疫学調査研究分野 統括研究官 土井由利子 国における保健、医療および福祉に関する政 策上の諸課題について、疫学の理論および 手法を用いて問題解決を図り、国民の健康お よびQOLの向上に資する研究を行う。 国民の健康およびQOLの向上のため、行動 科学に基づいた健康教育について、保健医 療福祉従事者に対する養成訓練を行う。 1 主な疫学調査研究 幼児の睡眠と健康に関する研究 CCTQ日本語版の開発と子どもの朝型-夜型に関する研究 ・研究期間:平成23~26年度 ・研究費:科研費基盤(B) 難病の研究 神経変性疾患に関する調査研究 ・研究期間:平成24~25年度 ・研究費: 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等克服 研究事業 2 幼児の睡眠と健康に関する疫学研究 背景 近年、大人社会の夜型化や24時 間化が進み、その影響で子どもの 睡眠が夜型化し、成長や行動など に問題を引き起こすのではないか という懸念が広がっている。しか し、標準化された評価尺度が無 かったため、その個人差や夜型化 傾向に関する研究は立ち遅れてい る状況にあった。思春期・青年期 ~成人期の朝型-夜型の個人差 に関する研究では、年齢・性・遺 伝・人種・生活習慣などの種々の 要因の関与が示唆されているが、 子ども(特に幼児)に関する科学的 エビデンスは極めて少ない。 目的 子どもの朝型-夜型を評価する標 準化された尺度(CCTQ)を用い、 日本人の子ども(幼児)における朝 型-夜型の個人差に関する頻度・ 分布を明らかにし、関連要因等の 検討を行うことを目的とした。 調査 平成23年度:プレテスト 平成24年度:パイロット調査 平成25年度:全国調査(層化集 落抽出法にて全国の幼稚園・保 育所から無作為に抽出した基準 日年齢3~5歳の園児10,365人 (うち解析対象者7,826人) 全国の園児の朝型-夜型の個人差の分布 結果の要点 CCTQは海外で開発された尺度であるが、日本の子どもにも充分 に適用できる内容であり、信頼性・妥当性の高い尺度であることを 確認することができた。 夜型化傾向の園児は、朝型化傾向の園児に比べ、平日の睡眠- 覚醒の時刻が遅く、睡眠時間が短く、週末と平日の差(社会的時 差)が大きいだけでなく、平日の変動も大きいことが明らかとなっ た。また、多動/不注意や行為などの行動問題や自己抑制の困 難さとの関連も示唆された。園児の行動問題を捉える際には、睡 眠時間の長短だけでなく、朝型-夜型の個人差や睡眠-覚醒の 変動性に着目して、その寄与する諸要因に対応して行く必要があ る。 パイロット調査および全国調査の結果から、園児の約10%が夜型 化傾向にあり、夜型の幼児は全国で約30万人に上ると推測され た。朝型-夜型の個人差を視野に入れた新たな睡眠衛生の必要 性が示唆された。 右記URLを参照http://www.niph.go.jp/soshiki/04toukatsu/doi.html 3 ALSに関する疫学研究 背景と目的 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運 動神経細胞の変性を主病変とし て、全身の筋萎縮と筋力低下を生 じ、適切な栄養呼吸管理が行われ なければ、数年の自然経過で死亡 する予後不良の疾患であり、難病 の中でも極めて難治性の高い代表 的な疾患である。本研究の目的 は、難治性疾患等克服研究事業で 収集された臨床調査個人票の データをもとに、ALSの年間の有病 率や発病率、臨床像(臨床型、合 併症、ケア)および予後要因につ いて記述疫学的分析を行い、難病 対策に資する科学的知見を提供す ることであった。 調査 平成24年度:ALS患者の栄養呼 吸管理に関する横断的分析 平成25年度:ALS特定疾患医療 受給者証所持者数に係る全国 都道府県調査を実施し(回収率 100%)、年間の有病率および発 病率を推計 40 ALSの性・年齢階級別年間有病率(/10万人) 35 10 ALSの性・年齢階級別年間発病率(/10万人) 8 30 25 男性 20 女性 6 男性 女性 4 15 10 2 5 0 0 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70-79 80 + 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70-79 80 + 結果の要点 臨床調査個人票のデータ(7.461人[新規1,795人+更新5,666人] (入力率72.9%))をもとに解析を行った。栄養呼吸管理の主流は胃 瘻腸瘻、気管切開下陽圧換気で、使用率は、それぞれ33.1%(新 規4.8%)、27.8%(新規4.0%)であった。 全国47都道府県における年間のALS特定疾患医療受給者証所持 者数[新規+更新]は10,237人、[新規]は2,264人であった。各所持 者数を分子、医療保険制度別加入者人口を分母として、年間の有 病率および発病率(対人口10万)を推計すると、20歳以上では、そ れぞれ9.9(男11.8 女8.2)、2.2(男2.5 女1.8)であったが、70歳代で はそれぞれ27.1(男33.4 女21.9)、 6.5(男8.3 女5.1)に上った。 以上より、超高齢化社会における日本において、加齢によるALSの 有病・発病の増加と、高齢のALS患者・家族を如何にしてサポート して行くかは喫緊の課題である。 右記URLを参照http://www.niph.go.jp/soshiki/04toukatsu/doi.html 4 専門課程地域福祉分野必須科目 行動科学 行動科学の基本 健康リテラシー率の向上 健康リテラシーのある人を増やす 批判的思考ができ、問題解決が できる人 責任を持ち、建設的行動が取れ る人 自己学習ができる人 人と上手くコミュニケーションが 取れる人 National Health Education Standards: Achieving Health Literacy カリキュラムと教材 カリキュラム 行動科学概論 学習理論と行動分析 行動科学各論 行動科学演習 教材 行動科学-健康づくりのための理論と応 用(改訂第2版第3刷). 畑栄一・土井由利 子(編), 南江堂(2012) Health Behavior and Health Education: Theory, Research, and Practice (Fourth edition). Glanz K, Rimer BK, Lewis FM (eds), Jossey-Bass (2008) 5
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