温熱刺激単独による筋力増強効果について

温熱刺激単独による筋力増強効果について
医療法人豊泉会 丸山病院 リハビリテーション部 ○鳥山海樹,古澤元,田村忠義
【研究背景・目的】
現在,筋力増強としては,抵抗運動を中心とした運動療法が最も一般的である.しかし,近年
の動物実験を中心とした研究成果により,温熱刺激が筋力増強に有効であることが明らかにな
ってきている.予め目的とする筋細胞に温熱刺激を与えてから運動負荷を行うと,筋線維肥大
効果が向上するという結果が動物実験により明らかになった.しかし,ラットを対象とした実
験データは数多く見受けられるが,ヒトを対象とした臨床研究,また温熱療法単独での筋力増
強効果を検討した研究は見あたらない.そこで本研究は,ヒトを対象とした温熱刺激による筋
力増強効果を明らかにすることを目的とした.
【対象と方法】
対象は,研究の趣旨を説明し同意を得た健常若年者 20 名(平均年齢 25.2±2.9 歳)とした.先
行して同意を得た者を温熱刺激あり群 9 名(以下,HP 群)(平均年齢 25.1±3.5 歳),その他の者
を温熱刺激なし群 11 名(以下,CO 群)(平均年齢 25.2±2.6 歳)の 2 群に選別し,温熱効果の検証
を行うこととした.対象者には得られたデータは研究の目的以外には使用しないことを説明し,
書面にて同意を得た.
方法としてHP群にはホットパックを右前腕にベルトで固定し温熱負荷を与える.
週3日以上,
1 回 20 分間のホットパックを 2 ヶ月間実施し,2 週間置きに筋力測定を行い等尺性筋力の変化
を検証した.直接効果の判定として右上肢の握力,波及効果の判定として左上肢の握力,両側
膝伸展筋力の測定を行うこととした.対象者には測定期間中に特別な筋力トレーニングを禁止
した.統計学解析は SPSSver.21.0 を用いて,群内比較を対応のある t 検定で行い,有意水準は
5%未満とした.なお,本研究は丸山病院倫理審査委員会の承認を得て行った.
【結果】
最大等尺性筋力は直接効果として HP 群で介入前と比較し 4,6,8 週後に有意な増加を認めた.
また,CO 群では介入前と比較し有意な増加は認められなかった.波及効果として,左上肢の握
力では HP 群で介入前と比較し 2,4,6,8 週後で有意な増加を認めた.また,CO 群の左上肢握
力では有意な増加は認められなかった.膝伸展筋力では HP 群,CO 群共に有意な増加は認められ
なかった.
【考察】
今回,温熱刺激単独での筋力増強効果の比較,検討を行った.先行研究により,温熱刺激がラ
ットでの廃用性筋萎縮の軽減,ヒトにおいては運動療法効果を増大させる可能性が高いことが
実証されている.今回の研究結果によりヒトを対象として温熱刺激単独での筋力増強効果の可
能性が示唆された.しかし,今回の対象は健常若年者であり日常生活活動能力の高い者を対象
としている.そのため日常生活動作中に使用している筋肉を活性化したことによる筋力増強効
果の可能性も考えられ,必ずしも温熱刺激が筋力増強に効果があるとは断定できない.今後,
日常生活活動が少ない者などを対象とする研究を行うことにより,廃用性筋萎縮の予防や筋力
増強運動の一助になればと考えている.
握力
握力 (左)
(右)
40
40
HP群
35
HP群
35
CO群
30
CO群
30
1 2 3 4 5
1
2
3
4
5