し ょ うい ち 理学研究院 地球惑星科学部門 講師 き よ か わ 清川 昌一 地質学 示す時代です。それ以降が顕生代。 古生代、中生代、新生代、恐竜とか アンモナイトが出てくる時代で、学 土居 太古代という言葉はあまり耳 に例えると小学校くらい。地球が小 る太古代は、地球を四十五歳の人間 人間に例えれば、 小学生くらいの地球が 何をやっていたかを探る研究 慣れないのですが、どのくらい前の 学生時代に、どんなことやっていた 校でも習いますよね。私がやってい 時代ですか。 年くらい前。次に大きな生物が出て が大陸を作っていく時代で二十五億 拠が何にもない時代、太古代は地球 誕生しましたが、冥王代は当時の証 れます。地球は四十五・六億年前に 原生代、顕生代と大きく四つに分か あるだろうと、それも伺おうと思っ の独特の境地みたいなものがきっと 清川先生は億年単位。研究者として 私の場合は二百年、三百年前の昔。 をやっています。同じ昔のことでも、 ランスの十七、十八世紀の古典主義 土居 私の専門は西洋建築史で、フ 清川 地球の歴史は冥王代、太古代、 のかを探っています。 くる時代が原生代で地球の安定化を 17 Kyushu University Campus Magazine ﹁ふろんとランナー﹂は、九州大学の研究の最前線を インタビューで紹介するシリーズです。 土居義岳 教授 シリーズ第八回目は、理学研究院の清川昌一講師に、 芸術工学研究院 芸術工学研究院の土居義岳教授が聞きます。 聞き手 8 学会発表でも大きな反響を巻き起こした 太古代・原生代の海底断面の復元 ―― 初期地球の海底環境と 初期生物の活動場の解明 vol 清川 宇宙ができて百三十、百五十 て来ました。 て残っているのはサウスアフリカと な昔の石が地球表層の状態を保存し テクノロジーの進歩のたびに大ブレ 清川 やはりサイエンスですから、 上にあります。違うのは顕微鏡の拡 球の歴史も十七世紀の話も一本の線 は存在するんですよ。 はり一日、一ヵ月、一年という単位 ません。でも、三十二億年前でもや シミュレーションが脚光を浴びがち した。近年そうした新しい分析とか 度で年代が測定できるようになりま の開発で、三十二億年前でも高い精 イクが起こっています。質量分析計 大率。私がターゲットとするものは 土居 これから先、別な場所が見つ ですが、逆に、もっとオーソドック オーストラリアのピルバラしかあり ゼロが二つくらい違うから、電子顕 かる可能性は? スに実際の地球はどういうものかを 土居 建築だと、実測技術がここ十 的に見えますが、もっとも大切な基 清川 野外における地質調査は古典 45才7ヶ月 30 才 億年と言われていますが、宇宙や地 微鏡が必要かもしれない。でも、十 清川 まだあるかもしれません。カ こっているかを紐解いてやろうとい 倍や四十倍の顕微鏡で見える時代も 歩でどんどん古い証拠が出てきてい うのを私はスタンスとしています。 自分の目できっちり確かめ、何が起 をもっているかで、時代というもの て、四十四億年前くらいのジルコン 土居 前述のオーストラリア・ピル ナダの奥地とか。テクノロジーの進 はわかりやすくなる。どの倍率が得 という鉱物が見つかったりもしてい バラでの研究が清川先生の真骨頂だ あります。自分がどのくらいの倍率 意か、ですよね。 ます。 査のために現地で半年間のテント暮 と大きく評価されています。地質調 土居 では、対象とする年数の幅は どのくらいですか。我々だと、二百 年前の十年間、二十年間ということ 太古代の全部ですか? 年くらいで格段に飛躍しているので 礎データの採取だと考えています。 らしをされたとか。 清川 私たちは今、三十二億年前の すが、地質学でもそういったテクノ 土居 私の興味を引いたのが、二十 地質学者垂涎! 鹿児島の硫黄島という宝島 地層をやっていますが、古い歴史を ロジーの影響はありますか? Phanerozoic 原生代 中間管理職 就職・結婚・出産 人間形成期 お父さんの歴史 ??? 幼少 小学校 中 高 浪 大学 修士 Proterozoic Archean 大学院 20 才 10 才 誕生 顕生代 けんせいだい Hadean (大人としてのスタート:初めての経験)(日々の新たなる事件!) 27億年前のストロマトライト層(バクテリアマット) 西オーストラリア ピルバラ タンビアーナ層より を調べているくらいですが。先生は 探る時には証拠は限られます。そん 数億年前に鉄鉱層が形成されたとい うことです。鉄は建築を造るから特 に私には面白いのですが。 清川 太古代後期二十七〜二十五億 年前にかけて地球最大の表層転換が あったことがわかっていて、それま で酸素のなかった地球が急激に酸化 的になって鉄が酸化され沈殿してい Kyushu University Campus Magazine 18 三十二億年前の熱水活動 Dixon Island Formation, Western Australia 45.6億年前 40億年前 げんせいだい たいこだい めいおうだい 太古代 冥王代 5.42億年前 25億年前 地球の歴史 きます。その最大量の痕跡が二十五 億年くらいの時代に残っているので っているということ。石の中で黒と 沈殿物の下には真っ黒い地層が溜ま の地層を求めて野外へ行くと、鉄の 清川 そうですね。その黒い地層の か。 と同じく化石由来だということです 土居 ひょっとして鉄も石油や石炭 すが、もうひとつのポイントは、鉄 いうのは有機物、炭素で、それは何 さらに下を見ると、熱水が吹いてい みたら、実にそこにも鉄がいっぱい なっているのです。それを野外の石 トをへて、我々が使えるシステムに 早く溜まるところでも千年で十㎝ 、 溜まっていたのです。 沈殿と、昔の対比などを通して二十 ちょっと深海になると千年で三㎜ と が積み重なっているパターンから読 五億年前の鉄の沈殿のメカニズムも 時間がかかり、それが過去の鉄の沈 土居 すごい発見じゃないですか。 明らかになるのじゃないかと考えて 殿ペースじゃないかなと思っていた み取れるというのが面白いのです。 います。硫黄島は鉄の沈殿がわずか ところに、十年くらいで一・五m く 清川 貴重な調査地であることは間 海深五m にあるのもこたえられませ らいの鉄が沈殿している硫黄島を見 また、海洋ではものすごく堆積物が ん。私はスキューバダイビングの免 ると、全く新しい視点、考え方が開 違いありません。現在進行形の鉄の 許を持っていて、五m だと自分で潜 けてきます。 地質学は古いことを基礎に 未来を予測する学問 れますから。潜ってみたら、熱水が 吹き上がっているチムニー(煙突) を発見。世界の深海底には熱水のチ 土居 山に登ったり、海に潜ったり、 らかの形の生物が沈殿しているとい 生物のコロニーになっているという 清川先生のフィールドワークを見て ムニーがあるところいっぱいあって、 発表が一世を風靡したのですが、そ いると、まさにハンターの趣ですが、 たところがいっぱいある。海底の熱 れと同じようなのが海深五m の硫黄 小さい頃はどんな子どもだったので うことです。ピルバラの縞状鉄鉱層 島にもあるのです!来週、また三島 すか。 水が吹いている所は、現在ではエビ 村の村長さんと話をするために島へ 清川 育ったのは山の中も山の中で、 の下にも五十m から百m に達する、 行きます。 小学校の一クラスが二十六人。同級 や貝がいたりして、生物が繁茂する 土居 鉄は地球にずっと昔から何ら 生全員のじいちゃん、ばあちゃんま 炭素濃度が多いところで十七%とい かの形であって、凝縮されて固まっ で知っているような所で大きくなり 場所。その上に鉄が溜まっていると たものだとばかり思っていました。 ました。休みの日は「今日はこの山 うほとんど炭のような地層があり、 清川 確かに地球の核部は八割が鉄 を捜査しよう」とか「池の周囲をぐ いうことは、熱水の活動もすごく大 でできておりますし、地球の全体で 生物が発生して酸素を出し、鉄が沈 の硫黄島にも行ったのですが、あそ るっと回ろう」とか遊びといえば探 この茶色って何だろうと掘り返して を転々としました。その時に鹿児島 かりながら研究をやろうと火山地域 に赴任してからはいつか温泉にも浸 すが、温泉が好きだったので、九州 水に関係しない調査をしてきたので こは港が茶褐色で泥水状態なのです。 も二十八%がFe を含む物質からな 検でしたね。今も時々、みんなと会 事ということなのです。私自身は熱 聞き手:土居義岳教授 ります。そこから地質学的なイベン 殿した可能性を示唆しています。 サツマ硫黄島、長浜湾。 オレンジ色に見える部分が、鉄酸化物。 (海底は50度ぐらいのところがある) 19 Kyushu University Campus Magazine いう傾向は強く持っていたと思いま 自分で確かめないと気がすまないと のが好き。自分の目で観察したい、 気がします。小さい頃から物を見る 質学に進むきっかけになったような たのかという疑問を持ったことも地 って何だ。どんなメカニズムででき 紀の地層だったのですが、この縞々 ごくきれいな縞々が出てきた。白亜 をしたのですが、道路工事で崖にす ツタケが採れなくなって悔しい思い 時、道路の拡大で山が切り崩されマ 清川 私の家は香川県にあり、ある ましたので、共感を持ちますね。 土居 私自身もわりと山の中で育ち 事に活かせた感じですね。 に山や崖に登っていたのがうまく仕 ます。子どもの頃、当たり前のよう 同じことをやっているね」と笑われ って飲むのですが、「小学校の時と 去の鉄の沈殿の仕方をそれぞれきち 加えて硫黄島ですね。現代の鉄と過 はそれを徹底的にやっていきます。 関連を知りたいため。ここ一、二年 採ったのも、熱水系と表層、生物の 清川 オーストラリアで新鮮な石を 性をお聞かせください。 土居 これからの展望、研究の方向 した研究もできる訳ですし。 底掘削船でハイテクノロジーを駆使 半年テント暮らしをする一方で、海 ックをきちんと理解して、そこから 的な地質学です。でも、古いテクニ いますね。私がやっているのは古典 めると、私としては「やった」と思 を見て、「きれいだね」と感動し始 の夕日ではなく、夕日の当たる地層 清川 みんなと島に行って、夕暮れ しゃいますね。 いたら、企業に入ってもやれますよ」 サークルやって、人間関係を築けて 言われ、企業の人も「大学に入って よね。大学は人生の休息の時間だと できるような人になってほしいです 勝ち取り、それを使って社会に貢献 うのです。大学で何かを学び取り、 という時代はもう終わっていると思 大学の名前だけあったらそれでいい ホッとするじゃないですか。でも、 自分としてはカッコいいかなと(笑) 。 清川 日本の学生って大学に入ると 新しい分野に分け入っていくのが、 と言うのですが、それは言っている 生にメッセージをいただければ。 土居 最後に高校生や九州大学の学 温暖化なども私たちの範疇ですよ。 に未来を予測する学問だから。地球 やるのじゃなくて、古いことを基礎 なぜなら、地質学は古いことばかり ごく大事になっていくと思うのです。 それがたぶん環境問題においてもす んと見ていきたいと考えています。 いうのは使命だと思います。 日本を支える人材にして世に出すと 生なのだから、しっかりケアして、 九大などの帝大系は日本を支える学 す。また教員として私的には、特に だから、ちゃんと学んでほしいので れは僕も認めます。ただ、せっかく には切り替えて、一生懸命やる。そ 一九六三生まれ。高知大学・理学部卒 清川 昌一 講師 プロフィール す。物を観察する能力って今の偏差 値教育では取りこぼされていますが だけ。それではもうだめなんじゃな 人が当時それで通用したからという 大学で博士(理学)の学位取得。同年 究科博士課程修了。一九九三年、東京 日本学術振興会・特別研究員(東大海 士課程修了、東京大学大学院・理学研 大切で、そういう能力を持っている いかという気がしますね。他の国を 業。筑波大学大学院・理工学研究科修 人も評価され、将来登用されるよう 見ていると、学生はもっとギラギラ 九年宇都宮大学非常勤講師を経て、二 国立科学博物館・特別研究生、一九九 カット州立大学・研究員、一九九八年 洋研究所)、一九九五〜九七年コネチ る根本原因じゃないでしょうか。も しています。日本が外国に負けてい な大学教育にするべきじゃないかと いう気がちょっとしています。 土居 教育面においても、研究の面 〇〇一年から現職。 ちろん、大学でサークルを一生懸命 やっている人は、切り替えるべき時 Kyushu University Campus Magazine 20 白さを伝えながら、ドクターコース の学生や大学院学生を導いていらっ 清川昌一講師 左より、清川昌一講師と、聞き手の土居義岳教授(右)。
© Copyright 2024 ExpyDoc