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厚生科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)
分担研究報告書
高度な下肢変形に対してイリザロフ法により変形矯正・延長を行った
先天性脊椎・骨端異形成症
研究協力者 才野 均1)、松山敏勝1)、門司順一2)
1)北海道立札幌肢体不自由児総合療育センター
2)クラーク病院整形外科
要約 急速に進行する両大腿骨近位部内反変形、遠位部外反変形、および左脛骨
近位部内反変形をもつ先天性脊椎・骨端異形成症の12才の女児に対し、イリザロ
フ法を用いた変形矯正を行った。その結果、Neck shaft angleハは右では術前41
0が術後97。、左では術前59。が術後970と改善した。Axial lateral distal
femoralangleは右では術前66。が術後840、左では術前73。が術後80。と改
善を示した。左のmedialproximal tibialangleは術前68。が780と改善した。
それにともない、下肢機能軸の異常も改善され、下肢痛も消失した。今後、長期
的予後の注意深い観察が必要である。
【はじめに】
また、骨幹端では横径増大を認めた(図1A)。脊椎で
先天性脊椎・骨端異形成症(Spondylo epiphyseal
は、椎体は前方が後方に比べて高い扁平椎を呈し、
dysplasiacongenita以下SEDC)は、1966年に
SprangerとWiedeman1)が、Morquio病として一
高度の腰椎前蛮を認めた(図1B)。尿中ムコ多糖な
どの生化学検査には異常はなかった。以上の臨床経
括されていた体幹短縮型低身長の中から初めて独立
疾患として提唱した疾患である。臨床像は、出生時
発現の短体幹型低身長や、短頚、樽状胸郭、胸椎後
蛮、腰椎前蛮などの体幹変形とともに、四肢では、特
に近位関節において、骨端軟骨の合成障害ゆえに、
著しい変形や関節症が出現する。そのため早期に歩
行機能が失われることが多く治療に難渋する。今回
われわれは、著しい内反股および外反膝に対してイ
リザロフ法を用いた矯正脚延長を行ったSEDCの一
例を報告する。
【症例】
図屡.初診X−P
症例:12才女児
主訴:右大腿と膝の疹痛
家族歴:血族結婚はなく同様の症状を呈するものは
(A〉衝下肢正面 (B〉全脊椎側面
いない。
現病歴:妊娠出産経過中、異常はなく、生下時身長
は43.5cm(一2.8SD)、体重は2890g、頭囲は34cm
であった。運動発達は頚定9ヶ月、寝返り1才、四
つ這い1才3ヶ月、独歩2才4ヶ月と遅れ、歩行開
始時より家鴨様の動揺性歩行を認めた。言語および
精神発達は正常であった。7才時、診断未確定のた
め当センターを初診した。初診時のX線所見は、両
下肢では大腿骨頭核の骨化は認めず、大腿骨遠位、
脛骨近位の骨端核は扁平化し辺縁が不正であった。
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図2.下肢アライメントの経時変化
(A)9才購 (8〉10才晴
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図4.術後Xギ
(B〉左
(A)右
図3、入院蒔全身像
過、X線所見よりSEDCと診断された。
その後、9才時に大腿骨頭核の出現を認めた。下肢
のアライメントは、Neck shaft angleが右860左
800(図2Aの(1))ハで著しい大腿骨近位部内反変形
を呈していた。また、Axiallateraldistalfemoral
angleが右79。、左820(図2Aの(2))ハの大腿骨遠
位部外反変形、左のMedial proximal tibial angle
図5.術前後の下肢アライメントの変化
が79。(図2Aの(3))ハの脛骨近位部内反変形を認め
(A〉術前 (B)術後
た。Mikulicz線の通過点を脛骨近位骨端内側縁から
の距離として計測すると(骨端横径を100%とす
る)、右35%、左10%と膝関節内側であった。10才
時にはNeck shaft angleが右43。、左72。(図2B
が104%と著しく外方化し、左は2%とさらに内方
化した。10才時より右大腿と膝の疹痛が出現した。
。、左81。(図2Bの(2))ハ、Medial proximal tibial
12才時、疹痛が増強し入院となった。
現症:身長は81cm(一8.4SD)と著しい体幹短縮型低
angleが左74。(図2Bの(3))ハと、両下肢変形の急
身長を呈し、短頚、樽型胸郭、腰椎の高度な前蛮を
速な進行を認めた。その結果Mikulicz線通過点は右
認めた。下肢は著しいX脚変形で膝がぶつかりあっ
の(1))、Axial lateral distal femoral angleが右55
表1 術前後の下肢アライメント計測値の変化
左
右
(1)Neck shaft angle(。)
(2)Axial lateral distal
femoral angle(。)
(3)Medial poximal
tibial angle(o )
Mikulicz線通過点(%)*
術前
術後
術前
術後
41
92
9
97
66
84
73
80
89
89
68
78
105
41
5
43
*脛骨近位骨端内側縁からの距離。脛骨近位骨端横径を100%とする。
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障害に起因する高度な内反股とそれにともなう外反
膝(まれに内反膝)があげられてきた2)3)49。しかしな
がら、下肢変形の自然経過に関しては、ほとんど報
告がなく不明な点が多い。本症例は、Wynne−
Daviesらの分類5)に従うと内反股が著しい重症型に
分類されるが、9才から10才にかけて両大腿骨近位
部の内反変形、大腿骨遠位部の外反変形、そして左
脛骨近位部の内反変形が急激に進行した。SEDCの
軽症例では、下肢変形が軽度のまま経過するという
報告5)もあるが、本症例のようにNeck shaft angle
がgoo以下の著しい大腿骨近位内反変形を持つ例で
は、成長とともに下肢変形が進行する可能性が大き
く注意を要すると思われた。
近年、複雑かつ高度な下肢変形と低身長とを合併す
る骨系統疾患に対しても、イリザロフ法をはじめと
した創外固定を用いた変形矯正・延長が行われてき
図6.術後全身像
て歩行が困難な状況にあった(図.3)。
本症例に対し、イリザロフ法を用いて変形矯正を
行った。両側の大腿骨近位部内反と遠位部外反、お
よび左脛骨近位部内反を矯正することをめざし
hingeを設置し、創外固定器を組み立てた。右は大
腿骨近位および遠位の骨幹端部の2箇所で、左では
大腿骨近位、遠位、および脛骨近位の3箇所の骨切
りを行い、漸次矯正を行った(図4A,B)。Open
hingeでの矯正の結果、骨延長量は右5cm、左3cm
を獲得した。術前後での下肢アライメントの変化
は、大腿骨近位部内反変形は、Neck shaft angleハ
が右では術前41。が術後97。、左では術前59。が
術後970と改善した(図5A,Bの(1))。大腿骨遠位
ている6)7)8)9)。しかし、そのほとんどが
AchondroplasiaやPseudoachondroplasiaなどの
四肢短縮型低身長の疾患で、SEDCへの創外固定を
用いた変形矯正・延長の報告はほとんどない。
SEDCに対して脚延長を含む治療を行うことに関し
ては、体幹四肢のプロポーションをさらに悪くし、
関節症の進行を速めるとして否定的な考え方も存在
する10)。本症例においてわれわれは、骨変形にとも
なう下肢機能軸異常の急速な進行が、疹痛の原因で
あるばかりではなく、関節症の進行を助長する因子
であると考え、下肢アライメント矯正を主目的にイ
リザロフ法による治療を行った。術後1年の現在、
下肢機能軸は改善され、患者は疹痛なく生活するこ
とができるようになったが、今後さらなる長期の経
過観察が必要と思われた。
の外反変形はAxial lateral distal femoralangleで
みると右では術前66。が術後84。、左では術前73
【結語】
。が術後80。と改善を示した(図5A,Bの(2))。左
進行性の下肢変形をともなうSEDCの一症例に対
脛骨近位の内反変形はMedialproximaltibialangle
し、イリザロフ法を用いた変形矯正・延長を行った。
が術前680が78。と改善した(図5A,Bの(3))。そ
下肢機能軸は改善され患者の自覚症状も消失した
の結果、Mikulicz線通過点は、右では術前107%が が、今後も長期的な予後について引き続き経過観察
術後41%、左では術前5%が術後43%と下肢機能軸 が必要と思われた。
の改善が得られた(図5A,B,表1)。
術後1年現在、歩行時に膝がぶつかり会うことなく、
【参考文献】
疹痛も軽減し不自由なく日常生活を送っている。身
1) Spranger∫W,Wiedemann HR:Dysplasia
長は85cmに増加し下肢長は右42cm、左41cmと
spondyloepiphysaria congenitaL Helvet Paediatr
なっている(図6)。
Acta21:598−611,1966.
【考察】
Spondyloepiphyseal dysplasia congenita.
SEDCの下肢変形の特徴として、骨端軟骨の合成
Radiology94:313−322,1970.
2) Spranger JW, Langer LO
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3) 池川志郎、谷口和彦、永井信司ら:先天性脊
椎骨端骨異形成症の5例。
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4) 井上茂:脊椎骨端異形成症の診断と治療.MB
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5) Wynne−Davies R,Hall C l Two clinical
variants of spondyloepiphyseal dysplasia
congenita.J Bone Joint Surg64B:435−441・
1982.
6) BenDF,BoyerMI,ArmstrongPF:Theuse
of Ilizarov Technique in the correction of limb
defomities aassociated with skeletal dysplasia.
J Pediatr Orthop12:283−290,1992。
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MB Orthop6:17−23,1993.
8) 新行内義博、安井夏生、柑本晴夫ら:仮骨延
長法により内反膝を矯正した
Pseudoachondroplasia症の一例.ハ臨整外24:
1229−1234,1989.
9) Valdivia GG,Fassier F,Hamdy RC:
Chondrodiatasis in a patient with
spondyloepimetaphysealdysplasiausingIhzarov
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deformity with ensuring ossification of a large
metaphyseal lesion.Intemational Orthop22:
400−403,1998
10) 浜西千秋、田中清介:脚延長の適応.整災外
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