ゲーム理論(2015 年度後期) 教授 清水大昌 第 4 回 2015 年 10 月 14 日 [email protected] http://www-cc.gakushuin.ac.jp/˜20060015/lecture/game2015.html 今回は支配戦略の逐次消去と 2 × 2 × 2 ゲームを紹介した後、動学ゲームの分析に入ります。 前回までの復習 以下のゲームの最適反応とナッシュ均衡を求めてください。 支配関係はありますか?支配戦略はありますか? A B Up Middle Down Left 6, 5 7, 3 4, 7 Center 9, 0 1, 5 3, 4 A Right 5, 8 4, 4 1, 5 B Up Middle Down Left 3, 0 1, 1 2, 2 Center 0, 0 1, 1 1, 0 Right 0, 2 0, 0 1, 1 支配される戦略の逐次消去 • 前回紹介したように、あるプレーヤーから見ると、他の戦略に支配されている戦略がある かもしれない。 • つまり、自分以外のプレーヤー全員がどのような戦略を取ってきても、自分にとってその (支配されている) 戦略より他の (支配している) 戦略のほうが 必ず利得が高い(強支配さ れている)、または 利得は必ず高いか等しい(弱支配されている)。 • このような場合には、相手の行動による相互作用を考えずに、自分はその支配された戦略 を自分の選択肢の候補から外しても良いだろうか? • また、もしこのような「消去」が良いとすれば、他のプレーヤーが「消去」した結果、自 分の戦略の中に支配される戦略が出てきたら消去しても良いのだろうか? • まず、後者の疑問について。これが出来るためには、他のプレーヤーの合理性を仮定する 必要がある。また、「共通知識」という、プレーヤー間の合理性の知識に関する仮定も必 要となる。これは非常に厄介であり、突き詰めると大変になるので、以下はこの仮定は満 たしているとしよう。 • それではそもそも「消去」は良いのか? • 強支配されている場合には「消去」は全く問題ないことが分かる。つまり、厳密に利得が 小さいため、大きい利得を得られる戦略を採る方が利得は必ず上がるからである。よって、 支配される戦略を逐次消去出来るのであれば消去して行き、残った部分の分析を行えば よい。 • もしこの場合残ったものが一つだけだとすれば、これは最初のゲームのナッシュ均衡になっ ていることが証明できる。 1 • 一方弱支配される戦略はもう少し注意が必要となる。利得が同点(無差別)の場合もある からである。例えば上のゲームの右側では C と M は弱支配されている。しかし、ナッシュ 均衡は ( , ) のみである。よって、逐次消去をすることにより唯一のナッシュ均衡でさえ 消えてしまう可能性があるのである。 • 弱支配される戦略を逐次消去することは少々危険ではあるが、ある程度均衡を絞るために は仕方がない側面もある。 2 × 2 × 2 ゲーム • 今までの戦略型ゲームは 2 人ゲームだったが、もちろん 3 人以上のプレーヤーのゲーム も分析できる。その中で一番簡単な、3 人がそれぞれ 2 つの戦略を持つゲームを考えてみ よう。 A B Up Down Left 4, 2, 5 3, 4, 0 Right 2, 7, 2 4, 1, 4 A B Up Down C の戦略:Box 1 Left 1, 5, 2 4, 6, 5 Right 7, 2, 5 1, 4, 3 C の戦略:Box 2 • ここで利得表の値は左からプレーヤー A,B,C の利得であるとしよう。 • この場合にも最適反応、ナッシュ均衡、支配関係を調べることが出来る。プレーヤー C に 関しては、箱 1 か箱 2 を選ぶという戦略になっている。 • 特にナッシュ均衡と支配関係は、「相手」が自分以外の二人になることに注意。 • 練習問題:次のゲームの最適反応とナッシュ均衡を求めてください。 支配関係はありますか?支配戦略はありますか? 数量競争: 3 社、p = 34 − q, M C = 10. 生産量縮小 (4) か拡大 (6) か。 A B 縮小 拡大 A B 縮小 縮小 48 , 48 , 48 40 , 60 , 40 縮小 40 , 40 , 60 拡大 60 , 40 , 40 48 , 48 , 32 拡大 48 , 32 , 48 C の戦略:縮小 拡大 32 , 48 , 48 36 , 36 , 36 C の戦略:拡大 2 動学ゲーム • ここからは今までの静学ゲームとは対照的に、プレーヤーの行動に順番がある動学ゲー ムを考えてみよう。 • 逐次手番ゲームとも呼ばれる。時間を通じて行われるゲームというイメージで考えてくだ さい。 • 静学ゲームで紹介した、ゲームの 3 要素(プレーヤー、戦略、利得)の他に、ここでは「手 番」の情報も必要となる。 • ここで扱う図は展開形ゲームと呼ばれ、「ゲームの木」と言われるものである。 ゲームの木の説明 • ゲームの木は図 4 − 1 のように、木の形状をした図である。 • 各点のことを意思決定ノード (分岐点) と呼ぶ。特にゲームが始まる最初のノードは分か りやすくしておこう。 • 各ノードから複数の選択肢が選べる。これを枝と呼ぼう。 • 各ノードにはどのプレーヤーがそこで行動するか明記されている。 • 各ノードから枝が出ているが、その先は新しいノードか最終的に得られる利得のどちらか である。 • 枝でサイクルが起こってはならない。 • 一つのゲームの木は全て枝でつながってなければならない。 • 各ノードから先のゲームのことをサブゲームまたは部分ゲームと呼ぶ。全体のゲームもサ ブゲームの一つである。 情報構造と情報集合 • ゲームの木の内容で少々難しい概念が情報構造である。 • これは、あるノードでプレーヤーが何を知っているかを表している。 • そこで情報集合を使って、あるプレーヤーがあるノードで現在の状況が分かっていないか もしれないということを描写する。 • 図 4 − 2 を見ると、上は今まで紹介したようなゲームの木になっている。ここでは、既存 企業が「低価格」か「高価格」という戦略をまず採り、それを確認した後に参入企業が各 ノードで「参入する」か「参入しない」という行動(戦略ではない。後述)を採ることと なる。 3 • 下の図では参入企業の 2 つのノードが囲まれている。これは、その 2 つのノードでの情報 集合が同じであることを示している。つまり、そこでのプレーヤーである参入企業は、自 分が今左側のノードにいるか右側のノードにいるかが分からないという状況を描写して いる。 • これはつまり参入企業が参入する時点で、既存企業の戦略が見えていない状況である。 • この状況が 同時手番ゲームと一致すること を確認しましょう。 • 普通のじゃんけんと後出しじゃんけんはどのようにゲームの木で描写できますか? 完全情報ゲーム vs. 不完全情報ゲーム • 同時手番ゲームは、各プレーヤーが同時に動くことが重要ではなく、先に動いたプレーヤー の行動(戦略)を後に動くプレーヤーが確認できないことが重要であることがわかった。 • つまり、同時手番ゲームでは情報が完全ではない。 • 図 4 − 2 の上のように、全ての情報集合が単一になっているゲームのことを完全情報ゲー ムと呼ぶ。また図 4 − 2 の下のように、どこかの情報集合が複数のノードを含むようなゲー ムのことを不完全情報ゲームと呼ぶ。 • 同時手番ゲームは不完全情報ゲームである。 まとめと次回 • 支配される戦略の逐次消去については、強支配は大丈夫。弱支配は注意して。 • 2 × 2 × 2 のゲームの利得表を読めるようにしておきましょう。 • 逐次手番ゲームの用語に慣れましょう。 • 次回: サブゲーム完全均衡、バックワードインダクション、そして信憑性のない脅し。 4
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