「終の住まい」に備える - シニアライフ情報センター

「 終 の 住 ま い 」 に備える
前回は、自宅を「終いの住まい」とする備えについて述べました。今回から
自宅以外の選択、
「住み替え」を検討する場合について、どんな心構えが必要
なのか、どんな受け皿があるのか、その特徴や、留意すべき点、誤解しやすい
点などに触れてみたいと思います。今回は、住み替えの現状と住み替えにあ
たっての心の備えについて述べようと思います。
護︶が適用になり、一気に有
及ぶようです。それだけ、 老人ホームでも、保険サービ
ス︵特定施設入居者生活介
最近、﹁住み替え﹂の無 とにもなりました。
介護保険開始までは、受益
料相談機関が急速に増え、
全 国 的 に は か な り の 数 に 者負担が当たり前だった有料
内容にかなりの格差を生むこ
られたことから、サービスの
違いは契約で、有料老人ホー
ムが利用権であるのに対し
有料老人ホームとの大きな
は区別がつかなくて混乱して
いる状況が伺えます。
賃貸住宅もあり、一般の人に
者や自立者混在の賃貸住宅や
象の住まい、あるいは要介護
表れかもしれません。
認 定 者 と も 言 わ れ て い ま す 。 地借家法に基づく賃貸借契約
しかし平成 年以降、介護施 である点です。違いについて
有料老人ホームではないかと
思えるようなサービスの厚い
料老人ホームの市場は大きく
なりました。今や有料老人
て、高齢者専用賃貸住宅は借
住み替えについての関心
が高くなっていることの
ホーム利用者の7割が要介護
まず、本論に入る前に住
み替え先となる﹁高齢者の
住まいの現状﹂について触
年、この間に
れて見たいと思います。当
センターが情報提供の活
動を始めて
に変わって台頭してきている
付有料老人ホームの伸びは実
質的に止まっています。それ
設の総量規制によって、介護
たさないまま、スローダウン
また、低額で利用できるケ
アハウスも計画目標数値を満
は追々述べていきます。
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護サービスが提供される
環境ができました。
これは素晴らしいこと
だと思います。しかし、一
方でこの介護サービスの
提供者は民間事業に委ね
高齢者専用賃貸住宅の市場で
す。現在では3万5千戸の受
13
賃貸住宅もあれば、自立者対
サービス内容も様々で、中重
度の要介護認定を対象にした
フティーネットとして頼りに
ているのが現状です。
そして、私たちが介護のセ
け 皿 が 整 備 さ れ て い ま す 。 の対象になるので、抑制され
護型のケアハウスも介護保険
では特定施設入居者生活介護
なったのが、介護保険の導 のが、平成 年﹁高齢者の居 してしまいました。自立者を
入です。基準を満たせば誰 住 安 定 確 保 に 関 す る 法 律 ﹂ 対象にした一般型はほとんど
でも、どこでも、平等に介 ︵ 高 齢 者 居 住 安 定 法 ︶ に よ る 建設されなくなりました。介
状況は大きく変わりまし
た。その大きな転換点に
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シニアライフ通信 ● 2 ●
している特別養護老人ホーム
Cを選択される方は、①住
ており、そのあおりで、医療
保険報酬の抑制策によって、 医 療 療 養 病 床 ︵ 医 療 保 険 適
全国的に新規事業は鈍化して 用︶も大幅な削減が予定され
み替え、ここでの生活が困難
になってきたときに再度介護
や高齢者向け賃貸住宅︶に住
見守りや、一部生活サービス
が使える住まい︵ケアハウス
え時期は比較的元気な早い内
手といった方が該当します。
介護保険の導入前は住み替
理もできる。④共同生活は苦
②家族や友人などが近くにい
る。③精神的に自立し生活管
み慣れた環境で暮らしたい。
を必要とする人たちが行き場
を失っている現状がありま
施設に住み替える2段構えの
に検討されていましたが、近
年は ∼ 歳位の間で住み替
床︵介護保険適用︶は、20 ます︵A︶。二つ目が生活不安
1 1 年 ま で に は 廃 止 に な り 、 が生じたときに安全な環境で
す。私たちが﹁住み替え﹂に
住み替えの選択です︵B︶。そ
して三つ目が自宅での暮らし
える人が多くなりました。
は、自治体の経費削減と介護
万
求めているのは、まさに晩年
の介護や医療が必要になった
が困難になったときに介護施
有料老人ホーム
B
ケアハウス・高齢者住宅
介護施設
C
自宅
介護施設
35
A
います。待機者は全国で
人、また医療行為を必要とす
る人を対象とした介護療養病
ときの備えですが、沢山の選
3 つ の 方 法 が あ り ま す 。︵ 図
参照︶
難しい問題です。大別すると
では、住み替えはいつ頃が
よいのか。このテーマが一番
的に急に不安定。②自立して
Bの選択が適している人
は、①1人暮らしになり精神
自立して生活できる。
あれば、いくら位になるの
か、銀行や、地域の不動産業
のか、資金計画に組み込んで
て、段階的に絞り込んでいき
ます。不動産資産をどうする
立地、家族の協力などについ
資金にゆとりがある。④生活 探すことになります。次のス
環境の変化に柔軟性があり、 テップでは費用やサービス、
さて、住み替えにあたっ
て、一つの方向性が決まった
一つには比較的元気な内に
生活できる。③共同生活は苦
手な方には適していると思い
者に見積もってもらうことも
ているのかと申しますと、①
子供さんがいない。②生活管
重度介護まで可能な住み替え
先として選択するケースで有
ます。 ら、今度は具体的な住まいを
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理が十分にできない。③老後
では、Aはどんな人に適し
設に住み替えるというもので
す︵C︶。 要
介
護
5
要
介
護
4
要
介
護
3
要
介
護
2
要
介
護
1
要
支
援
2
要
支
援
1
自
立
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料老人ホームがそれに該当し
● シニアライフ通信
3
●
択がありそうで、実は非常に
厳しいのが現状です。
【図】 3つに分けた住替えパターン
必要になってきます。また、
菊池さん︵仮名︶が当セン
住み替えにあたっては、どこ
ターに初めておいでになった
でも身元引受人、連帯保証人
のは、バブル崩壊後間もない
などが必要になってきます。
ころだったように思います。
家族がいればよいのですが、
歳で事業を引き上げ、有料
いない場合や頼めない場合に
老人ホームの暮らしに夢を膨
どうするのか、考えておかな
らませておられました。最初
くてはなりません。そして、早
においでになった時には、有
くからの準備として重要なの
料老人ホームの現状について
は家財の整理です。当然のこ
お話ししたように思います。
とながら、家族が最も多い時
健康で、血色もよく、長い
の住居に住んでいる家屋には、
間経営者として辣腕をふるわ
長い間にびっくりするほどの
れてきた自信と、ものづくり
家財が思い出とともに詰まっ
ています。他人に託すやり方
もありますが、住み替えとい
う、一つの節目にあたって、家
財の整理は、新しい暮らしに
入る覚悟をするための大事な
作業のような気がします。
では、住み替えを果たされ
た方々から、教わったことに
れていたようでした。
よ﹂と、とても楽しそうで、そ
れなりに役割を感じて生活さ
いっぱいやりながら話すんだ
て い た よ う で 、﹁ オ ー ナ ー と
ています。郷里の従兄弟が
が入りました。
﹁また、越すん
ですか﹂といったことを覚え
家を建てているといった報告
由は分かりませんが、郷里に
たが、退去して、伊豆にある
有料老人ホームに再び入居さ
容ばかりで、心配していまし
そして、2年が経過、その家
土地を購入し、総ヒノキで建
てていると楽しそうでした。
れ、決心をされたようです。
しかし、その後の報告は経 ﹁ 帰 っ て こ い よ 。 ぼ く た ち 親
営の行き詰まりを知らせる内 族 が 力 に な る か ら ﹂ と 言 わ
れ ま し た 。︵ 金 沢 の ホ ー ム は
その後倒産、現在は譲渡した も売却したという電話が入り
経 営 者 に 引 き 継 が れ て い る ︶ ました。この頃には 歳を越
と言う知らせが届きました。
当初経営者的な視点から見
ある有料老人ホームに入った
ところを探すさ﹂そんな言葉
を残して半年後に、金沢市に
車で全国を回りながら、よい
が、都市部から別荘代わりに
利用する人も多く、入居者間
サービスもよかったようです
な退去理由だったので、分譲
の会員を辞退されました。一
ションに移られたことがわか
りました。その後、センター
こも退去し、一般の賃貸マン
なら大丈夫と判断されたよう ち着かれるだろうと思ってい
で す 。 自 然 環 境 は 抜 群 で 、 ましたら、住所変更から、そ
の を 覚 え て い ま す 。﹁ こ れ か で知られているところで分譲
ら た っ ぷ り 時 間 が あ る の で 、 でした。初回経営不安が大き
の楽しさを話していただいた
の交流は今ひとつ、よく海外
貫して選択は自分で判断し、
決めていかれました。
ホームに入居、今度こそは落
先行きが心配でしたが、その
後実績のある老舗の有料老人
されており、元気と言えども
今度は、かなりの高額ホーム
る有料老人ホーム経営に感心
に旅行に行くと話されていま
した。その後はっきりした理
80
を持たれたようで、経営など
についてもアドバイスをされ
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シニアライフ通信 ● 4 ●
うして起こっているのか、住
み替え先に問題があったの
れます。こうした、明暗はど
解だった方がおられる一方
で、後悔されている方もおら
ます。結果的に住み替えが正
ついて整理してみようと思い
起こり得る問題を知っていた
た の か 、 当 人 た ち の 話 か ら 、 うです。上手に暮されている
おぼろげながら、その要因に 人からよく伺うのが、
﹁事前に
か、それとも他に原因があっ
ので、待ち構えるゆとりが
あった﹂といった声です。菊池
に大きな不満にはならないよ
を回避する方法を取りながら
暮らされているので、そんな
は、我慢できたり、上手にそれ
人は、その目的が果たせてい
れば、その他の難点について
目的をしっかり持たれている
なる傾向があります。一方で
遣いなどマイナス部分ばかり
や、いつもみんなと一緒の食
事時間やメニュー、人への気
暮らしと比較し、狭い間取り
るケースがあります。つま
り、元気な間は常に自宅での
によかった﹂と心底おっしゃ
病気で、急を要する経験をさ
れると、
﹁入居していて、本当
としかできません、こうし
くれることです。自宅ではせ
いぜい、子供に急を告げるこ
の利点は、呼べば直ぐに来て
す。
人が管理する住まいの最大
となく旅行にも出掛けられま
ことはありませんし、ベラン
ダの鉢の水やりを心配するこ
た ﹂ と 後 悔 さ れ て い た 人 が 、 も、誰かが急にドアをたたく
また、一方で、元気な時に
は﹁自宅で暮らせばよかっ
た、プラス部分が住み替えに
はあります。そうした環境の
いた時より行き届いているの
健康管理は、自宅で生活して
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
迫ることができそうです。今
さんが有料老人ホームの仕組
が気になっていたのが、住み
替えの長所である安心、安全
ではないでしょうか、あるい
は、セキュリティに関して
回はそうした点について述べ
てみようと思います。
みや暮らしをもう少し深く
知っておられたなら、このよ
を 実 体 験 す る こ と に よ っ て 、 中で、自分の暮らしを作るの
が選ばれたホームは倒産した
英断をして、新しい暮らしに
入ったのですから、もっと
し寂しい気がします。大きな
心構えでしたが、次回は有料老
今回は住替えにあたっての
は個々の責任です。住み替え
は何かを捨てて何か得ること
金沢を除いて、現在でもしっ
かりした経営のホームばかり
もっと長所を最大限感じて生
だろうと思います。
です。受け皿に問題があった
活しない手はありません。日 人ホームを検討する時の留意点
常 の 安 否 確 認 か ら 始 ま っ て 、 について述べようと思います。
︵池田︶
というよりも、覚悟にいささ
か甘さがあったのかもしれま
かもしれません。もちろん特 ﹁ よ か っ た ﹂ と 思 わ れ る の で
異なケースですが、菊池さん しょう。しかし、それでは、少
うな行動には出られなかった
事例の菊池さんもしかりで
すが、途中退去される人に共
通している点があります。そ
れは住み替えの目的がぼやけ
ていることです。目的がぼや
けていると、求めることが多
くなり、総てのことが不満に
せん。
● シニアライフ通信
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