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一級建築士事務所
辰栄工務店
新生工業本社ビル 竣工 2010.04
硬質な素材と繊細な手作業。
柱
剛と柔、環境を融合したエントランスを目指して
クライアント:株式会社 新生工業
竣工:2010 年 4 月
職 人 の 手 作 業 による 高 度 な 技 術と、
柔 軟 な ア イ デ ア の 結 晶 が 、 エ ントラ ン ス に 表 情 を 創 る
福島県産ケヤキ角材5寸5分(約16cm角)の迫力に、 どちらにしても“設計屋”では考え付かないはず。“大工”
なぐ
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ケヤキ無垢材表面の凹凸は「撲り加工」という技法を
でもある弊社社長のアイデアが詰まった柱は熟練した
使った印象的な柱。手仕事だけが勝負のこの技は、
本物の大工に加工され、無数の陰影がエントランスに
英国の撲り仕上げからヒントを得て採用した。硬木の
表情を彩る。そして仕上げは、古民家のよく拭き上げ
ケヤキにこれだけの凹凸の数となると、コスト・手間の
られた柱や梁の風合いをイメージして着色された。
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不 規 則 性 が リズ ム を 生 む 建 材 の チ ョ イ ス
ス床は同質感の材料ではなく、全面
を硬質で不規則な仕上げにするため
に、割り肌調のタイルを4種の大きさ
で乱張りに。ガラス間仕切の会議室
まで一面の広がりを見せるタイルと
柱のケヤキとガラスの取り合わせが
楽しい。ワックスで艶を増すと、また
エントランスホール 応接スペース
ケヤキの柱の質感に対し、エントラン
異なった変化をつけられる。
壁面材。うづくり突き板透か
し目地。透かし目地を遊び
心で赤に塗る。濃すぎれば
和風になりすぎ、薄すぎれ
ば面白くない。遊び心にこそ
手間を掛けてみる。
周辺の環境を生かした設計に
公園の自然を引き込む庭・吹き抜けのエントランスホール
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設計にあたり、まず隣地の環境を見定めることから出発し
路側には中から自動車を見せない高さと形状の塀を。自
た。敷地の周辺には、都内有数の公園の巨木・遊歩道、
然を取り込んだ抜けのある空間のために、エントランスに
環状八号線の渋滞と目前の歩道橋が。広大な公園の樹木
は高さのあるサッシ・ガラスを設けながらも、落ち着いた
を生かすため、庭の植栽は手前に木肌のおもしろい落葉
空間を目指した。吹抜けにしたことで、遊び心だけじゃな
樹、奥・両側に向かって常緑の低木・中高木を配置。道
く開放感のある人を惹き付ける魅力を建物に与えている。
吹き抜けの照明は照らさず、
ロングコードを見せながら光
るだけ。柱のブラケット照明
は、ケヤキの凹凸を夜も美し
く見せたいという意図から柱
の中をくり貫いて配線した。
エントランス奥の会議室。エントランスと
同様のタイル張りで広がりを見せている。
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中庭からの外観
立体的な格子と吹き抜けのガラス窓、
夜の照明がイルミネーション効果でランドマーク要素も 効果的な形状が
昼と夜 で 異 なる顔 を見 せる外 観
庭側からの外観については、凸凹をつけた立体感
を感じさせる設計を選択した。テラスをL 型に回し、
PC 板(工場製作コンクリート板)を格子状に。日中
はテラス外側が面に見え、開口いっぱいに取った 3階
のガラス面は奥で影になり、夜にはそのガラス面から
照明が浮き上がって格子がくっきり光を遮る。吹き抜
けの窓と共に、夜はイルミネーションのような効果を
狙っており、訪れた人に期待感を与えてくれる。
もれる光が美しい夜の外観。
環状八号線のランドマーク的効果も狙ったライティングだ。
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外観
歩道からのアプローチ。1階外壁と同様の鉄平石を積んだ花壇が外構に一体感を与えている。
環状八号線からの外観。庭から続く格子のPC板(工場製作コンクリート板)が連続した流れを生んでいる。
来 訪 者を迎え入 れる
季 節 で 変 化 して い く 植 栽 と 曲 線 の ア プ ロ ー チ
エントランスに向かうアプローチ
てっぺいせき
には、1階外壁と同様の鉄平石で花
壇を造作した。格子の直線が目を引くビ
ルの外観に対し、曲線のアプローチは入口へ誘う柔ら
7
こ
ば
づ
1階外壁は鉄平石のタンコロ小端積みで仕上げている。
かいラインで、季節の植栽が来訪者の目を楽しませる。
小端積みとは、厚みの揃っていない石を石職人がランダ
3年後にはシンボルツリーであるオリーブが大きく育ち、
ムに感性で積み上げていく技法。貼りものでは決して
花や実をつけるのを待つのも植栽の楽しみ。新規の植栽
出せない、職人の経験に裏打ちされた不規則で立体感
だけでなく、独立したカシの木はもともとこの地に育って
のある壁が、打ちっぱなしコンクリートの冷たい素材 +
いた既存の樹木で、移植して新たな役目を与えている。
連続性のあるPC板の対比となって印象的に。
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その他
1 階の客用トイレ。陶器の白
をより美しく見せるための壁
は深い色を選択。おもしろい
木目(エボニー)の突板を使
い、パーテーションやカウン
ターは色を合わせてシックな
スペースに。床は白い大理石
(ビアンコカララ ) 張りとした。
社名看板
3F 事務室(スケルトン)
3F 事務室(スケルトン)
クライアントが芦花公園の景観を生かしたビルを希望されたのを受け、景観に加えて研究室・
製作工場としての機能性も持ち合わせた建物を目指した。部屋配置・寸法のプランニング
屋上
2F 事務室
2F 休憩室
設計概要
(株)新生工業本社ビル新築工事
は変更可能ギリギリまで時間を掛けて練り上げた。特に機能・導線においてはイメージでき
住所:世田谷区粕谷 2 - 1 - 8
るまで特に重点的に考えた。景観はもともと素晴らしく、注意したのは景観を邪魔せずにで
構造:RC造(設備:EV1基)
きる限り大きな開口を可能とするプランニング。植栽は人工物をさりげなく隠し、樹種と季節
を踏まえた配置を考慮することで、必要に応じて視野を遮り、また採光を調節できた。
階数:地下1階 地上3 階
建築面積:221.73㎡
延床面積:800.42㎡
弊社の強みは限りなく職人に近い社長・設計者・管理者がいること。熟練した職人との付き
最高部高:平均 GL+9.95m
合いも長く、管理体制に不安がない。設計者が現場で職人と常に一緒に動ける強みが、変
設計・施工:
(株)辰栄工務店
更時のフレキシブルな対応に現れていると自負している。弊社の設計業務としてはこれが初
めての物件だが、様々な建築物を扱ってきた過去の経験値が今回の設計にプラスになって
いると思う。本誌が設計の初仕事の記録として役に立つことを願って——。
B1F 工場
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B1F 工場
1F 事務室
株式会社辰栄工務店 一級建築士 志賀
本誌デザイン・編集:和田 淳子
撮影:杉田 容子
智哉
協力:指田 徳生
一級建築士事務所 株式会社
辰栄工務店
〒 151- 0071 東京都渋谷区本町 1-36 -11
電話:03-3377- 9891 FAX:03-3377- 9817
mail:[email protected] HP:http://www.shin-ei-net.co.jp