ウラジオストック自由港域

2015 年 8 月 21 日
ウラジオストック自由港域
プラクティス・グループ:
セルゲイ・ミラノフ、ゲオルギー・ダネリア
エネルギー、インフラス
トラクチャーおよび資源
2015 年 7 月 13 日、プーチン大統領は「ウラジオストック自由港に関する」連邦法に署
名しました。また、同法の施行に伴い、次の 2 つの法律、①「『ウラジオストック自由
港に関する』連邦法に関連する『ロシア連邦税法典改正に関する』連邦法」(以下「税
法典改正法」といいます。)、および、②「『ウラジオストック自由港に関する』連邦
法についての『関連法の改正』に関する連邦法」(以下「関連法改正に関する法」とい
います。)にも署名しました(以下、総称して「新法」といいます。)。
新法の重要なポイントは、一定の地域において活動する企業を「居住者」(「居住者」
の定義は下記をご参照下さい。)として扱い、居住者に対し幅広い多角的な優遇措置を
定めていることにあります。なお、法の名称は、「ウラジオストック自由港に関する」連
邦法とされているものの、これは文字通りウラジオストック港に限定して適用されるの
ではなく、近隣の多くの市町村にも適用される点に留意する必要があります。本アラー
トにおいては、同法が適用される地域を「ウラジオストック自由港」といいます。
新法の構成、概要につきましては、上記の「ウラジオストック自由港に関する法」には、
ウラジオストック自由港域の組織構成及び運営に関する一般的な規則が定められており、
「税法典改正法」にはウラジオストック自由港域の居住者への税務上の優遇措置が定め
られており、「関連法改正に関する法」には、土地法典、労働法典、外国人の法的地位
に関する法、特種活動の許可に関する法、教育法、社会保険法、国境法等その他の連邦
法の改正が定められています。
新法の目的は、第一に、沿海州およびその他ロシア極東地域の投資促進、国際貿易、輸
送インフラの開発(物流センターのネットワーク等)、輸出関連生産施設の開発等の促
進による社会・経済的発展の促進を図ることにあります。特に、新法は、ウラジオスト
ック自由港域で「居住者」の資格を有する企業に対し、税務上、関税上およびその他の
点で大幅な優遇措置を与えています。
新法は、プーチン大統領の指示に基づきロシア連邦政府によって草稿されました(なお、
新法の基本的な考え方は、2014 年 12 月 5 日付の年次教書演説において初めて表明され
たものです。)。一般に予想されていた通り、本法は、ロシア連邦議会下院および上院
により迅速に可決され、2015 年 7 月 13 日に公布されました。
以下、新法の重要な特徴を説明いたします。
一般的な特徴
ウラジオストック自由港域は設置後 70 年間存続するものとされています。ただし、当該
期間は、今後、個別の連邦法によって延長される可能性もありますし、反対に、その存
在が、住民の生活、健康、歴史的文化的遺産またはロシア連邦の安全保障を脅かす場合、
個別の連邦法により上記期間よりも早く終了することもありえます。
「ウラジオストック自由港域」には、ウラジオストック市区、アルチョーム市区、ボリ
ショイ・カーメニ市区、ナホトカ市区、パルチザンスク市区、スパッスク=ダリニー市
区、ウスリースク市区、およびナジェジンスコエ地区、シコトヴォ地区、オクチャブリ
ウラジオストック自由港域
スキー地区、オリガ地区、パルチザンスク地区、ポグラニーチヌイ地区、ハサン地区、
ハンカ地区が含まれます。上記地区の海港の水域も「ウラジオストック自由港域」に含
まれます。
ただし、上記地区にある経済特区、特別発展地域、及び優先的社会経済発展地域は、
「ウラジオストック自由港域」には含まれません。
ウラジオストック自由港域の運営
「ウラジオストック自由港域」は以下の機関によって運営されます。
(i) ウラジオストック自由港域監視委員会(以下、「監視委員会」といいます。)
(ii) 連邦当局―ロシア連邦極東開発省が担当すると見込まれています(以下、「極東開発
省」といいます。)
(iii) 管理会社(公開株式会社「極東開発社」またはその子会社がその役割を担う予定で
す)、および
(iv) ウラジオストック自由港域公衆議会(アドバイザリー業務を行う任意的な機関)(
以下、「公衆議会」といいます。)
「監視委員会」は、合議体であり、ウラジオストック自由港域の最高管理機関です。ロ
シア極東における連邦機関の作業の調整を担当するロシア連邦副首相が議長を務めます。
監視委員会のメンバーは、極東省大臣、沿海州知事、沿海州州議会長、ウラジオストッ
ク自由港域に含まれる市町村長等の公務員です。監視委員会は、ウラジオストック自由
港域内の事業および社会活動に対する一般監督、ウラジオストック自由港域に関する開
発計画の承認、ウラジオストック自由港域内で居住者が雇用できる外国人被雇用者数の
上限の設定、その他の職務を行います。
「極東開発省」は、居住者の許認可手続を制定し、居住者登記簿を管理し、管理会社の
義務の遂行を監督し、その他の一般機能を決定します。また、極東開発省は、以下のよ
うな独特の事業に関連する権限を有します。(i)居住者にその事業計画の実施を許可する
ための入札を要せず、国有地に対する長期賃借権を居住者に付与する権限、(ii)ウラジオ
ストック自由港域のインフラ建設に必要な場合、非国有地を収用する権限(上記の行為
はいずれも監視委員会の承認が必要です。)、(iii)ウラジオストック自由港域のインフラ
建設を目的とする非国有地に対する地役権を設定する権限
「極東開発省」は、その権限の一部を管理会社に委任することができます。
「公衆議会」は、諮問機関であり、極東開発省を支援するために監視委員会によって設
置されることがあります。設置された場合は、労働組合、商業組合、非政府系機関等を
メンバーに含むことが見込まれます。
もっとも、ウラジオストック自由港域に関する特別な一定の権限は、ロシア連邦政府に
留保されております。具体的には、連邦政府は、(i)ウラジオストック自由港域における
漁業および水産加工業に関する特別な規制を定めること、(ii)医療サービス(外国の医療
免許を有する個人によるものを含む)の提供に関し、特別な許認可要件を導入すること、
および、外国の課程および基準に従った教育サービスの提供に関し、特別な許認可要件
を導入することができます。
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ウラジオストック自由港域
居住者
企業または個人の事業家が、以下の要件を満たす場合、ウラジオストック自由港域の居
住者となることができます。
(i) ウラジオストック自由港域内に設立されていること(個人の場合、企業家として登
録されていること)
(ii) ウラジオストック自由港域内における事業に関して管理会社と合意を締結している
こと
合意を締結するために、申請者は、管理会社に、一連の書類とともに当該合意の締結を
求める申請書を提出する必要があります。申請書一式には、一般的な企業に関する書類
に加え、事業計画書を添付し、かつ、当該申請者が、ウラジオストック自由港域内にお
いて事業上必要とする土地を明記しなければなりません。
管理会社は、申請内容を審査し、かつ、申請人および提案された事業が適用基準を満た
しているかどうかを判断するために事業計画を検討します。当該基準を規定する法はあ
りませんが、ロシア連邦政府が将来的にその詳細を定めることが見込まれております。
管理会社が申請を承認した場合、管理会社は合意書案を作成し、申請人に送付します。
合意書締結後、申請人は、ウラジオストック自由港域の居住者登記簿に自動的に登録さ
れ、これにより「居住者」の地位を取得します。
当該合意書は、居住者に合意書の条項に対する重大な違反(合意書締結後、24 ヶ月以内
に事業開始しない、合意書において予定された投資条件及びその納期を遵守しない場合
等)があった場合、管轄権を有するロシアの裁判所の決定により、早期に解除されるこ
とがあります。
優遇措置
ウラジオストック自由港域の居住者には以下の優遇措置が適用されます。
• ウラジオストック自由港域内の国有地の賃貸手続の簡易化(入札不要)
• 税制上の優遇措置(下記ご参照)
• 居住者によって支払われるべき雇用者に関する社会保険料率の低減
• 外国人従業員の雇用手続の簡易化(外国人の雇用割当の適用なし、居住者である雇用
者による外国人雇用のための特別許可の取得は不要)
• 国際航路に開かれてる海港、国際空港、道路および鉄道上にあるウラジオストック自
由港域の国境検問所の隣接地における無関税圏
さらに、新法は、ウラジオストック自由港域内のすべての企業に以下の一般優遇措置の
適用を認めています。
• 建物および設備建設用の設計文書の認可手続の簡易化、不動産施設の建設許可の取得
期間の短縮化
• 造成地(埋立地、人工島)の開発許認可手続の簡易化
• ウラジオストック自由港域内の国境検問所経由で入国する場合、滞在 8 日以内の外国
人の入国ビザの発行制度の簡易化
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ウラジオストック自由港域
税制上の優遇措置(法人利得税の減税) 1
ウラジオストック自由港域の居住者は、税法典改正に関する法に基づき、以下の一定の
条件を満たす場合、税制上の優遇措置を受けられます。(i) ウラジオストック自由港域内
に設立されていること、(ii) ウラジオストック自由港域外に支店(または他の独立した事
業体)がないこと、(iii) 課税について簡易システムの適用を選択していないこと、(iv)連
結納税グループに属していないこと、(v) 非営利法人、銀行、保険会社、非国家年金基金、
証券業者、または、決済機構ではないこと、(vi) 同時に他の特別経済圏の居住者として
の資格を有していないこと、(vii) 地域の認定投資計画に参加していないこと。
税法典への改正に関する法に従い、(上記の基準を満たす)居住者がウラジオストック
自由港域内において行う事業により初めて利益を出した時から 5 年間、または、居住者
になった時から 4 年目の日(その時点まで利益が出せなかった場合)から 5 年間、居住
者は、法人(企業利益)税の連邦政府への納税義務を免除され、また、沿海州への納付
する法人税の税率も 5%を超えることはできません。 2それ以降の 5 年間、各居住者は、
2%の法人税を連邦政府に納め、10~18%を沿海州政府に納めることとなります。 3
関税優遇措置(無関税圏)
ウラジオストック自由港域の居住者はいくつかの関税優遇措置を受けることができます。
ユーラシア経済連合(ロシア連邦はこれに加盟している)の関税規則において、「無関
税圏」とは、関税及びその他の税負担なく、かつ、非関税規制または制限措置等(ユー
ラシア経済連合の関税領域へ輸入される外国の商品に適用されるもの)による影響を受
けることなく、商品を輸入、利用することのできる、指定された地域をいいます。
ユーラシア経済連合の関税規定では、加盟国は、加盟国が設置する特別経済地域内での
み、当該加盟国による無関税圏の設置することが可能とされているため、ウラジオスト
ック自由港に関する法は、ウラジオストック自由港全域が特別経済地域であると規定し
ています。
ウラジオストック自由港に関する法は、ウラジオストック自由港域内にある国際海港、
国際空港(現時点では、クネヴィチ空港のみ国際空港としての資格を有しています。)
のみを無関税圏としています。ただし、監視委員会の決定に従い、当該海港および空港、
ならびに、その隣接指定地域が、「無関税特別海港地域」4として指定されることがあり
えます。
監視委員会は、さらに、道路上や鉄道上のウラジオストック自由港域の国境検問所に隣
接する一定の地域に「無関税特別物流圏」 5を設定することもできます。
監視委員会による上記決定においては、以下の事項が明確にされる必要があります。(i)
無関税圏の所在地と境界、および、(ii) 無関税圏の設定が決定された地域におけるインフ
ラ建設の建設予定表とその資金調達表。
最後に、ウラジオストック自由港に関する法は、無関税圏が、居住者が占有(所有また
は賃借)する土地上に設定されることもある旨規定しています。そのため、申請人は、
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標準的な法人税率は 20%であり、うち 2%は連邦政府に納められ、残りの 18%は、会社が設立された連邦州政府に
納められます。
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実際の税率は沿海州の州議会が定めた範囲内になります。
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実際の税率は沿海州の州議会が定めた範囲内になります。
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「無関税特別海港地域」の規定は、無関税圏の規定によく似ています。
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「無関税特別物流圏」の規定は、無関税圏の規定によく似ています。
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ウラジオストック自由港域
管理会社に対する最初の居住者許可申請書に、ウラジオストック自由港域内において事
業活動の用に供するを土地上に無関税圏の設置を必要としている旨言及する必要があり
ます。当該居住者の土地に対する無関税圏の設置するには、居住者の申請についての監
視委員会による承認に加えて、指定された無関税圏の税関コントロールのために必要な
インフラの完成、検査後においてなされる、連邦税関の現地部門による承認決定を必要
とします。
外国製品は、いかなる関税または付加価値税(VAT)も課税されることなく無関税圏に
持ち込むことができます。また、かかる商品は、無関税圏においても、引き続き外国製
品としての取り扱われ、何ら制限なく再輸出することができます。ただし、(別の分類
コードを生じさせる)別種の製品に加工された場合はこの限りではありません。もちろ
ん、かかる商品をロシア連邦内に輸入する際は、通常の通関手続と関税および付加価値
税の支払いが必要です。
無関税圏に持ち込まれる外国製品(ならびに部分的に外国製品から製造された商品)は、
何ら制限なくウラジオストック自由港域内の他の無関税圏に移動させることができます。
ロシア連邦またはユーラシア経済連合域内で製造された商品は、無関税圏内へ何ら制限
なく移動させることができます。つまり、これは「輸出」とみなされません。当該商品
は、ユーラシア経済連合製ではない商品と結合し新たな商品に加工されるまで、引き続
きユーラシア経済連合の商品として扱われます。
ロシア連邦またはその他のユーラシア経済連合加盟国の商品をもとに無関税圏内で製造
または加工された商品は、ユーラシア経済連合の商品とみなされます。無関税圏からユ
ーラシア経済連合域の外へ輸出された場合、当該商品には、全ての標準的な輸出関税
(該当する場合)、その他適用されるべき輸出制限が課されます。当該商品を圏外に移
転し、さらにロシア連邦内(または、ユーラシア経済連合加盟国内)に移転する場合、
輸入関税および付加価値税は課されません。
外国製品から無関税圏で製造・加工された商品を当該圏内からロシア連邦内に移動した
場合、標準的な通関手続と関税および付加価値税の支払いを要します。当該商品を当該
無関税圏よりユーラシア経済連合域外に移動する場合、再輸出とみなされ、輸出関税と
輸出制限が免除されます。
ユーラシア経済連合製と連合域外製の混合商品・原料から製造・加工された商品(以下
「原産地混合商品」)に適用される関税法令は、さらに複雑です。
それゆえに、原産地混合商品を無関税圏からロシア連邦内(または、他のユーラシア経
済連合加盟国)への移動を意図する場合、関税上、外国製品と見なされ通常の通関手続
と関税および付加価値税の支払いを要します。
一方、原産地混合商品の所有者である居住者が、無関税圏からユーラシア経済連合域外
に当該商品を持ち出す場合、当該商品はユーラシア経済連合製と見なされ、すべての標
準的輸出税(該当する場合)およびその他適用される輸出規制が課されます。
しかしながら、上記規制は、原産地混合商品、「著しく」加工された原料にのみ適用され
る点にご留意下さい。「著しい」加工がいかなるものであるかの詳細は、ユーラシア経
済連合の関税法令に規定されています。
施行
ウラジオストック自由港に関する法は、2015 年 10 月 12 日に施行されます(一部の規定
は、2016 年 1 月 1 日および 2016 年 10 月 1 日に発効します)。税法典改正に関する法は
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ウラジオストック自由港域
2016 年 1 月 1 日に施行されます。関連法改正に関する法は、概ね 2015 年 7 月 13 日に施
行されました(一部の規定は 2015 年 8 月 13 日および 2016 年 1 月 1 日施行されます。)。
執筆者:
セルゲイ・ミラノフ
[email protected]
+81.3.6205.3604
ゲオルギー・ダネリア
[email protected]
+81.3.6205.3616
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