ラピッドスキャンデータを用いた雲降水システムの発生

ラピッドスキャンデータを用いた
雲降水システムの発生・発達過程の研究
濱田 篤(東京大学大気海洋研究所)
謝辞:
気象研究コンソーシアム
京都大学生存圏データベース
JAXA PMM 7th RA
静止衛星ラピッドスキャン
 静止衛星による,観測時間間隔が数分程度の(小領域)スキャン
 欧州・米国では2000年代初頭から現業的に利用
 日本
 ひまわり6号(気象研究コンソーシアムで提供)
 極東域,5分間隔,2010–2014年主に6–9月,昼間のみ
 ひまわり8号
ラピッドスキャンを利用した雲・降水研究
 静止衛星ラピッドスキャンの特長
 ライフサイクルを記述可能
 広い視野  広域を大量にサンプリング可能
 同一地点を高い時間分解能で観測
 実利用目的なものが大半
 衛星風の導出
 積雲急発達域の検出
 降水ナウキャスト
 雲・降水システムのライフサイクルに関する研究
 事例解析は数多く存在するが,大半はシビアストームを対象
 雲の発達の一般的な姿を記述した研究は(意外にも)ごく僅か
雲降水システムの発生・発達過程の記述
目的
 広域を高頻度連続観測する静止衛星ラピッドスキャンの特長を活かし,
雲降水システムの発生・発達の一般的な姿を統計的に記述する
 観測が限られる上昇流の推定を試み,有用性を実証する
 使用データ
 ひまわり6号
赤外第1チャネル(~10.8μm)輝度温度(TB)
 水平分解能~5km
 衛星天頂角補正済(Joice et al. 2001,JAM)
 気象庁メソ解析
 解析期間:2011–2014年6–9月
ラピッドスキャンによる上昇流分布の推定
 輝度温度降下率から,上昇流速(w)を推定
𝑑𝑑𝑇𝑇𝐵𝐵
𝑑𝑑𝑑𝑑
𝜕𝜕𝑇𝑇
𝑑𝑑𝑇𝑇𝐵𝐵
≈ ≈ 𝑤𝑤 ≈ 𝑤𝑤 ∙ 𝛾𝛾𝑚𝑚 ⇒ 𝑤𝑤 ≈
�𝛾𝛾𝑚𝑚
𝑑𝑑𝑑𝑑
𝜕𝜕𝑧𝑧
𝑑𝑑𝑑𝑑
𝑑𝑑𝑑𝑑
(𝛾𝛾𝑚𝑚 :湿潤断熱減率)
 航空機やドップラーレーダによる観測はあるが,時空間的に限られる
Adler&Fenn (1979,JAS)
Luo et al. (2014,GRL)
LeMone&Zipser (1980,JAS)
積雲発達期の統計的記述
 トラッキング手法
各時刻のTB分布から極小点を見つける
2. 翌観測で極小位置が同一または隣接していれば,同一の雲とする
 「発達期」の定義
 280>TB>270Kを含み,TB降下が3観測(~15分)以上続く時間帯
(欠測1つは許す)
 併合・分離  発達期が重複するサンプルは1つとして扱う
 計9,565サンプル,73,030点を抽出
1.
 特徴量の推定
~ Z(TB)
𝑑𝑑𝑇𝑇𝐵𝐵
 雲頂発達速度(w;上昇流): 𝑤𝑤 ≈
�𝛾𝛾𝑚𝑚 (𝛾𝛾𝑚𝑚 :湿潤断熱減率)
 雲頂高度(CTH):
𝑑𝑑𝑑𝑑
 誤差要因:真の雲頂温度・冷却率,浮力,射出率,被覆率,幾何
補正,etc.  主に系統誤差に効く
サンプル時間分布
終端雲頂高度
終端雲頂高度
 まんべんなく取得できている
 陸上の終端CTH分布には日変化も見えている
 注:上層雲の被覆に影響を受けるので,数の議論はできない
サンプル空間分布(月別)
注:同定手法は上層雲の被覆に特に影響を受けるので,
サンプル数と降水量は比例しない
事例解析
Hamada & Takayabu (2011)
Highest top
25min
Max.
active area
95min
Max. speed
 発達開始
–(10~15分) 最大発達率
–(25~30分) 雲頂最高点
–(~90分) 面積(230K)最大
 粗くても5~10分間隔の観測が必須
Hamada & Takayabu (2011)
上昇流の高度別分布(<32°N,海上)
高度–上昇流速度の
2次元ヒストグラム
各サンプルのパス
 上位10%の値は,高度4kmで~3m/s,10kmで~5m/s
 各高度の分布は対数正規分布によく従う(次頁)
上昇流分布(<32°N,海上)
横軸を対数表示した
2次元ヒストグラム
●/▲ Ave/max updraft core velocity
@4.1–8km during GATE
(LeMone&Zipser 1980,JAS)
 対数正規分布に良く従う
 航空機やドップラーレーダによる先行研究の直接観測結果と整合
 本研究では雲頂のみに着目しているが,良く合うことは興味深い
 マスフラックスで見た場合も同様に整合(図略)
 ラピッドスキャン観測の有用性を定量的に実証
終端雲頂高度との関係(<32°N,海上)
終端雲頂高度2km幅の各
カテゴリに対する,wの高度
別平均+95%信頼区間
12–14
10–12
8–10
6–8
4–6
−15°C
12<終端CTH<14km
のサンプルのパス
0°C
 5kmより下層では,上昇流と終端雲頂高度との間には相関がない
 5–7km付近の上昇流と終端雲頂高度には良い相関がある
 mixed, iceのプロセスの重要性を示唆?
まとめ
 雲頂発達速度を観測することで,積雲上昇流の統計分布が効果的
に推定できることを実証
 精度は直接観測に劣るが,「いつでもどこでも」観測できる
 上昇流(w)分布
 対数正規分布に従う
 5kmより下層のwは,終端雲頂高度とほとんど無相関
 5–7kmのwは,終端雲頂高度とよい相関
展望
 ひまわり8号観測の利用
 熱帯暖水域での継続的なrapid scan観測が初めて手に入る
 ~2kmに向上した空間分解能により,上昇流のより代表的な値が得
られる
 他衛星との同時観測の利用
 雲・降水レーダ  雲・降水ライフサイクルと鉛直構造の関係