第3回 漢 外来スタート!

第3回 漢⽅外来スタート!
更新⽇:2011年11⽉1⽇ ⽕曜⽇
古来より脈々と受け継がれている漢⽅薬。
最近では、漢⽅薬局だけでなく⻄洋医学のお医者さんでも漢⽅薬を取り⼊れられるなど、ずいぶん幅広く活⽤されているよう
です。第3回⽬の今回は、漢⽅の歴史と漢⽅をとりまく環境の変遷についてみていきたいと思います。今回は、福島県⽴会津
総合病院 漢⽅内科の三潴忠道(みつまただみち)先⽣にお話をうかがいました。
■漢⽅の歴史
-漢⽅薬はどのように⽇本に伝わったのですか?
漢⽅は⼆千年前くらい(前後プラスマイナス200年)に形作られた、中国の医
学です。もちろんその何百年も前から歴史はありますけど、まとめられたの
が、紀元前後くらい。⽂献に残っているものによると、6世紀頃、朝鮮半島を
経由して⽇本に伝わってきたようです。その時はまだ「漢⽅」という呼び⽅は
されていません。⽇本にきて、1,500年くらいかかり段々⽇本的な医学に変
わってきています。⽇本は鎖国していたので、オランダから⻄洋⽂明が⼊って
きた当時、オランダ医学のことは「蘭⽅」と呼んでいました。それまでの⽇本
の医学・医療っていうのは⽇本では、漢⽅しかなかったわけですから。「○○
医学」とかそういう⾔葉はないんですよ。医者といえば「漢⽅医」、現在だ
と、医者といえば⻄洋医学の医者のことですよね。現在僕らはわざわざ「漢⽅
医」って呼ばれるかもしれませんけど。江⼾時代に蘭⽅、幕末になったら⻄洋
医学と新しいものが⼊ってきて、元々あったものを何て呼ぶか、ということで
元々古代中国に由来して⽇本にきたから、「漢⽅」と⾔うようになったんで
す。だから割と新しい⾔葉なんですね。
-「漢⽅」は⽇本以外の国々にも伝わった?
漢⽅は、もちろん陸続きで韓国にも伝わっていきました。韓国では「韓医学」と呼ばれています。それから陸続きということ
で、ベトナムにも伝わりましたね。ベトナムでは何て呼ばれていたかわからないんです。ベトナムでも漢字に更にベトナム独
⾃の⽂字を発明して、その独⾃の⽂化の中で医学をやっていましたが、ベトナムは⻄洋の植⺠地にされてしまったために、消
えてしまったんです。
-⽇本漢⽅の変遷
⽇本では明治時代になって、国の⽅針で
医学・医療は⻄洋医学でやると決められ
ました。⻄洋医学の教育を受け、⻄洋医
学の試験を受けないと医者の免許は新し
く与えられなくなったのです。それまで
漢⽅でやってきた⼈は例外的に医療⾏為
ができるということにはなりましたが、
そういう経緯があって漢⽅医学がどんど
ん衰退していきました。
-健康保険が使えるようになって、漢⽅薬に⽕がついた!
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1976年に漢⽅のエキス製剤(エキス=抽出物)が⼤量に保険薬価に収載されたんです。ど
ういうことかというと、健康保険が適⽤される薬として認められたんです。それまで多く
の⼈たちは、健康保険じゃなくて⾃費診療でやっていました。健康保険が使えないと全額
⾃⼰負担になりますから、保険がきくかどうかというのは⼤変な問題です。⾦銭的に余裕
がないと、なかなか⾃費診療で賄うのも⼤変ですよね。健康保険のきかない診療は実際の
医療現場ではあまり現実的ではありません。そうするとやれる範囲に限りがあります。い
くらいい診療したくてもたくさんの患者さん診られませんから。それから、漢⽅薬の持ち
運びとか保存とかそういうのが⾮常に簡便になったというのも広まった理由のひとつで
す。多くの⼈が使うようになり、使ってみたら意外と効く。⻄洋医学的に⾏き詰ったとき
に、びっくりするような効果がある場合もある、そういったことをきっかけとして、漢⽅
薬は⼤きく広まっていったんです。
-医学部のモデルコア・カリキュラムへ
1976年頃に国⽴の富⼭医科薬科⼤学(現:富⼭⼤学)の、その附属病院の中に「和漢診療室」という臨床部⾨ができたんです
ね。それが国⽴⼤学の施設として、漢⽅の臨床を正式に⾏った最初です。今では富⼭⼤学医学部の「和漢診療学講座」となっ
ています。2002年、医学部のコア・カリキュラムというのが始まりました。どういうことかというと、「これだけはどこの医
学部も教えて下さいよ」というコアのカリキュラムっていうのができたんですね。それで、そのコア・カリキュラムの中に「和
漢薬を概説できる」(漢⽅薬をざっと説明できる)という、項⽬が加わって、各⼤学がなんらかの講義をして、どうしても漢
⽅のことを教えなきゃいけなくなりました。
-最近になってようやく認められた「漢⽅内科」
⽇本東洋医学会という漢⽅医学に関する学会があるんですが、2005
年には、⽇本東洋医学会が認めた漢⽅専⾨医は「こういう資格を
持っています」ということをみんなに広告していいですよというこ
とを国が正式に認めたんですね。それから3年後の2008年には、漢
⽅という⾔葉を標榜して良くなりました。医療機関で掲げている内
科とか外科とかいう診療科⽬は、国が認めたもの以外、勝⼿に表に
出しちゃいけないんです。ずっと「漢⽅」という⾔葉は使えなかっ
たんですが、2008年になって、ようやく例えば「漢⽅内科」という
⾔葉が使えるようになったんです。そういう⾵に、漢⽅という⾔葉
を修飾語としてつけることが認められるようになって、さらにどん
どん広がっていきました。こういったことが漢⽅が最近になって広
まってきた背景です。
■漢⽅の特徴
-漢⽅薬の原料について
実は今、⽇本で漢⽅薬の原料となっている薬草なんかは、中国からの輸⼊品がほとんどなんです。中国は⼈件費も上がってき
ていることもあって、段々価格も値上がりしてきているのが実情です。⽇本では輸⼊ものばかりに頼っているので、そういう
薬草を作る研究もしたいと思っているんです。ここ会津は御薬園もあって、⽇本でも有名な薬⽤⼈参の産地です。ただし⽇本
で作っている薬⽤⼈参は⾼いので、医療⽤には使いにくいんです。薬草は中国から輸⼊したりしたほうが安いんですよ。⼈参
は韓国が多いかな。薬草は外国からの輸⼊-圧倒的に中国からがほとんどですね。そうすると、⽇本
で作っている薬⽤⼈参は⽇本では薬⽤では売れません。国内ではなく、東南アジアとか中国のお⾦持
ちに買っていただくことが多いようですね。
-「草根⽊⽪」からなる漢⽅薬
漢⽅薬っていうのは、薬になるひとつひとつの天然物を⽣薬(しょうやく:きぐすり)と⾔います
が、それぞれの⽣薬には効能があって、それを組み合わせることで、更に治療の道具として発展して
きています。たとえば「葛根湯」っていうのは、葛(くず)の根っこが中⼼になっている薬ですが、
葛の根っこ以外にシナモンや芍薬(しゃくやく)の根、あるいは⽣姜が⼊ったり・・・と全部で7つ
の⽣薬の組み合わせなんです。そういう⾵に多くの植物を総合して「草根⽊⽪」なんて⾔いますね。
草の根とか⽊の⽪とか、あとは多少⽊の実だとか、草の実だとか。中には少し鉱物なんかも使います
ね。たとえば⽯膏(せっこう)や芒硝(ぼうしょう)なんていうのも使ったりします。それから動物
性のものを使うこともありますね。例えばロバの⽪から煮たゼラチンなんかがエキスに⼊っているこ
ともありますね。他にも⾊々ありますけど、そんな⾵にして多くは植物ですけど、そういったものを
組み合わせて作られます。
-漢⽅薬はたくさんの⽣薬のハーモニー
漢⽅薬というのは、いくつかの⽣薬を組み合わせて、それを薬として進化させたものです。これは⻄洋医
学が、例えば「この草が効きます」といったら、その中のどの成分が効くのかと、どんどん細かく分析し
ていって、最終的に化学構造式まで決定して、それを⼯場で製造するというのとはちょっと違います。漢
⽅の場合は、⾃然界のものを総合的に持ってきているので、副作⽤はゼロではありませんが、割と少なく
て穏やかなんですね。いくつかのものの中には、ひとつの植物の中に作⽤が正反対のものが⼊っていたり
して、それがうまく組み合って、ちょうど都合よく効くんです。例えば、おしるこの味付けに、砂糖だけ
じゃなくて、塩をちょっと⼊れると味がまろやかになりますよね。そういうのに似ています。そんな⾵に
組み合わせて、調和させてよりよいものを作っていく。それから⻑い歴史と経験則から、⼤きな副
作⽤については⼤体わかっていて、避ける⼯夫をしてきたんです。全く新しい構
造の科学的なものを作ると、それが⼈体にどういう影響を及ぼすかということ
は、最終的にやってみないとわからないというところもあるけど、その点漢⽅は
かなり経験が積んであるから、それが緩和されるってことになりますね。
-漢⽅薬の基本は体のバランスを整えること
昔の中国で、医学・医療でなにが⼀番問題になっていたかというと、⾵邪や腹痛あるいは怪我など、意外と⽇常よく出くわす
ようなそういう急性病なんですよ。要するに急性疾患に関する治療が基本だったんです。お腹痛いとかなんかで痛み⽌めって
いうのではなくて、体のバランスに合わせて使います。例えば捻挫なんかしたばかりで痛い時って、⾚くなって熱持ってズキ
ズキ腫れるじゃないですか。こういうのは漢⽅的に⾔うと、「陽性」の病態と⾔います。漢⽅的な病態を「証」って⾔うんで
すけど、つまり捻挫の初期は「陽証」のことが多く、冷シップで冷やすとラクになりますね。逆に冷えている⽅の病気は「陰
証」と⾔います。漢⽅の基本はそういうことで、相対的にどっちに偏っているかで使う薬が全く違ってくるんです。同じ痛み
でも全然違う。体は温めるのを好む時、冷やすのを好む時があります。簡単に⾔えば漢⽅薬っていうのは、それに応じて同じ
痛みでも使う薬が変わってくるということ。「痛いから痛みの神経をブロックする」というのとは違います。
-漢⽅薬・・・実は即効性もあります!
⼀般的には漢⽅は慢性の病気に効くと思われがちですよね、⻑期間飲まないと効かないとか。で
もすごく即効性があるんです。外来なんかでもその場で漢⽅薬を飲ませることがあります。飲ん
でもらって、この薬が合っているかどうか15分後くらいに判定するんです。⾵邪をひいて寒気
がするなんていう時に、漢⽅薬を飲んでもらいます。そうすると、⼤体飲む傍からラクになりま
すよ。効くものであれば⼤体15分あれば効きますね。全部がすぐ治るっていうのはムリです
よ。でも、その場で⿐⽔が⽌まってきたり、喉の痛みが取れたり、寒気が取れて体がラクになっ
たりしていますよ。こういうのを「試服」って⾔っていますが、この試服で15分後の判定での
研究ってことで、調べたことがあるんですけど、⾵邪なんかだとほとんどの⼈は試服で治っちゃいますね。こじれてくると、
また別ですけど、初期であれば⼤体治ります。
■院内で被験者を募り、漢⽅薬の試薬を実施
-⼤半の職員に症状の改善が⾒られる
福島県⽴会津総合病院の漢⽅内科は平成23年5⽉に⽴ち上がりました。今までなかった診療科ということで、テストではあり
ませんが、最初は院内の職員さんだけを受け付けたんです。それで約1ヶ⽉の間に20⼈受診したんですね。その⽅たちを調べ
ると、みなさんひとつの訴えじゃないです。いくつもいくつも抱えていたんです。例えば喘息だとか、体がだるくて重くてと
か、イライラしてしょうがないとか疲れるとか。1ヶ⽉半〜2ヶ⽉半くらい経過を観察しました。
20⼈のうち、19⼈はかなり良くなったという結果がでました。バススケール(Visual Analogue Scale)という10cmのもの
さしで、痛みの度合いを⽰してもらったんです。その前のつらさを100とすると、今は50ミリ以下とか中には10ミリ以下とい
う⼈もいて、ほとんど良くなっていました。
-今後⽬指していくところ
病院内での漢⽅薬の治療を⽬指しています。いわゆる「難病」といわれているもの、あるいは⻄洋医学も併⽤しなければムリ
なもの、⼊院を要するもの、特定疾患、主として重い病気を中⼼として診ていきたいと思っています。他を断るというわけで
はないですが、重い病気をやるところが少ないですから。また薬局だけでも限界があると思うんですね。薬局では⼊院ができ
ない、⻄洋医学的な検査ができない等の制約がありますから。⼊院して検査もして、時には外科とタイアップして⼿術し
て・・・というところが、病院それから我々漢⽅医のひとつの責任というか役割だと思うんです。
【福島県⽴会津総合病院】
〒965-8555 福島県会津若松市城前10番75号 ※漢⽅内科は初診・再診ともに予約制です。
電話:0242-27-2151 FAX:0242-29-7264 診療⽇:原則として⽕曜⽇・⽊曜⽇ 午前中
URL:福島県⽴会津総合病院ホームページ 詳しくは漢⽅内科窓⼝までお問合せください
◆次回は再び三潴先⽣の登場です! 診察の実際1「問診」についてお話をうかがいたいと思います!