科学モデルの評価 科学哲学・科学思想史講義 2015/6/19 Giere のプログラム 1. 対象の特定 2. モデルの構築・同定 3. モデルからの予測 4. データの取得 5. 評価 • 一致?→ モデルは対象に適合しない(2へ) • 不一致?→ モデルは対象に適合する(≠ 真) Giereのプログラム ① 現実世界 ② モデル ⑥ 適合/不適合 ④ データ ③ 予測 ⑤ 一致/不一致 例1. DNA構造の特定 • 1951年当時分かっていたこと:DNA分子は1本以上 のヌクレオチド鎖からなる 問題:どのような立体 構造なのか? データ • X線解析写真 Rosalind Franklin (1920-58) 3重螺旋モデル (1951年) • 塩基が外側を向いている 鈴木理『分子生物学の誕生(上)』秀潤社より 予測 • それぞれの鎖は金属イオンで架橋される • 水の中ではバラバラになってしまう! • 水に満ちた細胞中ではこんな構造は不可能(by Franklin) • → 3重螺旋モデルは不適合 3鎖モデル DNA分子構造 対象 不適合! X線写真 データ 3鎖モデル モデル 水中での分離 予測 不一致 2重螺旋モデル (1953年) • 塩基(A-T, G-C)間の水素結 合が二本の鎖をまとめる 予測 • 細胞内でA/TおよびG/Cの割合は1になるはず → シャルガフの比率 • それぞれの鎖が鋳型となることで遺伝情報がコピー される 2鎖モデル DNA分子構造 対象 適合! 水中での安定性 X線写真、 データ シャルガフの比率 2鎖モデル モデル 一致 予測 A/T=G/C=1 例2. 大陸移動説 Alfred Wegener (1880-1930) データとモデル • 南アメリカ東岸とアフリカ西岸の海岸線は驚くほど 一致する • もともと一つの大陸だったのが分離したのでは? 予測 1. 地形の一致 → ⃝ 2. 地質学的性質(鉱脈)の一致 → ⃝ 3. 化石の一致 → ⃝ 4. 生物分布の一致 → ⃝ 不利な予測 1. 大陸を動かす力があるはず → × 2. 大陸は柔らかく、海底は硬いと考えられていた → 押し付けられたら大陸は割れてしまう →× 大陸移動説 大陸分布 対象 不適合! 適合! 地理・生物地理 データ データ データ、 地形、鉱脈、 一致 大陸形成に関する 知見 大陸移動 モデル 予測 生物分布 生物分布、 大陸が水平に動く 不一致 ということ 再検討 1 • 1950s~ 海嶺の発見 → 海底は拡大しているのでは (Hess)? 再検討 2 • 1960s: Morley & Vine • 前提1: 溶岩は固まる際に帯磁する • 前提2:地球の磁場は時々反転する • 予測:もし海嶺を境に海底が拡大しているなら、その帯 磁パターンは陸上地質の帯磁パターンと一致するはず • 1965観測:実際に一致していた → どうやら地表は動いているらしい! 大陸移動説 大陸分布 対象 適合! 地形、鉱脈、 予測 生物分布 生物分布、 地理・生物地理 データ、 大陸が水平に動く 大陸形成に関する 海嶺、磁性 知見 の発見 大陸移動 モデル 一致 ということ まとめ • モデルは現実のレプリカ(e.g. DNAブリキ模型) • 科学者はこのレプリカに手を加えつつ現象を探る • モデルの予測とデータとの一致/不一致は即座にそ の正しさ/誤りを意味するわけではない → 確率モデル
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