問題 - 生物化学科

岡山理科大学・生物化学科
植物科学Ⅱ講義資料
16.ジベレリン信号伝達
16.1 ジベレリン(GA)と植物の生長
イネ馬鹿苗病(右図)の病原菌(Gibberella fujikuroi)培養液
から、イネを徒長させる物質として発見(1926)。
典型的生理作用:茎葉の伸長成長の促進、種子休眠の解除、
花芽誘導、着果・果実の成長促進。
16.2 GA関連変異体
生合成欠損や受容変異体は、矮性表現型を示す(下図)。
生合成欠損は、外生的GA投与で野生型に回復(下左図B)。
受容変異体は、外生的GA投与では回復しない(下右図)。
16.3 GA信号伝達変異体
16.3.1 恒常的GA反応表現型
1) slender rice 1 (slr1) [イネ]
徒長。C末端側の欠失による機能欠損(loss-of-function)。劣性表現型。
SLR1タンパク質
N末端側にDELLAドメイン*を持つ。
* SLR1を含むタンパク質ファミリーに共通してみられるアミノ酸配列モチーフ
C末端側にGRASドメイン**を持つ。
** 植物特有の転写調節因子ファミリーの保存配列。
シロイヌナズナのゲノムには、5つのDELLAタンパク質遺伝子(RGA, GAI, RGL1∼3)。
RGA以外の機能欠損変異体は、単独でははっきりとした表現型を示さないが、二
重、三重変異体にするとより強い恒常的GA反応表現型を示す様になる。
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植物科学Ⅱ講義資料
DELLAタンパク質
• いずれもGA処理により急速に分解される。
• それ自身はDNA結合ドメインを持たない。
• フィトクロム信号伝達系においても機能し、bHLH型転写因子phytochrome-interacting
factor (PIF)に結合して、そのDNA結合を阻害することが知られている。
• GA信号伝達系において相互作用する転写因子は不明(未知の転写因子)。
16.3.2 GA非感受性表現型
1) GA-insensitive dwarf 1 (gid1)[イネ]
矮性。機能欠損(loss-of-function)。劣性表現型。
slr1/gid1二重変異体はslr1が上位性を示す。
変異体中でSLR1タンパク質のGA依存性の分解が起こらない。
GID1タンパク質
活性型ジベレリン分子を特異的に結合する。
DELLAドメインを介して、SLR1とGA依存的に結合する。
シロイヌナズナのゲノムには、3つの相同タンパク質遺伝子(GIDa∼c)。
いずれも単独の変異でははっきりとした表現型を示さないが、三重変異体は強い矮
性を示す様になる。
2) GA insensitive dwarf 2 (gid2) [イネ]
矮性。機能欠損(loss-of-function)。劣性表現型。
slr1/gid2二重変異体はslr1が上位性を示す。
変異体中でSLR1タンパク質のGA依存性の分解が起こらない。
GID2タンパク質は、N末端側にF-boxドメインを持つ。
シロイヌナズナのゲノムに相同タンパク質遺伝子(SLY1)。
3) gai-1 [シロイヌナズナ]
矮性。機能獲得。優性表現型。
DELLAドメイン内の17アミノ酸残基のin frame欠失***。
*** コード領域のフレームシフトが起きないような欠失。
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植物科学Ⅱ講義資料
平成26年度 定期試験問題
〔Ⅰ〕イネにおいて推定されるGA信号伝達経路をタンパク質因子の略号(“SLR1”等)を
用いて描け。(40点)
ただし、
◎出発は「GA」、終着は「GA応答遺伝子」とする。
◎上記以外に、GA応答遺伝子の発現を制御する「未知の転写因子」を想定せよ。
◎促進は『→』、抑制は『─┤』で表せ。推定の根拠等、説明を適宜併記すること。
◎フィトクロム信号伝達については描かなくてよい。
〔Ⅱ〕次の各問のうち、3つ選んで答えよ。(各10点)
(1)
gid1とgid2が異なる遺伝子座に生じた変異であることを分子解析を行わずに示す方法
を説明せよ。
(2)
シロイヌナズナにおけるDELLAタンパク質やGID1相同タンパク質の遺伝子が単独で
機能欠損突然変異を起こしてもはっきりとした表現型を示さない理由を説明せよ。
(3)
SLR1タンパク質とGID1タンパク質がGA依存的に相互作用することをin vivoで証明す
るには、どのような実験を行えばよいか説明せよ。
(4)
SLR1タンパク質の分解は、26Sプロテアソーム阻害剤によって抑制される。その分解
メカニズムについて説明せよ。
(5)
DELLAタンパク質における、DELLAドメインとGRASドメインのそれぞれに推定さ
れる機能を説明せよ。
〔Ⅲ〕 次の各問のうち、3つ選んで答えよ。(各10点)
(1)
真核生物における二成分制御系の信号伝達様式について説明せよ。
(2)
細胞膜成分から生成されるセカンドメッセンジャーとその生成メカニズムを記せ。
(3)
分化全能性と、植物組織培養においてそれを証明する現象について説明せよ。
(4)
選抜マーカー遺伝子とは何のために用いられるもので、どの様な特徴が必要か。
(5)
野生型の花では、superman遺伝子により第4 whorlにおけるB遺伝子の発現が抑制され
ている。クラスC遺伝子とsuperman遺伝子の二重変異体の花器官はどの様になるか。
(6)
特定の病原体に対して植物が特異的に抵抗性を示すメカニズムを遺伝子対遺伝子説
で説明せよ。
注)
・〔Ⅱ〕と〔Ⅲ〕の解答順は問わない。解答用紙に解答した設問番号を明記すること。
・〔Ⅱ〕と〔Ⅲ〕は、4つ以上解答してもよいが、点数が上位の3問を得点に採用する。