投票環境の整備による投票率の向上について

平成 25 年度政策実務系研修(JAMP 共同実施研修)レポート優秀作
選挙事務
「投票環境の整備による投票率の向上について」
鹿児島市選挙管理委員会事務局
上ノ原
諭
はじめに
本年 7 月に執行された参議選における本市の投票率は 44.92%で、全国平均である
52.61%よりも約8%も低い結果となった。
また本市の投票率を他市町村と比較してみると、鹿児島県内の 43 市町村の中で最も
低く、かつ本市と同規模の中核市の中でも最も低い結果であった。
投票率については、選挙の争点や選挙人の関心、地域性など外的要因に左右される
部分が大きいことはあるものの、国政選挙において同じ地域や同程度の規模の他市町
村と大きな差が出てしまうことには疑問を感じている。
私は、今回の参議選で期日前投票所の担当として従事していたが、期日前投票所に
来られた複数の選挙人から、当日投票所の不便さや商業施設等に期日前投票所開設し
てほしい等、投票環境の改善に関する要望を受けた。
やはり、投票率の向上のためには啓発活動だけでなく、選挙人が投票しやすい環境
整備が重要なのではないかと考える。
そこで、このレポートでは、本市における投票環境の整備による投票率の向上の方
策について考察していく。
1
現状分析
鹿児島市
選挙人名簿登録者数
490,186 人(H25.9 月定時登録)
期日前投票所数
10 箇所(本庁及び 9 支所)
期日前投票期間
公示日の翌日~選挙期日の前日
(支所は選挙期日の7日前から)
期日前投票時間
8:30~20:00(1箇所のみ 17:00 まで)
当日投票所数
157 箇所
当日投票時間
7:00~20:00(49 箇所は 19:00 まで)
表1
年代別投票率比較(鹿児島市抽出投票所)
20 代
30 代
40 代
50 代
60 代
鹿児島市(A)
24.19%
31.27%
42.65%
52.15%
59.89%
54.29%
全国平均 (B)
33.37%
43.78%
51.66%
61.77%
67.56%
58.54%
差
-9.18% -12.51%
-9.01%
-9.62%
-7.67%
-4.25%
引
(A-B)
70 代以上
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選挙事務
表2 期日前投票者数及び投票者総数に占めるその割合(鹿児島市)
25.00%
20.00%
22.06%
17.84%
18.93%
70,000
65,000
60,000
55,000
15.00%
50,000
45,000
10.00%
48,626
48,950
48,859
5.00%
40,000
35,000
30,000
25,000
0.00%
20,000
H19参議選
表3
H22参議選
H25参議選
期日前投票者数及び投票者総数に占めるその割合
(商業施設等に期日前投票所を開設している中核市12市の平均)
30.00%
70,000
24.18%
25.00%
20.00%
17.87%
20.40%
60,000
50,000
15.00%
40,000
10.00%
5.00%
33,355
38,614
39,895
30,000
20,000
0.00%
H19参議選
H22参議選
H25参議選
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表4
参議選における投票率の推移
60.00%
56.55%
55.00%
55.38%
56.28%
53.26%
50.00%
50.59%
45.00%
44.92%
40.00%
H19参議選
鹿児島市
H22参議選
中核市12市平均
H25参議選
まず、表1の年代別投票率を見ると本市では特に 20 代、30 代の投票率が低く、20
代では3割にも届いていない状況である。また、全国平均と比較すると 30 代の差が大
きいのが分かる。やはり投票率の向上のためには、若年層の投票者を増やす必要があ
る。
次に表2の期日前投票者数及び投票者総数に占めるその割合を見ると、期日前投票
者数は平成 19 年以降同程度で推移しているが、投票者総数に占める期日前投票者数の
割合(以下、期日前利用率という。)は、着実に増加している。
これは、選挙人の生活スタイルが多様化する中で、自分の都合に合わせて投票に行
く日時を選ぶことができる期日前投票制度が、多くの選挙人から支持されている結果
である。
次に表3は、商業施設等に期日前投票所を開設している中核市 12 市の平均の期日前
投票者数及び期日前利用率であるが、本市と比較して約2%程度期日前利用率が高く
なっている。また今回の参議選で、12 市の中で最も高い期日前利用率は秋田市で
42.56%となっており、投票者の半数近くが期日前投票を選択している状況であった。
次に表4は、参議選における投票率の推移であるが、全体的に投票率は低下してい
るものの、商業施設等に期日前投票所を開設している中核市の平均は本市と比較する
と減少率が少ない。
これらのことから、期日前投票所を集客力の高いショッピングセンターや駅などに
開設することは、選挙人の投票環境の向上に大きく貢献し、今まで投票していなかっ
た選挙人に投票してもらうことで、投票率の低下を抑制する効果もあると考えられる。
また選挙人のニーズとして、買い物のついでや通勤通学の途中など、より投票しやす
い環境求めていることも分かる。
よって本市における投票環境の整備による投票率の向上の方策は、
「選挙人が投票し
やすい商業施設等での期日前投票所の開設」とする。
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商業施設等での期日前投票所の開設に係る課題について
本市では、前述したとおり本庁及び9支所で期日前投票所を開設しており、公共施
設以外で開設した実績はない。
公共施設以外施設に期日前投票所を開設する場合の課題としては、以下の様なもの
が挙げられる。
・投票の秘密や選挙の公正を確保するために必要な場所や設備
・十分な事務従事者の配置
・投票所の設備に要する経費の増加
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課題解決策
○投票の秘密や選挙の公正を確保するために必要な場所や設備
大規模なショッピングセンターや駅ビルなどでは、イベントスペースを貸し出して
いるところが多く、その中には会議室のような完全に独立した空間のものもある。会
議室のような形式であり、極端に狭隘な場所などでなければ、内部の設営を工夫する
ことにより期日間投票所の開設は可能であると考える。
仮に独立した空間でない場合でも、パーテーション等で仕切ることで、投票の秘密
を確保できる空間を作ることが可能であると思われる。
いずれの方法にせよ、事前に当該施設の管理会社と打ち合わせを行い、貸出できる
期間などの確認が必要であろう。また、選挙毎に投票できる期間が違うと選挙人の混
乱を招くことから、任期満了に伴う選挙については、なるべく早い段階で連絡調整を
行い、希望する使用期間が確保できるように準備する必要がある。
○十分な事務従事者の配置
本市は期日前投票事務の大部分を市職員で行っており、先の参議選では本庁で延べ
209 人、9支所で延べ 427 人、合計で 636 人の職員の応援をもらい期日前投票事務を遂
行したところである。
このような状況の中、新たに開設する期日前投票所への応援職員の配置は非常に困
難である。
そこで、不足する人員については、臨時職員の雇用や人材派遣会社との委託により
補填し、選管職員又は併任職員の監督・指導の下、事務従事させることで期日前投票
所の運営は可能になると考える。
当然のことながら、臨時職員又は派遣社員については、事前に十分な研修を行い、
個人情報保護や投票制度並びに事務の流れなどについて、周知徹底を図る必要がある。
○投票所の設備に要する経費の増加
まず、一番の経費として挙げられるのが、名簿対照に使用する選挙管理システム回
線の設置料である。個人情報を取り扱うことから、専用回線を使用することはもちろ
ん、セキュリティの観点から選挙毎に設置と撤去を行わなければならず、多額の費用
を要する。そこで、先進他都市の名簿対照方法を確認したところ、松山市で選管事務
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局との電話連絡により名簿対照を行っている事例があった。この方法は端末を使用し
た名簿対照と比較して1件あたり 30 秒ほど時間を費やすことになったが、選挙人から
の苦情は無かったとのことであった。また通話料については、携帯各社の通話料定額
のプランを使用することにより1台あたり月額 5,000 円程度に抑えることができる。
次に人件費であるが、前述した臨時職員又は派遣社員の人数については、投票所の
設営及び人員配置について十分精査し、必要最小限に留めることで費用を抑える。ま
た、現在各支所で行っている期日前投票の時間を短縮することにより職員の時間外勤
務手当を減少させ、新規に開設する期日前投票所に係る費用に充当することもできる
だろう。本市の支所の期日前投票所で 17 時以降も開設している8支所のうち、17 時以
降の来場者数が1時間当たり 10 名以下の投票所が3ヵ所ある(25 年度参議選実績)。
このような投票所では、20 時まで開設する必要があるか再検討し開設時間を減らすこ
とで選挙費用を削減するべきであると考える。なお再検討するにあたっては、周辺住
民の意向調査を行うなど、慎重な対応が必要である。
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結びに
これまで、投票環境の整備による投票率の向上の方策について、整備対策の設定か
ら課題の洗い出し及び課題解決策と述べてきたが、実現するためには多くの障害や苦
労があると思われる。特に費用の部分では、長引く不況により各自治体の財政状況も
悪化するなかで、本年4月の法改正により投票所経費が削減され状況は厳しくなる一
方である。そんな中で、様々な工夫を凝らし新たな期日前投票所を開設している先進
他都市の選管職員の方々には頭が下がる思いだ。
参議選期間中の新聞紙面に掲載されていた松山市選管職員の言葉がとても印象に残
った。
「やれない理由を並べるのは簡単。どうやったらできるか考えるのが仕事です。」
私もこの気概を持って、今回の研修で習得した知識や知恵を活用し今後の選管業務
に取り組んでいきたい。
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