Cyber Guardian Angels JAPAN 活動 心を伝えるネット安全教育 「坂本

Cyber Guardian Angels JAPAN 活動
心を伝えるネット安全教育
「坂本龍馬って知っている?」
中学2年の女の子へ何を聞いているんだろう?と思いながら話をしている自分がいる。
「坂本龍馬が俺は好きなんだよ。」
聞き鳴れた着信音が鳴っている。
枕元に置いた自分の携帯電話に着信が入っていることに気付いた。時計の針は、午前3
時を少し回ったころを指している。
明日(と言っても日付は既に今日になっているが・・)は、年に一度の総会がある日で、
前日から東京に入り、ホテルで休んでいたことを少しずつ思い出した。丁度いい室温に調
節されたホテルの部屋は、まだ暗くその中で携帯電話が着信音を出しながら綺麗に光って
いた。
「助けてください」携帯の通話ボタンを押したとたん飛び込んできた声である。
「ハンター、助けてください。おかしくなりそうなんです。」その声は、中学2年にな
る娘が携帯電話による嫌がらせを受けていることで相談を受けていた、栃木県に住む相談
者Nさん(被害者の母親)の夫であった。「どうしました」という私の声が届いたかどう
かも分からない間に、電話の主は夫から妻に変わっていた。「ハンター助けてください。
昨日から無言電話が鳴りやまないのです。」「知らない男の人からもかかっているみたい
です。」
それとなく状況がつかめてきた。眠っていた脳が瞬時に回転を始め、状況の正確な把握
と正しい助言を命じている。
「いつから電話はかかっていますか?」という私の質問に対し、「昨日の午前中からな
んです。最初はただの間違い電話と思っていたのですが、次々とかかってくるようになり、
私がもしもしと言うと切れるんです。」いわゆる無言電話が鳴りやまなくなった状態であ
る。
「いつか終わると思っていたのですが、ずっと今もかかり続けているんです。知らない
男の人みたいなんです。」ここまで聞くと、何が起こったのか検討がつく。BBSへ電話
番号を書き込みされたのであろう。(BBSとは、正確には bulletin board system と呼ば
れ、日本語では「掲示板」と呼ばれている。)
「分かりました。今の時間は電車も止まっています。朝一番に電車でそちらへ行きます。
安心してください。」大事な総会の開催が頭にあった。その会で話をする予定にもなって
いた。しかし、「総会は毎年行われるからまた出席すればいい。話をしないと地球が破滅
するものでもない。誰かに変わってもらおう。それより、この相談者を助けられるのは今
自分しかいない。今しかないのである。」そう考えていた。
Nさん宅は、海外から建築資材を輸入して注文住宅を造る仕事をしており、自宅が事務
所と兼用になっていたため、電話もFAXと併用しており、ナンバーディスプレイに変更
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できない事情にあることをこれまでの相談で知っていた。「Nさん、今の時間に仕事で電
話をしたりFAXをする必要なないですね。それでは、私がそちらへ到着するまでの間、
電話線を抜いておいてください。そうすれば電話はもう鳴りません。安心してください。
このようになった状況はそちらへ着いたときに説明します。」東京駅からNさんの家へ向
かうために乗るべき列車について聞き、一番列車の時間を調べた。その列車に乗るため、
ホテルを出発すべき時間を計算した後、直ちに理事長へ電話を入れることにした。
「もしもし、総会には出席できなくなりました。例の相談者がBBSに電話番号を書き
込まれる被害に遭ったようです。」
理事長「小田啓二」は、北海道北見市生まれで今年3
3歳、高校在学中からアメリカに留学し、そのとき、
アメリカで犯罪発生率最悪のニューヨークを中心に、
「割れ窓理論」を実戦しながら犯罪抑止活動を行って
いる防犯ボランティア団体、ガーディアン・エンジェ
ルスの存在を知った。その活動に没頭し、国際総本部
であるニューヨーク本部長を4年間努めた後、阪神淡
路大震災で日本にボランティア活動が定着したことに
興味を示し、更にオウム真理教の無差別テロ事件で日本の安全神話が崩れたことを危惧し
て日本に支部を作ることを決意し、たった一人で1996年から日本国内で活動を始め
た。 現在日本国内14都道府県27行政区において27支部3つのパトロールチームと
3つのプログラム(サムライ塾(武道を通じての青少年育成)、ジュニア・エンジェルス
(16歳に満たない青少年を中心とした健全育成)、サイバー・エンジェルス(インター
ネット関連の犯罪抑止、教育))による活動が続けられており、およそ450名の仲間が
仕事や学業、主婦業の傍らボランティア活動に励んでいる。特筆すべきは、日本で多くの
NPO が存在するが、その中でも数少ない国税庁の認定を受けた団体であるということだ。
少し沈黙した後、「総会は来年も出られますが、今Nさんを助けられるのは自分しかい
ません。朝一番の列車で栃木へ行ってきます。」
そう伝えたところ、理事長は「分かりました。総会は大丈夫ですから、気をつけて行っ
てきてください。」と私の選択に快諾してくれた。
東京駅で栃木行きの列車を待っていると、1人の若者が私の横に来た。
「自分も一緒に行きます」当時20歳の大学生であった彼は、池袋を拠点に活動する日
本ガーディアン・エンジェルスのメンバーの一人で、仲間から「ホーク」と呼ばれていた。
「ホーク、昨日寝た?」
私がそう聞くと、
「いえ、渋谷のパトロールを終わらせ、朝まで六本木でパトロールをしていました。」
と答えた。
言葉のとおりホークのほほはこけ、疲れ切っている様子が手に取るように分かった。
私が栃木へ出向くことを、本部から聞いて駆けつけてきたそうだ。
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元来、お節介をモットーにするガーディアン・エンジェルスのメンバーは、「みて見ぬ
ふりをしない」という合い言葉の下、犯罪抑止のパトロール活動や安全安心まち作りのお
手伝いなどが大好きな人の集まりなのである。彼もその一人であり、相談対応をしている
事を知っていた彼は、「自分も手伝いたい」と申し出てくれたのだ。
「今日は帰った方がいい。昨日寝ていなかったら、
冷静な判断ができない。却ってじゃまになるかもしれ
ない。」そう諭す私の言葉を、彼は頑として受け入れ
なかった。
「自分にもできることがあると思います。」
そう言う彼が頼もしく思え、「一人より二人だな」と思いながら、私は彼と供に栃木行き
の特急に乗車することとした。
相談者のNさんは、住宅資材輸入業の夫と事業手伝いに妻、中学3年生の長女と中学2
年生の次女の4人家族である。
Nさんと知り合ったのは、一通の相談FAXであった。
「中学2年になる娘が携帯電話でいじめを受けています。相手は分かっているけどどう
したらいいのか分かりません。警察、探偵、あらゆるところへ相談しているけどまともに
相手にしてもらえない中で貴団体も知ったので相談してみました。」というような内容で
あった。
私は、日本のボランティア団体である
特定非営利活動法人 日本ガーディアン・エンジェルス 理事
であり、同時に
サイバー・ガーディアン・エンジェルス日本
を担当している。
そのため、このようなIT技術に絡む相談は必ず私の元へ回ってくるのである。
東京の新川にある日本事務局スタッフから、中学生女子被害の相談FAXが届いている
旨の連絡を受けたので、まずはそのFAX原文を送ってもらい、後は自分が窓口として対
応する旨相手に伝えるようにスタッフにお願いした。
私達メンバーはお互いストリートネーム(あだ名)で呼び合っている。日本はもちろん、
世界中で活動しいるそのポリシーは、「お互いを敬い、社会的地位や性別、年齢などで差
別せず、同じ目線で活動しよう」と誓い合っている。お互いを名前で呼ぶと、例えば、「鈴
木さん、佐藤さん」などという風に、年齢や社会的地位などで遠慮をしたり、伸び伸びと
した活動ができなくなる。それぞれが、同じ目線で言い活動ができなくなる虞を排除して
いるのである。
ちなみに私は、「ハンター」と呼ばれている。
インターネット犯罪者を見つけ出して解決するからだそうだ。「そうだ」というのは、自
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分でネームをつけたのではなく、現理事長がそのように命名してくれたのである。
Nさんの話によると、「もともと
仲のよかった3人の友達であったの
に、娘がクラス替えのため、一人だ
け別のクラスになったことが原因の
発端のようである」とのことであっ
た。
娘の携帯電話には、
「死ね」とか「バカ」
等の悪戯メールが届くようになり、
娘が登校拒否になりかけているという
のである。
相談の内容は概ね 理解できた。しか
し、このような問題では、警察が動くことも難しいであろうし、一度ですべてを解決する
手段も無いのが実情である。
このような場合、我々はまず相談
者に一人ではないことを伝える。
「一緒に解決策を考えましょう」と
話しかけて落ちついてもらうのであ
る。
何かの問題が発生した場合、必ず
双方に何らかの原因があるもので、
それをきちんと把握して対応しない
と、状況は改善できない。
この問題は娘の問題であったが、
それを心配する母親も精神的に弱っ
ているようで、「まずは元気になってもらうこと、信用してもらうこと、それから解決策
を探すこと」という手段が適切であると判断し、Nさんに電話を入れることにした。
「初めまして、日本ガーディアン・エンジェルス理事でサイバー・エンジェルス担当の
ハンターと言います。」と名乗ると、最初怪訝な声で話をしていたNさんの声は、安堵の
声に変わっていった。
それからは、問題が発生した経緯の説明を受け、今後相談できる体制を確保するために、
私の相談専用携帯電話番号を伝えて、連絡が取り合える体制を作っておくことにした。
娘が持つ携帯電話の悪戯から始まった問題は、やがて現実社会でのいじめや娘が通う塾
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への悪戯電話、脅迫へとエスカレートし、成長期にある純粋な心の彼女は、「手首の内側
をカミソリで切る」という行為に及ぶことになる。
もちろん、所轄の警察や中学校へも相談するよう指示していたが、簡単に解決する問題
ではなかった。
毎日のように連絡をとり、その日の調子を聞き、勇気づけることしか私達にできること
はなかったが、それだけでも相談者には心強かったようで、このような問題へ進展した経
緯がよく分かるようになってきた。嫌がらせをしていた相手が誰であるのか予想できて
も、特定したわけではない。ただ、その原因が、「もともと仲の良かった人間関係が崩れ、
やがて連絡手段として使っていた携帯電話の文字が正確に伝わらず、誤解が誤解を生ん
で、エスカレートして行った」ということだけはよく分かった。
今の時代、テレビゲーム、オンラインゲーム、チャット、掲示板その他、お互いのコミ
ュニケーションはすべて、文字による伝達となっている。
それほど遠くない昔、神社でかくれんぼや鬼ごっこをし、川では魚をおいかけ、お互い
が話しを交わしてルールを作り、ルール違反も話を交わして解決していたはずだ。
しかし現在、電車やバスの中、待合室、町のあちこちで携帯電話を操作している人々の
姿をよく見るようになったのではないだろうか?学校では、隣の席の友達と携帯電話で話
をしている場面もあるかもしれない。
こうした、言語でないコミュニケーション
を「非言語コミュニケーション」と呼ぶ。
非言語コミュニケーションの場では、同じ文
字が読む人によって、千差万別に解されると
言われ、非言語コミュニケーションの誤解が
様々なトラブルを生んでいる。
ITに慣れた人であればあるほど、そうし
た誤解も少ないと言われている。しかし、若
者や、IT文化に慣れていない人ほど誤解・
トラブルが発生しやすい。
それを防ぐため、ネット上に自分に変わる
絵(アニメ)を作り、自分なりの装飾をして言葉を交わす「アバター」と呼ばれるものも
登場している。しかし、それでも誤解は解消しない。
現代のIT技術における進歩は、「人類がこれまで経験をしたことのないスピードで進
歩している」と言われている。
情報技術の発展と供に、私達は人間が本来持つ、コミュニケーションという力を失いつ
つあるのかもしれない。
Nさんの場合も、この誤解というところから問題が発生している。
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しかし、遡れば人間関係というIT技術とは全く関係のない、基本的な「道徳、心の部
分」が原因となっているのではないだろうか。
待ち合わせの駅に降り立った私達は、初めて会うNさんの出迎えを受け、自宅へ向かっ
た。私達をまず迎え入れてくれたのは、Nさん宅で飼われているレトリバーの優しい目で
あった。部屋の中に入ると、目の焦点が定まらない女の子と、父親と思われる人がそこに
いた。
簡単な挨拶をした後、私は早速自分にできることを始めた。昨晩私の指示で抜いていた
電話の線を入れると、早速電話がかかってきたので、私がその電話をとってみた。
予想していたとおり、Nさん達の知らない男性であった。
事情を説明し、どうしてかけてきたのか聞いてみると、やはりある出会い系の掲示板に、
「男性の連絡を待つ主婦の電話番号を書き込まれている」ことが分かった。
そのサイトの場所を確認し、更にかかってくる別の電話でもその書き込み先を確認した
私は、ある特定の掲示板1箇所だけに書かれていることを確認し、内心ほっとした。
なぜなら、1箇所に対応すれば、もう掛かってくることがないからだ。
私は、Nさん宅のパソコンと、持参していた対応専用のパソコンを使って書き込みをさ
れている掲示板を突き止め、その掲示板の管理者、管理会社など可能である情報をすべて
抽出し、書き込み時間などすべてを印字して証拠として扱える状態にした。それらをまと
め、Nさんにこれらを所轄の警察に見てもらって直ちに捜査してもらうよう助言した。
同時に、現在NTTではこうした悪戯に対応して電話番号を変更するサービスを行って
いることを知っていたので、栃木県のNさん宅から最も近くで、その対応ができる場所と
費用を確認し、Nさんに直ちにその作業も行うように付け加えた。
その間、ホークは被害者の女の子を相手にして色々な話をしてくれていたようだった。
「今やるべきことはやった、次は心の対応だな」
そう考え、私は女の子と話を始めた。
「俺は坂本龍馬が好きなんだ」と、唐突に中学2年の女の子
に向かって・・・。
自分の生い立ち、今やっていること、世の中、おかしいと思
うこと、信念。何より、人の痛みが分かる気持ちでいると、人
に優しくなれること。それを伝えていたような気がする。
同時に、自分たちの活動についても説明をしていた。赤いベレー帽に白いTシャツとい
う派手な格好をしている意味や活動の基となっている「Broken Windows theory」(割れ窓
理論)など・・・。
「今の世の中、なんでも人任せにしていないだろうか?
ゴミが落ちていたら役場の仕事、トラブルになったら警察の仕事
学校のことは先生の仕事
嫌なことに自分は関わらない
そうなっていないかな?」
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「見てみないふりをしていたら、自分も見てみないふりをされる。」
昔日本のあちこちに、「そこで悪いことをしたら、怒ってくれた頑固親父がいた。誰に
も挨拶をし、人生を教えてくれたお節介なおばさんがいた。」そういう人たちがいなくな
ってしまって、無責任が当たり前の社会になってしまっている。そう伝えながら、
「手を見せてみろ」
おもむろに、彼女が切った手首を見てみた。
透き通るような真っ白で小さな腕の内側には、痛々しい小さな傷がたくさん残ってい
た。
「痛かったろうな」
「傷ついて死んでしまうと楽になれるかもしれない。でも生きて自分の気持ちを伝える
こともできるぞ。」
「うん」
彼女は小さくうなずく
「お前どんな気持ちだった?いい気持ちしたか?同じ気持ちに他の人がなったらうれし
いか?」
そう私が聞くと、母の顔を少し見た彼女は、
「嫌」
そう答えた。
「そうだろ、だったら今後はお前がその人たちを助けてあげろ」
いろいろな話をしながら、いつの間にかそのような話をしていた。人にはそれぞれ役目
がある。お前にもお前の役目がある。俺が今やっているボランティア活動にも役に立つ、
「今日はお前を助けているが、逆になるかもしれない。その時は俺を助けてくれ」
中学2年の女の子は、いつしかその定まらない焦点が私の目をしっかりと見てくれてい
ることに気がついた。
「土佐の桂浜に坂本龍馬が建っている。どんなに風
が吹こうとも、どんなに海が荒れようとも彼はそこに
建っている。」作家の司馬遼太郎先生が、坂本龍馬に
書いた手紙がそこにある。その中に、こんな言葉があ
った。「今ここにいる人たちは、50年後にはもうい
ないかもしれない。しかしあなたはずっとここにいる。
人々に勇気を与え続けている・・・。」
幕末の時代に彼は遙か未来を見据えていた。信念を持って生きていた。そして今もそこ
にいる。
私は何かの宗教を勧めているわけでもなければ、思想を押しつけているのでもなく、人
間としてしっかり生きてほしいと思っていた。
「そういう生き方もいいもんだな」
そう言って、鞄の中から先日高知県の高等学校で行った講演の途中で自分のお土産とし
て買っていた、坂本龍馬の携帯ストラップを取り出した。
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今考えると、栃木県に住む中学2年生の女の子に「坂本龍馬の携帯ストラップ」もおか
しな気がする。
「これをあげる。これは坂本龍馬のストラップだけどあげるから、持っていたらいい。
俺だと思っていたら元気になる。」
彼女の口元が少しゆるみ、そのストラップを手にとってじっと見た後、母親を見て笑い、
「ハンターにもらった」と言って早速バッグにつけてくれた。
「じゃあ、今から東京へ行こう」
一緒に昼食をとってしばらくした後、私は彼女たちに、これから東京へ出向くように誘
ったのである。
「今日は年に一度の総会で、全国から仲間が集まっている。会いに行ってみよう。」
「メンバーの中には、親のいない人もいる、傷のある人もいる、虐待を受けて育った人
もいる、でもみんなそれぞれに役目があってがんばっている。人は見てくれではない、今
を一生懸命生きている姿が素晴らしいんだ。会ってみよう。お父さん、お母さんいいです
よね。」
半ば強引であったかもしれないが、私とホークは、N さん親子と供に東京の総会会場へ
向かうことにした。東京へ向かう電車の中で、彼女が持つバッグで揺れている「龍馬のス
トラップ」が妙にうれしく感じた。
代々木オリンピック記念会館の会場入り口には、当時池袋のパトロールリーダーをして
いたラックが待っていてくれた。
「お帰りなさい」そう言って N さんたちを迎え入れてくれたのだ。
会場へ入ると、理事長の講演が行われていた。
私達に気付いた理事長はそこに集まっている全国の仲間に紹介してくれ、あっという間
にNさんの周りには、メンバーが集まって挨拶をしていた。
「ようこそ」
「お帰りなさい」
「よろしく」
「おっす」
それぞれがそれぞれの挨拶を交わしている。
そこには、性別や年齢の差はなく、同じ仲間として、人間
同士の触れあいがあったのではないだろうか。
その日最終便で栃木へ戻るNさん達を、東京駅へ送ることになったが、渋谷地区のメン
バーであるピアス(彼の耳には大きなピアスがついている)が彼女に渋谷の街を案内して
東京駅まで送ってくれるということになった。彼女もピアスと渋谷を歩いてみたいと言
う。
彼は辛い過去を見せることなく、夜間学校に通いながらボランティア活動を継続してい
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る当時16歳のメンバーであった。
Nさんは多少心配していたようであるが、私はピアスに絶対の信頼を持っていたので、
「大丈夫です。東京駅で待ちましょう。」と言い、東京駅でピアスと彼女を待つことにし
たのである。
約束の時間どおり、ピアス達は東京駅に戻ってきた。
彼女は片手にジュースのコップを持っており、その顔は、朝初めてあった時とは全く違
う明るいものに変わっていた。
動き出した列車を最後まで見送りながら、彼女が強くなってくれることを祈っていた。
平成15年度警察庁の統計によると、インターネットに絡む青少年問題のほとんどが出
会い系サイトにあると発表された。その被害者は、小学生から高校生まで広く、性別に見
ると99パーセントは女子生徒である。
平成16年に長崎県で発生した事件も、チャットが原因と言われているように、非言語
コミュニケーションの誤解があるが、その原点は、人間同士、友達同士のコミュニケーシ
ョン不足と思われて仕方ない。
いわゆるインターネット技術は、ナイフや道路を走る車のように、とても便利な物であ
るが、その使い方を間違えると、一瞬で凶器に変わってしまうものかもしれない。
しかし、時代の流れを見ていると、今後インターネットは人類の生活に無くてはならな
いものになるだろう。
その中で、「怖いから使わせない、危ないから使わせない・・」ではなく、その怖さを
回避する力を教えることこそ、我々大人の役目だと思っている。
交通安全教育があるように、防犯教室があるように、インターネット安全教室が必要不
可欠であると感じている。
とても便利で、簡単なものなんだ。使い方を間違えなけ
れば。そう教えたい。
私達はNECの協力を得て、平成16年内に日本全国あ
らゆる場所で、インターネット安全教室を行ってきた。こ
れで万全というのではないが、この教室に参加してくれた
子ども達が、5年後、10年後に巻き込まれるかもしれな
トラブルの中で、その日教えた事の一つでも思い出してく
れたら、その一歩を踏みとどまり、トラブルを回避し、若しくはトラブルを引き起こさな
いであろうと信じている。
大阪の池田小学校で悲しい事件が発生した翌年から、我々近畿地区のメンバーが、毎年
池田防犯キャンプを親子対象に実施している。その中に、一昨年から新しいメンバーが加
わっている。あの時私が出会ったNさんの娘である。
彼女は私と別れた後、列車の中で、我々のメンバー登録をする意思を固めたそうだ。
その後、池田キャンプを始め、多くの場で活動してくれていると聞いた。
また、彼女のお姉さんも平成16年春にメンバー登録したという。
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ITの進歩は著しい。しかし、どんなに技術が進歩しても、それを使うのは人間である。
そのことを考えると、ITのトラブルを抑止するために行わなければならないのはいっ
たい何なのかも自然と見えてこないだろうか。
Hunter 様
そちらからのメール受け取りました。 御丁寧にありがとうございます。
御電話で伺いました hunter 様、その他の方々が現代の社会的問題でもある
ネット犯罪等の防止、ネットワークつくりなどの活動に取り組んでいらっしゃる
ことをお聞きして是非確立できるよう陰ながら応援しております。
自分の娘にもし降りかかってこなければ私も傍観者の一人としていたことでしょう。
本来利便さを追求して普及されてきたはずのネット社会が正体が見えない犯罪の
手段として使われる事は残念でたまりません。大人も子供も日本は病んでいるなと
本当にこのごろ思います。自分の子供だけ守ればいいという社会ではなくなって、
そして又とても自分の傷ついた心には敏感なのに他人の心の傷には無関心な、
人の心は幾重にもひだがあって、その心のひだを読み取ろうとしない子供が
なんて多いのだろうと感じています。ひとたび亀裂が入れば攻撃することでしか
他人を受け入れない、悲しくやるせない気持ちにさせられます。
娘は力になってくれるともだちもいて、あれから明るい顔で学校には行ってくれて
います。 何が一番の解決方法かを当てはめるのは難しい。お返事を待ちながら
胸の奥で焦らず、何をどうすべきかを考えます。新しい動きがあったらすぐにでも
お知らせいたします。 このように御連絡を度々入れていただき感謝しております。
今はこの光りの先が望むところに差し込んできてくれることを祈って待ちます。
又御連絡いたします。
(以上原文のまま)
自分の身に降りかかって初めて感じる気持ち。それを忘れてはいないだろうか。
最後に、ACCS(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会)の情報モラル10箇
条の中で、私が一番好きな言葉でしめくくりたい。
第 10 条:たまには会って話そう
※ 現在サイバー・ガーディアン・エンジェルスは、国境の無いトラブルに対して国を超
え、世界の仲間が情報を交換しながらボランティア活動を続け
ている。
特定非営利活動法人 日本ガーディアン・エンジェルス 理事
サイバー・ガーディアン・エンジェルス 担当
森(hunter)哲生
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