進化生態学(第7講) 今日の話題:男と女はどちらが得か 1. どうして世の中には男と女が半分ずついるのか? おおくの生物ではオス(男)とメス(女)はだいたい半分ずついる。これは一見合理的 に見える。なぜならどちらかが多いと、多い方の性があぶれてしまうからだ。しかし、 自然選択による進化の本質は「みんなにとって有利かどうか」ではなく「それぞれの個 体にとって有利かどうか」にある。すべての個体が最適戦略を選んだ結果、性比が一対 一になるなどということがあるのだろうか? 2. Fisher の性比理論 性比を決めるのは親であろう。したがって、性比の決定は親の戦略として考えることが できる。一般に、オスはまだ相手を見つけていないメスと交尾さえすればたくさんの子 供を作ることができる。従って、オスにとっての成功の鍵はたくさんの交尾相手を見つ けることである。それに対して、メスは子供に多くの投資をするので、たくさんの交尾 をしても作れる子供の数は限られている(例.人のメスは一年にせいぜい一人しか子を 産めない)。だがメスはほぼ確実に自分の子を残すことができる。なぜなら、オスは何 度も交尾ができるので、オスがみつからないせいで子供が残せないということはめった に起きないからだ。 親はそれぞれの性をどれだけつくるべきか?適応度を考えると、オスよりもメスの多い 集団ではオスをたくさん生むことが、メスよりもオスの多い集団ではメスをたくさん生 むことがより有利であることがわかる。これは以下の数理モデルで証明できる: 親の個体数が N、母親一匹あたりの子の数が n だと仮定しよう。集団のほとんどの個体 がオスをうむ確率が p (= 0 1)と書き表されるとする。このとき性比はオス/メス = p / (1 - p)となる。この戦略 p’をとる親の適応度(W[p’, p])は: W[p’, p] = [息子が産むすべての子の数] + [娘が産むすべての子の数] = [息子の数] [息子一個体当たりの子の数] + [娘の数] [娘一個体当たりの子の数] = [p’ n] [息子が一個体当たり手に入れることのできるメスの数の期待値] [メ ス一個体当たりの子の数] + [(1 – p’) n] = [p’ n] p’) n] = p’ n [n] ([息子と同世代のメスの数] / [息子と同世代のオスの数]) [n] + [(1 – [n] (N p n / N (1-p) n) n + (1-p’) n n = n2 [p’ p / (1 - p) + (1 – p’)] このように、確かに p が 1/2 よりも大きければ(オスの方に性比が偏った集団では)p’ は大きいほど(=メスをたくさん産むほど)適応度 W が高くなる。逆に 1/2 よりも小さ ければ(オスの方に性比が偏った集団では)p’は小さいほど適応度 W が高くなる。こ れらのことから ESS 戦略はオスとメスを同数産む(p = 1/2)ことであることがわかる。 3. 一対一からかたよった性比 生物の中には性比が一対一から大きくずれたものがある。その主要な理由は2つ考えら れる。 3-1. 局所的配偶競争 一個体の寄主にたくさんの卵を産む寄生蜂では性比が大きくメスに偏る。これはオスの 間のメスをめぐる争いと関係があると考えら れている。この蜂ではひとつの寄主から産まれ たオスは、同じ寄主からうまれたメスをめぐっ て激しく争う(局所配偶者競争:Local Mate Competition)。このような息子同士があらそう 状況では息子の数を減らした方が良い。 これは数理モデルでは以下のように表される。 一つの寄主から産まれる子はすべて同じ母親 の卵から産まれた子だとしよう。子の数が n、 オスをうむ確率が p (= 0 1)と書き表されるとする。ひとつの寄主からうまれるのは すべて自分の子なので、このような母親の適応度は: W[p] = [娘の数] (息子が一匹でもいるとき)or 0(息子が一匹もいない時) すなわち一匹だけオスを生んで、あとはすべてメスにするのが最適となる。寄主に他の メスの子を産む場合は、Fisher の性比理論で説明した性比が一対一になる力と、このメ スばかり生む力の釣り合うところ(娘を息子よりもより多く生む)が最適戦略になる。 3-2. 局所的資源競争 生物によっては娘が母親と資源を取り合う場合がある。このような時には性比はオスに 偏ると予測される。たとえばオオギャ ラゴというアフリカの原猿では娘は 母親の周りに縄張りを作るが、息子は 配偶相手を求めて遠くに分散する。こ の生物はオスをより多く産むことが わかっている。 4. 性転換 女に産まれる、あるいは男に産まれる、という言葉が示すように性別は持って産まれた 運命のように思える。しかし、世の中には一生の間に性別をかえる生物がたくさん存在 する。オスがメスになったり(カクレクマノミ、アマエビ、ボタンエビ、エゾフネガイ)、 メスがオスになったり(ホンソメワケベラ、ブルーヘッド)、生涯の間、自由にオス・ メス間を行き来したり(イソメ、ダルマハゼ)。この現象を性転換と呼ぶ。 4-1. どうして性転換するのか:サイズ有利性モデル 性転換の裏にある適応的意義の一つは「サイズ有利性モデル」ともいうべきモデルによ って説明できる。これは一言でいうと「雌雄それぞれの役割を演じたときの繁殖成功度 が体のサイズによって異なるとき、より適応度の高い性を選択するのが適応的である」 ということになる。 上の図で実線はオスの繁殖成功度が、点線はメスの繁殖成功度が体サイズにどう依存し ているかを示している。左から順にオスからメスへと性転換する場合、メスからオスへ と性転換する場合、性転換しない場合の曲線を表している。理論的には実線と点線の交 点の体サイズで性転換が生じるはずである。大きなメスは一般に多くの子を残すことが できるし、大きなオスはメスを手に入れやすいだろう。それらの効果の相対的な重要性 によってどのパターンになるかが決まると思われる。 4-2. 性転換する動物達 ■ オスからメスへの性転換:エゾフネガイの場合 エゾフネガイは巻貝に付着して生活する貝である。一つの 巻貝に1 13もの個体が付着する。一つの集合体には雌 雄が含まれ、それらの間で交尾が行われる。成長するとオ スからメスへと性転換するが、そのタイミングは単独で付 着している個体では 16mm であった。 エゾフネガイはどうやって性転換のタイミングを決めてい るのだろうか?実は「エゾフネガイはまわりの個体の大き さを見て性転換するかどうかを決めている」ことが実験によってわかっている。Warner et al. (1996)の実験: [操作1] オスをより小さいオスと一緒にする [操作2] オスを自分よりも大きなメスと一緒にする [操作3] オスを単独で育てる それぞれの操作で性転換のおこった回数を調べた実験の結果、このようになった: 実験オス 一緒にした個体 実験個体数 メス化 オスのまま 小さなオス なし 10 3 7 14.5 - 15.5mm 小さなオス 8 8 0 大きなメス 9 0 9 大きなオス なし 11 9 2 16mm - 小さなオス 6 5 1 大きなメス 6 0 6 ここからわかることは、性転換はその個体の絶対的な大きさ(16mm を超えているかど うか)ではなく、他の個体との相対的な大きさ(自分よりも大きいメス個体がいるかど うか)で決まっているということである。 ■メスからオスへの性転換:ブルーヘッドの場合 ブルーヘッドのオスには2つのタイプがある。頭の青いタイプと全身が黄色のタイプで ある。青いタイプは縄張りを持って一人で住み、そこに やってきたメスを独占する。それに対して黄色いオスは 集団で群れ、そこにやってきたメスが卵を放出するとみ んなで一斉に精子を振りかける。この場合は自分の子供 が産まれるかどうかはかなり不確実であろう。だから、 なわばりを持てるか持てないかはオスの繁殖成功にとって死活問題なのである。一方、 メスは体が大きくても小さくても卵を産むことができる。そして、このことから予想さ れる通り、この魚では成長につれてメスからオスへと性転換することが知られている。 珊瑚礁 雌個体数 処置 除去した青雄 雄への性転換数 1 27 黄雄+青雄除去 5 4 2 18 黄雄+青雄除去 5 3 3 28 黄雄+青雄除去 1 2 4 43 黄雄除去 青雄交換 0 0 5 51 黄雄除去 青雄交換 0 0 同じ珊瑚礁に青いタイプがいるなら性転換せず、いないなら雄に性転換していることが わかる。 ■オス、メス双方向への性転換:ダルマハゼの場合 サンゴの中にすむダルマハゼは一夫一妻である。ペアの相手が死ぬとあらたなペアを探 して他のサンゴへと移動する。しかし、サンゴ間 の移動は天敵に襲われやすく危険である。だから、 ダルマハゼは相手がオスだろうとメスだろうとえ り好みしない。そのかわり、大きい個体がオスに 小さい個体がメスへと性転換することで新たなペ アを作る。 ■雌雄同体:カタツムリの場合 カタツムリは雌雄同体なのでオス機能もメス機能ももっている。しかし、相手がいない と子供は残せない。では、どちらが卵を生むのだろうか? ①体の大きい方がメスの役割を果たして卵を産む ②体の小さい方がメスの役割を果たして卵を産む ③両方の個体がメスの役割を果たして卵を産む あなたの予想 以上
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