新幹線開業都市における開業施策と市民組織の活動展開からみる 中心市街地のあり方に関する研究 A Study on Potential of the Central Cities in the Cities Opening Shinkansen Line : Focus on the Measures for Opening It and the Development of Civil Activities 時空間デザインプログラム 13M43087 大西 真由 指導教員 真野 洋介 Environmental Design Program Mayu Ohnishi, Adviser Yosuke Mano ABSTRACT The purpose of this study is to consider ideal way of the central cities in the city tend to change in form or quality with the opening Shinkansen line as a turning point. Therefore, the author focused on three points. 1) The position of the central cities in the measure for opening Shinkansen line. 2)The development civil activities in practice before and after. And compared Hachinohe and Takaoka city. Activities in the central cities are the ability to send people from there to the wide area in Hachinohe city. Civil and administration activities gather there and the central cities becomes“platform”in Takaoka city. The results show the new value system of the central cities. 5)等があるが、本研究は開業を契機とした事業と、異なる背景 1 章 はじめに から生じた市民活動の双方が地域へ与える影響を考察する点、 1-1 研究の背景と目的 に基づいた整備新幹線の開業は観 開業都市の中でも駅が郊外立地となる都市を対象とし駅と中 光・ビジネスの交流を促進することで地域に大きな効果をも 心市街地の関係性を考察する点で独自性を持つ。また中心市 全国新幹線鉄道整備法 たらすと考えられており 1) 2) 、沿線の地方自治体は開業を契機 街地の意義について述べた研究は山下 6)、小川他の論文 7)等 に様々な施策を行い都市の活性化を目指している。 が存在するが、本研究は商業集積や人口の多さとは異なる視 その一方で開業が地域にマイナスの影響をおよぼす可能性 点で中心市街地の意義を考えることから既往研究とは異なる。 も懸念されており、特に新幹線駅が郊外立地となる市町村で 1-3 研究の方法と構成 は、都市拠点の分散や郊外への大規模な公共投資が起きるこ 2 章では新幹線開業都市の概要について整理し、対象地選 とで、開業前から地域が抱えていた中心市街地での人口減 定を行う。3 章では対象地の発展過程や人口変動、事業所等 少・商業機能の衰退に拍車がかかると考えられる。3) の変動等から、新駅周辺と中心市街地の現状を明らかとする。 このような背景のもと、新幹線開業都市では行政施策の流 4 章では開業事業と事業を行う主体を整理した上で、開業事 れとは異なる軸で、市民の発意によるまちなかの再生・住民 業を都市基盤整備と観光施策に分類し分析することで、開業 の活動の促進を目指した動きが起こるケースが見られる。こ がもたらした都市構造の変化を明らかにする。5 章では中心 のような市民からの活動は、行政が取り組む事業の単位では 市街地における市民組織の活動をヒアリング調査により明ら 解決が難しい課題解決に繋がり得ると考えられ、またこれら かにし、それらの活動の集積が中心市街地にもたらす影響を の取り組みと開業事業は意図せずとも、互いに影響を及ぼし 考察する。6 章で 3・4・5 章の総合的考察を加え、7 章で結論 合っている可能性が考えられる。そこで本研究では新幹線開 を述べる。 業都市を対象に、 1-4 本研究の対象範囲 ①新幹線開業施策における中心市街地の位置付け 本研究では、次の言葉の対象を以下のように設定する。 ②開業前後の中心市街地における市民活動の展開 の 2 点を把握し、両側面からみた地域構造の変化を明らかに することで、開業という変化が生じた都市における中心市街 2 章 新幹線開業都市の概要と対象地の選定 地のあり方を考察することを目的とする。 2-1 新幹線開業都市の概要 1-2 研究の視点と位置付け 新幹線開業都市 28 都市の中で認定された中心市街地活性 新幹線開業都市に関する研究として、新駅周辺整備に関す 化基本計画を定めている都市は 12 都市であり、その中の 7 都 4)、開業による経済的変化・生活の変化に関する論文 市では新幹線駅が中心市街地に立地し、郊外立地となる駅で る論文 も在来線が乗り入れるケースが大半である。また開業に伴い では人口・事業所共に減少傾向であり、中心市街地では居住 15 都市が駅周辺で土地区画整理事業を実施しており、開業に 年数も高くなっている。(図 1) 伴い駅周辺の空間整備が進められる場合が多くなっている。 3-3 高岡市の実態 2-2 対象地の選定 高岡市では郊外部である国道・JR 北陸本線沿いで人口・世 開業事業が地域にもたらす影響を時間軸に基づき把握する 帯数共に増加が見られ、地区毎の事業所数変動をみると、2002 ため、開業前・開業後の状況整理から対象地を選定する。① 年のイオンモール高岡建設の影響により、新駅周辺の二塚地 2014 年時点で国に認定された中心市街地活性化基本計画が定 区に事業所が集中している。中心市街地では人口・事業所共 められている②中心市街地の範囲外に新幹線駅が立地してい に減少が顕著であり、特に博労地区での人口減少、商店街を るという条件から青森市、八戸市、高岡市が抽出され、その 有する定塚地区での事業所数減少が著しい。また定塚地区・ 中で開業前の都市である高岡市を選定し、開業後の都市とし 平米地区の片原町や末広町、坂下町といった商店街を有する て高岡市と開業前の観光入込客数等が類似する八戸市を対象 地域は、居住年数が高くなっている。(図 1) 地として選定する。 2-3 対象地における新幹線開業の概要 2002 年開業の八戸駅は、開業以前は JR 東北本線の単独駅 として利用されており、八戸駅東側は区画整理事業が行われ 既存の市街地が広がり西側では未整備な整備な状態であった が、開業を契機に大規模な宅地化が進められている。 高岡市では中心市街地に立地する高岡駅から約 1.5km 南に 新幹線駅が 2015 年開業に伴い新設される。用途地域は準工業 地域に位置づけられ、周辺は住居系用途、工業系用途、商業 系用途が混在しており、水田等の農地が広がっている。 4 章 新幹線開業を契機とした行政施策と事業 4-1 開業に向けた取り組みと分類 開業事業を各地方自治体のホームページや開業都市の報告 書から把握した上で、対象地で行われている事業をホームペ ージやヒアリング等から抽出した。9) (表 3) 開業事業を都市 基盤整備と観光施策に分類しそれぞれで考察を進める。 3 章 新駅周辺と中心市街地を取り巻く環境 3-1 本研究で扱う中心市街地範囲と地区割 本研究で扱う中心市街地は表 2 の通りである。8)また扱う地 区割は各市が統計上使用している地区割を参考にした。 4-2 八戸市における開業に向けた取組み 開業に伴う道路整備は広域的道路が優先して整備された。 観光面では商工会議所を中心とした組織「新幹線八戸駅開業 事業実行委員会」が民間企業の経営者を巻き込みながら中心 3-2 八戸市の実態 市街地での取り組みを行った。(図 2)この取り組みが港や食 八戸市の人口変動をみると、近年開発されたニュータウン 文化を観光資源として捉えるきっかけとなった一方、「新幹 に、多くの新規居住者が増えており、かつニュータウンがあ 線八戸駅開業事業実行委員会」の中心事業として行われた屋 る田面木地区、近年イオンモールが建設された新井田地区で 台村「みろく横丁」の設立は、観光面では一定の効果をもた 事業所数が増加している。一方、中心市街地・新幹線駅周辺 らした 10)が周辺への効果の波及が課題として残ったことが明 らかとなった。 と商業者や、エリアをつなぐ目的の組織も複数存在しており、 4-3 高岡市における開業に向けた取組み 高岡市では各主体が小さいエリアや特定の目的に対して活動 新駅と中心市街地が 1.5km と比較的近くに立地しているた を行いつつも、それらが連携体制を持つことで、面的に空間 め新駅から中心市街地を包括する地域という大きな括りでの をつなぐ動き、まちづくりの分野を横断する動きに繋がって 考え方のもと計画策定が行われている。道路計画も高岡駅・ いる。 新駅間での計画が中心になされている。また観光施策では市 と県で連携体制を組みながら計画策定を行っている。(図 2) 4-4 対象地の人口・事業所変動と開業事業の関係 八戸駅周辺で空間整備が行われた結果、区画整理事業が行 われている西側では人口増加となり、計画が事業化に至らな かった東側では人口減少に拍車がかかっている。高岡市では 新駅周辺は人口・事業所共に増加傾向である。 6 章 総合的考察 前章までで明らかとなった開業施策と市民組織の活動の相 互的な展開プロセスを図 3 に示す。八戸市では各主体が時間 軸で分野の広がりをもって活動展開が起き、高岡市では同時 期に行政・民間と市民組織が相互作用をもたらしエリア・分 野共に活動を展開したことから対象毎に異なる表現とした。 6-1 開業事業と市民組織の相互分析 5 章 中心市街地における市民組織の活動 八戸市では中心部での開業施策の効果を広域的に波及させ 本章では対象地における市民組織の活動を市民活動サイト るために、開業施策で設立されたみろく横丁と既存の横丁を 11)やヒアリング調査 12)により把握し、それらの活動の集積が 含んだ包括的な取り組みを行った。開業事業で民間側の機運 中心市街地にもたらす影響を考察する。 を高めたことが、地元商業者の経済的メリットにつながる中 5-1 八戸市での市民組織の活動展開と地域への影響 心街の活性化に向けた取り組みを起こす促進条件となってい 沿岸部で活動を行う団体が情報発信・交流の拠点とするた る。その後行政側から中心市街地活性化を目指した取組みと めに中心市街地に拠点を設けたことにより新たな組織との連 して行われた事業と市民からの活動が互いの領域を横断しな 携が生まれる等、中心市街地を人が集まる場・交流の場と捉 がら活動を進めていくことで、連携体制が生まれている。 えた活動が起きている。また開業によって行われた観光施策 高岡市では開業に向け、行政や商工会議所では交流人口の の効果を波及させるため、商業者を中心とした新しい団体が 拡大を目指し計画を行っているが、その対象は山町筋や金屋 活性化に向けた活動を行う等、地縁と結びついた組織が既存 町といった伝建地区、国宝瑞龍寺周辺など局所的なものが多 の商店街組合や自治組織といった枠組みを超えた組織で活性 い。一方、市民組織からの動きは交流人口に留まらない、も 化を行うことにより、自身の経済的利益だけでない地域全体 のづくりの活性化や定住促進等多様なテーマに渡り、領域も に向けた取り組みに発展している。そしてそれらの組織が行 中心市街地の広域に広がっている。両者が補完的に事業を行 政と共に事業に取り組むことで、時間軸に沿って活動がより い、かつ互いに連携関係を持つことで、新しい動きの発生に 広域に、組織的にも他組織と連携も持ちながら広がっている。 つながると考えられる。 5-2 高岡市での市民組織の活動展開と地域への影響 6-2 対象地の中心市街地の今後のあり方の考察 中心市街地で複数の市民組織が設立し、個々の目的ごとに 八戸市の中心市街地は開業事業で整備されたみろく横丁や 活動を行っている一方、組織規模が小さく近接したエリアに 市民組織が中心街で拠点運営を行う等、地域資源(横丁、港等) 集積していることで、互いの活動時やイベント時に協力関係 を人々が訪れやすいまちなかで体験する場となっている。こ を持ちながら運営していることが明らかとなった。また行政 のように八戸市の中心市街地は、外部に開かれた核として、 広域に人を送る機能を担っていると考えられる。 高岡市では中心市街地で行政、民間団体、市民組織の活動が 高岡市では市民組織の活動は、それぞれは中心市街地の小 多発しており、各主体が連携し活動を行うことでエリアが広 さいエリアを対象にした取り組みを行っているが、意思決定 域的につながりプラットフォームの形成につながっている。 スピードが早く実施を伴う多様な目的を持った活動が展開さ これらは、コンパクトシティの考えに基づいた都市機能の れている。それぞれの活動が互いのメリットのために連携す 集約という視点とは異なる中心市街地の価値を示している。 ることでエリアが広域的につながり中心市街地そのものがプ ラットフォームとなり得ると考えられる。 7 章 結論 本研究の結論は以下の通りである。 7-1 開業事業と市民組織の相互展開 八戸市では中心部での観光振興を目的とした開業施策の効 果を広域的に波及させるために、開業事業に関わった地元商 業者が包括的な組織を設立し、取り組みを行った。 高岡市では、行政や商工会議所が開業に向け交流人口の増 加を目指した施策を局所的に行っており、市民組織がその領 域に重なりながら活動展開を行うことで事業対象の領域、分 野共に広域に広がっている。 7-2 中心市街地のあり方 人口・事業所共に減少が著しい中心市街地に対して、 八戸市では、中心市街地は交流の拠点、外部に開かれた核と して、広域に人を送る機能を担っている。 【参考文献・注釈】 1) 1970 年に全国的な鉄道網の整備を図ることを目的とし、制定された。 2) 国土交通省:整備新幹線について http://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_fr1_000041.html 3)富山大学芸術文化学部「高岡芸術文化都市構想 都万麻 03」 p172 参照 4)「新幹線駅が立地した地方都市における駅周辺の市街地整備特性に関する研究 : 整備推進上の特徴及びその展開プロセスを中心として」文釵他(1997,日本建築学会計 画系論文集 pp.137-145) 5)「東北新幹線八戸開業が地元にもたらした経済的、社会的変化と課題」櫛引素夫他 (2005,弘前大学大学院地域社会研究科年報 2 pp.79-915) 6)「中心市街地の活性化と今後の役割」山下宗利(2006,経済地理学年報第 52 巻 pp.251-263) 7)「郊外団地住民の中心市街地に対する生活依存と期待 大都市圏周縁の郊外団地住 民からみた中心市街地の役割に関する研究・その1」小川宏樹他(1999,日本建築学会 大会学術講演梗概集) 8) 高岡市では、中心市街地活性化基本計画に定められた中心市街地の範囲の中でも、 人口減少が著しい駅北側のエリアに関して「まちなか居住推進総合対策事業」を行い、 補助金の交付を行っている。 9) 各市町村や商工会議所が公表する都市基盤整備、交通計画、観光政策等の報告書、 計画書等を元に調査・分析を行う。 10) 2003 年は来客総数 27.2 万人、総売上は 36500 万円、2007 年に来客総数 23.6 万 人、総売上は 46000 万円と一定の売上を持続している。(「中心市街地活性化まちづ くり情報サイト まちげんき」現場研修レポート https://www.machigenki.jp/ ) 11)市民活動に関わるサイト(高岡市市民活動情報ポータルサイト「サポナビたかおか」 http://saponavitakaoka.jp/,八戸市民活動サポートセンター「ふれあいセンターわ い ぐ 」 (http://www.htv-net.ne.jp/~supo-cen/) や 、 各 市 民 組 織 の ホ ー ム ペ ー ジ 、 Facebook ページ等から市民組織を抽出し、設立年や組織の目的、活動を把握する。 12) 2014 年 6 月〜12 月に中心市街地を活動領域とする市民組織の代表者等にヒアリ ング調査を行った。
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