拡大を見せるロシアの スマートフォン市場

特集◆ビジネス視点から見たロシア社会
拡大を見せるロシアの
スマートフォン市場
上記の廉価ブランド3社が、Samsung、Nokia、Appleとい
った従来のリーダー企業(当地では「Aブランド」と称され
る)らが形成していたトップ6に初めて名を連ねた。
なかでもAlcatel製品は、3,000~7,500ルーブルという
はじめに
お手頃な価格帯が魅力であり、販売台数は124%増と
今号から始まった新コーナー「デジタルITラボ」。本コ
著しい成長を見せた。また、Lenovo製品は低価格かつ
ーナーでは、ロシアのデジタル機器市場の状況や、消費
「Aブランド」にも引けを取らない豊富なバリエーションを
者のトレンド等、タイムリーな記事をお届けしたい。
武器に市場シェアを7%にまで伸ばしており、今後もこれ
第1回は、昨年秋にやっと人生初のスマートフォンを購
入した初心者である筆者が、恐れ多くもロシアのスマート
フォン市場の概要についてご紹介させていただく。
ら廉価ブランドの成長には大きく期待できるようだ。
一方、守勢に回った「Aブランド」のなかで、Samsungと
Appleは一定のシェアを維持している。Galaxyシリーズを
展開するSamsungでは、消費者のニーズに合わせた機
販売台数と売上高
能性および幅広い価格設定を戦略としており、2015年
ロシアの3大通信キャリアの一角を占めるMTS社の発
第1四半期のロシア市場において、22%のシェアを占め
表によると (http://www.media.mts.ru/gadgets/101929/) 、
ている。また、2010年には60%以上のシェアを誇った
2010年から2014年の5年間で、ロシアのスマートフォン
Nokiaだが、Samsungおよび廉価ブランドの台頭により、
市場規模は急拡大している。販売台数で見ると、2010
2014年の市場シェアを9.3%にまで落とし、微増を続け
年には380万台であったのに対し、2014年には2,700万
ていたApple(10.6%)の下に甘んじる結果となるなど、
台と、7.3倍の増加となっている。また、旧式の携帯電話
均衡は崩れつつある。
(日本で言うところのいわゆる「ガラケー」)と合わせた携
帯電話の販売数においては、スマートフォンが占める割
インターネットとモバイル機器
合は、62%にまで高まっている。スマホの売上高につい
話は少し脱線するが、2015年3月に全ロシア世論調
て は 、 2010 年 の 460 億 ル ー ブ ル か ら 、 2014 年 に は
査センター(VTsIOM)が18~24歳の若者1,600人を対
2,450億ルーブルと、約5.3倍の増加が見られた。
象に実施した調査によると、2012年と2015年のインタ
普及率の上昇にともない、スマートフォン本体の平均
ーネット接続端末の割合において、タブレットが21倍、ス
小売価格は下落を続けている。2010年には1万2,210
マートフォンが5.5倍の伸びを見せた。このことから、イン
ルーブルであった1台あたりの平均小売価格が、2014
ターネット接続における利便性が、これらモバイル機器
年には8,873ルーブルとなり、5年間で27%の下落とな
の需要を支えていることがわかる。
った。また、MTSではデータ通信や各種オプションによる
また、都市インフラの観点から見た場合、公共スペー
増収を視野に、本体価格を10~30%程度下げるという
スのWi-Fi化もモバイル機器の需要増大に影響している
価格改定策に着手しており、今後は小売店での価格競
と言える。モスクワ市では2015年1月より地下鉄の全車
争が激化する可能性が高い。
両で無料Wi-Fiが利用可能となっているほか、2015年6
月現在、100を超える鉄道駅やバス停にてWi-Fiが試験
廉価ブランドのシェア拡大
ここに来て販売台数を伸ばしているのが、Lenovo(中
国)、Alcatel(フランス)、Fly(英国)といった廉価ブランド
的に導入されている。モスクワ市交通局としては、いずれ
450カ所の鉄道駅、バス停とともに、バス、トロリーバス車
両内にも無料Wi-Fi設備を導入する方針である。
(当地では「Bブランド」と称される)である。2015年第1
現状、モスクワ市予算により整備された無料Wi-Fiスポ
四半期の市場においては、スマートフォン販売台数が
ットの数は、交通機関や公園、歩行者天国などを含む
2014年同時期と比べ7%減の470万台に留まったもの
公共スペース6,500カ所に留まっているが、2018年の
の、これら廉価ブランドの販売シェアは43%から53%に
FIFAワールドカップ・ロシア大会に向け、開催地の一つで
拡大した。ロシア経済の停滞およびルーブルの下落によ
あるモスクワ市では都市インフラ整備の一環として今後
り、ブランドイメージよりも機能性と価格を重視する消費
もWi-Fiスポットの拡大に取り組む姿勢を見せている。
者が増加しているものと思われる。販売台数においては、
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(大渡 耕三)
ロシアNIS調査月報2015年8月号
図表1 ロシアでのスマートフォン販売台数の推移
図表2 スマートフォン1台あたりの平均小売価格の推移
(単位 100万台)
(単位 ルーブル)
27.6
12,210
10,641
10,819
9,553
19.7
8,873
12.7
8.1
3.8
2010年
2011年
2012年
2013年
2010年
2014年
(出所)MTS
2011年
2012年
2013年
2014年
(出所)MTS
図表3 2015年第1四半期のロシア市場での人気10モデルのシェア(アンドロイド機のみ、%)
Google Nexus 5
2.72
SM‐Galaxy S4
2.46
SM‐Galaxy S5
2.31
ASUS ZenFone5
1.72
SM‐Galaxy Note3
1.38
SM‐Galaxy S3
1.34
SM‐Galaxy Note4
1.32
Sony Xperia Z3
1.22
SM‐Galaxy Alpha
1.20
LG G2
1.11
(出所)AnTuTu Benchmark
図表4 インターネット接続における利用端末のシェア(%)
49
デスクトップ
44
7
スマートフォン
39
25
ノートブック
36
1
タブレット
21
17
旧式携帯電話
20
2012年
2015年
(出所)全ロシア世論調査センター(VTsIOM)
ロシアNIS調査月報2015年8月号
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