やんばる物産株式会社の不明金問題に関する 調査報告書

やんばる物産株式会社の不明金問題に関する
調査報告書(中間報告)
平成 27 年 3 月 4 日
名護市
目
次
頁
1.やんばる物産株式会社設立の経緯
(1)会社設立の経緯
(2)やんばる物産株式会社設立の概況
(3)やんばる物産株式会社の概要
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
1
1
2
2.名護市における第3セクターについて
2.名護市における第3セクターについて
(1)第3セクターとは
・・・・・・・・・・・・・・
(2)市の第3セクター支援に対する考え方
・・・・・・・・・・・・
3
3
(3) 出資等に係る市の考え方
・・・・・・・・・・・・・・
4
3.不明金問題の経緯について
(1)不明金問題の概要
(2)横領行為の発覚の経緯
(3)横領行為の内容
(4)横領行為の発生した原因
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
5
6
6
7
(5)不明金問題の帰結
(6) 不明金問題の経緯
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
7
8
4. 議会決議への対応
(1)名護市選任弁護士による調査
・・・・・・・・・・・・・・
9
5.筆頭株主として
5.筆頭株主としての改善提案
としての改善提案
(1)第3セクターとしての会社運営体制の見直し ・・・・・・・・・・10
(2)名護市、派遣職員の役割
・・・・・・・・・・・・・・・・11
(3)再発防止策と進捗点検組織の設置 ・・・・・・・・・・・・・・・11
(4)情報開示と民主的統制(報告の拡充)・・・・・・・・・・・・・・12
1.やんばる物産株式会社設立の経緯
(1)会社設立の経緯
昭和62年やんばる特産品センター構想として北部を訪れる行楽客を北部の玄関口である
名護市へ如何に足止めできるかという観点から、国道58号線数久田~許田間の旧道路通称
翁長カーブ(名護市許田長浜原72番地)に休憩所を設置し観光土産品として北部地域の特
産品を販売する計画として進められ、平成3年7月、北部国道事務所に対しロードパーク
設置を名護市及び名護市商工会が要請した。車社会における北部やんばる、特に名護市を
中心としての入域車両、行楽客の増加等により、県民ドライバーに対してサービスエリア
の設置に北部のイメージアップと地域経済活性化を図る必要性を訴え、沖縄開発庁沖縄総
合事務局企画開発調整官と北部国道事務所に対し、正式にロードパーク設置の陳情書を提
出後、沖縄開発庁沖縄総合事務局より、運営母体となる会社は第3セクター方式を取るよ
うに具体的な指導を受けた。
以後、北部国道事務所、名護市、名護市商工会、関係機関との調整作業を進め、平成4
年4月名護市商工課を中心に第3セクター設立準備会を設置し会社設立準備を進め、平成
4年6月25日名護市の出資額が市議会で決議された後に、平成4年7月3日名護出雲殿に
おいて、第3セクターやんばる物産株式会社設立総会が行われ、平成4年7月29日付けで
法人登記が行われた。
(2)やんばる物産株式会社設立の概況
●昭和62年10月(1987年)
名護市商工会において、車社会に対応したやんばる観光事業促進のためロードパーク
設置と地域物産販売を兼ねた休憩施設の必要性が唱えられる
●昭和63年1月(1988年)
ロードパーク設置場所選定着手
●平成3年5月(1991年)
用地交渉成立
●
同年3年11月(1991年)
沖縄開発庁沖縄総合事務局にロードパーク設置要請を行い、やんばる物産センター設
立に向けて準備作業着手
●平成4年4月(1992年)
沖縄開発庁沖縄総合事務局より「道の駅」事業に設定
●
同年7月(1992年)
第3セクター法人やんばる物産株式会社設立
●平成5年4月(1993年)
名護市とやんばる物産株式会社による開発協定設立締結
●
同年8月(1993年)
建設工事着手
●
同年12月(1993年)
1
建設工事完了、仮オープン
●平成6年1月(1994年)
やんばる物産センターグランドオープン
●平成6年4月(1994年)
「道の駅」許田認定(県内第1号/国土交通省の認可、沖縄県では当時初の認定)
●平成7年7月(1995年)
「道の駅」許田道路情報ターミナルオープン
●平成9年(1997年)
宝くじ売り場オープン
●平成12年4月(2000年)
増築リニューアル
●平成19年(2007年)
ベンチャー・アワード受賞
(起業家を表彰する中小企業庁の地域貢献賞)
●平成23年1月(2011年)
フードコートオープン(レストラン3店舗入居)
●
同年11月(2011年)
農業生産法人やんばるよりあいファーム設立
●平成24年7月29日(2012年)
創立20周年を迎える
●平成26年12月(2014年)
農業生産法人やんばるよりあいファーム解散
(3)やんばる物産株式会社の概要(平成26年12月現在)
【会社概要】
設
日 平成4年7月29日
立
商
号 やんばる物産株式会社
住
所 名護市許田17番地の1
法 人 に つ い て 第3セクター方式
本
資
金 6,000万円
株 式 に つ い て 発行する株式総数1,200株
1 株 の 額 面 5万円
名 護 市 保 有 株 式 400株(2,000万円)
株
主
総
数 16人
①食料品、工芸、民芸、日用雑貨、酒類、清涼飲料等の製造及び販
売
業
務
内
容 ②農産、畜産、水産物の加工及び販売
③花卉、樹木、鑑賞用植の物栽培、販売
④土産品、レストランの経営
2
⑤動産、不動産の賃貸及び不動産管理
⑥コンサート、演劇チケット等の委託販売及び宝くじ郵便切手、は
がき等の販売
⑦「道の駅」許田道路情報ターミナル施設の管理運営
⑧名護市、公共団体等から受託した公共施設の管理運営及び清掃業
務
従業員状況
40名
総務・企画課(8名)、農産課(9名)、パン工房(5名)、特産課(7名)、
パーラー(3名)、フードコート(5名)、てんぷら(3名)
テナント入居状況
11テナント入居
チョコもち工房、やんばる小(グワー)、茶和貴菓(ちゃわきぐゎ)
本舗、まーさん屋、えびす、外間かまぼこ工房、琉球銘菓さーたー
あんだぎー三矢、おっぱじぇらーと工房、DAGA、月桃の香り、わく
わくランド
2.名護市における第3セクターについて
(1)第3セクターとは
本市として平成20年6月30日に総務省より通知された「第3セクター等の改革について」
に基づき、「第3セクター」とは、次に該当する法人及び地方公社として位置付ける。
・民法の規定に基づいて設立された社団法人若しくは財団法人又は会社法等の規定に基づ
いて設立された株式会社等のうち、市が基本財産又は資本金の25%以上を出資している
法人
・民法法人又は会社法法人のうち、市が基本財産又は資本金の25%未満を出資している法
人で、かつ、継続的に人的又は財政的な支援を行っている法人
・特別法に基づく地方公社(地方住宅供給公社、地方道路公社及び土地開発公社をいう。)
(2)市の第3セクターに対する考え方
①
名護市第3セクターの現状
これまで、第3セクターは市民サービスの向上や地域振興などを目的に設立され、行政
の補完、支援する組織として市と連携しながら、重要な役割を担ってきたが、規制緩和や
NPO等の市民活動の進展による公益サービスの担い手の拡大、指定管理者制度等の導入によ
り第3セクターを取り巻く環境は近年、大きく変化している。
現在、名護市の第3セクターとして該当する組織は「公益財団法人名護市観光協会」、
「名護自然動植物公園株式会社」、「やんばる物産株式会社」、「名護市土地開発公社」
となっている。
3
【名護市第3セクター一覧表】
役員就任状況
名称
(公財)名護市観光協会
会長
市長
理事
産業部長
名護自然動植物公園(株)
取締役
やんばる物産(株)
出資比率
出資額
85.7%
30,000千円
市長
22.1%
30,000千円
取締役
副市長
33.3%
20,000千円
理事長
副市長
100.0%
5,000千円
理事
建設部長 他4部長
名護市土地開発公社
(3)出資等に係る市の考え方
第3セクターに対する市の出資等については、公と民の役割分担、事業の内容や公益性、
民間企業における類似事業の実施状況等を検証し、地方自治法等の関係法令を踏まえ、議
決権の行使や経営状況の監査権限等、出資割合に応じて可能となる関与、行使できる権利
等について総合的に判断し、第3セクターの自立的な経営努力を促す面からも、必要最小
限の出資にとどめている。
【市長の調査権と対象法人(市議会への報告義務)】
○地方自治法により、市の出資比率が50%以上の法人と法定されている。
※地方自治法第221条
普通地方公共団体の長は、予算の執行の適正を期するため、委員会若しくは委員又はこ
れらの管理に属する機関で権限を有するものに対して、収入及び支出の実績若しくは見込
みについて報告を徴し、予算の執行状況を実地について調査し、又はその結果に基づいて
必要な措置を講ずべきことを求めることができる。
2
省略
3
前2項の規定は、普通地方公共団体が出資している法人で政令で定めるもの、普通地
方公共団体が借入金の元金若しくは利子の支払を保証し、又は損失補償を行う等その者
のために債務を負担している法人で政令で定めるもの及び普通地方公共団体が受益権を
有する信託で政令で定めるものの受託者にこれを準用する。
※地方自治法施行令第152条
地方自治法第221条第3項に規定する普通地方公共団体が出資している法人で政令で定
めるものは、次に掲げる法人とする。
⑴
当該普通地方公共団体が資本金、基本金その他これらに準ずるものの2分の1以上
を出資している一般社団法人及び一般財団法人並びに株式会社
【市の監査委員による監査権と対象法人】
○地方自治法により、市の出資比率が25%以上の法人と法定されている。
※地方自治法第199条第7項
監査委員は、必要があると認めるとき、又は普通地方公共団体の長の要求があるときは、
4
当該普通地方公共団体が補助金、交付金、負担金、貸付金、損失補償、利子補給その他の
財政的援助を与えているものの出納その他の事務の執行で当該財政的援助に係るものを監
査することができる。当該普通地方公共団体が出資しているもので政令で定めるもの、当
該普通地方公共団体が借入金の元金又は利子の支払を保証しているもの、当該普通地方公
共団体が受益権を有する信託で政令で定めるものの受託者及び当該普通地方公共団体が第
244条の2第3項の規定に基づき公の施設の管理を行わせているものについても、また、同
様とする。
※地方自治法施行令第140条の7
地方自治法第199条第7項後段に規定する当該普通地方公共団体が出資しているもので
政令で定めるものは、当該普通地方公共団体が資本金、基本金その他これらに準ずるもの
の4分の1以上を出資している法人とする。
※
監査の対象は、財政的援助に係るもので、出納その他の事務の執行の範囲内に限られ
ることから、当該財政的援助を受けているものの行う事業の事業計画の適否等で出納その
他の事務の執行とは思われないものについては、直接にこれを監査の対象とすることはで
きない。
【保有する議決権(株式保有率)の比率と主な権利】
議決権比率
主な権利
100%
株主全員の同意による権利
3分の2以上
定款変更
(66%以上)
監査役の解任
株主総会の特殊決議
株主総会の特別決議を単独採決
50%超
取締役の選任・解任
監査役の選任
計算書類の承認
株主総会の普通決議を単独採決
3分の1超
株主総会の※特別決議を拒否
10%以上
解散請求
3%以上
株主総会の招集
帳簿の閲覧
1%以上
※
株主提案権
特別決議事項としては、法人の合併や事業譲渡、新株の有利発行、株式併合、定款変
更などがある。
3.不明金問題の経緯について
5
(1)不明金問題の概要
名護市が筆頭株主であるやんばる物産株式会社において、不明金問題として1903万5000
円が存在することが新聞報道等で明らかになったことについて、やんばる物産株式会社の
説明では、従業員によるレジの通常と異なるレジの準備金額の入力及び修正操作(以下、
「不正操作」という)によりレジ内等の売上金の窃盗ないし横領行為(以下。
「本件横領行
為」という)が原因であるとのことであった。
そのため、名護市は本件横領行為問題の内容について泉崎法律事務所所属弁護士長谷川徹
也と事実関係及び法律関係の調査委託契約を平成26年8月6日に締結し調査を進めてき
た。
(2)横領行為の発覚の経緯
本件横領行為の発覚は、平成22年10月6日から同月8日までの間にやんばる物産株式会
社に対し名護税務署が税務調査に入った結果、特産課売上金種票綴りのレシート現金売上
とPOS(販売時点情報管理)システムの売上を確認したところ、両者間に差異があり、やん
ばる物産株式会社の売上が過少申告されていると指摘されたことによるものであった。そ
こで、やんばる物産株式会社が特産課売上金種票綴りとPOSシステムの売上高を検証したと
ころ、同税務署指摘のとおりの差異が生じていることが判明した。
(3)横領行為の内容
上記税務調査による売上金の過少申告の原因が、特産課レジにおける特産課売上金種票
綴りのレジ現金売上売上額とPOSの現金売上額との不整合であることから、レジの売上に関
するPOSシステムデータと各日に作成される会計レポート等を基に作成されていた特産課
売上金種票綴りを確認したところ、当日の売上金等を確認する各レジの「締め処理(会計
レポート)」において準備金の金額が通常と異なる金額の不正操作がなされていることが判
明した。また、同不正操作はPOSシステム上も確認されている。やんばる物産株式会社には
特産課N01、2、6の三台のレジが存在し、各レジには毎日営業時間前に釣り銭用として5万
円分の準備金(三台合計15万円)が入金されていた。
そして、各レジにおいて、営業時間内に各販売等に応じてレジ操作及び入出金がなされ、
営業終了時に各レジを精算して「締め処理(会計レポート)」レシートとともに、レジ内の
現金を集計して、事務所で保管することとされていた。したがって、精算終了時にはレジ
内の現金は存在しない。
その際、打ち出された同レシートと金種の照合を行い、一致するのが通常であるが、実
際には細部で一致しないこともあり、確認の上訂正がなされていた。
なお、レジの準備金は5万円と設定されており、準備金の金額を操作することはレジの
業務としては通常は想定されていない(誤って準備金の操作を行った場合にその修正のた
めに操作する場合に限定されている)。ただし、やんばる物産株式会社にはレジの操作マニ
ュアルは存在しない。
したがって、仮にレジ内ないし売上金から現金を窃盗ないし横領すれば、レジの準備金
6
の金額が設定通り5万円である限り、営業終了後の精算時に「締め処理(会計レポート)」
のレシートにおけるとレジの最終売上金の金額が窃盗ないし横領した現金分が不足するこ
とになる。
他方、当初設定されている準備金の金額5万円を横領した金額の分だけ減額して修正し
ておけば、精算時の会計レポートのレシートの金種と現金売上の金額とは一致することに
なる。
そして、準備金が修正されているか否かは、精算時の会計レポートのレシートを確認す
れば、当該準備金の額によって判明する。また、レジのPOSシステムで操作状況を確認すれ
ば、準備金の金額の入力や修正等の操作時間及び内容が判明する。
その結果、準備金の金額を減額修正する操作が平成19年11月1日から平成21年12月24日
の間に299回行われ、その修正されたことによる窃盗ないし横領金額は1903万5000円である
ことが判明した。
そして、レジの不正操作期間、POSの準備金額の修正操作日時、売上金種票綴り添付の会
計レポートのレシートを検証し、これにレジ担当の従業員の出勤状況等を照合することに
よって、不正操作を行うことができる人物が特定された。
以上のことから、本件横領行為は、平成19年11月1日から平成21年12月23日までの間に
(最終レジの不正操作は同月24日まで)、特定の従業員が、営業時間中にレジ内等のレジで
管理する現金を299回にわたり、総額1903万5000円を窃盗ないし横領し、精算時までに準備
金の金額等を自己が窃盗ないし横領した金額を控除した金額に減額することで、精算時の
現金売上と現金の金額が一致するように不正操作し、かつ、精算処理後に準備金を設定金
額に訂正する不正操作を行う方法により発覚を免れていたものといえる。
これらのことから、やんばる物産株式会社の不明金に対する説明は信用できるものであ
るといわざるを得ない。
(4)横領行為の発生した原因
やんばる物産株式会社においては、当時、従業員による不正の防止策が取られておらず、
レジの操作マニュアルも存在せず、日毎の精算時における現金の管理及び確認方法、売上
金の確認方法等もずさんであったと言わざるを得ず、全般的に本件会社における従業員の
不正行為に対する指導監督不足が原因といえる。
とりわけ、本件横領行為はPOSシステムのレジで管理する現金の横領行為であるから、本
来的には、精算時のデータを準備金の額を含めて確認さえすれば、極めて容易に判明した
ものであることから、やんばる物産株式会社の精算時におけるレジの現金売上の確認方法
はレジで管理する現金の確認方法として明らかに不十分であり、レジで管理する現金の監
督が十分になされていなかったことが原因である。
また、本件横領行為はレジの不正操作によって被害が拡大したといえることから、やん
ばる物産株式会社において少なくとも準備金の金額が操作できることが認識されていた以
上、レジ担当従業員に対し、レジ操作マニュアルの作成、励行、監督すべきであり、かつ、
従業員の実施状況等を監督する必要があったにもかかわらず、これがなされていなかった
ことが原因である。
7
(5)不明金問題の帰結
上記(3)のとおり、やんばる物産株式会社における不明金問題は、特定の従業員によ
りレジで管理する現金の窃盗ないし横領である。
したがって、特定の従業員には、民事上の責任として不法行為ないし債務不履行に基づ
く損害賠償責任(民法709条、同415条)、従業員としての債務不履行に基づく損害賠
償責任(民法第415条)等が、刑事上の責任として窃盗罪(刑法第235条)ないし業務上横
領罪(同法第253条)が成立することになる。
また、特定の従業員によって、平成19年11月1日から平成21年12月24日の約2年間とい
う長期間、299回もの多数回に渡り、総額1903万5,000円もの多額の金銭が窃盗ないし横領
行為されたことについては、前代表取締役及び常勤取締役の従業員に対する監督責任等が
存在し、ひいては前代表取締役及び常勤取締役の任務懈怠責任が発生することになる(会
社法代330条、民法第644条、会社法第355条)。
そして、少なくとも前代表取締役には、特定の従業員に対し、取締役会で審議すること
なく、当該従業員が否認しているにもかかわらず5,000円を受領したのみで残額1903万円を
債権放棄したことについて、任務懈怠責任が発生するといわざるを得ない。また、やんば
る物産株式会社としては売上金の過少申告により延滞税も課されている。
この点について、前代表取締役は債権放棄等の処理が弁護士ないし税理士に相談した結
果である旨を説明しているが、どの程度の事実関係を弁護士ないし税理士に情報提供して
いたかは不明であるし、少なくとも、債権放棄等しなければ損害が拡大する等の具体的な
理由はなく、取締役会で審議しなかったことの理由とはならない。
とりわけ、前代表取締役のやんばる物産株式会社での経歴や他の会社での代表取締役と
しての経歴等に鑑みれば、上記説明は理由とはならない。
以上より、やんばる物産株式会社としては、特定の従業員に対して既に債権放棄してい
る以上、当該従業員に対する民事上の責任追及は不可能であり、債権放棄を行った当時の
代表取締役及び常勤取締役に対する任務懈怠責任の追及を検討する。
(6)不明金問題の経緯
※平成22年~24年についてはやんばる物産株式会社資料をもとに作成
平成22年10月6日
名護税務署の税務調査によりPOSシステムと売上金種票に差異がある事
が発覚する
平成22年10月13日 やんばる物産株式会社より名護警察署へ捜査依頼
平成23年3月4日
やんばる物産株式会社より名護警察署刑事課へ告訴状提出
平成24年3月27日
やんばる物産株式会社が名護警察署の要請で被害届提出
8
平成24年3月31日
やんばる物産株式会社が第20期決算損害賠償償却
平成26年6月14日
やんばる物産道の駅許田の不明金についてマスコミ報道
平成26年6月25日
市議会「道の駅許田」不明金問題の真相解明を求める決議採択
平成26年7月15日
市議会より名護市及びやんばる物産株式会社に対し決議書手交
平成26年8月6日
泉崎法律事務所所属長谷川弁護士と不明金問題に係る事実関係及び法
律関係の調査委託契約
平成26年10月9日
長谷川弁護士によるやんばる物産株式会社の会計帳簿書類閲覧等の調
査を開始
平成26年10月24日 やんばる物産株式会社臨時株主総会にて荻堂(前)代表取締役辞任し、
取締役会にて新たに比嘉氏が代表取締役に就任
平成26年12月26日 名護市議会に対しやんばる物産株式会社より調査報告書が提出される
4.
議会決議への対応
(1)名護市選任弁護士による調査
①
調査の委任
調査は、やんばる物産株式会社において、不明金問題が発生した旨の平成26年6月14日
の新聞報道を受け、名護市よりやんばる物産株式会社に対し説明を求めたが、やんばる物
産株式会社の対応は非協力的であった。また、名護市副市長が取締役として就任していた
ことから、取締役からもやんばる物産株式会社に対して資料の開示等を求めたが、会社側
の対応は協力的ではなかった。
さらに、平成26年6月25日には名護市議会から不明金問題を解明する旨の決議がなされ
た。そこで、名護市の筆頭株主としての名護市の責務及び名護市議会の決議を踏まえて、
不明金の内容が、会社説明のように従業員による横領行為なのか否かを含めて事実関係及
び法律関係を解明するために、名護市は、平成26年8月6日に泉崎法律事務所所属弁護士長
谷川徹也と事実関係及び法律関係の調査委託契約を結び同法律事務所所属の弁護士に調査
を委任した。
②
調査開始
弁護士は、名護市からの委任を受け、名護市の有する資料及びやんばる物産株式会社株
主の有する資料等を検討し、やんばる物産株式会社に対し、株主権の行使として、平成26
9
年9月2日付で計算書類及び会計帳簿等の閲覧謄写請求(会社法第442条第3項)及び取締
役会議事録の閲覧謄写請求(同法第371条第2項)を行った。やんばる物産株式会社は、同
請求に対し、閲覧方式による方法であれば請求に応じる旨の回答がなされた。
その後、やんばる物産株式会社と弁護士との協議により、取締役会議事録は謄写するも
のとし、計算書類等は原則閲覧方式により、必要な箇所はカメラ等で複写することで合意
された。
なお、閲覧の対象については、調査の本質が不明金問題の事実解明にあることから、不
明金を会社が横領行為であると判断した資料等を主たるものとして調査することとした。
なお、原資料の分量が多く、かつ、レシート等が感熱紙であったため、最終的には原資料
を会社より弁護士が預かり、調査を行った。
③
調査の内容
弁護士によるやんばる物産株式会社へのヒアリング調査では不明金問題は、使途不明金
ではなくやんばる物産株式会社の従業員によるレジ内等売上金の一部の窃盗ないし横領で
あるとの説明があり、本件発覚の経緯、発覚後のやんばる物産株式会社内での調査内容及
び調査結果、社内調査結果に基づくやんばる物産株式会社の対応に関して、資料の提示及
び説明がされた。
主な資料は、平成19年11月1日から平成21年12月23日までの特産部門の売上金種票綴り
(レジ三台分の精算時の会計レポート添付がされている)、やんばる物産株式会社作成の調
査資料、取締役議事録抜粋、平成15年以降の決算報告書等。加えて、社内調査に関与した
取締役等に対し弁護士による事情聴取が行われた。
④
調査の結果
これまでの調査結果より不明金問題については、やんばる物産株式会社の特定従業員に
よる売上金の窃盗ないし横領であると思料される。
5.筆頭株主としての改善提案
第3セクター方式は、官と民の長所を互いに発揮しつつ、公益性と効率性を高めるため
に設けられた制度であり、やんばる物産株式会社についても地域振興を目的とした地域特
産品販売、観光振興のための情報発信拠点の整備を目的として平成4年7月に第3セクター
法人として設立された。
全国的に第3セクター方式による運営がうまくいかず、赤字経営が続き地方公共団体に
よる資金補填が財政圧迫などを引き起こす原因となるなどの事例がある事から、第3セク
ターの効率化、健全化を行うため、総務省より各地方公共団体へ「第3セクターに関する
指針(平成15 年12 月)」、
「地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針(平
成17年3月)」、「第3セクター等の改革について(平成20年6月)」、「第3セクター等の抜
本的改革等に関する指針(平成21年6月)」等の通達が行われ、通達に基づき名護市におい
10
ても第3セクターにおける財政的リスク、経営状況等の調査を実施し国へ報告を行ってい
るところである。
しかしながら、やんばる物産株式会社については経営面で黒字経営が続き全国的にみて
も第3セクター法人として優良企業となっているため、これまで見直しが必要とされる第
3セクター法人には該当しなかった。
今回の不明金問題に端を発して、第3セクター法人としての会社運営体制、筆頭株主と
して市の管理体制の在り方など改善を図る必要があると考え下記の(1)~(4)の対応に
ついて検討を進めていく。
(1)第3セクターとしての会社運営体制の見直し
やんばる物産株式会社については、名護市からの公的資金が出資されている第3セクタ
ーであることを会社自身が強く認識し、経営や運営についての透明性の確保と、市民に対
する積極的な説明責任を果たしていく情報開示についての改善を図っていく必要がある。
特に不明金問題等事件の再発防止に向けて健全な経営、運営を目指すためにも市民に対
して積極的に情報公開を実施して行くことが求められる。情報公開に当たっては財務状況、
事業内容、職員数などホームページ等を活用し、市民に分かりやすい形で公開するなどの
対応が望ましい。また、採算性や収益のみを追求するのではなく、設立当初の目的である
地域振興という原点である公共、公益性について考え直し、地域に貢献できる事業展開や
サービスの提供など自主的な取り組みを図る必要があると考える。市より上記内容につい
て派遣職員(取締役)をとおして見直しを図るよう取締役会で提案を行う。
(2)名護市、派遣職員の役割
再発防止に向けて名護市より株主・取締役として選任されている職員は株主総会、取締
役会で報告される会社の事業計画、業務内容、財務状況等について業務執行が適正に行わ
れているか注意を払うとともに地域に貢献できる事業展開など、取締役会において積極的
な提案を行い監督責任を負って職務に当たることが求められる。
(3)再発防止策と進捗点検組織の設置
①外部監査体制の確立
自治体の監査の対象は、出資、その他財政的援助にかかわるもので、出納、その他財政
援助に関連した事務の執行の範囲に限定されている。
会社法(第328条)により資本金5億円以上の法人(大会社)の場合には、公認会計士又
は監査法人による外部監査を受けることになるが、第3セクターは小規模のものが多いた
め、内部監査に止まっている場合が多い。やんばる物産株式会社においても、株主の中か
ら2名の監査役が選任され内部監査を行う体制となっている。
監査体制の強化を考え、市が出資をし、社会的にも大きな責任を持つ第3セクターにつ
いては、内部監査に加えて、公認会計士又は監査法人による外部監査あるいは指導、助言
を受けるようやんばる物産株式会社に対し、取締役会において提案を行う。
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②役員再任の見直し
やんばる物産株式会社においては長期間、役員の変更がなく特に前代表取締役について
は会社設立時の平成4年7月から退任する平成26年12月まで約22年の間変更がなかった。
役員人事を定期的に行い、人材育成、社会環境へ対応した会社組織力の強化、活性化を行
う意味でも、現在の会社定款を見直し役員再任の制限を設ける等、やんばる物産株式会社
に対し取締役会で提案を行う。
(4)情報開示と民主的統制(報告の拡充)
①議会への報告拡充
地方自治法(第243条の3)において、地方公共団体が資本金・基本金等の2分の1以上
を出資している法人等については、毎年度その経営状況を議会に報告することが法定され
ているが、やんばる物産株式会社(出資率33.3%)については出資率が2分の1を下回る
ため、議会への報告が行われていない。
しかしながら、地方自治法の規定に基づき、条例を制定することにより、2分の1以上
の出資法人と同様の取扱いができるようになることから条例制定についても、今後検討を
行っていく必要がある(4分の1以上の出資法人を対象とすることが可能)。
②市民への情報公開
市民に対して第3セクターの経営状況等がわかる資料を名護市ホームページ上で公表す
ることを検討し、また、第3セクターそれぞれのホームページ上で公表することを求めて
いく。
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