No.41

校長便り41「道徳指導資料」
~中学校1年読み物資料「おばあちゃんの指定席」の指導~
平成27年4月24日(金)
「恩」という字は、「口」と「大」と「心」から成っていると言われます。「口」は、ふとん
を意味します。「大」は、人が手足を伸ばしている姿です。何のおかげで、このように手足を伸
ばしていられるのか、と思う心が恩を知るということなのかもしれません。自然の恵みに感謝す
る心、祖先や親に感謝する心、先生や先輩の教えに感謝する心、友人に感謝する心、近所の人々
に感謝する心・・・・・・・そんな感謝する心を育てていきたいものです。
さて、今回の校長便りは、中学校1年の読み物資料「おばあちゃんの指定席」を活用した指導
資料についてまとめたものです。小学校と中学校の道徳授業の系統性について、ご理解いただく
一助になれば幸いです。
Q1.中学校の指導において、内容項目2-(2)についてどのような分析が求め
れるのでしょうか。
◇
内容項目2-(2)の分析
○
低学年2-(2)
幼い人や高齢者など身近にいる人に温かい心で接し、親切にする。
○
中学年2-(2)
相手のことを思いやり、進んで親切にする。
○
高学年2-(2)
だれに対しても思いやりの心をもち、相手の立場に立って親切にする。
○
中学校2-(2)
温かい人間愛の精神を深め、他の人々に対し思いやりの心をもつ。
【価値実現の対象】
低 身近な人
【内容項目の取扱い】
【発達段階への対応】
温かい心で接し、親切にすることの 自己の行為の意味に気付く段階
学 (幼い人や高齢者等 価値を意識付ける段階
(道徳的価値に気付く)
年 )
*自意識の芽生え
中 児童が接する人
相手の困難な状況を思いやり、親切 自己の考え(価値観)の変容に気付き
学
にしようとする価値観を高める段
、生き方へつなげる段階
年
階
*他意識の芽生え
高 児童が接するすべて 相手のためになる思いやりや親切
自己の考え(価値観)の変容を自覚し
学 の人
、生き方へ広げる段階
について深く考えさせる段階
年
中 他者(他の人々)
思いやりの心や親切心は、人間尊重 自己の考えの変容を自覚し、よりよい
学
の精神につながるものであること
校
を自覚させる段階
生き方を求め広げる段階
ら
Q2.年間指導計画における位置付けを踏まえながら、授業「おばあちゃんの指定
の「ねらい」をどのように設定すればよいのでしょうか。
◇1
席」
「ねらい」の設定
相手を思いやることの大切さを理解しながらも、それを言動に表せない人間の一面に気付か
せながら、他者に対して思いやりのある行為を実践するためには、その時の状況を考えた判断
力、決断力、実行が大切であるということがわかり、進んで実践しようとする態度を育てる。
◇2
「ねらい」の構造
A~相手を思いやることの大切さを理解しながらも、それを言動に表せない
B~他者に対して思いやりのある行為を実践するためには、その時の状況を考えた判断力、決断
力、実行が大切であるということがわかり進んで実践しようとする
C~(道徳的)態度
D~育てる
A・ねらいとする価値に係る「人間としての弱さ」
B・ねらいとする価値に係る「人間としての強さ(良さ)」
C・道徳的実践力(主としてねらう様相~心情、判断力、態度等)
D・道徳的実践力育成へのアプローチ(培う・養う・育てる)
「ねらい」
◇3
= A +
B + C +
D
年間指導計画における主題配列の工夫
○
主題相互の関連の検討
○
道徳的実践力(心情・判断力・態度・意欲等)を踏まえた「ねらい」の設定
○
内容項目の分析
○ 資料選定の工夫
Q3.資料「おばあちゃんの指定席」において、「ねらい」を踏まえながら主人公
言動をどのように捉えればよいのでしょうか。
他者に対して思いやりのある心のこもった言動(心情)
気持ちがおさまりません
ゆう子はもっとうれしくなりました
「・・・絶対に来てね。おばあちゃんの指定席だからね。」
喜んでくれるおばあちゃんの顔を思い浮かべながら
急になみだがポロポロと出てきました
主人公の価値観
人間関係の深さの違いに関わらず、困っている人がいたら助けたいと思う。
そこには打算的な考え方はない。おばあさんや男の人に対して、同じように人
を大切に思う気持ちがある。道徳的心情が育っている。
人間尊重の精神に基づいた判断力・決断力・実行に係る言動
思い切って立ち上がると、おばあさんに声をかけました
「あっ。」と声を上げると、立ち上がっていました
もう一度男の人の足を・・・じっとしていられなくなりました
「これでいいんだ。」と一生けんめいに自分に言い聞かせました
主人公の価値観
相手のおかれている状況を考え、どうすればよいかという判断力、決断力、
実行に係る価値観を有している。 そこには人を大切に思う「人間尊重の精神
」が脈々とながれている。道徳的判断力が育っている。
の
Q4.「ねらい」に迫るための発問構成はどうあればよいのでしょうか。
また、生き方を求め広げる発問はどのような発問なのでしょうか。=主人公の言動の
評価
◇ 展開前段における発問構成
①
主人公の言動の中で、思いやりの心が感じられるところはどこですか。自分で感じたとこ
ろを発表してください。友だちと同じところでもいいですよ。
②
それぞれの言動の中には、主人公のどんな気持ちや考えがあるのでしょうか。皆さんが①
で発表してくれたところを考えていきましょう。
③ 「かわってあげたいな。でも、おばあちゃんとの約束もあるし・・・。」の場面について
話し合
いましょう。(※主人公の言動の評価)
○
このように悩む主人公をどう思いますか。
○
こんなことで悩む必要があるのでしょうか。すぐに男の人に席を譲ってあげればいいの
ではないですか。
○
男の人が困っているのに、知り合いの人(おばあさん)を優先的に考えるなんて、あん
まりではないですか。
○
④
知り合いの人(おばあさん)を優先的に考えることはいけないことでしょうか。
おばあさんや男の人に席を譲るという行為へと主人公を突き動かしたものは、いったい何
だったのでしょうか。
おばあさんや男の人に対してとった主人公の言動から、どんなことに気づかされましたか。
Q5.生徒の発達段階を踏まえた指導は、特にどの段階でどのように展開すればよ
のでしょうか。(Q1関係)
◇1
い
展開後段における学習活動の工夫
道徳的価値の内面的自覚の在り方を追求する中で、学習指導過程における展開後段を中心に、
道徳的価値の深まり、高まりを自覚させるための学習展開の方法を工夫する。
◇2 価値の内面的自覚の「すがた」例
ア
これからの自分に求めたいことが
わかった
イ
今まで気付かなかったことに
気付いた
ウ
もやもやしていたことが
はっきりした
エ
わかっていなかったことが
わかった
オ
迷っていたことが
確かになった
カ
足りない点が
補えた
キ
わかっていたいたことが
しみじみわかった
ク
わかっていたことが
よくわかった
ケ
今まで思っていたことが
違うものに変わった
以上の内容を価値の内面的自覚の「すがた」として捉え、展開後段の学習活動の中でいくつかの項目を生徒
に示し意識させることで、価値の内面的自覚の深まり、高まりを自覚させる。
◇3 展開後段における学習活動及び内容の工夫
具体的に、価値の内面的自覚の深まり、高まりを自覚させる展開後段の学習活動及び内容を計画する。
【学習活動及び内容例】
段 階
学習活動及び内容
1 表を見て話し合う。
指導上の留意点
・ 価値の内面的自覚の内容を表にまとめ記号
資料準備
化 資料
して示し、自分はどの内容に近いかを自己 決定さ 「内面的自覚
展
開
せ、2の活動へとつなげる。
2 選択したわけについて
話し合う。
後
のすがた」
・ なぜそれを選択したかを問うことにより、 価
値の内面的自覚の深まり、高まりを意識さ せると
同時に、他の考えを聞くことで自己の 考えに付加
したり修正したりさせる。
段
3
まとめる。
・ 学習したことの成就感をもたせ、終末段階
へと導く。
◇4
①
発達段階を考慮した展開後段の在り方
小学校低学年【自己の行為の意味に気付く】
これまでの生活の中から、ねらいとする価値に係る経験や体験を振り返らせる。指導者は、
経験や体験における道徳的価値観(心情、行為、判断等)の意味付けをする。
②
小学校中学年【自己の考え(価値観)の変容に気付き、生き方へつなげる】
これまでの生活の中から、ねらいとする価値に係る経験 や体験を振り返らせる。指導者は、
経験や体験を通して「気付かなかった自分、もやもやしていた自分」等に気付かせる助言を
③
行う。
小学校高学年【自己の考え(価値観)の変容を自覚し、生き方へ広げる】
内面的自覚の「すがた」をいくつかの項目で示し、自己の考えに最も近い内容を選択させ
る。指導者は、これまでの考え方と展開前段の学習後の考え方を比較して自己の考えの変容
を自覚さ
せるため、選択した理由を問いながら過去の経験や体験を引き出す発問を行う。
④
中学校【自己の考え(価値観)の変容を自覚し、よりよい生き方を求め広げる】
「ア
これから自分に求めたいことが
わかった」(Q5の◇2)など、内面的
自覚の「すがた」をいくつかの項目で示し、自己の考えに最も近い内容を選択させる。
指導者は、これまでの考え方と展開前段の学習後の考え方を比較して自己の考えの変容を自覚させるため、
選択した理由を問いながら過去の経験や体験を引き出す発問を行うとともに、これからの自分に何を求めていく
かについて話し合うなど、これからの生き方へ広げる助言を行う。