月刊「しろあり」に投稿した防蟻技術論文を掲載しました

研究発表
Presentations at the research Meeting
シロアリ対策ケーブル「ありタフ!」の開発及び検証結果報告
タツタ電線株式会社 勝矢 利明、曽我部 聖司
1.はじめに
今回は, 新防蟻ケーブル「ありタフ!」の実際のケー
住宅や工場等で使用される防蟻性能がない汎用的な
ブルによる防蟻性能の検証結果について報告する。
ケーブルでは写真のようなシロアリの食害が発生して
いる(写真1)
。シロアリがケーブル外被の表面に穴を
2.防蟻性能試験
あけ, 最悪の場合火事や停電など大きな事故につなが
2.1 フィールド試験
る恐れがある。
2014年1月に鹿児島県日置市吹上浜国有林内に設置
された屋外試験地(京都大学生存圏研究所・生活・森
林圏シミュレーションフィールド(LSF))にて, 京都
大学生存圏研究所 吉村剛教授のご協力を得て実際の
ケーブル試料を埋設したものを再度掘り返して食害状
況を確認した(2014.1~2014.11 10ヶ月)。
1)試験試料
ケーブル試料表面の材質は, ナイロン, 新防蟻材料,
ビニルとした。金やすりにより表面傷の有るものと無
いものを用意し30本(N=5)を埋設した。
金やすりによるケーブル表面の傷は, ケーブル延線
写真1 汎用的なケーブルの被害状況
写真は社団法人日本しろあり対策協会 シロアリ(被害・生態・探知)より抜粋
時, ケーブル外被に地面, 管路等で擦れ傷がつく場合
があり, 傷による食害の影響を確認するためである。
ケーブルのシロアリ対策は, シロアリの強い顎の力
また両端末は端末からのシロアリの侵入を防ぐため
に対抗するため, ケーブル外被に硬いナイロン12(以
金属キャップで覆っている。
下ナイロンという)を被覆したものが一般的である。
2)評価方法
しかし, ナイロンは非常に高価であり, ケーブルを
ケーブル試料は, シロアリの営巣付近を選んで埋設
製造する際, 材料を乾燥する必要があるなど手間がか
し, シロアリを誘引するため餌木と交互に設置した。
かる上, 布設時に硬く曲げづらいといった作業面の問
埋設したケーブルを掘り返しシロアリの食害状況を
題があり, 残念ながら一般的なユーザーへの納入実績
確認した(写真2)。
が少ないのが現状である。
この問題を解決するため, ①ナイロンと同等以上の
防蟻性能を有し, ②ナイロンほど材料価格は高くなく,
製造作業性を改善し, ③ナイロンより低摩擦性を有し
た新防蟻材料を開発した。特に低摩擦性はナイロンよ
り約40%程度小さく, 防蟻性能を高める1)だけでなく,
ケーブル布設時の延線張力が軽減し作業性を大きく向
上している。
材料のシート試験による防蟻性能の検証結果は「し
ろあり」2014年7月号 No.162に報文「シロアリ対策
ケーブル(ありタフ)」にて報告した。
写真2 10ヶ月後(餌木は酷い食害有り)
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3)確認結果
新防蟻材料, ビニルは表面傷の有無に関わらず食害
ケーブル表面の土, 汚れを取り除き, 食害状況を確
は確認されなかったが, ナイロンは, 表面傷の有るも
認した。結果を写真3~5, 表1に示す。
のが5本中3本に食害が確認された。
ナイロンであっても食害被害に晒される可能性があ
ることがわかった。
食害状況を確認後, 元の場所に戻し, 試料上部の餌
木は新しい餌木と変更し, 試料下部の餌木はシロアリ
の退避を防ぐためそのままとした(写真6~7)。
最後に元のとおりに土を被せた。
写真3 ナイロンの食害写真(その1)
写真6 作業状況(確認後、元に戻す)
写真4 ナイロンの食害写真(その2)
写真7 埋め戻し前(餌木を取り替える)
2.2 屋内試験
屋外試験と同様, 京都大学生存圏研究所 吉村剛教
授のご協力を得て, 京都大学生存圏研究所内のイエシ
ロアリ室内人工飼育コロニーにて行った(2014.5~
2014.9 4ヶ月)。
1)試験試料
写真5 ナイロンの食害写真(その3)
ケーブルは一般ユーザー(官公庁等)によく使用され
ているEM(エコ)ケーブル(燃焼・廃棄時に有害物質
表1 確認結果(10ヶ月後)
表面傷
新防蟻材料 ナイロン12
ビニル
の発生がない環境にやさしいケーブル)とし, 試料表面
無
0/5
0/5
0/5
の材質は, 新防蟻材料, ポリエチレン(現行品)とした。
有
0/5
3/5
0/5
ケーブルの試験体の大きさは外径10mmφ, 長さ
250mmとし, フィールド試験と同様, 金やすりで表面
に模擬傷をつけた「表面傷有り」のものと「表面傷無し」
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のものを用意した。
2)試験方法
試験は前述の室内人工飼育コロニーにてケーブル試
験体を餌木と交互に設置した後, カバーで全体を覆い
暴露することにより行った。
用いた試験体の個数は各試験材につき10本, 計20本
とした。
その後, 4ヶ月後に取り出し水洗い後に, 試験体の
シロアリの食害を目視で確認後, 食害痕についてデジ
タルマイクロスコープを用いてその直径を計測した。
(写真8~12)
写真11 4ヶ月終了後(取り出し)
写真12 水洗い後
写真8 試験前(新防蟻材料)
大きさ別に4段階(A:2㎜未満, B:2〜4㎜未満,
C:4〜6㎜未満, D:6㎜以上)に分類し, 1個の食
害痕について1点~4点の点数を割り振り, 合計の食
害ポイントで比較した。試験結果を表2, 3に示す。
表2 試験結果(食害痕の個数(変色含む)
)
表面傷
写真9 試験前(餌木と交互に設置)
新防蟻材料
ポリエチレン
A
B
C
D
無
0
0
0
0
有
1
1
0
0
A
B
C
D
6
5
0
0
33
22
1
1
表3 試験結果(食害ポイント)
表面傷
新防蟻材料
ポリエチレン
無
0
16
有
3
84
ポリエチレン(現行品)で表面傷が有る場合は, 写真
のように外被を貫通する酷い食害や, 凹み傷が確認さ
れた(写真13~14)。しかし, 新防蟻材料は表面傷が無
い場合は全く食害を受けず, 表面傷が有る場合でも軽
写真10 設置完了(試料全体にカバーを設置)
微な食害痕が確認されるのみであった(写真15)。
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3.まとめ
今回, 実際のケーブルを 2.1 フィールド試験および
2.2 屋内試験により実証試験を行った。その結果, 新防
蟻ケーブル「ありタフ!」は, ケーブル布設時に外被に
傷が付いたとしても十分な防蟻効果があることが確認
された。
鹿児島のフィールド試験については, 長期的に毎年
確認し経過観察を行っていく予定である。
また他の試験地においてもケーブルの検証試験を行
う予定である。
写真13 ポリエチレンの食害(貫通)
謝辞
最後にご指導, ご協力を頂いた京都大学 吉村剛教授
に感謝の意を表します。
引用文献
1)岡久陽子・吉村剛・今村祐嗣・藤原裕子・藤井義久
(2005):シロアリによるモウソウチクへの食害と表
面性状との関係, 環動昆, 16, 85–89
写真14 ポリエチレンの食害(凹み)
写真15 新防蟻材料の食害(変色)
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