シリーズ 商圏分析と立地診断[第 17 回] シリーズ 商圏分析と立地診断[第17回] ドラッグストアの出退店の傾向を分析 出店はニューファミリーがターゲット 今月は、 「ドラッグストア名鑑 2016」の調査の過 対象としたのは売場面積 90 坪以上のドラッグスト 程で判明した新店と閉店のデータから、出店の多い地 ア(Dg.S)。新店は 698 店、閉店は 212 店のデータを 域と閉店の多い地域の特性や傾向を分析する。 使用した。 (田中) 資料提供:技研商事インターナショナル ( 株『MarketAnalyzer™』 ) 出店と閉店を地図上にプロット が低い。これに対して 14 歳以下の 住宅の形態でも一戸建ての比率が低 図 1 は、2014 年 8 月~ 2015 年 7 月 若年層と 25 ~ 49 歳の年齢層の比率 く、共同住宅の比率が高い商圏だ。 の 1 年間に出店した Dg.S(○印)と が高いので、単純にこの数値を見る 1 世帯当たりの年収は県平均より 撤退した Dg.S(▲印)を地図上にプ 限りでは小さな子供を持つ親の比率 も高い 509 万円。年収 1,000 万円以 ロットしたもの。ここでは便宜上、 が高いようだ。 上の世帯も県平均より高い。 関東地方に絞って掲載している。 ただし世帯数を見ると、県平均を 出店も閉店も多い地域は、スクラ この地図だけ見ると、出店の多い 大きく上回っているのは 1 人世帯の ップ&ビルドをしているものと考え 地域と閉店の多い地域に明白な偏り 構成比で、平均よりも約 8 ポイント られる。古くから店のある地域で、 がないため、その傾向がよく分から も高い比率になっている。そのため かつ今後も需要が見込める地域とい ない。そこで、出店数と閉店数を市 か持ち家比率は県平均よりも 10 ポ える。 区町村単位でクロス集計して色付け イント近く低い数値になっている。 し た の が 図 2 の 地 図。 図1 これにより、どの地域 に出退店が多いのかが ひと目で分かるように なった。 出退店が多い 宇都宮市 まず、出店も閉店も 共に多いのは、もっと も色の濃い栃木県宇都 宮 市 だ。 こ の 地 域 に は 6 店 が 出 店 し、2 店 が閉店している。表 1 にその商圏データを示 しているが、人口は約 51 万 人 と 比 較 的 多 い 地域だ。年齢別構成比 では県平均に比べ、65 歳以上の高齢者の比率 2015:10 ● 43 出店>閉店の深谷市 出店が多く閉店が少 ないのは、もっとも色 の薄い地域。例えば埼 図2 玉県深谷市では、3 店 が出店して閉店はゼ ロ。同市の商圏データ (表 2)を見ると人口は 約 14 万 人 で、 年 齢 別 構成比では県平均に比 べて 20 ~ 49 歳までの 比率が低い。また50歳 代 と 75 歳 以 上 の 比 率 が県平均よりも高い。 若い世代の人口が低 い せ い か、 世 帯 数 で は 1 人世帯の比率が県 平均よりも約 7 ポイン ト低く、3 人以上世帯 の比率が県平均よりも 高い。持ち家比率も県 平 均 よ り 10 ポ イ ン ト 表1 44 ● 2015:10 シリーズ 商圏分析と立地診断[第 17 回] 表2 表3 2015:10 ● 45 近く高いうえ、一戸建てが県平均を 均よりも高く、2 人以上の世帯では 22 ポイントも上回り 80%近い比率 すべての世帯人数が県平均よりも低 1 世帯当たりの年収は県平均より を占めている。 い。そのため持ち家比率も県平均よ も低い 515 万円。世帯人数が少ない 1 世帯当たりの年収は県平均より り約 7 ポイント近く低い。また一戸 地域なので、これも当然といえる。 も低い 529 万円。年収 700 万円以上 建て世帯は県平均に比べて 14 ポイ ント近く低い比率だ。 この数値は常住人口(夜間人口) の世帯が県平均よりも低く、また 200 万円未満の世帯も県平均より低 い。 図3 持ち家比率が高く若い世代が少な い地域なので高齢化が進む可能性が 高いが、それだけに今後ますます Dg.S が必要とされる地域であると もいえる。ただ、出店が多く閉店が 少ない地域がすべて同様の商圏特性 を持つ訳ではない。 出店<閉店の川口市 出店が少なく閉店が多いのは、二 番目に色の濃い地域。例えば埼玉県 川口市では、2 店が閉店して 1 店が 出店している。同市の商圏データ (表 3)を見ると、人口は約 56 万人 と比較的多い。年齢別構成比では、 0 ~ 9 歳と 25 ~ 49 歳までの比率が 県平均よりも高く、10 ~ 24 歳と 50 歳以上の比率が県平均よりも低い。 世帯数では 1 人世帯の比率が県平 46 ● 2015:10 表4 シリーズ 商圏分析と立地診断[第 17 回] だが、1 人世帯が多いせいか昼間人 口が常住人口より約 12 万人も少な 図4 い。これが閉店の多い原因の一つか も知れない。ただし前項の深谷市同 様、出店が少なく閉店が多い地域が すべて同様の商圏特性ではない。 明確な出店ターゲットが判明 これまでは店数に変動のある市区 町村に焦点を当てたが、次は出店お よび閉店したそれぞれの店に焦点を 当てて解析してみる。 まず各店を中心に半径 1km の範 囲を商圏と設定。次に、様々な統計 指標と居住者プロファイリングデ ータから、各商圏それぞれに 9 つの 因子(表 4)に対するスコア(得点) 図5 を付けた。そして出店、閉店それぞ れの因子スコア合計値から商圏特性 を比較したのが図 3 のレーダーチャ ート図だ。 これを見ると、出店した商圏は因 子 2(マイホーム核家族性)と因子 3(三世代大家族性)、因子 6(製造 業性)が圧倒的に低く、因子 1(ニ ューファミリー性)と因子 5(ニュ ーファミリー性)が高い傾向にある ことが分かる。縦に長くいびつな形 をしていることから、特定の商圏特 性にターゲットを絞って出店してい ることがうかがえる。 これに対して閉店した商圏のレー 図6 ダーチャート図は比較的バランスが 取れている。突出して高い因子も極 端に低い因子もなく、すべての客層 をターゲットとしているような印象 を持つ形だ。これは、居住者特性を 分析するという考え方自体あまりな かった時代に出店した店だからかも 知れない。 参考までに、図 2 の解析でピック アップした 3 地域についても同様の レーダーチャート図を作成してみた (図 8) 。出店が多く閉店が少ない深 谷市がバランスの取れた形で、出店 2015:10 ● 47 が少なく閉店が多い川口市がいびつ な形をしている。図 3 のレーダーチ 図7 ャート図とは矛盾しているので、今 回のケースでは地域に焦点を当てた 解析は必ずしも正確とはいえないよ うだ。 閉店の特性は様々 新店の中で、その特徴である因子 1 と因子 5 が特に高い居住者特性を 持つ店が、セブン美のガーデングラ ンツリー武蔵小杉店(図 4、神奈川 県川崎市)と、どらっぐぱぱす西五 反田店(図 5、東京都品川区)。 また同様に閉店の中で、因子 2、 3、4、6 の合計値が高い店がスギ薬 局植出店(図 6、愛知県碧南市)と、 表5 スギドラッグ一色店(図 7、愛知県 西尾市) 。 この上記 4 店の人口特性を比べた のが表 5 だ。 出店した 2 店は地図や数値を見て 分かる通り、人口密集地にある。労 働力人口が高い反面、高齢者人口は 低く、マンション住まいが多い。 一方で閉店した 2 店の特徴は若干 異なる。スギ薬局は因子 2、3、4 が マイナスだったものの因子 6 が圧倒 的に高く、新店の特徴である因子 5 も高い数値だった。調べてみるとこ の店は過小面積のために閉店した店 のようで、すぐ近くに大型店が開店 していた。 スギドラッグについては比較的平 均に近い数値の店で、スクラップ& ビルドによる閉店ではないようだ。 今回の解析には、様々な企業が混 在している Dg.S 全体のデータを使 用している。しかし各社の実情に合 った集計結果を求めるには自社デー タのみとするか、Dg.S の特徴(都市 型、食品型、郊外型など)別に集計 すると、より精度の高い集計結果が 得られる筈だ。 48 ● 2015:10 図8
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