大阪市立科学館研究報告 25, 77 - 80 (2015) サイエンスショー「水の科学」実施報告 有 紀 子* 岳 川 概 要 2014年 9月 から11月 までのサイエンスショーは「水 の科 学 」と題 して、水 の三 態 変 化 と、それに伴 う体 積 変 化 について、ダイナミックな実 験 を通 して紹 介 した。三 態 変 化 では特 に、多 くの人 が混 乱 している「湯 気 」と「水 蒸 気 」の違 いを見 せた。体 積 変 化 では、液 体 が気 体 に変 わる際 に約 1700倍 にも体 積 が増 える ことについて風 船 を用 いて実 感 できるように見 せた。 1.はじめに 表1.サイエンスショー「水の科 学、大実 験!」 実 験 概要 3階 展 示 場 で毎 日 開 催 している30分 間 の実 験ショー 実験 「サイエンスショー」について、2014年 9月 から11月末 ま 1 で実施した「水の科 学」について報 告する。 今 回 のサイエンスショーの目 的 は、① 水 の状 態 変 化 を認 識 していただく(特 に、「湯 気 」と「水 蒸 気 」のちが 2 いを知 っていただく)、② 水 ⇔水 蒸 気 のダイナミックな 体 積変 化を実 験を通 して理 解 していただく、の2点とし 3 た。同 じ現 象 を説 明 するために複 数 の実 験 を行 なうな 実験内容 主な解 説 撥 水 剤 を塗 ったボ 水 がは じいて 水 滴 が 見 え ードに水 を流 す(図 る。今 日 はこの水 が主 役 1) です。 撥 水 剤 を塗 ったポ 水 をはじいて濡 れないの イで金 魚すくい でエンドレスですくえる。 氷 -過 冷 却 水 で氷 水 は0℃以 下 に冷 えると をつくる(図2) 氷 (固 体 )になる。過 冷 却 ど、丁 寧 にこれらの概 念 の 現 象 を見 せ、言 葉 ではなく 水 のような特 殊 な状 態 も 現象で納得していただけるよう工 夫した。 あるが、振 動 や氷 との接 触などがあれば凍る。 表1.「水の科学」演 示 概 要 4 演 示 期 間 9月2日~11月 30日 湯 気と水 蒸気(図2 水蒸気は目に見えない 左) (気 体 )、湯 気 は小 さな水 演 示 回 数 289回 見 学 者 数 20,378人 の粒(見える)。 5 2.内 容 過熱水蒸気(図2 水 蒸 気 を加 熱 し続 けると 右);銅 線 を過 熱 し 100 ℃ 以 上 に な り 、 マ ッ チ 水 蒸 気で紙を焼 く が発 火 したり、 紙 を焼 くほ 2009年に演 示 したサイエンスショー ※ 1 のリバイバルの ため、基本的な構 成 での大 きな変 化はないが、今回は ど高 温になる。 6 導入として撥水を取り入れた。 2-1.撥水 7 導 入として撥 水 の実 験 を取 り入 れてみた。水を観 察 してただくこと、水 が今 回 のショーの主 役 であること、を 水 蒸 気 から雲 を作 空 気 中 の水 蒸 気 (湿 気 )を る( ペッ トボ トルで 単 上 手 く冷 やすと雲 になる。 熱 膨 張) 雲は水(または氷)の粒。 水 →水 蒸 気 →水 の 水 が 水 蒸 気 になると 体 積 体積変化(風船を が 増 し ( 約 1700 倍 ) 、 逆 に 使って) 水 蒸 気 が 水 になると 体 積 驚きを交えながら楽しんでいただく実 験で、最 初の“つ が減 る。 8 * 大 阪 市 立 科 学 館 学 芸 員 /中 之 島 科 学 研 究 所 研 究 員 [email protected] 水 →水 蒸 気 →水 の 7の実 験 を空 き缶 でする。 体 積 変 化 (空 き缶 を 大 気 圧 については言 及 し 使って) (図3) ない。 岳川 有紀子 かみ”を期待したものである。 実際には、水滴が小さくて見 にくいことや、撥水の概 念 が 無 いこと などから、「? ??」な反 応 が 多 く 、期 間 の後 半 では省 略 することも多 かった。撥 水 は別 のテー マの 際 に 、も う 少 し丁 寧 に 展 開 す るこ と でそ の 効 果 を 上げたいと考えている。 図3.過 冷 却 水を注いで凍らせる。 ており、「湯 気 」を「水 蒸 気 」と答 える方 が非 常 に多 い。 図 1.撥 水 剤 を塗 ったボード上 で撥 水 した水 。ただし水 滴 今 回 も3ヶ月 間 、お客 様 に挙 手 などで聞 いてみたが、 が小さいのでモニタに写 して見せた。 半分以上が「湯 気」を「水 蒸 気」と答えていた。 図 4の実 験 道 具 や霧 吹 きなどを使って、「湯 気 」は液 2-2.過冷却水 体 (小 さな水 滴 )、「水 蒸 気 」は気 体 (したがって目 に見 今 回 は 水 を 冷 たく したり 温 かくする 実 験 です 、という えない)ことを、繰り返し示した。 前 置 きで、「水 が冷 たくなると氷 になる」「水 は0℃で氷 ただし学 校 の 授 業 のようになりがちなので、 サイエン になる」と予 想 させて、冷 凍 庫 に用 意 した過 冷 却 水 の スショーとしての楽 しさやテンポを失 わないように 演 示 実験に移った。 者は注意が必要であった。 まず温 度 を測って見 せ、「0℃より冷 たいのに水」とい う状 態を示し、「あれ?」という反 応 になっていただいた。 そ して用 意 してお いたグ ラ スに 過 冷 却 水 を 注 いで、 氷になっていく瞬 間を見せた。水が0℃より冷たくなると 氷 に なることを 知 っ てる 子 供 も 多 いが 、そ の 知 識 を 裏 切 りつつ、目 の前 で凍 る現 象 を見 せると、大 変 反 応 の よい実験であった。 過 冷 却水の原 理 は簡 単 ではないので、今 回 は「そー っと冷やしておいたので、凍 るのを忘れている状態。刺 激 を与 えると温 度 を思 い出 して氷 になった」、という説 明に留めた。 図 4.湯 気 と水 蒸 気 、過 熱 水 蒸 気 の実 験 道 具 。ゴム栓に 銅 管を取り付け、バーナーで加 熱したり、霧 吹 きで水 をか けて冷やしたりして、水 蒸 気 と湯 気を交 互に見せる。 図2.過 冷 却 水は-4℃前 後 にキープされていた。 2-3.湯気と水蒸 気、過 熱 水 蒸 気 前 回 の実 践 で報 告 したが ※1 、年 齢 に関 係 なく多 くの 方は「湯気」と「水 蒸 気」の違 いをあいまいに記 憶 し 図 5.PETボトルに雲 を作 る。PETボトルに水 蒸 気 が入 った空 気 を入 れ(普 通 の空 気 )、断 熱 膨 張 のしくみを使 っ て冷やし、小さな水滴(雲)に変 化させる。 サイエンスショー「水の科学」実施報告 図6.PETボトルの中にできた雲。すぐに消える。 。 2-4.水⇔水蒸気の体 積 変 化 図 9.お湯 を捨 て、風 船 でフタをして冷 やすと、風 船 がフ 水が水 蒸 気 に変 化 する際 、体 積 が非 常 に大 きくなる ラスコの内 側 に入 り込 む。水 蒸 気 が水 になるときには体 (約 1700倍)。風 船 を使 って、ハラハラドキドキさせなが 積 が小 さくなる。また空 にしたはずのフラスコにスプーン1 ら、この 体 積 変 化 を理 解 していた だく。水 蒸 気 は見 え 杯 程 度の水があることを確 認 することも大 切。 ないので説 明 が難 しいが、前 章 できちんと理 解 してい ただければ、見えないものとして水 蒸 気を想 像 できるお 客様も多 い。 図 10.図 9の状 態 で再 び加 熱 する。 風 船 が戻 ってい き、 フラスコの中 のわずかな水 はなくなる(水 蒸 気になる)こと 図 7.水 を加 熱 しているフラスコに風 船 をとりつけると、水 を確 認。 蒸 気 で風 船 が大 きくふくらむ。水 はほとんど減 っていない のに、風 船 がかなり大きくなることに気 付かせ、約 1700倍 になることを印 象 付ける。 3.その他:サーモスタット 今 回 は、長 谷 川 学 芸 員 の提 案 で過 冷 却 水 を作 るた めの冷 凍 庫に、サーモスタットを導 入 した。結 果 的によ り安 定 的 に過 冷 却 水 が 用 意 できるようになり、実 験 準 備の負担 や精神的ストレスが軽くなった。 この サーモスタットに よる 過 冷 却 水 の 安 定 作 成 に つ いては、長谷川学芸員が報告している。 ※2 図8.水 蒸 気で膨 らんだ風 船 を密 封 し、うちわで扇いで冷 やすと風 船 が縮 んでいく。風 船 の中 に 、少 しの水 がある ことも確 認。 図 11 . サ ー モ ス タ ッ ト の 設 定 温 度 は 最 終 的 に -6.5 ~ -3.0 ℃がもっとも良 かった。表 示 される 庫 内 温 度 は-3~ -4℃でキープされていた。 岳川 有紀子 図 12.冷 却 状 態 の飲 料 水 が販 売 されていたコンビニエン スストア。 世 間 には安 定 的 に過 冷 却 水 を作 ることができ るしくみがある。 4.おわりに 水は身 近 な物 質 であり、状 態 変 化 によって、さまざま な 姿 や 名 前 に 変 わ る お も し ろ い 物 質 で あ る 。 し か し、 「湯 気」と「水 蒸 気 」の違 いや、体 積 変 化 などは、あまり 知られていない。 今 回 のようなダイナミックな変 化 で水 の科 学 を 学 ぶこ とは、大 人 の 方 でも楽 しそうに、時 に「へえ」とうなずき ながら30分を過ごしてくださっていた。 平 日 の遠 足 などで訪 れた小 学 生 は、ちょうど小 学 校 4年 生 で水 の状 態 変 化 を学 習 するため、教 材 としても レベルとしてもぴったりで、「理 解 できて楽 しい」というキ ラキラ輝 く顔を見 せてくれていた。また、引 率 の先 生 か らは、学 校 の授 業 でも同 じ実 験 ができないかなどにつ いて質問を受けることがあった。 水の三 態 変 化 、というと地 味 ではあるが、科 学 館 なら ではの楽 しみながら学 ぶス タイルを今 後 も 普 及 してい きたい。 参考文 献 1)岳 川 有 紀 子 ,「 湯 気 と 水 蒸 気 の 認 識 ― サイエンス ショー「水 の科 学 、大 実 験 !」より―」,大 阪 市 立 科 学 館 研 究 報 告 第20号,129-132,2010 2)長 谷 川 能 三 ,「サーモスタットを用 いた過 冷 却 水 の 安定作成」,大阪 市 立 科 学 館 研 究 報 告 第 25号.19-22, 2015
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