指数のみが有意に改善
したが,その他の評価項目に改善が認められなかった.これに対して,虚弱高齢者群
の転倒予防体操における実施の前後の比較では,円背指数,舌骨上筋群の潜時,舌骨
下筋群の潜時が有意に改善した.また,転倒予防体操における実施の前後の比較で口
腔関連QOL(GOHAI)において有意傾向が認められた.これらのことから,転倒予防
体操を実施して姿勢や姿勢バランスの改善を図ることにより,嚥下運動に関与する筋
群の活動が円滑となり,誤嚥の原因である嚥下タイミングが改善され,口腔機能のQO
L向上が期待できることが示唆された.
以上のことから,虚弱高齢者を対象とした口腔機能の向上プログラムには,嚥下に
的を絞ったプログラムのみならず,円背姿勢や姿勢バランスの改善を重視した介護予
防プログラムを立案することの重要性が浮き彫りにされた.こうした点を勘案すると,
現在,口腔機能向上プログラムは,歯科衛生士が中心となって展開され介護予防事業
として全国的に実施されているが,より効果をあげるためには,姿勢改善や姿勢バラ
ンスの改善に精通した理学療法士や作業療法士などの専門職との連携が望まれるとこ
ろである.本研究の成果を,口腔機能向上プログラムにおいて活用することにより,
虚弱高齢者の誤嚥性肺炎の予防や口腔機能のQOL向上に貢献するものと考える.
【細則様式第1-2号続き】
学位論文のもととなる研究成果としての筆頭著者原著
論 文 題 目
著
者
名
Relationship among Oral Function, Posture, and Respiratory
Function in Healthy Adults
藤原健一,佐藤彰博,對馬
均
掲載学術誌名
Medicine and biology
巻,号,項
第 157 巻,第 6 号,732-741
掲載年月日
平成 25 年 6 月 10 日
論 文 題 目
Effects of posture and balance exercises aimed at oral function
improvement in the frail elderly
著
者
名
掲載学術誌名
巻,号,項
掲載年月日
藤原健一,佐藤彰博,對馬
均
Hirosaki Medical Journal
第 66 巻,第 1 号
掲載予定
平成 27 年 3 月