【10 月 27 日 Reading 研究会文献紹介】 Pimperton, H., & Nation, K. (2010). Suppressing irrelevant information from working memory: Evidence for domain-specific deficits in poor comprehenders. Journal of Memory and Language, 62, 380-391. 1. Introduction ・テキスト理解に困難を抱える子供たちは、なぜ読んだものの一貫した意味を引き出すことに困難を感じるのか という問題について、多くの先行研究では、理解力の低い者の作動記憶における impairment が認知的抑制能力 の低さ故に WM の内容に効果的な調整ができないために生じると考察されてきた。 ・Daneman & Merikle (1996) では、言語的(verbal) WM measure は理解能力を予測すること、一方で短期記憶・保 持だけの記憶能力は理解能力を弱くしか予測しないことが示された。一方で、理解力が低い読み手は情報の処 理と保持を同時に必要とするタスクでのパフォーマンスが低いことが明らかにされている。これらの研究は、 理解力の低い読み手には「保持」ではなく「注意資源の調整」を司る中央実行系における deficit があることを 示唆している。 ・多くの先行研究が、認知的な抑制の弱さが読解を困難にする要因となっているという結果を示している。 ①理解力の低い大人の読み手は高い者に比べて文脈に適さない曖昧語や異形同音異義語といった無関係情報 の抑制ができない (Gernsbacher & Faust, 1991 他) ②理解力の低い大人の読み手はリコール課題において、ターゲットの代わりに無関連情報や既に関連のなくな った情報を多く産出 (intrusion errors)する傾向にある (De Beni et al, 1998 他)。 ③inferential comprehension の測定で低いパフォーマンスを見せた子供は、記憶課題で intrusion error をおかし、 読んだ情報の中心となる要素を問われた際に無関連情報を多く産出した (De Beni & Palladino, 2000) ・これらの研究から理解力の低い読み手にとって、無関連な情報や関連のなくなった情報を抑制するのが困難で あることが示された。この抑制における弱点が WM の内容を調整することを難しくし、読解を阻害すると考え られる。 ・理解力の低い読み手の抑制の弱さに焦点を当てた多くの先行研究は、 これらの弱点が WM 内容を調整する上で、 各領域にまたがる一般的な中央実行系の問題引き起こすと予測している。この論に従うと、仮に理解力の低い 読み手が WM 内容の調整に domain-general な問題を抱えているならば、言語的 WM と視覚空間的 WM の課題 両方に負の影響が観察されるはずである。➜Nation et al. (1999) では視覚空間的 span への負の影響は観察され ず、listening span に対する deficit のみ観察された。 (※しかし、この研究で使用された言語的 と視覚空間的な WM 課題には標準化された測定法が用いられておらずスコアの変動性も小さかった。 ) ・本研究では・・ ◇実験 1:標準化された co-normed の測定法を用いて理解力が低い読み手のパフォーマンスを言語と視覚空間で 比較する ◇実験 2:理解力の低い読み手が、既に関連の無くなった情報の抑制を苦手とするならば、リコール課題で proactive inference の影響が顕著に顕れると予測できる ➜事前に符号化された情報の抑制課題における impairment が、言語的領域に限られたものかを検証 ※proactive interference:事前に符号化された情報が直近の情報のリコールに干渉効果を与えること ◇実験 3:解答方法 (response mode)が同じ場合も実験 2 と同様の傾向を示すかを確かめる 1 2. Experiment 1 ■Participants:7~8 歳の子供 109 名(英語母語話者) 。理解力低群と理解力高群を分けるため、以下枠内の測定法 が用いられた。各課題の結果から、理解力低群 14 名、統制群 14 名を選別した。 ◇ 理解力低群:符号化能力の低さに伴い読解力に有意な遅延が見られた協力者 (読解力スコア M = 86.57)。 ◇ 統制群 :読解力スコア (M = 103.57) が読解の正確さのスコア以上だった協力者 ※両群は読解力のスコアが有意に異なるが、年齢・単語/非単語の読み上げ・読解の正確さ・非言語的能力 には差なし。 ①Non-verbal reasoning:WASI と呼ばれるテストを使用。徐々に難易度の上がる piece の欠けたパター ンを提示され、5 つの選択肢から空所に当てはあるものを選ぶ課題 ②Decoding:TOWRE と呼ばれるテストを使用。徐々に難易度の上がる非単語リスト 45 秒でどれだけ 正しく読めるかを測る課題。 ③Word Reading:徐々に難易度の上がる単語リストを 45 秒でどれだけ正しく読めるかを測る課題。 ④Reading Comprehension:NARA-Ⅱと呼ばれるタスクを使用。口頭でパッセージを読み上げ、字義的・ 推論的な理解質問に解答する。テキスト読解の正確さと理解度を測定。 ■Materials and Procedure □短期記憶(STM):協力者の音韻的短期記憶測定のため、British Ability ScalesⅡの the forward digit span (FDS)が用 いられた。徐々に長くなる digits のリストを聞き、正しい順に繰り返して言う課題。 □作動記憶(WM):the Automated Working Memory Assessment を用いて、以下 2 種類の WM を測定。 言語的 WM: 文のセット(6 文)を聞き、各文を聞いた後に文の正しさ (veracity) を判定。各セット終了後に各文 の最後の語を提示された順にリコールする。 視覚空間 WM:1 度に 2 つの形が提示され、2 つが同じか逆かを判定する。更に、同時に各セットで赤い点が表 示された位置を覚え、提示された順序でその位置を指し示す(全 7 セットで、各セット 6 項目) 。 ※両タスク 1 セットで 3 つ以上間違えたら終了 ■Results and Discussion □短期記憶:有意差なし □作動記憶:2(群:理解力低群・統制群)×2(WM 要因:言語・視覚空間)の ANOVA の結果、群も WM 要因 も主効果・交互作用は有意でなかった。しかし、1 変量 ANOVA の結果、理解力低群は統制群より も、言語的 WM 測定タスクにおいて有意に低く、視覚空間 WM 測定タスクの結果に両群で差は無 かった。 (※群×WM 要因の交互作用が有意でなかった原因として、サンプルサイズの小ささが考え られる。 ) ➜これらの結果は理解力低群は短期記憶が通常範囲であるにも関わらず WM が正常に機能しないという先行研 究を支持し、更にその傾向は言語領域に特有のものであることが示された。 3. Experiment 2 ■Participants:理解力低群も統制群も実験 1 と同じ協力者。(各 14 名, 計 28 名) ■Materials and Procedure □verbal PI task(各 12 トライアルの 2 ブロック構成): ・2 人の宇宙人が紹介され、彼らが地球を旅する間に必要な単語を使って記憶ゲームをすると伝えられる。 2 ・各トライアルは single か double のブロック構造になっている。16 の double block trials のうち、8 つが干渉トラ イアルで、残りの 8 つが非干渉トライアル。この 2 種類に対するパフォーマンスの違いでこのタスクでの proactive interference を測定する ◇Single trial (8):4 つの刺激語を聞く➜3 digits×2 セットを聞き、shadowing➜cued category question ◇Double block trial (16):4 つの刺激語(第 1 ブロック)➜×表示➜4 つの刺激語(第 2 ブロック) ➜3 digits×2 セットを聞き、shadowing➜cued category question ※cued category question では、質問の答えとして 4 語のうちの 1 語をリコールする (例)can you remember the word that was a type of fruit? ※double trial では×を見たら第 1 ブロックの 4 語を忘れるよう指示 ※Foil も target も 3 つの filler 語(foil/target とカテゴリーの違う 2 シラブル以下の具象名詞)とともに提示 ◆干渉トライアル(8):category cue に合致する語が第 1・第 2 ブロックともに提示される (foil: cat / target: dog) ◆非干渉トライアル(8):category cue に合致する語は第 2 ブロックでのみ提示(統制タスク) 解答分類 分類基準 Correct target を産出 List intrusion error 干渉トライアルで第 1 ブロックの foil を産出 Extra-intrusion error Category cue には合致するが提示されていなかった語を産出 無回答 Omission □Non-言語的 PI task ・刺激として「顔」を使用した認知的タスク。2 人の宇宙人が紹介され、彼らが地球訪れている間、新しい人間 の友人の顔を覚える記憶ゲームをすると伝えられる。 30 のトライアル ランダムに 4 つブロックに分かれている 言語的 PI task と同様、single (10) か double (20) のブロック構造 ◇Single trial :画面に 3 人の顔を順に提示➜ ? ➜test face➜見た顔の中に test face があったかを yes/no 判定 ◇Double block trial :画面に 3 人の顔を順に提示(第 1 ブロック)➜ × ➜画面に 3 人の顔を順に提示(第 2 ブロ ック)➜ ? ➜ test face ➜第 2 ブロックでみた顔の中に test face があったかを yes/no 判定 ※double trial では×を見たら第 1 ブロックで提示された 3 つの顔を忘れるよう指示 ◆干渉トライアル(10):test face を第 1 ブロックから出題(yes 反応が proactive interference の証左) ◆非干渉トライアル(10):トライアルで提示されていない test face を出題 (no 反応が正反応) ■Results □Verbal PI task:協力者はトライアルの約半数に正解した。分析の結果、非干渉トライアルでは群間に有意差が無 いが、理解力低群は干渉タスクのスコアが統制群よりも有意に低かった。群間に Extra-instruction errors や omission の数で差がないことから、この差は list instruction error の数の影響と考えられる。 □Non-verbal PI task:非干渉トライアルでの正確さに群間で有意差はなく、両群ともに顔の識別・記憶がよくでき ていた。Verbal PI task の結果とは異なり、干渉トライアルでも両群に有意差は無かった。 ■Discussion ・本研究の結果は、理解力の低い読み手は既に関連のなくなった情報を WM から抑制する能力に欠けることを示 すものである。しかし、本研究で用いたタスクは言語的タスクと非言語的タスクで反応方法が異なり(リコール vs. 認知)、この手法の違いが結果に影響を与えた可能性もあるため、この点を検証すべく実験Ⅲを行う。 3 4. Experiment 3 ■Participants:実験 2 と同じ協力者 (理解力低) 14 名。実験 3 は実験 2 の 6 か月後に実施。 ■Materials and Procedure ・協力者は実験 2 の verbal PI task の認知バージョンに解答。基本的な手順は実験 2 と同様で、cued category question をリコール形式かから認知的質問に改変した。例) Was the type of pet you heard a cat? ・予備実験でリコール形式より認知的質問の方が簡単であることが示されたため、digits の shadowing の難易度を 上げて調整。 ◆干渉トライアル:第 1 ブロックに test word を提示(yes 反応が proactive interference の証左) ◆非干渉トライアル:トライアルで提示されていない test word を提示 (no 反応が正反応) ■Results ・実験 2 と同様、非干渉トライアルでは理解力低群と統制群の結果に差がなく、干渉トライアルでは統制群より もパフォーマンスが低かった。 ・intrusion error の数を直接的に比較すべく、実験 2, 3 のデータを合わせ、群(理解力低・統制)×タスク要因(言 語的・non-言語的)の ANOVA を行った結果、タスクの主効果が有意(言語的 > non-言語的)で、群の主効果 は有意ではなかった。また、群×タスクの交互作用が見られた(verbal PI task:理解力低群 > 統制群, non-verbal PI task:理解力低群 < 統制群) 。 ■Discussion ・実験 3 の結果は実験 2 の結果を支持。理解力低群は WM から言語的な無関連情報を抑制する能力が低いことが 示された。 5. General Discussion ・実験 1.2.3 より、理解力の低い読み手の抑制における deficit は言語的領域でのみ現れることが分かった。この 結果は、理解力の低い読み手の読解における困難は中央実行系のレベルでの WM deficit によるものとする先行 研究の主張とは異なるものである。理解力の低い読み手の抑制における困難は言語領域における情報処理に対 してのみ生じ、その中に language と literacy の deficit も存在すると考えられる。 ・ ・ ・ ・ 4
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