同族会社の経営論 - 糀谷社会保険労務士事務所

糀谷社会保険労務士事務所がお届けする~経営ルポルタージュ~ ≪2014 年 12 月号≫
敬意を払われるか、没落か、両者を分ける一線はどこにある?
同族会社の経営論
◇◆◇ シリーズ「一人ひとりの能力を活かす組織をつくる」
◇◆◇
経営者の皆様と“強い組織づくり”を考えるために!
☆☆☆☆☆☆《
目
次
》☆☆☆☆☆☆
【1】同族会社のイメージ
【2】同族会社A社
【3】同族会社の難しいところ
【4】成否を分けるもの
【5】いつか必ずやってくる世代交代
【今月のハイライト】
同族会社と聞くとどんなイメージをもつでしょうか? もしかしたらあまりいいイメ
ージではないかもしれません。一時期頻発した企業不祥事を起こした多くが同族会社で
ありました。また、「身内の利益が優先される」というイメージも拭い切れません。し
かし、同族会社には長く続き、敬意を払われる会社もあります。どうしてこのような差
が生まれてしまうのでしょうか。今月はその原因について考えます。
同族会社ならではのメリット・デメリットはあります。
(当事務所は、配偶者
を含め親族を入れていませんが、同族経営に類すると思います)。
例えば、即断即決できるメリットはありますが、他人の言うことを聞かず独断
で行うというデメリットが考えられます。しかしながら、これはひとつの事象の
裏・表に過ぎません。議論すること自体が、ナンセンスです。
ただ、同族経営がうまくいくコツは、「経営者が誰よりも勉強すること」これ
に尽きると思います。(自戒の念を込めて)
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【1】同族会社のイメージ
1》企業不祥事と同族会社
不二家、石屋製菓(白い恋人製造元)、赤福、吉兆、ミートホ
ープ、雪印乳業(現・雪印メグミルク)……。これらの企業に対
してどういったイメージをもつでしょうか。
お察しの通り、上記はすべて、食品偽装や食中毒などの不祥事
を起こした会社です。そしてもう一つ、上記企業には共通点があ
ります。それは
同族によって経営されている
ということです。
企業不祥事が頻発した際、それらの企業が同族であることも報
道されて、同族会社のイメージが一気に悪くなりました。
2》同族会社はどのくらいある?
それだけでなく、同族会社にはこんなイメージをもっていない
でしょうか。
「身内だけが利益を独占するシステム」
「親族という
だけで重職に就ける不公平なシステム」……。
しかし、それは一部分に過ぎません。下図は中小企業庁による
「我が国の中小企業の実態」から、資本金1億円未満の中小企業
における同族会社の割合です(平成 19 年度)。
【図】資本金1億円未満の企業の同族会社の割合
非同族会社 3%
同族会社 97%
3》その差はどこに?
実に資本金1億円未満企業の約 97%が同族会社です。ですから、
立派に経営をしている同族会社もあれば、身内の利益の確保ばか
り走る同族会社もあるということです。
今月はこの違いはどこに起因するのかを考えます。
シリーズ「一人ひとりの能力を活かす組織をつくる」:1 ㌻
【2】同族会社A社
1》A社の始まり
A社は圧着および接着加工、ポリッシング(研磨)を専門にす
る製造業者です。主なクライアントは自動車、光学機器、工作機
械などのメーカーです。高精度な研磨と圧着・接着は精密機器に
不可欠で、A社は技術力に定評があります。
A社の創業者A社長は元々、自動車の補修工場に塗料を販売し
ていました。きれいな塗装には下地が滑らかなことが求められま
す。A社長は得意先から研磨工具の使い勝手の悪さを聞いており、
紙やすりの改良を手がけたのがA社の始まり
だそうです。
以来、A社は技術革新を続け、業界の第一人者と認知されてい
ます。
2》A社のもう一つの側面
業界の先端を行く企業というのがA社の一面であるなら、「家
族経営」というのがA社を特徴づけるもう一つの側面です。会社
の発展とともに工場を拡張し、社員も大幅に増えました。
ただ、経営に直接携わるのは
A社長およびその親族に限られていました
から、「同族会社」というのが、よりA社の実情に合った呼び方
であるかもしれません。
これまではA社長の妻が経理を受け持ち、弟が営業を統括して
きました。創業 40 年あまりが経って、世代交代が行なわれよう
としているというのがA社の今です。
3》次期社長
A社長の長男Bさんは 15 年前にA社に入社し、甥にあたるC
さんは 10 年前に入社しています。彼らは各部門の管理職を歴任
してきましたが、その経歴はもちろん、将来A社の経営を担うこ
とを見据えてのことです。A社長はBさんに会社を継がせたいと
考えていましたが、A社長はそのことを
明言したことはありませんでした。
しかし、本人ばかりか周囲も既定の路線と捉えていました。
すべてが順調に進んでいるはずでした。ところが、その順調と
こしら
は頭の中での 拵 え事にすぎなかったのです。
シリーズ「一人ひとりの能力を活かす組織をつくる」:2 ㌻
【3】同族会社の難しいところ
1》もはや赤字商品のはずなのに……
Bさんを社長に就任させる前、BさんはA社長の下で商品開発
担当の取締役を務めていました。その頃、Bさんの頭を悩ませて
いたのが、A社が飛躍するきっかけとなった研磨工具の処遇でし
た。A社長が開発した商品です。
しかし、Bさんが商品開発を担当するころには時代遅れとなり、
作れば作るだけ赤字という状況でした。ごく当たり前の判断をす
るなら、その商品は生産中止です。社内でもそうした声が大きく
なっていました。
ところが、Bさんが当該商品の
生産中止を決断するまでには実に2ヶ月もの時間がかかった
のです。
2》同族会社の難しいところ
どうしてそんな状況に陥ったかは、第三者であれば容易に推察
できるはずです。赤字の垂れ流しと分かりつつも、父親自らが開
発した商品を生産中止とすることがBさんには忍びなかったか
らです。ただ、この分析は「第三者」であるから容易にできるの
でしょう。Bさんだって一刻も早く生産を中止したほうがよいと
分かっていたはずです。分かっていながら、それができない。そ
して、A社長自身もBさんの気持ちを察し、後押しができなかっ
たのです。
同族会社経営の難しさを実感
した初めての体験でした。
3》従弟との空気
また、こんなこともあったそうです。普段は協力して業務に当
たるBさんとCさんです。Bさんが新たな商品開発を提案すれば、
Cさんは顧客の声を根拠に的確な改善点を指摘します。フィード
バックの繰り返しで、商品には磨きがかかりました。
そうした中でA社長の引退が現実味を帯びてくると、Cさんの
態度が微妙に変わってきたそうです。Bさんの提案に否定から入
とうとう
り、社員の前で自分の考えを滔々と語り、
まるで自らを誇示するようであった
といいます。
シリーズ「一人ひとりの能力を活かす組織をつくる」:3 ㌻
【4】成否を分けるもの
1》信じていたはずの絆
そもそも、A社長は同族会社に対して肯定的に考えていました。
ですから、息子であるBさんに会社を継がせるということは当然
の流れでした。
BさんがA社に入社した頃は、ちょうど、同族会社による不祥
事が頻発する時期と重なったそうです。
しかし、家族の絆を信じていましたし、
「うちの会社は大丈夫」
という自負もありましたから、息子に継がせようという思いに変
わりはありませんでした。
2》規律の存在
ところが、いざBさんを経営者の立場におくというタイミング
になって、迷いが生じてきたそうです。
あらためて考えてみると、
「多くの同族会社が存在するなかで、
敬意を払われる企業と、身内のトラブルで自滅してしまう企業の
違いはいったい何なのだろう……」ということです。そう考え出
したA社長は、同族会社について調べてみました。
すると、
成功している同族会社には厳格な規律がある
ということに気づいたそうです。
具体例をひとつ挙げれば、「予が家を相続する者にして、不幸
にして、狂痴遊々の者ありて相続の見込みなき者は、親戚縁故の
協議を以て、家産百分の五を与え之を分家せしめ、他に相当の者
を選ぶべし」というのがありました。
3》家族だから?
家族だからこそ?
A社長は他にもさまざまな同族会社の規律を目にしました。そ
こに共通しているのは、「甘さ」を徹底的に排除するということ
でした。
ここで自分は大きな勘違いをしていたことに思い至ったので
す。家族だから絆が強いと前提してしまうと、そこにどうしても
甘さが出る。
家族だからこそ規律を厳しくして、
甘えが出ない状況を作って初めて同族会社の強みが発揮される
ということです。
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【5】いつか必ずやってくる世代交代
1》見えてきたこと
そう考えてみると、思い当たる節が多々ありました。Bさんが
赤字商品を生産中止にしなかったのは、
親子の絆に見えて、実は「甘え」でしかなかった
わけです。
いさか
また、CさんとBさんの予期せぬ 諍 いは、A社長が「誰がA
社を継ぐのか」について、明確に伝えていなかったことに起因し
ます。
そこが明確でないままにしていたからこそ、Cさんは、自分に
もチャンスがあると思ってしまいました。
その結果、気まずい関係性が生まれることになったのです。
2》家族の決め事
このことに気づいたA社長は、BさんとCさんを呼び出し、ま
ずは誰が次期社長となるのかを明確に伝えたそうです。そして、
三者が納得した上で、家族で経営をすることについての決め事を
一つひとつ固めていきました。
また、それとは別に月に一回、社員も含めた全員が集まっての
会食を恒例としました。家族間のコミュニケーションも必要です
が、他の社員の理解も必要だと考えた結果です。
現在、A社では社員全員とコミュニケーションを図って気持ち
の良い職場づくりに励んでいるそうです。
3》準備に早すぎるということはない
会社が続いていくならば、
いつか必ずどんな形であれ世代交代
のときがやってきます。会社を継ぐのは親族なのか、それともそ
れ以外なのか。
もし今、あなたの会社が同族会社でなかったとしても、次の世
代交代の選択肢の一つとして、親族が会社を継ぐ可能性はゼロで
はないはずです。
いずれにしても、しっかりとした規律を定めておくことが必要
になってきますし、それが親族であるのならば尚の事です。
その規律こそ、会社が長く続くか、それとも早々に没落するか
を分ける一線になるのではないでしょうか。
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