第29回 秋田県教育研究発表会資料 【6日H会場③】 発信!出前授業「小学校における障害理解教育」 ~見て・聞いて・体験して、行動しよう~ 秋田県立養護学校天王みどり学園 教諭(兼)教育専門監 加賀谷 勝 Ⅰ はじめに 〈出前授業のきっかけ〉 ・秋田LD・AD/HD親の会「アインシュタイン」学習会 ➟教員向けの研修会に加えて、児童生徒にも発達障害の困り感を説明してほしい。 ・A小学校 ➟特別支援学級新設に伴い、校内の児童が適切に関わるためのヒントを与えてほしい。 Ⅱ 1 障害理解教育の概要 障害理解教育の定義 ・「障害理解教育」は、障害に関する具体的な知識を与え、その知識をもとに自分が何をすれ ばよいのかを考える教育である。(徳田・水野) 2 障害理解教育の目的 ・障害理解の考え方によって、共生社会の実現を目指すこと。 ・障害者理解を推進することにより、周囲の人々が、障害のある人や子どもと共に学び合い生 きる中で、公平性を確保しつつ社会の構成員としての基礎を作っていくことが重要である。 次代を担う子どもに対し、学校において、これを率先して進めていくことは、インクルーシ ブな社会の構築につながる。→「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築 のための特別支援教育の推進(報告)2012年」 ・障害のある人の理解のみならず、様々な人がいることへの理解(人間理解・多様性への理解) や自己理解にもつながる。→A小学校教員 3 障害理解の発達段階 〈第1段階〉気付き~障害のある人が世の中にいることに気付く段階 〈第2段階〉知識化~差異がもつ意味を知る段階 〈第3段階〉情緒的理解~機能面での障害や社会的な痛みを心で感じる段階 〈第4段階〉態度形成~適切な認識が形成され障害者に対する適正な態度ができる段階 〈第5段階〉受容的行動~生活場面での受容、援助行動の発現の段階 小学校低学年で気付きや知識化の段階を経て、中学年で障害のある人の生活や特性を自分 と対比しながら「感じ」「考え」、高学年で障害に対する自分の「態度を形成」し、「実践行 動」へとつながっていくような系統的な指導計画が望ましい。 4 障害理解教育のあゆみ (1)交流教育、共同教育、福祉教育の始まりと推進 ・最終報告『特殊教育の基本的な施策のあり方』文部省(昭和44年3月) 「可能な限り普通児とともに教育を受ける機会を多くし、普通児の教育から遊離しない ようにする必要がある」 ・『盲学校、聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領』(昭和46年) 心身に障害のある児童生徒らが、「経験を広め、社会性を養い、好ましい人間関係を育 てるため、小学校の児童又は中学校の生徒と活動をともにする機会を積極的に設けること が望ましい」 ・『盲学校、聾学校及び養護学校高等部学習指導要領』(昭和47年) 他の高等学校の生徒とともに行う活動に、「地域の人々とともに行う活動」を付言 -1- (2)交流教育、共同教育の拡充と障害理解教育の提起 ・『心身障害児の理解のために』小学校と中学校の手引き書の配布(昭和55年) ・「心身障害児交流活動地域推進研究校の指定事業」(昭和62年~平成8年) ・「交流教育地域推進事業」(平成9年~平成12年) ・『21世紀を展望した我が国の教育の在り方について 一次答申 』(平成8年) 「交流教育が障害のある子どもだけでなく、参加する教員、すべての子どもたち、地域 の人々にとって有意義な活動であること、交流の機会をさらに増やすための努力と工夫 が必要であること、社会全体が障害のある子どもへの理解をいっそう深めていくこと」 ・『 盲学校、聾学校及び小学部・中学部学習指導要領 』『盲学校、聾学校及び養護学校高等 部学習指導要領』総則(平成10年) 「地域や学校の実態等に応じ、地域社会との連携を深めるとともに、学校相互の連携や交 流を図ること」「小学校の児童又は中学校の生徒及び地域社会の人々と活動をともにする 機会を積極的に設けるようにする」 ・通常の学校の学習指導要領で、初めて交流教育について明記 小学校学習指導要領 総則(平成10年) 「障害のある幼児児童生徒との交流」を「児童が障害のある幼児児童生徒とその教育に 対する正しい理解と認識を深めるための絶好の機会であり、同じ社会に生きる人間とし て、お互いを正しく理解し、ともに助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学 ぶ機会」として位置付け、児童に障害理解を育むことの重要性を指摘 (3)「交流教育」から「交流及び共同学習」への拡充 ・『障害者基本法』改正(平成16年) 「障害のある児童生徒と障害のない児童生徒との交流及び共同学習による相互理解の促 進」について規定➟交流及び共同学習という用語を初めて明確に示した法的文書 ・『特別支援教育を推進するための制度の在り方について 答申』平成17年中央教育審議会 「盲・聾・養護学校(特別支援学校)[仮称]に在籍する児童生徒と、地域の小・中・高 等学校等の児童生徒との交流及び共同学習の機会が適切に設けられることを推進すべきで ある」「障害のある児童生徒と障害のない児童生徒との交流及び共同学習の機会を積極的 に進めることによって、その相互の理解が促進されなければならない」➟従来の交流に加 えて、共同学習が追加 ・『小学校・中学校学習指導要領』(平成20年) 『高等学校学習指導要領』(平成21年) 「障害のある幼児児童生徒との交流及び共同学習の機会を設けること」交流及び共同学 習の用語に統一 5 小学校における障害理解教育の現状 ・「 心身障害児理解・認識推進事業 」(昭和54年)が策定された以降、福祉教育に取り組む 小学校が増えた。 ・総合的な学習の時間(平成14年)が導入され、各学校で福祉に関する学習が実施されるよ うになった。 ・小学校で扱われている障害理解のための主な説明文教材 国語➟もうどう犬の訓練(3年) 点字を通して考える(4年) 手と心で読む(4年) 便利ということ(4年) いつでもどこでも~点字に触れてみよう~(4年) 道徳➟「オトちゃんルール」は「あたりまえ」のルール 「わたしのボランティア体験」 社会➟新しい社会 ユニバーサルデザインに関すること 等 授業でこれらの教材文を読み、障害について学ぶとともに、発展的な調べ学習、総合的 な学習の時間等を利用して、他の障害についても知識を得ている。しかし、「障害理解教 育」を教育課程に位置付けて、系統的に指導している小学校は少ないと思われる。 -2- 6 障害理解教育の内容及び方法について [出典:徳田ら(2004)交通バリアフリー教育の内容の選定と方法の開発] 障害理解教育の内容 % 障害理解教育の方法 % 90 障害者の感じるバリア 87 バリアフリー施設・設備 77 障害者の援助法 障害者の思い 自分にできること 障害者の苦労 12 障害の種類や特性 11 その他 47 疑似体験 44 障害者を招いた 41 口頭説明 24 市販の教材 24 調べ学習 24 13 11 自作資料 専門家を招いた 18 その他 8 11 安易な疑似体験は 、「目が見えないから怖い 」「障害者はかわいそうだ、たいへんだ」とい う間違った障害観を抱く可能性がある。障害の種類や特性・支援方法等、障害に関する基礎的 な知識を学ぶことを優先させる必要がある。 Ⅲ 出前授業の実際 1 小学校での取組 (1)授業内容(詳細は参考資料を参照) ①天王みどり学園の紹介 ・小学生から高校生まで在籍 ・遊びの指導、生活単元学習、作業学習及び現場実習の紹介 ②障害の種類や特性及び工夫していること ・肢体不自由(車いすを利用している友達)➟エレベータやスロープ スイッチ教材 ・知的障害(ゆっくりタイプの友達)➟できることは見守る 分かりやすい指示 ・自閉症(不安な気持ちが強い友達)➟イラストや写真などの視覚情報 ③体験コーナー ・言葉が伝わらない、分からない(ピカピカ王国、バースデーリング) ・お互いの気持ちを重ね合わせる(フラフープリレー) ・相手の気持ちに寄り添う(車いす体験) ・発達障害の疑似体験(読む・聞く・書く等の困り感) ④友達をつくるポイント ・友達のよいところに気付く「優しい目」と友達の困っていることに気付く「温かい心」 (2)配慮したこと ①児童の発達段階に応じた授業をするために ・出前授業のねらいを明らかにするとともに、対象児童のニーズを把握するために、小学 校の担当者と事前打合せを行った。 ・全校一斉ではなく、低学年と高学年に分けたり、対象学年を絞ったりした。 ②障害に関する正しい知識を与えるために ・児童の発達段階を考慮し、低学年には「ゆっくりタイプの友達」、高学年には「知的障 害」という表現をした。特別支援学級がある場合は、小学校と相談して表現を吟味した。 ・障害の種類や特性に加えて、関わり方のポイントも伝えた。 ③障害を肯定的にとらえるために ・障害に対してマイナスイメージをもたないように、「具体的な支援があれば一人ででき る」ことを強調した。 ④障害を身近な問題としてとらえるために ・みんなで考える場面や「振り返りシート」を活用した事後学習を取り入れて、自分の問 題として意識できるようにした。 ・児童の興味関心を引き出すために、イヤーマフや車いす等の具体的で操作できる教材を 用意した。 -3- ⑤体験を行動に結び付けるために ・「 怖かった」「不便だった」で終わるのではなく、どのような工夫や支援が必要なのか までを伝えて実践的行動に結び付くようにした。 ・出前授業終了後に、天王みどり学園の児童や自校の特別支援学級の児童と触れ合う機会 を設けた。 ⑥教師が障害理解教育を進めるために ・事前学習→出前授業→事後学習の内容と双方の役割を確認にした。 ・障害理解教育を授業としてとらえ、児童にとって「分かる・できる・またやりたい」と 思えるような工夫をした。 Ⅳ 2 新たな取組 ・今年度「居住地校交流」の事前学習として、3校の小学校で出前授業を実施した。障害理解 の内容に加えて、交流対象児のプロフィールや関わるときの配慮点を伝えた。 ・出前授業に合わせて、本校の活動を紹介する「学校展」を開催した。小学校によっては、学 期末PTAと重なり、保護者への理解啓発にもつながった。 3 その他の取組(高校生や地域の人を対象とした「ボランティア講座」の実施) (1)ICF(国際生活機能分類)や図書「1/4の奇跡~強者を救う弱者の話~」を通した 障害のとらえ方 (2)天王みどり学園の紹介 (3)障害の種類や特性と関わり方のポイント (4)心のバリアを取り除く重要性 成果と課題 1 成果 (1)特別支援学校ならではの専門性を生かして、障害に関する適切な知識を与えることができ た。「子どもたちが自然な形で特別支援学級の子どもたちを受け入れ、適切な関わりがで きている」という報告があった。 (2)居住地校交流の事前学習として実施したことで、小学校の児童が交流対象児に親しみをも つとともに、交流活動の意欲を高めることにつながった。 (3)多様な活動や学習形態を用意したり視覚情報を活用したりして、「みんなが分かる・でき る授業」を心掛けた結果、子どもを引き付ける話し方や間、視覚支援の有効性等、授業を 進めていく上で参考になる点があるという感想があった。 2 課題 (1)通常の学級にも特別な教育的ニーズのある児童が在籍し、特別支援学級在籍者が年々増加 している現状を考えると、全ての小学校で児童の発達段階に応じた「障害理解教育」を教 育課程に位置付け、系統的な指導ができるように、モデルとなる計画を提案したい。 (2)実践的行動につなげるために、出前授業を事前・事後学習と関連付ける。小学校と特別支 援学校の役割を明確にするとともに、直接、触れ合う機会を設定する。来年度は、小学校 以外の校種や保護者を対象とした出前授業も計画したい。 (3)特別支援学校のセンター的機能に、新たに「障害理解教育」の出前授業を付加する。県内 の特別支援学校のネットワークを活用して、「障害理解教育」の授業のパターンを共有し たり、より専門性を生かした授業内容を考えたりする。 〈参考文献〉 徳田克己・水野智美 「障害理解~心のバリアフリー理論と実践~」 水野智美 「幼児に対する障害理解指導」 冨永光昭 「新しい障がい理解教育の創造」 〈参考資料〉 ・出前授業の略案とパワーポイント ・男鹿市立脇本第一小学校研究だより -4- ・専門監通信 1 みどり学園の紹介 (ピカピカ王国 バースデーリング) 出前授業の実際 いつも ありがとう! さいごまで がんばったね! だいじょうぶ? ぼくの つかっていいよ!
© Copyright 2024 ExpyDoc