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第1章 社会保険のしくみ
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社会保険というけれど
保険はどうして成り立つ
美味しいものを食べたり、旅行やレジャーを楽しむことができるのも、 康
で毎日働くことができるからでしょう。
しかし、望んではいないことですが、思わぬ病気やケガをしたり、また不幸
にして亡くなることもあります。
病気やケガのため働けなくなると、治療費にたくさんお金がかかったり、働
けないために収入が得られなくなったりします。また不幸にして亡くなるとい
うことにでもなれば、残された家族の生活はその日からたちゆかなくなってし
まいます。
ですから、私たちは 康に人一倍気を っています。それでも思わぬ病気や
ケガをしてしまうものです。いつなんどき襲ってくるのかわからないのが“災
難”なのです。
そこで、いつ災難が襲ってきてもできるだけ生活が困らないように、みんな
でお金を出し合って貯めておき、そのお金で災難に襲われた人を助けようとい
うのが「保険」という制度なのです。
(1)
的保険と私的保険
「保険」と名の付くものには、
康保険や厚生年金保険、雇用保険や労災保
険の他、火災保険や自動車保険、生命保険などがあります。介護費用保険や個
人年金保険などのパンフレットも見かけます。
このうち 康保険や厚生年金保険、雇用保険、労災保険は国( 康保険と厚
生年金保険は 法人)が運営しています。火災保険、自動車保険、生命保険な
どは損害保険会社や生命保険会社といった民間の会社が運営しています。
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国が運営している保険を「
社会保険というけれど
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的保険」
、損害保険会社や生命保険会社の民間
企業が運営している保険を「私的保険」とに けることができます。
的保険
国( 法人)が運営
・ 康保険
・厚生年金保険
保険
・雇用保険
・労災保険
私的保険
など
民間の会社が運営
・火災保険
・自動車保険
・生命保険
・個人年金保険 など
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第1章 社会保険のしくみ
的保険は強制加入
災難に出会ったときに助けてくれるのが保険です。
(1) 保険加入が自由な私的保険
私的保険である損害保険や生命保険は、保険に入りたいと思う人が自由に入
る「任意加入」となっています。そして、たくさんの保険料を納めておけば、
災難に出会ったとき多くの金額を受けとれることになっています。
しかし、その保険に加入していなかったとしたら、いくら災難に出会っても
助けてくれることはありません。万が一のためにとわかっていても、保険料が
高かったりすると保険に入りたいと思っていても入れない場合があります。
生活に余裕のある人は保険に入ることができ、万が一の災難に出会っても保
険から助けてもらえます。
一方、生活に余裕がないから保険に入ることもできず、災難に出会っても保
険から何の救済の手も差し伸べられない、こうしたアンバランスを国としても
放っておくことはできません。
そこで、民間の私的保険だけに任せず、国( 法人を含む。以下同)が運営
する社会保険制度としての 的保険が必要となるわけです。
(2) 強制的に加入しなければならない
的保険
国が運営する以上は、災難に出会った場合にはできるだけ多くの人を助けら
れるようにしなければなりません。そこで、 的保険は一定の条件に該当すれ
ば、意思を問わず必ず入らなければならないという「強制加入」を原則として
います。
そして、強制加入であれば保険加入者が多くなって、出し合った保険料もた
くさん貯めておくことができます。災難に出会った人を助けるためのお金がた
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社会保険というけれど
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くさんあればあるほど、手厚い救済の手を差し伸べることができるようになり
ます。また、少ない人数でたくさんのお金を出し合うより、少しづつでも多く
の人が出し合うほうが、一人ひとりの負担も少なくて済みます。
この、国が運営する
的保険を「社会保険」といいます。
私的保険=任意加入←
→
的保険=強制加入
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第1章 社会保険のしくみ
12種類もある社会保険
サラリーマンや OL など会社に勤めている人が加入している社会保険は、
康保険と厚生年金保険(国民年金を含みます。
)
、雇用保険、労災保険、それに
日本の社会保険>
一
般
の
サ
ラ
リ
ー や
マ O
ン L
①
康 保 険
(日雇特例被保険者)
② 厚生年金保険
③ 雇 用 保 険
(日雇労働被保険者)
日
雇
労
働 な
者 ど
④ 労災保険(労働者災害
補償保険 )
⑤ 介 護 保 険
員
な
ど
⑥ 国 民 年 金
⑦
員 保 険
⑧ 国家 務員等共済
教
務 職
員 員
な
ど
⑨ 地方 務員等共済
私立学 教職員共済
国民 康保険
後期高齢者医療制度
自
営
業
者
主
婦
な
ど
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社会保険というけれど
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介護保険の五つです。しかし、社会保険はそれだけでなく、国民 康保険や国
民年金、 員保険や各種共済など全部で 12種類もあります。
平成 27年 10月に共済組合の年金部 が厚生年金保険に統合されることになって
います。
(1) 職域保険としての社会保険
そして、この 12種類の社会保険のどれに加入するかは、本人が自由に選ん
で入るというわけではありません。その人がどういう仕事に就くかによって自
動的に決まるシステムとなっています。
会社勤めのサラリーマンや OL なら 康保険に厚生年金保険それと雇用保険
に労災保険、
務員なら共済組合、自営業者であれば国民
金、
員保険、主婦ならば国民年金などというように決まってきま
員なら
康保険や国民年
す。
このようにして国民の一人ひとりが、いずれかの保険に加入することになり
ます。
「国民皆保険」といわれるのはこのためです。
このように、わが国の社会保険は、その人の就いている仕事によって加入す
る保険が決まってくることから、「職域保険」という性格を持っています。
ただ、職域保険としてのひずみが、世の中の移り変わりの中で現れてきたた
め、昭和 61年に年金制度の改革が行われています。
基礎年金制度(国民年金)の導入によって、会社勤めの人も 務員も、また
員なども国民年金に加入することになりました。すなわち、国民年金が職域
にとらわれない、すべての国民に共通となるように改められているのです。
(2) 被用者保険としての社会保険
また、原則として、社会保険は雇用されている人が加入する「被用者保険」
としての性格も持っています。
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第1章 社会保険のしくみ
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会社員の加入する社会保険
五つの社会保険と管轄
会社の社会保険事務を担当する人は、12種類ある社会保険を全部勉強しな
ければならないとなると、それは大変なことです。でも安心して下さい。サラ
リーマンや OL が加入しているのは、 康保険と厚生年金保険、雇用保険と労
災保険、それに介護保険の五つです。この五つの保険について勉強すればよい
でしょう。
(1) 国の機関と実際の窓口
一般に、 康保険と厚生年金保険のことを社会保険と呼んだりしています。
これは、
康保険と厚生年金保険の窓口が、社会保険事務所となっていたため
でしょうか。 康保険と厚生年金保険は、どちらも厚生労働省のなかにある社
会保険庁が国の機関として運営をしてきました。
そして、各都道府県に地方社会保険事務局が設けられ、実際の窓口が社会保
険事務所となっていました。正確にいうと、
“狭義の社会保険”となるでしょ
う。
しかし、 康保険は、平成 20年 10月に社会保険庁から切り離され、全国
康保険協会という 法人の運営となりました(政管 保から協会けんぽへと変
わりました。
)
。全国
康保険協会の窓口(下部組織)として、各都道府県に支
部が設けられています。ただし、保険給付や被保険者証等に関する以外の資格
取得や喪失などの窓口は、従来通り年金事務所(旧社会保険事務所)となって
います。また、厚生年金保険の運営も、 康保険と同様に社会保険庁から切り
離され、平成 22年1月に日本年金機構に移管されました。日本年金機構の下
部組織として、地方ブロック本部が設けられ、さらに窓口機関として、全国
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会社員の加入する社会保険
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312カ所に年金事務所(旧社会保険事務所)が置かれています。これによっ
て、社会保険庁は完全に解体されることになりました。ただし、年金制度の財
政や運営責任は、厚生労働本省が行うことになっています。
一方、雇用保険と労災保険は、国の機関が厚生労働省となっています。保険
加入や保険料の徴収・納付を一本化していますから、雇用保険と労災保険を
称して労働保険と呼ぶこともあります。そして、厚生労働省の地方機関とし
て、各都道府県に労働局が設置されています。
このうち雇用保険の窓口が
共職業安定所(ハローワークと呼んでいま
す。
)
、労災保険が労働基準監督署となっているのです。
介護保険は、各市区町村が責任をもって運営します。サラリーマンや OL の
介護保険料は、 康保険料と一緒に集めて各市区町村に納めることになってい
ます。
社会保険の担当者は、ただ届出などの書類が書ければよいというのではな
く、様々なことを“判断”しなければなりません。そのためには、こうした管
轄のしくみなどを知っておくことが大切となってきます。
五つの保険は、こういうときにはこの保険がカバーすると、ちゃんと守備範
囲が決まっているのです。安心して働けるように、この五つの保険が私たちを
守ってくれているわけです。しかし、それは私たちが正しい知識と判断の上
で、正しい手続きをしたときです。社会保険が、本当に“保険”となれるかど
うかは、ひとえに社会保険事務を担当するみなさんにかかってくるのです。
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第1章
社会保険のしくみ
全国 康保険
日
協
年 金 機 構
会
地
本
方
ブロック本部
都道府県支部
康保険
年金事務所
厚生年金保険
《社 会 保 険》
厚 生 労 働 省
都 道 府 県
労
働
共職業安定所
局
労働基準監督署
雇用保険
労災保険
《労 働 保 険》
単独 保
市(区)町村
康保険組合
複数 保
介護保険
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会社員の加入する社会保険
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康保険のこと
比較的お世話になっているのが、この保険でしょう。カゼをひいたから病院
で診てもらう。そうした経験のない人は少ないと思います。
(1)
康保険の対象は業務外
康保険は、仕事中(業務上)や通勤途中(通勤途上)以外の理由による病
気やケガ、休業、死亡と出産に対して、保険給付を行うことになっています。
会社に勤めている本人(被保険者)だけでなく、その人の家族(被扶養者)も
保険給付を受けることができます。
ただし、収入のない被扶養者には、休業の場合に給付される傷病手当金や出
産手当金の支給はありません。
康保険は、大正 11年に制定された(施行は昭和2年)
、わが国で最古の保
険制度です。
康保険の主な給付>
被保険者に対して
被扶養者に対して
病気やケガをしたとき
療養の給付
療養の給付
立替え払いをしたとき
療養費の支給
家族療養費の支給
一部負担金が一定額を
超えたとき
病気やケガで会社を休
んだとき
高額療養費の支給
高額療養費の支給
傷病手当金の支給
×
出産育児一時金の支給
家族出産育児一 時 金 の 支
給
出産手当金の支給
×
埋葬料(費)の支給
家族埋葬料の支給
出産をしたとき
死亡したとき
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第1章
社会保険のしくみ
(2) 協会けんぽと組合 保
康保険を管理するのは(保険者といいます。
)全国
被保険者の人数など一定の条件を満たせば
康保険協会ですが、
康保険組合をつくることができま
す。 康保険組合が保険者となるものを組合管掌 康保険(略して組合 保)
と呼び、全国 康保険協会が保険者となるものを協会管掌 康保険(略して協
会けんぽ)と呼んでいます。
康 保 険 へ の 加 入
康保険組合
全国 康保 協会
組合管掌 康保険(組合 保)
単独 保
協会管掌 康保険(協会けんぽ)
合 保
一つの会社やグループ
いくつかの会社が集っ
で 康保険組合を設立
て 康保険組合を設立
(3) 保険料は折半で負担
保険料は、年収をベースに被保険者の標準報酬月額や標準賞与額に保険料率
を乗じた額で、事業主と被保険者が折半で負担することになっています(組合
保については、それぞれの 康保険組合の規約で事業主の負担割合を多くす
ることができます。)
。
協会けんぽの保険料率は、都道府県単位で定められ、現在全国平
の 100です。一方、組合
保の保険料率は、1,000
で 1,000
の 30から 1,000
の
120の範囲内で組合 保の理事会で決定し、厚生労働大臣の認可を得て定める
ことになっています。
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会社員の加入する社会保険
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(4) 政管 保から協会けんぽに変わって
康保険の運営が社会保険庁から全国 康保険協会に変わっても、傷病手当
金など保険給付の内容や保険料納付の手続きは、従来通りで変わることはあり
ません。
全国
康保険協会は、
康保険の保険給付に関すること、被保険者証の発
行、任意継続の手続き、レセプトの点検などの業務を行います。したがって、
傷病手当金など保険給付の請求は全国 康保険協会へ行います。全国 康保険
協会の窓口機関としては、各都道府県に1カ所の支部が設けられているだけで
すから、保険給付の請求はこの支部へ郵送で行うことになります。
なお、 康保険被保険者の資格取得届や喪失届などの手続きは、厚生年金保
険と併せて年金事務所へ行います。保険料も厚生年金保険料等と一緒に、年金
事務所へ納めます。
康保険の運営が社会保険庁から全国 康保険協会に変わって大きく変わっ
たのは、保険料率が都道府県単位になったことです。都道府県の医療費によっ
て、保険料率が異なっています。
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第1章
社会保険のしくみ
介護保険のこと
高齢化社会に対応するために介護保険があります。高齢となり介護が必要な
状態になったとき、様々な給付が受けられることになっています。介護保険の
運営を行う「保険者」は市町村(特別区を含みます。
)で、国や都道府県は、
介護保険が円滑に運営されるよう、指導及び援助をします。
被保険者は、原則として 40歳以上の人で、第1号被保険者と第2号被保険
者に区
されます。第1号被保険者は 65歳以上の人がなり、40歳以上 65歳
未満で医療保険に加入している人が第2号被保険者となります。ただし、国内
に住所を有しない人、在留資格が1年未満の人、および身体障害者療養施設等
に入所している人は、介護保険の適用が除外されています。
第1号被保険者……65歳以上の人
第2号被保険者……40歳以上 65歳未満で医療保険に加入している人
第1号被保険者の保険料は、市区町村により所得に応じ定額で定められま
す。保険料は、年金額が 18万円以上の場合には年金から天引きされ、それ以
外は市区町村に直接納めます。第2号被保険者の保険料は、加入している医療
保険(サラリーマンや OL は
康保険)の保険料と併せて納めることになりま
す。
介護給付を受けられる人は、原則として 65歳以上で介護認定を受けた人で
す。ただし、65歳未満の人も、加齢にともなって生じる特定疾患により、介
護が必要となった場合には給付を受けることができます。
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会社員の加入する社会保険
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厚生年金保険のこと
今、もっとも注目の的となっている社会保険が、この厚生年金保険でしょ
う。世界で類を見ない超高齢社会に突入していくなか、老後の生活を支える年
金制度の柱がこの厚生年金保険です。
高齢化社会に対応していくために、様々な改定が行われていることは、みな
さんご存知の通りです。
(1) 老齢・障害・死亡に対する給付
厚生年金保険は、老齢だけでなく、被保険者や過去において被保険者であっ
た人が、障害や死亡という“災害”に遭遇したときに、年金や一時金の保険給
付を行って、被保険者や遺族の生活を救済しようとするものです。
厚生年金保険の主な給付>
60歳∼64歳のとき
老齢になったとき
障害が残ったとき
特別支給の老齢厚生年金
(部 年金のあと、姿を消します)
65歳以上のとき
老齢基礎年金+老齢厚生年金
障害1・2級のとき
障害基礎年金+障害厚生年金
障害3級のとき
障害厚生年金
比較的軽い障害のとき 障害手当金
子のある夫や妻または
死亡したとき
子が受けるとき
それ以外の人が受ける
とき
遺族基礎年金+遺族厚生年金
遺族厚生年金
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第1章
社会保険のしくみ
厚生年金保険は、昭和 17年に「労働者年金保険」として産声を上げ、その
後、何回かの法律改定をかさねて名称も厚生年金保険と改められています。
(2) 二階 ての年金
昭和 61年に大改革が行われ、
「基礎年金」制度が導入されました。それによ
って厚生年金保険の被保険者も同時に国民年金の被保険者となり、国民年金か
らの基礎年金に上乗せされる形で、厚生年金保険から老齢厚生年金、障害厚生
年金、遺族厚生年金が支給されるようになりました。いわゆる“二階
て年
金”のスタートです。
(3) 年金の運営は日本年金機構に
厚生年金保険の運営も社会保険庁から切り離され、民間の 法人である日本
年金機構が行うことになりました。これにより、窓口機関も社会保険事務所か
ら年金事務所となっています。ただし、財政や運営責任は厚生労働省が負うこ
とになっています。
(4) 引き上げられる保険料率
保険料は、 康保険と同じく年収をベースに標準報酬月額や標準賞与額に保
険料率を乗じて得た額を、事業主と被保険者が折半して負担します。
保険料率は、平成 27年4月現在 1,000
の 174.74(坑内員および
員は
1,000 の 176.88)となっています。そして、毎年9月に 1,000 の 3.54ず
つ引き上げられ、平成 29年9月に 1,000 の 183となります。