平成 26年度 近畿大学工学部建築学科卒業研究概要 44.伝統的木造建築物における自己拘束型耐震要素の開発 -矩形長押構造要素の提案1010920068 指導教員 加集開人 松本慎也 准教授 伝統的木造建築 矩形長押 維持・保全 1.はじめに 伝統構法と在来工法の違いについて、柱を使って家を 建てるという工法を木造軸組工法と言い、筋交、付属金 物や構造用合板で壁量を確保して壁量の確保で家を建て るという工法を在来工法と言う。伝統構法は壁量に頼ら ず、構造架構、即ち木組み(継手や仕口等)そのもので家 を建てるという事で、壁に力を求めず単なる間仕切りと 考え、大きな木を柱と梁として力強く組み合わせる事に よって耐力を生み出す工法である。伝統構法は、現在の 在来工法とは構造の考え方が異なり、例えば地震に対し ての考え方は、地震が起こった際にその力をどう逃がし ていくかの考え方が、伝統構法は免震的構造、在来工法 は耐震的構造となっている。外力を受けても、しなり、 曲がり、力を逃がす。この様な「柔」な木の特性を自然 図2 矩形長押、引独鈷 な形で利用しているのが伝統構法であり、この構法を利 用した建築物を伝統的木造建築と言う。 一般に木造建築・和室に用いられてきた長押は、主に 意匠部材としての位置付けにある。伝統的建築物におい て、従来は楔が緩む事で耐力が失われていたものを、本 研究では本来意匠的部材である長押を構造体として用い、 楔を拘束して耐力向上を図る。又、意匠・構造の調和を 目指す他に無い新しい試みとして自己拘束型耐震要素の 開発を進める。 2.実験計画 図3に示す試験体の躯体は上から頭貫、内法貫足固め と3つの横架材から成っており、この3本が伝統的木造 建築における基本形である。その内法貫と柱のクリアラ ンスへ図1で示す楔を打ち込み圧迫・固定する。打ち込 み後、柱面より外へ出ている楔を切り落とし、楔が緩ん で抜け出ない様に図2で示す矩形長押を引独鈷を用い取 図3 試験体躯体 り付ける。 実験は3回に分けて行う。まず最初に矩形長押を取り 付けていない試験体1で実験・計測を行う。次に内法貫 部分の楔を切り落とし、試験体1と同様の躯体に矩形長 押を取り付けた試験体2で実験・計測を行う。そして最 後に試験体1・2で使用した楔を高圧縮したヒノキを用 いた楔に取り替え矩形長押を取り付け試験体3で同様に 実験・計測する。又、計測は変形角γ=1/15迄行う。 但し、試験体1に限り変形角γ=-1/30迄の計測とする。 本試験体の躯体に使用する木材については、柱、頭貫 図1 には松の集成材、楔や各躯体には松を使用している。 楔 Development of Self-enforcing Seismic Elements for Japanese Traditional Wooden Structures KASHU Kaito 建築材料研究室 -Proposal of New Structural Elements -87- 平成 26年度 図4 図6 試験体全体図面 近畿大学工学部建築学科卒業研究概要 矩形長押有り(No.2)と矩形長押有り+高圧縮ヒノ キ楔(No.3) 3.実験結果 試験体3は試験体2より初期剛性が大きく、全体的に も耐力がやや上昇したという結果に加え、滑りが軽減さ れた。試験体3で高圧縮したヒノキを楔として用いた事 で試験体2の実験時に用いた楔よりも楔の硬度が上昇し 楔としての役割を十分に果たせた事が主な要因として挙 げられる。又、矩形長押が楔の抜け出しを抑え、同時に 柱を掴み固定する効果を出したのだと考えられる。当実 験で、楔の性能も重要だという事が成果として得られた。 図5 矩形長押無し(No.1)と矩形長押有り(No.2) 写真2 試験体1は試験体2より初期剛性が大きいという結果 写真3 となった。これは試験体 2 の実験で試験体1と同様の躯 体を使用した為であると考えられ、実際に残っている社 寺・仏閣等を対象とした維持・保全が本研究の目的であ るので実用性を加味した実験方法だと言える。又、変形 角が 1/30 の時の両試験体の耐力は 10.0kN で同様であっ た。当実験では矩形長押を取り付け楔の抜け出しを抑え 写真4 ても、写真1に示す様に中で楔が押し潰され、耐力が向 写真5 4.総括 上しにくいという成果が得られた。 耐力は多少向上したが、現時点では実用するには難し い結果となった。改善案としては、足固め部分にも長押 をつけ、長押に木ダボを打つ。更に長押を内法貫と足固 めにも固定する。又、用いる長押や楔の材質・形状、母 材との硬度バランスにおいても考慮する必要がある。 参考文献 1)建築構造システム研究会編,図説テキスト 建築構造 構造システムを理解する,pp.24~28,彰国社,1997 年 2)河内武,貞広修,木村誠,近藤一夫,伝統架構におけ る改良型長押の提案とその接合部実験,日本建築学会報 写真1 楔の破壊形状 告集 第 19 巻 第 42 号,531-536,2013 年 建築材料研究室 -88-
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