(3) 新時代を見据えた国立大学改革

新時代を見 据えた国立 大学改革
文部科学省高等教育局
平成28年度から始ま る国立大学 法人等の第 3期中期目標・中期計画(平成28~33年度)
の 策 定に 向 け、 各大 学 での 検討 に 資 す る ため 、 6月 8日 付 けで 「 国立 大 学法 人 等の 組織 及
び業務全般の見直しについて」の通知を発出した。その内容は、組織の見直し、教育研究
の 質 の 向 上 、 業 務 運 営 等 多 岐 に わ た る が 、 い ず れ も 第 2 期 中 期 目 標 期 間 ( 平 成 22~ 27年
度)、特 に平 成25年 度からの3 年に わたる「改革加速期間」に おける取 組の進捗や、国立大
学に対する社会の要請の高まりを踏まえたものである。
(国立大学に 求められている社会的役割)
では、国立大学に対する社会の要請とは何か。今、我が国は、世界規模で急激に変化
する社会の中で、いくつかの大きな課題に直面している。世界における日本の競争力強
化、産業の生産性向上、我が国発の科学技術イノベーションの創出、グローバル化を担う
人 材 の育 成 、 震 災 の 経 験 を 活 か し た 防 災対 策 、 地 球 温 暖 化等 の環 境 問 題 へ の対 応 、今 後
ますます進行する高齢化と人口減少の克服、活力ある地方の創生、そして、こうした現代
社会に飛び立っていく若者の育成。これらは、国民一人一人が生きがいを持ち、豊かに安
心 し て 生 活 を 送 る こ と が で き る 持 続 的 な 社 会を 形 成 し て い く ため に 避 けて 通 る こ と が で き な
い 課題 で あ る 。 未 来が 予 測し に くく な っ てい る現 代 社会 の 中で 、 こ れら 諸 課題 に 立 ち 向か っ
ていくためには、現代を生きる一人一人の個人や各種組織体が、それぞれの立場から可
能な行動を取っていくことが求められる。これら課題に対する挑戦なくしては、我が国の社
会を次世代に対して誇れるものとして受け継いでいくことができないのではないだろうか。
これ ら の大 き な 変 化と それに 伴う 諸 課題 は、 我 が国 社 会の 現 在と 未 来 に 対 す る不 安を も
たら す 一 方 で 、 今 後 の 新 たな 社 会 の 展 望を 開 く 大 き な 可 能 性 も 秘め て い る 。 知 識 基 盤社 会
を 迎え 、我が国 社会の活力や 持続性を 確かな ものとす る上で 決定的に 重要な ものは、新た
な 価 値 を 生 み 出 す 礎 と な る 「 知 」 と そ れ を 担 う 「 人 材 」 で あ る こ と に は 疑 い が な い。 18歳 人 口
が今後減少していく状況の中、これからの時代を担う人材の育成と、より充実した教育研
究水準を確保しつつ、各国立大学がいかにその役割を果たすかが問われている。全国に
配 置さ れ 、高 い潜在 能力 を 有す る国 立大 学が、 その機 能を 一 層強化 し 、卓越 し た教育 力や
研究力を通じて、地域、我が国、そして世界が直面する課題解決に最大限貢献すること
が、これまで以上に求められているのである。
特に 教育につ いては 、現在、文部科学省を挙げて「高大接続改革」に取り組んでいるが、
近 未 来 に 対 し て 三 人 の 学 者 に よ る 次 の よ う な 分 析 が あ る 。 「 子 供 た ち の 65% は 、 大 学 卒 業
後、今は 存在し ていない職業に 就く」 (キャシー ・デビッ トソン氏、ニ ュー ヨーク市立大学大学
院 セ ン タ ー 教 授 ) 、 「 今 後 10~ 20年 程 度 で 、 約 47% の 仕 事 が 自 動 化 さ れ る 可 能 性 が 高 い 」
( マ イ ケ ル ・ A ・ オ ズ ボ ー ン 氏 、 オ ッ ク ス フ ォ ー ド 大 学 准 教 授 ) 、 「 2030年 ま で に は 、 週 15時 間
程度働けば済むようになる」(ジョン・メイナード・ケインズ氏、経済学者)。
世の 中 の 流 れ は 予 想 よ り は る か に 早 く 、 将 来 は 職 業 の 在り 方 も 様 変 わり し て い る 可能 性
が高い。こうした変化の中では、これまでと同じ教育を続けているだけでは、新しい時代に
通用する「真の学ぶ力」を育むことはできない。こうした課題を高等学校教育、大学教育、
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大学入学者選抜の改革による新しい仕組みによって克服し、子供一人一人が、高等学校
教育を通じて様々な夢や目標を芽吹かせ、その実現に向けて努力した積み重ねを、大学
入学者選抜でしっかりと受け止めて評価し、大学教育や社会生活を通じて花開かせるよう
にする必要がある。「高大接続改革」は、高等学校、大学、そして社会へと、一貫して育て
ていくための一体的な教育改革である。
このうち大学教育に関して言えば、その質の転換を図ることが重要な課題となる。我が
国の大学生の学修時間は、米国と比べて依然として短いという調査がある。いまだ答えの
ない課題に向き合う力、先の予想が困難な時代を生きる力を育成するためには、教育内
容、指導方法、評価方法も含めて、どのような大学教育を行い、学生をどう鍛えて社会へ
送り出すか、そのための組織は今のままでよいのかということに、大学は真摯に向き合い
自ら問い直す責務を負っている。
具 体 的 に は 、 各 大 学 に お い て 、 学 生 に 身 に 付 け さ せ る べ き 資 質 ・能 力 を 明 確 に し 、 そ れ
に基づく学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)や教育課程の編成の方針(カリキュラム・
ポリシー)が適切に設定されてきたか、能動的学習(アクティブ・ラーニング)、科目番号制
(ナ ン バ リン グ ) の導入 や教 育課 程の体 系化等 を 通じ て 全学的な 教学マネ ジ メント を 確立す
るとともに、学修成果の把握、厳格な成績評価に取り組むなど、特色ある教育研究を行う
体 制 が と ら れ て き た か 、 と いう 観 点 か ら 、 現 在 行 って い る 教 育 内 容 ・ 方 法や そ の 基 盤 と な る
組織のあり方等を点検し、変化する社会の中で学生が生涯を通じて活躍することができる
力を養うことができる教育を目指していく必要がある。
これに関し、既に複数の国立大学においては、「ミッションの再定義」を踏まえるなどし
て 、 既 存 の 教 育 研 究 組 織 を 廃 止 し て 新 たな 組 織 を 設 置 す る こ と に よ り 、 社 会 的 要 請 の 高 い
分野の教育研究活動を行おうとする意欲的な取組が行われるようになっている。例えば、
山口大学では、教育学部と経済学部の組織を見直し、カリキュラム設計をディシプリン・ベ
ースドからアウトカム(人材像)・ベースドに転換した新しい文理融合型教育を行う新学部
「 国 際 総 合 科 学 部 」 を 平 成 27年 度 か ら 開 設 し 、 科 学 技 術 リ テ ラ シ ー と 英 語 に よ る コ ミ ュ ニ ケ
ーション能力、課題解決能力を併せ持った国際的に活躍できる人材を養成するため、1年
間の留学の必修化、文系と理系の幅広い知識の修得、学修成果を数値化した評価方法を
導 入 す る など の 特 色あ る教 育を 展開 し て いる 。 また 、宇 都 宮大 学 では 、 社会 制 度、 まち づ く
り、防災・減災などの重層的・複合的な地域課題に対応できる人材を養成するため、教育
学 部 と 工 学 部 の 組 織 を 見 直 し て 新 た な 学 部 を 設 ける 準 備 を 進 め てい る 。 新 た な学 部 で は 、
地域をフィールドに学科を越えて学生が参加する課題解決型演習を必修化するとともに、
全 て の専 門 科 目を ア クテ ィブ ・ラ ー ニ ン グ で 実施 す る な どの 教 育の 展 開が 予定 さ れ て いる 。
長崎大学では、経済学部と環境科学部の組織を見直し、人文社会系諸分野を「多文化社
会」の観点から再編・統合した学際性に富むカリキュラムを構成する、「多文化社会学部」
を 平 成26年 度に 開 設 し 、 多様 な 文化的 背景 を 持つ 人々 と 協働 し 、グ ロ ーバ ル化す る 社会 を
担う人材を養成しようとしている。その他にも、東京大学では、文学部の現行の4学科を
1学科に改組すること により、専門領域内での学修に自足 する傾向を解決し、俯瞰的
な視野から「人間」と 「社会」をめぐる知を活用しうる人 材を育成しようとする構想
を予定している。
この よう に 、社 会のニ ーズ と 各 大学が 培っ てき たリ ソ ースを 踏まえ、幅 広い知識や能力 を
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活用できる人材を育成するため、「文」や「理」というこれまでの枠組みを超えて、自然科
学 、 人 文 学 、 社 会 科 学 が 連 携 し 、 総 合 的な 知 を 形成 し 、 グ ロ ー バ ル 化 の 取 組 、 地方 創 生 へ
の貢献などに対応した新たな学部に改組する動きなどが着実に進んでいる。ミッション
の再定義が行われた平成25年度以降 、平成28年度新設見込みの学科等までを含めると 、
全 体 の 約 15% に 相 当 す る 学 科 (226学 科 (う ち 教 員 養 成 、 人 文 社 会 科 学 系 は 89学 科 ))で
組織見直しの構想が進 められている。また、東京芸術大学 や一橋大学では、自らの強
みを生かして海外大学と連携し 、国際的な教育研究拠点を形成する構想を進めている 。
こうした複数の国立大学における改革の機運を全ての国立大学で共有し、それぞれの強
みや特色、社会的役割等を踏まえつつ、教育研究の質向上や刷新に向けた取組を進めて
いくこと が、現代社会において大き く期待されているのであ る。
(なぜ特に教員養成系・ 人文社会科学系で見直しに取り組むことが求められるのか)
こうした背景の中で、先般、「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」
の 通知 を 発 出し た 。こ こ で は 、全 て の組 織 を 見 直し の 対 象と し つ つ 、「 特 に 教員養 成系 学部
・大学院 、人文社会 科学系学部 ・大学院に つ いては、18歳人口 の減少 や人材需要、教育研
究水準の 確保、国立大 学とし ての役 割等を 踏まえた組織見直 し計画 を策 定し、 組織の廃止
や社会的要請の高い分野への転換に 積極的に 取り組むよう努めるこ ととする。」とし た。
こ の 点 に 関 し て 、 一 般 に 、 「 人 文 社 会 科 学 系 学 部 ・大 学 院 を 廃 止 し 、 社 会 的 要 請 の 高 い
『自然科学系』分野に転換すべきというメッセージだ」、「文部科学省は人文社会科学系の
学問は重要ではない」として、「すぐに役立つ実学のみを重視しようとしている」、「文部科
学省は、国立大学に 人文社会科学系の学問は不要と考えている」と の受け止めがある。
果た し て そ う な のか と 問 われ れば 、 い ず れ も ノ ー であ る。 す な わち 、 文部 科 学省 は 、人 文
社 会科 学系 な ど の特 定 の学 問 分野 を 軽 視し た り 、 すぐ に 役 立 つ 実学 の みを 重視 し ていたり
は し な い 。 人 文 社会 科 学 系 の 各 学 問分 野 は 、 人 間 の 営 みや 様 々 な 社 会 事 象 の 省察 、 人 間
の精神生活の基盤の構築や質の向上、社会の価値観に対する省察や社会事象の正確な
分析などにおいて重要な役割を担っている。また、社会の変化が激しく正解のない問題に
主体的に 取り 組みな がら解を 見いだす力が 必要な時代 において、 教養教育や リベラ ルア ー
ツ に よ り 培 わ れ る 汎用 的 な能 力 の重 要性 は む し ろ 高ま っ てい る 。す ぐ に 役 立つ 知識 や技 能
のみでは、陳腐化するスピードも速いと言えるだろう。
では、なぜ、特に教員養成大学・学部、人文社会科学系について、「組織の廃止や社会
的要請の高い分野への転換」に積極的に取り組む努力が必要であると考えるのか。その
背景には我が国社会を取り巻く環境の大きな変化があり、国立大学には社会の変化に柔
軟に対応する自己変革が必要と考えているためである。
特 に 、 教 員 養 成 大 学 ・ 学 部 に つ い て は 、 平 成 24~ 25年 度 に 文 部 科 学 省 が 各 国 立 大 学 と
と もに 、 専門分 野ご と に その強 み・ 特色 ・社会 的役 割を 明らか にす るために 実施し た「ミ ッシ
ョンの再定義」において、今後の人口動態・教員採用需要等を踏まえた量的縮小を図りつ
つ、初等中等教育を担う教員の質を向上させるため機能強化を図ることとし、学校現場の
指導経験のある大学教員の採用の増加、実践型のカリキュラムへの転換、組織編成の見
直 し ・強 化 を 推 進 す る こ と と し て い る 。 こ の よ う な 教 員 養 成 大 学 ・ 学部 が 今 後 向 き 合 う べ き ミ
ッションにより注力していくため、そのミッションに必ずしも合致しない、いわゆる「新課程」
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は 既 に 廃 止 の 方 針 と し て お り 、 その リ ソ ー スを 活 用 す る な ど し て 、 よ り 質 の高 い 教 員 養 成 を
実現していくこと が必要と考えている。
他方、これまでの人文社会科学系の教育研究については、専門分野が過度に細分化さ
れ て いる の で は な い か ( たこ つ ぼ 化) 、 学生 に 社 会を 生 き 抜 く 力 を 身 に つ けさ せる 教 育が 不
十分(学修時間の短さ、リベラルアーツ教育が不十分)なのではないか、養成する人材像
の明確化や、それとの関連性を踏まえた教育課程に基づいた人材育成が行われていない
の で はな い か 、 と いう 指 摘が 社 会一 般 や学 術 界か ら もし ば し ば さ れ てお り 、 「 ミ ッ シ ョン の 再
定義」の過程でも、同様の課題が認められた。先述した東京大学文学部の1学科構想は 、
こうした課題を受けての大学側からの自主的な改革による取組と考えられる。
先般の通知において、全ての組織の見直しを求める中で特に教員養成大学・学部や人
文 社 会 科 学 系 を 取 り 上 げ て い る の は 、 こ の よ う な 課 題 を 踏 ま え 、 教 育 の 面 か ら 改善 の 余 地
が 大 き い と 考 え て い る た め で あ る 。 「 組 織 の 廃 止 や 社 会 的 要 請 の 高 い 分 野 へ の転 換 」 と
は、例えば、いわゆる 「新課程」を廃止するとともに、そ の学内資源を活用して、学
生が生涯にわたって社 会で活躍するために必要となる能力 を身に付けることのできる
教育を行う新たな教育組織を設置すること等を想定している。
各国立大学には、教育研究の質をより高める観点から、学部や研究科(大学院)などの
再編制を通じ、「社会的要請の高い分野への転換」に積極的に取り組むよう努めていただ
き たいと 考え ている。大 学で行われる 学術や科 学技術の研究 教育は未知 の世界を 切り 拓く
ものである。このことを踏まえれば、各大学にはむしろ社会的要請をリードするような積極
的な提案をいただきたいところである。見直しの具体的内容は、各大学の学部・研究科が
果たす、あるいは今後果たすべき役割(ミッション)として再確認したことを踏まえ、必要な
戦略と計画を立てて実行していただくこととなる。
国 立 大 学 も 社 会 と と も に あ る 。 そし て そ の ス テ ー ク ホ ル ダー は国 民 全 体 と い え る 。 新 し い
時代の大学教育の形をどのように創っていくか、各国立大学は英知を絞っていただきた
い。それは、それぞ れの国立大 学自身が魅力あ る大学であり 続けるための重要な課題でも
あ る 。 現状 を 維 持す る だ けでは 、 学生 に 新 し い時 代に 通 用す る力 を 付ける こ と ができ な い。
社会が大きく変貌している現在、国立大学も「社会変革のエンジン」として「知の創出機
能」を最大限に高められるよう、自ら変わっていかなければならない。今こそ、新たな社会
を 展望し た大胆な 発想の 転換の下、学 問の進展や イノ ベーシ ョン創出 に最大 限貢献す る組
織へと自ら転換していかねばならない。
文 部 科 学 省 は 、 平 成 25年 11月 の 「 国 立 大 学 改 革 プ ラ ン 」 の 策 定 以 降 、 そ の 強 み ・ 特 色 ・
社 会 的 役 割 を 踏 ま え な がら 、 こ れ か ら の 時 代 の 新た な ニ ー ズ と 真摯 に 向 き 合 う 国 立 大 学 を
目指し、機能強化の取組を進めてきた。これからも、全ての国立大学が主体的に取り組ん
でいただくことを期待し ており、このような大学を積極的に支援していく考えである。
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