カラムスプリット−パラレル検出による、 一般陰イオンと臭素酸同時分析手法

Application Note IC15008
カラムスプリット−パラレル検出による、
一般陰イオンと臭素酸同時分析手法
−水酸化物系溶離液条件の場合
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社
キーワード
せて検出する手法です。イオンクロマトグラフで一般的に用いる
検出器は電気伝導度です。この検出器は非破壊検出なので、吸光
カラムスプリット−パラレル検出、
ポストカラム発色法
光度検出器(UV)またはポストカラムシステムを接続することが
でき、いくつもの検出情報が得られます。一般的な陰イオン成分
概要
と臭素酸は陰イオン交換カラムで分離できます。そこで、カラム分
水道水質基準は水道法第4条により定められています。水質維持を目的に水質基準、
離後 CD検出とポストカラムユニットを接続することにより、陰イ
水質管理目標設定項目、
要検討項目と段階的に目標が設定されています。イオンクロ
オン成分と臭素酸を一度の注入で同時に分析できます。従来法は、
マトグラフでは、一般的な陰陽イオン種成分、消毒副生成物イオン種成分、毒性イ
カラム−電気伝導度−ポストカラムと接続して、陰イオン成分を測
オン種成分などを測定します。表1に項目と検査法をまとめました。
定後、臭素酸をポストカラム発色法で測定する「直列式同時分析
手法」が用いられてきました(図1)。この直列式システム構成は、
カラム−サプレッサー−電気伝導度−ポストカラムシステムとな
ポストカラム発色法はカラム分離後に、吸光度を持たないイオン
り、サプレッサーに加わる圧力が高く、ノイズの原因にもなる場合
種成分を発色試薬と反応させて、吸光度を持つ化合物へと反応さ
があります。
表1:分析項目と基準濃度
項目
基準
検査方法
フッ素
0.8 mg/L 以下
水質基準
イオン電極法、吸光光度法
電流滴定法
塩素
200 mg/L 以下
水質基準
亜塩素酸/二酸化塩素
0.6 mg/L 以下
水質管理目標設定項目
塩素酸
0.6 mg/L 以下
水質基準
亜硝酸態窒素
0.04 mg/L 以下
水質基準
吸光光度法
硝酸態窒素および
亜硝酸態窒素
10 mg/L 以下
水質基準
吸光光度法
過塩素酸
0.025 mg/L 以下
要検討項目
臭素酸
0.01 mg/L 以下
水質基準
シアン化物イオン
および塩化シアン
0.01 mg/L 以下
水質基準
ナトリウム
200 mg/L 以下
水質基準
イオンクロマトグラフ法
(イオンクロマトグラフ−質量分析計)
イオンクロマトグラフ
−ポストカラム吸光光度法
フローインジェクション吸光光度法
ICP発光、ICP-MS、原子吸光光度法
イオンクロマトグラフ法
マグネシウム
300 mg/L 以下
水質基準
ICP発光、ICP-MS、原子吸光光度法、滴定法
カルシウム(硬度)
図1 これまでの陰イオン類と臭素酸の同時分析【直列式】
UV 水酸化物系溶離液条件では、
また、
試料に含まれる炭酸も電気伝
溶離液ジェネレーター
カートリッジ セル
導度検出器で検出されます。多くのカラムにおいて、炭酸ピークは
高圧
デガッサー 検出器セル AERS
トラップ
カラム CD
セル
サプレッサー 排液 図1:直列式システムの配管図
響を与えます。そこで、炭酸の影響を小さくする炭酸除去デバイス
セルへ導入します。炭酸除去デバイス CRD-200は特殊なシリカ
UV
コートを施したテフロンチューブ、そのチューブ外側にテフゼル
セル
(λ=268 nm)
硫酸ピークの前に検出され、炭酸濃度によっては硫酸の定量に影
Thermo ScientificTM DionexTM CRD-200を設置して電気伝導度
再生液(H2O)
1
滴定法、
DPD法
反応
コイル
反応液B
反応液A
チューブと二重管構造をしています。テフロンチューブには溶出液
が流れ、その外側、テフゼルチューブには再生液が流れています。テ
フロンチューブ内壁にサプレッサーからの溶出液が接すると、溶存
している炭酸がガス化し外側へ透過され、再生液排液に取りこま
れます。サプレッサーと電気伝導度セルの間に取り付けて使用し、
試料に含まれる炭酸ガスイオンをガス化して溶離液ラインから除
装置
Thermo Scientific Dionex ICS-5000 +
カラム
Thermo Scientific Dionex IonPacTM AG19 -4 µm,
4 × 30 mm/ AS19 -4 µm, 4 × 150 mm
溶離液
2 ∼ 55 mmol/L KOH
流量
1.5 mL/min
去する仕組みです。直列式同時分析の場合には電気伝導度の下流
カラム温度
30 ℃
コンパートメント温度
20 ℃
側にポストカラムシステムを接続するので背圧が高くなるため、構
スプリット比
1:1
造上耐圧が低い CRD-200を使用することができません。
サプレッサー
今回ご紹介するスプリット式システムでは、カラム分離後の溶出液
図2 スプリット式 陰イオン類と臭素酸の同時分析 エク
Thermo Scientific Dionex AERS-500、
4 mm、
スターナルモード、
103 mA*
炭酸除去デバイス
4 mm
CRD-200、
検出1
電気伝導度検出器(セル温度35 ℃)
を二流路に分けて、サプレッサー電気伝導度検出、ポストカラム吸
検出2
吸光光度検出器、
測定波長210 nm
電気伝導度
光光度検出と完全に分けています(図
2)。このように二流路に分
サプレッサー
セル
PCシステム
PCM-520
反応液1
1.2 mmol/L NaNO2
岐することで、サプレッサーや CRD-200への負荷を最小限にで
カラム
き、亜硝酸態窒素の測定ではさらに吸光光度検出器を取りつけて
分析することができます。
ポストカラムシステム
陰イオン類の検出
サプレッサー
電気伝導度
セル
CRD
カラム
反応液1流量
0.2 mL/min
反応液2
1.5 mol/L KBr / 1 mol/L H2 SO4
反応液2流量
0.4 mL/min
反応液2反応コイル
Φ0.5 mm × 2.0 m、
40 ℃
検出3
吸光光度検出器、
測定波長268 nm
導入量
250 µL
* サプレッサーへ供給する電流値は溶離液濃度、
流量より自動計算すると205 mA
になります。スプリットによりAERS-500へ流れる溶離液量は半分ですので、
供給
UVセル ポストカラムシステム
臭素酸の検出
する電流量も半分の103 m Aにする必要があります。
日間再現性の確認
図2:スプリット式 陰イオン類と臭素酸の同時分析
装置を構築後、毎回装置を完全に停止して再度立ち上げ、スプリッ
ト後の流量を確認しました。装置を立ち上げてから、ポストカラム
装置構成と測定条件
システム、
カラム恒温槽の温度が安定する1時間後の流量を確認し
図3にカラムスプリット−パラレル検出システムの配管図を示しま
ました。
す。カラム分離後に溶出液を分ける T字コネクターを取り付け、流
図4にスプリット比の変化を示します。スプリット比は安定してい
等しくなる様に圧力調整用チューブを取りつけて、圧力バランスを
析して、感度の変化がないかを確認しました。
図1 日間再現性の確認1【水酸化物系】 て、ほぼ変動しないことがわかります。同じ疑似水道水を毎回分
路を分岐します。T字コネクターの後、全ての配管を含めた圧力が
調整します。一度調整するとほぼ背圧は固定化して、日々の装置
立ち上げのたびに再調整することなく分析を行なえます。ただし、
検出器やサプレッサーを変更した場合は確認が必要です。
図3 スプリット式 陰イオン類と臭素酸の同時分
析 溶離液ジェネレーター
カートリッジ 検出器セル 排液 再生液 CD
セル CRD
炭酸除去
デバイス 溶離液
ポンプ 排液 UV
セル 反応
コイル
(λ=268 nm) Day9
Day8
Day7
サプレッサー Day6
2:1
UV
セル Day5
トラップ
カラム Day4
AERS Day3
陰イオン交換カラム 1:1
Day2
高圧
デガッサー 1:2
Day1
1
表 2:分析条件
スプリット比
(CD:UV)
2
図4:スプリット比の変化
表3に測定濃度と面積値の相対標準偏差を示します。装置の停止、
稼働を繰り返しても感度はほとんど変わることがなく安定してい
ることがわかります。図5に異なる試験日のクロマトグラムを重ね
て表示しています。各試験日を通じてピークの形などの変化もな
反応液A
反応液B
図3:カラムスプリット−パラレル検出システムの配管図
4
3
分岐後の流量比は1:1に調整しました。表 2に分析条件を示します。
亜硝酸態窒素の測定には電気伝導度検出と吸光光度検出を併用
しました。
いことがわかります。
表3:日間再現性確認結果(n=10)
項目
電気伝導度
F
Cl
NO2 -N
ClO3−
NO3 -N
SO42−
測定濃度 (mg/L)
0.08
20
0.004
0.06
5
20
RSD(%)
1.88
0.94
4.82
4.30
0.45
0.63
項目
測定濃度 (mg/L)
RSD(%)
−
−
UV1
UV2
NO2 -N NO3 -N
BrO3−
0.004
5
0.001
1.47
0.61
3.76
2.5
2
CD
6
5
7
3
UV (268nm)
Day 9
Day 1
mAU
µS/cm
1
5
3
8
4
0
0
-0.5
0
10
5
10
Time(分)
Time
(min) 15
UV (210nm)
-2
19
0
No. ピーク
1. 2. −
1. F3. −
2. Cl
4. mAU
5
3
5
項目
(mg/L) mg/L0.08 F- Cl- 20 0.08
NO2-N 0.004 20
ClO3- 0.06 3. NO2 -N
4. ClO3−
0
10
15
Time(分)
Time
(min) 19
6
0
-2
5
5
10
Time(分)
Time
(min) 15
0.004
0.06
No. 項目
ピーク 5. Br 6. NO
-N 5.
Br− 3
7. SO42- - 6.
3 -N
8. NO
BrO
3
(mg/L) mg/L
0.1 5 0.120 5
0.001 20
0.001
7. SO42−
8. BrO3−
19
図5:異なる試験日のクロマトグラム
左上:電気伝導度検出、左下:吸光光度検出(210 nm)、右上:PC吸光光度検出(268 nm)
結果
表4:疑似水道水の再現性確認結果(n=10)
疑似水道水での検討結果
図 6に疑似水道水のクロマトグラムを示します。電気伝導度検出
項目
クロマトグラムでは、分離が不十分で特に隣り合うピークの濃度差
電気伝導度
−
−
F
Cl
NO2 -N
ClO3−
NO3 -N
SO42−
が大きい場合には、低濃度成分の定量値に何らかの影響が出るこ
測定濃度 (mg/L)
0.08
20
0.004
0.06
5
20
とがあります。今回の分析では、塩化物イオンと亜硝酸態窒素の
RSD(% )
0.64
0.41
1.32
1.00
0.39
0.57
分析がそれに当てはまります。塩化物イオンの濃度に対し亜硝酸
態窒素の濃度が低く、溶出位置が非常に近接しています。電気伝
項目
導度検出器だけで NO2 -N 0.004 mg/Lを十分に定量することは
可能ですが、Clが20 mg/Lであっても吸光光度検出器を併用する
測定濃度 (mg/L)
ことでさらに亜硝酸態窒素の分析精度の向上が期待できること
RSD(% )
UV1
UV2
NO2 -N NO3 -N
BrO3−
0.004
5
0.001
1.46
0.19
4.35
が、図 6の電気伝導度と UV(210 nm)のクロマトグラムからも明
図6 模擬水道水
らかです。表4に測定濃度と定量値の相対標準偏差をまとめまし
た。濃度の低い亜硝酸態窒素でも相対標準偏差は2%以下、ポス
トカラム法の臭素酸でも5%以下と良好な再現性を得られました。
2.5
2
CD
6
5
7
mAU
µS/cm
UV (268nm)
1
8
5
3
4
0
0
-0.5
0
5
10
Time(分)
Time
(min) 15
10
19
-2
5
0
Time(分)
Time
(min) 10
12.5
6
mAU
UV (210nm)
No. 項目
(mg/L) ピーク mg/L
0.08 1. F 1. 2. F− Cl 0.08 20 0.004 3. NO2-N 20
2. Cl−
4. ClO3- 0.06 5
3
3. NO2 -N
4. ClO3−
0
-3
0
6
5
10
Time(分)
Time
(min) 15
0.004
0.06
No. 項目
(mg/L) ピーク mg/L
5. Br 0.1 -N 5.6. Br−NO320.1 5 7. SO4 20 6. NO3 -N
5
- 8. BrO
0.001 2− 3
7. SO4
8. BrO3−
19
図 6:疑似水道水のクロマトグラム
左上:電気伝導度検出、左下:吸光光度検出(210 nm)、右上:PC吸光光度検出(268 nm)
20
0.001
実試料測定結果
上水試験法に基づき、水道水にエチレンジアミンを添加して測定
項目
を行いました(図7)。低濃度基準値成分を添加して、その回収率
F−
NO2 -N
ClO3−
BrO3−
CD
UV(210 nm)
CD
UV(268 nm)
と繰り返し再現性の確認実験を実施しました。表5に添加濃度と
添加濃度(mg/L)
0.08
0.004
0.06
0.001
回収率を示します。いずれのイオン種成分も回収率は100%±5%
回収率(%)
100.1
104.2
103.0
95.8
図7 水道水
以内と良好な結果を得ています。
4
2
6
Application Note IC15008
表5:水道水への添加濃度と回収率
6
7
水道水 標準添加
1
µS/cm
mAU
水道水
4
8
5
3
0
-0.5
0
0
5
10
15
19
-1
0
Time(分)
Time (min) 10
15
19
Time
(min) Time(分)
10
6
No. 項目 ピーク
1. F2.1. Cl
F− −
3.2. ClNO
2-N
4. ClO
3
3. NO2 -N
mAU
5
3
4. ClO3−
0
-2
5
0
5
10
15
ピーク
5. Br6. NO
-N
5. Br3−
27. SO
4 3 -N
6. NO
- 2−
8. BrO
3 4
7. SO
8. BrO3−
19
Time
(min) Time(分)
図7:水道水のクロマトグラム
左上:電気伝導度検出、左下:吸光光度検出(210 nm)、右上:PC吸光光度検出(268 nm)
7
まとめ
カラムスプリット−パラレル検出法では、陰イオン類とポストカラ
ム検出の臭 素酸の同時 分析で問題となっていたサプレッサー、
CRDの背圧影響を低減し、亜硝酸態窒素測定の UV検出を追加す
ることも容易に設定できる事が確認できました。本方法により、
日間再現も問題なく定常的に分析を行えます。
Ⓒ 2014
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2015 Thermo Fisher Scientific K.K.
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