潜在性結核感染症登録者数の増加と減少の 要因に関する全国保健所調査

Kekkaku Vol. 90, No. 10 : 657_663, 2015
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潜在性結核感染症登録者数の増加と減少の
要因に関する全国保健所調査
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大角 晃弘 1 吉松 昌司 1 内村 和広 2 加藤 誠也
要旨:〔目的〕わが国における 2011 年の潜在性結核感染症(latent tuberculosis infection : LTBI)登録者
数は 10,046 人で,前年 4,930 人の約 2 倍になり,2012 年には減少して 8,771 人であった。LTBI 登録者
数増加および減少の要因について推定することを目的とした。〔対象・方法〕2012 年と 2013 年に,計
2 回の全国 495 カ所自治体保健所を対象とする,半構造式調査票を用いた横断的・記述的調査を実施
し,2009 年以降の接触者健診対象者数・interferon-gamma release assay(IGRA)検査実施状況・IGRA
検査で偽陽性と考えられる事例等について情報収集した。
〔結果〕IGRA 検査実施者数・割合は,2009
年から 2012 年まで増加傾向を認めたが,IGRA 検査陽性者数・割合と同判定保留者数は,2011 年に増
加傾向を認め,2012 年には減少していた。IGRA 検査結果の信頼性に問題がある事例の発生を回答し
たのは,2012 年調査で 34 保健所( 8 %)であった。
〔考察〕2011 年における接触者健診に関わる IGRA
検査実施者数・同検査陽性者数は,より高齢者における増加傾向が大きく,LTBI 検査対象者の年齢制
限撤廃が影響したと考えられた。2011 年の IGRA 検査陽性者割合・判定保留者割合増加の理由として,
医療従事者や高齢者等のより結核既感染率が高いと推定される集団に対して同検査を実施するように
なったことや,IGRA 検査法の変更により感度が上昇したこと等の可能性が考えられた。2012 年にお
ける LTBI 登録者数減少要因として,集団感染事例の減少等が推定された。
〔結論〕2011 年における
LTBI 登録者数増加要因として,IGRA 検査実施者数増加・QFT 検査法変更による陽性結果者や判定保
留結果者増加等が推定された。2012 年における LTBI 登録者数減少要因として,集団感染事例の減少・
感染性結核患者数の減少等が推定された。
キーワーズ:結核,潜在性結核感染症,サーベイランス,保健所,インターフェロン-γ遊離試験,実
態調査
緒 言
LTBI 登録者数の推移を検討したところ,2010 年半ば頃
から増加し始め,2011 年 2 月以降その増加が顕著であっ
結核患者発生動向調査情報システム(以下,結核サー
た 2)。特に,20 歳以上の年齢層の女性において,より顕
ベイランス)は,
「感染症の予防及び感染症の患者に対
著な増加傾向を認めた。LTBI 登録者の約 8 割を接触者
する医療に関する法律」
(以下,感染症法)第 12 条第 1
健診による発見が占め,医療職の占める割合が増加して
項の規定に基づいて,結核医療を必要とする潜在性結核
いた。その後 LTBI 登録者数は,2012 年(8,771 人)には
感染症(latent tuberculosis infection : LTBI)患者に関する
減少傾向(前年比−12.7%)を示していた 3)。
情報を収集している。国内の年間 LTBI 登録者数は,2007
2011 年に LTBI 登録者が増加し,2012 年には減少した
年から 2010 年まで毎年 3,000 人から 5,000 人ほどで推移
要因として,①結核感染者数の真の増加または減少,②
していたが,2011 年には 10,046 人と,前年の約 2 倍にな
医療機関から保健所への LTBI 届出数・届出率の増加ま
1)
った 。結核サーベイランス月報から得られる情報から
1
公益財団法人結核予防会結核研究所臨床・疫学部,2 公益財団
法人結核予防会結核研究所
たは減少,③保健所・医療機関における接触者健診受診
連絡先 : 大角晃弘,公益財団法人結核予防会結核研究所臨床・
疫学部,〒 204 _ 8533 東京都清瀬市松山 3 _ 1 _ 24
(E-mail : [email protected])
(Received 20 May 2015 / Accepted 6 Jul. 2015)