沼津市における東日本大震災前後の人口変化 - Disaster

平成27年度自然災害科学中部地区研究集会予稿集
沼津市における東日本大震災前後の人口変化
沼津市危機管理課
諸星大輔
静岡市危機管理総室
杉村晃一
静岡大学防災総合センター
牛山素行
1. はじめに
自然災害が発生すると、被災地域において人口変化(多くの場合は人口の減少、転出超過)
が生じることは古くから知られている(水谷,1989)。一方、被害を受けていなくても、なんら
かの災害の危険性が懸念される地域において人口減少が生じている可能性が、特に東日本大震
災以後、報道等で指摘されるようになった。しかし、その具体的かつ定量的な姿はまだ明らか
になっていない。そこで本稿では、静岡県沼津市を事例地として、町丁目程度の地域を最小単
位として、東日本大震災前後の人口変化傾向と、海岸線からの距離等の地域特性との関係につ
いて検討することとした。
2. 調査方法
検討に用いたのは、沼津市住民基本台帳に基づく、各年9月 30 日現在の町名別人口(日本人
のみ)である。このデータの内、東日本大震災をはさんで概ね等期間となる、2005、2010、
2015 の各年を用い、これらすべての年について有効な値が得られた 287 地区を調査対象とし
た。また、調査対象とした町名の代表点として、平成 22 年度国勢調査の町丁・字等境界データ
にある図形中心座標を用い、津波浸水想定区域内外の判定及び海岸線までの距離を計算した。
3.調査結果
3.1
減少・減少
10-15大
109,38%
地区別の人口増減傾向
沼津市全体の人口は、2005 年 211,304
増加・増加
28,10%
減少・増加
34 12%
人、2010 年 207,591 人、2015 年 197,562
増加・増加
人と変化している。まず、2005-2010 年、
減少・増加
増加・減少
59,20%
減少・減少
05-10大
減少・減少(05-10が大) 57,20%
減少・減少(10-15が大)
図1 地区別の人口増減傾向
2010-2015 年の2期間における人口増減率
増加・減少
を地区毎に算出し2期間の人口増減傾向
の変化を「増加・増加」2期間ともに増
加、同様に「減少・増加」「増加・減少」「減少・減少」と分類し、「減少・減少」について
は、詳しく見るために 2005-2010 年の減少率が高いものと、2010-2015 年の減少率が高いもの
とで分けた。上記の分類に基づき地区別の増減傾向を示したのが図1である。「増加・減少」
が 20%「減少・減少(10-15 が大)」が 38%となり、合せて 58%の地区で東日本大震災後に人口が
減少傾向に変化した可能性が考えられる。地区別の人口増減傾向を分布図にすると図2とな
る。「増加・増加」「減少・増加」は、市街地付近(図中○内は、沼津駅より半径約2km を表
示)および、それよりも北側に集中している。
一方、「増加・減少」「減少・減少(10-15 が大)」は市内全域で見られるが、特に海岸線付近
で多く見られ、震災後、減少に転じた地区、もしくはさらに減少率が高まった地区が目立つこ
とが読み取れる。
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平成27年度自然災害科学中部地区研究集会予稿集
3.2
海岸線からの距離と地区別人口増減率
海岸線付近の地区で、東日本大震災以後に人口
の減少傾向が見られる地区が多い可能性が示唆さ
れたため、海岸線からの距離と人口増減率の関係
について検討した。
詳しく検討するため、海岸線から1km 未満、1
以上2km 未満、2以上3km 未満、3以上4km 未満、
4km 以上の5階級に分類し、人口増減率を集計す
ると図3になる。
海岸から1km 未満の地区にあっては、「増加・減少」
「減少・減少(10-15 が大)」が 70%を占めている。
3.3
4km
津波浸水想定区域における人口増減傾向
津波浸水想定区域内の地区と、それ以外の地
図2
地区別人口増減傾向分布図
区における人口増減傾向を比較したものが図4
び減少・減少(2010-2015 が大)が、全体の約7
3km以上4km未満(26)
割を占めている。
2km以上3km未満(49)
3.4
27
4km以上(15)
である。津波浸水想定区域では増加・減少およ
実数で見た人口増減傾向
27
23
8
19
27
13
13
31
20
17
1km以上2km未満(64)
20
12
14
19
13
15
31
23
28
2期間それぞれの人口増減数の実数を集計
1km未満(133)
した結果が図5である。海岸から4km 以上の
0%
地区のみ人口が増加、その他の地区は減少数
の増加、または減少に転じている。
4
25
17
23
20%
40%
53
60%
増加・増加
減少・増加
減少・減少(05-10が大)
減少・減少(10-15が大)
80%
100%
増加・減少
図3 階級化した海岸線からの距離別の人口増減
傾向 ( )内は階級別の地区数
おわりに
検討の結果、東日本大震災後に人口が減少
する傾向が強くなった可能性が認められた。
しかしながら、人口減少の要因は様々なもの
非浸水想定区域
(219地区)
浸水想定区域
3
(68地区)
があることから、原因について断定的な言及
は困難である。今後、さらに他地区の傾向に
図4
81
1km未満
104
-1006
578
-3398
-7000-6000-5000-4000-3000-2000-1000 0
人口の増減数(人)
2005-2010
図5
海岸線からの距離
海岸線からの距離
必要と考えられる
3km以上
4km未満
2km以上
3km未満
1km以上
2km未満
1
19
21
19
24
33
53
0%
ついても検討を進め、比較、複合的な検討が
4km以上
12 15
20% 40% 60% 80% 100%
浸水想定区域と非浸水想定区域の
人口減少傾向比較図(凡例は図3と同じ)
460
4km以上
3km以上
4km未満
2km以上
3km未満
1km以上
2km未満
1km未満
-302
-2066
-6489
-1513
-7000-6000-5000-4000-3000-2000-1000 0
人口の増減数(人)
1000
2010-2015
階級化した海岸線からの距離別人口増減数
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1000