地方公共団体を核とした地域経済循環創造事業調査報告書(pdf3.01MB)

総務省地域力創造グループ地域政策課委託事業
地方公共団体を核とした地域経済循環創造事業
調査報告書
平成 26 年 3 月
株式会社コンフォートコンサルティング
はじめに
我が国は現在、少子高齢化が進行する中で、人口減少に伴う消費者数の減少のみならず生産年
齢人口も減少している。また、グローバル化する経済の下で、製造業を中心とした生産拠点の海
外移転も相まって、企業は国内での設備投資や賃金を抑制し、消費者も将来への不安や所得減少
から消費を減らし、その結果、ますます需要が低迷するという悪循環から抜け出せずにきた。
これに加えて、特に地方においては、雇用機会を求めて若年層を中心に人口が流出し、ますま
す購買活動が抑制され地域経済が疲弊する流れが続いてきた。
この流れを変え、地域が自立的に持続可能な地域として活力を維持していくためには、将来に
わたってキャッシュフローを生み出していく事業への投資に配慮することが必要である。
将来のキャッシュフローの予測は事業プランをもとに行われる。事業プランが実際に事業化に
つながるかどうかは、地域金融機関の融資を受けられるかどうかによるが、融資決定の決裁にあ
たっては、将来キャッシュフローの予測数値のリスクをどのように捉えるかがポイントとなる。
一方、事業を進めるうえで、リスクは避けては通れないものである。特に人口減少下で経済が
縮小傾向にある地域では、不確実性に伴うリスクを小さくすることは民間事業者の取り組みだけ
では困難が伴う。
リスクとは恐れるものではなく、マネジメントするものである。すなわち、将来のことは誰に
もわからないが、リスクを把握し、リスク水準(発生確率)を踏まえて、一定以上の危険度に抑
えるための対策を検討し、対策を実施していくという一連のマネジメントが重要である。
地域の事業のリスクを低減するには、一民間事業者だけで取り組むのではなく、地域の協力(産
学金官連携)のもとで取り組むことが不可欠である。なぜならば、地域を最もよく知り、大切に
思い、事業の成功のインセンティブが強いのは、地域の産学金官の各組織であるとともに、それ
ぞれが持つ強みを発揮することで、効果的に事業を展開することができるからである。
そこで、本調査では、地域経済循環の創造にあたって重要な要素である将来キャッシュフロー
のリスク低減に当たっての考え方を調査分析し、地域経済循環創造の事業化を検討する各地の取
組を支援することを目的に実施する。
目
次
1.調査の全体像 ......................................................................................................................................... 1
1.1 調査の背景と目的 ..................................................................................................................... 1
1.2 調査の業務フロー ..................................................................................................................... 2
1.3 調査の実施方法 ......................................................................................................................... 3
1.4 調査の実施日程 ......................................................................................................................... 7
2.地域経済循環創造事業交付金交付決定事例の調査分析 ................................................................. 8
2.1 将来キャッシュフロー確保の取組事例 ................................................................................. 8
2.1.1 資金循環創造の 4 タイプ ............................................................................................. 8
2.1.2 事業化する商品・製品等 ........................................................................................... 13
2.1.3 活用する地域資源(関連する産業) ....................................................................... 15
2.1.4 事業の形態 ................................................................................................................... 16
2.1.5 資金循環創造の 4 タイプ別の内訳 ........................................................................... 19
2.2 将来キャッシュフロー創造に関するリスクと対応策 ....................................................... 23
2.2.1 売上に関するリスクと対応策 ................................................................................... 23
2.2.2 競争力に関するリスクと対応策 ............................................................................... 28
2.2.3 営業活動に関するリスクと対応策 ........................................................................... 31
2.2.4 仕入に関するリスクと対応策 ................................................................................... 34
2.2.5 生産に関するリスクと対応策 ................................................................................... 37
2.2.6 経営管理や体制に関するリスクと対応策 ............................................................... 40
2.2.7 資金の観点からのリスクと対応策 ........................................................................... 42
2.3 先行事例の紹介 ....................................................................................................................... 45
3.十分な融資等を受けられなかった事例の調査分析 ....................................................................... 86
3.1 十分な融資等を受けられなかった 20 事業の選定 ............................................................. 86
3.2 十分な融資等を受けられなかった事業の取組事例 ........................................................... 86
3.2.1 資金循環創造の 4 タイプ ........................................................................................... 86
3.2.2 事業化する商品・製品等 ........................................................................................... 88
3.2.3 活用する地域資源(関連する産業) ....................................................................... 89
3.2.4 事業の形態 ................................................................................................................... 90
3.3 取組における問題点と解決策 ............................................................................................... 92
3.3.1 収支計画・初期投資計画策定における問題点と解決策 ....................................... 92
3.3.2 ビジネスモデル・事業計画全般についての問題点と解決策 ............................... 98
3.3.3 マーケティングの観点からの問題点と解決策 ..................................................... 102
3.3.4 生産体制や雇用の観点からの問題点と解決策 ..................................................... 107
3.3.5 地域での連携、事業推進体制(産学金官)における問題点と解決策 ............. 109
3.4 先行事例 67 事業との比較において ................................................................................... 111
4.地域金融機関のリスクマネジメント等のあり方に関する調査分析 ......................................... 112
4.1 連携金融機関の取組状況全般及び事業計画に関する調査分析結果及び課題 ............. 112
4.1.1 連携金融機関の取組状況及び課題 ......................................................................... 112
4.1.2 事業計画についての各論-調査分析結果及び課題- ......................................... 116
4.1.3 連携金融機関の取組状況全般及び事業計画に関するまとめ ............................. 121
4.2 融資額等に関する調査分析結果及び課題 ......................................................................... 122
4.2.1 連携金融機関の業態別割合 ..................................................................................... 122
4.2.2 融資額について ......................................................................................................... 122
4.2.3 融資期間について ..................................................................................................... 125
4.2.4 保全の状況について ................................................................................................. 126
4.2.5 事業のリスクについて ............................................................................................. 127
4.2.6 地域密着型金融への取組について ......................................................................... 131
5.事業化を検討する団体(企業)のビジネスプラン検討支援 ..................................................... 136
5.1 支援の実施概要 ..................................................................................................................... 136
5.2 支援内容(相談及び回答) ................................................................................................. 136
5.2.1 市場規模、優位性や 4Pについて .......................................................................... 136
5.2.2 顧客ターゲット、価格設定、付加価値の創造について ..................................... 142
5.2.3 販路の開拓、付加価値の創造について ................................................................. 146
5.2.4 副商品の生産販売、付加価値とコスト削減 ......................................................... 150
5.2.5 人材像、安定的事業の継続について ..................................................................... 153
5.2.6 事業バランス、販売単価の低減 ............................................................................. 156
1.調査の全体像
1.1
調査の背景と目的
総務省では、地域の関係者である産業界、大学等、地域金融機関、地方公共団体が連携し、地
域の資源と地域の資金とを結びつけて、地域における経済循環を創造し、新たに持続可能な事業
を起こすモデルである「地域経済イノベーションサイクル」の全国展開を推進している。
(出典:
「地域経済イノベーションサイクルについて」総務省資料)
地域経済循環創造事業の事業化に当たっては、想定される企業のビジネスモデルについて、当
該地域で事業継続可能なキャッシュフローを将来にわたり生み出すことが十分に期待できる収益
構造になっているかを検証する必要がある。また、この将来キャッシュフローの規模や確かさに
よって、地域金融機関からの融資を受けるに当たっての返済能力等が計られることとなる。
本調査では、地域経済循環の創造にあたって重要な要素である将来キャッシュフローのリスク
低減に当たっての考え方を調査分析し、地域経済循環創造の事業化を検討する各地の取組を支援
することを目的に実施する。
(出典:
「地域経済イノベーションサイクルについて」総務省資料)
1
1.2
調査の業務フロー
以下の業務フローにより調査を遂行した。
全体作業計画書
作成
地域経済循環創造
事業交付金交付決
定事例の調査分析
十分な融資等を受け
られなかった事例の
調査分析
金融機関のリスクマ
ネジメント等のあり方
に関する調査分析
事業化を検討する
団体のビジネスプ
ラン検討支援
アンケート内容の
確定
募集要領等
作成
分析視点、整理手法の検討
(調査票・アンケート内容の確定)
事例収集・分析・
整理
事例収集・分析・
整理
アンケートの実施
リスク分析と
対応策の検討
問題点分析と
解決方策の検討
整理・分析
報告書まとめ
2
募集・選定
検討支援の
実施(3回)
支援内容の
整理
地域の元気創造
プラットフォームと
の連携
1.3
調査の実施方法
(1)地域経済循環創造事業交付金交付決定事例の調査分析
ア.分析視点、整理手法の検討
地域経済イノベーションサイクルの先行事例として交付決定した地域経済循環創造事業交付金
の事例(67 事業)について情報収集・分析をする前に、分析の視点、整理すべき情報を確認のうえ、
共通的に収集すべき情報(整理する報告書のフレーム)について検討した。当該検討は、十分な
融資等を受けられなかった 20 事例の調査分析と同時に実施した。
イ.先行事例の収集・分析・整理
先行事例である 67 事業の地方公共団体に対して、後掲の事例紹介様式に沿って、調査票の記載、
提出を依頼した。
回答された調査票について、将来キャッシュフロー確保に向けた取組事例の内容を、一定の事
業マネジメントの観点から、メール・電話等によって質問し、内容の詳細を確認したり、必要な
場合には検討の深化を求めたりした。調査票の各項目に従い、質問の回答等も踏まえて、事業の
内在的リスクや課題を整理した。
また、回収した調査票の情報をもとに、1 事業 2 ページで事業内容や成果を紹介する取組内容
を整理し、主な事例について、地域の元気創造プラットフォームのホームページで紹介できるよ
うに整理した。
ウ.将来キャッシュフローリスクの分析・対応策の検討
収集した事例をもとに、事業のビジネスモデルやキャッシュを生み出す事業形態によって分類
し、将来キャッシュフロー確保を阻害すると思われる要因やリスク、課題を分析し、対応策の検
討を行った。
経営資源
人: マンパワー、教育、体制、モチベーション等
物: 設備の仕様内容、利用率、活用時期等
金: 資金量、投入タイミング、投入先、資金管理等
情報: 収集手段、意思決定、内部活用手段等
内部・外部要因
内部: 経営資源、経営の意思決定、製品の強み等
外部: 制度変更、競合相手、新製品、顧客ニーズ等
3
(2)十分な融資等 1を受けられなかった事例の調査分析
ア.分析視点、整理手法の検討
地域経済循環創造事業交付金応募事業のうち、地域金融機関等 2から十分な融資等を受けられな
かった事例(20 事業)について情報収集・分析をする前に、分析の視点、整理すべき情報を確認の
うえ、共通的に収集すべき情報(整理する報告書のフレーム)について検討した。当該検討は、
先行事例 67 事業の調査分析と同時に実施した。
イ.20 事例の収集・分析・整理
十分な融資等をうけることができなかった 20 事業の地方公共団体に対して、後掲の事例紹介様
式に沿って、アンケートの記載、提出を依頼した。
十分な融資等を受けられなかった事業から返送されてきたアンケートについて、将来キャッシ
ュフローを確保するためにどのような取組をしていたのか、必要に応じてメール・電話等によっ
て質問し内容を確認した。当初の事業実施計画で検討が不足していた点について取組内容を収集
し、各事業の検討段階の問題点や課題、事業の内在的リスクなどを整理した。
ウ.取組背景の問題点の分析・解決方策の検討
アンケートにより収集した取組事例、及び、回答がなかった事業については申請段階の資料を
参考にして、十分な融資等が受けられなかった事業の背景にある問題点を一定のカテゴリーごと
に抽出分析した。そして、その問題点について、解決方策の検討を行った。
(3)地域金融機関のリスクマネジメントのあり方に関する調査分析
ア.アンケート内容の確定
地域においてコンサルティング機能を担う地域金融機関に対し、地域経済循環創造事業に対す
る評価の考え方、融資額や融資期間の考え方、リスクの検討状況や地域密着型金融への取組につ
いてアンケートを実施した。
イ.地域金融機関へのアンケートの実施・結果整理
先行事例 67 事業及び十分な融資等を受けられなかった 20 事業が連携する又は連携予定であっ
た地域金融機関(20 事業についてはすべてに連携する地域金融機関が存在するわけではない。)
に対してアンケートの記載、提出を依頼した。必要に応じてメール・電話等によって質問し内容
1
2
「融資等」には、地域金融機関からの融資のほか交付金なども含む。
地域金融機関のほか総務省、地方公共団体なども含む。
4
の詳細を確認した。
ウ.取組内容の調査分析
収集した地域金融機関の地域経済循環の創造のために、地域でどのような取組を行い、役割を
果たしているか、プロジェクトファイナンスの取組やリスクマネジメントについての取組と課題
について整理分析した。
(4)事業化を検討する団体(企業)のビジネスプラン検討支援
ア.募集要領等作成
いわゆる市場調査(マーケットリサーチ)に限らず、「地域経済循環の創造に当たってビジネス
プランを検討する団体に対する事業戦略的検討支援」のための支援を実施した。支援の内容は、
地域経済循環創造のための事業計画にあたり、事業を取り巻く環境分析(市場規模や市場ニーズ
の把握)、競争優位や4P 戦略的視点等について、どのようなことを、どのように検討すべきであ
るのかといった検討の方向性や考え方をアドバイスするものである。
イ.募集・選定・検討支援の実施(3 回)
地方公共団体を通じて、地域経済循環の創造に当たって事業化を検討する団体(企業)で支援を
希望する団体を募集し、全 3 回の支援を実施した。支援を受ける団体は、相談内容に関して、事
前に相談シートに記載のうえ提出し、メールで回答、必要に応じて電話対応を実施した。
なお、支援は具体的な市場調査、技術動向調査、競合他社分析等を支援するわけではなく、あ
くまでも考え方や検討方法についてのアドバイス、支援を実施したものである。
支援の流れは次のフローのとおりである。
5
コンサルタント
総務省
地方公共団体
支援計画策定、応募
要領等作成
趣旨、応募要領、時期
等説明
趣旨、応募要領、時期
等開示し公募
支援団体の事前確認
支援団体の選定・通知
応募団体のとりまとめ
検討支援に応募
結果連絡、相談シート
記載依頼
相談シートを作成
事業実施団体
相談シートを送付
相談シートの受領
相談シート(写し)の
受領
内容の検討
回答の記入
相談シート
(回答)の送付
相談シート
(回答、写し)の受領
相談シート
(回答)の受領
相談シート
(回答、写し)を受領
ウ.支援内容の整理
相談内容を整理し、地域経済循環の創造に当たってビジネスプランを検討する多くの団体が悩
む事項について、一般的な質問・回答形式に修正して整理し、他の団体の参考になるようにまと
めた。
(5)地域の元気創造プラットフォームとの連携
回収した先行事例の調査票の情報をもとに、事業内容や成果を紹介する取組内容をまとめ、主
な事例について、地域の元気創造プラットフォームのホームページで紹介できるように整理した。
紹介内容は、担当する地方公共団体に対し、開示することについて確認をとった。
6
1.4
調査の実施日程
作業内容
1月
中旬 下旬
1 全体作業計画書作成
全体作業計画書案作成
全体作業計画書案修正・確定
2 地域経済循環創造事業交付金交付決定事例の調査分析
分析視点、整理手法の検討
67事例の収集・分析・整理
将来CFリスクの分析・対応策の検討・まとめ
3 十分な融資等を受けられなかった事例の調査分析
分析視点、整理手法の検討
20事例の収集・分析・整理
取組背景の問題点の分析・解決方策の検討・まとめ
4 金融機関のリスクマネジメントのあり方に関する調査分析
アンケート内容の確定
金融機関へのアンケートの実施・結果整理
取組内容の課題分析・整理・まとめ
5 事業化を検討する団体(企業)の市場調査支援
市場調査手法の整理
応募・選定・メール・電話にてアドバイス
6 地域の元気創造プラットフォームとの連携
情報提供(公開資料)案作成
情報提供(公開資料)案修正・完成
7 報告書まとめ
報告書案作成
報告書修正・完成・納品
7
上旬
2月
中旬
下旬
上旬
3月
中旬
下旬
2.地域経済循環創造事業交付金交付決定事例の調査分析
2.1
将来キャッシュフロー確保の取組事例
先行事例 67 事業について、どのような事業内容や運営を展開し将来キャッシュフローを創造す
る取組を検討しているかについて、タイプに分けながら取組事例を整理する。
2.1.1
資金循環創造の 4 タイプ
地域経済イノベーションサイクルにおいて、資金循環創造のタイプとして以下の4タイプがあ
げられる。
1.地域内の資金の流れを変えるタイプ(地域資源を活用する)
2.資金の流れを太くするタイプ(需要にあわせて供給を拡大する)
3.地域外の資金の流れを取り込むタイプ(地域資源に付加価値を付ける)
4.資金の流れを創るタイプ(新しい需要・製品を創る)
先行事例 67 事業が、必ずしも 4 つの資金循環タイプのいずれか 1 つに分類できるわけではない
が、取引形態・性質などからみて、主なタイプによる資金循環タイプ別割合は、以下のような割
合になる。
資金循環タイプ別割合
12
18%
25
37%
1.地域内の資金の流れ
を変えるタイプ
17
25%
2.資金の流れを太くす
るタイプ
3.地域外の資金の流れ
を取り込むタイプ
13
20%
4.資金の流れを創るタ
イプ
※グラフ上段の数字は件数、下段は割合である。
いずれのタイプも比較的バランスよく選定されている。
8
「3.地域外から資金の流れを取り込むタイプ」がやや多く、地域の外に商品・製品やサービ
スを販売したり、観光客を呼び寄せる等で地域経済の活性化を図ろうとするものが比較的多いも
のだと思われる。逆に、
「4.資金の流れを創るタイプ」がやや少ない。当該タイプは、新製品の
開発や新需要を喚起するため、事業優位性がより強く必要となる可能性が大きいだけに、事業化
にいたるまでやや困難なこともあるのではないかと思われる。
具体的には、タイプ別に以下のような事業を例として挙げられる。
(1)地域内の資金の流れを変えるタイプ(地域資源を活用する)
従来は、市の公共施設の燃料として重油を使っており、その購入資金が域外に流出していた。
しかし、事業により整備した施設・機械を活用し、地域内の林地残材等を原材料として木質チッ
プを製造し、当該公共施設に販売することで、地域外に流出していた資金が地域内で循環するよ
うになり、資金の流れが変わるというものである。
また、以前、地域内の宿泊施設は、地域のリネンサプライ事業者に業務委託をしていた。とこ
ろが、その事業者の廃業後は、わざわざ洗濯物を船に乗せて地域外の事業者へクリーニングを委
託する状況にあった。そこで、リネンサプライ事業をたちあげ、宿泊施設のシーツ・タオル・浴
衣・布団カバー・おしぼりなどの「リネン」類を購入し、地域内の宿泊施設に対して貸与し、使
用後に回収してクリーニングすることで代金を徴収することとした。これにより、地域外へ流出
していた資金が、地域内で循環するようになり、資金の流れが変わることになった。
(2)資金の流れを太くするタイプ(需要にあわせて供給を拡大する)
すでに野菜・フルーツの市場を毎月 1 回開催している。しかし、月1回の開催だけではなく常
設を望む声が寄せられた。そこで、常設の店舗事業を立ち上げるとともに宅配事業も立ち上げる
こととした。店舗を経常的に来店しやすい中心市街地に設置することで、来店の機会を逸してい
た潜在顧客を、また、宅配事業は、これまで距離が遠かったり、移動手段がなかったりしたため
に来店できなかった潜在顧客を掘り起こすことができるものだと思われる。これにより、これま
での地域内での資金の流れをより太くすることができる。
(3)地域外の資金の流れを取り込むタイプ(地域資源に付加価値を付ける)
近海において、近年、栄養塩の増加・植物プランクトンの異常発生の影響から主幹漁業である
9
ノリ養殖が衰退しつつあった。そこで、これらの状況を逆手に取り、新たにカキ養殖を始めると
ともに、養殖からカキ小屋での販売までを事業化することとした。従来から、シーズンになると
県内外からカキを求めて多くの顧客が訪れている近隣の状況から、当該事業でも地域外からの顧
客を主なターゲットに事業を開始した。地域外からの資金を取り込むタイプだといえる。
また、地域の農産物等の食材を活用し、それをすりおろしたり、カットしたり、食材を組み合
わせたりした加工品を生産し、地域外へ、さらに海外への輸出も視野に事業を立ち上げる事業も
多くみられた。従来から加工品ではないが農作物を地域外へ販売していたため、その資金の流れ
を太くするタイプであるとも考えられるし、すりおろし、冷凍加工等の新しい需要を作るタイプ
であるとも考えられる。しかし、これらの事業は新しい販路を開拓し、従来以上の広いエリアに
向けて販売することから地域外の資金の流れを取り込むタイプであるといえる。
(4)資金の流れを創るタイプ(新しい需要・製品を創る)
町の少子高齢化が進むとともに、近年、空き家や空き店舗が点在する傾向にあり、地域コミュ
ニティの希薄化などの地域課題を抱えていた。このため、町では、以前から、空き家・空き店舗
を利用した地域おこしの活動に取組んでいた。そこで、その取組の一環として、空き店舗を利用
して、保存料を一切使わない、手作りパンを製造し販売する事業を計画した。従来は、地域外か
ら手作りパンを購入し資金が流出していたが、地域内で資金が循環するように資金の流れを変え
るタイプであるとも考えられる。しかし、地域の商店や学生等とのコラボレーションによりパン
を企画したりすること、近隣には存在しない保存料を一切使わない手作りパン屋であることから、
新しい需要を作る、新しい資金の流れを創る事業であるといえる。
また、全国有数のナマコ産地である地域で、従来はナマコの煮汁や内臓から出る加工処理残物
が廃棄されていた。しかし、産学金官の協力体制により、廃棄物が貴重な地域資源となることが
わかり、商品開発・販売事業に取り組むこととした。具体的には、ナマコの加工過程で排出され
る廃棄物を処分し、白癬菌(水虫)の治療薬として利用されるサポニン類などの機能性成分を抽
出する。そして、これらの成分を織り込んだ機能性靴下や保湿効果を利用した石けんなどの高付
加価値商品を製造するメーカーへ低コストで供給する事業を打ち立てた。これまでは、単に廃棄
されていたものだが、本事業により、有効な地域資源として活用されることになり、従来の廃棄
処理料の資金の流れが変わるタイプであるとも思われるが、全く新しい高付加価値・高機能な製
品を創造し、新しい需要を喚起することで、新しい資金の流れを創るタイプだといえる。
10
(5)資金循環創造タイプ別事業
先行事例 67 の各事業は、前述したように、必ずしも 4 つの資金循環創造のいずれか一つのタイ
プにのみ該当するわけではないが、その取引形態や性質などから主なタイプがどれに該当するか
ととらえると、以下のようなタイプに分けられる。
1.地域内の資金の流れを変えるタイプ
(地域資源を活用する)

















チップ製造事業
木質バイオマス燃料材収集拠点整備事業
飼料自給率向上プロジェクト
最上地域木質バイオマス安定供給事業
御宿温泉まちづくり事業
地域木質バイオマス循環利活用事業
「エコふぁーむ魚津」創造事業
山県市地元アルチザン事業
資源循環型障がい者就労継続支援事業
地域循環型醤油粕飼料化肥料化事業
木質バイオマス資源活用事業(木質バイオマス資源加工ステーションの整備)
島のバックヤード再生プロジェクト
「阿波尾鶏」を活用した畜産と農業の地域資源循環の創造
古建築再生による賑わい事業創造拠点づくり
今治市循環型地産地消事業
五明地区の農産物や森林資源を活用した地域循環資源有効活用促進事業
県民総ぐるみでのBDF燃料普及による熊本県経済・エネルギー循環創造事業
2.資金の流れを太くするタイプ
(需要にあわせて供給を拡大する)













江別市地域経済循環創造事業~豊富な資源で「麦の里えべつ」を活性化~
高等学校寄宿舎建設事業
地中熱を活用した夏イチゴ栽培による地域経済循環促進事業
リサイクル業務による障がい者就労機会創出・国内資源循環促進事業
榛東村エネルギー・地域力循環創造事業
ひまわり豚創出プロジェクト
水がつなぐ地域の力事業
イノブタ新商品の開発を核とした紀南地方経済の活性化
山里ぜんたいFACTORY事業
陸上養殖場整備事業「海の駅とまり」
とくしまマルシェ地域ブランド構築事業
はも資源有効活用推進事業
豊島地域流通拠点整備事業
11
3.地域外の資金の流れを取り込むタイプ
(地域資源に付加価値を付ける)

























エゾシカ製品オリジナルブランド化推進事業
日高エゾシカ総合センター整備事業
秋田の農林漁業・食品産業プロデュース事業
温泉水を活用した「雪沢温泉どじょう」創出事業
ケナフを活用したエコマテリアル事業
観光交流拠点創造事業
栃木県産二条大麦を広く食品として普及させるプロジェクト
栃木県産の農産物を活用したノンアルコールカクテルの開発製造販売事業
低速電動コミュニティバスと桐生市の地域資源を融合させた「環境観光」の事業展開及び該
当バスの活用拡大による地域製造業の活力向上推進事業
椎茸菌床栽培確立事業
津南町地域経済循環創造事業
南砺エコビレッジ創造事業
輪島門前地区でブドウの栽培からワインの製造販売まで行う6次産業化モデル事業
もみじ農園整備事業
食と健康の館施設整備事業
高校生と町と企業が協働する地域資源利活用製品の創出プロジェクト
淡路島・地域活性化の拠点「産直センター」の新設事業
短期育苗技術導入による効率的生薬生産流通拠点づくり事業
湯浅湾おさかなPR事業 ~湯浅ブランドの確立~
ふなおマスカット地域連携事業
萩産ごまを中心とした萩の農産品ならびに萩の搾油技術を活用した油製品販売事業
土佐山百年構想「土佐山/まるごと有機プロジェクト」
(農産物加工施設整備事業)
高付加価値型乾燥野菜製造等事業
クマモトオイスター再発見事業
地域経済循環創造事業(やまといもすりおろし冷凍工場建設)
4.資金の流れを創るタイプ
(新しい需要・製品を創る)












ナマコ加工廃棄物を活用した地域経済活性化
大治町特産の赤シソを使った「シソジュース」及び「シソワイン」等製造事業
複合施設による地域経済活性化事業
「竹」から展開する新ビジネス推進事業
森浦湾観光資源開発事業~鯨食文化普及と漁場に関する事業~
島根県産天然フェリエライトを用いたCO2 濃縮装置の製造施設整備事業
歩行者用交通信号機のLED電球によるLED化の推進
魚骨の軟化技術を用いた高付加価値水産商品における加工設備整備事業
空き店舗再生による地域経済循環創造事業
「壱岐の恵み通販」事業
五葉フーズによる玉名市産農産物地域経済循環創造事業
那覇市におけるナイトカルチャー創出・発信拠点づくり事業
12
2.1.2
事業化する商品・製品等
必ずしも 1 つの商品・製品やサービス(以下「商品・製品等」という。)を販売しているわけで
はないが、先行事例 67 事業について、主として取り扱うことを予定している商品・製品等の割合
をみてみると以下のようになる。
商品・製品等の種類
11
16%
7
11%
6
9%
食品
飼料堆肥
37
55%
燃料
雑貨・生薬等
サービス
6
9%
※グラフ上段の数字は件数、下段は割合である。
上のグラフのように、提供する商品・製品等の半数以上が「食品」であり、37 件で 55%にのぼ
る。地域資源を活用して提供する場合に、
「食品」が事業化になじみやすいものであると思われる。
次いで、
「サービス」が 11 件で 16%と続いている。
(1)食品 37 件の内訳
商品・製品等のうち「食品」の 37 件について、何をどのように加工したり生産したりするかと
いった、事業モデルのタイプによって分けてみると以下のとおりとなる。
事業モデルのタイプ
農作物を加工販売する事業
事業の例示
・地域野菜を活用したスイーツの製造販売
・地域野菜をカット・乾燥等加工し販売
・ヤマトイモをすりおろして冷凍パック販売
飲料を製造販売する事業
・天然水のペットボトル製造販売
・地域果実を利用しワインの生産販売
食肉を加工販売する事業
・新種肉の生産、加工、販売
主として上記以外の食材を使 ・地域鮮魚(はも)の加工品や料理品の販売
って製造販売する事業
・カキを養殖し炭火で焼いて販売
主として農作物を生産し販売 ・小麦の生産販売
する事業
・イチゴの生産販売
主として水産品を飼育・捕獲等 ・ドジョウの養殖販売
して販売する事業
・ひらめ・あわび等の養殖販売
地域食品を販売する事業
・市場開設による地域食品全般の販売
13
件数
9件
6件
3件
8件
5件
4件
2件
地域の農作物を活用し、何等かの加工をしたうえで食品として販売する事業が多く 9 件みられ
る。また、地域の水や果実を利用した飲料の製造販売、食肉の加工販売が、それぞれ 6 件、3 件
である。それら以外の食材を使って活用して、加工製造販売するものとしても 8 件ある。何等か
の加工のうえ「食品」販売する事業は、あわせて 26 件を占めることから、地域食材に付加価値を
付けて販売しようとする事業が多いことがうかがわれる。それ以外にも、新技術を活用して、農
作物を飼育し販売したり、鮮魚を養殖販売したりする事業が 9 件となる。
全体として、活用される地域資源としては、食品につながるものが商品・製品化しやすいこと
がうかがわれる。
(2)サービス 11 件の内訳
商品・製品等のうち「サービス」11 件について、どのようなサービスを提供するかという事業
のタイプで分けてみると以下のとおりとなる。
事業のタイプ
観光関連事業
展示観劇関連事業
その他の事業
事業の例示
・建物等を活用し観光サービスの提供
・世界遺産等を活用し観光サービスの提供
・ホール等の貸出
・劇場の貸出
・寄宿サービスの提供
・リネン清掃等サービスの提供
・ネット販売サービスの提供
件数
4件
3件
4件
展示観劇関連事業には、音響、照明、映像設備が充実した、各分野のプロの使用に応えること
の出来るホールの賃貸業や、伝統文化を取り入れた演劇等のエンターテイメントを上演できる、
移動仮設テントの賃貸業などがある。また、その他の事業には、通信販売のサイト運営のサービ
スを提供して手数料収入を得る事業などが含まれている。
(3)雑貨・生薬等 7 件の内訳
商品・製品等のうち「雑貨・生薬等」7 件について、その具体的に提供する商品・製品等は以
下のとおりである。
・駆除鹿肉を利用したペットフード
・ナマコ加工廃棄物を活用した高機能製品(石鹸、靴下)用原材料
・廃材から抽出するリサイクル材
・ケナフを活用したバルブ等
・高校生と協働開発するスキンケア製品
・短期育苗技術による生薬
・歩行者用交通信号機の LED 電球
14
2.1.3
活用する地域資源(関連する産業)
どの事業も必ずしも 1 つの地域資源のみを活用するとは限らないが、
先行事例 67 事業について、
主として活用することを予定している地域資源に関連する産業の割合は以下のとおりとなる。
活用する地域資源の関連産業
14
21%
農業
林業
5
8%
35
52%
7
10%
水産業
畜産業
非農林水産業
6
9%
※グラフ上段の数字は件数、下段は割合である。
地域経済の活性化のために活用される地域資源としては、「農業」に関連する資源の活用が 35
件で 52%と最も多く、農林水産関連事業は全体の約8割となっている。
(1)「農業」に関連する地域資源の活用 35 件
「農業」に関連する地域資源を主として活用することを予定している事業 35 件について、その
詳細をみてみると、以下のとおりとなる。
活用する資源タイプ
主として農作物
農作物以外も含む食材食品
作物の種
廃棄物や余った資源
事業の例示
・ケナフの委託生産、パルプ抽出等加工販売
・にんにく等の生産、加工販売
・地域のごまを活用しブレンドゴマ油の製造販売
・地域農産物のパッキング・加工販売
・県農産物の商品開発、販売
・地域産しおを使ったソフトクリーム製造販売
・魚の高温狡猾処理販売
・椎茸菌を活用したシイタケの栽培販売
・ブランドイチゴの種子を購入し生産販売
・廃棄物利用飼料の製造販売
・醤油粕活用堆肥飼料の製造販売
件数
21 件
7件
4件
3件
地域資源として主として農作物を活用している 21 事業のなかで、大麦、ごま、ニンニク、ブド
15
ウ、もみじ等の 1 種類ないし特定の農作物を活用する事業が 11 事業ある。それ以外は地域の多種
多様な野菜や果実などを活用するといった複数の農作物を資源とする事業である。
特定の農作物を使うビジネスモデルの場合は、大学や研究所等と提携し、特定の素材に対して
新しい加工方法や利用方法を開発したり、生産方法によって味覚等において付加価値を付けたり
して事業化を進めるというタイプが多い傾向にある。また、主として 1 種類の食材を活用する事
業には、たとえばブドウの栽培からワインの製造販売までを行う六次産業化を目指すような事業
が多く見受けられる。
(2)「非農林水産業」に関連する資源の活用 14 件
「非農林水産業」に関連する地域資源を主として活用することを予定している事業 14 件につい
て、その詳細をみてみると、以下のとおりとなる。
活用する資源タイプ
地域の建物や街並み、観光資源
天然資源
廃棄物
役務(労働力)
事業の例示
・エコバスによる送迎含む観光サービス等
・街づくりの一環としてホール賃借、映画上映等
・天然水のペットボトル製造販売
・天然鉱物加工販売
・廃材から電線利用資源の抽出販売
・廃食油を活用した燃料の製造販売
・地域人材を活用したリネンサービス
件数
5件
4件
2件
3件
地域によっては空き家・空き店舗等の活用を含めてまちづくりに取り組んでおり、地域の重要
な建物等を有効活用し、展示物のホール賃貸や希少価値のある映画の上演の事業化を推進するこ
とで、住民が集まることができる空間を提供する事業等がある。また、林業に関連して廃材を利
用して木質チップ燃料を製造する事業以外にも、廃棄物を地域資源として活用しようとする事業
が見られる。さらに、天然鉱物や天然水を活用する事業なども見受けられる。
2.1.4
事業の形態
事業の形態として、製造して販売するタイプ、農作物を栽培して販売するタイプ、マーケット
(市場)を提供し手数料収入または小売業的に売上を計上するタイプなど、いくつかに分けられ
る。自らも製造や栽培を行ったうえ、マーケットの開催もするといった複合型もありうるが、主
としてどのような形態に該当するかということで、事業の形態を分けた場合の形態別割合は以下
のとおりとなる。
16
事業の形態
4
5 6%
8%
7
10%
製造販売
7
10%
栽培・養殖等販売
市場提供型収入
44
66%
空間提供賃貸収入
サービス料収入
※グラフ上段の数字は件数、下段は割合である。
「事業の形態」
製造販売
栽培・養殖等販売
市場提供型収入
空間提供賃貸収入
サービス料収入
農林水産品等の原材料を加工して販売する。
農作物を育成や水産物の養殖をして販売する。
マーケットを提供し仕入販売もしくは手数料収入を得る。
劇場やホール等の賃貸収入を得る。
サービス業による収入を得る。
事業の形態としては、
「製造販売」形態が圧倒的に多く 44 件、66%を占める。農林水産物を地
域資源とする場合に、付加価値を付けるためにはそのまま飼育・栽培して販売するのではなく、
加工したうえ販売することを事業化計画しているものだと思われる。農作物を栽培したり、水産
品を飼育したりするといった、いわゆる一次産業に該当する事業は 7 件、10%となっている。残
りの約 21%は、概ね三次産業に該当する。
(1)「製造販売」に該当する 44 事業
製造販売する 44 件について、何を商品・製品等としているかについて示すと以下のとおりとな
る。
17
商品・製品等が食品である場合の内訳(件数)
食肉
飲料
加工食品
農作物加工品
0
2
4
6
8
10
件数
商品・製品等の分析でも、
「食品」を提供する事業が最も多かったとおり、製造販売する事業の
扱う提供物も、
「食品」が 25 件と最も多い。食材をそのまま売るのではなく、カットしたり、す
りつぶしたりして、何等かの付加価値を付け販売する事業が多いものだと思われる。上記の「雑
貨・生薬等」には、ペットフード、靴下・石鹸の原材料、パルプ、スキンケア製品、電球などが
含まれる。特殊な製造技術等を駆使している事業が多く、製品の差別化を図りやすいと考えられ
るが、商品開発に時間と資金や体制が必要であることなどから、相対的な事業数は多くないもの
と思われる。
さらに、上記の「食品」を「製造販売」する 25 件の内訳は、以下のとおりである。
食品の製造販売タイプ
食肉を加工販売するタイプ
飲料を製造販売するタイプ
上記以外で、農作物を活用して
製造販売するタイプ
上記以外の他の食材を活用し
て製造販売するタイプ
事業の例示
・エゾシカを食肉として加工販売
・天然水のペットボトル製造販売
・ワインの製造販売
・シソジュースの製造販売
・もみじを栽培、もみじ茶の製造販売
・トマト等葉物野菜生産、カット等加工し販売
・有機野菜を中心に真空パック等加工し販売
・豆腐を活用してデザートの製造販売
・カキを養殖し炭火で焼いて提供
件数
2件
6件
10 件
7件
「飲料」には、地域のおいしい水をペットボトルにつめて販売する事業や地域産のブドウを活
用するワイン製造等が含まれる。「食肉」「飲料」以外で、地域の農作物を加工し販売する事業が
10 事業と最も多い。しかし、それら以外の食材を使って製造販売する事業が 7 事業ある。やはり、
地域資源としては農作物がより活用される傾向にあることがうかがわれる。
18
2.1.5
資金循環創造の 4 タイプ別の内訳
地域経済イノベーションサイクルにおいて、資金循環創造のタイプとして以下の4タイプがあ
げられる。資金循環創造の 4 タイプ別に、商品・製品等の種類、活用する地域資源に関連する産
業、事業の形態を整理分析する。
1.地域内の資金の流れを変えるタイプ(地域資源を活用する)
2.資金の流れを太くするタイプ(需要にあわせて供給を拡大する)
3.地域外の資金の流れを取り込むタイプ(地域資源に付加価値を付ける)
4.資金の流れを創るタイプ(新しい需要・製品を創る)
(1)資金循環創造タイプ別の商品・製品等の種類
100%
90%
80%
70%
60%
サービス
50%
雑貨・生薬等
40%
燃料
30%
飼料堆肥
20%
食品
10%
0%
燃料を提供する事業は、従来の化石燃料のために支払っていた資金の流れが変ることになるこ
とから、タイプ1に分類される。また、飼料堆肥を提供する事業は、従来の飼料や堆肥に対する
資金の流れを変える資金タイプ1の場合と、新しい堆肥や飼料を作り出し、資金の流れを創る資
19
金タイプ4がある。資金の流れを太くする資金タイプ2には、食品を提供する事業が多く、従来
から提供していた食品等に何等かの付加価値を付けて販売することで、資金の流れを太くする事
業が多いからだと考えられる。また、資金を取り込む資金タイプ3も比較的食品を提供する事業
が多くなっている。これは、従来、地域内で販売していた食品等を、ネット販売を活用したり、
観光客を呼び寄せたりして、地域外の顧客に販売し、外部から資金を取り込むようなビジネスモ
デルを計画する事業が多いからだと思われる。
該当のない商品・製品等もある(ゼロ件)ので、表でも示しておく。
件数
食品
飼料堆肥
燃料
雑貨・生薬等
サービス
合計
資金タイプ1
4
4
6
0
3
17
資金タイプ2
11
0
0
1
1
13
資金タイプ3
18
0
0
4
3
25
資金タイプ4
4
2
0
2
4
12
(2)資金循環創造タイプ別の活用する地域資源に関連する産業
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
非農林水産業
畜産業
水産業
林業
農業
資金を外部から取り込む資金タイプ3は、農業に関連する地域資源の活用事業が多く見られる。
地域の特産品を市場形態で販売したり、加工してインターネット販売したりすることで観光客や
他の地域の一般消費者に販売し、地域への資金を取り込む事業が多いからだと思われる。資金の
流れを変える資金タイプ1には、林業に関連する木材・廃材を活用して、従来は化石燃料代金と
20
して地域外に流れていた資金を、地域内で廃棄物や余った資材を活用する事業が多く、30%程度
を占めるものだと思われる。また、資金タイプ1は水産業に関連する地域資源の活用事業がゼロ
件である。他方、その他の資金タイプには万遍なく 15%前後の事業が水産業関連に資源を活用し
ており、養殖や加工で資金の流れを太くしたり(資金タイプ2)
、市場で観光客に販売して資金を
取り込んだり(資金タイプ3)
、廃棄物を利用して新しい需要を喚起し資金の流れを創ったり(資
金タイプ4)と多様に活用できるのではないかと思われる。また、資金の流れを創る資金タイプ
4は、非農林水産業に関連する資源を活用する割合が高く、たとえば古い建物や地域の街並みな
どを活用してホールとして賃貸借したりすることにより、新しいニーズを作り出す事業が多いも
のだと思われる。
該当のない活用する地域資源もある(ゼロ件)ので、表でも示しておく。
件数
農業
林業
水産業
畜産業
非農林水産業
合計
資金タイプ1
資金タイプ2
7
5
0
1
4
17
6
0
2
2
3
13
資金タイプ3
17
0
3
2
3
25
資金タイプ4
(3)資金循環創造タイプ別の事業の形態
100%
90%
80%
70%
60%
50%
サービス料収入
40%
空間提供賃貸収入
30%
市場提供型収入
20%
栽培・養殖等販売
10%
製造販売
0%
21
5
1
2
0
4
12
「事業の形態」
サービス料収入
空間提供賃貸収入
市場提供型収入
栽培・養殖等販売
製造販売
サービス業による収入を得る。
劇場やホール等の賃貸収入を得る。
マーケットを提供し仕入販売もしくは手数料収入を得る。
農作物を育成や水産物の養殖をして販売する。
農林水産品等の原材料を加工して販売する。
資金の流れを変える資金タイプ1と資金の流れを創る資金タイプ4は、
「栽培・養殖等販売」の
事業がゼロ件である。農作物を作成したり、鮮魚等を養殖したりする活動自体では、資金の流れ
を変えることや新しい需要を創り出すことは難しいのかもしれない。しかし、資金の流れを太く
したり、外部へ販売したり観光客を集めたりして外部からの資金を取り込むことができるため、
資金タイプ2と資金タイプ3に集中しているものだと思われる。新しい資金の流れを創る資金タ
イプ4には、地域の環境や食文化等を融合させて観光サービスを行う事業や、地域の食材を通販
サイトで販売するためのサイト運営サービス事業などがある。いずれも外部から資金を取り込む
資金タイプ3であるとも考えられるが、新しいサービスの提供を創出する事業であるといえる。
該当のない事業形態もある(ゼロ件)ので、表でも示しておく。
件数
製造販売
栽培・養殖等販売
市場提供型収入
空間提供賃貸収入
サービス料収入
合計
資金タイプ1
14
0
0
1
2
17
資金タイプ2
6
4
2
1
0
13
22
資金タイプ3
16
3
3
0
3
25
資金タイプ4
8
0
0
2
2
12
2.2
将来キャッシュフロー創造に関するリスクと対応策
先行事例 67 事業は、基本的には、平成 25 年度に初期投資を行い、平成 26 年度から事業を開始
し、概ね 3 年後を目途として平年ベースのキャッシュフローを創造するスケジュールで取り組ん
でいる。
それら事業の開始段階にあたり、その事業計画を分析し、将来キャッシュフローを創造し事業
を継続し続けられるかという観点から、どのようなリスクが潜んでいるか、また、それらリスク
に対してどのような対応策が考えられるかについて検討した。
2.2.1
売上に関するリスクと対応策
収入いわゆる売上は、キャッシュフローを創造する大前提となるものであり、事業継続にとっ
ては、より正確な計画をたて、計画どおりの売上を達成することが不可欠となる。
(1)売上計画の設定
一般的に事業計画を作成する場合には、売上に対応する仕入量や生産体制、人員の確保等を検
討することになるものだと思われる。よって、売上計画が過大である場合には、余計な原材料を
購入したり、人員を確保してしまったりするリスクがある。また、固定的経費が大きい場合には、
一定の売上を確保しなければ、キャッシュフローが赤字になることも考えられるところ、売上計
画が過大になっている場合には、実際には固定的経費を回収できなくなり、キャッシュフローが
マイナスになるリスクもある。したがって、売上計画を立てる場合には、できるだけ実現可能性
が高い計画とする必要がある。

生産能力に連動する売上計画
設備投資等により生産設備が整う場合や養殖場や耕作地を広げることにより生産能力が向上す
るビジネスモデルの場合、生産高に応じて売上高が増加するという計画を作成しがちである。
一方で、高度成長期の大量生産・大量消費時代のような単純なプロダクトアウト的な販売計画
は通用しにくくなっている時代である。生産高に応じて単純に売上高が増加するという計画には
リスクがあると思われる。
製品・サービスの優位性を優先する「プロダクトアウト」に対し、市場の顧客ニーズを優先す
る「マーケットイン」という発想があるが、両者は必ずしも対立する概念ではないものの、マー
ケットインの発想も持ち併せて、事前に市場のニーズ調査を実施して、マーケットが求める商品
開発を実施する必要がある。ある程度見込みを立てて事業化計画を推進しつつ、具体的なアンケ
ートや各種統計等を駆使して、具体的で現実的な根拠のある販売計画を立てる必要がある。
23
また、似た事例として、従来は他者から原材料を購入していたところ、その原材料への加工設
備を整備し、今後は自社で加工した原材料を使って製品をつくることから売上が増加するという
計画を設定した場合、原材料自体には変りはなく、自社製造になるということで売上が増加する
という単純な予測では無理がある。
このような場合は、たとえば、従来は地域外から購入していた物流費を削減でき、自社で加工
することにより仕入代金を抑えることができ、結果として販売価格を安く抑えることができるな
らば、価格の強みを押し出した営業強化をはかることで、売上数量を増加させ、売上の増加につ
なげるといった対応が考えられる。そのような対応をはかったうえで、売上増の収支計画を作成
する必要がある。

販売計画
月にいくらの売上を計上するという販売計画・売上計画を作成するにあたって、たとえば、イ
ベントを通じて事業に共感したパートナーを獲得し、そのイベントの拠点を商品販売の店舗とし
ても活用し、各パートナーがそれぞれ持ち寄った手作り商品や外部から仕入れた商品を販売する
というビジネスモデルの場合、どれぐらいのパートナーを獲得できるか、そのうちどれぐらいの
パートナーが商品を持ち込んでくれるか、それらの商品は顧客の購買意欲を促進することを期待
できる商品かといった戦略が必要である。
このような場合は、たとえば、すでにパートナーを獲得し、ある程度、商品の提出をしてもら
えることを把握している場合は、不足する商品についての仕入先を確保したり、そもそもイベン
トや店舗の存在を知ってもらい事業の認知度をあげるための宣伝活動をしたりするといった対応
も考えられる。
また、イベントを通じて共感してもらえるという点にフォーカスして、商品ラインナップを検
討する等の営業戦略や販売戦略も必要である。そのうえで、販売計画をたて、実績と比較しなが
ら差異を分析した事業運営が必要である。

メニューの開発
地元野菜を調理した料理を提供するビジネスモデルの場合、メニューの具体化に先行して、一
食いくらで何食販売するという売上計画をたててしまうと、売上計画のメニュー単価と等価にな
るようなメニューを検討される予定であるのかもしれないが、それではメニューの開発に制約が
生じてしまい、顧客ニーズにあうメニューを提供できず、売上計画を達成できないリスクがある。
できるだけ早急にメニューと価格を決定し、それに対応する仕入先の確保等の対応をとる必要
がある。また、メニュー単価が大きく変わり、それに伴い予測販売数が変るようであれば、収支
24
計画を再作成することが必要である。
(2)事業環境の変化に関するリスク
地域の人口減少等の事業環境の動向によっては、売上に対する潜在的なリスクがある。

顧客ターゲットの減少
たとえば、果物を栽培し、一部は加工して販売するが、それ以外は生で地域の飲食店等に販売
するビジネスモデルの場合、その商品の性質とビジネスモデルであれば、近隣エリアでしか販売
しないものと思われる。順調にいけば、近隣エリアでの認知度もある程度認められ、計画どおり
の収益を達成できるかも知れない。一方で、この場合も生産量を増加させるとそれに応じて売上
も増加するという単純な計画である場合、地域の人口は減少傾向にあり、そのような状況下で、
計画どおりに増収とはならないリスクが潜んでいる。
商品自体は付加価値が高いので、他地域でも競争力がある商品だと思われるため、他の地域で
も営業活動を展開し、物流網をうまく活用し、販売エリアを広げるという対策が考えられる。
また、ほかにも、顧客数の減少につれて売上が減少するのではないかというリスクも潜んでい
る。たとえば、地域の宿泊施設を顧客にし、商品・製品等を提供するビジネスモデルの場合、地
域に他の競合業者がおらず優位性が認められ、計画している売上は達成できるのではないかと思
われる。しかし、観光客が減少すると、顧客である宿泊施設が減少し、それにともない売上が縮
小するというリスクを否定できない。
販売エリアを拡大することができる事業の場合は、販売エリアの拡大を図り、近隣の宿泊施設
への営業展開を図るという対応が考えられる。しかし、単純に販売エリアの拡大ができない場合
は、ビジネスモデルを再考し、現在の商品・製品等に隣接する製品やサービスの提供を加えるこ
とで売上増をはかるという対応策が考えられる。たとえば、ダスキンはもともと化学ぞうきん「ホ
ームダスキン」を販売するところからスタートしている企業であるが、現在では清掃サービス事
業を大きく展開している。このような観点でのビジネスモデルの再検討をすることが考えられる。

社会の動向
「エコ製品」の燃料を販売するビジネスモデルの場合、再生可能エネルギーに対する関心の高
まりや、公共施設への導入が進んでいること、実際にその燃料の生産量が増加していることから、
今後も当該エコ製品が売れ、燃料へのニーズが高まると思われ、売上が伸びるものとして計画を
作成しがちである。たしかに当該エコ製品が普及するかもしれない。しかし、計画しているほど
25
に当該エコ製品の認知度が上がらず、売上が達成できないというリスクが潜んでいる。
そのためは、自社でも当該エコ製品本体を販売し、その良さの宣伝広告を強化したり、エコ商
品の販売店と提携して燃料とセットで販売したり、リピータ戦略として長期契約顧客への割引等
の特典を付与したりする対策が考えられる。
(3)販路開拓におけるリスク
新規事業である場合などは特に販路の開拓が思うように進まず、計画どおりの売上が確保でき
ないというリスクがある。

新製品や新サービス
大学や研究所等と連携して研究開発し、地域資源を用いて新しい技術のもと、従来にはない画
期的な製品を製造販売するビジネスモデルの場合、付加価値が高く競争力があり優位性も認めら
れる製品であると考えられる。しかし、新規事業であるため、販路開拓に困難を伴うことが多く、
販路を開拓できない場合には、計画している売上を達成できずキャッシュフローを創造できない
リスクを否定できない。
たとえば、新しい性能・品質・機能をより多くの人に知ってもらうためのサンプル品を用意し
配布したり、製品によっては専門誌や当該製品分野で影響力があるメディアで取り上げてもらう
よう活動したりする対策が重要になるものだと思われる。
(4)販売先が特定される場合のリスク

販売先が 1 社
すでに販路を持っている 1 社と協力関係を提携し、その 1 社へ販売するという計画の事業の場
合、事業立ち上げの際にスムーズに事業を開始することができ、望ましい状況であると思われる。
しかし、将来的には経営方針の相違や利害の衝突等から協力関係が解消されたり、販売予定先の
経営状況が悪化したりする場合には、販路が全くなくなってしまうというリスクを否定できない。
たしかに、特に新規事業の場合は、既存の販路を活用することで、安定した売上を確保できる
ため、当該会社との良好な関係を損なわないようにすることがポイントである。しかし、顧客を
1 社に限定するのはやはりリスクが高いため、リスクヘッジの観点から少しずつでも独自の販路
を開拓し顧客を複数化しておくことも重要ではないかと思われる。

主な販売先が行政機関
26
事業の継続には、行政機関のバックアップが不可欠であり、将来的にも一層の行政機関との協
力体制の強化が望まれるところである。特に事業開始段階では、地域におけるコーディネート役
である行政機関が各種団体との窓口になる等支援をする必要があると思われる。
事業のスタート時点で、当該地域の行政機関への販売を見込んでいる場合、行政機関と大口契
約を締結できれば、事業が安泰である。また、可能であれば、事業が軌道にのるまでは、売上に
貢献するこのような直接的な行政機関の支援も重要であると思われる。しかし、将来的に継続的
に行政機関と契約できるとは限らず、契約できない場合には事業がたちゆかなくなるリスクが潜
んでいる。
他の地域の行政機関へサービス提供できるのであれば、他の地域の行政機関へ販路を拡大する
ことも必要であろう。また、商品・製品等の性質上、行政機関以外に向けても販売できるもので
あれば、販売形態を変えたり、小ロット化を検討したりするなどして、民間企業や一般消費者へ
の販路開拓をすることも対策として考えられる。
(5)製造と販売の連携におけるリスク
仕入や生産が売上や販売価格に大きく影響する事業、特に六次産業化を目指すような事業の場
合、製造と販売の連携がうまくとれず、売上が伸び悩むというリスクが潜んでいる。

廃棄物等の資源活用
たとえば、地域の水産加工業から生み出される廃棄物資源や、あるいは、農家などから排出さ
れる木質系資源を引き取り、処理料金を受領するとともに、それらの資源も活用して堆肥を製造
し農家などに販売するようなビジネスモデルの場合、順調にそれら資源の持ち込みがあり、引取
り、処理料金として売上が達成されたとしても、それらを使って製造する堆肥等の販売が進まず、
在庫が膨らみ、製造をストップせざるを得ず、その結果引取りも止めなければならない事態に陥
るリスクが考えられる。逆に、堆肥等の売上が予想以上に伸びても、資源の持ち込みが少なく製
造できない可能性もある。
対応策としては、常に堆肥の販売計画と資源回収の動向を把握し、製造と販売のバランスをは
かりながら生産計画を立案することが重要になるものと思われる。そのため短期で生産計画を作
成できる体制を構築したり、柔軟に生産体制を組めるような人員計画としたりすることが必要に
なると思われる。

生産量と売価
生産量と売価を連動させて検討すべきであるビジネスモデルの場合、たとえば、設備を整備し
27
たことで養殖を安定的に行えるようになり、自社設備で稚魚を養殖し、地域の宿泊施設や飲食店
に対して、市況の養殖物に比べて「安価」で販売することを計画している場合は、現在でも当該
養殖物への需要は高いため、一定の売上は見込めるものと思われる。しかし、当初から安価で販
売すると、固定的経費をカバーできないなどで採算割れを起こすリスクを否定できない。
安価で提供することができる養殖の規模はどれぐらい必要であるか、その規模に達するのはど
のタイミングであるのか、数次にわけて売価を引き下げることが必要ではないのかといった生産
量増加と原価低減の状況をみながら、売価の設定をする必要があると思われる。

商品・製品等の品質と売上
提供する商品・製品等そのものが売上高に直結すると思われるビジネスモデルの場合、たとえ
ば、複合施設において多機能ホール等の賃貸事業を実施するという場合は、希少価値の高い商品
を提供したり、地方で開催されることが皆無であるイベントを実施したり、事業実施主体にしか
出来ないワークショップを開催したりすることを計画するものの、開催するイベントやワークシ
ョップ等に顧客が興味を示さないときは、予想どおりに人を集められず、その結果、次のイベン
ト等の出店者が現れず、計画している売上(ホール賃貸料)が確保できなくなるというリスクが
ある。
この場合、常にマーケット調査を実施したり、来客にアンケートを取ったりして、顧客のニー
ズを把握し続けるとともに、希少価値の高い商品・製品等の発掘を続けることがポイントになる
と思われる。
2.2.2
競争力に関するリスクと対応策
競争力に関するリスクも、広い意味では売上に関するリスクに含まれるものと思われるが、商
品の差別化や優位性の観点から分けて分析する。
(1)商品・製品等の差別化におけるリスク
商品・製品等がより多く顧客に受け入れられるためには、他の商品・製品等と差別化が図られ
ていたり、優位性が認められたりする必要がある。事業実施主体が他の商品・製品等と比較して
優位性があると考えているものが、顧客の視点からみて本当にそうであるのか検証する必要があ
る。

日常的な食材
28
地域の高齢者を顧客ターゲットに、地元食材を加工し販売するビジネスモデルの場合、もとも
と潜在的ニーズが大きく、需要が伸びるものだと考えられる。また、地元の農産物を活用し、地
元で加工し、地元で消費するという地元密着型に特徴がある。よって、地元顧客に受け入れられ
る製品であると思われる。しかし、同様な加工食品は他にもネット販売等で容易に入手できるた
め、地元の食材を使っている点について、顧客がどれぐらい価値をおき、購買意欲を刺激するも
のであるか不透明であり、想定しているほど販売が伸びないというリスクがある。特に、日々の
食事に関することであり、当該加工食品のみを日々食するわけではない可能性もある。
地域のみならず近隣へ販路を広げることや、飽きられないように商品開発を継続することなど
が必要になると思われる。
また、地元野菜を加工して販売するビジネスモデルの場合、消費者の立場からすると、いつで
も手軽に野菜を使うことができるうえ、賞味期限も長くなり廃棄する量も減るというメリットが
ある。忙しい現代人に受け入れられる潜在的ニーズが大きいため、一定の売上を確保できるので
はないかと思われる。しかし、野菜の加工製品は他にも存在し、消費者の立場からすると他の商
品と比較して、その良さや違いを認識できないリスクも否定できない。
地元にしかない珍しい野菜を活用する、有機野菜等自然志向の顧客に訴えるような商品化を検
討するような対応をはかることが考えられる。

市場の開催
その日の朝に獲れた新鮮な魚を低価格で販売する「市場」を開催して観光客を呼び込み、地域
経済の活性化を狙うビジネスモデルとして、たとえば、市場の土地が広く、観光バスも入りやす
いこともあり、市場と近隣の宿泊施設・飲食店等との観光メニューをセットとして売込むような
ビジネスモデルの場合、獲れたての魚を販売するという市場は、すでに全国的に存在しているた
め、観光客の立場からみると他の市場と比べて競争力があるとまではいえず、想定するほど観光
客が集まらない可能性がある。
たとえば、地域でしか獲れない魚を目玉として PR したり、観光客向けのイベントを企画したり、
検討している市場と近隣の宿泊施設・飲食店等との観光メニューの内容を充実させたり、旅行会
社に売り込みに行くことなどが必要であると思われる。
(2)商品・製品等の開発におけるリスク
当初は商品・製品等が目新しく顧客が手にとるとしても、飽きられてしまう可能性も否定でき
ない。逆に、当初は認知度が低くても提供する商品・製品等に工夫し続けることで競争優位を創
29
出できるかもしれない。

日常的な食品
たとえば、地元で精製された廃食油をエネルギーとして活用し、パン等に練り込む野菜は、地
元のフルーツなどを活用するようなビジネスモデルの場合、開始当初は、新規商品であることか
ら、その良さが受け入れられ売上が伸びるとともに、固定的な顧客を獲得できるかもしれないが、
パンの新規性や味に飽きた場合、売上が減少する可能性があると思われる。さらに狭い地域での
店舗営業をする場合は、新規の顧客を開拓することも難しいことが考えられる。
対策としては、常に新商品を開発したり、リピート顧客の囲い込み(スタンプカード、クーポ
ン等の活用)をしたり、地域の学校や施設などとコラボレーションをして企画製品を開発したり
することが考えられる。

演劇等のサービス
地域の伝統文化を取り入れた演劇等を公演する団体に対して劇場を賃貸するというビジネスモ
デルの場合、従来不定期であった公演を定期的な公演とすることで、出演者の所得確保の実現や、
劇場の周りの飲食店等を含めた地域経済の活性化につながる可能性もあるが、魅力的な公演プロ
グラムを用意し、従来とは差別化しないと観光客に飽きられるリスクが潜んでいる。
まずは、従来の公演との違いを観光客に認識してもらう必要がある。また、一定の認知度を得
たとしても、顧客を引き付け続けるためには、観光客に訴える演目を上演する団体を毎月探しだ
し、出演交渉し続けることも重要であると思われる。
(3)価格競争力におけるリスク
商品・製品等の性質や活用する資源などの問題もあり価格競争力が弱く、販売予定量を達成で
きないリスクである。

木質チップ燃料
木質チップを利用した新規ビジネスモデルの構想はいくつかの地域で検討しているものだと思
われる。仮に現在は木質チップの製造コストは、化石燃料に対して価格競争力が認められたとし
ても、他の参入者、参入燃料等で将来的に価格競争力が認められなくなるリスクが存在している。
そのようなときに備えて、地域雇用の創出、地域外への資金の流出額の縮小、地域経済循環の
創出という側面に注目し、公的部門とも連携し販路を拡大すること、顧客が、たとえばペレット
ストーブ等を購入する際には割引制度を設けることなどの対応も考え、地域全体で取り組む体制
30
を整備することが必要であると思われる。

市場参入者の存在
地元の湧水を使ってペットボトルのナチュラルミネラルウォータの製造販売をするビジネスモ
デルや、地元食品関係の加工会社から廃棄物を仕入れ、肥料や飼料を製造して販売するビジネス
モデルなど、すでに大手企業をはじめとする他の企業から大量生産の商品化がされている場合に
は、価格競争となり、大量製品と比較すると割高で販売が進まないというリスクを否定できない。
製品自身の特徴を明確にして価格競争にならないようにすることも肝心である。また、廃棄物
を利用しているような場合には、地域の環境保護の意義にも着目し、やや割高でも消費者に受け
入れられるための活動をすることも必要だと思われる。また、地方公共団体や地域各種団体のバ
ックアップをえて、PR していくこともポイントとなるものだと考えられる。

高品質商品
他の原材料より優位性が認められる特産品等の材料を用いて製品を販売する際に、価格を高め
に設定することがある。たとえば、他の製品は安価な輸入品を原材料としているところ、地元で
生産する良質の原材料を活用するところから、高価格の価格を設定したり、国内一貫生産として、
顧客ターゲットを「本物志向の人」とおき、輸入品に比べて高い価格を設定したりすることがあ
る。
たしかに付加価値がついており、高価格でも十分ニーズがあり、人気商品となるかもしれず、
高い価格であっても、十分な販売数を達成することができるとも考えられる。しかし、品質との
バランスで消費者が当該高価格を受け入れられず、輸入品等に比べて価格の点で競争力が認めら
れない可能性がある。
このような場合には、商品の優位性を顧客にアピールする営業活動が重要である。また、それ
と並行して、国内で製造することから輸入の物流コストが削減できること、為替による価格変動
がないようにヘッジすること等からコスト圧縮をはかり、売価を少しでも下げることを検討する
必要があると考えられる。
2.2.3
営業活動に関するリスクと対応策
営業活動に関するリスクも、広い意味では売上に関するリスクに含まれると思われるが、広告
宣伝等の活動の観点から分析する。
31
(1)「地域ブランド」に潜むリスク

ブランド化計画
他の地域では食することができない、地域限定の食材を活用する等で一定のブランド化を狙う
ビジネスモデルの場合、たしかに、ブランドを確立できれば販売量が安定するし、仮に高価格で
販売しても顧客の購買意欲が衰えることが少なく、ビジネスにとっては大変望ましい状況である。
しかし、地域ブランド化と一言で言っても、コンセプトがあいまいなままではブランドの確立
はできない。
まず、その事業でいうところのブランド化とは何をさすのか、どのような状態を目指すのかを
明確にする必要がある。その上で、顧客の嗜好、ニーズや市場の動向を把握し、それにみあうデ
ザインやロゴ等の開発、イベントやキャンペーンの実施、専門誌や大衆紙への広告宣伝などブラ
ンド化に向けた活動計画を策定する必要があると考えられる。

新旧ブランド
すでに浸透しているブランドを活用して、安価な新商品を販売するようなビジネスモデルの場
合、安価な新商品が従来のブランドを損なうことにもなりかねない。
マーケティング調査の情報をもとに、安価な新商品と従来の商品の位置づけやそれぞれの顧客
ターゲットをどのように棲み分けるかなど、ブランド戦略を検討しておく必要がある。
(2)営業活動に関するリスク
販売計画における根拠として、
「営業努力による達成」
、
「販売目標数値」等のみで、具体的な営
業活動の内容に乏しい場合は、販売目標を達成できないリスクが潜む。また、顧客ターゲットが
漠然としたままでは、具体的な営業活動が明確にできない。
顧客ターゲットを明確にし、その顧客ターゲットに販売情報が効率的に伝わるようにどのよう
なプロモーションを行うべきか、販路の開拓にはどのようなチャネルを活用することができるか、
どのような媒体を使った広告宣伝活用が有効であるのか等、営業戦略を立案し、具体的なアクシ
ョンプランを作成するべきであると思われる。
(3)ネット販売に関するリスク
地域の厳選素材を TV 通販、ネット通販で販売する事業をたちあげ、地域の生産者に商品をサイ
トに載せてもらい、販売された時に一定額を手数料として売上計上するビジネスモデルの場合、
32
たとえば地域出身者の団体を通じて営業活動をするなどにより、ネット販売の会員数を増やし、
品質面でも優れた食材を提供することで、リピート顧客を確保できる可能性がある。
しかし、ネット販売は多数の事業者が参入している領域であり、競合他者は少ないとはいえず、
会員数が増えない場合は、販売が低迷することで、生産者によるサイト掲載インセンティブが失
われ、情報更新が滞って、会員数が伸びないという負のスパイラルに陥るリスクがある。さらに、
サイトの存在を周知するための広告費もカバーできなくなるリスクがあると思われる。
対策としては、地域出身者に対するアンケートやネット調査会社を活用するなどして、地元の
どのようなものを欲しているか消費者ニーズを把握し、それらを商品企画に取り入れることも必
要ではないかと思われる。また、広告費をカバーする一定以上の売上を確保するための目玉商品
を企画したり、強い郷土愛の会員を獲得したり、大手ポータルサイトに効果的な広告を出したり
することが重要になると思われる。
(4)マーケティングにおけるリスク
マーケティング分野で有名な考え方に、4P(製品・サービス(Product)
、価格(Price)
、販路
(Place)
、宣伝(Promotion)の 4 つの面から検討する考え方)というものがある。

製品・サービス(Product)の観点
消費者に受け入れられない製品やサービスを企画してしまうリスクがある。たとえば、他の地
域で地ビールがヒットしている、地ビールが流行しているらしいといって、同様に地ビールを作
って販売しても必ずしもヒットするとは限らない。ヒットした地域では、入念な市場調査をした
り、製品企画をしたりしていると思われるところ、安易に商品化を計画してしまうと、計画して
いる販売数に達しないリスクがある。
地域のどのような素材を使ったどのようなものが、地域及び地域以外の人にも受け入れられる
のか、そのための売込み方をどうするか、そもそも地域の特色や文化、伝統などはどいういうも
のか等しっかり分析して商品企画をする必要がある。そのためには、地域の強みをよく知ってい
る地域の人と議論したり、地域に観光に来ている観光客やその地域に興味を持っている人を対象
にインターネットアンケートを取ったりすることも必要があると思われる。

価格(Price)の観点
従来は有効に活用されていなかった地域資源を利用して燃料を製造し、農家に販売するビジネ
スモデルの場合、販売先の農家は長期的にはランニングコストを削減できるが、初期投資が必要
となる。よって、当面の燃料に対する需要は、既に初期投資をしている農家か、比較的大規模な
33
農家に限られるものだと思われ、初期投資を含めた価格の観点から競争力が弱く、リスクがある
と考えられる。
設備の販売会社とも連携し、初期投資の額を燃料代に上乗せして、農家の支払いを平準化させ
るといった対応策を検討することも必要だと考えられる。また、当該燃料を活用することが地域
経済循環のために有効であるのであれば、地方公共団体のバックアップを得て、初期投資の導入
支援を受けられるようにする働きかけも必要ではないかと思われる。

販路(Place)の観点
どのようにして商品を顧客に届けるかという流通経路の設定や物流に関する活動、販売する場
所等を検討する必要がある。たとえば、地元果実を使ってアルコールを製造販売するビジネスモ
デルの場合、店舗販売、会員への販売、市内飲食店への販売など販路を開拓する必要があるが、
顧客の立場から付加価値を見いだせない場合等には、販路の開拓が達成できないリスクを否定で
きない。
たとえば、会員への販路拡大を目指すためには、出来るだけ安い送料で会員にアルコールを届
けることができる物流チャネルの構築をするという対応策が考えられる。さらに、より多くの会
員になってもらうべく会員限定品の製造、会員割引及び会員紹介制度のような対応策も必要では
ないかと思われる。

宣伝(Promotion)の観点
地元の自然環境と文化、技術を活かし、動植物との触れ合いを含むレジャーの提供、食肉加工
品販売を計画するビジネスモデルのようなときには、珍しいレジャーや自然と食文化との融合な
ど顧客が喜ぶサービスを準備しているものと思われるが、事業スタートに向け早急な宣伝活動計
画の作成が必要である。
誰を顧客ターゲットとするかを明らかにし、当該ターゲットに対して、他の製品やレジャーと
の違いをより効果的にアピールする内容や活用する宣伝媒体の検討なども必要だと思われる。
2.2.4
仕入に関するリスクと対応策
(1)原材料の安定確保に関するリスク

生鮮品の仕入
原材料である海産品の仕入について、漁業者との契約方式により仕入れるものとしているビジ
ネスモデルの場合、冷凍機などを活用し、一定の海産品をストックできるようにする等の対応が
34
とられており、ある程度の原材料を確保できるようにしていることから、問題は発生しないかも
しれないが、仕入先である漁業者の確保の進捗が予定ほど進まないことや生鮮品の水揚げ量は天
候等に左右されることから、仕入を安定的に確保できないリスクは否定できない。
一定以上の品質であること等の買い入れに関する契約条件は必要であるが、たとえば、すべて
の生鮮品を買取る等の好条件の契約内容とすることで仕入先である漁業者の数を増やしたり、保
存できる設備を増設したりする等の対応も検討する必要がある。
野菜を加工して販売するビジネスモデルの場合も、同様に天候等による収穫量の減少リスクが
潜んでいる。特に、野菜が在庫切れとなった場合は、収穫・出荷まで、たとえば 3~6 か月等の一
定の期間が必要となり、欠品による販売チャンスを逃すとともに、顧客の信用を失う可能性が潜
んでいる。
地域の気象や地形に応じた対応策を講じ、できるだけ地域の仕入先の多様化を検討する必要が
あると思われる。

廃棄物等の仕入
原材料となる廃材や廃棄物を確保できないのではないかというリスクも見られた。たとえば、
家庭からの廃食油を材料とする場合に、目標量を回収できないリスクがある。
地域のコミュニティと一体となって取り組むことができるように、地方公共団体のサポートを
受けたり、住民に事業の趣旨を説明し町内会等の協力体制を構築したり、インターネット等でエ
コ活動の情報発信をしたりすることが考えられる。
また、林地残材等を原材料とする燃料製造事業の場合にも、安定的に原材料を収集できないリ
スクがある。やはり、地方公共団体を調整役にして、地域の事業関係者との間で協議会を設置す
るなどの対応が必要だと思われる。
(2)仕入先が限定されるリスク
限られた仕入先でしか製造できない特殊な原材料を使って、競争優位性を維持するビジネスモ
デルの場合、仕入先との協力関係が良好で、仕入先の経営が順調であればよいが、そうではなく
なる可能性がある。つまり、仕入先と経営方針が異なったり、仕入先の経営状況が悪化したり、
生産停止になったときなどは、原材料を確保できなくなるリスクを否定できない。
また、限られた仕入先から種を仕入れ、自社で生産・収穫を行い、青果物市場の仲卸業者に販
売するビジネスモデルの場合、すでに仕入先が確保されており、順調に事業をスタートできるも
のだと思われ、特に新規事業の場合には、仕入先や販売先が確保されていることは、事業を軌道
35
に早くのせることができるため望ましいと思われるが、仕入先が 1 社に限定されていると、不測
の事態が生じた際に、事業活動を継続できなくなるリスクを否定できない。
事業化計画の段階から協力体制を構築しており、順調に事業を滑り出すことができるのだから、
わざわざ関係を悪化させる必要はないものの、他の仕入先を確保することも必要だと思われる。
その際には先の仕入先の不利益にならないように、たとえば特殊な技術があればそれにコンサ
ルティングフィーを払う等の配慮することも必要であると思われる。
(3)全買上制度の契約におけるリスク
地域の生産者との間で、生産物の全てを買入れるという契約をするビジネスモデルの場合、生
産者からすると、全部買い取ってもらえる点は大きなメリットであり、納品する契約を締結する
動機になる。事業としては安定した仕入先を確保することができる。よって、事業運営からする
と望ましい状況である。しかし、仮に品質が優れていないものが混じっていても仕入れてしまう
リスクがある。
そこで、地域の生産者との契約上、品質が優れていない生産物に関しては、仕入をしない、安
価で買い取る、というような条件を付した契約を締結することも必要であると思われる。
また、仕入リスクを全面的に事業実施主体が負うのであれば、たとえば損害保険に入っておく
のも一つのリスクヘッジとして必要ではないかと思われる。
(4)環境の変化によるリスク

人口減少・高齢化
将来的に人口減少や高齢化により仕入が確保できなくなるリスクも否定できない。たとえば、
地元の果実でアルコールを作るビジネスモデルの場合、生産農家はピークの 3 分の 1 に減少して
おり、その傾向が続くと安定した仕入ができなくなるリスクが存在する。また、村の人口が少な
く、かつ、高齢化が進んでいることから、地元の住民のみでの農作物の生産には限界があると思
われる。
地元の素材であることを特徴としている場合は、国内外の若者の労働力を受け入れたり、当該
地域への移住者を積極的に受け入れたりするという活動も必要であると思われる。いずれにして
も、地方公共団体の支援や協力が必要になると思われる。

政策の動向
休耕地を使って原材料を生産してもらい、全量買い取って飼料を製造販売するというビジネス
36
モデルの場合、新しい政策によっては地域の作付計画に変更が生じる可能性もあるため、生産・
収穫が確実とはいえない状況となっている。
事業者自身では自力で解決できないことでもあり、対応は難しいが、事前に想定できる新政策
のパターン別に、それぞれ対応策を検討しておくこと、地方公共団体等との協力のもと政策・制
度の情報を早く取得することなどが必要であると思われる。
2.2.5
生産に関するリスクと対応策
(1)品質・技術に関するリスク
自然相手の場合、あるいは、新しい製品を開発し資金の流れを創るタイプの場合などは、品質
の維持管理や技術に関するリスクが潜んでいることがある。

新型設備
地域環境に優しい新しい工法で製品を製造販売するビジネスモデルで、新しい工法に対応でき
る機械設備を導入することとなった。従来の設備は大規模であったが、新しい設備は小規模で装
置コストの低減もはかることができ、キャッシュフローの観点からも望ましいものだと思われる。
ただし、新しい工法に対応する新型の設備であるため、当初予定された性能で動かないリスクも
考えられる。
スムーズに事業を開始し、その後も事業を継続するために、予定しているパフォーマンスが発
揮できるかどうか早期に確認し、稼働後のメンテナンス計画をしっかり立てておく必要がある。

新しい技術
他の組織との協力関係のもと、地域の資源を活用して生鮮品の飼育を行い、それを販売するビ
ジネスモデルのようなときは、協力関係を解消した場合には、新しい飼育技術の開発や支援を受
けることができなくなる。体制面での課題もはらむが、飼育対象が生き物であることも重なり、
技術面でのリスクとして現出してくるものだと思われる。
自社で新しい飼育技術を開発できるのであれば、あまり大きなリスクとはならないが、そうで
はない場合には、他に飼育技術を有する組織を探し協力体制を築く必要がある。また、複数の組
織で研究会を立ち上げる、他の地域の研究所等と連携が取れるような体制を築いておくというよ
うな対応策も必要である。
37

内製化
従来、生産工程は全て外部に委託していたところ、今後は原材料の製造プロセスを自社内で行
うようなビジネスモデルの場合、ある程度の技術力があるため内製化することを決定したとも思
われ、トラブルなく製造できるとも考えられる。しかし、新規に原材料製造プロセスを開始する
為、製造に不慣れなことからくる品質に関するリスクを否定できない。
これまで委託していた組織に依頼して社員研修を実施したり、製造現場での品質管理体制の整
備、マニュアルの作成、出荷時のチェック体制の整備を検討したりすることも必要であると思わ
れる。

製造量・歩留まり
新しい技術を活用する場合や自社にとって新規の製造プロセスである場合には、コストに見合
う製造量や歩留まり(生産された製品に対する不良品でない製品の割合)を達成できないという
リスクも考えられる。また、想定している以上に失敗品・ロスが発生すると、予定しているキャ
ッシュフローを創造できなくなる。
より高い技術力を持つ組織の指導を受けたり、社員教育を実施したり、新しい技術開発の場合
にはさらなる研究開発を進める体制づくり等の対応が考えられる。

増産化計画
設備投資により増産の計画を立てているビジネスモデルの場合、比較的新しい技術が必要であ
るというわけではないため、予定している生産量を達成できるのではないかと思われる。しかし、
飼育や栽培を行うためには手間暇がかかるため、増産する分について手が回らなくなると品質上
のリスクが発生する可能性もある。
仮に 1 年で 1.5 倍程度の生産量に増やす計画であるならば、品質を落とさずに養殖や栽培を実
施できる場所や人員体制、場合によっては養殖・飼育技術の向上などを図ることが必要であると
思われる。
(2)生産計画におけるリスク

生産計画
顧客ニーズ等を調査せず生産能力から販売計画を立案している場合、逆に、販売計画はあるが、
それに対応する生産計画が精緻ではない場合と、このような場合には、生産が追い付かず、売上
の機会を逸してしまい売上目標を達成できなかったり、逆に作りすぎて在庫リスクを抱えたりす
るリスクの発生を否定できない。
38
たとえば、生産から収穫までに時間がかかる農作物を原材料とする場合や、何種類かのロット
を製造するような場合には、売上タイミング別に売上予測をたて、それに沿った生産計画を作成
しておく必要がある。そして、計画と実績に差異が発生したらその原因分析を行い、次の生産計
画に反映するという管理を継続する必要があると考えられる。

六次産業化
より生産計画が重要になるのは、農林水産物の生産だけにとどまらず、それを原材料とした加
工食品の製造・販売など、二次産業や三次産業までを実施する、六次産業化のビジネスモデルで
あると思われる。
地域の特産品である農作物を栽培・加工・販売までを展開するビジネスモデルのような場合、
いつどれぐらいの売上が見込めるのかを予測し、逆算して物流にかかる時間、製造に係る時間、
栽培期間を考えて、栽培の時期や量を決めなければならない。収穫が一時期に集中するのであれ
ば、収穫物を在庫として保存する方法や保存する場所を確保できるものか検討する必要もある。
収穫物を保管しておけないのであれば、早期に製造し、その製造物を在庫として保管する場所が
必要となる。いずれにしても、その時期にあわせた生産体制の整備や仕入も確保しなければなら
ない。このような一連の流れを考えて生産計画を立てる必要があると考えられる。
水産業の場合、たとえば地元で獲れた魚を加工して販売するビジネスモデルであれば、農作物
の栽培期間ほどの期間的考慮は必要ではないかもしれないが、自然相手の事業であるため、目標
の漁獲量に対して「ぶれ」が生じるリスクは否定できない。
そのようなリスクをヘッジするために、水揚げが多いときには冷凍保存しておく、加工品を在
庫としてストックする場所を確保する等の農産物と同様の対応策が必要である。
六次産業化をめざすビジネスモデルの場合、シーズンを問わず販売できる食品以外の製品なの
か、一定の時期に製造はするが販売はシーズンを問わず実施できるのか、一時期に製造・販売し
てしまうものなのかによって、それぞれ対応が変わるものだと思われる。いずれにしても、市場
ニーズを把握、分析して、より正確な売上予測をたて、それに応じた生産計画を作成することが
重要になってくると思われる。
(3)食品の製造に伴うリスク
昨今の食の安全・安心への意識が高まるなか、食品を商品・製品等として販売する事業につい
39
ては、異物混入や農薬残骸、食中毒等に対するリスクを完全に否定することはできない。
既に対応を検討されているとは思うが、従業員やパートに対する衛生に関する研修とその実践、
職場でのチェック体制などを整える必要がある。
(4)自然や環境に関するリスク
自然災害等により、農作物の被害が出たり、養殖場が破壊されたりして生産活動が阻害される
リスクも否定できない。また、たとえば、その地域の自然環境によってもたらされる美味しい水
や美味しい野菜、果物等についても、その地域の自然環境の変化により採取できなくなるリスク
を否定することはできない。
対応が難しいリスクではあるが、天候等については事前に情報を入手し対応策を講じたり、自
然環境の変化については長期的な傾向から判断し、地方公共団体はじめ地域全体で連携をはかり、
対応策を講じることが必要であると考えられる。
2.2.6
経営管理や体制に関するリスクと対応策
(1)事業計画・事業の管理におけるリスク

事業計画
事業計画をしっかり検討していない場合は、不測の事態に陥るリスクが大きくなる。たとえば
市場で海産物を販売する場合、実施体制として、各漁業者が場所を賃借して販売するのか、いっ
たん仕入れる形態をとるのか、また、市場の開催頻度などをよく確認する必要がある。事業コン
セプトのすばらしさだけでなく、当然のことながら事業計画の明確化が必要である。

事業の収支計画
新規事業と既存事業の収支計画を区分しないと、通常、新規事業のリスクは高いと思われとこ
ろ、その収支構造や将来キャッシュフローが明確になっていない場合には、事業が順調であるか
否かの把握が難しくなり、対応が遅れるリスクを否定できない。
同様に、新しく設備を導入し、需要に応じて供給を拡大する場合も、既存の事業の収支計画と
新規に設備投資をした収支計画を区分しないと、設備投資の効果を把握できず、正確な業績指標
を得られない結果、新規事業が既存事業に悪影響を及ぼしていても把握できないリスクもある。
事業実施主体が既存の事業を行っている場合、新規事業と既存事業を別に収支計画をたて、そ
40
れに対応する実績管理をする必要がある。明確に分けられない共通経費があるとは思われるが、
何等かの基準で配賦する等の方法により、実績を正確に把握する必要があると思われる。
また、既存事業と新規事業との間で「内部取引」が生じうる場合がある。外部報告の財務諸表
では把握できない取引についても、正確な業績指標を得るためには、管理会計上での把握が別途
必要となる。
創造したキャッシュフローの実績を把握し、事業の採算性を判断するためには、内部取引を反
映した管理会計上の損益管理を行える体制を備えておく必要がある。経理を含む管理部門の強化
のために、たとえば、地元出身者で金融機関を定年退職したような人材を活用することも考えら
れる。
(2)人員計画におけるリスク
生産体制として十分な人員が確保できていない場合、製造・販売がストップするリスクがある。
キャッシュフロー創造の観点からは、人件費を切り詰めることは必要なことではあるが、地元雇
用創出効果の点からはより多くの雇用を創出することが重要である。そして、何より生産や販売
活動が停止してしまうことは事業にとって大きなリスクである。病気や事故等の際にも営業が可
能な体制を整える必要がある。
(3)人材育成におけるリスク
事業計画として、研修や人材育成の観点から、教育を軽んじると、食品事故をはじめとするト
ラブルが発生するリスクが考えられる。たしかに簡単な作業であり特別な教育は不要であると思
われる事業もあるし、従来から農作物生産等に携わっておられる生産者を雇用するため新たな研
修は不要であるとも考えられる。
たとえば、食品事故を防ぎ、新しい技術や品質を維持する観点からも、教育や研修を計画する
必要があると思われる。その際には、特別な集合形式の研修や教育ではなくても、OJT(On the Job
Training)を含め、朝の簡単なミーティング(朝礼)で注意喚起する等の方法で、人材育成をす
ることが必要であると思われる。
(4)協力関係・連携におけるリスク
地域の他の組織と協力関係を築くことは、「産学金官地域ラウンドテーブル」が進める、地域の
41
関係者の連携協力により、事業をより効果的に推進できるため望ましいことである。ただし、経
営方針の違い等で協力関係を解消する場合のリスクが潜んでいる。
特に、事業にとって要となる技術の共同開発をしていたり、当該協力組織の販売網を活用して
営業展開を図る計画を作成したりしているときは、協力関係解消は、大きなリスクとなる。たと
えば、協力関係を解消することで、想定していた生産性を確保できず原価が高くなり、販売価格
に転嫁せざるをえず、価格競争力が落ちたり、予定していた品質を確保できなくなり製品の優位
性が失われてしまったりすることも考えられる。
新しい提携先を探すことや、自社で対応できないか検討することが必要であるし、状況によっ
ては実態にあわせて事業計画を見直すことも必要である。そして、事業における協力関係の解消
が、地域経済循環創造事業の成否に影響を与えないよう、産学金官地域ラウンドテーブルの、よ
り一層の協力体制の強化が重要であり、そのためには地方公共団体が調整役としての機能を果た
していくことがポイントとなる。
2.2.7
資金の観点からのリスクと対応策
(1)キャッシュフローの算出に関するリスク

経費の把握
他の既存事業を実施しているときに、新規事業に必要な経費等がすべて計上されていないと、
キャッシュフローが過大になり、計画しているキャッシュフローを創造できないリスクを抱える。
たとえば、販売単価のコスト積み上げ計算には含めている水道光熱費が、収支計画の費用には計
上されていない、一部外部委託をする加工品の売上高を収入として計上しているが、委託費は計
上されていないなどである。
事業の収支構造を把握し、適切な事業運営をするためには、事業に係る費用をすべて把握した
うえでキャッシュフローを算出する必要がある。そして、事業開始後には計画と実績を比較分析
し、余分な費用や過大な費用を削減する等の活動につなげていく必要がある。

雇用の創出
他の既存事業を実施しているときに、生産は新規雇用にて体制を整備するが、管理や営業は既
存の職員が担当するという場合、管理的な業務について組織体全体をまとめて実施することがで
きるのであれば、そのほうが合理的であるし、事業のキャッシュフロー創造にもつながるもので
望ましいと思われるが、当該職員が既存の業務を抱えつつ、どれぐらい関与できるのか等につい
て明確ではなく、管理や営業業務について、想定していた以上に工数が必要となった場合、それ
42
らの業務が滞ってしまうリスクがある。
事前に管理や営業の業務内容を洗い出し、必要な工数を検討し、具体的にどの職員に担当して
もらえるのか、その職員が実際に担当可能な業務量であるか否かなどを検討しておく必要がある
と思われる。
(2)初期投資に関連するリスク
初期投資の計画にずれが発生することにより事業運営に影響を及ぼすこともある。

初期投資期間の延長
工期が延び、販売開始が遅れるため、資金繰りが厳しくなるという資金面でのリスクにつなが
る可能性がある。
工期が延びた原因は多様であると思われるし、大雨等の自然災害による場合などの対応策は難
しいとは思われるが、遅延の原因を追究し、工事業者はじめ、地域の連携関係者との協力のもと
対応策を講じ、少しでも工期を短縮する必要がある。

初期投資額の上振れ
初期投資額が膨らむ場合もある。たとえば土砂崩れの発生や天候不良などによる追加工事の発
生、震災復興の影響による資材・人件費の高騰などにより、初期投資の額が膨らむおそれがある。
自己資金で負担できればよいが、そうでなければ地域金融機関の融資額を増額してもらわなけれ
ばならなくなる。仮に融資の増額ができたとしても、返済額が大きくなるし、融資条件が厳しく
なることも考えられる。そうすると事業運営のための資金を圧迫することになる。
確実に回避できる対応策が立てられるとは限らないとは思われるが、たとえば、地形等の関係
で自然災害等事前にわかるものであれば保険を付したり、施工会社との契約条項を見直したりと
いう対応が考えられる。
(3)資金繰りに関連するリスク

融資返済
何らかの不測の事態が生じた時に、地域金融機関への返済が難しくなる。地域金融機関からの
融資はプロジェクトファイナンスの位置づけであるところ、少しの事業計画の「ブレ」により、
事業のキャッシュフローからの返済が難しくなるというリスクは否定できない。
収支計画のキャッシュフローには一定のバッファを持たせる必要があると思われる。不測の事
43
態に備えて返済期間を長くする等、条件の見直しを交渉したりすることも必要だと思われる。
なお、返済期間が長期化することになれば、コンサルティング機能を担う地域金融機関の関与
が期間も長期にわたることになり、より事業の安定化に寄与することにもつながるものだと思わ
れる。

交付金・補助金
収支計画で、未定である交付金や補助金を計上している場合、交付先が決定する見込みがあれ
ばよいが、そうでない場合は、計画している額のキャッシュフローを創造できない可能性がある。
また、未定で計上されている金額は仮の計画でしかなく、経営の指標として役に立たず、事業運
営を誤るリスクがある。
地方公共団体と連携し補助金や交付金を受領できるように活動するとともに、より実態に即し
た収支計画を作る必要があると思われる。つまり、収入にはある程度確実なもののみを計上し、
見込みが薄い収入は計上しないようにするべきである。
44
2.3
先行事例の紹介
地域経済循環創造事業交付金の交付決定を受けた、先行事例のうち、以下の事業について、そ
の概要を紹介する。また、地方公共団体により作成された事業紹介について、簡単なアドバイス
を記載している。
NO
1
2
3
団体
北海道
北海道芦別市
北海道江別市
4
5
6
青森県青森市
宮城県登米市
群馬県桐生市
7
8
9
千葉県大多喜町
新潟県三条市
石川県輪島市
10
三重県多気町
11
12
13
兵庫県たつの市
奈良県
島根県出雲市
14
山口県萩市
15
16
徳島県
愛媛県
17
18
19
愛媛県宇和島市
佐賀県江北町
熊本県
20
熊本県八代市
事業名
エゾシカ製品オリジナルブランド化推進事業
チップ製造事業
江別市地域経済循環創造事業~豊富な資源で「麦の里えべつ」を活性
化~
ナマコ加工廃棄物を活用した地域経済活性化
飼料自給率向上プロジェクト
低速電動コミュニティバスと桐生市の地域資源を融合させた「環境観
光」の事業展開及び該当バスの活用拡大による地域製造業の活力向上
推進事業
椎茸菌床栽培確立事業
地域木質バイオマス循環利活用事業
輪島門前地区でブドウの栽培からワインの製造販売まで行う6次産業
化モデル事業
高校生と町と企業が協働する地域資源利活用製品の創出プロジェクト
地域循環型醤油粕飼料化肥料化事業
短期育苗技術導入による効率的生薬生産流通拠点づくり事業
島根県産天然フェリエライトを用いたCO2 濃縮装置の製造施設整備
事業
萩産ごまを中心とした萩の農産品ならびに萩の搾油技術を活用した油
製品販売事業
「阿波尾鶏」を活用した畜産と農業の地域資源循環の創造
魚骨の軟化技術を用いた高付加価値水産商品における加工設備整備事
業
古建築再生による賑わい事業創造拠点づくり
空き店舗再生による地域経済循環創造事業
県民総ぐるみでのBDF燃料普及による熊本県経済・エネルギー循環
創造事業
クマモトオイスター再発見事業
45
1 北海道
エゾシカ製品オリジナルブランド化推進事業
事 業 実 施 主 体 の 名 称 エゾシカ食肉事業協同組合
連携する地域金融機関 北海道銀行
交付金の額 (千円)
40,280
融資金額 (千円)
10,000
① ビジネスモデル
■エゾシカ食肉販売事業
・捕獲したエゾシカの食肉をオリジナル商品として札幌市内の直営店舗及び Web 店舗で販売する。
■エゾシカ観光牧場事業
・一時飼養施設に駐車場と休憩施設等を整備し、エゾシカ観光牧場として活用する。
② マーケットニーズ
■エゾシカ食肉販売事業
・エゾシカの捕獲数は平成 24 年度には 14 万頭超と過去最高の捕獲数。エゾシカ肉もここ数年の
消費 PR の結果、着実に販路を拡大し食肉としての処理量も 2 年間で 1.5 倍になった。
・
「エゾシカ肉はどこで購入できるのか」
「実際に物を確認して購入したい」という消費者のニー
ズを確認した。
■エゾシカ観光牧場事業
・一時飼養施設は、立地条件が近隣の観光地との中継点にあること、野生動物であるエゾシカが
多頭数飼育されている状況は他で見ることができない。
③ 商品・サービスの特徴
・生息数を減少させるために捕獲したエゾシカを活用
・生体で捕獲し食肉利用するまでの間、一時的に飼養しているエゾシカを観光資源化
・原材料の安定確保を目的に効率的な囲いワナの開発とそれを用いた捕獲を実施
・組合製品を独自ブランド化
・一時飼養施設に駐車場や情報発信機能を付与し、地域の新たな観光スポットとして活用
④ 販売先・ターゲット顧客
■エゾシカ食肉販売事業
・道内においては札幌市内を中心とした一般消費者及び飲食店関係者
・Web 店舗では全国の消費者
■エゾシカ観光牧場事業
・斜里町、釧路市(阿寒地区)
、豊富町を通過もしくは滞在する観光客
⑤ 生産体制
・食肉としての加工は、組合員各社で実施し直営店へ納品
⑥ 雇用計画
・直営店での商品管理等で 1 名雇用。営業職員を 1 名、組合事務局に 1 名のパート雇用も予定
・製品の均一化を図るため解体処理技術の研修を実施予定
46
⑦ 事業戦略
・全国的にもジビエ(狩猟肉)に対する注目も集まってきており、「旬を有する食材」
「稀少性」
「地域性」を武器に、積極的・戦略的な販売を実施
・道が策定したエゾシカ衛生処理マニュアルを遵守した施設で解体処理したエゾシカ肉を提供
・エゾシカ食肉事業協同組合が作成した統一ロゴマーク入り包材を使用
・消費者が利用しやすい内容量やカット形状とすること
・新聞やテレビ取材、HP を活用した広告宣伝
・試食による販売促進活動
・レシピカードの配布による用途の提案
・社会貢献に意識の高い消費者の満足度向上
⑧ 地域にもたらす効果
・通年又は正社員としての雇用機会の増加
・地域所得の増加
・地域特有の新たな観光施設として、誘客が可能
・一時飼養施設には処理事業者の施設を改修し、休憩・販売スペースを観光客が利用することで、
地域への経済波及効果も期待
・エゾシカ肉を消費することで、捕獲意欲の維持向上に貢献
・道内の森林や生態系の維持に寄与
⑨ 地域の産学金官の取り組み
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・原材料の安定確保に関するリスク:囲いワナによる生体の状態で捕獲したエゾシカを出荷調整
用として一時養鹿することによりリスク低減を図る。
■今後のフォロー体制
・道庁エゾシカ対策課に加え、民間コンサルティング会社との共同により、経営及び企画につい
てフォローを実施する。
・道庁エゾシカ対策課と相談のうえ事業の進行管理を行う。
事業に対するアドバイス
・地域の課題解決(エゾシカ被害縮小)と地域資源活用(エゾシカ食肉化推進と観光資源化)を
同時に達成するビジネスモデルであり、計画通り実現すれば地域経済循環の好例である。
・どのような戦略でウェブショップへのアクセス数を増やすのか、組合オリジナルブランドの付
加価値を高めるためにどのような戦略をとるのか等について、整備した直営店舗を消費者のニ
ーズを直接つかむ場所としても最大限に活用し、新たな商品開発やブランド戦略を明確にした
事業展開が望まれる。
47
2 北海道芦別市
チップ製造事業
事 業 実 施 主 体 の 名 称 芦別木質バイオマス開発協同組合
連携する地域金融機関 北洋銀行
交付金の額 (千円)
33,000
融資金額 (千円)
30,000
① ビジネスモデル
・本事業により整備した施設・機械を活用し、地域内の未利用森林資源(林地残材等)を原材料
として木質チップ製造し、芦別市が所有する公共施設「芦別市健民センター」の指定管理者で
ある「株式会社芦別振興公社」に販売する。
② マーケットニーズ
・販売先「株式会社芦別振興公社」のニーズは確認済
③ 商品・サービスの特徴
・森林施業における間伐や皆伐において山中に捨てられていた林地残材を地域資源として活用。
・地域資源収集・チップの製造過程で雇用創出
・芦別市の公共施設の燃料として納入(販売)するため他社との競合はなく安定した販売
④ 販売先・ターゲット顧客
・製造したチップの販売先は「株式会社芦別振興公社」
・将来的には新たな供給先の確保
⑤ 生産体制
・本事業で整備した自走式破砕機を使用し、収集した林地残材等を破砕し、木質チップを製造す
る。
・チップの製造は、事業実施主体の構成員が 2 名程度で行う。
・チップの製造に関してのノウハウは、事業実施主体の構成員が有している。
・今後1年程度の販売に必要な原材料については、既に確保済み。
・その後の安定確保のための手段として、芦別市木質バイオマス利用推進協議会(構成団体:国
有林、道有林、関係機関)を平成 25 年 4 月に設立し、定期的に情報交換を行っている。
・事業用地についても貸借契約を締結し、確保済み。
⑥ 雇用計画
・本事業の実施主体の管理部門の業務を行うための 1 名雇用の予定である。
・チップの製造に関しては、事業実施主体の構成員がこれまでも行っている。
48
⑦ 事業戦略
・販売先の木質チップボイラの稼働が安定するよう、形状、含水率を可能な限り一定にする。
・管理コストを含めたコストを考慮して売上価格を設定する。
・ボイラーの燃料が化石燃料(A 重油)からチップに変わることにより、大幅な二酸化炭素排出
量の削減が図られる。
・化石燃料の高騰によるランニングコスト増加を回避できる。
⑧ 地域にもたらす効果
・雇用の創出が見込まれる。
・地域内の未利用森林資源を有効に活用できる。
・今まで化石燃料の使用量として産油国に流出していた資金が地域内で循環する。
・二酸化炭素排出量の大幅な削減が図られ、環境に配慮した施設としてチップボイラを導入する
温泉施設のイメージアップにも繋がる。
⑨ 地域の産学金官の取り組み
【産】芦別木質バイオマス
開発協同組合(木質チップ製造)
原材料の収集
木質チップの供給
森林資源の有効活
用、地域内経済循
環
【学】シンクタンク
ノウハウの提供、アドバイスなど
【金】北洋銀行芦別支店
ファイナンス、事業性審査等
【官】芦別市
事業調整、国・道有林との連携等
連携
地域支援協議会
森林関係者等による情報共有
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・原材料の安定確保リスク:木質バイオマスの利用を促進する芦別市として、事業実施主体の原
材料の安定的な確保に向けて関係機関と連携し支援する。
・売上先拡大上のリスク:芦別市は、地域内の未利用資源である林地残材等の有効活用を図るた
め、既存公共施設ボイラーの木質バイオマスボイラーへの更新を積極的に検討する。
■今後のフォロー体制
・原材料の確保状況を芦別市に対して月次で報告するほか、販売状況についても四半期ごとに芦
別市及び連携金融機関に報告する。
・チップの製造に係る課題等が発生した場合は、逐次芦別市と連携をとって課題解決にあたる。
事業に対するアドバイス
・事業継続に不可欠な原材料の安定確保体制の構築について、芦別市の主導の下、芦別市木質バ
イオマス利用推進協議会を設置するなど、木質バイオマス利用を推進している芦別市が強い支
援を行っている。今後もより一層の連携が望まれる。
49
3 北海道江別市
江別市地域経済循環創造事業~豊富な資源で「麦の里えべつ」を活性化
事 業 実 施 主 体 の 名 称 江別製粉株式会社
連携する地域金融機関 北洋銀行
交付金の額 (千円)
45,000
融資金額 (千円)
45,000
① ビジネスモデル
■冷却装置を設置した貯蔵施設
複数年単位で小麦を貯蔵・管理することで、不作の年の供給はもとより、収穫直後の品質(風
味・食味等)を維持したまま、小麦を常時安定して供給する。
■研修室(貯蔵施設に併設)
地域の人材を活用しパッケージデザイン、食味試験、機能性研究、マーケティング等、ブラン
ド化へのサポートを提供する。
② マーケットニーズ
・江別産小麦は、希少性が高く、食味・風味の良さからニーズがますます高まっている。
・ハルユタカの独特の旨みと食感を有し、全国に根強いファンがおり高いブランド力がある。
③ 商品・サービスの特徴
■通風冷却装置を設置した貯蔵施設
複数年単位で小麦を貯蔵・管理することで、不作の年の供給はもとより収穫直後の品質(風味・
食味等)を維持したまま、小麦を常時安定して供給する。
■研修室(貯蔵施設に併設)
地域の人材を活用し、商品開発からマーケティングまでのあらゆるノウハウを集積し、地域の
加工業者はもちろんのこと、起業者や六次産業化に取り組む農業者までをも対象に、製パン・
製菓の加工技術の研修はもとより、パッケージデザイン、食味試験、機能性研究、マーケティ
ング等、ブランド化へのサポートを提供する。
④ 販売先・ターゲット顧客
■冷却装置を設置した貯蔵施設
・地域の加工業者が顧客の中心、小麦の安定供給が担保されることにより、新たな需要も期待
■研修室(貯蔵施設に併設)
・地域の加工業者、起業者や六次産業化に取り組む農業者
⑤ 生産体制
■冷却装置を設置した貯蔵施設
・設備としてはフォークリフト 1 台。人員は、入出庫作業員として 2 名配置
■研修室(貯蔵施設に併設)
・設備は、オーブン、ミキサー、ドゥコンディショナー、製麺機。人員は 3 名配置
⑥ 雇用計画
・研修室における技術講習会やセミナーにおいて、市内在住のパンコーディネーターや広告代理
店の北海道支社、道内外の有名シェフに非常勤講師を依頼
・市外の道内外からのお客様を招いた技術講習会やセミナーでは、コーディネートできる人材が
必要
50
⑦ 事業戦略
・その年の気象の影響を受ける年産間の品質のブレを最小限に抑えて、美味しさとブランドに加
えて安定品質と安定供給を同時に達成する。
・備蓄原料をバッファとして活用して、価格高騰時の顧客負担の緩和を期待できる。
・施設のパンフレット、Web サイト等を活用する。
・北海道の食の資源をお客様に橋渡しし、他の製粉会社ではなし得ないサービスを提供する。
・お客様の抱える問題解決のお手伝いができる製粉会社として他製粉会社との差別化を図る。
・
「江別麦の会」や「江別経済ネットワーク」といった、農商工連携、産学官金連携のネットワー
クを最大限活用して事業を展開していく。
⑧ 地域にもたらす効果
・小麦の安定供給を通した産学官連携による地域活性化
・
「ハルユタカ」
、「麦の里えべつ」の地域ブランド展開の進展
・地域を支える専門家の育成、地域の人材の活躍の場が広がり、雇用創出効果
・グリーンツーリズム等の取組との相乗効果で、観光客の増加
・小麦への負荷を軽減した品質向上の研究にも取り組むことが可能
⑨ 地域の産学金官の取り組み
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・天候リスク:本事業で貯蔵施設を設置する事により、複数年単位で小麦を管理する体制を構築
し天候リスク軽減を図る。
「初冬まき栽培」(春まき小麦を根雪前の初冬(11 月)に種を播く)
技術の研究・確立によりリスクの低減を図る。
■今後のフォロー体制
・市は農商工連携・産学官連携を推進し「麦の里えべつ」のブランド推進の後押しをしていく。
・地域金融機関は、当該事業のキャッシュフローの状況等を適切にフォローしながら事業者に継
続的な支援を実施する。
事業に対するアドバイス
・既にブランド力を有しているハルユタカ等の国産小麦ブランド力の強化につながるよう、研修
室でのセミナーや江別麦の会等の地域の連携ネットワークを積極的に活用した事業展開が望ま
れる。
51
4 青森県青森市
ナマコ加工廃棄物を活用した地域経済活性化
事 業 実 施 主 体 の 名 称 株式会社 大豊
連携する地域金融機関 ㈱青森銀行
交付金の額 (千円)
50,000
融資金額 (千円)
25,000
① ビジネスモデル
・事業実施主体が実施している水産加工事業において生ずるナマコの煮汁及び内臓の廃棄物から、
抗真菌活性等の性質を有するサポニンを含んだホロトキシンを抽出し販売する。
■機能性成分自体の販売:繊維メーカー、化粧品メーカー、健康食品メーカー等
■機能性成分を活用した自社製品の製造・販売
・将来的には、カロテノイドの抽出・販売も見込んでいる。
② マーケットニーズ
・繊維業界における聞取調査などから抗真菌活性成分を活用した繊維に対するニーズがあると判
断している。
・石けんの市場規模は 2,225 億円(2011 年)
、化粧品では 2 兆 2,710 億円(2011 年)と大きな市
場規模を有している。
・カロテノイドの販売を想定する健康食品・特定保健用食品市場規模は、それぞれ 1 兆 1,800 億
円(2010 年)
、5,175 億円である。
③ 商品・サービスの特徴
・弘前大学が開発した機能性成分の抽出・精製技術を利用
・全国有数のナマコ産地である青森地域で排出されるナマコの煮汁や内臓等の廃棄物を利用した
安価な供給体制
・事業実施主体及び地域の新規雇用の促進
・既存市場には高価な乾燥ナマコを原料としているもののみ存在していることから、価格優位性
あり
・製品の宣伝が大学の研究成果の PR 効果
④ 販売先・ターゲット顧客
・機能性成分の販売:石けんメーカー、化粧品メーカー、繊維メーカー、健康食品メーカー等
・石けんなどの自社開発商品:自社(インターネット含む)で販売するほか事業実施主体の既存
の販売ルートを利用した市内土産品店等を想定
⑤ 生産体制
・交付金を元にして整備を行う機能性成分の抽出・精製施設において製造を行う。
・製造技術については、弘前大学から協力が得られることとなっている。
・原材料は事業実施主体から排出されるナマコの煮汁及び内臓であり、当面想定している生産量
については確保できる体制となっているが、生産量が増加した場合においては、県内の水産加
工会社からの調達が可能である。
⑥ 雇用計画
・生産が軌道に乗った後は、抽出・精製に従事する職員を 4 名程度雇用予定
52
⑦ 事業戦略
・廃棄物利用による低コスト生産による価格優位性をアピール
・低コスト生産が実現した場合には、多岐にわたる分野へと想定市場を広げることが可能で新た
な市場を創造することが可能
・価格優位性をサポートする生産体制構築のために弘前大学からの協力を予定
・機能性成分自体の販売自体の競合少
・自社開発商品については、パッケージデザインや広告宣伝方法等で市が実施している専門家に
よるコーディネート事業等を活用
⑧ 地域にもたらす効果
・青森市が取り組んできたナマコの生産振興や弘前大学へのナマコの機能性研究業務委託等の成
果を活用した域外資金の獲得
・事業実施主体が取り組んできたナマコの加工廃棄物からの機能性成分抽出技術の開発成果を利
用した域外資金の獲得
・将来的には地域の企業へも機能性成分の活用法を提案し、美容・健康等をテーマとする商品づ
くりを促すことで更なる域外資金の獲得、域内における資金循環等による企業の収益性向上や
雇用の増大化へ展開
⑨ 地域の産学金官の取り組み
地元連携企業
(環境工学㈱)
(舟守製作所)
(テフコ青森㈱)
青森市
( コーディネート)
販売先確保
量産化技術
機能性成分の
効用等に関す
る情報
経営計画の
妥当性評価
事業実施主体
(㈱大豊)
弘前大学
機能性成分の
抽出・精製に
関する情報
㈱青森銀行
資金調達
原料の調達
(煮汁・内臓)
施設整備・機能性成分抽出及び販売
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・生産コスト低減リスク:弘前大学及び地元の連携企業とともに課題の解決を図る。
・販路確保上のリスク:販路多様化に向けて具体的協議を行っている。
■今後のフォロー体制
コーディネーターである青森市は、概ね半期ごとに生産・販売状況、財務状況、課題について
の報告を受け、関係者間の調整を図る。
事業に対するアドバイス
・製品の価格優位性を強調できるか否かが今後の事業展開の鍵であり、低コスト生産体制の早期
構築が不可欠である。
・地域の連携体制が事業の成功にとって特に重要であると考えられることから、低コスト化の目
標や期限を明確に設定し、現状との比較を行うとともに、産学金官の役割を明確化してより一
層のフォロー体制の強化が望まれる。
53
5 宮城県登米市
飼料自給率向上プロジェクト
事 業 実 施 主 体 の 名 称 千葉忠畜産株式会社
連携する地域金融機関 仙台銀行
交付金の額 (千円)
37,160
融資金額 (千円)
20,000
① ビジネスモデル
・登米圏域で地域経済循環型の農業を進めるため、飼料・堆肥を地域の休耕田等を利用し生産
② マーケットニーズ
・畜産家や農家等の低コスト飼料等の調達ニーズ
③ 商品・サービスの特徴
・生産した飼料や堆肥を必要とする畜産家、地域農家に販売
・飼料(米・トウモロコシ)の生産:国産ブランド牛に相応しい肉質を生み出す飼料
・堆肥の生産:電気代など維持費が安く、エコ仕様な堆肥
④ 販売先・ターゲット顧客
・地域の農家等
⑤ 生産体制
・飼料生産:米・トウモロコシを破砕加工、ミキサーで消化性や加水など独自ノウハウを加味
・堆肥生産:牛舎からのふん尿と地域のおがこを混合し、導入を計画している垂直攪拌機で高温
発酵を促進
⑥ 雇用計画
・直接雇用計画:3 名(管理者 1 名。堆肥・飼料の生産 2 名。
)
・確保手段は紹介
・当社の理念に共有する積極的な人財を採用
⑦ 事業戦略
・自社生産による良質な飼料・堆肥
・地域経済が循環するよう購入しやすい価格で提供
・飼料の自給(生産)率向上と堆肥の循環(生産)をセット
・特に肥育用トウモロコシの飼料化は東北初
・六次産業化のための肉質コントロールに効果的
・地域畜産家の飼料生産作業の受託等も視野
54
⑧ 地域にもたらす効果
・年間全量買取り契約の締結による地域の農家の安定
・減反による休耕田の有効利用
・飼料米やトウモロコシを作付けする農家の田畑に、堆肥舎で出来上がった堆肥を提供すること
で地力が回復
⑨ 地域の産学金官の取り組み
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・原材料の安定確保リスク:既存事業からの牛糞等を利用することでリスクを低減
■今後のフォロー体制
・登米市としても新しいビジネスモデルであり、主要な地域ブランド創出として首都圏へも名前
が知れ渡るよう継続的な支援を行う。
・事業実施主体内に設置される運営事務局(経営会議)において、定期的に産・学・金・官で情
報を共有する。
・地域金融機関は、継続的経営指導を実施する。
事業に対するアドバイス
・事業実施主体の既存事業である畜産業から排出される牛糞等を、次の育牛のための飼料として
循環させること及び休耕田を有効に活用し飼料米を生産することで、地域外に流出していた飼
料等購入代金が地域内で循環することとなる発想は他の事業の参考になるものだと思われる。
・飼料米を生産する休耕田は、現在、確定していないが、早期に休耕田を確保し、東北初の肥育
用トウモロコシ等栽培と飼料化を実現し、地域経済循環創造型の事業遂行が望まれる。
55
6 群馬県桐生市
低速電動コミュニティバスと桐生市の地域資源を融合させた「環境観光」
の事業展開及び当該バスの活用拡大による地域製造業の活力向上促進事業
事 業 実 施 主 体 の 名 称 株式会社桐生再生
連携する地域金融機関 群馬銀行
交付金の額 (千円)
50,000
融資金額 (千円)
20,000
① ビジネスモデル
・環境に優しい低速電動コミュニティバス(以下、
「電動バス」という)を購入
・電動バスを地方公共団体にレンタルするレンタル事業
・電動バスを利用した観光客に対するガイド事業
・観光客の増加、地元産業の活性化を長期目標にし、環境観光というコンセプトで遂行
② マーケットニーズ
・桐生市は、本町 1・2 丁目地区が、
「重要伝統的建造物群保存地区」に認定されたことも追い風
となり、着実に観光客が増加傾向
・全国の地方公共団体において環境問題に関する取組が進んでおり、
「環境負荷軽減に寄与するバ
ス」としての PR 効果の高い電動バスは注目度が高く、レンタル活用や新規導入等を希望する地
方公共団体も増加
③ 商品・サービスの特徴
・ものづくり技術が集積する桐生市製造業の技術力と、群馬大学理工学部の英知を結集
・電動バスの製造に関しては、地域製造業約 30 社が関与
・電動バスの修繕、メンテナンス等に関しては、地場のタクシー会社や製造業による企業連携に
て対応
④ 販売先・ターゲット顧客
・観光目的で桐生市に訪れる観光客
・電動バスの活用や新規導入を希望する地方公共団体
⑤ 生産体制
・電動バスの製造においては、自動車部品大手の㈱ミツバが主要部品を提供
・観光ガイド事業では、地域の飲食店が地域食材を活用した付加価値の高い食事を提供
・商店街等では付加価値の高い繊維製品等の地元産品を提供
⑥ 雇用計画
・車両の運転及びガイド役として 2 名、事務員として 1 名
⑦ 事業戦略
・レンタルは、原則 5 万円/日、購入の場合は約 1,200 万円/台
・地元地方公共団体である桐生市は、4 台のバスの内 2 台を優先的に借用し、まちづくり全般で
活用
・多くの新聞、TV で取り上げてくれており、広告宣伝効果を創出
・観光雑誌や旅行社とタイアップしながら、電動バスの PR
・白ナンバー規格の 10 人乗りバスで、低速で走り、
「環境にも、人にも優しい」というコンセプ
トのコミュニティバスは、競合相手の存在なし
56
⑧ 地域にもたらす効果
・複数台の低速電動バスと桐生市の様々な地域資源が融合し、「環境観光」というべき新たな観光
事業の本格化に伴い、桐生市の観光的価値は高まり、観光誘客に繋がる。
・交流人口の増加に伴い、地域の飲食店や商店街等に波及効果が産まれるほか、新たな雇用拡大
に繋がり、地域経済の循環が創造される。
・電動バスの利用・販路拡大により、製造に関与する地域製造業等にも波及効果が産まれる。
⑨ 地域の産学金官の取り組み
バス製造協力
沼田屋
タクシー
㈱シンク・トゥ
ギャザー
バス保
守協力
バス製
造依頼
バス納
品・修理
協力等
地域企業
(約30社)
バス運
行委託
桐生市
群馬銀行
融資等
群馬大学
㈱桐生再生
市内での
バス運行
バスレンタル・
販売促進等
データ
解析等
新たな観光
案内ツアー
を提供
群馬大学次世代
EV研究会
北関東産官学研究会
バス利活用の
促進等
桐生市を訪れる観光客等
他地域の自治体、テーマパーク等
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・事業実施主体の経営安定化:桐生市が 2 台を優先的に借用
■今後のフォロー体制
・群馬大学理工学部や NPO 法人北関東産官学研究会等から、これまでの実証実験で培ってきたノ
ウハウ等を提供しながら、バスの効果的な走行ルートの検討や解析等で協力を受けている。
・群馬銀行に対して、定期的に経営状況等の報告を行い、必要に応じて指導やサポートを受けて
いる。
事業に対するアドバイス
・新規事業であるため、販路確保を第一に考えるべきであると思われる。そのため、地方公共団
体への販売に捉われず、他の販路を開拓することや、レンタル契約をスポット契約ではなく継
続的契約とするような仕組みを構築すること等が有効ではないかと思われる。
・環境に日本人の関心が集まっている中、「環境観光」というコンセプトを導き出し、そのコンセ
プトから具体的な施策を導き出している点は、他の案件でも見習うべきものがあると思われる。
57
7 千葉県大多喜町
椎茸菌床栽培確立事業
事 業 実 施 主 体 の 名 称 平林物産株式会社
連携する地域金融機関 千葉銀行
交付金の額 (千円)
28,000
融資金額 (千円)
10,000
① ビジネスモデル
・一次培養椎茸菌床を仕入
・自社で二次培養・収穫
・青果物市場の仲卸業者に販売
② マーケットニーズ
・全国の年間椎茸消費量 66,500 トン(うち原木椎茸 8,500 トン、菌床椎茸 58,000 トン)
・東京都中央市場入荷量(2013 年 1 月~11 月)国内産 5,871 トン
・東京シティー青果取扱目標量 100 トン
・東京築地市場では、地元産の椎茸が少ないため、地元産地のものを探している。
③ 商品・サービスの特徴
・将来的には菌床の一次培養や地元の椎茸原木の調達により安価な菌床の生産も行なう。
・室内栽培(空調管理)のため気候に左右されないため年間を通して安定した栽培が可能である。
・原木栽培しいたけの香りの強さに比べ、香りが少ない。
・東京築地市場で取り扱う椎茸については、地元産と言える東京周辺の産地ものがないため、千
葉県産となれば地元産として販売して行くことができる。
④ 販売先・ターゲット顧客
・株式会社大多喜食品工房
・量販店等への開拓により産直販売先も検討
⑤ 生産体制
・一次培養済菌床のハウス内への搬入
・発生棟ハウス内での栽培管理
・作業棟ハウス内での包装
⑥ 雇用計画
・生産部門において新規臨時雇用を 2 名
58
⑦ 事業戦略
・地元では一般的な原木栽培ではなく菌床栽培を行う。
・広告宣伝、販促ツール等については、全て大多喜食品工房株式会社が担当する。
・地場産品として、安全安心、千葉産品の千葉県内消費とする。
⑧ 地域にもたらす効果
・生産者拡大による椎茸栽培の産地化、地域内雇用の創出及び椎茸を使った郷土料理(里山膳)
への食材供給等による地域活性化
・都会からの移住者を受入れ農業の担い手の育成及び人口増加
⑨ 地域の産学金官の取り組み
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・菌床の調達によるコスト増リスク:事業実施主体による菌床の培養
■今後のフォロー体制
・事業実施主体、専門事業者、金融機関、地方公共団体において四半期毎に打合せ会議を実施
事業に対するアドバイス
・魅力ある菌床栽培事業のシステム作りを行うことにより、地域住人の満足度を上げるだけでな
く、地域外からの転入者を増やし、町を活性化させようとする長期的視点は、見習うべき点で
あると思われる。
・仕入先も販売先も 1 社に限定されているため、不測の事態が生じた際に、事業活動が行えなく
なるリスクがある。そのため、実際にはすぐに取引には至らなくとも、代替業者の調査をして
おく必要があるのではないかと思われる。
59
8 新潟県三条市
地域木質バイオマス循環利活用事業
事 業 実 施 主 体 の 名 称 株式会社 WPPC
連携する地域金融機関 第四銀行
交付金の額 (千円)
30,000
融資金額 (千円)
30,000
① ビジネスモデル
・木質ペレット及び薪の製造販売
・ペレットストーブ及び薪ストーブの販売
② マーケットニーズ
・再生可能エネルギーに対する関心の高まりを受け、公共施設や一般家庭へのボイラーやストー
ブの導入が進んでいることもあり、木質ペレットの生産量は増加
・国内の木質ペレット生産量は平成 23 年には約 7.8 万トン、前年比 2 万トン増
・木質ペレット輸入量は平成 24 年には 7.2 万トン
③ 商品・サービスの特徴
・今まで廃棄、もしくは未利用だった間伐材や林地残材といった木質資源を活用
・障害者施設の利用者に製造作業の一部を担ってもらい、雇用創出
・新潟県内における木質ペレット燃料の製造会社は 7 社であるが大口顧客優先
・一般家庭や公共施設のストーブ向けの袋売りなど、他社が取り込み切れていない小ロットの顧
客をターゲット
・移動式プラントの有効性についても実証の実施
④ 販売先・ターゲット顧客
・公共のペレットストーブ・ボイラーの設置施設
・近隣の温泉施設や一般のペレットストーブユーザー
⑤ 生産体制
・木質ペレット製造 指導員 1 名、利用者 3 名、プラント管理者 1 名。
・薪製造:ペレット製造要員が兼任
⑥ 雇用計画
・5 名を予定
60
⑦ 事業戦略
・エネルギーの地産地消という視点からトレーサビリティの明確化に取り組む。
・製品価格については、生産原価を割ることなく、近隣製造施設の販売価格との均衡を図り、価
格競争・値崩れなどしないように調整する。
・パッケージデザインとして、当社イメージカラーを使用する。
・木質ペレット推進協議会が取り組んでいる J クレジット制度を活用したカーボンオフセットに
ついても紹介する。
⑧ 地域にもたらす効果
・間伐等の山林整備が促進され、里山保全につながる。
・間伐材の買取額を見直すことで、森林組合や山林所有者の採算性が向上する。
・間伐が行われることで、森林組合等の作業員の雇用安定が実現する。
⑨ 地域の産学金官の取り組み
事業の実施体制図
山林所有者
間伐の拡大
による
里山保全
金融機関
市内販売業者
市内ペレットボイラー・ス
トーブ所有者等への販売
返済
借入
森林組合
木質バイオマスの
地産地消
事業主体
(燃料化施設)
土木業者等
市
公共施設
・交付金で設備投資
・借入金で原料調達
・売上金で運営、借入
金返済
ペレットボイラー・ストーブ
による消費
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・継続的な原材料調達リスク:林道が未整備の山林から間伐・搬出できる体制の整備
■今後のフォロー体制
・ペレットの需要、供給量について注視した中で、自治体、事業者等が情報の共有を密にし、連
携を図る。
事業に対するアドバイス
・需要が供給を上回っている市場に参入するだけでなく、大口顧客の対応に追われている既存業
者が取りこぼしている小口顧客をターゲットにする、という戦略を明確に定めていることは他
の事業に大変参考になる点だと思われる。
・同業他社に対して、競争関係だけではなく、販売製品不足時に連絡を受けられるような相互補
完関係を築く仕組み作りや、ストーブ販売店に対し、顧客紹介料を支払い、顧客を紹介しても
らうような施策も参考になるのではないかと思われる。
61
9 石川県輪島市
輪島門前地区でブドウの栽培からワインの製造販売まで行う
6次産業化モデル事業
事 業 実 施 主 体 の 名 称 株式会社ハイディワイナリー
連携する地域金融機関 北國銀行
交付金の額 (千円)
47,400
融資金額 (千円)
40,000
① ビジネスモデル
・ワインの製造販売
・原料のブドウは地元農家から購入
・六次産業のモデル事業化
② マーケットニーズ
・市場規模は大きく見ると「ワイン愛好家全般」
・輪島市は年間 100 万人を超える方は訪れる観光都
・北陸新幹線の金沢開業により、交流人口の拡大が期待
③ 商品・サービスの特徴
・ワイナリーの立地場所は元海底であったことからミネラル分を多く含み、ワイン用ブドウの栽
培に非常に適した土壌
・他の地域と比較しての特徴は、日本で初めて世界農業遺産に認定された石川県能登の「里山里
海」の「土地・畑」で製造される事
④ 販売先・ターゲット顧客
・ワイナリー事業に関わることによって金銭等の現物的利益を得る方々ではなく、サッカーや野
球の観戦者のように感情的な満足感を得る方々
・30 代~60 代の女性を想定
⑤ 生産体制
・ブドウ調達について、ブドウの苗木栽培を複数の地元農家に依頼
・栽培を依頼する農家に対しては、ワイン用ブドウ栽培の研修会をしっかり実施し、台風、風雪
などによる対策に万全を期し、ブドウの調達先を確保
⑥ 雇用計画
・最終的には 10 人の雇用を予定
⑦ 事業戦略
・1本 3,000 円程度であり、
「世界農業遺産」の認定を受けた豊かな自然で作られたワインとして、
安すぎず、また高額すぎず、求めやすい適正な価格設定
・ワイナリー見学ツアーも予定しており、単にブドウ畑・ワイン醸造所を見学するだけではなく、
地元の飲食店・旅館等の宿泊施設と協力し、ワインを味わって頂き、顧客拡大を進める予定
・輪島市は輪島塗、輪島朝市などを有する観光都市であり、全国的にもある程度の知名度を有し
ているため、輪島のネームバリューを十分に活用
62
⑧ 地域にもたらす効果
・
「輪島塗」の若手漆器職人と連携して、輪島塗ワイングラスなどの新商品開発にも取り組むこと
により、漆器産業の振興に繋がることはもちろんのこと、「観光都市としての輪島」、「輪島塗」
という知名度を高めることにも繋がる。
⑨ 地域の産学金官の取り組み
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・商品化の不定期リスク:扱うブドウ品種を調整
■今後のフォロー体制
・地元金融機関が融資を始め全面的に協力
事業に対するアドバイス
・地元で全てが完結する、六次産業化のコンセプトどおり、地域農家や地域飲食店、長期的には
伝統工芸とのコラボレーションも図り、地域で資金を循環させる計画を立てている点において、
六次産業化を検討する団体のヒントになる点があるのではないかと思われる。
・売上構成比率で一番大きいのは会員販売であると思われる。そこで、会員を増やすために、会
員限定品の企画、会員割引や会員紹介制度のような様々な施策を検討することが必要であると
考えられる。
63
10 三重県多気町
高校生と町と企業が協働する地域資源利活用製品の創出プロジェクト
事 業 実 施 主 体 の 名 称 万協製薬株式会社
連携する地域金融機関 百五銀行
交付金の額 (千円)
50,000
融資金額 (千円)
30,000
① ビジネスモデル
・地域の活性化を目的とした県内特産物を利活用したスキンケア製品を商品化している。
・この地に同じく立地する三重県立相可高校の生産経済課の学生たちと平成 22 年度から「まごコ
スメプロジェクト」と呼ばれる地域産品を原料とするスキンケア化粧品の開発、製造を共同し
て行っている。
・今回より本格的な高機能スキンケア製品及び高機能食品を開発するために、万協製薬の多気工
場内に新たな製造プラントを新設して、新製品を創出する。
② マーケットニーズ
・県立相可高等学校生産経済学科の生徒が中心となって運営している特定非営利活動法人である
「植える美 ing」と協働した、地元産品を使った「まごころ」ブランドのスキンケア商品の開
発・販売は、2010 年 4 月からスタート
・
「まごころ tea ハンドジェル」や「ゆず香るまごころ honey クリーム」など、毎年新製品を発売
しながらこれまで 5 商品を手がけ、2012 年 3 月までの累積販売額は 2,495 万円
③ 商品・サービスの特徴
・
「まごコスメプロジェクト」と呼ばれる地域産品を原料とするスキンケア化粧品
・より本格的な高機能スキンケア製品及び高機能食品を開発するために、万協製薬の多気工場内
に新たな製造プラントを新設して、新製品の創出
④ 販売先・ターゲット顧客
・高校生はもとより、高校生がこの製品を使って欲しいと願う人達
・孫がいる世代、子供がいる世代、応援したい、自分の住む地域を盛り上げたいと願う人達
・スキンケア製品ということで、いつまでも綺麗でありたいと願う女性中心ではあるが、近年は
男性もスキンケアを考える傾向があることから、男性も使いたくなる訴求点を検討中
⑤ 生産体制
・地域で新たに 2 名の雇用を計画中であり、4 月より入社予定
⑥ 雇用計画
・地域高校や大学卒業生及びハローワークを通じて募集
⑦ 事業戦略
・現在計画中
64
⑧ 地域にもたらす効果
・経済的な効果はもとより、高校生の成長と企業の気づき、学生と大人の誠意あふれる協働の実
践が、多気町に夢と活気を与えており、そのストーリーに感動した取引先企業へと協働の輪が
発展するなど、その取組が大きく拡がりつつある。
・取り組んでいる高校生の成長により、地域を支える人材を育成する事が地域を活性化に繋がる。
・交付対象事業の実施により、この取組をさらに活性化することができ、工場の稼働率があがり、
万協製薬において、数名の新規雇用が見込まれる。
・開発した化粧品を地域はもとより、全国でも販売することで、原料を生産している農家の所得
増も見込まれる。
・地域においても、教育実習施設である高校生レストラン「まごの店」での販売を行う事で、観
光客の増加、地域経済の活性化も期待できる。
⑨ 地域の産学金官の取り組み
・
三重県、多気町
みえライフイノベーション総合特区
地域社会の活性化と
未来へと発展させる
人財の成長!
笑顔と元気の創造
三重大学
鈴鹿医療科学大学
相可高校
地域を発展させる人財の輩出
百五銀行
新規事業への融資
万協製薬
新製品の創出と地域人材の雇用
植える美ing
高校生による特定非営利活動法人
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・常に新製品を出し続ける必要がある事が課題である。なぜなら、高校生を中心として新製品を
開発し世に送り出すということが、本事業の根幹に存在するからである。
・常に成長を続けない事業は、地域を活性化し、人財を育てるどころか、本来の意義を有しない
取り組みと化してしまう。よって弊社では、毎年新製品を送り出すことを目標にしている。
■今後のフォロー体制
・製品化と市場の動向を踏まえた、次製品化の検討は万協製薬が主として行う。
事業に対するアドバイス
・地域活性化に対する想いは十分あると思われる。そこで、今後は、市場分析の数値化や 4P 分析
などを行い、営業活動に支障がないようにすることが必要があると考えられる。また、人材の
育成計画を作成し、将来的な事業継続に向けた計画作成が望まれる。
65
11 兵庫県たつの市
地域循環型醤油粕飼料化堆肥化事業
事 業 実 施 主 体 の 名 称 株式会社 高田商店
連携する地域金融機関 姫路信用金庫
交付金の額 (千円)
50,000
融資金額 (千円)
50,000
① ビジネスモデル
■肥料事業
・生醤油粕を地元醤油会社から購入→乾燥醤油肥料を製造→地元小麦・大豆生産農家等へ販売
■飼料事業
・生醤油粕を地元醤油会社から購入→再発酵させ飼料を製造→畜産農家、飼料会社へ販売
② マーケットニーズ
■肥料事業
・JA 兵庫西管内 小麦栽培面積 83,330a(1,666t/年間)
、その他全農、JA 兵庫西への販売
■飼料事業
・570t/年間 地元畜産農家、飼料メーカーとの契約
③ 商品・サービスの特徴
・地元醤油メーカーから排出される製造副産物である、生醤油粕、発酵技術・ノウハウの提供、
地元産小麦・大豆の契約栽培農産物での醤油製造
・生醤油粕→乾燥等処理(発酵処理)→乾燥醤油粕肥料(発酵飼料)→地域の小麦・大豆ほ場へ
散布(畜産農家へ供給)→小麦・大豆収穫→醤油メーカー生醤油粕という循環型農業の構築
④ 販売先・ターゲット顧客
■肥料事業
・既に試験・実験等をお願いしている地元営農組織、大規模農家、また協力機関としての JA 等
■飼料事業
・酪農家及び飼料メーカー
⑤ 生産体制
・地元醤油メーカーから生醤油粕を調達し、それぞれ乾燥、再発酵処理の後、ペレット状にする
等加工し、顧客へ販売
・雇用については、4 名を予定しており、肥料、飼料それぞれ 2 名配置予定
⑥ 雇用計画
・製造、管理部門でできる限り地元地域での雇用を検討(4 名)
⑦ 事業戦略
・原材料が製造副産物(廃棄物)のため、安価に設定できる。
・販売場所については、自社店舗の他、ネット販売等を検討している。
・短期間での供給を実施する。
・乾燥施設および発酵施設の整備により、コスト削減につながる。
⑧ 地域にもたらす効果
・地域循環型農業の構築により地元産業、地域農業の発展、また地域の雇用にも効果
66
⑨ 地域の産学金官の取り組み
地域循環型醤油粕飼料化肥料化事業の流れ
㈱高田 商店
醤油粕
醤油粕事業
乾燥醤油粕
ヒガシマル醤油
醤油粕供給、発酵技術・ノウハ
ウの提供、契約栽培農産物で
の醤油製造
全農、JA兵庫西、地元集
落営農8団体、大型農家
等
大豆・小麦
兵庫県素麺組合
醤油粕肥料の散布、契約小麦
小麦
契約栽培農産物での素麺製
醤油粕
ペレット
乾燥醤油粕
発酵飼料
明治飼糧
地域畜産農家、牧場
(エコフィードとして使用)
(飼料仕入が安価になり、収益改善)
連携
融資
報告
<地域金融機関の融資>
姫路信用金庫 龍野支店
5000万円の融資を相談
調整
<大学の協力>
神戸大学大学院農学研究課
長谷川教授の協力
性能評価・ノウハウ提供
<県・市との連携>
たつの市産業部農林水産課
兵庫県立農林水産技術総合センタ-
龍野農業改良普及センター
県と市が一緒になって、地域事業として事業実施主体企業と緊密
に連絡を取りながら検討・協議を行う。
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・醤油醸造量の増減により、原料となる製造副産物の安定的な確保が困難になる可能性がある。
この点、他産地からの醤油粕調達も視野に検討するとともに、製品販売先の多様化も推進する。
・醤油製造副産物が持つ特性(臭気、ハンドリングの難しさ)による周辺環境への負荷。この点、
脱臭装置等公害防止設備を導入し、製品の形状・包装にも配慮する。
■今後のフォロー体制
・地元醤油メーカー、市、農業改良普及センター、技術センター、JA 等と生産者も含めた体制で
原材料生産から醤油粕肥料・飼料の生産・販売までを支援する。
事業に対するアドバイス
・醤油粕を使うことで原材料を安価に調達できる点は消費者に向けたアピールポイントである。
しかし、それ以外に、商品自体について消費者に向けて差別化できる特徴を検討し、アピール
するとさらに望ましいと思われる。
67
12 奈良県
短期育苗技術導入による効率的生薬生産流通拠点づくり事業
事 業 実 施 主 体 の 名 称 株式会社パンドラファームグループ
連携する地域金融機関 南都銀行
交付金の額 (千円)
50,000
融資金額 (千円)
17,700
① ビジネスモデル
・耐候性ハウスを用いて苗床の温度管理を行うことで、播種からの育苗期間が短縮され、さらに
抽苔率の低減を実現し、効率的かつ品質の良いヤマトトウキの栽培技術を確立した。
・従来のヤマトトウキの栽培期間は、播種から育苗、定植、収穫まで 2 年の歳月を要していたが、
1 年 3 カ月に短縮。新たな育苗技術を活用した苗生産拠点を整備することで、安定的に優良苗
量産し、生薬生産量を拡大する。
・加工工程から乾燥を一元化することで、生産者は栽培を行い生産物を拠点へ納品するだけとし
負担の軽減を図る。
・県内各地の生産者で量産されたトウキは個別の生産者では一定の品質基準を満たした一次加工
(湯もみ)やランクごとの選別に対応しにくいため、加工工程・乾燥工程を一元化し一定した
品質管理を行う。
② マーケットニーズ
・医薬品の中でも漢方薬全体として成長を続け、化粧品、医薬部外品、医療用医薬品、医薬品な
ど生薬配合製品が信頼性を得ている。
・漢方薬の中心的原料である輸入生薬が近年高騰しており、国内では危機感を強めている。その
状況の中で、国産生薬への需要は高まっている。
・大手スーパーのお薬売り場に、新たに漢方調剤コーナーが設置されたり、百貨店の中に高級感
のある漢方薬を配合する店舗が展開され薬としてだけではなく「癒し」の商材としての位置づ
けとなっている。このように、生薬を取り巻く市場は拡大しており、より品質が高く安心でき
る国産生薬は、今後さらに需要が高まることと思われる。
③ 商品・サービスの特徴
・大和トウキの根は、県が進める漢方専門家の養成とタイアップすることで、より高い治療効果
を期待できる煎じ薬の使用拡大を図る。
・大和トウキの葉は、県が進める薬効研究(体を温める等)とタイアップすることで、新たな商
品開発(化粧品、茶、パスタなど)を図るとともに、新たな食材としての流通も模索する。
④ 販売先・ターゲット顧客
・トウキの根は、漢方薬局や漢方医の漢方専門家をターゲットにする。
・今後、漢方薬のエビデンスの確立が図られることで医療現場での更なる使用拡大を目指す。
・良質なものを安定供給できる生産体制を整備し、欧米、中東、中国の富裕層への輸出も想定で
きるところである。
・トウキの葉は、健康志向の消費者や、特に女性をターゲットにする。自らの販売ルート(ネッ
ト販売等)へ流すほか、販売力のバイヤー(コンビニ等店舗販売)と提携することで販売拡大
を目指す。
⑤ 生産体制
・栽培人材 2~5 名 加工人材 3 名(季節雇用含む)営業 1 名
68
⑥ 雇用計画
・営業人材は漢方・生薬に関わるため、薬関連の知見を持つ、または興味を持つ者が望ましい。
・製造に関しても、生薬加工のノウハウと管理知識を持つことが必要である。
・管理人材に関して、栽培目標、加工計画、地域への推進活動等を行いうる構想力が必要である。
⑦ 事業戦略
・大和トウキという、奈良の地域性をブランド化した商品に展開し、適した販路に販売すること
で、現状の中国産トウキ、北海道産トウキと差別化され、高価格での販売が期待される。
・奈良の宗教イメージとともに神秘性と希少性を強調したプロモーションおよび観光プロモーシ
ョンを行う。寺・飲食・宿泊施設などともコラボレーションを図る。
⑧ 地域にもたらす効果
・同時に食品販売・酒の販売など商品開発を行いながら、観光地におけるここだけが楽しめる薬
膳カフェやハーブスポットなどを寺や宿泊施設とも連携して展開をする。
・奈良の魅力と生薬の栽培を拡大させ、農業生産者の収益の拡大に貢献する。
⑨ 地域の産学金官の取り組み
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・医薬品卸業界に新規参入する場合の障壁が考えられる。この点は、品目により六次産業化と農
工商連携を組み合わせ、あるいは使い分けて解決策を模索する。
・製薬会社との取引の中で、輸入原料と比較され買取価格が低く抑えられることも予測される。
この点は六次産業化、良質を評価してくれる販売ルート(漢方薬局、海外展開等)を模索する。
■今後のフォロー体制
・奈良県、五條市により情報提供や広報・PR、栽培技術指導面でフォローを行う予定である。
事業に対するアドバイス
・漢方薬、生薬関連市場は拡大傾向で、今後も需要は高まると予想されており、販路を開拓でき
れば、地元特産品の生産拡大と地域活性化に貢献できるものだと思われる。
・中国産低価格品が高いシェアを占めており、また、医薬品卸業界への新規参入障壁は高いため、
価格競争力をしのぐ差別化要素を検討しておく必要があると思われる。
69
13 島根県出雲市
島根県産天然フェリエライトを用いた CO2 濃縮装置の製造施設整備事業
事 業 実 施 主 体 の 名 称 大福工業株式会社
連携する地域金融機関 島根中央信用金庫
交付金の額 (千円)
50,000
融資金額 (千円)
30,000
① ビジネスモデル
・CO2 濃縮装置の吸着剤の原料として天然フェリエライト(ゼオライト)の原石を自社で採掘し、
当該事業にて設置した CO2 吸着剤製造工場に於いて、粉砕加工及び CO2 濃縮装置のカートリッ
ジへの充填を行う。
・CO2 濃縮装置の本体機器自体は他県のメーカーで製造し、CO2 濃縮装置及び吸着剤を充填したカ
ートリッジとともに、JA を中心とした農業団体を通じて、ビニールハウス農家や植物工場など
に販売する。
② マーケットニーズ
・ヨーロッパなど諸外国と比較すると、日本では二酸化炭素施用を活用した農業が浸透していな
いため、CO2 濃縮装置販売については、市場規模拡大の余地が大きい。
・今後、農業分野は TPP を踏まえ、採算性の効率化や事業規模の拡大を視野に事業展開する必要
性がある事から、当該製品の市場ニーズは大きいものと思料される。
③ 商品・サービスの特徴
・当該製品は空気中の二酸化炭素を濃縮し、植物の葉元に直接施用をするので夏期にハウスを開
放しても施用することができるため、従来品に比べて四季を通じて年中施用できる。
・当該製品は電気が動力源であるため、常に安定して稼働することができ経費も安価に抑えるこ
とが出来る。
④ 販売先・ターゲット顧客
・主に農業事業者(イチゴ・トマト等の果実生産者、バラ等の花木生産者等)が対象となるもの
と想定されるが、国内農家の大部分が各地域の JA に依存している事を勘案し、当該製品の販売
先は、島根県内の JA を基点とし、全国の JA を中心に販売実施する。
⑤ 生産体制
・原石採取については、島根県の採石業の許可が必要であり管理者としての社員教育及び新規雇
用を 1 名程度、製造工場については自動化されているが人力は必要であり、新規雇用を 1 名程
度、製品販売について JA を基点とし、各都道府県に販売店を設置し、地域ごとにサービスエン
ジニアを雇用する。
⑥ 雇用計画
・当該製品メンテナンスに関するサービスエンジニアについての新規雇用を行う。
・今後は事業の拡大に伴い、新規雇用が必要となると予想している。
70
⑦ 事業戦略
・当該製品は化石燃料を利用しないことから、農家の経営が燃料市場価格の影響を受けにくくな
り、100V電源を利用することから経費(ランニングコスト)は安価で安定している。
・製品内部は国内で調達出来る部品にて構成されているため、メンテナンスも容易で、アフター
サービスや購入者フォローに問題はない。
・価格は、現在普及している CO2 発生装置と比較し、燃料費や諸経費を含めて長期的に安くなる
ように設定した。
・当該製品の販路としては、全国が対象と考えており、本製品 1 台で広い範囲をカバーできるた
め、主に大規模農家および農業法人が顧客層として予想される。
・従来品と異なり、販売する期間は年間を通じて行うことが出来る。
⑧ 地域にもたらす効果
・天然フェリエライトは、1980 年に県内で発見されるも現在に至るまで有効活用されていなかっ
た。当該事業により、島根県産天然ゼオライト(フェリエライト)を活用することができ、島
根県産素材として全国にアピールする事ができる。
・当該事業は、採掘から販売まで出雲市を中心とした地域内で実施するため、雇用の拡大や鉱物
輸送による流通事業者への経済波及効果は大きい。
⑨ 地域の産学金官の取り組み
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・リスクは販売先確保:販売先を確保するために製品の知名度向上および販売単価圧縮があげら
れる。開発から間がなく製品知名度が高くないため、展示会等への積極的な参加を行っていく。
また、ビジネスマッチングや商工団体のネットワーク支援等を活用し、より低価格で当該製品
の製造を請け負う外注先を確保することにより、単価圧縮を図っていく。
■今後のフォロー体制
・当該製品の販路開拓や部品製造のための外注先確保を念頭に、当該事業者と農業分野の事業者
との繋がりを市や県が行っていく。
・市が事業所の訪問や事業者との面談を通じて定期的にモニタリングを実施していく。
事業に対するアドバイス
・製品に競争力があると考えられるので、それを活かして販売先の確保が急務であると思われる。
できるだけ定量的な効果をアピールし、引続き全国の販売拠点から情報発信を行っていく必要
があると思われる。
・ターゲットとしている、比較的規模の大きい農家は、既に普及品を購入している可能性があり、
多額の初期投資を避けたいと考える可能性がある。そこで、地域金融機関と連携するなどし、
顧客の初期投資の負担を軽減させる支払方法などを提案できると効果的ではないかと考える。
また、引続き試供品の提供等も活発に行い、実際に利用してもらう機会を増やすことがポイン
トとなると思われる。
71
14 山口県萩市
萩産ごまを中心とした萩の農産品ならびに萩の搾油技術を活用した
製品販売事業
事 業 実 施 主 体 の 名 称 有限会社 中村商店
連携する地域金融機関 山口銀行
交付金の額 (千円)
25,177
融資金額 (千円)
12,000
① ビジネスモデル
・地元農家からゴマを購入し、主に萩産ゴマ油を製造・販売する。
・搾油は、地元の機械製造業者が開発した機械を利用して行う。
② マーケットニーズ
・ゴマの国産自給率が 1%以下であり、地域で一貫生産した国内産のゴマ油は希少価値である。
・食の安全の観点から国内産が求められている。
③ 商品・サービスの特徴
・地元萩市の農家でゴマを生産し、地元企業が開発した機械で搾油する地域一貫生産
・無添加ゴマ油
・国内生産による安全性
・ギフト商品としての利用に適したパッケージ
④ 販売先・ターゲット顧客
・本物志向、健康志向の一般顧客
・贈答、お中元及びお歳暮を必要とする顧客及びデパートで買い物をする顧客層
・上記の顧客をターゲットとして、地元の物産店、東京のアンテナショップ、デパートへの販売
・ネット経由での一般消費者への販売
⑤ 生産体制
・ゴマの栽培は契約農家に依頼して実施
・契約農家の確保と、彼らの生産量の確保が重要
・当初は、製造は 2〜3 名体制、販売 1~2 名体制で自社にて実施
⑥ 雇用計画
・販売部門 1 名、農業、製造部門で常勤とパートタイムを組み合わせて 2 名程度(1 名雇用と、
のべ 250 日勤務)
・地元で雇用して育成する方針
⑦ 事業戦略
・ゴマの生産からゴマ油製品の製造まで一貫して地元で行う事による安全性の確保と現在の国内
自給率 1%以下という市場における希少性が商品の最大の魅力
・価格は国内他社製品と同レンジにあるが、海外産に比べると高価
72
⑧ 地域にもたらす効果
・希少性の高いゴマの生産からゴマ油の製造までを地域内で行う体制をつくることで地域の名産
として売出すことが可能となり、地域の活性化につながる。
・離島でゴマを栽培する農家が増えることで仕事が増え、新規雇用につながる
⑨ 地域の産学金官の取り組み
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・ゴマは農産物であるため気象条件によって生産量が影響を受けるため、不作の場合であっても
十分に対応できように、契約農家を増やす事、直接生産でカバーする等の体制が必要となる。
■今後のフォロー体制
・地元金融機関によるビジネスマッチングや地域ブランドとして行政からの情報提供などを受け
ていく。
・月次決算を行い、四半期ごとに金融機関に報告を行う。
事業に対するアドバイス
・国内自給率が低く稀少性が高いため、輸入品に比べて高価格での販売が可能となる反面、消費
者に割高と感じられるリスクがある。デパートや物産店との連携を強めて消費者の価格などに
対する動向をできるだけタイムリーに入手し、柔軟に対応する体制を作ることが望ましいと考
える。
・食の安全の意識が高まっているとはいえ、事件が起こらなければ安全性への意識も薄れがちに
なる。絶えず本製品に関する安全性について情報発信していくことが必要であると考える。た
とえば、ゴマを生産した実在の農家の情報を合わせて紹介するなどが考えられる。
・農作物であることから、天候等によって原材料の供給が間に合わなくなるリスクがある。契約
農家を増やすなどの対応のほか、商品開発によって賞味期限を伸ばす等の工夫をしたり、一定
の在庫保有によるリスクヘッジをしたりすることも検討に値するのではないかと考えられる。
73
15 徳島県
「阿波尾鶏」を活用した畜産と農業の地域資源循環の創造
事 業 実 施 主 体 の 名 称 オンダン農業協同組合
連携する地域金融機関 阿波銀行
交付金の額 (千円)
50,000
融資金額 (千円)
65,000
① ビジネスモデル
■「かいふエコ肥料」
「かいふエコ農産物」(新規事業分)
・阿波尾鶏のみの鶏糞及び従来廃棄してきた阿波尾鶏の加工残渣を利用した有機肥料の販売
・
「かいふエコ肥料」を使い栽培した、栄養価や機能性にこだわった安全・安心な野菜や米の販売
■阿波尾鶏(既存事業拡充分)
・従前から販売していた阿波尾鶏につき、鶏舎 8 棟分を新設による増産及び販売
② マーケットニーズ
・安全、安心な食料が求められており、有機栽培による野菜や米についての需要が高まっている。
③ 商品・サービスの特徴
・
「阿波尾鶏」のみの鶏糞や「阿波尾鶏」の加工残渣を利用した「かいふエコ肥料」
・
「かいふエコ肥料」を使い栽培した野菜や米
④ 販売先・ターゲット顧客
・ターゲット顧客は安全・安心な農産物を求めている消費者
・販売先は、徳島県の主要な農産物の出荷先である関西の市場、および京浜市場
⑤ 生産体制
■かいふエコ肥料」
「かいふエコ農産物」
(新規事業分)
・かいふエコ肥料」の製造: 堆肥処理施設において、10 名程度で肥料生産
・
「かいふエコ肥料」を活用した農産物生産: 海部郡の農業者組織した農業法人等による「かい
ふエコ農産物」を行う
■阿波尾鶏(既存事業拡充分)
・かいふ型エコ鶏舎(8 棟)において、新規雇用者2名で対応。
⑥ 雇用計画
■阿波尾鶏(既存事業拡充分)
・新規雇用 2 名
⑦ 事業戦略
・日本一の出羽量を誇る「阿波尾鶏」だが、その鶏糞の処理などが問題になってきており、今回
鶏糞を肥料として有効に活用することで、より低価格での農作物の生産に寄与する。
・
「阿波尾鶏」ブランドと恵まれた自然の中で生産される野菜であることから、安心・安全のイメ
ージを前面に打ち出すことが可能である。
・鶏舎を増設することで、より阿波尾鶏の生産性を向上させ価格競争力を高め、商品価値を安定
させる。
74
⑧ 地域にもたらす効果
・地域の名産である「阿波尾鶏」ブランドと、その排出物を最大限利用する事で、安価での安全・
安心な野菜の生産、販売につなげることで、農家の所得向上に寄与する。
・阿波尾鶏の生産性向上を通じてより魅力的な商品とすることでブランド力を向上させ、その向
上したブランド力を野菜販売にも生かしていくことで、地域経済が活発になる。
⑨ 地域の産学金官の取り組み
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
・初期投資事業が完了後、事業実施主体及び金融機関との連携体制を密にしつつ、進捗状況の確
認を実施する。事業上の課題やリスクが生じた場合は、徳島県の関係機関である農林水産部と
南部総合県民局ですみやかに改善支援を行う。
事業に対するアドバイス
・生産量日本一を誇る地域のブランドである「阿波尾鶏」のブランド力を最大限に生かした事業
であり、増産することによるキャッシュフローの増加は、ある程度高い精度で見込めるのでは
ないかと思われる。しかし、
「かいふエコ農産物」については、まだ緒についたばかりであり、
今後地域関係機関を巻き込んでの地域における取組強化が必要になると考えられる。
75
16 愛媛県
魚骨の軟化技術を用いた高付加価値水産商品における加工設備整備事
事 業 実 施 主 体 の 名 称 株式会社キシモト
連携する地域金融機関 愛媛信用金庫
交付金の額 (千円)
45,000
融資金額 (千円)
20,000
① ビジネスモデル
・㈱キシモトが協力体制にあるトロール漁船を運営する㈲昭和水産から本県近海の魚を購入し、
県産業技術研究所等と共同開発した高温高圧処理による魚骨の軟化技術を用いて、骨まで食べ
られる水産加工品を製造する。
・製造した水産加工品の小売りに加え、学校給食、高齢者施設、病院に向けて販売する。
② マーケットニーズ
・塩干品(干物)の市場規模は、生産量約 22 万 7 千t(H21 農林水産統計)、生産額約 3,400 億円の
市場規模を有する。
・冷凍食品を除き他の水産加工品が減少傾向にある中で、塩干品は若干増加しており、訴求力の
ある商品開発によっては潜在的ニーズがあるものと考えられる。
・高温高圧処理した骨まで食べられる干物と尾頭付で魚姿のまま骨まで食べられる魚商品を開
発・販売し、
「ムダがない」
「調理・味付け済み」
「調理の際に臭いがない」等の要求に応えるこ
とができる。
③ 商品・サービスの特徴
・高温高圧処理した骨まで食べられる干物と尾頭付で魚姿のまま骨まで食べられる魚という特徴
がある。
・骨まで食べられるためムダがなく、調理・味付け済みであり、主婦や単身者の「扱うのが嫌、
調理が面倒」という不満から解放される。
④ 販売先・ターゲット顧客
・県内:大手スーパーマーケット、生協、介護施設、食材配達サービス業者、温泉旅館等
・県外:東京都・神奈川県内自然食品の店、生協(北海道)等
・海外:長期保存が可能なため、東南アジアを中心に輸出を検討
⑤ 生産体制
・現在骨の軟化加工を行う高温高圧処理設備がなく外部委託しているため、自社一貫生産体制と
すべく当事業により整備中である。
⑥ 雇用計画
・自社一貫整備生産体制について整備完了後、生産能力が飛躍的に拡大することから、年 3 名程
度ずつ増員を行い、3 年後には 10 名程度の雇用を予定している。
⑦ 事業戦略
・既存取引先である県内外生協やスーパー、食材宅配サービス、インターネット通販を主とする
が、調理が簡単であることから首都圏スーパーや長期保全が可能なため、東南アジアを中心に
販路拡大を狙う。
・自社 HP、レシピ提案できるよう商談用チラシを用意する。
・国内外で行われる商談会に積極的に出展し、販路開拓を実施中である。
76
⑧ 地域にもたらす効果
・当該事業による高温高圧処理設備の整備により生産能力が飛躍的に拡大することになり、その
結果、地域からの雇用を生み出すことが可能となる。
・県内からの原料供給の増大が見込まれることから、県外原料に依存し地域外に流出していた資
金が地域内にも還流することとなる。
⑨ 地域の産学金官の取り組み
沿岸部
中山間地
(八幡浜市)
(東温市)
昭和水産
直売
小売(スーパー・生協等)
介護施設(高齢者施設)
宅配食サービス
学校給食
病院食
輸出
㈲キシモト
(トロール船)
骨まで食べられる魚
「まるとっと」の製造
中田水産
加藤水産
(養殖業)
・少子・高齢化の進行
支援
魚価の安定
安定供給
計画生産
(単身世帯の増加)
・魚食の推進
(魚調理と食の簡便化)
・健康意識の向上
(カルシウムの摂取、
DHPやEPAの摂取)
愛媛県(産業技術研究所)
【加工技術指導等】
愛媛信用金庫
聖カタリナ大学
【融資・販路開拓】
【試食調査・評価】
協力
連携
えひめ産業振興財団
松山商工会議所
【開発支援】
【NEXT ONE表彰】
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・
「まるとっと」の原料は、健康志向を売りにしているため、県内から調達する方向で調整してい
るが、計画生産のためには体制整備が必要である。
・現在はトロール漁からの水産物供給だが、荒天による休漁や不漁など原料の安定調達には不安
がある。そのため、本県で盛んな養殖から養殖鯛や養殖アジを活用して計画的かつ安定的に原
料調達を行える体制を構築する。
■今後のフォロー体制
・以前からの事業実施体制を継承し、商品のブラッシュアップ等に関して、試験研究機関を中心
に技術開発面で県の支援を仰ぐ。
・原料の調達に係る資金融資、および販路開拓について地域金融機関の支援を仰ぐ。
事業に対するアドバイス
・これまで外部委託していた加工製造工程のノウハウ継承、及び大量生産体制への移行をスムー
ズに行うことができるかが、今後の継続的な事業成長のカギになると思われる。
・原材料の調達をトロール漁に頼っているため、今後大量生産体制に移行するに当たっては、原
材料の安定確保を図ることが重要であると思われる。また、大量生産した製品を滞りなく販売
するため、大都市圏および東南アジアへの販路開拓、地元ブランド品としての定着を図ってい
くことがポイントになると思われる。
77
17 愛媛県宇和島市
古建築再生による賑わい事業創造拠点づくり
事 業 実 施 主 体 の 名 称 特定非営利活動法人 SO-EN
連携する地域金融機関 愛媛銀行
交付金の額 (千円)
5,000
融資金額 (千円)
1,050
① ビジネスモデル
・市内の子育て中のママが、それぞれ持ち寄った手作り雑貨や仕入れた雑貨を、子育て中あるい
は子育て経験者との情報交換をしながら、商品を販売する。
② マーケットニーズ
・現在は店頭販売のみのため市内にとどまっているが、販売者自身が、ママに役立つ商品を消費
者目線でセレクトしていることもあり、将来は子育てコミュニティなどネットや SNS による告
知販売などを行うことを検討している。
③ 商品・サービスの特徴
・口コミによる広がりを通じての商品群の充実とアイデアの集積
・少ない時間でも働けるシフトを構築するので、忙しいママでも働くことが可能
・店内に子供スペースもあるので子供と一緒に働くことも可能
④ 販売先・ターゲット顧客
・子育て中の主婦層
・若い女性
⑤ 生産体制
・市内の子育て中のママそれぞれが、商品を持ち寄るフリーマーケット形態が主である。
・最低 3 名のシフト制の雇用、短時間の雇用の可能である(1 時間のみ)
。
⑥ 雇用計画
・人材確保はママさんコミュニティにおける口コミによる。
・それぞれの働ける時間をすり合わせ、補完的作用を図ることで、無理無駄のない雇用を実現す
る。
⑦ 事業戦略
・コミュニティ内外の情報の集積によるニーズの掘り起こしを行い、ニーズに即応した商品の作
成、仕入を図る。
・ママさんの最大の強みであるネットワークによる口コミや SNS など、コストのかからない宣伝
を実施する。
78
⑧ 地域にもたらす効果
・孤立しがちな子育て中のママ・パパが気軽に集え、情報交換・お悩み相談等ができる場を提供
することで、地域の子育てサポートをすることができる。
・少子高齢化、過疎化が進行する地方都市であり、雇用の創造などの産業活性、交流人口増加な
どの観光活性により地域の活性化を図る。
・少しでも活動している場所を増やし、小さくともそこに情報と人が集まるコミュニティの拠点
をつくり、ママ目線の商品販売を営んでいくことで、商店街ひいては街の活性化に寄与する。
⑨ 地域の産学金官の取り組み
古建築再生(木屋旅館等)を活かした事業創造拠点づくり(情報、人、智の集積)
拠点(商店街空き店舗)でのイベント等
【収入:イベント・物販】 【支出:家賃・人件費・利払い等】
相談・資金支援(地域経済
循環創造事業交付金等の
活用)
NPO法人
SO-EN
【官】
(宇和島市)
(愛媛県)
(国)
場の提供 共有・共汗
ママ
グループ
支援・ローン
【金】
地元
金融機関
市民の方=イベント等への参加、サポート、応援
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■今後のフォロー体制
・ママさんの会による単独イベント運営に際しての手伝い
・イベント等の告知フォロー
事業に対するアドバイス
・口コミの利用により、ニーズに即応した商品展開や雇用を行おうとする発想は、新しい事業の
視点であり、事業化計画を検討する団体の参考になると思われる。しかし、たとえば、口コミ
により無理無駄のない雇用を実現するとの点について、手作り雑貨の持ち寄りまで考慮すると、
誰でも雇用できるというわけではないと思われる。必要なときに必要な人材を確保できるよう
な体制を確保する検討も必要であると思われる。
・安定した事業展開のために、持ち寄り以外の雑貨を仕入る場合はどこから仕入るのか、手作り
の場合と仕入の場合とで利益率をどの程度の差に設定して販売するのか等事業の詳細計画を検
討しておく必要があると思われる。
・従業員はママさんで構成されるようであるため、1 日のなかで忙しい時間帯が重複することも
考えられる。終日において必要人員を確保できるようにすることもポイントである。
79
18 佐賀県江北町
空き店舗再生による地域経済循環創造事業
事 業 実 施 主 体 の 名 称 個人経営(手づくりパン屋アルパカ)
連携する地域金融機関 九州ひぜん信用金庫
交付金の額 (千円)
3,106
融資金額 (千円)
2,800
① ビジネスモデル
・空き店舗を利用して、比較的少額の初期投資に抑えて、手作りパン屋を開業する。
・原材料の仕入先は、近隣の商店等から行う。
・販売先は地域住民をおもなターゲットとして、保存料を使用しない安心・安全な手作りパンを
提供する。
② マーケットニーズ
・近隣に手作りパン屋はないので、競合相手はない。
・町内一円及び周辺市町の人口は約 50,000 人であり、江北町自体でも 10,000 弱の住民がいる。
・町が誘致した企業の従業員が昼間人口で 700 名弱おりパン屋への潜在的ニーズは存在する。
③ 商品・サービスの特徴
・大型店にはない、使用している原材料が見える(地元農家や商店からの仕入れ)安全で安心で
きる手作りパン(保存料を使用しない)である。
・地元で有名な素材を使用できること、地元学生のアイデアを盛り込んだコラボ商品など、新商
品の開発が可能である。
・高齢者サロン、子育てママサロン、児童クラブなどの利用者へ定期的に提供が可能である。
・町内には手作りパン屋がなかったため、新しいお店を核とする経済循環サイクルが生まれる。
④ 販売先・ターゲット顧客
・店舗周辺住民(主婦及び高齢者)
・周辺市町住民(主婦など)
・地元高校生
・工業団地立地企業従業員
※町に誘致している企業の従業員等が、昼間人口で 690 人存在する。
⑤ 生産体制
・パンの製造 1 名及び販売員 1 名。
・1 日当たり、150 個程度の手作りパンを製造販売する。
・原材料の仕入れ先には、近隣商店街の八百屋、肉屋、魚屋から安定した仕入れが可能である。
・また、地元農家から安価な原材料の仕入れも可能である。
⑥ 雇用計画
・地域から販売員を 1 名雇用し、パンの製造は、経営者が自ら行う。
80
⑦ 事業戦略
・商品の特徴は、保存料を使用しない手作りパンであり、焼きたてパンをその場で提供する。
・大型店にはないきめ細やかなサービスの提供や季節の食材を使った商品の提供が可能である。
・価格は、近隣商店と地元農家からの協力を得ながら、可能な限り安い価格を設定している。
・販売エリアは町内及び周辺市町(車で 30 分圏内)で、販売場所は店頭販売中心であるが、イベ
ント時には移動販売も実施する。
・販売期間は月に平均 23 日、営業時間は 7 時 30 分~18 時である。
・新聞や地元雑誌及びケーブルテレビで紹介され、ホームページやフェイスブックでの情報発信
も行っていく。
⑧ 地域にもたらす効果
・空き店舗の解消に資する。
・原料の調達や雇用の創出が見込まれる。
・パンを買い求める近隣の高齢者や子供が集まる機会にもなり、地域コミュニティを保持する効
果も期待できる。
⑨ 地域の産学金官の取り組み
・店舗がある上小田地区振興委員会をはじめとする地域おこしのグループとの連携、近隣商店や
農家との原材料や野菜等の安定的な取引を通じる連携により、地域の活性化を図る。
・高齢者サロンなどにパンを提供することを通じた、地域コミュニケーションの確保が図られる。
・地域金融機関は、定例的な経営指導をすることにより手作りパン屋の安定的な経営を支える。
・江北町は、地域おこしを活性化するべく、手作りパン屋も含めた地域での連携をサポートする。
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・原材料が農産物であるために、天候等で不作の時は、仕入れ価格が高騰するリスク:大きな災
害リスクは回避しがたいかもしれないが、通常の価格変動の範囲については、地元商店等と安
定的かつ良好な関係作りにより、安定的な仕入を目指すことができる。
・安定的な売上の確保ができるか否が、事業継続のリスク:地域での手作りパン屋の存在の認知
度を高め、新製品の研究を怠らず、顧客の維持を図る。
■今後のフォロー体制
・町としては、空き家空き店舗を活用した住民サービスの提供と、地域連携、地域経済活性化
・地域金融機関についても、資金面、運営面でのアフターフォロー
・大学及び高校は、上小田地区をフィールドにソフト事業(高校生ケーキカフェ、新商品開発、
高齢者支援、子育て支援など)の充実化
事業に対するアドバイス
・小規模な地域密着型のビジネスモデルであり、いかに地域に溶け込めるかが重要であると考え
られる。まずは近隣住民や誘致企業の従業員等に、保存料を使わず、地元の安全な野菜等を活
用した、手作りパンという「パン自体の付加価値」を知ってもらうことがポイントである。ま
た、住民サービス拠点(高齢者サロン、子育てサロン、児童クラブなど)との友好関係の構築、
地元イベントへの参加や地元高校生カフェとのコラボレーションをより強固なものにして、固
定客を確保することが重要である。
・地域の空き家や空き店舗を利用するといった事業は、本事業のように、町おこし協議会や NPO
等地元で活躍している団体と積極的に連携して、それらの活動との相乗効果を生むように事業
を展開し、周辺の住民や商店街に密着した事業を展開することがポイントとなる。
81
19 熊本県
県民総ぐるみでのBDF燃料普及による熊本県経済・エネルギー
循環創造事業
事 業 実 施 主 体 の 名 称 東光石油 株式会社
連携する地域金融機関 肥後銀行
交付金の額 (千円)
50,000
融資金額 (千円)
25,000
① ビジネスモデル
・自然と未来株式会社(本社:熊本市)より原料の一つ『BDF100 燃料(B100 燃料)を購入
・もう一つの原料『軽油』は三菱商事石油株式会社より購入
・B100 燃料と軽油の両原料をもとに、
『B100・軽油混合設備(ラインミキサー)』にて、国の定め
る基準に基づき、
「B100 燃料」5:
「軽油」95 の割合で混合し、B5 燃料を製造
・直営給油所(本荘給油所/熊本市)に於いて、一般小売販売を行うとともに、県・市・運送・建
設・バス事業、農協及び地元企業へ販売
② マーケットニーズ
・市場規模は県内軽油販売量 470 億円の 0.5%程度である 2.5 億円程度を想定している。
・CO2 の排出削減は地球規模での環境課題としてますます対応が求められている。
・東日本大震災後の状況として、エネルギーの地産地消が叫ばれている。
・CO2 排出量が軽油より少なく、地域の廃食用油を原料とするバイオディーゼル燃料混合軽油(B5
燃料)へのニーズは高いものと考えられる。
③ 商品・サービスの特徴
・廃食用油の一部はそのまま下水に流されている為、しっかり回収することにより地下水の水質
保全を図ることができる。
・廃食用油を原料としたバイオィーゼル燃料混合軽油(B5 燃料)を使用することにより地球温暖
化の原因となる二酸化炭素排出削減となる。
④ 販売先・ターゲット顧客
・ディーゼル車/農機具/船舶等の軽油を使用する機器の使用者(一般県民ユーザー・農業者・
運送事業者・漁業者・建設事業者・行政機関など)
・環境意識が高い者、CSR に力を入れている事業者等
⑤ 生産体制
・B100 精製:協力会社である自然と未来株式会社が廃食用油を県民・事業者から回収し、これを
原料として精製した B100 燃料を同社より購入
【必要設備:廃油回収用トラック及び容器、B100 精製設備、減圧蒸留機】
【必要人員:5~10
名程度】
・B5 製造:高江油槽所にて、B100・軽油混合設備を通し、B5 燃料の製造を行っている。製造され
た B5 燃料は、専用のドラムにて配送
【必要設備:B100・軽油混合設備、保管用タンク、専用ドラム等】【必要人員:1 名程度】
・販売:本荘給油所に置いて販売
【必要設備:給油施設、タンク等】
【必要人員:1 名程度】
※タンクローリー車にての販売も見込まれる。
82
⑥ 雇用計画
・本事業の拡大に伴い営業・製造・配送等の人員増による地元人材の雇用拡大が考えられる。
⑦ 事業戦略
・B5 燃料は、目下熊本県に競合は存在しない。
・B5 燃料は、CO2 排出量削減、地産地消エネルギーという環境価値を持つ。
・顧客への浸透を図る為、店頭の軽油販売価格と同価格にて販売している。
・販売エリアは熊本県内を想定しており、順次各 GS に拡大予定である。
・販売開始イベントを地元新聞、テレビ局により報道している。
・B5 燃料の告知チラシ及びステッカー2 種類を用意し、納入車両へステッカーを貼り、B5 燃料(環
境にやさしい)を使用している車両のアピールと B5 燃料の啓発活動も行っている。
・一般ユーザーに対しては、直営給油所の店頭にて、現在軽油を使用している顧客に対し環境配
慮型商品として B5 燃料の販売活動に当たっている。
⑧ 地域にもたらす効果
・県民生活及び県内事業所の経済活動から排出される廃食用油を活用し、B5燃料を製造・販売
することによる環境配慮型事業
・地産地消商品の販売
・二酸化炭素の削減効果
・環境と経済の好循環を成し遂げる地域社会形成
⑨ 地域の産学金官の取り組み
・地方公共団体:県民・事業者に対する B5 年料の環境価値の広報・啓発、B5燃料の率先使用、
品質分析、アドバイザー派遣
・地域金融機関:融資等資金提供、経営指導
・協力会社「自然と未来株式会社」
:廃食用油の回収、B100 燃料精製・提供
・協力 NPO:廃食用油回収への協力、BDF の進む及啓発への協力
・熊本県立大学:BDF 品質に関する助言・協力
・県民・事業者:廃食用油の提供、B5 燃料の積極的利用
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・B100 の仕入先が自然と未来株式会社一社というリスク:各主体と連携し、B100 を製造している
他社の生産技術向上を図り、現在仕入れている品質の B100 の購入先を増やす。
■今後のフォロー体制
・事業の責任者は東光石油株式会社の役員が担当し、月次の製造・販売管理はもちろん、日次の
製造・販売管理も行っている。
・東光石油株式会社において、毎月 1 回の販売実績の検討会及び、役員会にて報告を行う。
・地域金融機関・地方公共団体(行政等)に四半期毎の報告予定である。
(販売実績・収支・銀行
への返済状況・市場動向等)
事業に対するアドバイス
・B5 燃料の住民への浸透を図ることが事業継続の一つのポイントであると思われる。ガソリンス
タンドやテレビその他の媒体を使った広告宣伝、環境改善に取り組む団体等とのイベントやセ
ミナー開催等の活動により、認知度を高めることが必要であると思われる。
・B100 の仕入先が1社のみであることはリスクであると思われる。他の仕入先を確保し、その生
産技術を向上させることが必要であるとともに、自然と未来株式会社にも利益となるよう配慮
して進めることが重要ではないかと思われる。
83
20 熊本県八代市
クマモトオイスター再発見事業
事 業 実 施 主 体 の 名 称 鏡町漁業協同組合 カキ生産部会
連携する地域金融機関 八代地域農業協同組合
交付金の額 (千円)
18,000
融資金額 (千円)
10,000
① ビジネスモデル
・カキ養殖からカキ小屋経営まで(生産から販売まで)の六次産業化
・鏡町地先の八代海沖合にカキの養殖イカダを浮かべカキの養殖
・水揚、選別後、洗浄と研磨し、紫外線滅菌装置とオゾン・マイクロバブルシステムのダブルで
約 24 時間滅菌後、お客様に提供
・カキ以外にも、ホンハマグリ、ヒオウギガイ、サザエ、エビ、イカの一夜干しなど色々な海産
物を目の前の炭火で焼いて提供
・平成 25 年春にマガキの養殖を本格的に始め、平成 26 年 1 月からカキ小屋を開業し大盛況
・カキ小屋は、海岸堤防沿いに立地しており、八代海を一望できる風光明媚な場所に設置
② マーケットニーズ
・カキ小屋は有明海沿岸には多数存在しており、シーズンには県内外からのお客様が多数訪れて
いる現状から、カキ小屋のニーズがある。
・
「産地直売」や「生産者の顔の見える水産物」を求める市場のニーズがある。
・50 人/日程度の客数を予定 →現状、100 人/日以上の大盛況、土・日曜日は 2 時間待ちの状態。
③ 商品・サービスの特徴
・鏡町の地先でしかできない良質のカキを活かして、漁業者直売のカキ小屋の運営
・漁業者が漁獲したハマグリ等の新鮮な海の幸も併せて提供
④ 販売先・ターゲット顧客
・味の判るグルメなお客様をターゲットとする。
・短期間の事業で既にリピータも多くなり、常連客が増えつつある。
・市内外のたくさんの飲食店から取引の相談を受けている。来年度以降、生産量を増やす努力に
より生産量を確認後、販売ルート等の商談に応じる予定である。
⑤ 生産体制
・カキ養殖面積(イカダ数)を増やして生産量増大に努める。
・新たにカキ生産部会員のイカダ増設や新規加入希望者等も働きかけ、生産者を増やす。
・カキの生産量は、6 トン程度を想定している。さらに、生産技術の向上で生産量の 1.66 倍を達
成する予定である。
・カキ小屋の運営スタッフは時間交代で延べ 20 名程度である。
⑥ 雇用計画
・カキ小屋接客要員 15 名(うち組合員の家族等 14 名)
84
⑦ 事業戦略
・鏡町は、シカメガキ(クマモトオイスター)の発祥の地でもあるとおり、カキが美味しくなる餌
の植物プランクトンが豊富で、身が肥え、濃厚な味を提供できる。
・今後も継続して味で勝負していくために、カキの選別と殻の洗浄・研磨など丁寧に実施する。
・加熱してカキを提供するが、生食用の紫外線滅菌装置による海水処理を行っているので、安心・
安全をお客様にお届けできる。
・品質に対して価格を低く設定している。
福岡市のオイスターバーでは 1 個(100g)350 円~800 円程度
熊本市内の居酒屋では同 250 円程度、カキ小屋では同 150 円程度
よって、1 皿 500g・8 個ほどで 1,000 円、つまり、1 個 60g で 125 円価格とした。
・ウェブサイトの開設とリーフレット・ポスター・のぼり旗・看板等により広告・宣伝に努めた。
・地元の報道関係(新聞社やテレビ局等)にも特集を組んでいただいている。
⑧ 地域にもたらす効果
・鏡町漁業協同組合は、漁獲の主力であったノリとアサリが海水温の上昇や大雨による淡水化の
影響により激減し、新たな漁獲物を模索していた。
・シカメガキ(クマモトオイスター)の発祥の地であったことから、その環境を逆手にとり、カキ
養殖をはじめ、養殖から販売までの六次産業化を目指した。
・観光客による外部からの資金の流入、地域経済の活性化につながる。
⑨ 地域の産学金官の取り組み
くまもと県南フー
ドバレー推進協
議会
八代地域農業協同組合
鏡町漁業協同組合
熊本県庁・八代市
活
性
化
支
援
養殖業者
熊本県水産研究センター
仕入れ
魚市場
お客様情報
生育状況
カキ生産部会
養殖技術
熊本県八代地域振興局
⑩ リスクマネジメント、今後のフォロー体制
■リスクマネジメント
・カキ生産部会員やカキ生産部会以外、近隣漁協等の単独カキ販売による品質低下や市場混乱リ
スク:ブランドとして維持するための部会内の徹底したルール作りや、ロゴなどの作成
・カキによる食中毒等:紫外線滅菌装置とオゾン・マイクロバブルシステムの導入、徹底した衛
生管理
■今後のフォロー体制
・熊本県水産研究センターや熊本県南広域本部水産課等よる養殖技術指導
・熊本県及び八代市による地域活性化及び地域連携の協力体制
・近隣漁協との勉強会及び地域連携
・観光サイドや飲食店等との地域連携
事業に対するアドバイス
・悪品質のカキが出回り鏡町のカキへ風評被害をまねくおそれもあるため、一定品質のカキにブ
ランド認定をしたりロゴの利用権を与えたりすることなども考えられる
・ノリ養殖の衰退を招いた自然環境を逆手に取り、カキ養殖を始めたという発想は、自然環境の
変化等で事業衰退に直面している地域で、事業形成の際のヒントになるものと思われる。
85
3.十分な融資等を受けられなかった事例の調査分析
3.1
十分な融資等を受けられなかった 20 事業の選定
十分な融資等 3を受けられなかった事業について、必ずしもいずれか 1 つの基準にあてはまるわ
けではなく、複数の基準に当てはまるものもあるが、以下の基準に基づいて、それらの中から 20
事業(以下、「十分な融資を受けられなかった 20 事業」または「20 事業」という。
)を選定した。
①金融機関からの融資が未了承となっているもの
融資が未了承となった事業計画の背景にある問題点を検討する。
②金融機関融資額がキャッシュフローを下回っているもの
減価償却費や税金を考慮しなければ、1 年で返済可能であるかもしれない少額しか融資がされ
なかった事業計画の背景にある問題点を検討する。
③金融機関融資額が交付金申請額の 30%程度以下となっているもの
初期投資を金融機関の融資と交付金でカバーすることになるが、融資額が少ないことから考え
られる事業計画の背景にある問題点を検討する。
3.2
十分な融資等を受けられなかった事業の取組事例
十分な融資等を受けられなかった 20 事業について、どのような事業計画の検討をしているのか、
タイプに分けながら取組事例を整理する。
3.2.1 資金循環創造の 4 タイプ
地域経済イノベーションサイクルにおいて、資金循環創造のタイプとして以下の4タイプがあ
げられる。
1.地域内の資金の流れを変えるタイプ(地域資源を活用する)
2.資金の流れを太くするタイプ(需要にあわせて供給を拡大する)
3.地域外の資金の流れを取り込むタイプ(地域資源に付加価値を付ける)
4.資金の流れを創るタイプ(新しい需要・製品を創る)
十分な融資等を受けられなかった 20 事業について、必ずしも 4 つの資金循環タイプのいずれか
3 「融資等」地域金融機関からの融資のほか交付金なども含む。
86
1 つに分類できるわけではないが、取引形態・性質などからみて、主なタイプによる資金循環タ
イプ別割合は、以下のような割合になる。
資金循環タイプ別割合
1
5%
1.地域内の資金の流れを
変えるタイプ
6
30%
2.資金の流れを太くする
タイプ
9
45%
3.地域外の資金の流れを
取り込むタイプ
4
20%
4.資金の流れを創るタイ
プ
※グラフ上段の数字は件数、下段は割合である。
先行事例 67 事業の場合は、
「4.資金の流れを創るタイプ」が 18%あったことに比べて、20 事
業の割合は 5%(1 件)と非常に小さい。逆に、「3.地域外の資金の流れを取り込むタイプ」は
先行事例 67 事業には 37%あったが、20 事業については 45%あり、その割合が高い。これは、十
分な融資等を受けられなかった事業の場合、新しい需要や製品を創ることよりも、地域外から観
光客を招き入れることや地域外へインターネット等を活用して商品を販売することを事業化する
ことが多い傾向にあるためだと考えられる。実際に「3.地域外の資金の流れを取り込むタイプ」
の 9 件には、飲料ブランド等を確立したり、地元農作物を加工したりして、観光客に販売する事
業、食品をインターネットで販売する事業、観光サービスや拠点を使って観光客を集客し手数料
収入を得る事業などが見られる。
資金循環タイプ別、20 事業の選定基準である①②③の分布状況をみると以下のようになる。な
お、選定する際の基準①②③については、1 つの事業が複数の基準に該当するものがあるため、
合計は 20 にならない。
資金循環
タイプ
タイプ1
タイプ2
タイプ3
タイプ4
件数
①融資未了
6
4
9
1
2
2
2
1
87
②融資額が CF を
下回る
2
―
5
-
③融資額が交付金の
30%程度以下
4
2
5
―
特徴的なこととして、
「1.地域内の資金の流れを変えるタイプ」の場合、③が多いことがあげ
られる。設備投資が大規模であるため初期投資額が大きくなり、事業から創造されるキャッシュ
フロー等を考慮して地域金融機関が認めうる融資額の限度があると思われることから、必然的に
不足額を交付金により負担することとなり、融資額が交付金の 30%程度以下となってしまうもの
だと考えられる。
「2.資金の流れを太くするタイプ」には、②に当たるものがない。従来の取引の資金の流れ
を太くしようとしているが、皮肉なことに大きなキャッシュフローを生み出す計画となっておら
ず、融資額がそれを下回るのではないかと推測される。4 件とも食品又はこれに関連するものを
商品・製品等として販売する事業で、従来の商品・製品等に付加価値やブランド力などを付けて
販売しようとしているものであるが、キャッシュを生み出す事業計画、収益構造になっていない
のではないかと思われる。
逆に「3.地域外の資金の流れを取り込むタイプ」には、②が 5 件ある。先に述べたように、
当該タイプには観光客への販売やインターネットでの販売を計画する事業が多く含まれる。不特
定多数を相手にする販売計画は見積もりが難しいと思われるところ、販売予測が過大に策定され、
キャッシュフローも過大になっているのではないかと思われる。
3.2.2 事業化する商品・製品等
必ずしも 1 つの商品・製品等を販売しているわけではないが、十分な融資等を受けられなかっ
た 20 事業について、主として取り扱うことを予定している商品・製品等の割合をみてみると以下
のようになる。
商品・製品等の種類
3
15%
9
45%
3
15%
食品
飼料堆肥
燃料
雑貨・生薬等
4
20%
サービス
1
5%
88
※グラフ上段の数字は件数、下段は割合である。
先行事例 67 事業も十分な融資等を受けられなかった 20 事業も、提供する商品・製品等の割合
は、概ね同じである。そして、先行事例 67 事業の 55%が「食品」を提供するのと同様、20 事業
でも取り扱う商品・製品等としては「食品」が最も多く 45%となっている。また、「サービス」
を提供する割合についても、67 事業が 16%、20 事業も 15%でありほぼ同じである。
ただし、
「燃料」は、先行事例 67 事業の場合は 9%にとどまるところ、20 事業は 20%と比較的
割合が高い。たとえば、バイオマス燃料等について、安定した販売先を確保していれば、キャッ
シュフローの創造がより確実なものと判断されるが、逆に、当該燃料を活用するためには特定の
設備が必要となるなど、販売先が限定されることも考えられる。このような事情により、キャッ
シュフローをあまり生み出せず、十分な融資等が得られなかった可能性も考えられる。
3.2.3 活用する地域資源(関連する産業)
どの事業も必ずしも 1 つの地域資源のみを活用するものではないが、十分な融資等を受けられ
なかった 20 事業について、主として活用することを予定している地域資源に関連する産業の割合
は以下のとおりとなる。
活用する地域資源の関連産業
1
5%
1
5%
2
10%
農業
林業
水産業
4
20%
畜産業
12
60%
非農林水産業
※グラフ上段の数字は件数、下段は割合である。
十分な融資等を受けられなかった 20 事業について、農業に関連する地域資源を活用する事業が
60%であり、先行事例 67 事業も 52%で最も多い割合である。偶然この割合になった可能性もあ
89
るが、全体としても農業に関連する地域資源を活用する事業が最も多いのではないかと思われる。
そして、割合は 67 事業に比べ 20 事業のほうが大きく上回っている。農業に関連する資源は比較
的資源として活用しやすいが、逆に、付加価値を付けたり、差別化を図ったりすることが難しく、
キャッシュフローを創造できずに、十分な融資等を受けられなかった可能性がある。
十分な融資等を受けられなかった 20 事業について、非農林水産業に関連する資源の活用をする
事業が 10%であり、67 事業の 21%の半分である。たとえば、本調査で選定した 20 事業には、地
域の建物や街並み等を活用して観光客を迎え入れるといった事業は含まれていなかった。地域全
体を資源として認識し、何等かの付加価値のあるサービスを提供していくという事業化の検討が
少ないため十分な融資等が得られなかった可能性は否定できない。
先行事例 67 事業では 9%しか見られない「林業」に関連する資源を利用する事業は、十分な融
資等を受けられなかった 20 事業では 20%もある。この中には地域山林の廃材等を利用する事業
も含まれており、資源の有効活用につながるものであると思われる。しかし、たとえばそれらを
収集する仕組みが構築されておらず、キャッシュフローが創造できないため、十分な融資等を受
けられなかった可能性が考えられる。
十分な融資等を受けられなかった 20 事業には、水産業や畜産業に関連する地域資源を活用する
事業が 1 件ずつ 5%しかなかった。先行事例 67 事業には、それぞれ 7 件で 10%、5 件で 8%の事
業があった。偶然少なかった可能性があるが、十分な融資等を受けられなかった事業としては、
地域資源として多様な資源に目を向ける必要があるとともに、それぞれキャッシュフローを創造
するビジネスモデルの検討が必要であると思われる。
3.2.4 事業の形態
事業の形態として、製造して販売するタイプ、農作物を栽培して販売するタイプ、マーケット
(市場)を提供し手数料収入または小売業的に売上を計上するタイプなど、いくつかに分けられ
る。自らも製造や栽培を行ったうえ、マーケットの開催もするといった複合型もありうるが、主
としてどのような形態に該当するかということで、事業の形態を分けた場合の形態別割合は以下
のとおりとなる。
90
事業の形態
製造販売
3
15%
2
10%
栽培・養殖等販売
市場提供型収入
11
55%
1
5%
空間提供賃貸収入
3
15%
サービス料収入
※グラフ上段の数字は件数、下段は割合である。
「事業の形態」
製造販売
栽培・養殖等販売
市場提供型収入
空間提供賃貸収入
サービス料収入
農林水産品等の原材料を加工して販売する。
農作物を育成や水産物の養殖をして販売する。
マーケットを提供し仕入販売もしくは手数料収入を得る。
劇場やホール等の賃貸収入を得る。
サービス業による収入を得る。
先行事例 67 事業と同様に、
「製造販売」が多数を占める。ただし、当該 67 事業は「製造販売」
が 66%も占めることと比較すると、20 事業は 55%しかない。
十分な融資等を得られなかった事業全体の割合ではないかもしれないが、20 事業は「栽培・養
殖等販売」
、「サービス料収入」などの割合が高くなっている。どのような点で付加価値の高い農
作物を作成するのか、既存の物と比較してどの点に競争優位があるかを検討し、事業計画に反映
することで、十分な融資等を受けられたかもしれない。また、
「サービス料収入」のうち 2 事業は、
地元食材を提供するレストラン形態を主とする事業であるが、やはり、従来のサービスに比べ、
どの点で付加価値を付けられるのか、新規性があるのかといったことを検討し、顧客を獲得する
計画を策定していれば、十分な融資等が受けられたかもしれない。
91
3.3
取組における問題点と解決策
十分な融資等を受けられなかった 20 事業においても、事業計画を検討し、実施計画書を作成し
ている。計画書作成について、その取組における問題点と考えられる解決策について検討する。
3.3.1 収支計画・初期投資計画策定における問題点と解決策
(1)収入見込の算定根拠
【問題点】
収支計画の中でも、特に「収入見込」つまり売上高の算定根拠があいまいなものが多く、20 事
業のうち 15 事業は根拠があいまいだといえるものであった。

売上根拠が不明瞭
何らの根拠なく、売上高として単に 50,000 千円、60,000 千円と記載しているだけのものもあ
った。仮に内訳を記載していたとしても、たとえば 10 万本×500 円で 50,000 千円とのみ記載し
ているにすぎず、なぜ 10 万本販売できるのか、単価が 500 円なのかについて計画書のどこにも記
載がないという問題点が見受けられた。
市場の動向等とは無関係に生産能力をそのまま売上見込にしているという問題も見受けられた。
たとえば、温室 1 か所の生産高×温室数や機材 1 つの生産高×機材数などの生産数量を販売数量
とするものである。生産量のすべてを販売できるとは限らないのではないかと思われ、売上高の
根拠としては薄弱である。

売上数量の根拠が不整合
売上数量の根拠について記載されていても、整合性が図られていないという問題も見られた。
たとえば、取引先の施設等が整備され、取引が平成 25 年度から 27 年度までしか拡大する計画に
なっていないにもかかわらず、収支計画では平成 28 年度以降 30 年度まで、売上が増加するよう
になっているものがある。また、事業計画では、500 トン販売予定と記載があるが、収支計画で
は 800 トンになっているものもある。さらに、商品の認知度が低いため、初期の営業活動が重要
であることや雇用した人材の研修を半年実施する等の計画を立てているにもかかわらず、初年度
(平成 26 年度)から、いきなり平年ベースの売上数量を見込む収支計画を立てるものなどがある。

不明瞭な売価の算定根拠
売価についても、高付加価値というだけで高めの価格設定にしているものもある。他県の商品
と比較すると物流費がかかっていないとの説明がある一方、収支計画では他県と大差がない売価
92
設定にしたりしているという問題点も見られた。

キャッシュインがない収入
コスト削減額を収入見込に計上しているものがあった。たしかに事業実施主体としては、従来
のコストを削減することがキャッシュフローの増大につながるものの、事業としては新たに資金
循環を創造しているとは言い難い。
【解決策】
収入見込はキャッシュフロー創出の源であるため、販売数×単価として、できるだけ正確に見
積もるべきである。以下のような算定の方法が考えられる。なお、売上としてキャッシュインが
あるものを収入見込みに、キャッシュアウトがあるものを計上的支出に記載すべきである。

販売数の算定
販売数について最も確実であるのは、すでに営業活動をしており取引先が決まっているような
場合である。たとえば、木質チップを材料とする燃料を公的施設に販売したり、近隣の小中学校
へ一定量の食材や雑貨を販売したりすることが既に見込まれている場合などである。
また、事業実施主体が類似の事業を以前から実施している場合は、全く同じ商品ではなくとも、
類似の商品販売実績をもとに、ある程度販売数を見込むことができるのではないかと思われる。
たとえば、観光客への体験型宿泊サービスを提供するような場合は、すでに存在している他の施
設の稼働状況をもとに宿泊客数を見込んだり、レストラン事業を実施している事業実施主体であ
れば、これまでの稼働率を基に客数を予測したりすることができる。
従来の商品・製品等ではない、新規の商品・製品等の場合は、顧客ターゲットを明確にしたう
えで、できればそのターゲットの一部に対して簡単なアンケート等を実施しておくことが望まし
い。たとえば、観光客を相手に地元食材や地元の素材を活用した雑貨等の土産品を販売するので
あれば、一定期間、観光客に対してアンケートを実施する。仮に地域の年間観光客数が 10 万人で
店舗に来る可能性がある観光客が 5%だとして、アンケートを実施したうち 10%が当該商品を購
入したいと答えた場合、500 個売れる「可能性」がある。なお、アンケートを実施するときは、
観光客 10 万人の分布(少なくとも男女、年齢分布)に等しいサンプル分布で実施することが望ま
しい。
また、顧客ターゲットが特定地域の一定の範囲の場合は、実際に営業活動をしてみることも考
えられる。たとえば、ある地域の飲食店や旅館、あるいは農家に対して販売する計画だとすると、
実際に試供品があればそれを、なければ資料等を持参し、飲食店の組合や旅館組合、農協などに
営業活動を実施してみて、製品に対する反応を見ることや実際に交渉することで、ある程度取引
93
数量を見積もることができるかもしれない。

単価の算定
単価についても、前述のアンケートや各種団体等を訪問するなかで、適正価格の情報を採取し
ておくことができる。また、従来から存在する商品・製品等で、一般消費者向けに販売する場合
は、インターネット等で相場を調べることができるかもしれない。そうでない場合は、商品・製
品等によっては関連団体等に取引相場を確認することも考えられる。
原価計算を実施して 1 単位当たりの原価を算出したうえ、前述した市場の相場、顧客の嗜好や
ニーズ動向、さらに、近隣に競合他者が存在する場合はその価格も考慮して単価を決定するとい
う視点も必要である。
(2)経常的支出の把握と算出
【問題点】
経常的支出は、漏れがないようにできる限り洗い出し、正確に計上しておかなければ、計画す
るキャッシュフローを確保できないということになりかねない。ただし、事業実施主体が他の事
業も展開している場合、一般経費等は事業実施主体が負担することも考えられるため、それを除
いたうえで、当該事業が負担すべき支出をすべて洗い出す必要がある。

経費の洗い出しの不足
地域人材活用費以外については、ビジネスプランに従った地域資源活用費やその他の経常的支
出がすべて計上されていないと思われる事業計画が多く見受けられた。たとえば、事業の概要で
は、製造した後販売先まで運搬する計画になっているが運搬費の計上がないというものや、イン
ターネット等で製品をアピールする計画があるが広告宣伝費の計上がないもの等が見られた。

不明瞭な経費の算定根拠
計上されている費用についても、算定根拠の記載がないものが多く見られる。記載されていて
も、たとえば、原材料 2,400 千円について、200 千円×12 カ月との記載のみで、200 千円の内訳
として何をどれぐらい購入するのか不明であるという問題点も多く見られた。

地域人件費の算定根拠の不足
地域人材活用費については、計上漏れは見当たらなかったが、金額のみ記載しているものや、
根拠に 3 名雇用とだけしか記載されていないという問題点がある。また、雇用計画の内容と収支
94
計画が不一致のものも見受けられた。たとえば、雇用計画では 3 名となっているところ、収支計
画では 2 名の人件費しか計上されていないという具合である。また、生産体制やシフト等を考え
たうえで人員数を算定するという検討をしないまま、単に人数だけを記載している事業計画も多
く見られた。
【解決策】

事業活動と必要数の明確化
経常的支出を正確に把握するためには、まずビジネスプランを明確にし、その事業を推進する
ための具体的な活動内容を検討することが必要である。そして、それぞれの活動について、支出
を伴うか否か、伴うとしたら当該支出の源泉をどこに求めるか、どれぐらいの数量が必要である
かを検討する必要がある。
中でも、主原料として想定している地域資源については、販売計画数を生産することができる
だけの必要数を算出しておくべきである。材料 3 つで製品 1 つを生産するといったようにわかり
やすい場合だけではないかもしれない。しかし、仕入先から材料を確実に確保するためにも必要
な数量を明確にしておくべきである。

購入単価・購入価格の把握
主原料として想定している地域資源については、地域の相場が存在することも考えられるため、
関連する団体に相場を確認することが考えられる。また、経常的支出のなかでも額の大きいもの
は、いくつかの団体から見積りを取り、より安い価格で高品質な原材料を購入できるように交渉
活動をすることも検討すべきである。また、現状すでに割高であることが明確な原材料を活用す
る予定の場合は、少しでもコスト削減の余地はないかを検討したうえで価格交渉するということ
も必要である。
光熱水費や修繕費などについては、過去の実績 60 千円×12 カ月や、機材 20,000 千円×5%等の
計画値となることもやむをえないと考えられるが、設備を購入する際に、同時に修繕費の見積書
を採っておくことでより正確な数値を把握することもできる。見積書を入手することができる費
用については、できるだけ見積を採りそれを基に支出計上することが望ましい。

人件費の計上
地域人材活用費については、雇用計画を明確にすることが必要である。たとえば、常勤生産者
4 名、常勤販売者 1 名、アルバイト営業 3 名等の体制を明確にし、それぞれ月給・日給・時給と
稼働時間などの根拠を基に算出するべきである。また、ノウハウが必要な職とそれ以外で単価を
変えることも検討すべきであろう。
95
事業実施主体が他の事業を推進しており、すでに職員が存在する場合、事業実施主体の職員を
事業の管理者に充てるが人件費の計上はしないという事業計画があった。事業として人件費の計
上がされないものの、具体的にどのような支援をどの範囲で得られるのか等の検討をしておく必
要があると思われる。事業支援を想定している人材であっても、実際には忙しく、管理者として
あまり活動してもらえないといったことにもなりかねない。そのような場合には、事業で管理者
の人件費をねん出する必要に迫られるということも想定されるからである。
(3)初期投資額の根拠
【問題点】

初期投資の内訳が不明
初期投資の内容については、購入時期が近いこともあり、購入先から見積等を採ったものと思
われ、細かく具体的な金額が記載されているものもあった。
しかし、事業計画全体をみても初期投資の具体的な内容が不明であり、建設・設備工事費や備
品・設備購入費として金額だけを記載しているという問題点が見受けられる。仮に金額以外の事
項が記載されていても、根拠欄に什器一式、設計料、機材等の記載しかなく、具体的に必要な初
期投資の内容について、金額とともに検討していないのではないかと思われる問題もはらんでい
た。

既存事業の延長
事業実施主体がすでに他の事業を実施しており、たとえばショーケース程度の少額の初期投資
しか発生しない場合や、すでに営業している既存の店の改修費用に過ぎないのではないかと思わ
れる場合なども見受けられた。新しい事業を設立し、資金循環を創造するというより、既存事業
の設備更新のための投資に近く、交付金の趣旨に合致するとはあまり思えないものもあった。
【解決策】

初期投資の洗い出し
想定しているビジネスプランを円滑にスタートさせるために、初期の段階で導入が必要なもの
をすべて正確に見積る必要がある。この際に、事業実施主体を新しく設立する場合と、すでに存
在している組織が実施する場合で、事業の立ち上げ方が異なるものと思われる。
たとえば、すでに組織が存在している場合は、事前調査は不要であるかもしれないし、備品等
の購入は不要であるかもしれない。他方、これから組織を設立しようとする場合は、通信機器や
コピー機等の購入も必要であるかもしれない。いずれにしても、事業形成のために必要な投資内
96
容をすべて洗い出す必要がある。

コスト圧縮の取組
必要な投資のなかでも、建設・設備工事費や備品・設備購入費の金額は、高額になることが多
いと思われる。よって、できるだけ複数の見積もりを取り、仕様が事業内容に一致するものの中
で、よりコストを抑えることができるものを購入するような取組が必要である。

費用対効果の検証
初期投資額が大きいが、収支計画のキャッシュフローがあまり大きくない場合など、本当にそ
れだけの性能や仕様を有する高額の設備投資が必要であるのか、それだけの額を投資してどのよ
うな効果が得られるのか等について、定性的な効果のみならず、定量的な効果、すなわち費用対
効果の面からも検証し、場合によっては初期投資の設備の規模や仕様について見直し、代替手段
はないか等検討することも必要であろう。
(4)資金計画の妥当性
【問題点と解決策】

無理な資金計画
交付金申請の段階で、地域金融機関からの融資が未承認のものは 7 事業であったが、その後、
承認が取り消されたりして、9 事業に増えている。
投資額が億円の単位で、かなり高額である事業の例である。収入の一部である「その他(補助
金等)
」として、補助金等で検討しているもののうち 100 万円程度しか確定しておらず、その他は
未定であるとしながら、5,000 万円以上の額の計上をしている。自己資金や地域金融機関の融資、
さらに交付金上限額の 5,000 万円では、投資額が多額でカバーできないため、帳尻合わせのため
に、見込みがない交付金を 5,000 万円以上も計上しているのではないかと推察される。
このような無理な資金計画を作成すると、事業運営に支障をきたすことになりかねず、特に初
期投資を賄う資金を集めることができない場合は事業を開始することもできない。本当に必要な
投資であるのか、スペックを落とすことはできないのか、投資の価格交渉の余地はないのかなど
の観点から検討し直す必要があるのではないかと思われる。

地域金融機関の融資
地域金融機関の融資予定額(未承認のものも含めて)が、交付金の額以上であるものは 2 事業
であり、交付金の額の 30%以上のものは 5 事業しかなかった。それ以外 13 事業は、交付金に比
97
べて融資予定額が少なく数パーセントのものもあった。担保や保証がないため比較的融資額が少
額となっている可能性もあり、断定はできないが、地域金融機関が事業に対して比較的大きなリ
スクを評価している可能性も否定できない。地域金融機関の審査でより高い評価が認められるよ
う、事業継続の観点から事業を見直したうえで、最後交渉する等の対応を取ることも考えられる。
地域金融機関の融資予定額(未承認のものも含めて)が、平年ベース年間キャッシュフローの
額以上であるものは 6 事業であり、
それら以外に 50%以上のものは 3 事業ある。これらの事業は、
創造されるキャッシュフローから比較的短期間で融資の返済が可能であると思われる。そうであ
れば、融資額を大きくしてもらう余地があるのではないかと思われる。
融資が未承認の場合は、事業計画や収支計画を見直し、地域金融機関の融資が承認されるよう
に説明したり、アドバイスを受け入れたりする活動が必要である。また、融資の承認を受けてい
る場合でも、条件を決める場合により有利になるように、実現可能性の高い事業計画の作成、収
支計画の改善を図るとともに、地域経済活性化のために地域金融機関との連携を強める必要があ
ると思われる。
3.3.2 ビジネスモデル・事業計画全般についての問題点と解決策
【問題点】

ビジネスモデルが不明確
事業計画の検討に着手した段階に過ぎないのではないかとみなされうる事業が、20 事業のうち
14 事業あった。そのなかでも、ビジネスモデルが不明確であるという問題点をかかえる事業計画
が多く存在していた。ビジネスモデルが不明であると、計画検討段階であちこち不整合な検討を
することになり、具体的な雇用・生産・販売等の戦略を検討することも難しい状況となる。

提供する商品・サービスが不明瞭
何を提供するビジネスモデルであるのか、わかりにくい事業スキームとなっているという問題
点が見られた。
たとえば、地域に関してあるイメージ(ぬくもりのある町、〇〇の自然があふれる里山等)を
確立させ、観光客を呼び込もうとしている事業である。地域のイメージは、地域ブランドの確立
にとって重要であり、イメージが明確であるほうが観光客も呼び寄せやすいと思われる。しかし、
事業計画においても、
「真心のこもったサービスを提供する」等の表現が多く、具体的にはどのよ
うな観光客をターゲットとし、何を提供しようとしているのか抽象的で分かりにくい計画となっ
ているものが多く目についた。また、その地域における町の暮らしの経験を提供するとしている
98
が、具体的にはどこに宿泊し、何の経験を提供するのかが不明確であり、ややもすると通常の地
元の食事提供にすぎないのではないかと思われる事業計画もあった。このような事業計画は、地
域に対する「思い」や「取組姿勢」は伺われるものの、ビジネスモデルとしての検討が不足して
いるのではないかと思われる。
同様に、販売しようとしている商品・製品等があいまいであるという問題点も多く見られた。
たとえば、
「地元農作物等の販売」
、
「地元食材を加工した食品の販売」というように、地元の何を
販売しようとしているのかなど、具体的な商品・製品等が明確になっていないという問題点が見
受けられた。

顧客ターゲット等計画全体の未検討
販売する商品・製品等が明確であっても、それを誰に販売するかという顧客ターゲットが検討
されていなかったり、単に一般消費者に販売するとしているだけで対象があいまいであったりと
いう問題点も見られた。また、提供する商品・製品等が明確であっても、それに対応する原材料
をどこから仕入れることができるのかという検討がされていない問題点も見受けられた。さらに、
生産体制やそのための雇用計画や育成計画の検討がなされていないという問題も見られた。
計画全体として、事業計画の緒についたばかりで、具体的には検討が進んでいないのではない
かと思われる計画が多く見られた。

盛りだくさんな計画/投資多寡
色々な商品・製品等を盛り込みすぎて、事業の範囲が不明瞭となっている問題点も見受けられ
る。このような問題点を有する事業計画は、比較的観光関連の事業に多く見られた。
たしかに、観光は多面的に分析し複数のサービスを組み合わせて提供する必要があり、そうで
なければ、他の観光地と差別化できない可能性が大きいと思われる。そこで、たとえば、町の体
験宿泊、地元食材活用による食事、エコカー等での送迎、地元観光情報提供、ホテル・飲食店の
予約サイト運営、市内めぐりツアー、体験学校、ガイド付きツアーなど様々なサービスを組み合
わせてサービスする計画となっている。しかし、盛り込みすぎていて何を中心に顧客にアピール
したいのか不明瞭となっていたり、結局は一つ一つのサービス自体は、現状のサービスと大きく
変わらず、顧客満足度の観点から、さほど大きな効果が期待できないのではないかと思われる内
容となっていたりする。
そして、計画として盛り込んだ、宿泊施設の改造、エコカーの導入、予約システム構築などが
すべて初期の設備投資となり、期待される効果に比べて初期投資額が大きくなる傾向にあるとい
う問題点も見受けられた。
99

自社事業
20 事業のうち、自社で取り組むべき内容ではないか、自社事業の延長線の事業に過ぎないので
はないかと思われるものが 8 事業あった。
たとえば、すでに営業している店の一角を改造し、地元の商品を販売する事業計画であるが、
これまでの商品とあまり変化がないように思われた。また、レストランの設備改造をして地元の
食材を活用し提供するという事業計画ではあるが、以前から地元の食材を使っていたので大きな
違いはないのではないかと推測された。
たしかに人材の雇用や地域資源の活用もあり、地域経済活性化の効果があるものといえるが、
新しい資金循環を創造したり、資金を取り込んだりするという本交付金の趣旨からの効果は、あ
まり期待できないのではないかと思われる。
【解決策】

ビジネスモデルの明確化
事業計画を作成するためには、まず、ビジネスモデルを明確にすることが必要である。地域資
源として何を活用し、どのように生産し、誰に何を販売するのかを明確にしなければならない。
なお、「生産」とはいってもサービス業も「生産」機能を有している。たとえば、観光であれば、
どのような組み合わせで観光サービスを提供するか、何を活用して付加価値のついたサービスを
提供するのか、良質な宿泊サービスやイベントを企画したり提供したりできるのか、というよう
なことを生産計画として検討することになる。そのうえで、より具体的な地域資源、購入先、生
産体制、販売体制などの検討を詳細化していく。
また、商品・製品等をいくつか組み合わせて提供することを特徴とするビジネスモデルの場合、
たとえば、宿泊と観光ガイド、観光拠点でのレストランと食材セット販売などを組み合わせて提
供する際、一つ一つの商品やサービスの事業全体における意義、組み合わせて提供することによ
る相乗効果を検討したうえで、どのような形でサービス等を提供するのが効果的であるのか検討
しておく必要があると思われる。また、資源を集中させ、顧客にアピールするために、何を最も
メインの商品・製品等とするのかについて明確にしておく必要があると思われる。

地域の課題の解決
ビジネスモデルを明確化するための検討のアプローチとして、地域の課題を解決する道筋で考
えることもできるのではないかと思われる。たとえば、何等かの廃棄物処理に余計なコストがか
かっている場合に、これを解決すべく廃棄物を活用するということは明確である。そこで、廃棄
物を使って何を作るか、どうやって作るか、だれに提供するかに沿って検討していくと、比較的
明確なビジネスモデルの検討ができるのではないかと思われる。
100

資金循環創造タイプへのあてはめ
ビジネスモデルを検討するにあたり、自分の計画を客観的に整理するために、資金循環創造の
どのタイプにあてはまるかを検討し、本当に資金循環を創造できるのか検証してみることも考え
られる。
たとえば、地元の恵まれた自然環境を活用して養殖を開始し、それを調理して観光地の店頭で
販売したり、加工して観光客に販売したりするという事業を検討している際に、資金循環の観点
からどのようなモデルになるのだろうかと考える。地域外の観光客をターゲットにして、資金流
入を実現することになるので、
「3.地域外の資金の流れを取り込むタイプ」に当たるのではない
かと考えられる。また、たとえば、地元の恵まれた自然環境を活用して作成される農作物を活用
し、従来の販売に加えて、加工したうえ地域の住民や学校・病院などに提供するのであれば、
「2.
資金の流れを太くするタイプ」とも考えられる。
1.地域内の資金の流れを変えるタイプ
(地域資源を活用する)
2.資金の流れを太くするタイプ
(需要にあわせて供給を拡大する)
○既存の資金の流れを確認
(どこから地域外に資金が流出しているか)
〇地域資源を活用してどのような代替品を提供しうるか
〇代替品に対して現実化している需要はあるか
〇資金が地域内で循環するか 等
○既存の供給量を上回る需要があるか
○需要に対応できる仕入・生産体制を組めるか
〇商品に新しい付加価値を付けることができるか
○投資額を上回るキャッシュフローを創造できるか 等
〇新たなビジネスモデルの構築
〇外部効果の存在の検証
○既存のビジネスモデルの修正
○外部効果の存在の検証
3.地域外の資金の流れを取り込むタイプ
(地域資源に付加価値を付ける)
4.資金の流れを創るタイプ
(新しい需要・製品を創る)
○地域資源を活用した商品に対して地域外で需要があるか
○他地域のものより優位性のある付加価値を付与できるか
○地域外での需要をうまく取り込めるのか
○さらなる地域外の需要を創造できるのか 等
○地域資源を活用した新商品(サービス)を創造できるか
○新商品に対する需要があるか
〇新商品の優位性が認められるか
〇新商品を生産できる体制や技術が整っているか 等
○新たなビジネスモデルの構築
○外部効果の存在の検証
○新たなビジネスモデルの構築
○外部効果の存在の検証
(
「地域経済イノベーションサイクルについて」総務省資料を基に一部修正)
地域外の観光客をターゲットにする資金タイプ3の事例に当たると考えた場合、たとえば、地
域外からその地域の恵まれた自然環境を活用して養殖する何に対して需要があるのか、それは他
の地域のものと比べて優位性がある付加価値を付けることができるのか、実際に観光客に広告宣
伝して観光客を取り込めるのか、現在のみならず将来的にもさらに需要を創造できるのか、そし
て、外部から資金を取り込むことができるのかというような観点から検討する。それらを明確に
101
するなかで、ビジネスモデルが明確になっていくものと思われる。
また、地域の住民や学校・病院などに提供する資金タイプ2の事例に当たると考えた場合、た
とえば、住民や学校から「欲しい」という声があがっているのか、需要に応えることができる農
作物を生産できるのか、恵まれた自然環境を活用して付加価値を付けられるのか、投資に見合う
キャッシュフローを創造できるのか、資金の流れは太くなるのかというような観点から検討する
ことになる。
どの資金タイプにあたるのかが重要ではなく、ビジネスモデルを検討する際の視点として資金
循環創造資金タイプにあてはめて検討することが重要なのではないかということである。また、
このように資金の流れを考えることは、キャッシュフローの創造を検討することにも関連する。
3.3.3 マーケティングの観点からの問題点と解決策
(1)事業の新規性や商品・製品等の差別化における問題点と解決策
【問題点】
必ずしも一つの定義が定められているわけではないが、マーケティングとは、顧客が欲する、
商品、技術、サービスなどを創造し、それを効果的に宣伝広告し、顧客がその商品を質・量共に
効率的に得られるようにするあらゆる活動をいう。新規性や差別化の観点から、事業に新規性が
ないのではないか、又は他の商品やサービスと差別化が図られていないのではないかと思われる
ものは、20 事業のうち 17 事業あった。

差別化が認められない
差別化が図られていない、新規性がないと思われる問題点は、比較的食品関係に多く見られた。
たとえば、地域の名産品としてブランドを確立する計画になっているが、既に他にも同様な食品
が同じ地域でブランドを確立しているということもあった。たとえ他の既存の商品・製品等もま
だブランド確立までには至っていなくても、それら既存の商品・製品等との違い、付加価値など
が明確ではなく、何を強みや特徴として販売しようとしているのか等検討していないという問題
点も多く見受けられた。特に、地ビールを製造しブランドを確立して差別化を図ろうとしている
事業では、既に他の地ビールが存在するなかで新規性や差別化が認められないという問題点が見
受けられた。

特徴は「地元」
地元の原材料のみを利用して製品を作成したり、地元の生鮮食品のみを販売したり、地元食材
102
のみを活用した食事を提供したりすること、つまり「地元」ということを「特徴」とする事業も
多く見受けられる。たしかに、地域資源を活用して事業を検討する以上、地元にこだわることは
重要なことである。また、その食材は他に存在せず、差別化できているものであれば強みとなり、
事業の特徴であり、優位性を保つことができるものと思われる。
しかし、
「地元」というだけで、具体的に地元の何を活用するのか記載がないという問題が見ら
れた。そして、他の地域のものと何が違うのか、それはどのような優位性があるのか、どのよう
に活用すれば競争力をもちうるのかということまで検討されていないという問題が多く見受けら
れた。

単なる商品・製品等のパッケージ化
複数の商品・製品等をひとつの「パッケージ」として売り出すことで、これまでにない新規性
や差別化を図ることができるかもしれない。
しかし、たとえば、宿泊・送迎・食事・観光ツアー等の一つ一つは他においても享受すること
ができる通常のサービスである場合は、単に一体化しても差別化を図ったとまではいえず、顧客
獲得の優位性を確立するのは難しいのではないかと思われる。

一般的な商品における優位性の有無
ハーブ、薬草、珍しい香草その他の特定の原材料を使って、たとえば食品や雑貨類などの新製
品を開発し、インターネット等で広く販売しようとする事業もある。たしかに製品自体は従来に
存在しない効用や特徴が認められるものだと思う。
しかし、製品自体は通常どこにでもあり、容易に入手できるものであれば、具体的に他の商品
とどのように違うのかを示さなければ、競争優位性が認められないという問題点がある。特に顧
客の視点、顧客の立場に立ち、どのような効果があるのかを明確にできていないという問題も多
く見受けられた。単に、これまでにない材料を使っている、これまでにない製品に加工したとい
うだけでは、消費者がパソコンの前で「欲しい」
「買おう」という気にはならないかもしれないと
思われる。
【解決策】

ブランドの確立
どのようにすれば地元の名産品としてブランドを確立することができるかは大変難しく、確固
たる解決策があるとは思えない。しかし、たとえば、細かく市場調査をし、地元の名産品として
だけではなく、通常の商品としても珍しい品質や機能を有するニッチ商品におけるブランド開発
を狙うことが考えられる。また、すでに優位性の確立した原材料を活用して、これまでにない製
103
品を開発したり、用途を提供したりすることで、既存のブランドを活用しつつ新しいブランド化
を図ることも考えられる。さらに、商品や製品について、「これだ」という品質や味、機能などで
何か 1 つでも優位性を得られるよう研究開発を行う、といった努力も必要となるのではないかと
思われる。
そのような事前検討や努力のもと、事業計画においては、どうやって具体的にブランドを確立
するかについて計画化しなければならない。そもそも、
「ブランド化」の中身は何か、つまり、知
名度をあげて売上につながればよいのか、一般的に有名になればよいのか、ネーム、ロゴ、マー
ク、パッケージなどを検討することで対象商品を明確にしたいのか、などの検討をしておく必要
がある。そして、それらに沿って、どのような活動をすべきかブレイクダウンして計画を策定す
ることが必要である。

市場における差別化・優位性の検討
差別化・優位性を確立するためには、市場の動向、消費者のニーズ、活用しようとする原材料
のどこを消費者は評価しているのかなどを調査しておくことが必要ではないかと思われる。
また、事業計画においてブランド化を図りたい商品・製品等について、他の地域でも購入でき
る一般的な食材にすぎないのではないか、他で販売しているものと特に何も変わらないのではな
いかという第三者的な視点で、本当に優位性が認められるのかを検討しておくことも、商品の強
みを引き出すことにつながることもあるのではないかと思われる。
(2)4P の観点からの問題点と解決策
【問題点と解決策】
マーケティング分野で有名な考え方に、4P(製品・サービス(Product)
、価格(Price)
、販路
(Place)
、宣伝(Promotion)の4つの面から検討する考え方)というものがあるが、そもそもそ
のような多面的な検討をしていないという問題点がある。

製品・サービス(Product)の視点
たとえば、「自然と触れ合うことができる宿」「他では味わえない体験型宿泊施設」等の商品・
製品等のイメージはあるが、具体的に何をどういう形で提供するのか示されていない。商品の差
別化とも重なる論点であるが、顧客が欲する商品・製品等は何かについて、市場調査や地域の各
種団体へのヒアリングなどを行い検討するに至っていないという問題点が見受けられる。
商品・製品等を検討するには、そもそもターゲットとする顧客を明確にする必要がある。そし
て、その顧客に対して、どのような製品やサービスを提供するのが効果的であるか、どのような
104
性能や機能を具備すれば顧客に受け入れられるか、顧客にアピールできる付加的性能は何かなど
製品等に関する企画検討が必要である。
たとえば、地域特産のある果実を地域資源として活用して製品化する場合、どのような加工を
加えれば顧客に付加価値を付けた製品を届けることができるか、乾燥させるべきか、ジャムにす
るべきか、飲み物にするか、あるいは、糖度を上げるなど味そのものを良くして品質に付加価値
を付けるか等の企画検討が必要である。また、単に乾燥させるだけではなくそこに付加価値を付
けられないものか、それを実現させうる技術やノウハウがあるか等の検討をしておくべきであろ
う。

価格(Price)の視点
販売価格を算定するにあたり、相場価格の情報だけで決めたり、逆に原価から算出したりする
という問題が多く見受けられた。
また、製品の原価計算が適切に行われていない結果、全原価をカバーしていない、部分的な原
価で売価を見積もってしまい、売価が総コストを下回るという状況になっている事業計画もあっ
た。逆に、価格に比例するほどの付加価値がついていないのではないかと思われる商品に関して、
インターネットでその類似商品の価格を調べてみたところ、市場価格を大きく上回る価格を設定
しているという事業もあった。また、商品の優位性や「ブランド」を明確にしないまま、
「高価格
のブランド品」として売り出すという計画の事業もあり、予定どおりの販売やキャッシュフロー
が確保できないのではないかと思われる問題点が多く見受けられた。
販売価格を算定するにあたり、アンケート等により顧客に受入れられる価格、類似商品の価格
を調べるとともに、原価計算により製品原価を把握し、それらを見比べて売価を決定する必要が
ある。たしかに、ある程度相場があるものはそれに準じるという考え方もあるだろう。しかし、
見積もられる予想販売量と原価から適正価格を算出し、これを踏まえなければ、売れば売るほど
赤字になるという状況になりかねない。また、マーケットリサーチ等を実施して競合する商品・
製品等に対して競争力のある価格を算定することも必要である。そして、販売しようとしている
商品・製品等の特性や、差別化される品質や機能を有するかという顧客ニーズの点からみていく
らなら買う気になるのかという顧客視点の価格を考慮することも必要であろう。
最終的には、薄利多売とするか高級品として販売するのかといった販売価格方針も踏まえて、
原価割れせず、顧客に受け入れられ、しかも競争優位性のある価格を定めることが望ましい。

販路(Place)の視点
販売するエリアについては、地域内で販売しようとする事業が 12 事業、販売場所は地域内であ
るが観光客等地域外からの資金の取り込みを計画しているものが 4 事業、インターネット販売等
105
で地域外へも販売する予定の事業が 4 事業であった。
販売するエリアについては一定の検討をして方針を打ち出しているように思われる。しかし、
事業計画においては、たとえば、
「近隣地域への販売」との検討にとどまり、どのような流通経路
やチャネルを通して商品を顧客のところまで届けるのかという検討まで及んでいないという問題
点がある。
どのようにして商品を近隣地域へ届けるのか、または店舗のような拠点型であれば、生産地か
らどのようにして店舗まで製品を届けるのかという流通経路の設定や物流に関する活動などを検
討しなければならない。その際にも、競争優位の視点から、事業として何を重要視するのかを押
さえておく必要がある。たとえば、速さなのか、頻度なのか、時間帯なのか、どこに付加価値を
置き、他と差別化できるかという視点が重要になる。

宣伝(Promotion)の視点
事業計画で商品・製品等の検討はしていても、宣伝活動についてはほとんど検討されていない
という問題点がある。たとえば、営業活動として、
「PR 活動等」「イベントへの出店」等の記載し
かしていない計画が多く見受けられ、マーケティングや営業活動の検討をしたとはいえないとい
う問題点が多く見受けられた。
また、たとえば、コンパクトディスク(Compact Disc、CD)と CD デッキの関係のように、ハー
ドが普及していなければソフトが売れないという関係にある、ある燃料を生産・販売することを
計画している事業の事例である。たしかに、公的施設にはハードの導入が行われる計画になって
おり、それに見合う燃料の売上見込みはたつものと思われる。しかし、その売上だけでは計画し
ているキャッシュフローの創出には至らず、実際に販売先として一般家庭や事業者を計画してい
る。そこで、一般家庭や事業者に対して需要調査を実施した結果、ハードの導入需要は低調であ
ることが把握できた。そうすると、一般家庭や事業者にハードとその燃料のメリットをアピール
し、導入を後押ししなければならないと思われる。しかし、購入を意思決定づけるほどの宣伝広
告活動等の計画は立てられていない。これでは、事業化できるだけの需要を喚起できる見込みが
立たないし、売上を達成することもできないものと思われる。
顧客にどのようにして商品・製品等の存在を知らせるのか、購買意欲を掻き立てるのか、つま
りプロモーション戦略が必要である。たとえば、地域・地元特産品として、インターネットを通
じて販売したいという事業が多くあるが、どのようなネーミングにするか、パッケージデザイン
は消費者に受け入れられるのかについて検討すべきであろう。そして、何よりもその商品や製品
の競争優位性をどのような表現で、どのような媒体を使って、顧客にアピールすることができる
のかについて検討する必要がある。
販売数量を伸ばしたい場合は、単に「イベント等に出品する。」「インターネット販売する。
」と
106
の検討にとどまらず、どのようなイベントに出品するのが効果的であるのか、インターネットの
どのサイトで販売すると売り上げが伸びるのか、それとも自社のホームページのみとするのか等
の検討もすべきであろう。

活動内容と収支計画・投資計画の不一致
マーケティングに関して検討がされていても、活動内容と初期投資・収支計画が一致していな
いという問題点がある。たとえば、活動計画として、ホームページをつくる、駅前に広告塔を立
てる等の計画があっても、初期投資にそれらの費用が計上されていなかったり、イベントを開催
する、県外のイベントに参加する等の計画があっても、広告宣伝費や旅費交通費が収支計画に計
上されていなかったりするという問題点がある。活動するために必要な費用をすべて洗い出して
おかなければ、思わぬ支出が発生し、初期投資が不足したり、収支計画で想定しているキャッシ
ュフローを確保できなくなったりするという状況に陥る。
マーケティング戦略に必要な投資や経費をすべて把握し、収支計画や投資計画に反映する必要
がある。ただし、事業実施主体が他の事業も展開している場合、交通費や通信費等の一般経費等
は事業実施主体が負担したりすることも考えられる。何を事業実施主体が負担するか明確にした
うえで、事業が負担すべき支出を洗い出しすべて計上する必要がある。
3.3.4 生産体制や雇用の観点からの問題点と解決策
【問題点と解決策】

安定仕入の確保
地域資源を打ち出して、それを活用して飲料等の食品を製造しようとしているにもかかわらず、
地元生産の原材料確保の見通しがついておらず、その対策の検討をしていないという問題を抱え
る事業があった。また、木材や廃材を集めて燃料を生産するバイオマス事業のような場合は、仕
入先が限られることもあり、具体的な仕入先や集め方の見込みがついていないということがある。
この場合にも、同様に対応策の検討がなされていないという問題が見られる事業が散見された。
特に、地域住民やボランティアにより材木を集める計画を立てている場合には、どれぐらいの人
数、頻度で収集してもらえるものなのか、総量としてどれぐらいの収集量を見積もっているか等
の検討をしていない事業が多く、想定している量の材木が集まらないおそれがある。また、自然
界で生き物を確保し、育成し、販売するというような事業の場合には、安定的に生き物を確保で
きないというリスクがある。このようなリスクについて適切な対策が検討されていないという問
題点も見受けられた。
107
仕入先や原材料の確保に関する検討は、本来であれば、商品や製品のコンセプトを検討する段
階で、少なくともある程度の見込みについては調査検討しておくことが望ましい。すなわち、ど
のような地域資源があるか、それをどれぐらい活用できるか、どこから取得できるのかというこ
とは、商品・製品等の企画をする前提となるものだと思われるからである。
想定している量の確保が難しい場合には、他の地域で獲得できるものであればエリアを広げて
取引先を調査する等の活動が必要であるし、地域住民やボランティアにより材木を集める計画を
立てている場合には、説明会を開いたりアンケートを取ったりして、活動の具体的計画を作成し
参加者を募っておくことも必要であろう。

拠点型・場所貸し
たとえば、地域住民が集まる場所としてイベントや展示、物品販売等のために場所貸しをする、
つまり、ホール等を賃貸し、売上収入としては手数料を見込んでいるような拠点型の事業がある。
このような場合、本当にホールを活用してもらえるのかについては、何らの検討もしていないと
いう問題点がある。
拠点型の場合は、提供する場所や空間を活用して、どのような最終消費者に対して何を提供し
ようとしているのか、空間のコンセプトのようなものを明確にしておかなければならない。そし
て、それに合う展示物やイベントを招致する必要がある。場所貸しして物品販売する場合であれ
ば、想定している商品を出品してくれる販売者を探し、依頼しなければならない。このような「仕
入」や「生産」の活動についても検討しておく必要がある。
たとえば、観光客を顧客とする販売所において、近隣の農家に区画で貸し出し、農産物の売上
の何割かの収入を得るというような事業の場合、良い農産物の出品があれば、顧客が集まり、賃
貸収入の増加につながる。顧客が集まることを聞きつければ、近隣の農家が販売所を使う動機づ
けになる、という好循環を生むことができる。そのためには、事業のスタート時点で、近隣の農
家から良い農産物の出品をしてもらえるように、
「仕入」活動をしておかなければならない。

人材の確保
事業計画において、人材の確保、体制整備という面で検討をしている事業は非常に少ないとい
う問題点がある。
「2~3 名による生産体制である。
」等の検討にとどまり、具体的にどのような手
順で生産するのか、どのようなノウハウやスキルが必要なのかを検討していない問題点がある。
たとえば、地ビールを作る事業であるが、どの作業に何人、どの作業にはどのようなスキルを
要する人材を充てる等の検討がされていない。また、従来行ったことがない新規の事業を開始す
る場合、たとえば、組合や協会で宿泊サービスを提供することを計画している事業の例であるが、
108
宿泊施設の運営についてどのような体制を整えるのか、開業までの間にノウハウを得られるのか
といった検討がなされていない。
体制については、具体的に製造や販売に関して業務プロセスに落として、どの作業に何人必要
である等と計画し、さらに必要なスキルを明確にしておかなければならない。そして、特定のス
キルやノウハウを有する人材、特に難しいノウハウを有せずともよい人材、採用した後にある程
度の研修をすれば生産者として通用するようになる人材等、雇用したい人材像を明確にするべき
である。さらに、常勤なのか非常勤なのかなどを検討のうえ、具体的にどの連携組織や取引先へ
求人を打診するのか、どの媒体に採用広告を出すか、ハローワークに依頼するのか等の採用活動
計画が必要である。

研修計画・人材育成
研修等人材育成については、ほとんど検討をしていないという問題を抱えた事業が多く見られ
た。地域人材の活用も本交付金の目的のひとつであることから、何人雇用するかということだけ
ではなく、雇用したい人材のスキルやそれに合わせた育成計画なども検討しておく必要がある。
特定のノウハウ、たとえば地ビール造り等のノウハウが必要で、自社で研修できないのであれ
ば、近隣の醸造所等に研修を依頼できないか交渉することも考えられる。また、食品を扱う場合
には、衛生管理に関する研修の実施について検討しておく必要があると思われる。必ずしも研修
という形をとらなくても、必要な人材像のもと、OJT や生産段階での技術指導などを実施するこ
とも考えられる。
障害者を雇用して生産等を計画している事業の場合、障害者支援の観点からは、たいへん有意
義な取組であるが、事業運営という観点からは、具体的な研修や生産時のフォロー等について検
討されていないという問題を抱える事業が見受けられた。
3.3.5 地域での連携、事業推進体制(産学金官)における問題点と解決策
【問題点と解決策】

地域連携体制の未整備
地域の事業を推進する産学金官(事業における民間事業者、大学、地域金融機関、行政)の連
携体制について、具体的に参加し、連携し、支援をしてもらえる具体的な組織が決まっていない
という問題点がある。たとえば、体制図上でも、「地元農家」「地元商店」「金融機関」「大学」等
といった記述にとどまり、具体的な関連者の検討がなされていない事業が見受けられた。
たしかに、事業によっては、最終消費者に関しては、「観光客」「近隣住民」といったレベルで
109
の確定しかできないかもしれない。しかし、たとえば、観光地の「酒店」「旅館」「飲食店」に地
元ブランドの食材を卸す計画の場合、事業の推進体制の連携先として、地元の観光協会や飲食店
協会、旅館組合などを検討し、実際に働きかけることが必要であると思われる。また、難しい技
術や研究開発の成果を活用する製品の場合は、研究機関や地域の大学の関与も考えられ、早い段
階で連携や支援を求めておくことで、商品・製品等に付加価値を付けるという商品開発において、
協力が得られるかもしれない。そして、それらの連携者がどのような役割を果たすのか検討して
おくことも必要である。

事業のフォロー体制
事業が始まった後、事業の内容を誰に報告し、どのようなチェックを実施するのか、計画どお
りに進まない可能性が出てきた場合に、どのようなフォロー体制を整備しておくのか等の検討が
されていないという問題点がある。
事業継続の観点から、事業をチェックする体制の構築は重要である。計画どおりに事業が進ん
でいない場合には、早い段階で対応・処置を講じなければ、事業が継続できなくなるおそれが大
きくなる。誰が事業をチェックするのか、誰が管理するのかについても検討しておくべきである。
そして、事業報告を月次や四半期など、どのタイミングで行うのかについても合わせて検討して
おくべきであろう。
事業について、事業実施主体が管理するという事業も見受けられたが、自己チェックではなく
第三者がチェックすべきである。地域の調整役でもある地方公共団体、地域経済のコンサルタン
ト的な役割を担う地域金融機関が事業の状況をチェックし、連携する産学金官による対応策を講
じる等のフォロー体制を整備することも重要である。
110
3.4
先行事例 67 事業との比較において
十分な融資等を受けられなかった 20 事業は、先行事例 67 事業と比較して、事業計画の検討に
おいて、どのような点が違っていたのか、どのような検討が不足していたのかという観点から概
観する。
(1)事業計画全般
事業のコンセプトや「思い」はあるが、具体的に何をどうやって購入し、どのような付加価値
を付けて誰に提供するかという基本的なビジネスモデルが明確になっていないものが多いと思わ
れる。そもそも、提供する商品・製品等についてあいまいであり、仕入・生産・販売という基本
的なビジネスフローについて検討の緒についたにすぎないというものが多く見られた。
全体として事業化計画に取組始めたばかりという印象の計画が多く、事業運営、その後の継続
性に問題が見られることから、十分な融資等を受けるに至らなかったのではないかと思われる。
(2)売上計画
地域経済循環の創造に貢献する事業であるためには、事業がキャッシュフローを創造する収益
構造になっていなければならない。その源となるのが売上である。しかし、売上について、その
根拠、売価、販売数量が不明確である事業が多く見られた。
どれだけの販売を確保することができるのかについて、しっかりとマーケティングリサーチ等
を実施した上で、売上計画を策定する必要がある。
(3)地域における関係者間の連携
十分な融資等を得られなかった 20 事業は、産学金官の地域関係者の連携が弱い傾向にあった。
先行事例 67 事業は、新しい技術を大学と研究開発しそれを応用して商品化に至る事業や、町が取
り組んでいる空き店舗の活用や町おこしの一環として事業を計画するものが多く見られた。しか
し、20 事業は、このような具体的な地域における連携が弱いと思われる。
地域の課題を把握し、地域で眠っている地域資源を活用して当該課題を克服するとともに、新
規雇用を創出し、地域経済循環を創造するためには、地域における連携を強化する必要があると
思われる。
111
4.地域金融機関のリスクマネジメント等のあり方に関する調査分析
地域金融機関に対するアンケートを実施し、地域経済循環事業に対する評価の考え方、融資額
や融資期間の考え方などスクマネジメントへの取組について調査分析をした。
4.1 連携金融機関の取組状況全般及び事業計画に関する調査分析結
果及び課題
4.1.1 連携金融機関の取組状況及び課題
(1)地域金融機関に求められる役割 4
地域経済循環創造ガイドライン(平成 25 年 8 月 12 日(総行政第 121 号制定)以下、
「ガイドラ
イン」という)において、地域金融機関に期待される役割は「①事業の目利き機能や②事業継続
時の民間事業者に対するコンサルティング機能等であること。特に、地域金融機関が、当該③事
業により将来にわたって生み出されるキャッシュフローを評価して融資等を行うとともに、事業
継続のコンサルティング機能を果たす地域金融機関が企画段階から参画し、事業継続をより現実
的なものにしていくことが重要であること。
さらに、地域金融機関の融資等による「てこ」の存在により、より少ない公金の支出で大きな
需要創出が可能になる」とされている。
その趣旨に基づき、本交付対象事業は、当該地域の金融機関による事業性の審査を経るもので
あり、地域金融機関との融資契約締結が交付決定の条件とされている。
地域金融機関の融資審査を経ることにより、事業化に当たって想定される企業の事業プラン(ビ
ジネスモデル)が、当該地域で事業継続するために必要なキャッシュフローを将来にわたり生み出
すことが十分に期待できる収益構造になっているかについて、事業からの将来キャッシュフロー
の規模や確かさ、返済能力等が計られ、事業計画が精緻化することが期待できるためである。
本アンケートにおいては、事業化に当たって連携・融資を行う地域金融機関(以下、
「連携金融
機関」という)に対して、融資決定の前提となった事業計画についての総論的な意見も含め、事
業計画に対する多角的な意見を求めた。
本項では、ガイドラインが連携金融機関に求める役割に沿って、その役割に関する現状と課題
を記載する。
4
アンケート結果の引用部分は『 』で記載しているが、固有名詞や記載内容から事業が推測されないよう、表現
を変更の上、記載している。
112
(2)コンサルティング機能の発揮に関する現状と課題
本アンケートでは、対象事業の事業計画についての意見(総論)を求めた。
その結果、以下のとおり高い確率で事業計画の公益性の観点について言及されていた。
対象事業の雇用創出・社会的意義等の公益的性格について総論部分で触れている
連携金融機関
64.4%
本制度の中で連携金融機関に求めている役割は、対象事業が事業継続するのに必要なキャッシ
ュフローを将来にわたり生み出すことが十分に期待できる収益構造になっているかを審査するこ
とであるが、審査上、事業の公益性等の観点を重視している連携金融機関が多数認められた。
連携金融機関の融資審査は、対象事業の収益力やキャッシュフローの規模だけではなく、多角
的な要素を考慮して審査を行うものだと考えられ、公益性の高さを考慮するのは当然ではあると
考えられる。
代表的な意見として、以下のようなものがある。
アンケート回答例:

『地方公共団体の支援が得られることに加え、雇用機会創出や地域経済活性、今後の災
害対策の礎になるため融資した』

『国産産業の再興を促すための意義ある事業』

『本事業における事業の目的は社会的意義が高い』
多くの連携金融機関が、事業単体の状況のみならず、地域経済全体への影響を考慮している状
況を改めて確認できる結果であった。
なお、連携金融機関が、融資審査の過程で対象事業の計画上、何らかの要改善点を認識したの
であれば、即時に改善に向けて、指導・追加・修正等のコンサルティング機能の発揮が期待され
る。公益性を過度に重視することなく、事業からの将来キャッシュフローの規模や確かさ、返済
能力等を重視した審査を行い実現可能性が高い精緻な事業計画が作成されることで、その後の事
業継続可能は高まるものと思われる。
本アンケートだけでは、融資審査の過程で事業実施主体や地方公共団体との間でどのようなや
り取りがあったのか、十分把握できないものの、期待されるコンサルティング機能を果たし、計
画策定に積極的に関与していると思われる回答も見られた。
113
アンケート回答例:

『売上、仕入、経費など様々な要因により実績と計画が乖離することが想定されるが、
収支計画において売上高や経費などについて一定のストレスをかけて採算性を確認し、
最終的な収支計画自体も計画発案時より下ブレさせたものとしている』
上記事業は、事業の性質から社会的意義や公益性がかなり高いビジネスモデルであると考えら
れるが、公益性の高さを理由とするのではなく、事業計画・収支計画の妥当性を確保するために
積極的に指導機能を発揮して、事業計画・収支計画の策定に積極的に関与している良い事例と考
えられる。本対象事案は、計画策定から連携金融機関の事業継続コンサルティングが開始されて
いると考えられ、事業継続リスクは相対的に小さくなっているのではないかと思われる。
なお、交付申請に当たっての融資審査では、時間が限られてしまう中であっても、いつまでど
のような方法で解決するのか、地域経済の現状をよく知る連携金融機関だからこそできる具体的
なアドバイスの提供等、問題解決に向けた一層の積極的なコンサルティング機能の発揮が期待さ
れる。
そして、その後の継続フォローにおいても、課題・問題点や審査時に認識した重要なリスクを
重点的に継続してフォローしていくことが望まれる。
(3)事業の目利き機能の発揮に関する現状と課題
対象事業の融資判断において、交付決定を前提としている又はプラスの考慮要因として
いると考えられる回答金融機関 7.8%
本交付金は、公益性が高く「あと一歩」で実現できるような地域活性化に資する事業の初期投
資を援助するものであり、本交付金の存在が事業の将来キャッシュフローの改善に資することは
当然であると考えられる。事業実施主体が既存貸出先である場合には、既存事業の業績回復が副
次的に見込まれる場合もあるかもしれない。
アンケート回答例:
 『交付金による資金リスクの低減が図られるほか、融資先の既存事業との関連性も高く
114
事業化は可能と判断。また、積極的な投資による企業成長への機会づくりとして、交
付金受領を前提に融資決定した』
連携金融機関の審査に期待している役割は、事業性や将来キャッシュフローに対する見極めで
あり、地域の経済状況についての情報を多量に有していると考えられる連携金融機関の事業に対
する目利き機能である。
この目利き機能の発揮によって選び出された事業は、初期投資に対する助成がなされた後は、
連携金融機関のリスク負担のもとで、事業実施されるべきものであると考えられる。
(4)将来キャッシュフローの測定について関する現状と課題
本交付金は、「会社」に対して補助を行うものではなく、「事業」に対して補助を行うものであ
る。よって、連携金融機関に期待する役割も、交付対象の「事業」に対する目利き機能である。
一方で、連携金融機関の融資は、本事業計画に基づいた収支が優先されるものであるとしても、
「会社」5自体の信用力や経営者の人柄等を補足的に評価要素として総合的に判断しているものも
あると考えられる 6。
対象事業だけではなく、既存の取引実績や会社自体の信用力についても融資額・期間・
利率・保全等の判断要素としている回答金融機関
73.1%
アンケート回答例:
(融資額の決定要素について)
 『経営者の人柄』
 『設備投資に対する妥当性、ならびに企業体力とのバランス』
 『事業実施主体全体の事業計画を基に返済能力を判定』
同じ事業であっても、実施する主体の業務遂行能力によって、事業の成果や事業継続可能性は
異なってくるものである。たとえ、プロジェクトファイナンスであってもオペレーターの業務遂
行能力を評価することは信用リスク管理上、極めて重要な事項であると考えられる。本対象事業
についても事業実施主体の業務遂行能力を評価することは必要であり、本交付金申請における役
割として明確に以下のとおりの回答が見られた。
5 「会社」形態以外の事業実施主体も存在するが、この章では便宜的に「企業」
「会社」として記載する。
6 創業から2年以内の会社については、十分な信用力等があるとの仮定が立ちにくいため除外した 26 社を分母とした割合。
115
アンケート回答例:
 『
(事業計画の良い点)事業実施主体の販売力』
 『既存の取引関係から得た情報も踏まえ経営者の実行能力について判断』
しかしながら、事業の収益性より、企業体力を重視すれば、体力のある企業の比較的安定的な
事業がより選考され、地域経済循環創造に向けた革新的な事業を始めようとする自己資金の少な
い新規事業者の選定が困難となることにつながるとも思われる。
既存の取引からの情報により、事業実施主体自体の業務遂行力や信用力を過度に重視すること
なく、
「事業」の収益性を主眼とした事業性審査が望まれる。
そのような中で、事業実施主体の技術力の高さを事業の実現可能性を担保する要素として考慮
しながらも、事業単体での収益性の高さを融資審査で重視していると回答している例も見られた。
アンケート回答例:
 『事業の将来性、競争力を勘案した上での事業単体での収益性を重視した』
4.1.2 事業計画についての各論-調査分析結果及び課題-
連携金融機関が融資に際して重視している事業計画の要素としては、多様な回答があったが、
本項では、以下のような事項に留意した事業計画を作成すれば連携金融機関の融資決定に役立つ
のではないかと考えられる事項を記載する。
連携金融機関にはコンサルティング機能発揮を通じ、事業計画の策定への積極的な関与が望ま
れるところである。しかし、限られた時間の中で、まずは、本事業の融資審査をタイムリーに行
いうる事業計画の準備が事業実施主体や地方公共団体に求められる
116
(1)事業計画の記載に関するポイント

事業内容・目的・効果を明確に記載すること

図などを活用し視覚に訴えるようにわかりやすく記載すること

計画中の数値の根拠を明確に記載すること

極度に楽観的なシナリオに基づかないこと

事業計画の前に市場ニーズの調査を行っていること

詳細で完成度高いこと

具体性があること
ア.事業内容・目的・効果を明確に記載/図等を活用し視覚に訴えるようわかりやすく記載
事業計画書の作成上、事業の内容が連携金融機関に明確に伝わるよう記載されていなければな
らないのは当然である。加えて、事業目的と地域に与える効果、公益性や社会的意義について重
視する連携金融機関が多い中、事業の目的と効果を明確に記載し地域経済に与える好影響や公益
性の高さを強調することも有用であると思われる。
また、交付金対象事業は、産学金官の協力体制の中で行われることが予定される。そこで、事
業計画・収支計画を利用する者が多数に及ぶことも予定されるため、より視覚に訴える簡潔明瞭
さが求められる。
アンケート回答例:
 『域経済循環創造事業交付金による事業内容を図解にて説明され、わかりやすかった』
 『人、モノ、資金、流通等図解にされ、わかりやすく良かった』
 『視覚的にわかりやすくまとめられている』
イ.計画中の数値の根拠を明確に記載すること
事業内容が特に専門的な事業である場合でも、最終的に連携金融機関は数値に換算した判断を
中心に行うものであり、事業計画、収支計画で使用する数値については、あらかじめどのように
算定したものなのか算定根拠を明確に記載しておく必要がある。
算定根拠の記載が不十分のままであれば、計画の前提条件の妥当性も含めた深度ある融資判断
を適時に行うことが困難となる。
アンケート回答例:
 『市場相場等価格の根拠を示して欲しかった』
 『専門的技術を使用した製造コストに算定根拠を示して欲しかった』
117
ウ.極度に楽観的なシナリオに基づかないこと
通常、事業の売上高(収益)が増加する計画が作成されていると考えられる。増収に向けた各
種施策と共にレベルの高い水準の売上高(収益)を経営目標指標とすることもあり得ることだと
思われるが、連携金融機関においては、右肩上がりの計画、特にリスクの高い新規事業では好ま
れない傾向にあると考えられる。
売上増加の施策が不十分なまま、右肩上がりの計画を作成したとしても、融資審査上、売上高
をはじめとしたリスクを有する各種指標に一定のストレスを加味したうえで、融資金の返済が可
能かどうかを検証するものと考えられる。よって、そもそも計画が極度に楽観的なシナリオに基
づかないものである必要がある。根拠が希薄なまま、極度に楽観的な計画を作成する事業実施主
体に対しては、プラスの評価は得られないのではないか考えられる。
アンケート回答例:
 『右肩上がりの収益予想ではなく、最低ラインの売上推移で作成』
 『ストレスを探し保守的に収支計画を作成』
エ.事業計画の前に市場ニーズの調査を行っていること
実施する事業に対するニーズが、事業計画の全ての前提になければならない。連携金融機関も
独自に市場のニーズに対する情報を保有しているものと考えられるものの、実施予定の事業に焦
点を当てた明確な方法でニーズを確認した上で計画を策定しているものについては、事業計画全
体の実現可能性が増すものと思われる。
アンケート回答例:

『アンケートの実施等により、ニーズを明確化したうえでの事業計画としている』

『今後高いニーズが見込まれる商品提供により事業の妥当性は十分あるものと思料
する』
オ.詳細で完成度高いこと
事業計画の概要が作成されているのは当然必要であるが、詳細まで検討の上計画が作成されて
いる事業計画は、連携金融機関も高い評価を与えていると考えられる。
アンケート回答例:
 『事業計画の完成度が高い』
 『計画が詳細。目的効果わかりやすい』
 『多種に亘る事業内容の詳細を評価』
 『詳細な計画策定及びその把握が必要』
118
カ.具体性があること
単に、販売先・仕入先という抽象的な記載ではなく、可能な限り固有名詞まで記載することが
望ましい。連携金融機関は地域の商工業者や立地などの情報も豊富であると考えられ、事業実施
場所の立地は事業に不適である等のアドバイスや連携金融機関の取引先とのマッチングにより販
売先が確保される可能性も高まり、事業計画がよりよいものになることも期待される。
また、本対象事業は、地域連携体制の構築が事業展開上の鍵となるものもある。特に、事業実
施主体単体では解決が困難な事項を大学等の支援により解決する事業計画であれば、抽象的な記
載ではなく、◯◯大学の◯◯学部◯◯研究室等具体的な記載が好ましい。
アンケート回答例:

『販売先・仕入先、関連部署(県・市・大学・金融機関)の全ての関係が明確で具体
的に確立されている』
(2)事業自体の持つ性質に関するポイント

地元の雇用創出効果が大きい

地元経済への波及効果の大きさ

初期投資の額に工夫がある

生産技術の確立

「学」の協力が明確

適切な事業管理が期待できる体制
ア.地元の雇用創出効果が大きい
地域の雇用増加の問題は、全国各地の地域金融機関においても課題とされており、本アンケー
ト上、対象事業の雇用を増加させる要因について何らかの考慮要素等としてあげた先は 45 件中
27 事例(60.0%)に上っており、雇用創出は地域金融機関が最も重視する要素の 1 つと考えられ
る。
さらに経済波及効果で地域の関連産業に雇用が生まれるような場合には、地域を事業基盤とす
る連携金融機関から好評価を受けると思われる。
119
アンケート回答例:
 『地域の知名度向上、地区農産物のブランドイメージ確立、地域の雇用促進が期待で
きその効果は大きい』
 『過疎化が進行する同地域で地域内での雇用が図られ、また若者のUターンが見込ま
れることによって地域活性化につながっていくもの』
 『開発支援による新たな雇用増加等地域人材の活躍の場が広がることで地域活性化に
大きく貢献できるもの』
 『シルバー人材の活用にも触れられている』
イ.地元経済への波及効果が大きい
対象事業が、事業実施主体の事業のみならず、たとえば、地元農家から地元農産物を仕入れ加
工し域外へ販売するものであるとすれば、地元農家に波及し、農家の所得増加にもつながり、農
家の事業拡大からさらなる融資につながるような波及効果が大きい事業には高い評価を行ってい
ると思われる。
アンケート回答例:

『地元の雇用創出や PR 効果等、地域経済への波及効果が見込めること』

『地域経済への波及効果』

『事業実施主体のみではなく、地域資源を活用し地元企業への波及効果、及び雇用創
出が見込まれる』
しかしながら、商品・製品等の波及効果を過大に見積もることは、収益を強気に見込むことへつ
ながるものであるため、数値(収支計画)への織り込みについては保守的に行う必要があると思
われる。
アンケート回答例:事業リスクについて

『波及効果の過大評価』
ウ.初期投資の額に工夫がある
初期投資額が大きい場合『事業が軌道に乗るまでに期間を要する事業』となり、一般的に設備
投資を回収するのに長期を有するリスクの高い事業と判断される。よって、設備投資をはじめと
した初期投資に工夫がある事業計画は、事業リスクの低減につながり連携金融機関の評価は高く
なるのではないかと考えられる。
アンケート回答例:

『大掛かりな設備などを避け、実現性の高い計画』
120
エ.
「学」の協力が明確~生産技術の確立~
連携金融機関は、地域連携が密に図られている点も重視していると思われる。特に事業遂行上の
課題を事業実施主体内部で解決できない場合、大学の技術や研究成果によって課題を克服し推進
することに高い評価と期待をしていると思われる。そのような場合には、特に「学」の協力内容
を明確に記載する必要があると考えられる。
アンケート回答例:
 『本事業の最大のリスクは、地域の大学等との連携が進まず、課題が解決されないこと』
オ.適切な事業管理が期待できる体制
事業の全ての成果・リスクは、「最終的に数字(収支計画)に反映することから」、連携金融機
関の融資に当たっては、数字(収支計画)が重視される。また、その後のフォローにおいても進
捗状況を数値で把握・管理していくものと考えられる。
そのような中で、社内管理・経理・資金繰りができる人材の関与がなければ、連携金融機関とし
て必要な事業フォローや信用リスク管理ができない。事業の遂行に必要な管理体制を整える必要
がある。
アンケート回答例:
 『経理全般、収支・資金繰りに長けた人材を採用すべき』
4.1.3 連携金融機関の取組状況全般及び事業計画に関するまとめ
連携金融機関へのアンケート結果からは、地域経済循環創造事業の趣旨に対して総じて好意的
な意見が見られた。
「地元」を営業基盤とする地域金融機関にとって本事業の成功は、事業環境の良化にもつなが
るものと考えられる。本事業を契機として、事業単体にとどまらない地域への外部効果を一層大
きなものとするために地域金融機関の果たす役割は大きいものと考えられる。より一層の積極的
な取組が望まれる。
また、本事業は、産学金官の協力体制のもとで、情報を共有し事業を遂行していくことが期待
されており、本事業の事業計画や収支計画は、その協力体制の中で進捗状況を総括的に把握する
ためのツールとなる役割も期待されると考えられる。事業の進捗管理ツールとして有効に機能し
いくために、事業計画や収支計画のより一層の精緻化とその活用も望まれる。
121
4.2
融資額等に関する調査分析結果及び課題
4.2.1 連携金融機関の業態別割合
アンケートに対して、3 月 21 日までに回答があった対象連携金融機関は 62 行(92.5%)7で
ある。連携金融機関の業態別内訳は、以下のとおり地方銀行が 41 件(61.2%)となり、信用
金庫・信用組合 13 件の 3.2 倍を占めている。
連携金融機関の業態別割合
8
13%
地方銀行
13
21%
信用金庫・信用組合
その他
41
66%
※グラフ上段の数字は件数、下段は割合である。
4.2.2 融資額について
(1)融資額の概況
連携金融機関の融資額については以下のとおりとなっている。10,000 千円以上 30,000 千円以
下の貸付が 21 件と主流となっている。
7 4.3.1 以外は、平成 26 年 3 月 5 日時点でのアンケート(有効回答分のみ)45 件を使用し、グラフ及び割合の算定している。た
だし、それ以降の回収分についても可能な限り個別意見を取り込んで本報告書を作成している。最終的に先行事例 67 事業の連
携金融機関からすべてアンケートを回収した
122
融資額別(件数)
50,000千円超
6
30,000千円以上50,000千円以下
9
10,000千円以上30,000千円以下
21
10,000千円以下
9
0
5
10
15
20
25
件数
(2)融資額の決定要因
融資額の決定に際しては、設備資金であれば設備投資内容として妥当か、運転資金であれば運
転資金として正常な金額であるかを検討し、事業計画・収支計画をもとに収支計画のキャッシュ
フローの範囲内で返済可能な金額であるかどうかを判断しているというのが各回答を総合した融
資額の決定要因であった。
融資額の決定要因別の状況は以下のとおりであり、事業計画・収支計画・キャッシュフローを
融資額決定の要素としている回答が 24 件を占めた。
融資額の決定要因(件数・複数回答)
希望額
2
会社の信用力
(既往実績)
4
公的支援の存在
5
18
事業規模・投資規模
24
事業計画・収支計画・CF
0
5
10
15
20
25
30
件数
事業計画・収支計画・キャッシュフローが会社全体のものであるのか、対象事業単体のものを
123
指すのかそれとも双方であるのかは、回答内容から明確に判明しないものも多いが、融資額決定
の要素として明確に本事業の事業性を融資額決定で重視しているとの回答も見られた。制度趣旨
を理解した融資が行われているものと推察される。
アンケート回答例:

『本事業単体でのキャッシュフロー』
(3)事業計画上のキャッシュフローと融資額の関係
連携金融機関の融資額の決定に当たっては、一般的に資金使途や企業規模・返済期間その他種々
の要因を総合的に判断して融資が実行されているものと考えられるが、原則的には対象「事業」
から生まれるキャッシュフローによって返済がなされるべきものといえる。
以下は、融資額を提出された事業計画上のキャッシュフローで除した割合を示したものである。
主力は 1 超~3 以下であり 56%を占める。数値の性質上、キャッシュフローが多額に得られるよ
うな投資効率の良い事業については、この値が小さくなる傾向があると考えられ、理論的には、
事業からのキャッシュフローにより 1 年~3 年で返済できることとなるが、実際の融資期間の概
況(4.2.3(1)参照)と比して短期間となっている。
キャッシュフローに比して、融資額が少額にとどまっている場合は、地域に密着する地域金融
機関ならではの情報に基づいた潜在的なリスクがあるのではないかとの推論が成り立つ。
キャッシュフローと融資額の関係
10
22%
3
7%
1以下
1超~3以下
7
15%
3超~5以下
25
56%
※グラフ上段の数字は件数、下段は割合である。
124
5 超
4.2.3 融資期間について
(1)融資期間の概況
融資期間の状況については、7 年以上のものが主力となっており、新規事業の成長をフォロー
する体制が連携金融機関の融資及び信用リスク管理を通して、長期間期待できるものとなってい
ると考えられる。
貸出期間の範囲は、最長 20 年と事業の性質・資金使途によって様々なものとなっている。
融資期間(件数)
2
未定
4
3年未満
11
3年以上5年未満
12
5年以上7年未満
16
7年以上
0
5
10
15
20
件数
また、8 件(17.8%)の融資については、据置期間の設定がなされており、事業の立ち上げ間
際のキャッシュフローの少なさを配慮した返済方法が設定されていた。
(2)融資期間の決定要因
融資期間の決定要因としては、収支計画に基づきキャッシュフローを基本に決定しているとの回
答が 24 件と主力であり、特に設備資金の融資に関しては、設備投資資産の耐用年数を考慮してい
るとの回答であった。
125
融資期間の決定要因(件数・複数回答)
希望額
2
会社の信用力
(既往実績)
4
5
公的支援の存在
18
事業規模・投資規模
24
事業計画・収支計画・CF
0
5
10
15
20
25
30
件数
4.2.4 保全の状況について
ガイドラインは、
「民間事業者に対して地域金融機関は不動産・個人保証に過度に依存しない
ことを基本とし、事業性を十分審査し、融資決定を行うとともに、事業キャッシュフローの継続
的な把握に努めること」としている。
本交付金の対象は、新規事業であることから相対的に事業のリスクは高く、通常厳格な保全が
予想される中、事業の将来キャッシュフロー重視の審査をクリアした案件については、連携金融
機関のリスク負担のもと事業が行われることが期待される。
そのような趣旨を受け、保全の決定に当たり、担保・保証に過度に依存しないこと等を重視し
ていると明確に回答しており、うち 4 件は新設会社への融資でありながら無担保無保証としてい
るなど、連携金融機関の地域貢献に対する積極的な姿勢であることが伺われた。
アンケート回答例:

『地域への波及効果も高く、地域の活性化への貢献も期待されることから、物的担
保・人的保証に依存しない融資方法での支援を決定した』

『「地域経済循環創造」一環であることから、地域金融機関として地場事業の発展に
協力するべく、事業の趣旨に則り無担保・無保証での対応とした』
注目される事案も以下のとおり見られる。
126
金融機関種別
融資金額
信用金庫
5,000 千円
融資期間
10 年
金利
保全状況
1.0% 無担保・無保証
業歴
8.7 年
取引歴
8.2 年
当事案は、融資先が地域資源を用いた商品を新規開発し地域外資金の獲得を目指し地域経済好
循環を目指すものである。事業実施主体は売上高 21 百万円規模(申請前 3 期平均)の会社であり、
融資金額は既存事業の売上高に比して決して小さいものではなかった。
連携金融機関は、既存の取引関係から事業実施主体の経営上の課題は、高い技術力を有しなが
らも商品 PR 力の弱さであるとの認識を持っている状況であった。
本交付金の融資可否の検討を契機として、当該連携金融機関が提携する大学等を紹介し、商品
PR についてのアドバイスを受けることとし、新商品開発・販売においてより強固な事業体制を構
築した。
新事業自体は、事業実施主体の既存の流通チャネル等を活用できるものであり、新事業として
は、比較的低リスクの側面はあるとも考えられるが、産学金連携の力で事業(事業実施主体)の
弱みを克服し、官の支援へとつながるなど地域経済好循環へ向けて好スタートをきった事例と考
えられる。
4.2.5 事業のリスクについて
(1)事業のリスクに関する回答状況
新規事業である事業実施主体の事業のリスクについて、「最悪のケースを想定していることか
ら十分に盛り込まれている」
「既存の実績にも問題無く、リスクは少ないものと判断した」と回答
している連携金融機関も存在している。
しかしながら、回答 45 件中 37 件(82%)の連携金融機関は何らかのリスクを認識していると
の回答があった。
127
リスクの認識
8
18%
リスクを認識している
リスクを認識している
との記載なし
37
82%
※グラフ上段の数字は件数、下段は割合である。
特段のリスクを認識していると回答していない連携金融機関についても、以下のように、事業
自体にリスクを認識していないのではなく、リスクは事業計画に十分織り込み済で、連携金融機
関の関与のもと生じたリスクに対して適切な対応が図れる体制が構築されているという意味では
ないかと推測される。
アンケート回答例:

『売上状況や収益状況その他も最悪のケースを想定していることから事業リスクに
ついて十分に盛り込まれている』

『金融機関と共に計画策定している』

『金融機関の人材を投入し、ガバナンス・マーケティング部門の強化を図っている』
(2)連携金融機関のリスク認識種類及び評価方法について
回答連携金融機関が認識しているとするリスクの種類別の内訳は以下のとおりである。
販売先確保をはじめとする販売上のリスクを認識しているとの回答が 17 件と最も多いものとな
った。
128
リスク種類別(件数・複数回答)
7
その他
借入金の増加リスク
2
地域社会の理解
2
「官」の支援姿勢変更リスク
3
自然リスク
5
生産上のリスク
5
原材料のリスク
11
20
販売上のリスク
0
5
10
15
20
25
件数
販売上のリスク 8

新事業全般について、販路の確保や確保のための具体的な対応策が十分ではないのではないか
と連携金融機関が考えている回答が多く見られた。
アンケート回答例:


『販売計画について、販路の開拓がこれからの課題であり、本事業で一番のリスク』

『増産体制は構築されるが、対応した販売先確保はこれから』
原材料のリスク
本交付対象事業の中には、地域資源として農産物等を取り扱う事業も多く見られる関係で、農
産物を安定的に確保できないリスクを上げている回答が多く見られた。
また、木質バイオマス事業についても原材料となる木質チップの安定確保に関するリスクを挙
げている連携金融機関が見られた。

その他のリスク
地域市場に限定したビジネスモデルや地域への観光客が前提となるビジネスモデルについては、
事業実施主体単体では解決するのが難しいリスクも認識され、地方公共団体の支援体制がリスク
低減につながるとの回答が見られた。
アンケート回答例:


8
『地域の人口が限られ、近隣に消費者が少ないこと』
『観光客の減少が最大のリスクであり、そのリスクに対しては地域のリスクその
概ね2章の売上に関するリスク(2.3.1)
・競争力に関するリスク(2.3.1)及び営業活動に関するリスク(2.3.
129
ものである』

『観光客の増加リスク。地方公共団体の支援が必要不可欠である』、
(3)連携金融機関と事業実施主体の事業リスクに関する認識の乖離
連携金融機関が貸出審査に当たり、売上高、売上原価、その他指標のリスクシナリオを設定し、
そのリスクが生じた場合の債務償還能力をシュミレーションすることは、一般的な行動であり、
この、
「シナリオをどのように設定するか」は信用リスク管理上重要な問題と考えられる。
連携金融機関のうち 8 件については、具体的な指標を達成確率で割り引いているとの回答があ
った。
以下は、具体的なリスク内容について、連携金融機関の事業リスクに関する回答と事業実施主
体の交付金申請書のリスク認識を対比したものである。
販売先確保の問題については、
(2)に記載のとおり、全般的に課題が認められた事項であるが、
以下の 1、2 とも、連携金融機関が販売先確保のリスクを認識しているなか、事業実施主体は、受
注が想定以上となった場合のリスクを懸念しており、両者が乖離している状況が認められた。
関連主体ごとのリスク認識の違い
NO
1
連携金融機関
販売先確保
事業実施主体
生産能力不足か
ら需要に応えら
れない供給サイ
ドのリスクのみ
認識している。
2
販売先確保
生産能力不足か
ら需要に応えら
れない供給サイ
ドのリスクのみ
認識している。
3
原材料の価格
及び数量の安
定確保
食品製造業であ
り食品の品質管
理上の問題のみ
認識している。
リスク認識の乖離
交付金申請時において、販売予定先と具体的な協議
の途中で売買契約が決まったものではなかったが、
収支計画上、契約済と同じ確度での数値を計上して
おり、事業実施主体は、販売先リスクについての認
識を記載していない。
一方、連携金融機関においては、売上予想が計画に
達しないリスクを認識の上、一定の達成率で割引計
算し、その場合にもキャッシュフローが確保される
か検証の上、融資していた。
事業実施主体は、生産能力が低く、需要に応えきれ
ないリスクのみ認識している。
一方、連携金融機関においては、売上が計画に達し
ないリスクを認識し、一定の達成率で割引計算し、
その場合にもキャッシュフローが確保されるか検
証の上、融資していた。
事業実施主体は、食中毒、賞味期限切れ等食品の安
全供給体制についてリスクとその対応策を検討し
ている。
一方、連携金融機関においては、農産物の安定確保
(数量・価格)が計画達成には必要不可欠との認識
を、事業実施主体の収益構造の分析結果から把握し
ている。
3)に相当する。
130
(4)事業上のリスクに関する課題
連携金融機関の多くは、先述のように様々なリスクを認識しているが、事業の連携体制が構築
されているので吸収可能と考えているとの記載も多く見られた。

交付金申請書類作成に関わるコンサルティング機能の発揮
連携金融機関と事業実施主体の事業計画のリスク認識には(3)記載のとおり、一部乖離が認
められるものもある。事業計画書においてリスクを記載していない場合についても、リスク自体
を認識していないのではなく対応策の検討は実施している場合も多いのではないかと考えられる。
万が一、事業実施主体や地方公共団体がリスクを認識していないような場合は、連携金融機関
がコンサルティング機能を発揮し、リスクを指摘し、リスクの存在を認識してもらうことが、リ
スク管理の第一歩である。
また、本事業は地域の連携体制等も事業実施・継続のために重要な要素であり、かつ、事業の
連携体制が構築されているのでリスクは吸収可能であると考えているにもかかわらず、連携金融
機関が認識している問題や対応策が、事業全体のコーディネート役である地方公共団体等に共通
認識として伝わっているかが、課題である。
連携金融機関が融資するに当たっては、連携金融機関ごとに定められた融資手続・審査資料等
に基づき審査を行っており、その過程でリスクの把握と対応策の検討も行われているのではない
かと思われる。
本交付金の申請に当たっては、事業のリスクと対応策を記載する箇所があるが、事業実施の交
付申請の基となる事業計画書の精緻化についても、連携金融機関に一層のコンサルティング機能
発揮が期待され、精緻化された事業計画書等を道標として更なる地域の連携体制の強化が望まれ
る。
4.2.6 地域密着型金融への取組について
(1)産学金官地域ラウンドテーブルにおける具体的取組
「産学金官地域ラウンドテーブルは、地域経済イノベーションサイクルを構築するに当たり、関
係者のつながり(組織)として、地域ラウンドテーブルを構築・運営していくことが有効。地域
の元気創造事業者(産)、大学・NPO 等(学)、地域金融機関(金)地方公共団体(官)の連携の
131
下に、地域資源を用いた事業を通じて、農地・山林の再生や交流人口の増加等の外部効果や地元
雇用の創出が期待される。
」9
とされている。
本アンケートでは、産学金官の地域ラウンドテーブルのなかで、連携金融機関が地域でどのよ
うな役割を担い、どのような取組を行っているのかの回答を求めた。
地域経済が低迷しているなか、地域金融機関の貸出も伸び悩んでおり、地域経済の活力を取り
戻すための資金を循環させる地域イノベーションサイクル構築の重要性・必要性の認識や本交付
金が連携金融機関へ期待する役割や取組を理解していることがうかがわれる回答が多く見られた。
アンケート回答例:
 (役割)
『地域の心臓となり、お金を循環させること』
 『地域経済の発展とお客様のご繁栄を通じて社会貢献を図る』
 『事業の目利きやコンサルティング機能の発揮、企画段階から参画し、事業計画を現実
的なものとする』
 『事業継続のリスクマネジメントの実施』
また、具体的な取組としては、以下のような多数のメニューが回答されている。
・ビジネスマッチング支援
・産学連携支援
・技術評価支援
・創業・新事業支援
・ベンチャ―企業支援
・事業継承支援
・海外進出支援等
・経営改善計画の作成支援
・新分野等への進出支援
・地場金融機関として共有できる地域情報提供
「地元」が事業基盤である地域金融機関にとって、地域経済循環創造へのニーズは高いと考え
られ、かつ、地域の商工業の情報を大量に保有していると考えられるのであるから、目利き機能
を充実させ案件の発掘や事業継続フォローへの一層の積極的取組が望まれる。
積極的取組の例として、以下のような回答を記載しているところもあり、情報の発掘から交付
金決定・その後の事業継続コンサルティングまで一連のフローが構築されているのではないかと
9
「地域経済イノベーションサイクルについて」
平成 25 年 9 月 2 日
132
総務省資料
考えられ、各支店単位にとどまらず連携金融機関一丸となって地域経済好循環に取り組んでいる
と思われる好事例も見られた。
実際に下記連携金融機関は、複数案件の連携金融機関となっており、更なる事案発掘と今後の
事業継続に向けた積極的取組も期待されるところである。
アンケート回答例:
 『・情報の発掘:国の支援内容を理解し、取引先の中でそれに見合う事業を抽出する。
・実態把握:支援候補先に趣旨を説明し、了承を得ると共に事業の実態を詳しくヒア
リング
・案件の組み立て:ヒアリングした内容を元にビジネスモデルの構築と実現可能性に
ついて検討した。
・実行後のフォロー:融資金の保全を図ると共に計画に対する課題の解決に協力す
る。
』
 『地域の課題に対し、一緒になって考え行動する人材を育成している。本部において、
地域活性化の専門部署に人員を配置し、大学や地方公共団体へ出向させている職員と
の連携を定期的に図っている』
(2)本交付金申請にあたり果たした具体的役割と課題
本交付金申請にあたり融資(資金供給)以外に果たした役割については、事業計画策定の支援・
収支計画の審査や策定支援を行ったとの回答が多数見られた。
4.2.5(2)に記載のとおり、販路確保をはじめとした販売上のリスクを認識している連
携金融機関が多いなか、様々な業界知識や調査についてのノウハウを有していると考えられる連
携金融機関が事業リスク低減へ向け積極的なコンサルティング機能を発揮している以下のような
好事例がある。
アンケート回答例:

『計画を判断する上で、販売先ターゲットの市場については金融機関自ら調査、確認
を行った』
また、対象事業が事業実施主体単体では解決しがたい課題を保有し、地方公共団体のバックア
ップ体制が事業継続上不可欠である事業については、事業計画の実現可能性を評価するため以下
のとおり積極的な取組が行われている。
133
アンケート回答例:

『実施事業のビジョンと事業計画について地方公共団体の首長と面談・意見交換を実
施した』
(3)事業継続に向けた今後の役割と課題
事業継続にあたり、どのような役割やフォロー・コンサルティング・経営指導を考えているか
について、企業訪問・報告徴求の内容・頻度を含めた回答を求めた。
その結果、概ね以下のような回答状況であり、継続的に関与する体制は形成されているものと
考えられる。
 定期的(週 1 回~6 か月に 1 回まで)に訪問し、課題や問題点を把握する。
 定期的(月次/四半期/半年)に試算表を徴求する。
 ビジネスマッチング(情報の提供)
また、定期的な進捗管理のほか、地方公共団体の担当部署との間に速やかに協議できるホット
ライン体制を構築している例も見られた。交付対象事業は新規性が高く事業リスクも高いと考え
られるため、タイムリーにフォローできる体制を事前に構築しておくことが事業継続性を高める
うえで有効な手段であると考えられる。
本交付対象事業の存続には、事業実施主体自体の存続が大前提である。回答内容から融資先の
管理とコミュニケーションは十分期待できるものと考えられるが、融資先管理という視点にとど
まらず「事業」に対するコンサルティング機能発揮が望まれる。
既往取引から事業実施主体自体は信用力があると考えられる場合といえども、本交付対象事業
は、地域に新しい経済好循環を作り出す事業であり、新しい事業であることから生ずる各種リス
クがあるはずである。
事業実施主体の信用力や事業遂行能力の高さだけでは解決できない問題も、地域の力があれば
解決の途が開ける可能性もあると思われる。
事業実施主体の信用力に過度に依存することなく、地域経済好循環事業の連携金融機関として
求められる役割を適切に遂行していくことが望まれる。
アンケート回答例:

『事業実施主体は信用力がある取引先であり、特にフォロー、コンサルティング、経
営指導が必要とは考えていない。小規模で信用に不安のある取引先であれば、フォロ
ー、コンサルティング、経営指導が必要と考える』
134
その一方で、より大きな地域経済の活性化を目指し、事業のフォローを行うとしている連携金
融機関も見られた。地域経済の発展は、地域金融機関自体の発展にも大きな影響を与えるのでは
ないかと思われ、地域経済循環創造に向けてのより一層の積極的な取組が望まれる。
アンケート回答例:

『外部効果を前提としていることから一社の成功に止まらない効果がでるよう、周
りとのビジネスマッチングを図っていくことが重要と考えている』
135
5.事業化を検討する団体(企業)のビジネスプラン検討支援
5.1
支援の実施概要
相談内容としては、マーケティングに関すること、特に、付加価値や優位性の考え方、市場規
模の算出や4Pに関連することが多かった。さらに、顧客ターゲット、季節変動がある事業に対
する対応策についての考え方なども見られた。また、コスト面については、差別化するためのコ
スト増とコスト低減のバランス、利益を確保するためのコスト管理についての考え方などの相談
が見られた。
5.2
支援内容(相談及び回答)
相談件数が多かったものや、他の団体において事業実施計画検討の参考になりうる相談・回答
内容について、以下のとおり取りまとめる。なお、実際の相談シート及びその回答をもとに、他
と重複している相談を除いたり、内容を一部修正したりした上で記載している。また、実際には、
質問の量が多いものや、質問分野が多岐にわたるものは複数回にわたって回答している。
5.2.1 市場規模、優位性や 4Pについて
検討している事業の内容(ビジネスモデル):
○地域産物直売事業
地域の農業者が生産した農産物を食べごろの状態で預かり販売する。また、地元の漁業者が捕獲
した水産物を鮮度の良い状態で預かり販売する。
○飲食・惣菜加工事業
地域産物の特性をよく知る農漁家の人材を雇用し、地域産物を地元の知恵が詰まった昔ながらの
調理方法を取り入れて加工し、健康志向の高い地域外からの来訪者に提供する。
相談内容:
1.農水産物直売所の市場規模の算出方法について
2.事業競争優位性に必要な視点について
3.農水産物直売所でのプロダクト(商品・サービス)を考える上でどのような視点を取り入れ
るべきか
4.農水産物直売所でのプライス(価格)を考える上でどのような視点を取り入れるべきか
5.農水産物直売所でのプレイス(販路)を考える上でどのような視点を取り入れるべきか
6.農水産物直売所でのプロモーション(広告宣伝)を考える上でどのような視点を取り入れる
べきか
7.農水産物直売所でのブルーオーシャン戦略を考える上でどのような視点を取り入れるべきか
8.農水産物直売所での社会貢献満足度を考える上でどのような視点を取り入れるべきか
136
回答:
1.農水産物直売所の市場規模の算出方法について
市場規模とは、実際にはやや多義的に使われており、
「〇〇業界の市場規模」というときは、そ
の業界全体の市場の大きさを指すように使われますが、特定の組織が特定の市場で商取引をする
場合に使う市場規模とは、その特定の市場において商取引をする見込みの大きさを指し、市場規
模といわずに、市場シェア等という場合もあります。
いずれにしても、直売所が誰を顧客ターゲットとしているかを考える必要があります。地域住
民も否定できないとは思われますが、ここでは、地域を訪れる観光客と仮定して説明します。
後者でいう、特定の市場において商取引の見込みの大きさである市場規模を求める方法として
多数の方法があると思いますが、大きくは、前者でいう市場規模を求めたうえその何%のシェア
を得ることができるかと考える方法と、客数×客単価のように積み上げて考える方法があると思
います。
(1)シェアの考え方
シェアで考える場合は、地域の観光客が農産品を年間いくら購入しているか、地域の農水産品
のうちいくらが観光客向けに出荷されているか、観光客相手に農産品等を扱う店舗が市内にどれ
ぐらいあり合計いくらの売上規模になるか等について資料等で把握し、その何%を獲得できるか
という算定方法で考えることになると思います。県・市・観光協会等が統計を取っていればそれ
を使うことができると思われますし、総務省統計局の資料等で活用できる資料があるかもしれま
せん。仮に端的な資料がなくとも、何等かの代替資料で代用することを考える必要があるかもし
れません。
しかしながら、この考え方は、現在の市場の大きさをベースにするため、近隣には存在してい
ない直売所を作ることで、新しい顧客を開拓するような場合にはあまり適切な考え方ではないよ
うに思われます。
仮に、当該考え方をベースに、シェアとして何%かを検討する際には、一般に、生産能力、流
通能力、販売網の大きさ、商圏の広さ等により算出されることが多いと思います。直売所での取
扱商品量、地域の中でどの範囲の観光客が立ち寄るのか等を用いてシェアを算出することになる
のではないかと思います。なお、絶対にこのような方法というものではありませんので、把握し
やすい数値を用いても構わないと思いますし、ここで触れている以上にもっとよい考え方も存在
すると思います。
137
(2)客数と客単価の考え方
もう一つの考え方、客数と客単価で求める考え方の場合は、直売所で農水物を購入する観光客
数と客単価で算出することになると思われます。
観光客数の算出は、ターゲット顧客である近隣の観光客数×購買意欲率(購入率)や、類似直
売店の実績数などの統計から算出することになります。購買意欲率として、100 人の観光客数の
中で何人が農水産物を購入するかという統計が取得できるのであればよいですが、取得できない
ときは、近隣の実績数などをヒアリング等で把握することになると思われます。
客単価は、一般的に、アンケート調査、類似店舗での実績を使うことが考えられます。類似直
売店の実績を把握できるのであればそれを活用することがよいのではないでしょうか。本件は生
鮮品を扱うため、手に取って初めて購入するかどうかやこの品質であればいくらなら購入すると
いったことを判断することも想定されます。よって、アンケート調査では、正確な数字が求めら
れない可能性があります。しかし、回答者が、他地域での経験から、自分だったらどれぐらい支
払うのかという回答をすることで、ある程度は一人当たりの購買額の情報を得ることができるも
のと思われます。
そのうえで、実際の店や駐車場の規模、営業時間、近隣の道路事情、競合他社の存在などを加
味して具体的な額を確定することになります。
2.事業競争優位性に必要な視点について
一般的に、競争優位性とは、他者が模倣できないような商品を製造したりビジネスの方法を実
践したりする能力だと言われます。つまり、他者との比較であり、競争優位とは絶対的なもので
はなく、相対的なものであることから、他者の商品・製品等との「差別化」を図ることにより競
争優位である、または、他者の商品より安いことで価格優位であるとも言われます
商品・製品等の差別化による競争優位性に必要な視点としては、一概にこれだとは断定はでき
ませんが、経営学者コトラーが提唱するように「価値」があげられます。あるいは、
「ビジョン」
といってもよいかもしれません。何に価値をおくか、その価値を実現するための商品やサービス
を他者が模倣できないときに差別化による競争優位を認められます。
たとえば、経営学等でよく取り上げられるディズニーランドは、顧客の幸福感に価値をおき、
ディズニーランドは「幸福な場所」と位置付け、そのためにはサービスの効率性よりも笑顔や礼
138
儀正しさなど「おもてなし」の精神を重要視しています。そして、それを突き詰め徹底しており、
他の追随を許していません。まさに競争優位性が認められます。
3.農水産物直売所でのプロダクト(商品・サービス)を考える上でどのような視点を取り
入れるべきか
プロダクトを検討する視点として、様々あげられるとは思いますが、まず顧客ターゲットの立
場から必ず優位性を維持すべき点をはっきりさせることが重要であると思われます。そして、優
位性を保つための性能や機能、パッケージ等を検討し、必要に応じて仕入や生産体制等の変更を
検討します。
直売所で農水産品、惣菜、飲食を提供する予定であるとのことです。観光客に対して、それら
について何を優位として顧客に提供するのかを明確にして、その視点から提供すべき農水産物、
惣菜や飲食の品質やパッケージを検討します。たとえば、新鮮さで優位性を保つのであれば、収
穫・水揚げから店頭に並ぶまでの時間をできるだけ短縮することを検討しなければならないと思
います。
4.農水産物直売所でのプライス(価格)を考える上でどのような視点を取り入れるべきか
プライスを検討する視点として、一般に顧客視点、競合視点、自社視点があげられます。
直売所の場合、観光客や地元住民の立場から、
「この新鮮さでこの価格なら買おう」という価格
A が考えられます。近隣に観光客相手の農水産物の土産屋等の競合相手があるとしたら、そこで
販売されている価格 B があると思います。そして、農水産物の原価、人件費、直売所の維持管理
費等に利益を見込んだ価格 C を求めることができます。
これらの価格 A、B、C を比較して最終価格を決定することになります。
5.農水産物直売所でのプレイス(販路)を考える上でどのような視点を取り入れるべきか
プレイスを考えることは、どのようにして商品を顧客に届けるかという流通経路の設定や物流
に関する活動、販売する場所等を検討することになります。プレイスを検討する視点として、様々
考えられると思いますが、いかに顧客ターゲットに優位性を訴えうるかの視点が重要であると思
われます。
直売所の販売であることから、物流については、農家や漁師の手元から店頭に並ぶまでの流通
139
チャネルについて、顧客ターゲットに対してどんな優位性を保つかという視点から、どのように
販売チャネルを構築すべきであるかということを検討することになると思われます。たとえば、
一例として、
「食べごろ」の状態で販売することで優位性を保つならば、食べごろの状態で収穫す
るために、販売までの短時間の流通経路を構築しなければならないと思います。朝何時に収穫し
たものを、何時に店頭に並べるためには、だれか一人が農家から農産物を収集して回るのでよい
のか、農家から一定の時間までに持参してもらうのか、持参してもらう場合はどの距離・範囲の
農家でなければならないか等の検討をすることになると思います。流通に時間がかかるのであれ
ば、食べごろより少し前で収穫できるものとできないものとで対応が変わるかもしれません。
6.農水産物直売所でのプロモーション(広告宣伝)を考える上でどのような視点を取り入
れるべきか。
プロモーションを考える視点としても様々考えられると思いますが、顧客ターゲットにいかに
効率的に商品情報を提供することができるかという視点が考えられます。
直売所の顧客ターゲットは観光客であり、コアターゲットは直売所の近くに宿泊する観光客と
するならば、コアターゲットに対して、直売所において、高付加価値で手頃な価格の商品を売っ
ていることを、どのようにして知ってもらうかという視点で検討します。たとえば、一例として、
宿泊施設で宿泊客に夕食等で地元の食材を味わってもらい、チラシ・ポスターを配付して直売所
に来てもらうよう宣伝活動をすることなどが考えられます。詳細には、直売所の競争優位性(新
鮮、食べごろ、生産者の顔が見える等)をどのような表現で、どのような媒体を使って、顧客タ
ーゲットにアピールすることができるのかについて検討することになるものと思われます。
7.農水産物直売所でのブルーオーシャン戦略を考える上でどのような視点を取り入れるべ
きか。
ブルーオーシャンとは非競争的市場のことですが、いずれは参入者によりレッドオーシャン(競
争的市場)になる可能性があります。そこで、当初はブルーオーシャンの場合でも、その状態を
いかに継続するかという観点の戦略が必要になります。
直売店の場合、当初周りに同様な店舗がなくブルーオーシャンであったとしても、観光客が増
えれば他にも同様な店舗を開業する可能性があります。特に「地域産物直売事業」の参入障壁は
小さな店舗でも「直売所」と考えれば、比較的低いものとも思われます。そこで、常に新しい商
品やサービスを提供していくことが必要となるものと思われます。その際、一概には言えません
が、何を競争優位とするか、付加価値の提供をするかという視点で考え、差別化できる商品やサ
140
ービスを検討することが考えられます。
実際に検討するに当たっては、来訪者にアンケートをとるなどの調査をし、顧客が求めている
ものを把握したり、近隣の市場の販売状況を分析したり、いまだ提供していない珍しい農水産物
の提供や提供方法、新しい惣菜加工のメニューを研究したりすることなどが考えられます。
8.農水産物直売所での社会貢献満足度を考える上でどのような視点を取り入れるべきか。
昨今は、商品やサービスについて、社会貢献的満足、つまり、単に商品やサービスを提供する
のではなく、
「環境の負荷を減らす」といった社会問題の解決にも寄与しうるかという点でも評価
されるようになってきています。
農水産物直売所の場合は、食あるいは食生活についてどのような社会的問題が存在しそれをど
のように解決しうるか、たとえば子供あるいは高齢者の食の問題、食文化継承における問題など
の視点から検討しうるものだと思われます。また、農水産物の流通や市場形成の点からどのよう
な社会問題が存在し、どのように解決貢献できるかという視点から検討することも考えられます。
その他にも、労働の場が少ない、交流の場が少ない、観光客の減少といった地域の問題解決に寄
与するという視点からも検討しうるものと思われます。
141
5.2.2 顧客ターゲット、価格設定、付加価値の創造について
検討している事業の内容(ビジネスモデル):
〇農家レストラン
市内にある古民家を活用し、地域の人が地域のブランドを使用した伝承料理を主とする農家レス
トランを整備する。
相談内容:
1.顧客ターゲットをどのように検討すべきですか。
2.メニューについては、市の特産品を主体に、地域の食材を使って市に伝わる伝統料理を検討
しております。そこで、どのような価格設定をすればよいのかご教示願います。
3.継続的に運営していくために、どのように付加価値を付けていけばよいでしょうか。
回答:
1.顧客ターゲット
顧客ターゲットを決める切り口として、まず現在の市場(地元顧客)と未開拓の新規市場(た
とえば広く県外からの顧客)の2つが挙げられます。
未開拓の新規市場を獲得できれば、大幅に売上高を増加できる可能性があります。一般的にブ
ルーオーシャン戦略と言われます。競合相手のいない未開拓市場を切り開く戦略をいい、仮にブ
ルーオーシャンであっても、将来的にもそれを持続させる戦略も含むものと思われます。競合相
手がいなければ、当然、顧客の便益に見合うような高い販売価格が付けられることになります。
しかし、非顧客層は相当数存在するので分析に時間が掛かりますし、非顧客層への接近に大きな
コストを要します。新規顧客獲得コストは、既存顧客を維持するコストの 5 倍以上になるとも言
われています。リスクの観点からみれば、このようなチャレンジは後のステップで行い、まずは
既存顧客をターゲットとする方が得策かもしれません。
この観点からいえば、遠方からの顧客をまだ開拓していないのであれば、顧客ターゲットを地
元の人と設定することは望ましいといえます。仮に、休日のみのターゲットは遠方から訪れる観
光客とする場合は、メニューや嗜好等も異なってくるため、経営からはやや非効率になるかと思
われます。
そこで、県外から訪れる遠方の方々を最終ターゲットにしつつも、まずは地元の方に地元食材
を使った料理、デザートを提供し、伝承料理を主体の農家レストランとして浸透させていく(1)
142
市場浸透型で「地域ブランド」の地位を確立させて、県外を訪れる遠方の方々を呼び込む(2)
市場開拓型へとターゲットの展開を図っていくのも一つの手段かと思われます。
(1)市場浸透型(ターゲット:地元民)
「地域ブランド」はいずれの対象物も地域に深く関わりを持ち、地域内の消費者(生活者)に
評価され、地域の人々が主体的な担い手となって送り出されていくものです。つまり、最初のマ
ーケットはその地域であり、その地の生活者であるといえます。地産地消を取り込んだ「地域ブ
ランド」が、まずその地域の人々の心を捉え、地域に根差したものとなることで、安定したコア
な顧客を獲得し、同時に、その地域でしか手に入らないという希少性・限定性が付加価値となり、
ブランド化に向けての弾みとなり、新たな市場への展開が理想的に図れるといえます。
(2)市場開拓型(ターゲット:観光客)
郊外の顧客をターゲットとし市場を開拓していくには、確立した「地域ブランド」を発信して
いく必要がありますが、そのためには「グリーンツーリズム」(注)活動との連携やお弁当の店頭
販売・配達、地元イベント等とのコラボレーションによる販売等を積極的に行うことで顧客を取
り込んで行くことが考えられます。また、広告宣伝手段として、たとえば、販売代理店や業界団
体を通じて宣伝してもらうこと、新聞やネット上で広告を出すことが考えられます。
(注)グリーンツーリズム:農山漁村を訪問して、その自然と文化、人々との交流をありのまま
に楽しむ余暇形態。物見遊山型の観光的余暇とは違って、比較的安価にゆったりと過ごすところ
に特徴がある。都市住民は自然体験や農業体験、加工体験などの農村の暮らしを学び、あるいは
農村伝来の食文化に舌鼓を打つ。農村住民は都市住民に対して農産物や加工品だけでなく、農家
レストランや宿泊サービスを提供する。
2.価格設定
価格設定を検討する視点として、一般に顧客視点、競合視点、自社視点があげられます。
(以下、
5.2.1 の4.参照)
レストラン業界で一般的になっている具体的な価格決定法としては、
(1)原価プラス価格決定
法(コスト・プラス法)と(2)目標利益率基準価格法(マークアップ法)の 2 つの方法を挙げ
られます。
143
(1)原価プラス価格決定法(コスト・プラス法)
原価に一定額の利益額(マージン)を加えて、価格を設定する方法です。
コスト・プラス法は、非常に簡単に価格を決定できる方法であることから、幅広く利用されて
います。
価格=原価+利益額
(2)目標利益率基準価格法(マークアップ法)
原価に一定率の利益を上乗せして、価格を設定する方法です。たとえば、80 円で仕入れたタマ
ゴを 25%の利益を乗せて 100 円と値付けする方法です。
この利益(マークアップ)率は、我が国の流通業界では、「値入率」といわれているものです。
価格=原価+原価×利益(マークアップ)率=原価×(1+利益率)
3.継続的運営のための付加価値
事業継続のための付加価値を検討することは大変難しいことだと思いますが、検討する視点と
して、顧客ターゲットの立場から必ず優位性を維持すべき点をはっきりさせることが重要である
と思われます。そして、優位性を保つための料理やサービス等を検討し、必要に応じて仕入素材
やメニュー等の変更を検討します。
また、たとえば市内の公共交通網は脆弱で、車を所有しないと暮らしにくい状況であれば、顧
客の立場からすれば、レストランに広い駐車場があれば良いということになります。そうすると
駐車場の確保を検討することも必要になるものだと思われます。このような受け入れ体制の整備
も付加価値を生むことにつながるものだと思います。
市内にある古民家を活用し、地域の人が地域のブランドを使用した伝承料理を提供するとのこ
とです。そこで、たとえば、顧客ターゲットを(1) 市内の子育て世代の女性、さらに将来的に
(2)遠方から来られるのどかな田舎暮らしに興味がある方とすれば、それぞれに対して、何を
優位性として、何を提供するのかを明確にして、その視点から提供すべき伝承料理、県の食材を
使った料理、デザート等を検討することが必要になると思われます。
(1)市内の子育て世代の女性
あくまで一例ですが、地元の子育て世代の女性を顧客ターゲットとする場合、子供連れの方が
多いと予想されることから、子供と一緒に食べられるようなレストラン内の雰囲気の整備や、親
が子供と地元の伝承料理の話題ができるような情報の整備、栽培・収穫・調理を通して子供が食
144
に触れることを目的とする野菜の種まきや収穫、調理などの体験ができるような企画の用意、素材の
持ち味やだしの旨味を生かした離乳食のメニューの整備等、他では見られない付加価値を創造す
ることで、地元民のファン化を促していくことなどが考えられます。
(2)遠方から来られるのどかな田舎暮らしに興味がある方
これも一つの考え方にすぎませんが、遠方からの顧客をターゲットとして市場を開拓していく
には、確立した「地域ブランド」を発信していく必要があると思います。上述したように、グリ
ーンツーリズム活動や地元イベント等とのコラボレーションとともに、顧客ターゲットが認識し
やすいベネフィットを打ち立てることが付加価値の創造につながると思われます。
たとえば、何をベネフィットとするかにもよりますが、市内にある古民家は都会の喧騒を忘れ
る空間であり、地元の新鮮な野菜、無農薬で栽培された米により調理された伝承料理で、精神的
にリラックスでき、美や健康にも良い等、医食同源に直接響く情報を顧客に発信し続けることな
どが考えられます。健康を保つためには毎日の食べ物が必要であり、その土地での旬な食べ物が
健康に良い影響を及ぼすといった、顧客にとってわかりやすいメッセージを発信し、その土地へ
足を運ぶ動機づけとなりやすいメッセージやアピールの方法を検討する必要もあると思われます。
145
5.2.3 販路の開拓、付加価値の創造について
検討している事業の内容(ビジネスモデル):
〇竹チップ堆肥生産
竹害防止と景観回復のため竹林を整備しながら「竹チップ堆肥」を生産している。
相談内容:
現在、竹チップ堆肥を地域内のみで行っており、生産量について在庫が発生しています。販路拡
大と販売価格に更なる付加価値を付けるためのビジネスプランについてご指導をお願いします。
回答:
1.販路の拡大
一般に、販路とは、商品の売り先、すなわち販売チャネルのことであり、販路拡大とは、その
販売チャネルを増やすことですが、販売拡大の意味でも使われることがあります。ご質問から、
竹チップ堆肥を地域内のみで行っているとの内容であるため、他地域への販路拡大、販売チャネ
ルの拡大に重点を置いて質問され、また、最終的には販売拡大を目指しておられると理解いたし
ましたので、それに関連して回答します。
(1)環境分析
販路拡大を考える前提として、まず、経営環境の現状把握から始める必要があると思われます。
様々な手法があげられますが、
「強み」
(Strength)
、「弱み」(Weakness)、
「機会」(Opportunity)、
「脅威」(Threat)を把握することによる SWOT 分析などが活用できると思われます。(なお、必ず
しも SWOT 分析による必要はありません。事業の内容やその環境・事情にあった手法で検討すれば
よいと考えております。
)経営環境の現状を把握した結果、強みを機会に投入できるか、脅威に備
えて弱みをカバーできるかなどを考えることになります。ご質問の内容から読み取れる事情の範
囲で、例として下記のような分析を試むことができると思います。
ご相談の内容からわかることは、現状の販路は地域内のみであること、生産量に対してまだ他
に販売する余地があること、竹害防止と景観回復のため竹林を整備する過程で竹チップ堆肥が作
られることなどです。
これらから把握できることは、まず、
「機会」は、地域の外であると思われますが、現実に竹チ
146
ップ堆肥のニーズがある地域とはどこなのかを調査しなければならないと考えます。また、地域
内でも、今までプロの農家だけを顧客ターゲットとしていた場合には、園芸を趣味にする個人の
顧客が潜在的に存在するかもしれません。このように様々な視点から、機会を探索する必要があ
ると考えます。
次に「強み」ですが、販売余力があることは1つの強みと言えるかもしれません。しかし、必
要に応じて、いつでも増産する体制にあるというのではなく、竹害防止と景観回復のため竹林を
整備する過程で竹チップ堆肥を生産するという制約があるのであれば、予想以上に売上が拡大し
た場合は、生産が追い付かず、顧客の信頼を失うことも考えられ、そのことが、逆に「弱み」と
もなりかねません。
さらに、下記で触れるように貴団体の製品が、他社の製品に比較して付加価値が認められない
場合は、競合他社の存在は、「脅威」となります。また、他地域のニーズを調査した結果、「竹チ
ップ堆肥」ではなく「他の堆肥」であることも考えられ、他の堆肥が「脅威」となる可能性もあ
ります。
(2)マーケティング戦略
以上のような経営環境の把握分析を前提に、販路拡大のマーケティング戦略を検討します。
マーケティング戦略とはいっても、様々な考え方や手法があり、たとえば、一例として、4P
の視点からのアプローチなどを活用して検討することが考えられます。4P とは、
製品(Product)
、
価格(Price)
、販路(Place)
、宣伝(Promotion)の頭文字をとったマーケティングツールですが、
本件の相談である販路拡大、つまり、販売チャネルを新たに作ることは、販路(Place)の視点か
らのアプローチがメインになると考えられます。
そうすると、たとえば、新たに他地域に出店すること、販売代理店を新たに開拓すること、フ
ランチャイズシステムを構築すること、IT(情報技術)を利用した販売システムを構築すること、
既に販売チャネルを持つ会社を買収すること、園芸団体その他の業界口コミなど、様々なアプロ
ーチが考えられ、また、それらを選択することや併用することなども考えられます。
しかし、販売チャネル(Place)を新たに作るだけでは、必ずしも販売拡大が実現できないこと
も考えられ、商品の品揃え(Product)
、合理的な価格設定(Price)
、広告・宣伝手段(Promotion)
を明確にすることも必要になると考えられます。
商品の品揃え(Product)については、たとえば、同じ製品であっても、ロット別に、プロの農
家のような顧客には大きなロット(たとえばフレコン)で販売し、個人の顧客には小さなロット
(小袋)で販売することなどが考えられます。合理的な価格設定(Price)については、販売価格
147
に更なる付加価値を付けることを志向されているので、競争相手よりも低価格にすることはない
としても、たとえば、大量に購入する顧客や定期的に販売できる顧客には値引きすることなどが
考えられます。広告宣伝手段(Promotion)については、たとえば、販売代理店や業界団体を通じ
て宣伝してもらうこと、新聞やネット上で広告を出すこと、機会があると思われる業界や地域で
のイベントの開催や参加などが考えられます。
2.販売価格に対する付加価値
「販売価格に更なる付加価値を付けること」、すなわち、如何にして製品に付加価値を付けて販
売価格を上げるか、という相談であると理解され、様々な戦略あるいは視点があると思われます
が、たとえば、高付加価値戦略(差別化戦略)やブルーオーシャン戦略などの観点から検討して
います。
(1)高付加価値戦略
高付加価値戦略とは、様々な定義や考えがあると思いますが、たとえば、コストをかけて高品
質・高機能な商品を製造し、顧客の便益に見合うような高い価格で販売することなどと定義でき
ると思われます。そして、高品質・高機能とは、
「ブランド」、
「商品のパッケージ」、「当社の行う
サービス」など、商品に関わる様々なものを含みます。
貴団体の製品である「竹チップ堆肥」について考えてみます。まず、「ブランド」については、
地域内のみでの取扱いということから、他地域ではこの製品は認識されていないと思われますの
で、たとえば、松坂牛、関あじ・関さばなどのようなブランドを確立することが考えられます。
たしかに、ブランドの確立には時間、手間、品質、アイデア等様々な要素が必要であり、一朝一
夕に作り上げることができるものではありません。とはいえ、長期的に事業を継続される場合に
は、ブランドを確立することは、製品に高付加価値を付けることにつながり、当然高い価格で販
売することにつながることになると思われます。
また、
「商品のパッケージ」について、品質には直接関係なくても容器やパッケージなどに工夫
を凝らし、商品名を工夫すること等で、評判を呼ぶなどして販売価格に反映できる可能性も考え
られます。
さらに、
「当社の行うサービス」に関して、たとえば、注文から配達まで短時間であるとか、不
良品の返品に即座に応じる、販売ロットを顧客に合わせる又は多数のロットを取りそろえる、他
の堆肥や備品などと組み合わせて販売する、製品を売ったあとの相談に応じる等各種サービスを
充実させて販売価格に反映させることもあり得るのではないかと思われます。
148
(2)ブルーオーシャン戦略
ブルーオーシャン戦略とは、一般的に、競合相手のいない未開拓市場を切り開く戦略をいい、
仮にブルーオーシャンであっても、将来的にもそれを持続させる戦略も含むものと思われます。
競合相手がいなければ、当然、顧客の便益に見合うような高い販売価格が付けられることになり
ます。
貴団体の製品が具体的にどの様な製品であるかは不明ですが、たとえば、
「竹チップ堆肥」を高
品質とするための「何か」の品質を付け加えることによって、それ自体で付加価値とすることも
できます。さらに、今までに考えられなかった用途を提供することができ、ひいては非競争的な
市場で販売できるようになるかもしれません。また、販路の拡大とも関連しますが、海外で認め
られ受け入れられるのであれば、そこに競争相手がいなければ、非競争的なブルーオーシャン市
場を確立できる可能性も否定できません。
149
5.2.4 副商品の生産販売、付加価値とコスト削減
検討している事業の内容(ビジネスモデル):
〇ワインの製造販売と農家レストランの経営
地元果実によるワイン製造販売、それが軌道に乗った後は農家レストランの展開も考えている。
相談内容:
1.ワイン製造は稼働するシーズンが決まっているため、他のリキュールの生産を行うことも選
択肢の1つと考えられます。そのメリットとして、工場の稼働率を高められることなどがあげ
られますが、ワインのみ製造した方がいいのではないかと関係者の中で意見が分かれています。
この点についてご教授いただきたい。
2.ワイナリーの完成後、農家レストランの営業を考えていますが、食材の多くを地元産品で調
達した場合、F/L コスト(注)が大幅に上昇してしまう可能性があります。この点についてご
教授いただきたい。
(注)F/L コスト=材料費(Food)+人件費(Labor)
回答:
1.ワイン稼働シーズン外での他のリキュール生産について
ワイン稼働シーズン以外の期間を利用し、新商品を開発するという発想は企業規模の拡大や雇
用の確保の視点から有効な手段と思われます。他方で、地域の製造ノウハウを利用したワインと
いう商品のみをまず市場に浸透させ、地域ブランドを確立させていく考え方もあるといえます。
一般的なセオリーとして、企業が成長する過程では、既存の商品を既存の市場に浸透させてい
き(市場浸透戦略)、次に新製品を既存の市場に販売していく(新商品開発戦略)。その後、ブラ
ンドの確立と共に、新市場を開拓していく(市場開拓戦略)循環をとると言われます。
貴団体が悩まれているのは、地元産ワインをまず浸透させていくことを重視するのか、もしく
はワインの市場浸透を重視しつつも、ワイン稼働シーズン外で新商品たるリキュールを生産・販
売していくのかという視点かと思われます。貴団体がどの段階にいるのかを見極め、以下のよう
なことを検討する必要があると思われます。
市場浸透戦略では、たとえば既存の商品(ワイン)を使って既存の市場で成長しようと考えた
場合、通常は、同一顧客の購入頻度を高めることや、販売ボリュームを増やすとかの工夫が必要
になります。かつて、コカ・コーラのキャンペーンが、「喉の乾きにコカ・コーラ」(喉が渇いた
時に飲む)→「いつでもどこでもコカ・コーラ」
(喉が渇いたときだけでなくリフレッシュのため
150
に飲む)→「No Reason コカ・コーラ」
(理由もなく飲む)と展開していったのは、既存市場で既
存使用品をいかに多頻度で飲ませようとしていたかの顕著な例と言えるでしょう。
貴団体の製品がいまだ市場に浸透されていないのであれば、購入頻度やボリュームを増やすこ
とについて検討する必要があると思います。しかし、生産している製品をすべて販売されている
場合には、当該戦略はあまり効果的ではないと思われます。
新商品開発戦略は、既存市場に新商品(他のリキュール)を出して成長していくという考え方
です。ただし、新商品を開発するには、新素材の仕入コストの発生や新しい製法・技術の導入コ
ストがかかると思われます。
貴団体の場合、リキュールの生産を開始することで新たに生じるコストとそれにより見込まれ
る売上との費用対効果の視点で判断されるべきではないかと思われます。また、リキュール生産
により、本業のワイン製造やオフシーズンに集中的に実施できる宣伝広告活動に支障を与えるか
否かの視点も判断材料の一つかと思われます。いずれにしても、オフシーズンに他の製品を製造
することの定性的な分析のみならず、定量的な分析を実施することが必要です。
2.農家レストランの営業において一部食材を他地域から調達することについて
F/L コスト(注)の目標値ですが、通常は、FL 比率(F/L コスト÷売上高)を用いて考えられ
るものだと思います。
(注)F/L コスト=材料費(Food)+人件費(Labor)
FL 比率からみる店舗の状況として、一般的に、以下のように判断されるといわれています。
①50%以下
売上も十分に確保できており、原材料費、人件費、ともに優れた管理ができていて運営上は申
し分ない。
②50%~55%
原材料費、人件費ともしっかりした管理水準にあるといえる。売上とのバランスもあるが、比
較的レベルの高い店舗である。
③55%~60%
数字で判断したいと考えている店舗の多くは、このレベルに安定的に入ることができるように
努力している。一般的には経営は悪くないほうだといわれる。
④60%~65%
現実的にはこの範囲のレベルに入る店舗が一番多いと思われる。原材料費、人件費ともにコス
151
ト削減の努力をしているが、売上が伴わない店舗が多いともいわれる。
⑤65%~70%
運営的には厳しい状況にあるといわれる。売上とコストのバランスが崩れていると思われるレ
ベルである。
⑥70%~75%
店舗営業が成り立たないレベルだと言われる。抜本的な改革が必要だと思われる。
(参考文献「飲食店情報館」 URL http://30.food-pocket.com/)
FL 比率 55%を基準として、60%を超えると利益が出にくくなり、65%以上では、概ね赤字になる
と言われています。FL 比率を良くするためには、第一に、売上目標を達成させることです。目標
とするだけの一定額以上の売上高がなければ、F/L コストは悪くなります。 第二に、仕入を把握
し徹底的に管理することです。棚卸を行い、原価率を管理します。 第三に、無駄な人件費を見直
します。
したがって、FL 比率をよくする観点からは、地域的に特徴のあるもの以外は他の地域から調達
し、コスト管理を図ることは効果的であるといえるものと思います。しかし、農家レストランの
営業は、
「地産地消」の取り込みによる地域ブランドの確立、地域の活性化を志向されていること
と思われます。
「地域ブランド」は、いずれの対象物も地域に深く関わりを持ち、地域内の消費者
(生活者)に評価され、地域の人々が主体的な担い手となって送り出されていくものです。つま
り、地域の素材、地域の消費者にこだわる必要がああります。
そこで、まず、貴団体の FL 比率を算出し、どれぐらいまでであれば地元食材の高コストを負担
できるかを見極めたうえ、地域ブランドの確立や地元食材を扱う農家レストランの志向を阻害し
ない食材については他の地域から調達するという検討をすることか考えられます。
たとえば貴団体において FL 比率を下げることを目標とした場合、まずは売上目標を達成するこ
とが重要ですが、売上が見込みどおりの場合は、仕入コストの改善を図ることになります。この
場合、全面的に協力が得られるダイニングレストランのネットワーク等があればそれらを利用し
て、安価なコストで仕入れることも考えられます。それでもなお FL 比率を下げる必要がある場合
は、農場内で生産された食材、メニューで絶対に地元食材でなければならない等、特徴あるもの
は自給もしくは地元より調達し、それ以外の食材等は安価で仕入れることのできる外部から調達
し、FL 比率を低く抑えることも考えられます。
152
5.2.5 人材像、安定的事業の継続について
検討している事業の内容(ビジネスモデル):
○作業体験(網魚等)を核としたツーリズム事業
○網魚等による食材を利用した加工販売事業
○網魚等の食材を利用したレストラン事業
相談内容:
1.ツーリズム事業において、必要な人材像についての考え方
2.安定的に事業を継続していくための視点
回答:
1.必要な人材像についての考え方
バリュー・チェーン分析とは、一般に、企業活動の各プロセス経て、購買、生産、物流、販売
などの各プロセスの価値を高めるか、競合との差別化を図ることにより、マージン(利益)の最
大化を目指すための分析をいい、業界の鍵となる成功要因を特定するために有効であると考えら
れます。ツーリズム事業のバリュー・チェーンは、概ね、企画、営業(集客)、サービスの提供、
課金、アフターサービスからなると考えられます。
①企画
必要な人材として、当該ツーリズムを実施する地域のことに熟知していること、住民、関連す
る人々、企業、団体と密接な連携を図って企画を行う必要があることから、地域における高いコ
ミュニケーション能力が求められると考えられます。
②営業(集客)
たとえば、地域単体での観光ではなく、やや広い圏域全体の観光の一環として、当該地域を観
光地とすることを想定した場合、旅行代理店などと連携し、旅行代理店のツアーに組み込んでも
らうことが重要になると考えられます。また、広い圏域の観光協会などの関連団体、テレビ、ラ
ジオ、紙媒体、ウェブなどのメディアとの連携も必要になると考えられます。よって、アイデア
や行動力を有する人材が求められるとも言えます。
③サービスの提供・課金
網漁等については、地元の猟師の方々などが対象になりますが、観光客にサービスを提供する
ことになるため、接客能力も必要になると考えられます。
153
④(課金・)アフターサービス
商品・サービスを購入した観光客を対象にダイレクトメール、メール・マガジンの送付などの
アフターサービスを行い、リピータになってもらう、顧客紹介、口コミ効果などを目指すことが
考えられます。丁寧で確実な仕事をし、まごころを込めて仕事をする能力が求められると思いま
す。
上記の企画、営業、アフターサービスについて、別々に確保するだけの体制的な余力がない場
合は、企画営業として、企画と営業を分けずに同一機能で行うことも考えられます。また、必要
な人材を地域で雇用することできなければ、地域外からの雇用、あるいは理想的な人材を有する
組織との提携を模索することが考えられます。
2.安定的事業継続のための視点
(1)ブル―オーシャン的戦略
ブルーオーシャンとは非競争的市場のことですが、いずれは参入者によりレッドオーシャン(競
争的市場)になる可能性があります。そこで、当初はブルーオーシャンの場合でも、その状態を
いかに継続するかという観点の戦略が必要になります。
網漁等の作業体験を核としたツーリズムおよび食材を利用した加工販売・レストラン事業の場
合、当初は周りに同様な商品・サービス店舗がなくブルーオーシャンであったとしても、観光客
が増えれば、他にも同様な商品・サービスを展開する可能性があります。そこで、常に新しい商
品やサービスを提供していくことが必要になるものと考えられます。その際、一概には言えませ
んが、何を競争優位とするか、付加価値の提供をするかという視点で考え、差別化できる商品や
サービスを検討することが考えられます(注:5.2.1等を参照)
。
実際に検討するに当たっては、来訪者にアンケートをとるなどの調査をし、顧客が求めている
ものを把握したり、近隣の市場の販売状況を分析したり、いまだ提供していない珍しい海産物の
提供や提供方法、新しい加工のメニューを研究したりすることなどが考えられます。
北海道の人口 1,900 人の地域では、町おこしのため、住民も一緒になって企画・実行に参加し
ています。貴地区においても、町おこしの視点から住民も巻き込んでプロジェクトを実行してい
くことも考えられるのではないかと思います。また、人口 4,000 人未満で高齢者率が 50%程度の
過疎高齢が進んでいるような場合には、安定的に事業を継続していくために、若い人の力も必要
になるため、地方公共団体等含め地域をあげて、若い人が移住してきてもらえるような魅力的な
地域にしていく必要があると考えられます。
154
(2)ベンチマーキング、プラン B
逆に、計画しているとおりに進まない場合に、事業継続を模索する考え方として、ベンチマー
キング、プラン B を活用することも考えられます。
ベンチマーキングとは、自社の事業プロセス、サービスを成功している競合他社のサービス、
プロセス(ベスト・プラクティス)と比較し、継続的な改善を行うことをいいます。
たとえば、ツーリズム事業を検討する際、他にも色々あるとは思いますが、ベストプラクティ
スの一例として、北海道の北端(札幌から 200 ㎞、東京・名古屋間に相当)に近い歌登地区があ
げられます。人口は 1,900 人まで減少しており、過疎化が進んでいます。そこにタイの観光客が
年間 1,300 人訪れています。タイの旅行代理店と密接に協業し、旅行代理店のリクエストに応え、
宿泊客に喜ばれる企画を実行しています。鮭の解体ショー、寿司の握り体験、流しそうめん、茶
道教室、餅つきなどのホテルが実施するイベントが観光資源として観光客にアピールしています。
プラン B とは、本来の計画(プラン A)が上手く行かなかった時のバックアップとして策定さ
れた計画をいいます。
たとえば、今回のツーリズム事業のビジネス・プラン(プラン A)は日本人観光客を想定して
いると考えられますが、プラン B として、外国人観光客を想定することが考えられます。観光ビ
ザの緩和、LCC(格安航空会社)
、円安などにより、訪日外国人旅行者数が平成 24 年から増加傾向
にあり、政府は 2020 年に 2,000 万人を目指しています。北海道の歌登もタイ人観光客の集客に注
力しています。
訪日外国人旅行者数の推移
訪日外国人旅行者数(万人)
平成 19
835
平成 20
835
平成 21
679
平成 22
861
平成 23
622
平成 24
836
平成 25
1,036
(出所)日本政府観光局(JNTO)
以上のようなある意味「柔軟な」プランニングの考え方を活用して、事業継続をはかることが
できるような取組が必要だと思われます。
155
5.2.6 事業バランス、販売単価の低減
検討している事業の内容(ビジネスモデル):
○観光レストラン
地元特産鶏や卵を活用した観光レストランと直売所の開設
相談内容:
1.レストラン、加工施設、直売所の事業規模のバランスについてアドバイス頂きたい。
2.製品生産量と販売量の創業初期モデルと将来モデルの考え方やバランスの取り方、再生産や
リスクの考え方等についてアドバイス頂きたい。
3.販売単価を抑えるための取組についてアドバイス頂きたい。
回答:
1.事業規模のバランス
(1)損益分岐点分析
費用を変動費と固定費に分け、利益がゼロになる売上高(損益分岐点売上高)を分析すること
を損益分岐点分析といいます。損益分岐点売上高が実際の売上高と比べて低いほど、安全余裕度
が高いと考えられます。
事業規模の設計(レストラン、加工施設、直売所のバランス)において、損益分岐点分析の考
え方を用いることが考えられます。たとえば、以下の表のような枠組みを用いて、レストラン、
直売所別の、加工施設を共通固定費として損益分岐点分析を行うことが考えられます。売上高の
見積もりについては、市場シェアで考える方法と客数と客単価で考える方法の 2 つが考えられま
す(5.2.1の1.参照)
。
損益分岐点分析表
売上高
変動費
限界利益
個別固定費
貢献利益
共通固定費(加工施設)
営業利益
レストラン
×××
×××
×××
×××
×××
×××
×××
156
直売所
×××
×××
×××
×××
×××
×××
×××
合計
×××
×××
×××
×××
×××
×××
×××
①売上高…需要の見積もりに基づき、計画を設定します。損益分岐点分析を用いて各事業のバラ
ンスをみるために売上高の見積もりが重要となります(5.2.1の1.参照)
。
②変動費…売上高に比例してかかる費用(材料費、外注費、変動人件費など)をいいます。
③限界利益…売上高-変動費、プラスの場合、変動費を回収して、個別固定費の回収に貢献して
いることを示します。
④個別固定費…売上高にかかわらずかかる費用(各施設にかかる固定人件費など)をいいます。
各事業でどのような固定費が発生するのか把握しておく必要があります。
⑤貢献利益…限界利益-個別固定費、プラスの場合、共通固定費の回収に貢献していることを示
します。
⑥共通固定費…各施設に共通の固定費(各施設に共通の固定人件費、減価償却費、地代家賃、固
定資産税、支払利息など)
、売上高などの比率で配分します。事業実施主体が他の事業を実施し
ていない場合にはゼロです。
⑦営業利益…貢献利益-共通固定費、プラスの場合、すべての固定費を回収し、事業に貢献して
いることを示します。
(2)全体バランスの検討
限界利益がプラスであれば、変動費を回収し、固定費の回収に貢献していることを示します。
マイナスの場合、価格を上げる、変動費率を下げるなどの対応が必要になると考えられます。限
界利益に関しては、他の事業と関連するバランスの問題というより、各事業内でのコスト削減等
の取組の問題が多いと思われます。
貢献利益がプラスであれば、変動費と個別固定費を回収し、施設の共通固定費の回収に貢献し
ていることを示します。マイナスの場合、価格を上げる、販売数量を増やす、変動比率を下げる、
個別固定費を削減するなどの対応が必要になると考えられます。
たとえば、レストランの規模が大きく、レストランの個別固定費が過大である場合には、レス
トランの貢献利益が小さくなると思われます。その場合にはレストランの規模を小さくすること
を検討する必要があります。
最終的に各事業の営業利益がプラスであれば、すべての費用を回収し、利益を計上しているこ
とを示します。マイナスの場合、価格を上げる、販売数量を増やす、変動費率を下げる、固定費
(個別固定費、共通固定費)を削減するなどの対応が必要になると考えられます。
たとえば、貢献利益はレストランも直売所もプラスであるのに、加工施設を含む共通固定費を
控除した営業利益がマイナスの場合は、加工施設が過大であると思われます。よって、これを小
157
規模にすることを検討することが必要だと思われます。そうすると、レストランや直売所での販
売数量が減少すると思われますので、売上計画の再作成、売上高の再計算が必要になります。
上記のような計画設定、修正のプロセスを繰り返しながら、無駄の無い事業規模の設計(レス
トラン、加工施設、直売所の全体バランス)を行うことになると思われます。
2.製品生産量と販売量の創業初期モデルと将来モデルの考え方、再生産やリスクの考え方
生産量と販売量の創業初期モデルと将来モデルの考え方については、再生産やリスクの考え方
とも密接に関連します。再生産、つまり生産を繰り返すことに伴うリスクについては、その生産
量、事業規模を実現するために、追加投資を行う必要が生じることが考えられ、そうすると販売
量が計画とおりの事業規模に達せずに、投資について損失が発生することがあげられます。
したがって、当該再生産に伴うリスクを軽減するため、創業初期は損益分岐点売上高(すべて
の費用を回収する売上高)を達成する保守的な生産量・販売量に基づく事業・投資計画とし、将
来的に計画を上回る業績を達成することが確実になった場合、追加的な投資を行い、生産・販売
量の拡大を図ることが考えられます。
3.販売単価低減の取組
販売単価を下げるためには、目標利益とコスト削減の両者を同時に達成する必要があります。
そのためには、貴団体の費用と利益の構造が把握できていなければなりません。貴団体の費用と
利益の構造を把握する方法には色々あるかと思いますが、ここでも、損益分岐点分析を活用する
ことができるのではないかと思われます。
(1)損益分岐点でわかる採算ライン
①損益分岐点売上高を導く計算式
損益分岐点売上高とは、
「損失を出すか利益がでるのかの境目」である採算ラインの売上高にな
ります。
●損益分岐点売上高=固定費÷(1‐変動費率)
(注 1)
(注 1) 変動費率:創業期においては、
「年間の想定変動費÷貴団体の想定売上高」で算出されま
す。2 年目以降は、過年度のデータを参考値として算出するのが一般的です。
158
②損益分岐点比率から判断される安全性
損益分岐点売上高に対して、実際の売上高がどの位の割合であるかを示すのが、
「損益分岐点比
率になります。
●損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷実際の売上高
損益分岐点比率 100%とは、現在の売上高がちょうど採算ラインにあることを示します。なお、
この割合を下回ると利益が出ていることを、上回ると損失が生じていることが分かります
【損益分岐点比率の目安】
80%以下
80%台
90%台
100%台
110%台
120%以上
不況に強い安全な利益構造
安全圏内だが、安心はできない
わずかな業績悪化にも注意が必要
採算ラインの確保が必要
利益構造の改善努力が必要
利益構造の抜本的改革が急務
(参考文献「決算書診断改善ナビ」URL http://www.bizup.jp/solution/kaizen_navi_pdfdata/)
企業の安全度を測る目安ラインとしては、一般的には売上高が 20%ダウンしても利益を確保で
きる「損益分岐点 80%以下」が挙げられます。
③必要な売上高を算出
②より目標利益を設定し、必要な売上高を算出することになります。①の式の応用ですが、目
標利益を固定費と同様に「回収すべきコスト」として目標売上高を算出します。
●目標売上高=(固定費+目標利益)÷(1‐変動費率)
この①~③のステップにより、まず貴団体の目標販売単価を求めます。そして、販売単価を低
く抑えるためには、当該ステップにより、貴団体が変動費中心型に該当するのか固定費中心型な
のか、そのコスト構造を把握し、対応した基本戦略をとることにより、目標利益を維持しながら、
販売単価を低く抑えていくことができるのではないかと思われます。
(2)コスト構造と採るべき基本戦略
①変動費中心型
a) 業態特性
固定費の増加要因となる大きな設備や店舗、大規模なシステム等の仕組みを必要としない代わ
りに、商品仕入等のための変動費の比重が大きい卸売業や販売業の団体は変動費中心型といえま
す。しかし、そのような業種の団体であっても、営業拠点を多数設置したり、固定的に人材を大
159
勢採用したりしている場合には、費用に占める固定費の割合が高くなります。
b) 基本戦略
一般に固定費負担が少ない分だけ、不況に対しては相対的に強い抵抗力を持っています。しか
し、変動費率が高いために限界利益として残る部分が少なく、一定規模以上の売上を確保しなく
ては目標利益を達成することができません。また、わずかな固定費の上昇でも採算性を悪化させ
る要因を内包しているともいえます。変動費中心型の場合は、これらのことに常に留意しながら、
変動費比率を引き下げるような戦略をとっていく必要があります。
たとえば、貴団体の場合、原材料が高止まりしているときに、変動費を下げる必要ためには、
運送費や外注費等、他の変動費部分において、コスト削減を図る必要があると思われます。
②固定費中心型
a) 業態特性
経営資源の大半が人であるサービス業や、需要の有無に関わらず、常に一定のキャパシティを
抱えていなければならない製造業は、固定費中心型の代表的な団体であるといえます。また、大
規模な設備投資を必要とする団体もこれに該当します。
b) 基本戦略
回収すべき固定費負担が大きいために、不況抵抗力が総じて弱く、売上高が損益分岐点に達し
ない場合には大幅な損失を発生します。しかし、売上高が損益分岐点を越えると、利益が急激に
拡大します。固定費中心型団体の基本戦略としては、固定費削減を主体とした合理化対策が重要
になります。
たとえば、貴団体の場合、ある一定の食品の加工のために設備が必要な場合、その部分を一括
してアウトソーシングすることで固定費を変動費に変えるというような取組みが考えられます。
また、人件費(給与)は固定費ですが、外注に依拠したり、パートを活用したりすることが考え
られるのではないかと思われます。
160