韓国 1.エネルギー政策動向 高まるエネルギーの輸入依存 韓国は、1970 年代から造船など重化学工業を中心とした産業開発により経済の基盤を築 き、その後、1980~1990 年代を通じて実施した高付加価値型産業の育成などにより高度成 長を遂げた。その結果、1997 年には OECD の仲間入りを果たした。 こうした経済成長やモータリゼーションの発達などにより、1970 年以降、エネルギー消 費量が飛躍的に増加した。最終エネルギー消費量は、石油危機が発生した 1973 年の 1,740 万 toe(石油換算トン)から 2013 年の 1 億 6,780 万 toe へ、この 40 年間に 9.6 倍に拡大し ている。 一方、エネルギー供給は、国内に化石燃料資源が乏しいため、そのほとんどを輸入に頼 っており、輸入依存度は 1973 年の 66.8%から 2013 年の 87.0%に上昇するなど、年々高ま る傾向にある。 2030 年に再エネ比率を 11%、石油ガスの自主開発比率を 40%に引き上げる方針 このような状況を反映して、これまでに様々なエネルギー政策が実施された。1970 年代 には、2 度の石油危機を受けて脱石油化が推進され、併せて省エネが促進された。1990 年 代には、社会・経済の構造改革が進められ、工業部門が多様化するとともに、公益事業改 革が進められ、さらにエネルギー部門の改革も開始された。 エネルギー部門の改革では、1993 年にエネルギー産業での規制緩和が進められ、政府の エネルギー価格への過度な介入が抑制された。さらに、アジア通貨危機の影響を受けた 1998 年には、エネルギー産業の構造改革が重点的に取り上げられ、電力部門の分割・民営化が 推進された。 また、近年は、1993 年の「気候変動枠組条約」批准を受けて 1998 年に国別報告書を国 連に提出するなど、地球環境問題に対する関心が急速に高まっている。また、原油価格の 高騰や中国、インドの経済発展に伴う資源争奪戦も激化している。 こうした情勢を踏まえ、現在の韓国のエネルギー政策は、国内外の情勢の変化、とりわ け市場自由化の進展、エネルギー市場のグローバル化による国際競争の激化、エネルギー セキュリティあるいは地球環境問題の高まりなどを反映して、「エネルギー・経済・環境」 (3E)の調和を重視したものとなっている。 知識経済部(MOKE、2013 年 3 月に産業通商資源部(MOITR)に改組。 「部」は日本の 省に相当)が 2008 年に策定した「第 1 次・国家エネルギー基本計画」 (2008~2030 年)で は、低炭素社会の実現と安定した経済成長の達成が基本方針になっている。この基本計画 は、李明博政権が打ち出した社会・経済政策「低炭素グリーン成長国家戦略」に基づき策 定されたもので、2030 年の主要目標として、①エネルギー原単位(エネルギー消費量/ GDP)を 0.185 に引き下げる(2007 年は 0.341)、②エネルギーに占める化石エネルギー比 1 率を 61%に引き下げるとともに、再生可能エネルギー(再エネ)比率を 11%に引き上げる (2007 年はそれぞれ 83%、2.4%) 、③グリーン技術などエネルギー技術の水準を世界最高 レベルに引き上げる、④石油・ガスの自主開発率を 40%に引き上げる(2007 年は 4.2%) 、 ⑤原子力発電比率を発電設備容量で 41%に、発電電力量で 59%に引き上げる、などを掲げ た。 また、基本計画を補完するものとして作成された 2008 年の「エネルギー・ビジョン:エ ネルギー政策の方向性と開発戦略」では、①環境に優しいエネルギー需給システムの構築、 ②原子力を中心とする安定的なエネルギー供給基盤の確立、③エネルギー関連技術による 輸出産業(特に原発と再エネ)の育成、などを推進することが打ち出されている。 このようなエネルギー政策により、政府は、今後のエネルギー需要の増加率を年率 2~3% に抑えるとともに、エネルギー源や輸入国の多様化を図ることを目指している。 政府は、これらの施策によって、2030 年の最終エネルギー消費量が 3 億 8,890 万 toe に 抑制されるとしている。また、今後、石油依存度が低下する一方、原子力や再エネの開発 が進むことから、2030 年には最終エネルギー消費量の構成が石油 43.8%、電力 22.8%、都 市ガス 12.4%、再エネ 10.4%、石炭 9.5%、その他 1.1%になると予測している。 その後、2011 年に東日本大震災による福島原発事故が発生し、2013 年には国内で数件の 原発の偽造部品使用事件が発生したことから、政府は「第 1 次・エネルギー計画」の目標 を大幅に変更し、原子力発電比率を下方修正することを決定した。2014 年 1 月に公表され た「第 2 次・国家エネルギー基本計画」 (2013~2035 年)では、原子力の新規開発分を廃 炉分と同程度の規模に留め、2035 年の原子力発電比率を 29%と下方修正した。また、その 引き下げ分を天然ガスや石炭、再エネで賄うことが規定された。 2.地球温暖化防止政策動向 2013 年から GHG 削減対象国 韓国は、前述のように 1993 年に「気候変動枠組条約」(UNFCCC)を批准したが、 「UNFCCC 付属書Ⅰ締約国」ではないため、温室効果ガスの削減は義務付けられていなか った。しかし、2007 年の「気候変動枠組条約・第 13 回締約国会議」 (COP13)で、2013 年から温室効果ガス(GHG)の削減対象国になることが決定した。 省エネ、再エネ、原子力を推進:排出量取引制度も導入 しかし、この決定以前から韓国は様々な GHG 削減対策を実施している。1997 年には官 民合同の「省エネルギー委員会」 (NCEC)を設置し、 「GHG 排出量削減行動計画」を策定 したほか、同年に国連とアジア開発銀行(ADB)が協賛する「最小費用で GHG を低減す るためのアジア戦略」 (ALGAS)に参加、さらに 1998 年には「気候変動枠組条約に関する 関連省庁合同委員会」 (IMCCCC)を設置し、京都メカニズムに沿った「包括的行動計画」 (CNAP)を策定している。その後、CNAP に基づき、2000 年には「持続可能な開発に関 する大統領委員会」(PCSD)が設置され、省エネルギーの推進をはじめ、原子力や天然ガ 2 ス、再エネの利用、CDM 事業などを促進している。再エネの開発に対しては、補助金(原 資は石油税と天然ガス税)を支給している。 また、2007 年には「気候変動対応・新国家戦略」が作成され、排出量取引市場を開設す ることが決定した。取引市場は、エネルギー管理公団(KEMCO)に登録した企業が、同公 団が発行する排出枠によって取引を行うシステムで、排出枠を取得した企業は、韓国電力 公社(KEPCO)の発電子会社や地域暖房公社などのエネルギー関連の政府系企業に排出枠 を販売することになる。政府系企業は、再エネによる供給量の目標が達成できなかった場 合、排出枠の購入が義務付けられている。 GHG 削減対象国としてさらに対策強化:2030 年に 2005 年比 30%減 韓国は現在、GHG 削減対象国として、さらなる削減対策を実施している。 政府は、2007 年に「気候変動第 4 次総合対策」 (2008~2012 年)を策定し、主要な産業 やコジェネ事業者に対して削減目標を設定するとともに、再エネ事業者に対しては供給目 標を設定した。すなわち、鉄鋼や自動車などの大規模企業に対しては 2005 年比で 3.2%(約 180 万トン)の削減、またコジェネ事業者に対しては 3,000 万トンの削減が義務付けられた。 また、再エネについては、2030 年までにエネルギーの 9.0%を再エネで供給することが目 標として掲げられた。 さらに、2009 年には「低炭素グリーン成長国家戦略」が策定され、2030 年の GHG 削減 目標を 2005 年比 30%減とする一方、2030 年の再エネ比率を 11.0%に引き上げた。 政府は、今後、排出量取引市場を拡大させるとともに、現在の環境税を炭素税に転換し、 GHG 排出量が多い企業の税負担を引き上げることなどを検討している。 2010 年には「低炭素グリーン成長基本法」が制定され、2015 年から「総量制限排出量取 引制度」を実施することが決定した。同制度は 2012 年から一部の大規模企業を対象に試験 導入された。2015 年 1 月からは本格導入され、政府が CO2 排出割当量を決定した大手企 業 525 社を対象に、割当量を超える企業が超過分を韓国証券取引所( KRX:Korea Exchange)が管理する「温室効果ガス排出権取引市場」 (CTM:Carbon Trading Market) で取引することとなった。政府は、温室効果ガスの削減を図るため、今後、段階的に CTM で取引する企業数を拡大する予定である。 なお、政府は、2015 年 12 月にパリで開催された「国連気候変動枠組条約(UNFCCC) 第 21 回締約国会議(COP21)で、2030 年の GHG 排出量を 2005 年 BAU 比(対策を講じ ない場合の排出量比)で 37%削減することを公表した。この目標を達成するため、政府は、 現在、新たな戦略を作成中である。 3.再生可能エネルギー導入政策・動向 FIT や RPS で再エネ開発推進を計画:2030 年に再エネ比率 11% 世界的に地球温暖化対策が急がれている中、政府は 1987 年に「代替エネルギー開発促進 法」を制定し、その後、2002 年に「新エネおよび再エネ開発・利用・普及促進法」を制定 3 した。同法では、新エネとして、燃料電池、石炭液化・ガス化エネルギー、水素エネルギ ー、また再エネとして、太陽エネルギー、風力、バイオエネルギー、廃棄物エネルギー、 水力、海洋エネルギーが挙げられており、再エネについては、固定価格買取制度(FIT)の 対象とすることが規定された。この FIT は 2002 年から 2012 年まで実施された。 また、2009 年には「新エネ・再エネ技術開発および利用・普及実行計画」が策定され、 済州島に国産の風力発電プラントを 26 基設置するほか、潮力発電の開発、太陽光セルの国 産化などが実施されている。政府は、2030 年までにエネルギーの 11%を再エネで賄う計画 であり、併せて再エネ関連機器の輸出を促進する方針である。このため、政府は、再エネ の技術開発や普及活動を制度面や資金面で支援している。 その後、政府は過度に財政負担を膨らませず再エネを拡大するため、2011 年に FIT から 再エネ利用基準制度(RPS:Renewable Portfolio Standard。電気事業者に対して発電電力 量の一定比率を再エネ電源で賄うことを義務付けする制度)に変更することを決定し、2012 年から RPS が実施されている。現行の RPS では、50 万 kW 以上の発電設備を所有する電 気事業者(2014 年時点 14 社)を対象に、2022 年までに発電電力量の 10%を再エネ電源で 賄うことが義務付けられている。なお、FIT は 2012 年以降、新規の適用は不可能となった が、すでに適用を受けている再エネ事業者は、契約期間が終了するまで FIT を継続するこ とが保証されている。 政府は再エネの導入を加速するため、現在 RPS と FIT の併用などを検討している。 4.原子力開発動向 原子力は石炭と並んで重要な電源 韓国は化石燃料依存の低減、気候変動対策として、原子力発電開発を推進してきている。 1978 年に古里発電所 1 号機が運開して以来、2014 年末現在 6 サイトで合計 26 基 2,650 万 kW が稼働しており、2013 年には発電電力量の 25.7%を賄った。炉型は、古里 1~4 号 機(310 万 kW) 、蔚珍 1~6 号機(590 万 kW)、霊光 1~6 号機(590 万 kW)、新古里 1~ 4 号機(480 万 kW)および新月城 1~2 号機(200 万 kW)は軽水炉(PWR)であるが、 月城 1~4 号機(280 万 kW)はカナダ AECL 製の重水炉(PHWR)である。 国内開発に加えて原子炉輸出も促進 韓国の原子力開発推進政策は福島事故後も大きな変更はない。既設の炉については、韓 国原子力安全委員会(NSC)が安全性の確認や補強工事、耐震設計基準の見直しなどを進 めている。 また、今後も新規建設を推進してゆく方針である。2014 年策定の「第 2 次・エネルギー 計画」では、2035 年の原子力発電比率を、発電設備容量で 29%に、発電電力量で 30%に 引き上げることが目標として掲げられている。このため、今後、100 万 kW や 140 万 kW 級の原子力発電プラントを合計 7~8 基建設することが計画されている。 政府は、原子力発電に対する立地地域の住民の理解を得るため、 「地域共存型の原子力発 4 電所建設」と名付けた施策を掲げ、様々な PA 活動を実施している。 また、政府は原子力産業を輸出産業に育てる方針であり、次世代型原子炉(140 万 kW 級 APR+)の技術開発を進めるとともに、原子炉の海外への売り込む活動を積極的に展開して いる。2009 年にはアラブ首長国連邦(UAE)から APR1400(140 万 kW)4 基の建設を受 注した。 5.電源開発状況 電源は火力と原子力が中心 韓国の電源の中心は火力と原子力である。 2013 年の電源構成 (電気事業者) は、火力 62.5% (石炭火力 29.9%、ガス火力 29.7%、石油火力 2.9%) 、原子力 25.3%、水力 7.9%、再エ ネが 4.3%となっている。また、発電電力量では、火力 69.3%(石炭火力 39.0%、ガス火 力 24.8 石油火力 5.5%) 、原子力 26.9%、水力 1.6%、再エネが 1.6%と、石炭火力と原子 力で 65.9%を占める。 石炭火力、ガス火力、原子力を中心に電源開発推進 中期的な電源開発計画としては、2013 年に通商産業資源部(MOITR)が発表した「第 6 次・長期電力需給計画 2013~2027」がある。 同計画によると、今後、デマンドサイド・マネジメント(DSM)を積極的に推進するが、 電力需要は年率 3.4%で増加し、2027 年には 6,553 億 kWh となる一方、最大電力も年率 3.4%で増大し、2027 年には 1 億 1,089 万 kW になることが予測されている。なお計画期 間中の DSM の効果は合計 1,585 万 kW と予想されている。 こうした需要増に対応するため、政府は積極的に電源開発を行い、2027 年の設備容量を 1 億 5,850 万 kW にまで増強する計画である。電源の種類としては、石炭火力、コンバイン ド・サイクル・ガス火力および原子力を中心にして再エネも多数建設する予定である。 順調に開発が進めば、2027 年には、石炭火力 28.2%、石油火力 5.5%、コンバインド・ サイクル・ガス火力(LNG 火力を含む)20.1%、原子力 22.7%、水力 3.0%、再エネ 20.5% となり、石炭火力や原子力など従来型電源の比率が低下する一方、再エネの比率が増加す る見込みである。 また、2027 年における電気事業者比率は、韓国電力公社(KEPCO)と発電子会社が 59.5% (合計 9,437 万 kW) 、独立系発電事業者(IPP)が 40.5%(6,413 万 kW)などとなり、 KEPCO と発電子会社の比率が 2013 年の 82.6%から低下する見込みである。 なお、政府は現在国会で審査中の「第 2 次・エネルギー計画」案に沿った形で、今後、 新たな「長期電力需給計画」を策定する予定である。 6.電気事業体制 KEPCO は発電部門を 6 社に分割 韓国では 1982 年の電力国有化以来、韓国電力公社(KEPCO)が発送配電一貫体制で全 5 国的に電力供給を行ってきた。 しかし、 1989 年に KEPCO が株式会社化され、49%の株式が公開されたのに続いて、1990 年代に入ると、公営企業に対する規制緩和が開始された。1995 年には「民間資本発電事業・ 基本計画」 が発表され、 2001 年から KEPCO に売電する IPP が発電部門に参入を開始した。 さらに、1997~98 年のアジア通貨危機および経済危機に際して、政府は金融、企業(財 閥) 、公共部門、労働の 4 部門を対象とした構造改革を進め、電力部門についても KEPCO の分割・民営化が検討されることになった。 その結果、2000 年に「KEPCO 再編法」と「改正電気事業法」が制定され、KEPCO を 発電、送電、配電部門に分割し、卸電力市場や小売市場を創設することが決まった。また、 発電と配電部門については民営化し、複数の発電会社や配電会社(地域別の配電会社)を 設立することとなった。 この方針に従い、2001 年には KEPCO の発電部門が 6 社に分割された。KEPCO が全株 式を保有する発電子会社として、一般水力と原子力を保有する水力原子力発電会社 (KHNP)に加えて、揚水と火力発電所を保有する 5 つの発電会社、すなわち南東発電会 社(KOSEP)、中部発電会社(KOMIPO)、東西発電会社(KEWESPO)、西部発電会社 (KOWEPCO)および南部発電会社(KOSPO)が誕生した。分割に際しては、KHNP を 除き資産価値や設備容量が均等になるよう配分されたため、各社が所有する発電所は同一 地域にはなく、全国に点在している。 配電部門は分割できず 一方、配電部門および小売市場の改革は、労働組合の強い反対を受け現在中断している。 ただし、政府は公営企業の民営化や電力部門の改革の方針は捨てていない。前李明博政権 下では、298 の公益企業を対象に民営化や統廃合を検討し、電力部門についても配電部門の 分割・民営化などが論議されたが、現政権もこの前政権の改革方針を踏襲している。 現在の体制:発電部門分割以外は改革進まず この結果、現在、発電部門には、前述の KEPCO の発電子会社 6 社のほか、IPP(7 社) 、 韓国水資源公社(KOWACO:通称 K-Water)、熱供給事業者を初めとする卸電気事業者、 風力や太陽光発電所を所有する再エネ事業者が存在する。 分割された KEPCO の発電子会社については、政府は KNHP を除く 5 社の民営化を目指 しているが、2016 年現在、株式は全て KEPCO が保有している。 一方、送電、配電、および小売部門は、依然として政府が 51%の株式を保有する KEPCO が所有・運転している。また、離島など送電系統から孤立した地域の発電所も引き続き KEPCO が所有・運転している。 7.電力自由化動向 卸市場を自由化 前述の KEPCO の発電部門の分割と同時に、2001 年に卸電力市場が創設され、韓国電力 6 取引所(KPX)も設立された。この卸市場は、KPX によって運営されるコストベース・プ ールに基づいた強制市場であり、基本的に発電事業者は全て市場に参加する。ただし KPX 設立以前に KEPCO と電力売買契約を結んだ IPP、あるいは再エネ事業者は市場への参加 は任意である。 系統運用は KEPCO の送電部門が行っている。KPX が前日に作成した 1 時間毎の発電量 に基づき、事前に登録した発電事業者の中から発電コストが安い事業者を選定し、選定し た事業者に運転指令を出している。 また、独立規制機関として、韓国電力委員会(KEC)が設立された。同委員会の主要な 任務は、①電力市場の運営に関する基準の施行と電気事業者の認可(事業ライセンス発行)、 ②公平な競争の促進、③消費者利益の保護、④電力市場の監視、⑤電気事業の再編などで ある。 電気料金は、発電部門は卸電力市場により市場価格が反映される。一方、KEPCO の小売 料金は認可料金であり、料金改訂には政府の認可が必要である。 当初は改革効果で料金低下 前述のように、電気事業改革後も総発電設備容量(2013 年)の 82.6%を KEPCO の発電 子会社が占める一方、IPP は 10.5%、再エネ事業者は 3.8%を占めるに過ぎない(残りの 3.1%は卸電気事業者)。 しかし、小売電気料金は 2004 年までは家庭用が 3 年連続、一般用も 2 年連続で値下げが 実施され、併せて用途別・料金単価の格差是正が行われた。これは、電力改革以前に締結 した LNG 長期購入契約などのおかげで燃料価格が低く抑えられたこと、供給予備力に余裕 があったため電力設備の開発費が抑えられたことで、卸価格が低下傾向を示したためであ る。 値上げ不足で KEPCO は赤字計上 しかし、一転して、2005 年以降は値上げが続いている。燃料価格の高騰や電源開発費の 増大などを反映し、2012 年 8 月までに合計 7 回にわたり値上げが実施された。しかもこの ような度重なる値上げにも係らず、政府の介入によって値上げ幅が小幅に抑えられてきた ため、2008 年以降、2012 年末まで KEPCO は赤字計上を強いられていた。 その後、政府は KEPCO の赤字の原因である燃料価格の高騰や為替変動による購入電力 費の上昇を小売料金に反映させるべく、数回に亘り 7%程度の電気料金値上げを認可したた め、KEPCO は 2013 年以降の決算で黒字を計上することになった。また、累積赤字に関し ても、KEPCO の本社移転(2014 年 12 月にソウル市・三成洞から南部の全羅南道・羅州 市に移転)に伴う本社ビル売却により、大幅に減額された。なお、2011 年に導入するはず であった燃料費調整制度に関しては、政府が消費者保護の観点から導入を延期している。 続く停電の懸念 また、この政府によって低く設定された電気料金によって、多くの需要家がエアコンを 冷房に加えて暖房用にも使用するようになり、冬季の最大電力を引き上げる要因となって 7 いる。その結果、発電所の定期点検期間が春と秋に限定され、夏季や冬季に電力不足に陥 るリスクが高まっている。 2011 年 9 月には、多数の発電所が定期点検に入る中、突然気温が上昇し、供給力不足に より合計 5 時間に及ぶ輪番停電が実施された。こうした状況を改善するため、政府は、2011 年から夏季と冬季にビルの温度規制を実施するとともに、大口需要家に電力需給調整の強 化を指示するなど非常時電力需給対策を実施しているが、その後も予断を許さない状況が 続いている。 電力供給体制 (発電) (卸売) (送配電・小売) KEPCO 発電子会社(6 社)、IPP(7 社) 卸電力市場:KPX KEPCO 需要家(2013 年末現在 2,102 万軒) (注)卸電力市場は強制市場で、基本的にすべての発電事業者は市場に参加しなければな らない。ただし KPX が設立した 2001 年以前に KEPCO と電力売買契約(PPA)を結んで いた IPP あるいは再エネ事業者は任意である。 海外電力調査会作成 (2016 年 1 月更新) 8
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