第70回中央委員会 会長挨拶 2015年6月3日 連合会長 古賀伸明 おはようございます。連合第70回中央委員会にご参集いただきました皆さ ん、大変ご苦労さまです。 また、ご多用の中、ご来賓としてご出席いただきました、達増岩手県知事に 心より感謝申し上げます。連合は来る岩手県知事選挙において4月に達増知事 の推薦を決定しました。連合岩手を中心に必勝に向けて全力を挙げていくこと といたします。そして、皆さんご存じの通り、前会長の高木顧問がこの春、旭 日大綬章叙勲の栄に浴されました。本日もご出席されており、会場の皆さん全 員の拍手でお祝いしたいと思います。本当におめでとうございます。 加えて、一橋大学の中北教授にお越しいただき、 「日本政治の現在と連合の役 割」と題して特別講演を予定しています。 さて、東日本大震災から4年余が経過しました。一昨年放送された朝のテレ ビ小説「あまちゃん」の舞台は岩手県北部の久慈市です。昨年はその久慈市か ら宮古市まで三陸鉄道が全線復旧しました。宮古市は連合ボランティアも多く 入った地域です。 「ようやく希望の光が見えてきた」との声がある一方、今もなお21万人を 超える方々が故郷への帰還条件が整わず、避難生活を強いられています。今年 度が集中復興期間の最終年とされていますが、本格的な復興に向けた課題は山 積です。改めて、東日本大震災を決して風化させないこと、そして、被災地の 復興・再生を引き続きオールジャパンで支えていくことを確認しあい、この岩 手の地で中央委員会を開催する意義を共有したいと思います。 連合は、昨日東日本大震災を風化させず、犠牲になった多くの仲間たちが残 してくれた教訓を生かすため「いのちを守る絆フォーラム2015」を開催し ました。また、本日提案する「政策・制度 要求と提言」の第一番目の課題とし て復興・再生を位置づけています。この後の達増知事のお話もしっかりと受け 止めながら、連合としての継続した取り組みに対する認識を確認したいと思い ます。加えて、現在「東北の子ども応援わんぱくプロジェクト」2年目の取り 組みも準備が進んでいます。子ども同士の交流を通じ、絆を深め、震災を風化 させない取り組みも実践していきます。 「ふるさとの山に向かひて言ふことなし 1 ふるさとの山はありがたきかな」 ご存じの方も多いと思いますが、盛岡が生んだ国民的詩人、石川啄木が 100 年ほど前に詠んだ詩です。啄木が詠んだ美しい岩手山を目にしますと、時を超 えて胸に響くものがあります。多くの人々が日々の暮らしの中で感じている思 いを上手にくみ取り、素朴な言葉で語りかけ・呼びかけるところに共感が広が ります。そうした感覚は、労働運動にも求められる大きな要素だと思います。 石川啄木には、もう一つ有名な詩があります。 「はたらけど はたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざり ぢっ と手を見る」 100 年前といえば、日本の近代産業化が本格的に進みはじめる時代です。産業 化には女性や子どもたちを含む多くの労働力の創出が必須であり、その過程の 中で、自らの労働力で賃金を得、生計を立てるという雇用労働者が生み出され てきました。啄木自身も家族を抱えながら様々な職業を転々とし、厳しい生活 が続いたと言われています。 当時の文献や映像などから、健康で人間らしく働き、幸せに暮らしていける 社会をつくることがいかに大切か、改めて考えさせられます。当時の人たちも、 仕事で疲れ果て、しかし手元にはろくに食べるものもない、そういう自分の手 をじっと見つめたのだと思います。そして、そのまなざしを自分の手から社会 に向けた時、自分と同じような人たちがいることに気づき、働くことと経済・ 社会のあり方のつながりを考えるきっかけになったのではないでしょうか。そ うした問題意識の中から労働組合が生まれ、ワークルールやセーフティネット がつくられてきました。 いま私たちの社会には、現代における貧困と格差社会が広がっています。近 代産業化を進め欧米列強に追いつけ追い越せという時代と成熟社会のいまでは、 貧困という現象の現れ方や貧困・格差に対する意識など当然違います。当時の 人身売買・強制労働など過酷な職場実態や大規模な労働争議、米騒動のような 暴動はみられませんが、フルタイムで働いても生活ができないワーキング・プ アは確実に増え続けています。リーマンショック時の「派遣村」のように、普 段はあまり見えなくとも社会の底にマグマが蓄積され、経済ショックなどがあ ればいつ爆発してもおかしくない状態にあるのです。 一方では、シングル・マザー/ファーザーの孤立と貧困の連鎖、孤独死や介 護難民に象徴される「無縁社会」の進展など、支え合い・助け合うことで貧困 から脱出させる社会の力も弱まっています。 1944年の国際労働機関・ILO総会で採択されたフィラデルフィア宣言 の一つ「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」を引用するまでもなく、 これらは彼ら・彼女らだけの問題ではなく、私たち自身の問題であることを再 2 度認識しあわなければなりません。労働運動は、本来、変化する経済社会情勢 に翻弄される働く者とともに悩み、その問題の本質を深掘りし、すべての働く 者・生活者に関連する課題として行動し、社会を変革していくダイナミックな 存在のはずです。 2年前の定期大会で決定した運動方針では、「社会正義の旗を掲げ、組合員 や働く仲間とともに運動をつくり、暗闇の中で声をあげられずにいるより多く の働く仲間を照らす光となろう」「『働くことを軸とする安心社会』の実現を大 きな目標として、社会的に拡がりのある労働運動をめざそう」と呼びかけ、こ れまでの延長線上にはない様々な取り組みも推進してきました。しかし、そう した取り組みが組合員一人ひとり、職場の隅々にまでどれだけ浸透したのか。 また、組合のない職場で働く仲間や社会全体にどれだけ伝わり共感を呼べたの か。率直に振り返ってみる必要があると思います。一歩前進したことがある一 方、将来に向けてさらに力を入れて取り組まなければならない課題や根本的に 立て直さなければならない課題も見えてきました。 午後に、議案や特別決議などを議論していただきますが、それに先立ち、い くつかの課題について所見を述べさせていただきます。 グローバリゼーションの激化と成熟社会という大きなうねりの中で「この国 のかたち」が問われていることは間違いありません。しかし、政府の「日本再 興戦略」で掲げられている方向、すなわちヒト・モノ・カネを総動員し、 「世界 で一番ビジネスがしやすい」国につくりかえるということには大きな疑問があ ります。この国を支えているのは、間違いなく人・私たち働く者です。 「働くこ と」を国づくりのど真ん中に据えて、持続可能な社会へとシステムや政策体系 を転換していくべきです。 働く者の犠牲の上に成長戦略を描くことは根本的に間違っています。労働基 準法をはじめとする労働者保護ルールは、生身の人間の命や健康を守り、社会 生活を保障するために必要な最低限のものであり、経済的な規制緩和による負 の側面を相殺する社会性を持っています。経済的規制と同様に社会的な規制ま でゆるめてしまえば、社会が歪んでしまいます。株価や投資家を優先し、痛ん だ雇用と労働条件を棚上げにするようでは、日本再興は成し得ません。すべて の働く者にディーセントワークを実現し、ボトムアップ型の包摂的成長を通じ た分厚い中間層の復活が極めて重要です。 しかし、いま国会では、労働者派遣法の改悪法案が、三たび提出され審議さ れています。先週27日の全国統一集会でも言及していますので多くは申し上 げませんが、この法案は、 「派遣労働は臨時的・一時的に限る」という原則を実 質的に撤廃し、均等待遇原則の導入を先送りするものです。 「生涯派遣で低賃金」 3 につながる改悪には断固反対です。 また、いわゆるホワイトカラー・エグゼンプションの導入と裁量労働制の拡 大が盛り込まれた労働基準法の改悪にも当然反対です。 「過労死」が大きな社会 問題となっているにもかかわらず、その現実を無視していわゆるブラック企業 を後押しするような改悪を何故急ぐのかまったく理解できません。 これからが国会審議のヤマ場であり、踏ん張りどころです。 一昨年の定期大会以降、連合本部、構成組織、単組、地方連合会、地域協議 会が力を合わせて「STOP THE 格差社会! 暮らしの底上げ実現」キャンペー ン第2弾、第3弾を展開してまいりました。巨大な政府・与党と対峙するには、 働く者の声を結集し、世論をつくることが不可欠だからです。1 年半以上にわた り、すべての地域で大衆活動を組織的に展開できたことは、25年の積み重ね のなかで連合運動が強化されてきたことを示唆していると思います。世論をつ くるという面では、組織内外へのより一層の努力と工夫が欠かせません。アイ デアやご意見・ご提言があれば、積極的にお寄せいただくことをお願いしてお きます。 職場や地域での世論喚起に引き続き取り組んでいただくとともに、来週から は国会周辺での行動に力を集中し、すべての働く者の先頭に立って、労働者保 護ルール改悪阻止の取り組みを展開していきます。各組織におかれましては、 引き続き積極的に諸行動に参画いただくようお願いいたします。 また国会では、安全保障法制の審議もはじまりました。安全保障法制は、憲 法及び国の基本政策に関わる重要課題であり、多くの国民がその内容と意味を 理解した上で、合意形成をはかりながら進めるべきものです。しかし、昨年7 月の基本方針決定から 1 年間、政府・与党内の議論に終始し、国民への丁寧な 説明や国民を巻き込んだ議論が後回しにされてきたことは極めて大きな問題で す。政府は、いまなぜ安全保障法制の見直しが必要なのか、日本を取り巻く情 勢とそのもとでの安全保障の全体像について基本的な認識を明確に説明する必 要があります。そして、自衛隊の活動が歯止めなく拡大していく懸念はないの か、憲法との関係はどうなのか、国民目線で徹底的な議論を十分な時間をかけ て行わなければなりません。連合としては、政府の提出した安全保障関連法案 に反対する立場から、オープンかつ徹底的な議論を求めていきます。 いま国会で論議されている労働者保護ルール、安全保障法制は、私たちの雇 用や暮らしを左右する重要な問題です。暮らしと政治は切っても切れない関係 にあります。与党が圧倒的多数を占める中で、生活者や働く者の政策を実現す るためには、基本理念や目指すべき社会像の方向性などが類似し、連携できる 4 政治勢力を拡大していく必要があります。そのことによって、緊張感があり国 民の多様な意見に耳を傾け、議論を通じ理解を深め、よりよい方向に舵取りを していくという本来の政治の役割が機能するのだと思います。 去る4月には統一地方選挙が実施されました。全国各地で日夜懸命な活動を 展開された組合役員・組合員の皆さんに、心より敬意を表します。私たちがめ ざした結果に届かなかったことは極めて残念であり、投票率が区長選を除く全 ての選挙において史上最低を記録したことに重大な危機感を抱かざるを得ませ ん。 さらに、5月17日には大阪市廃止・分割の是非を問う住民投票が実施され、 僅差ではありましたが反対票が賛成票を上回り否決されました。この住民投票 の結果は、国政にも大きな影響を与えています。現地で活動にあたられた連合 大阪の皆さん、さらには連合大阪の取り組みにご支援・ご協力いただいた皆さ んに改めまして心より敬意を表します。 こうした中、これから東日本大震災により統一地方選挙と実施時期が異なっ た被災地3県の地方自治体選挙が行われます。来年の国政選挙にも大きな影響 を与える選挙であり、これまでに提起した方針に沿い全力で取り組みを展開し ていきます。そして、来年の夏には参議院議員選挙が実施されます。12の構 成組織が真摯な組織討議を重ね、比例区組織内候補者の擁立を決断いただきま した。後ほど第24回参議院議員選挙基本方針(案)として提案致しますが、 極めて厳しい情勢を共有化し、取り組みを強化しなければ組織内候補者さらに は推薦候補者全員の当選は成し得ません。 前回の参議院議員選挙後に実施した「連合政治アンケート調査」では、組合 員も一般有権者と同様に政治参画意識が著しく低下していることが明らかにな りました。それは、本日提案・決定する「政策・制度 要求と提言」の実現と政 治プロセスとの回路が組合員・組合役員の中でしっかりと形成されていないこ とを意味します。政治はわたしたちの暮らしに直結しており、誰ひとりとして 政治と無関係でいることはできないのです。政策実現のためには、 「観客民主主 義」や「お任せ民主主義」はあり得ないことを職場の隅々まで浸透させていく、 そのための職場や地域での活動を一つひとつ積み上げていくことをお願いして おきます。民主党に対する課題も多くありますが、まず私たちの足下からやる べきことをやりきる覚悟を持たなければ、私たちの目指す「働くことを軸とす る安心社会」への扉を切り拓くことはできません。 同時に、 「働くことを軸とする安心社会」実現のためには、ともに発信しとも に行動する仲間を増やしていく組織拡大の取り組みも不可欠です。後ほどの活 5 動報告で詳細は説明しますが、今年3月末までの1年半の組織拡大実績は、こ れまで2年間で達成してきた拡大実績に匹敵する水準となっています。加えて、 拡大実績のあった構成組織も増加し、組織拡大の取り組みが広がってきていま す。登録ベースでも約8万人増え682万人連合となりました。改めて、これ までの組織拡大への取り組みに心より敬意を表します。 とは言うものの1000万連合の実現に向けては、組織拡大の流れをさらに 加速しなければなりません。そのためには連合全体でどう取り組むのか、構成 組織、地方連合会、連合本部の各々のさらなる役割発揮に関して、これから1 0月の定期大会に向けての運動方針論議の中で議論を深めてまいります。20 20年の1000万連合の実現に向けてとことんこだわっていくことで、新た なアイデアや取り組みが生まれてくるものと確信しています。 次に、2015春季生活闘争についてです。難しい交渉環境の中で、構成組 織・単組・地方連合会それぞれの立場で、精力的に取り組みをいただき、5月 11日現在で約6割の組合が妥結に至っています。今日までのご努力に改めて 敬意を表します。 政府は、「経済の好循環を実現し、景気回復の実感を全国津々浦々に届ける」 としていますが、それを実感できているのは一部の層にとどまっています。デ フレ脱却には、すべての働く者の底上げが必要です。とりわけ、格差社会の痛 みが集中したのが、労働者の7割を占める中小企業で働く仲間や2000万人 の非正規労働者であり、そこに波及するかどうかがカギを握っています。20 14闘争では、これまで長きにわたり一定水準にはりついたままの賃金レベル を引き上げたという点で大きな転換点となりました。そして、今2015闘争 は、賃上げを起点とした新たな好循環のサイクルを継続して回していくために、 すべての組合が月例賃金と中小企業で働く仲間、非正規の仲間の「底上げ・底 支え」にこだわってきました。 今労使交渉を通じて、マクロ的な視点での賃上げや人への投資の必要性など について一定の理解が進んだことを、今後の取り組みにつなげていかなければ なりません。 5月11日時点の賃上げ集計では、全体平均、中小組合とも昨年同時期を上 回る結果となっています。また、非正規労働者の時給引き上げについても、昨 年同時期を上回る回答を引き出しています。次年度以降もこの流れを持続し、 底上げの裾野をいかに広げていくのか、そのための課題は何か、専門委員会な どでしっかりと議論し2016闘争に向けた準備を早めに開始したいと思いま す。 また、 「ワーク・ライフ・バランス社会実現の取り組み」についても、昨年を 6 上回る状況で推移しています。この流れをより一層大きなものにしていかなけ ればなりません。超少子高齢・人口減少社会という社会的構造問題を抱える中 で、真の共に生きる・「共生社会」を実現することが求められています。 「長時間 労働が当たり前」という風土をなくし社会全体に波及させるには、 「働くという こと」や「休むということ」さらには「社会の一員としての時間の過ごし方の 大切さ」などを掲げ、意識改革を行う必要があります。引き続き「働き方改革」 「休み方改革」を実現し、私たちが社会の規範を創造するという気概を持って 取り組みを強めていくことを確認しあいたいと思います。 時間の関係で触れられなかった重要な課題もありますが、足らざるところは、 議論の中で肉付けしていただければ幸いです。 昨日の会合や集会も含め、設営等にご尽力いただいた豊巻会長はじめ連合岩 手の皆さんに、心より御礼申し上げますとともに、限られた時間ではございま すが、皆さんの真摯で活発な論議をお願いし、冒頭の挨拶といたします。 ご清聴大変ありがとうございました。 以上 7
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