大阪市立科学館研究報告 25, 145 - 148 (2015) 日本天文学会公開講演会/大阪市立科学館スペシャルナイト 「プラネタリウムと天文学の夕べ」開催報告 江 越 航 * 概 要 2015 年 3 月 21 日 、当 館 では日 本 天 文学 会と共催 で「プラネタリウムと天文 学の夕 べ」という行事を開 催 した。これは、科 学 館 のプラネタリウム投 影 を交 えた天 文 講 演 会 で、プラネタリウムによる星 空 と 講 演 を 有 機 的 に統 合 して、実 際 の星 空 と関 連 づけながら来 館 者 に見 ていただくことで、より身 近 に天 文 学 を理 解 していただくことを目 的 にしたものである。本 稿 ではこのイベントの内 容 、および来 館 者 へのアンケート 結 果 について報 告 する。 1.はじめに 当館では、2015 年 3 月 21 日(土)の夕 方 、日 本 天 文 学 会 公 開 講 演 会 /大 阪 市 立 科 学 館 スペシャルナイト 「プラネタリウムと天 文 学 の夕 べ」と題 した、プラネタリウ ムと融合した講演 会を実 施 した。 日本天文 学会 は、天 文 学 の進 歩 及 び普 及 を目的と して活 動 している 学 会 であ る。この 活 動 の 中 で、一 般 市 民 に対 しての天 文 学 の普 及 を目 的 に行 われている ものの一 つが、毎 回 の年 会 において併 催 されている 「公開講演会」である。 2015 年春季年 会は大 阪 大 学にて開 催 された。この 関 係 で、今 回 の公 開 講 演 会 を科 学 館 のプラネタリウム にて開催する話をいただき、実 施の運 びとなった。 プラネタリウムで講 演 会 を開 催 することから、通 常 の テレビ画 面 的 な四 角 い映 像 だけでなく、プラネタリウム の星 空 投 影 と 融 合 した 講 演 会 を 企 画 した 。 第 一 線 で 活 躍する研 究者による講 演 を、プラネタリウムと有 機 的 に統 合 して実 施 することにより、幅 広 い層 の方 に天 文 学の普及を印象的に行うことを目 指した。 本 稿 ではスペシャルナイトの概 要 、および実 施 にあ 写 真1 講 演 会のポスター 2.スペシャルナイトの概要 今 回のスペシャルナイトは3名の研 究 者 の方に講 演 いただくと共に、その前 後 にプラネタリウムの星 空 解 説 、 たっての準 備 、来 館 者 へのアンケート結 果 について報 関 連 動 画 の上 映 という形 で行 った。具 体 的 なスケジュ 告する。 ールは表1の通りである。 最初に、プラネタリウムによる星空解説からスタートし た。今 夜 の星 空 紹 介 であるが、最 初 の 講 演 は星 形 成 の話 であることから、星 の生 まれる場 所 であるオリオン * 大 阪 市 立 科 学 館 学 芸 グループ e-mail:[email protected] 大 星 雲 やすばるの話 を 行 った。また、オリオン大 星 雲 にズームインし、星 形 成 の現 場 を全 天 周 で紹 介 した。 江越 航 このコンテンツは 2007 年 冬 番 組「星の誕 生 物 語」で作 成したものを利用 した。 講 演 1は大 阪 大 学 理 学 研 究 科 ・深 川 美 里 助 教 によ るものである。「最 新 観 測 装 置 で迫 る、系 外 惑 星 の 誕 生 」というタイトルで、原 始 惑 星 系 円 盤 の解 説 、すばる 望遠鏡や ALMA により見え始 めた惑 星 形 成 の現場の 話を行った。 引 き続 き講 演 2は大 阪 大 学 理 学 研 究 科 ・寺 田 健 太 郎 教 授 が行った。「隕 石 から探 る太 陽 系 の歴 史」という タイトルで、太陽系 形 成 の歴 史 、隕 石 の同 位 体 分析に よる太陽系年代測 定 の話 であった。 写 真2 講 演 会の様 子(プラネタリウム) この講 演 をまとめる形 で、ふたたび全 天 周 映 像 によ り、太陽 系 形成の様 子 を紹 介 した。これは 2012 年 冬 番組「木星」のコンテンツを利 用 した。 質 疑 応 答 、休 憩 を挟 んで後 半 の講 演 の前 に、再 び 3.募集告 知 広 報 については、大 阪 大 学 と科 学 館 との共 同 で行 った。 プラネタリウムを投 影 した。これは、今 夜 の星 空 の中 と ポスター、ちらしの配布 は、大阪 大学 21 世 紀 懐 徳 重ねて、ブラックホールの位 置 を紹 介 するもので、今 の 堂のサポートにより、報道関係 50 ヶ所、市役所広報、 星 空 の中 に本 当 にブラックホールがあるということを知 図書館、公民館等公共施設 130 ヶ所、大学関係 20 ヶ ってもらうために行 った。また、ブラックホールの中に飛 所 等 、合わせてポスター115 部、ちらしは 1600 部を配 び込 んでいく動 画 を 投 影 し、観 客 の興 味 を高 めた 。こ 布いただいた。 こでは 2012 年夏 番 組「ブラックホール」のコンテンツを 利用した。 また、大阪大学 理学 部より大阪、京 都、兵 庫の高校 225 校に、各校ともポスター1枚、ちらし 10~20 部を送 最 後 の講 演 3は愛 媛 大 学 宇 宙 進 化 研 究 センター 長 ・谷 口 義 明 教 授 が「宇 宙 はなぜブラックホールを造 ったのか?」というタイトルで 行 った。ブラックホールの 紹 介と、宇 宙の歴 史 の中 でブラックホールがどのように 進 化していくのか、宇 宙 の非 常 に長 い時 間 スケールで の視 点 で解説をされた。 付いただいた。 科 学 館 からは、友 の 会 会 員 に毎 月 送 付 している月 刊「うちゅう」に同封してちらしを送付した。 また、ホームページでの案 内 も、科 学 館 、大 阪 大 学 理 学 部 、大 阪 大 学 21 世 紀 懐 徳 堂 で告知した。 受 付 は、主 に科 学 館 のホームページ経 由 で 行 った。 また、インターネットが使 用 できない方 に配 慮 して、大 表 1 スペシャルナイトスケジュール 時刻 内容 阪 大 学 理 学 部 宛 ての往 復 はがきでも受 け付 けることと した。 ホームページでの受 付 は、科 学 館 のスペシャルナイ 18:00 開演 天文学会理事長挨拶 18:05 プラネタリウム・今 夜の星 空 解 説 トにおいて使用している、PostgreSQL を利用した申込 18:20 講 演1「最 新 観 測 装 置 で迫 る、系 外 惑 星の誕 フォームを流用した。 生」 18:50 以上の通り事前に告知・準備 しておいて、2 月 10 日 深川美里(大 阪 大 学 理 学 研 究 科・助 教) (火)午 前 10 時に受付開始したが、14 時間後には応 募 講演2「隕 石から探る太 陽 系 の歴 史」 が 300 名を超えたため、早々に募集を締め切ることとな 寺田健太 郎(大 阪 大 学 理 学 研 究 科・教授) った。 受付の際 の返信には、追 加 募集を考慮して、キャン 19:20 プラネタリウム・惑 星 誕 生 解 説 19:25 質疑応答 セルする場 合 事 前 に連 絡 いただけるように記 載 した。 19:30 休憩 しかし、追 加募 集 を判 断する実 施 2週 間 前までに連 絡 19:40 プラネタリウム・ブラックホール解 説 いただけたのは 10 名程度にとどまったため、追加募集 19:45 講 演 3「宇 宙 はなぜブラックホールを造 ったのか?」 は実施しなかった。 谷 口 義 明 (愛 媛 大 学 宇 宙 進 化 研 究 センター 長・教授) 20:25 質疑応答 20:30 終了 4.機器の設 定 今回は講 演会ということで、講師がステージから PC のスライドを 操 作 する 必 要 がある。 このス ライドの 投 影 は、コンソール横にある別 設 プロジェクターに RGB 信 日本天文学会公開講演会/大阪市立科学館スペシャルナイト「プラネタリウムと天文学の夕べ」開催報告 号を入力する必要がある。そのため、2/7 に実 施したス も、理 解 できた・ どちらかと いうと 理 解 できた 、と いう 回 ペシャルナイト「はやぶさ2における理 学 と工 学 」の際と 答 が8割以 上を占め、分からなかったという方は少なか 同 様 、「VGA ディスプレイエクステンダー」を使 用した。 った。これは実 際、講師の方 のスライドや話し方も非 常 これは VGA ケーブルを、LAN ケーブルを使 用して延 によく練 られたものであり、他 所 でも何 度 も講 演 されて 長するものである。LAN ケーブルは講 演 会 の間のみ、 経 験も多 く、聴 衆 を十 分 意 識 して講 演 してもらえたこと バーチャリウムの VP4 プロジェクターのケーブルを流 用 によると考えられる。 した。これにより、講 師がステージに立ち、手 元の PC を 操作しながら講演を行うことが可 能になる。 表5 プラネタリウムへの興味について 選択肢 5.出席状 況および来 館 者 のアンケート結 果 今回の参加者数を表 2に示 す。 表2 参 加 者 数 非常に興味を持てた 78 名 どちらかというと持てた 22 名 あまり持てなかった 2名 全く持てなかった 0名 未回答 3名 申込み方 法 申 込み者 Web 申込み 292 名 232 名 往復はがき 13 名 13 名 表 5はプラネタリウムへの興 味 に対する回 答 である。 16 名 表 3の講 演 会 への興 味 と同 じ傾 向 であり、プラネタリウ 261 名 ムと講 演 会という組み合 わせに期 待されていたことがう 関係者 - 計 305 名 参加者 人数 かがえる。 3 月 21 日の行 事 に対し、実 質 的には 2 月 10 日の1 表6~10 は、参加者自身に関する質問である。 日のみの受 付ということになった。1ヶ月 以 上 先 の行 事 の受付であったが、約 80%の方が出 席された。 表6 性 別 なお今 回 受 付 の 際 に 、キャンセル する 場 合 は 事 前 性別 人数 に連 絡 いただけるように記 載 したが、当 日 を含 め実 際 男 40 名 に連絡いただいたのは、欠 席 60 名のうち、25 名であっ 女 46 名 た。 未回答 19 名 次に、当日出席 者 を対 象 に行ったアンケートの結果 を表3~10 に示す(105 名 回 収)。 表7 年 齢 層 年齢層 表3 講 演 会への興 味 について 選択肢 人数 人数 14 歳 以 下 5名 15~24 歳 21 名 非常に興 味を持 てた 74 名 25~34 歳 3名 どちらかというと持 てた 26 名 35~44 歳 7名 あまり持てなかった 3名 45~54 歳 24 名 全く持 てなかった 0名 55~64 歳 20 名 未回答 2名 65 歳 以 上 22 名 未回答 3名 表4 講演 会の内 容の理 解 について 選択肢 人数 表 6、7は参 加 者 の性 別 と年 齢 層 である。男 女 半 々 非常に理 解 できた 35 名 程 度 か、やや女 性 が多 かった。年 齢 は、45 歳 以 上 の どちらかというとできた 53 名 方 が 6 割 以 上 を 占 めるが、高 校 生 の 参 加 者 も 比 較 的 あまりできなかった 15 名 多 かった 。大 阪 大 学 より 、各 高 校 に ちらしを 送 付 いた 全くできなかった 0名 未回答 2名 だいた効果が現れているといえる。 なお、性 別 で未 回 答 の方 が 多 いのは、選 択 欄 を見 落としてしまったケースが多かったためと思われる。 講 演 会 の 内 容 に 関 しては 、 ほと ん ど の 方 が 非 常 に 興 味 を持 てたということが分 かる。また、内 容 について 江越 航 表8 居 住 地 居住地 人数 ブログ・Twitter 4名 友人・知人から 17 名 大阪市内 28 名 その他 10 名 大阪府下 37 名 未回答 3名 兵庫県 9名 京都府 5名 表 10 はどのようにして今回の行事を知ったかという 奈良県 15 名 問 に対 する結 果 である。ホームページもある程 度 効 果 滋賀県 4名 があるが、ちらしで情 報 を得 たという方 が 多 い。ブログ その他 4名 等 を合 わせても、電 子 媒 体 から情 報 を得 た方 は、3割 未回答 3名 程 度 であった。口 コミや、学 校 で話 を聞 いて情 報 を得 たという方も多かった。 表8は参 加 者の居 住 地 である。通 常 の行 事 だと、大 特に今回、各高 校宛てに直 接 ちらしを送付し、科 学 阪 市 内 がかなりの割 合 を占 めるが、今 回 は市 内 よりも 館 でも友 の会 会 員 へ月 刊 「うちゅう」に同 封 して送 付 し 大 阪 府 下 の 割 合 が比 較 的 多 かった。これは、大 阪 大 た。これがかなり効果的であったといえる。 学 関 係 から情 報 を得 た方 が多 かったことも 影 響 してい 6.おわりに ると思われる。 また 、奈 良 県 の 人 数 が や や 多 いが 、こ れは 高 校 生 今回のスペシャルナイトは、プラネタリウムと融合した 専門の研 究者の方による天文講 演会という、いわば正 が団体で参加していたことによる。 統な内容 のものであった。 また研 究 者 の方 からも、プラネタリウム投 影を交 えた 表9 科 学 館に来た回 数 回数 講演会は、いろいろな可 能 性がありそうだと感想をいた 人数 だいた。 初 めて 12 名 2 回目 13 名 大 阪 大 学の協 力により、事 前 告 知を十 分 行ったこと 3 回目 以 上 77 名 もあるが、非 常 に多 くの市 民 の方 に関 心 を持 っていた 未回答 だいた。特 に客 層 としても普 段 少 ない高 校 生 ・大 学 生 3名 の 方 に 多 く 参 加 いただ けた のは、 今 後 の 天 文 学 の 発 表9は、今まで科 学 館 に来 たことのある回 数 である。 7割 以 上の方が3回 以 上 来 たことがあるという回 答だっ た。講 演 会 は、科 学 館 のリピーターの参 加 者 が多 かっ 展 を 担 う 方 の 関 心 と いう 意 味 でも 、 心 強 いも の で あ っ た。 たとえ難 しくても、最 先 端 の 天 文 学 を知 りたいという 一 定 のニーズはあると考 えられることから、今 後 も定 期 たといえる。 的にこうした事業を実施していきたいと考えている。 表 10 どうやって知ったか 方法 科学館ホームページ 大阪大学ホームページ ちらし・ポスター 新聞 人数 20 名 7名 37 名 7名 謝辞 今 回 のスペシャルナイトを提 案 、企 画 、協 力 いただ いた日 本 天 文 学 会 、大阪大 学 、愛媛大学の関係各位、 および各大学の学生の皆さんに謝意を表します。
© Copyright 2025 ExpyDoc