多義語としての形容詞「深い」の意味分析

第 155 回現代日本語学研究会(2015 年 10 月 31 日)
多義語としての形容詞「深い」の意味分析
栗木久美(名古屋大学大学院生)
発表要旨
本発表は、形容詞「深い」を多義語とみなし、その複数の意味、及び複数の意味の相互関
係を明示することを目的とする。
形容詞「深い」は、
「深浅を表す最も基本的な形容詞の一つ」
(飛田・浅田 1991:486)で
ある。しかし以下の例で示すように、深浅を表す空間的な用法(
(1)、
(2)
)にも複数の意味
があると思われ、また非空間的な用法(
(3)~(5)
)も複数見られる。
(1)メガマウスの捕獲は記録が残っているもので世界で58例目、日本では17例目で県
内では7例目。
昼間は水深100~200メートルの深い海にいることが多いが、夜はエサを求め
て水深10~20メートルまで浮上するという。
(『朝日新聞』2014 年 04 月 21 日朝刊 聞蔵Ⅱビジュアル)
(2)若宮神社前で、参拝の作法を習った。腰が直角に曲がるほど深いお辞儀を2回、
「パン、
パン」と2回手を合わせてさらにもう1回お辞儀。
(
『朝日新聞』2010 年 12 月 03 日朝刊 聞蔵Ⅱビジュアル)
(3)最愛の方を亡くされた深い悲しみ。
そのことはけっしてすぐにぬぐいされるものではありません。
(
「カウンセリングの導入/株式会社エチュード」
NLT)
(4)湖上に浮かべた20基の「アクアツリー」の光は湖面に映り込み、夜が深くなるとい
っそう輝きを増す。
(『朝日新聞』2013 年 12 月 02 日朝刊
聞蔵Ⅱビジュアル)
(5)中でも、冨田さんが「定食屋を開くなら、看板メニューにしたい」という一押しメニ
ューが、豚の生姜焼き。様々な隠し味をたれに加えることで、肉を柔らかくジューシー
に保ち、深い味わいを出すことに成功しています。
(『週刊アエラ』2015 年 03 月 02 日
聞蔵Ⅱビジュアル)
本発表では「深い」を空間的用法と非空間的用法に分け、それぞれにおいて複数の意味の
分析を行い、さらに複数の意味間の相互関係を示す。
主要参考文献
国広哲弥(1982)
『意味論の方法』
、大修館書店
小出慶一(2000)
「次元形容詞の空間的用法と非空間的用法」、
『群馬県立女子大学紀要』21、
pp.1-13
国立国語研究所(1972)
『形容詞の意味・用法の記述的研究』、秀英出版
飛田良文・浅田秀子『現代形容詞用法辞典』1991、東京堂出版
深田智・仲本康一郎(2008)
『概念化と意味の世界』
、研究社
松村明(1995)
『大辞林』第二版、三省堂
籾山洋介(1994)
「形容詞「カタイ」の多義構造」
、
『名古屋大学日本語・日本文化論集』2、
pp.65-90
籾山洋介(1995)
「多義語のプロトタイプ的意味の認定の方法と実際 ―意味転用の一方向
性:空間から時間へ―」
、
『東京大学言語学論集』14、pp.621-639
籾山洋介(2001)
「多義語の複数の意味を統括するモデルと比喩」、山梨正明他(編)
『認知
言語学論考』No.1、ひつじ書房
籾山洋介(2010)
『認知言語学入門』
、研究社
籾山洋介(2014)
「多義語分析の課題と方法」
、NINJAL, Typology Festa3 ハンドアウト
籾山洋介・深田智(2003)「第三章
意味の拡張」
、松本曜(編)『認知意味論』、大修館書店