平 成 27 年 研度究 報 告教 授 客員 場の変化を考慮した粒子軌道解析 ∼プラズマと室内気流を場として∼ 大学院理工学府 電子情報部門 准教授 高橋 俊樹 1.研究室の紹介 軽い微 粒 子であれば( 極 端に言えば、空 気中に 私の研究室では、粒子(プラズマ中のイオンや 含まれる分子も微粒子と見なせます)空気の流れ 電 子、または空 気中の微 粒 子 )の挙 動 解 析を研 が微 粒 子の運 動そのものになります。したがって、 究ツールの1つとしています。 粒子軌道を計算する必要はありません。ところが、 我々の研 究 室が取り扱っているプラズマは、主 スギ花 粉は直 径が 30μm あり、比 較 的 重い粒 子 に核 融 合 発 電を目指した完 全 電 離プラズマで、こ となるため、重力の影響が無視できません。よって、 のプラズマは磁 場によって閉じ込められています。 空気の流れの計算と粒子軌道解析の両方が必要 時 間 変 化しない固 定された磁 場におけるイオンや となります。 空 気 清 浄 機 の 生 成 する気 流は乱 流 電 子の運 動を解 析 することは、それほど 難しくは であり、 時 間とともに変 化します。そのため、 乱 ありません。 運 動 方 程 式を時 間 積 分すればよいだ 流解析と粒子軌道解析は、同時進行で計算させ けですから。しかし、イオンや電 子の運 動は、 電 る必 要 があります。プラズマの 計 算と異なり、 計 流となり磁 場を生成します。この磁場は、イオンや 算 時 間を支 配しているのは、 乱 流 解 析 です。こ 電 子の運 動にも影 響します。ところが、 実 際のプ れまで、実時間で 1200 秒(20 分)の乱流解析 ラズマ粒 子 全ての軌 道を計 算することは不 可 能で に、半月ほど要していました。しかし、グラフィック す。そこで、超粒子と呼ばれる代表粒子を取り扱 ボードを使 用した GPGPU 計 算によって、計 算 時 いますが、それでも数 100 万∼数 10 億個の粒子 間の約 1 日に短 縮することができるようになったた 軌 道を追 跡する必 要があります。 私たちは、 図 1 め、様々な状況下での解析が可能となりました。 に示すように、1 台 10 万円程 度のパソコンを組み 合わせて、 並 列 計 算させています。 電 磁 場の時 間発展よりも粒子軌道計算の方にはるかに時間が か かるため、 粒 子 軌 道 計 算を並 列 処 理していま す。 例えば 32 個の CPU で 3200 万 個の粒 子 軌 道を計 算 する場 合、1 個 の CPU は 100 万 個 の 粒子軌道を追跡するだけでよくなります。 空気中の微粒子として我々の研究対象となるの は、 室 内 の 空 気 中に浮 遊 するスギ 花 粉などのア レルゲンです。 一 般 家 庭 で使 用される空 気 清 浄 機のアレルゲン除 去 効 率を高めることが 研 究目的 となります。 空 気中の微 粒 子 挙 動を解 析するため には,空 気の流れを知る必 要があります。 非 常に 図 1:研究室の並列計算機 − 52 − 以 下の節では、プラズマ中と空 気 中の粒 子 軌 資金を集めて装置製作および実験がなされており、 平 成 27 年 度究 報 研 告教 授 客 員 道について、私たちの研 究 成 果や共 同 研 究の状 日本とは状況がずいぶん異なり ます。 況をご紹介したいと思います。 3.室内気流における粒子軌道解析 2.プラズマにおける粒子軌道解析 空 気 清 浄 機は、 春のスギ 花 粉のシーズンに花 前 節で述 べたように、私たちは磁 場で閉じ込め 粉 症 対 策 の目的 で一 般 家 庭に広く普 及していま られた完 全 電 離プラズマを研 究 対 象としており、 す。しかし、空気中のスギ花粉は容易に取り除け 核融合発電を目指しています。原研や核融合研、 るのでしょうか。 空 気 清 浄 機は、壁 際など生 活に そして大学が主な研究機関となり、装置設計・開 支障を来さない場所に設置されるのが通常ですの 発を企 業が請け負う形で、核 融 合 研 究が組 織 化 で、 室 内 全 域に循 環 気 流を生 成 するためには、 されています。したがって、 我 々の 研 究 が 民 間 部 屋 サイズに応じて十 分 大きな流 量 が 必 要となり 企業に幅広く興味を持って頂けるとは思いません。 ます。 その 上、たばこの 微 粒 子 は 直 径 0.4nm、 プラズマの輸送、平衡、不安定性などの物理テー カビの胞 子は 10μm 以 下であるのに対して、スギ マや、プラズマの外 部 加 熱、電 流 駆 動、粒 子 供 花 粉は 30μm 程 度と比 較 的 大きいため重 力の影 給などの工 学テーマに関するシミュレーションの研 響を受けやすく、 気 流で空 気 清 浄 機まで導くこと 究 成 果は、主に実 験グループに対して発 信されま が難しくなります。このようなことから、我々の研究 す。 例えば、 高 温プラズマへの新 燃 料 供 給 法と 室では、 して、より小 型のプラズマを一 旦中性 化して入 射 1) 複 数 台の空 気 清 浄 機またはサーキュレータと する方 法 が 兵 庫 県 立 大 学を中心に検 討されてい の連携運転による花粉除去 ましたが、我々のグループは中性 化の可 能 性を粒 2) 花粉輸送能力の高い気流生成 子追跡とモンテカルロ法で明らかにしました。小型 の観 点で検 討を進めています。 図 3 は天 井 設 置 プラズマを高 速 射 出する技 術を利 用し、 高 速 中 型の補 助 装 置で上 昇 気 流を生 成している様 子で 性 粒 子フローを生 成することが目的です。 図 2 は す。 上 昇してきた花 粉を根こそぎ取るのが目的で 小 型プラズマの密 度 分 布の時 間 変 化を円筒 座 標 す。 系の r-z 平 面で表しています。中性 化セル長を 1 m 通 過すれば、 小 型プラズマはほぼ 100% 中性 化することが分かりました。実験グループとの研究 打ち合わせは、大 学 共同利 用機 関 法 人である核 融合研の共同研究を利用しています。 しかしこの 度、カナダの HOPE innovations inc. の提唱する革新的核融合方式に対するシミュ 図 3:補助装置がある場合の室内気流分布 レーション研究で、共同研究を開始できました。 北 米では、 核 融 合 研 究においても投 資 家から 4.これから目指すこと ここでは、 粒 子 軌 道 解 析という研 究ツールにつ いて説 明しました。これだけではなく、 通 常の流 体や電磁流体のシミュレーション、弱電離プラズマ のモンテカルロシミュレーション、などプラズマ応用 技術の性能評価や装置開発の設計指針を提示で きる、様々なシミュレーション技術を持っております。 図 2:イオン密度の時間変化 是非ご協力させて頂ければと存じます。 − 53 −
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