北海道における近年の大雪・暴風雪時の気圧配置と地域

北海道の雪氷 No.34(2015)
北海道における近年の大雪・暴風雪時の気圧配置と地域別発生の特徴
Features of pressure patterns and regional occurrence of recent
heavy snowfall and snowstorm in Hokkaido
原田裕介,松澤
勝((国研)土木研究所 寒地土木研究所)
Yusuke Harada, Masaru Matsuzawa
1.はじめに
近年,北海道では,大雪や暴風雪に起因する雪氷災害について発生形態の変化が見
られる.このため,大雪や暴風雪の発生頻度や発生地域の近年の傾向を把握すること
は,今後の雪害対策検討の基礎資料として重要と考えられる.本研究では,北海道を
対象として,地上付近の気象状況の分析結果を表す地上天気図を基に,過去 31 冬期の
大雪や暴風雪発生時の低気圧などの移動経路および発生頻度や地域,および 2014 年度
冬期の特徴を調べた.
宗谷
2.調査方法
留萌
2.1.大雪,暴風雪事例の抽出
(1)使用データ
調査に用いたデータは,北海道
の気象庁アメダスで積雪深を観
オ ホ ーツ ク
上川
空知
後志
石狩
根室
測 し て い る 地 点 の う ち , 1984 ~
2014 年度冬期において移設によ
り標高が大きく変更された地点
十勝
胆振
釧路
日高
檜山
渡島
と,気象官署を除外した図 1 に示
す 77 地点の 1 時間ごとの積雪深,
気温,風速(毎正時前 10 分間平
図1 調査に用いた気象庁アメダス地点と地域区分
均風速)である.また,本論文では,冬期を当年 11 月 1 日から翌年 4 月 30 日までと
した.なお,図 1 には地域区分(北海道総合振興局または振興局)も併せて示した.
この区分は,3 章で地域別の大雪・暴風雪の発生状況を分析する際に用いる.
(2)大雪,暴風雪事例の抽出方法
大雪事例の抽出基準は,北海道内の大雪注意報の発令基準値が 12 時間で 20cm 以上
の降雪であること
1)
を考慮し,本論文では降り始めからの 24 時間降雪量 40cm 以上,
48 時間降雪量 60cm 以上,72 時間降雪量 80cm 以上のいずれかを満たすものとし,な
おかつ北海道全体における災害時の社会的影響と広域性を勘案して,アメダス 77 地点
のうち 5 地点以上で上記の大雪の基準を満たした場合を大雪事例として抽出した.ま
た,24,48,72 時間降雪量は,1 時間ごとの積雪深の増加量をその 1 時間の降雪量と
し,該当時間分を積算している.
暴風雪事例の抽出基準は,上記と同様にアメダス 77 地点のうち 5 地点以上で,24 時
間吹雪量 5.0m 3 /m 以上を満たす場合とした.これは,2008 年 2 月に空知南部で 200 台
以上の車両が立ち往生した吹きだまり災害時
2)
の 24 時間吹雪量の最大値が,アメダス
3
5 地点で 5.0m /m 以上であったことを考慮したものである.吹雪量は,単位時間に風向
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と直角な単位幅を通過する雪の総量で
3)
,ここでは風速と吹雪量の経験式を用い, 24
時間吹雪量を推定している.24 時間吹雪量の推定手法の詳細は,既報
4)
を参照された
い.
2.2
地上天気図の分類
北海道内の大雪や暴風雪は,発達した低気圧の通過やその後の冬型気圧配置によっ
てもたらされることが多い
5)
.本論文における地上天気図の分類は,大川
5)
を参考とし
て,北海道付近を通過する前の低気圧や前線の位置とその移動経路を 17 通り,低気圧
通過後の冬型の気圧配置を 3 通りに細分した(表 1).詳細は,既報
4)
を参照されたい.
3.調査結果
2.1 節の手法にしたがい大雪 61 事例,暴風雪 15 事例,大雪かつ暴風雪 11 事例(計
87 事例)を抽出した.抽出結果に対して,表 1 に基づき低気圧や前線の位置とその移
動経路,低気圧通過後の冬型の気圧配置に分類し,発生年度ごとに集計したものを表 2
に示した.さらに,表 2 では気象庁の「急速に発達する低気圧」6 ) に合致した事例を塗
りつぶし,それ以外の事例と分けて示した.「急速に発達する低気圧」とは,中心気圧
が 24 時間で 24hPa×sin(φ)/sin(60°) 以上低下する温帯低気圧と定義されており,φ
は緯度を表す.ここでは,北海道近辺の平均緯度 43°による算定結果(18.9 hPa)よ
平洋の低気圧に吸収される L12(21 事例)の出現
2014
2012
2013
○
2011
○■ ○
2010
2009
2008
2007
2006
2004
○ 2005
2003
2002
2001
2000
○ 1999
1997
2
1
○●
○
5
●● ○○●
□
○ ○
2
2
5
2
4
2
3
3
1
3
3
3
3
2
2
○○○■
1
6
○●●
4
○
3
● ○●
□
5
2
○○■
2
○
3
●●
3
●◆
3
●●
○●◆
3
3
○○
○○●
2
1
○
3
○●
●
3
■
3
3
■
1
2
■
3
○●
○●
○●
□●●◆
□□◇◆
1
●
2
3
◇
2
○
○●
○
●
3
4
■
5
2
○
2
5
■
合計(事例) 2
2
○
W0
2
○
Ww
5
12
2
□ ○
●● □
■◆
●● ■
◆
○■
●
●
●
2
●
◇●
■ ○
●
○
3
●
○ ○
●
○
○
○
●
◆
○
●
4
■
○
○
◆ ●
9
○
□
◇
○
○■
○
○
□
5
○
2
●
2
○
3
□○○ ○◆
5
◆
2
合計
(事例)
3
6
○
●
○
●
L12
Wn
○◆ □
○
L10
合計(事例) 2
冬
型
の
気
圧
配
置
□
○
●
L9
L11
● 1998
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
■
◇
L8
■
低気圧が日本を通過後,主風向が
北系(北~北西)の気圧配置となる.
低気圧が日本を通過後,主風向が
冬型の
Ww
気圧配置
西系(西~西北西)の気圧配置となる.
低気圧の動きが遅く,
W0
明瞭な冬型とならない.
Wn
L7
F1
F2
F3
F4
TR
F4 前線が北海道に停滞する.
TR 南北に伸びる気圧の谷が北海道を通る.
L6
■
低
気
圧
・
前
線
の
位
置
と
移
動
経
路
L4
L5
◆
L3
F3 前線が北から南下する.
気圧
の谷
○●●
L2
○■●
南北に伸びる前線上の閉塞点が
F2
北海道中央部付近を通る.
L1
○
低気圧が沿海州北部から南東進して,
北海道中央部を通る.
低気圧が二つあり,それぞれ
北海道を挟むように北東進する.
本州を挟んで二つの低気圧があり,
日本海の低気圧が太平洋の低気圧に
吸収される.
大雪,暴風雪時の地上天気図の年度別発生状況
1986
年度
分類
1985
表2
低気圧が三陸沖を北東進する.
F1 南北に伸びる前線が北海道を通る.
前線
(13 事例),二つ玉低気圧で日本海の低気圧が太
○○●
低気圧が日本海中部から東進して,
津軽海峡を通る.
低気圧が日本海中部から東進して,
北海道中部を横断する.
低気圧が沿海州から東進して,
宗谷海峡を通る.
● ◇
低気圧
L6
低
気
L7
圧
・
L8
前
線
L9
の
位
置
L10
と
移
L11
動 二つ玉
経 低気圧
L12
路
つ玉低気圧が北海道を挟むように北東進する L11
北海道の西海上を経て間宮海峡に達する.
1984
L5
ら北海道の東海上を北東進する L9(12 事例),二
□
L4
津軽海峡を通る L6(9 事例),低気圧が三陸沖か
○
L3
と移動経路は,低気圧が日本海中部から東進して
◆
L2
表 2 より,大雪や暴風雪発生時の低気圧の位置
●
L1
より低下した事例を対象とした.
概 要
低気圧が日本海西部から東北東進して,
東北地方の中部・北部を通る.
低気圧が日本海西部から北東進して,
津軽海峡を通る.
低気圧が日本海中部から北東進して,
北海道北部または宗谷海峡を通る.
低気圧が日本海西部から北東または
北北東に進んで,宗谷海峡を通る.
低気圧が日本海西部から北北東進して,
□◆
分類項目 記号
り,任意の 24 時間で低気圧の中心気圧が 19hPa
地上天気図の分類
○●
表1
3
4
1
6
13
21
2
1
0
0
1
87
62
20
5
87
※●○は大雪、■□は暴風雪、◆◇は大雪と暴風雪を示す。
※急速に発達する低気圧となった事例を塗りつぶし、それ以外を白抜きで示す。
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度数が高かった.また,急速に発達する低気圧(表 2 で塗りつぶして示した事例)は
全体で 42 事例あり,中でも二つ玉低気圧の L11(9 事例)と L12(15 事例)の出現度
数が高かった. L3・L4・L5 などの日本海から北海道北部以北を通過する低気圧より
も、L12 の他に L2・L6・L9 などの太平洋側を通る低気圧の方が発達する事例が多かっ
た.
2014 年度の特徴として,大雪・暴風雪の発生回数が 6 事例(平均 2.8 事例/年度),
そのうち 4 事例が急速に発達する低気圧,5 事例が二つ玉低気圧(L11・L12)による
もので,過去 31 冬期でそれぞれ最大となった(表 2).また,各事例の発生日(9 時ま
たは 21 時)と発生日時から前 24 時間の中心気圧差について,冬期ごとの最低値を図 2
に示す.2014 年 12 月 17 日の事例では,
年度までの中心気圧(952 hPa)および
気圧低下量の最低値(-38hPa)を更新
した.以上から,2014 年度は特異な冬
期であったと考えられる.
低 気 圧 ( L1 ~ L10 ), 二 つ 玉 低 気 圧
低気圧の中心気圧(hPa)
気圧の低下量が-58hPa に達し,2013
1020
0
1000
‐20
980
‐40
960
‐60
940
‐80
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
( L11 ・ L12 ) 前 線 ( F1 ~ F4 ・ TR ) に
ついて,10 冬期ごとの月別発生頻度を
図 3 に 示 す . 1985-1994 年 度 か ら
年 度
図2 発生日の中心気圧と前24時間の中心気圧差
2005-2014 年度にかけて,二つ玉低気圧
の冬期ごとの最低値
での発生事例は 12 月および 2~3 月で
低気圧
増 加す る傾向 が, 低気圧 での 発生事 例
で L12 全体の約 60%であった.他の気
圧 配置 は,明 瞭な 増減傾 向は 見受け ら
表3
部であると考えられる.
図 4 に示した.本論文における発生割
合 は, 地域ご との 大雪や 暴風 雪の発 生
件 数を ,大雪 や暴 風雪の 事例 数で除 し
1月
2月
3月
4月
10冬期ごとの月別発生頻度
1985-2014 年 度 冬 期 の 地 上 天 気 図 の 出
う ち 急 速 に 発 達 し た 低 気 圧 6) に よ る
L11 と L12 について,発生件数を大雪
の うえ ,地域 ごと に発生 割合 を集計 し
12月
現頻度 出現頻度は左側の数字,その
低気圧の L6 と L9,二つ玉低気圧の
の み, 暴風雪 のみ ,およ び両 方に分 類
11月
図3
れなかった.L12 の増加は,近年の北
海 道に おける 大雪 や暴風 雪の 特徴の 一
85‐94
95‐04
05‐14
0
85‐94
95‐04
05‐14
は 11 事例(うち急速発達事例 7 事例)
85‐94
95‐04
05‐14
た. L12 の 2005-2014 年度の出現度数
85‐94
95‐04
05‐14
冬期ごとの出現頻度を求め表 3 に示し
5
85‐94
95‐04
05‐14
つ玉低気圧の L11 と L12 について,10
前線
85‐94
95‐04
05‐14
られた.また,低気圧の L6 と L9,二
二つ玉低気圧
10
大雪・暴風雪 出現頻度(回)
は 1~3 月で減少する傾向がそれぞれ見
低気圧の中心気圧差(hPa)
発生日の中心気圧(年度最低)
前24時間(発生日‐1日前)の中心気圧差(年度最低)
中心気圧が 948hPa,前 24 時間の中心
ものを右側括弧で表記
期 間
(年度)
分類と記号
L6
低気圧の
L9
位置と
L11
移動経路
L12
19851994
3
5
3
3
(1)
(1)
(3)
(2)
19952004
6
3
4
5
(3)
(1)
(3)
(2)
20052014
0
4
5
11
(0)
(2)
(2)
(7)
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た値とした.なお,各地域の観測地点数の違いは考慮しないものとする(図 1 参照).
低気圧の L6 では,宗谷,オホーツクと釧路で発生割合が 60%以上で他地方に比べて
高かった.また,宗谷と後志以北の日本海側沿岸の地域では,暴風雪を伴う事例が多
かった(図 4 左上).L9 では,オホーツク,釧路,十勝の北海道東部や,宗谷,上川の
北海道北部で発生割合が高い.北海道東部では,大雪と暴風雪が伴って発生する事例
も少なくない.一方,宗谷では暴風雪の発生割合が高い(図 4 右上).二つ玉低気圧の
L11 の発生割合は,宗谷と上川が 50%以上で,次いでオホーツク,釧路,十勝が 46%
で並んでいる.宗谷と後志では暴風雪の発生割合が高く,上川および北海道東部では
大雪の発生割合が高かった(図 4 左下).L12 の発生割合は,オホーツク,釧路,十勝,
宗谷,上川で 50%以上と他地域に比べて高かった.宗谷では大雪を伴う暴風雪の発生
割合が高く,北海道東部および上川では,大雪の発生割合が高い傾向にあった(図 4
右下).
檜山
渡島
日高
胆振
十勝
釧路
根室
オホーツク
後志
檜山
渡島
日高
胆振
十勝
釧路
根室
後志
宗谷
檜山
渡島
日高
胆振
十勝
釧路
根室
オホーツク
後志
空知
石狩
0%
留萌
0%
上川
20%
宗谷
空知
大雪
40%
20%
図4
暴風雪
60%
オホーツク
大雪
40%
大雪と暴風雪
空知
発生割合
60%
低気圧の位置と移動経路 【L12】
N=21
80%
大雪と暴風雪
暴風雪
石狩
宗谷
渡島
日高
胆振
十勝
釧路
根室
後志
檜山
100%
低気圧の位置と移動経路 【L11】
N=13
80%
オホーツク
空知
0%
石狩
0%
留萌
20%
上川
20%
100%
発生割合
大雪
40%
留萌
40%
暴風雪
60%
石狩
大雪
大雪と暴風雪
上川
60%
発生割合
暴風雪
宗谷
発生割合
大雪と暴風雪
低気圧の位置と移動経路 【L9】
N=12
80%
留萌
N=9
80%
100%
低気圧の位置と移動経路 【L6】
上川
100%
大雪・暴風雪の発生割合(N は事例数を示す)
4.おわりに
今回の解析では,アメダス 77 地点のうち 5 地点以上で大雪や暴風雪の基準を満たし
た場合に,対象事例として抽出した.そのため,2015 年 2 月上旬の羅臼町での記録的
な大雪など,局所的な大雪・暴風雪事例については抽出されていない.今後の課題と
して,上記のような局所的な事例の抽出基準の検討があげられる.
【参考・引用文献】
1) 気象庁,2015:警報・注意報発表基準一覧表(気象庁 HP).
2) 武知洋太他,2008:北海道の雪氷,27,99-102.
3) 寒地土木研究所,2011:道路吹雪対策マニュアル(平成 23 年改訂版),1-4-35.
4) 原田裕介他,2013:寒地土木研究所月報,719,33-41.
5) 大川隆,1992:北海道の動気候,北海道大学図書刊行会,147-190.
6) 気象庁,2015:気象庁が天気予報等で用いる予報用語(気象庁 HP).
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