接地抵抗計 FT6031

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接地抵抗計 FT6031
接地抵抗計 FT6031
竹内 英樹*1
要 旨
接地抵抗計FT6031は,大地に埋め込んだ接地極と大地との間の抵抗を測定するための機器である.準備・片
付けを含めた測定作業にかかる時間の大幅な削減を実現した.また,屋外の過酷な使用環境を考慮してIP67の
防じん・防水構造を備えた.ここに製品の特長について解説する.
1. はじめに
接地とは一般的に電気設備を大地に接続すること
である.人体の感電や漏電事故の防止,落雷などに
よる異常電圧から設備を保護することを目的として,
今日では電気を利用するあらゆるところに接地工事
が施されている.1)
電気の安全は,電気設備に関する技術基準を定
める省令にて要求される技術的内容を具体的に示し
た「電気設備の技術基準の解釈」で詳細に規定され
FT6031 の外観
ている.この中で接地工事は A~D 種に分類され,
それぞれに接地抵抗値を定めている.
接地抵抗の測定には従来,3 電極法が用いられて
きた.この測定方法は測定したい接地極(E)とは別に,
電流を流すための補助接地極(H),電圧を測定する
3. 機能・特長
3.1 ワンタッチ自動測定
ための補助接地極(S)を設けて測定をおこなう.しか
接地抵抗を測定する前に,測定に影響を与える 2
し,これらの補助接地極は簡易的な接地のため,接
つの要因を考慮する必要がある.第一の要因は漏え
地抵抗は総じて大きくなりがちである.とりわけ乾燥し
い電流が地中を流れることで生じる地電圧と呼ばれ
た土壌では補助接地極の抵抗値が許容範囲を超え
るノイズ,第二の要因が補助接地極の抵抗値である.
てしまい,接地抵抗の測定ができないことがある.こ
これらが許容範囲内であることを確認して初めて接
の場合,抵抗値を下げるために周囲に水をまき,補
地抵抗の測定が可能になる.従来はこれらの確認を
助接地極を何度も打ち直す作業が必要であった.ま
一つひとつ手作業で実施していたが, FT6031 は
た,接地抵抗計と補助接地極を接続するのに最長
MEASURE ボタンを押すだけですべてを確認し,許
20 メートルの測定コードを引き回すため,準備・片付
容範囲内であれば接地抵抗の測定まで自動で実施
けに時間がかかりユーザは苦労をしていた.
する.
FT6031 はこれらの問題を解決してユーザの要求
測定終了後は DISPLAY ボタンを押すことで,各補
助接地極の抵抗値と地電圧の値を確認できる.
に応える接地抵抗計である.
3.2 オートレンジ
2. 概要
接地抵抗の大きさに応じて,20/200/2000 Ωの 3
FT6031 はデジタル式の接地抵抗計である.補助
接地極の抵抗値の許容範囲を従来の 10 倍に拡大し
レンジの中から最適なレンジが自動的に選択され
る.
たことで,補助接地極を何度も打ち直す作業が大幅
に削減できる.さらに付属の巻き取り器を使用するこ
とで測定コードの巻き取り時間を従来の半分に短縮
でき,準備・片付けを含めた測定作業の効率を大幅
に向上させた.
*1 技術部 技術5課
日 置 技 報 VOL.36 2015 NO.1
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接地抵抗計 FT6031
図1
FT6031 のブロック図
3.3 補助接地極の抵抗値の許容範囲を拡大
3.6 ドロッププルーフ
補助接地極(H)の抵抗値が大きいほど地中に流す
プロテクタを装着することで,コンクリート上に高さ
測定電流は小さくなる.微小信号をどこまで測定でき
1 メートルから落下させても壊れない堅牢な設計であ
るかで,補助接地極の抵抗値の許容範囲が決定さ
る.
れる.
FT6031 は従来比 10 倍となる 50 kΩまで許容範囲
を拡大した.これにより補助接地極を打ち直す作業
を大幅に削減できる.
3.7 国際規格
接地抵抗計の国際規格である IEC61557 に適合し
ている.
3.4 防じん・防水構造
砂埃の舞う過酷な環境下での使用に耐えるため
FT6031 は防じん性を向上させた.また,地面に測定
器を置いて使用するため,測定器本体を丸洗いでき
るように防水性を高めた.深さ 1 メートルの水中に 30
分間沈めても測定器の内部に浸水しない構造であ
る.
4.1 接地抵抗測定
接地抵抗測定の基本原理は,対象に正弦波信号
を印加し,電流信号と電圧信号をそれぞれ測定して
演算処理している.
図 1 に全体のブロック図を示す.測定信号は,
CPU から出力される搬送波周波数 8.192 kHz の
3.5 巻き取り器付き測定コード
最長 20 メートルの測定コードを効率よく巻き取るた
め,巻き取り器を用意した.リールに巻き付けただけ
の従来の簡易な構造に比べて,2 倍以上の速さで巻
き取ることができる.
4. 原理
PWM(Pulse Width Modulation) 信 号 を , BPF(Band
Pass Filter)で復調した周波数 128 Hz の正弦波であ
る.
正弦波は増幅回路で振幅を増幅する.この正弦
波出力回路は定電圧源である.電流制限用インピー
ダンスには直流成分を除去するためのカップリングコ
ンデンサを含むため,接続される負荷によって流れ
る電流信号の大きさと,電流信号と定電圧源の位相
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差が異なる.そのため電流の大きさと位相差を求め
るために,定電圧源との位相差が 0°,と 90°の 2 つの
参照信号で電流信号を同期検波している.測定値
H
Oscilator
S
Synchronous
rectifier
の実数成分を IRe,虚数成分を IIm とすると,電流信号
の絶対値|I|,定電圧源との位相差θは式(1),式(2)で
算出される.
I = I Re + I Im ............................................. (1)
2
Galvano
meter
2
Reference
Resistance
(Rref)
 I Im 
 ............................................... (2)
 I Re 
θ = tan −1 
1:n
測定対象には純抵抗成分である接地抵抗以外に,
インダクタンス成分や容量成分が含まれる.後者は
E
電流信号と電圧信号の間に位相差を生じる原因とな
る.純抵抗成分のみを求めるためには,電流信号と
図2
3151 のブロック図
図3
FT6031 の概略図
同位相の電圧信号を測定しなければならない.
そこで式(2)で算出した位相差θに基づき,電流信
号と同位相の参照信号を CPU から出力し,電圧信
号を検波する.測定値を VRe とすると,接地抵抗 Rx
は式(3)で表される.
Rx =
VRe
=
I
VRe
I Re + I Im
2
................................. (3)
2
従来機種であるアースハイテスタ 3151 のブロック
図を図 2 に示す.3151 では交流電位差方式を利用
しており,基準となる摺動抵抗器に測定電流を流す
ことで生じる電圧と,接地抵抗に生じる電圧が等しく
なるように基準抵抗を調整することで抵抗値を測定し
ている.
E 端子に流れこむ電流を I とすると,トランス二次側
に流れる電流は巻き数比の逆数倍されるため,基準
抵抗 Rs に生じる電圧は RsI/n となる.一方,S 端子で
は接地抵抗 Rx に電流 I が流れることで生じる電圧 RxI
を検出する.両者が等しくなるように基準抵抗 Rs を調
整することで接地抵抗 Rx は式(4)で求められる.
Rx =
Rs
.......................................................... (4)
n
このように 3151 は電流,電圧の値を個々に測定す
るのではなく,基準抵抗との比で測定抵抗を求める
例えば H 端子~E 端子間の抵抗値 Rhe を測定する
ために,電流が H 端子~E 端子間に流れ,電圧計が
H 端子~E 端子間に接続されるようにリレーを制御す
る.Rhe は式(5)で表される.
Rhe = Rh + Re ................................................... (5)
同様にして,H 端子~S 端子間の抵抗値 Rhs と S
端子~E 端子間の抵抗値 Rse は式(6),式(7)で表され
る.
のに対し,FT6031 は電流信号と電圧信号の個々の
Rhs = Rh + Rs ................................................... (6)
値を測定して抵抗値を算出する点が特長である.
Rse = Rs + Re ................................................... (7)
式(5)~式(7)の連立方程式から補助接地抵抗 Rh と
4.2 補助接地抵抗の自動測定
図 3 に FT6031 の概略図を示す.H,S,E 各端子
の直近に配置したリレーを切り替えて,計 3 回の測定
結果から補助接地抵抗 Rh,と Rs の値を算出してい
る.
Rs は式(8),式(9)で算出される.
Rhe + Rhs − Rse
........................................ (8)
2
− Rhe + Rhs + Rse
..................................... (9)
Rs =
2
Rh =
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接地抵抗計 FT6031
5. 構成
5.1 ハードウェア
Upper case
Rubber
switch
Shock
absorber
(1) 正弦波出力部
測定信号となる正弦波は,CPU の PWM 機能を利
LCD
(liquid crystal
display)
用して生成している.周波数 8.192 kHz で変調され
た正弦波を BPF で搬送波成分と直流成分を除去し
て復調した後,増幅回路で振幅を 0.5 V rms から 28
Rubber
seal
Under case
V rms に増幅している.
正弦波出力部は定電圧源として機能するため,接
続される負荷によって流れる電流が異なる.そのた
め電流制限用インピーダンスで負荷に流れる最大電
Protector
Cover
流を 25 mA rms 以下に制限している.
図4
(2) 電流測定部
本体構造
H 端子から E 端子に流れ込んだ測定電流は,I-V
コンバータで電圧に変換したのち,同期検波で信号
Auxial rod
成分のみを抽出している.位相の異なる 2 つの参照
信号で検波するため,2 つの同期検波回路に電流
Rod holder
信号を入力している.検波された信号はカットオフ周
波数 9.5 Hz の LPF で帯域制限している.
Roll
(3) 電圧測定部
S 端子で検出した電圧信号は,電流信号と同位相
の参照信号で検波している.測定信号以外の周波
Foot
stand
数成分を除去するために,検波後にカットオフ周波
数 4 Hz の 3 次 LPF を設けて帯域を制限している.
また,3 桁以上のダイナミックレンジで測定するため
図 5 L9842 の外観
に,1~200 倍のゲインアンプで信号レベルを調整し
ている.
(6) ピーク電圧測定部
(4) A/D コンバータ
高調波成分を含む地電圧ノイズのピーク値が測定
電流信号と電圧信号の A/D 変換は CPU に内蔵さ
器の許容範囲を超えていないことを確認するために,
れた 2 つのΔΣ A/D コンバータで行っている.独立
AC/DC 電圧測定回路とは別に,ピークホールド回
したモジュールであるため,電流・電圧を同時に A/D
路を設けてピーク電圧を測定している.A/D 変換は,
変 換 す る こ と が 可 能 で あ る . OSR(Over Sampling
CPU に内蔵された 10 ビット逐次比較型 A/D コンバ
Rate)は 32~1024 の間で可変できるため,用途(高速,
ータを使用している.
高分解能)に応じて使い分けている.
5.2 機構
(5) AC/DC 電圧測定部
地電圧ノイズの AC 成分と DC 成分を測定するた
(1) 本体
めに,AC/DC 電圧測定回路を設けている. AC 測
図 4 に FT6031 の本体構造を示す.本体は主に上
定回路では 3.2 Hz~5.3 kHz の BPF,DC 測定回路
下ケース,基板,電池カバー,プロテクタで構成され
ではカットオフ周波数 2.6 kHz の LPF で帯域を制限
ている.
しており,AC 成分と DC 成分を交互に測定して,より
• 防じん・防水構造
上ケースと下ケースの間,および下ケースと電池
大きい成分を測定値として表示している.
カバーの間にパッキンを挟み込む構造とした.また,
測定端子部は端子金具を上ケースにインサート成形
することで防じん・防水性を実現した.
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5
接地抵抗計 FT6031
Accuracy [% rdg.]
• 操作部
筐体正面に水や粉じんが蓄積することを防ぐため,
操作ボタン部は段差と隙間がないシートキーとした.
さらに絶縁を確保するため,シートキーで操作スイッ
チを押し込む構造とした.
• LCD 周辺部
落下衝撃による LCD 割れを防止するため,LCD
周りに緩衝材を配置した.
6
5
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
FT6031
3151
1
10
• プロテクタ
地面に置いた際,底面から砂が浸入しないように
100
1k
Earth resistance [Ω]
図6
確度
(2) 補助接地棒 L9840
従来品の太さがφ11 mm に対してφ6 mm に変更す
ることで,地面への挿しやすさを追求した.また,強
度を確保するため,ステンレス素材を使用している.
(3) 巻き取り器付き測定コード L9842
図 5 に L9842 の外観を示す.ケーブルをスムーズ
に引き出すため,ロールの回転軸を細くして摩擦抵
Measurement value [Ω]
袋形状とした.プロテクタは取り外し可能である.
10.2
10.0
9.8
9.6
9.4
FT6031
9.2
3151
9.0
0
抗を減らした.補助接地棒と測定コードは一緒に持
5
10
Earth voltage (60Hz) [V rms]
図7
ち運ぶことから,側面部には,補助接地棒を収納で
地電圧(60Hz)の影響
きるホルダーを設けた.
6. 特性
6.1 確度
図 6 に FT6031 の確度について示す.FT6031 の
確度はリーディング誤差と呼ばれる指標を用いる.こ
れは真値に対して測定値がどの程度の誤差を持つ
のか表したものである.比較のため当社従来機種で
図 8 地電圧(DC)の影響
ある 3151 の測定結果を示す.1 Ω~1 kΩの測定範
囲において FT6031 は極めて誤差が小さいことがわ
かる.
6.2 地電圧ノイズの影響
図 7,図 8 は測定抵抗 10 Ωと直列に電圧発生器
を接続し,測定系に模擬的に地電圧を混入させた結
果である.製品が保証する 10 V 以上の電圧を入力し,
実力確認をおこなっている.FT6031 は同期検波後
の急峻な帯域制限により,地電圧の影響を受けにく
い特性である.
図 9 補助接地極(H)の抵抗の影響
日 置 技 報 VOL.36 2015 NO.1
15
6
6.3 補助接地極の抵抗の影響
図 9 は補助接地極(H)の抵抗値を,図 10 は補助接
地極(S)の抵抗値を 10 Ω~50 kΩに変化させて 10
Ωの抵抗を測定した時の測定値への影響を表して
いる.FT6031 は補助接地極の抵抗値が 50 kΩであ
っても測定値への影響はほとんどないことがわかる.
Measurement value [Ω]
接地抵抗計 FT6031
14
12
10
8
6
FT6031
4
3151
2
0
10
100
1k
10k
Auxiliary earth(S) resistance [Ω]
7. おわりに
図 10 補助接地極(S)の抵抗の影響
FT6031 は現場での作業効率を向上させるとともに,
高い耐環境性を実現した接地抵抗計である.ユーザ
に幅広く使っていただければ幸いである.
斎藤 竜太*2, 宮沢 健明*2, 吉池 哲也*3
参考文献
1) 川瀬太郎,高橋健彦:接地技術入門,1/33,オー
ム社(1986)
日 置 技 報 VOL.36 2015 NO.1
100k