真のターゲットは「明日の豊かな人々」

Industry Articles:真のターゲットは「明日の豊かな人々」
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真のターゲットは「明日の豊かな人々」
執筆:ワン・ラズリー・アブドラ
(Wan Razly Abdullah)
、PT Bank CIMB Niaga Tbk、戦略・財務担当ディレクター
発展途上国の銀行にとって、いわゆる「金融包摂」を推進することはビジネ
るのは 5,000 万人にすぎません。この銀行口座保有者数は、2013 年末に
スとして意味があります。しかし、今日の「非銀行利用者層」
(これまで銀行
は 7,000 万人に増加すると予想されており、また、インドネシアにおける携
口座を持つことができなかった貧困層)が中流階級の一部となる時期まで
帯電話のユーザー数は、ユニーク加入者数で 1 億 5,000 万人を突破すると
を視野に入れた計画を立てるためには、
しっかりとしたビジョンが必要です。 予測されています。
インドネシア第 5 位の銀行である CIMB Niaga は、この新しい人口階層に
向けたモバイルバンキング/モバイルコマースサービスの基盤となるプラッ
主な経済指標を見ると、今後 10 年間で非銀行利用者層の多くの人々が急
トフォームを展開することで、今まさに、
こうした将来への準備を進めていま
速に社会的地位を向上させ、
「明日の中流階級」の仲間入りを果たすと考え
す。この取り組みを支えているのは、
あらゆる社会階層のジェネレーション X
られます。世界銀行のレポートは、平均的なインドネシア市民の 1 人あたり
(1965 ∼ 1980 年生まれ)
とジェネレーション Y(1981 ∼ 2000 年生まれ) 国民所得が現在の年間 3,000 米ドルから 2020 年には年間 1 万米ドルに
を対象とした、
ソーシャルメディアを活用した積極的な啓蒙・啓発です。
上昇すると予測しており、当行のアナリストも同じ見方をしています。
1 万 3,600 もの島々に散在する約 2 億 5,000 万人のインドネシア国民に銀
行サービスを提供する方法として、モバイルが最も効率的であることは明白
新たな選択肢
であり、
この国で実店舗を構えて全ての人々に銀行サービスを提供するのは、
ほぼ不可能です。しかし、当行がモバイルバンキングの提供を決断した理
この変化がインドネシアの社会とバンキングビジネスに極めて大きな影響
由は、こうした現実上の問題だけではありません。当行の見方では、モバイ
を及ぼすことになるのは明らかです。
ルは単なるテクノロジーではなく、インドネシアにおける銀行利用者のライ
フスタイルやライフステージと完全に連動する社会現象でもあるのです。
言うまでもありませんが、年間 1 万米ドルの所得が得られるようになれば、安
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定した将来に向けた生活設計を真剣かつ前向きに考えられるようになりま
一言でいえば、モバイルはインドネシア社会を形づくる構造の一部です。モ
す。住居、教育、旅行、クレジットカードはもちろんのこと、ほかにも多くのこ
バイルは、若者にとっては自分の分身のような存在であり、都市部の住民
とが可能になります。
や中流階級にとっては生活をシンプルにしてくれるツールであり、貧困層、
障がい者、非銀行利用者層にとっては命をつなぐためのツールです。そして、 そして、人々が欲しいものを実際に手の届く対象として具体的に思い描け
モバイルマネー /モバイルコマースの成長とイノベーションを新たな段階
るようになった時点で、バンキングサービス市場の爆発的な拡大が始まる
へと引き上げる契機となるチャネルでもあります。
ことになります。その結果、個人間(P2P)決済だけでなく、それ以外の多機
能なサービスに対する需要が広がっていきます。利用者は、モバイルコマー
インドネシアでは現在、総人口 2 億 5,000 万人のうち、銀行口座を持ってい
ス、マイクロファイナンス、さらには携帯電話を使って自分の活動のすべて
を計画および追跡できるようなサービスまでを求めるようになります。
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CIMB Niaga では、こうした将来をただ座って待っているわけではなく、こ
です。さらに、当行の料金モデルはシンプルであり、非銀行利用者層と、
すべ
の変化を加速し、ひいては当行が市場リーダーとなるための戦略を追求し
ての社会階層における価格に敏感な利用者の両方に訴求するものとなっ
ています。
ています。国内の他行との間の送金には少額の手数料(0.50 米ドル)
をい
ただきますが、CIMB Niaga の口座を持つ利用者間の送金には手数料は
当行の戦略は一面を見れば、金融包摂の推進を徹底的に重視しています。 いただいていません。料金支払についても、特定の請求者に支払う場合に
しかし当行では、モバイルバンキングサービスを現時点で提供することで得
をいただいています。携帯通話時間のプ
のみ、少額の手数料(0.35 米ドル)
られるメリットも十分に認識しています。基本的なサービスを早期に提供す
リペイドカードは、手数料なしでご購入いただけます。
ることで、利用者との間に確かな信頼関係を築き、ロイヤルティを醸成して
おけば、数年後にほかの商品(例:クレジットカード、保険)
を投入したとき
Go Mobile サービスは当初の想定を超えて急速に普及しており、ゼロから
もスムーズに受け入れてもらえる効果が期待できます。
始まった利用者数の成長ぶりには目を見張るものがあります。2012 年 12
月時点での Go Mobile のユーザーは 30 万人を超えており、勢いは増すば
かりです。月平均でサービスへのログインは約 150 万回、金融取引は約 25
両面作戦のビジョン
万件となっています。
やがて訪れる大きなチャンスに乗り遅れないための準備として、CIMB
Niaga では、2012 年に Go Mobile を開始しました。このモバイルバンキン
スマートなマーケティング
グサービスは、料金の支払、携帯通話時間のプリペイドカード、国内に銀行
口座を持つ受取人を対象とした P2P 決済などの機能を備えています。Go
当行のモバイルバンキングサービスがあらゆる利用者層に歓迎されている
Mobile は、基本的なモバイルバンキングサービスを求める非銀行利用者
のは明らかですが、成長の真の原動力は、
「明日の利用者」に向けてサービ
層のニーズを完全に満たすだけでなく、金融資産の管理に役立つ簡便な
スのプロモーションを行ってきたことです。
サービスを望む、何かと時間に追われがちな都市生活者の要望にも応える
モバイルバンキングは、インドネシアではまだ初期段階にあります。しかし
ものとなっています。
当行では、早期導入者の多くが、ジェネレーション Y の消費者や、都市部の
ある利用者セグメントのニーズをもう一方のセグメントよりも優先させるの
若手経営幹部を含む社会階層に集中していることも認識しています。その
は、収益源をみすみす他行に渡すようなものであるため、当行の戦略はどち
ため CIMB Niaga では、
こうした消費者層に当行の価値提案を伝えるため
らのニーズも満たすことを狙っています。そのため、積極的なマーケティン
に、彼らが好んで利用しているメディアを選んでメッセージを発信するよう
グを展開することで、銀行サービスを利用するために実店舗に足を運ぶの
にしています。
は面倒だと考える、
トレンディーなミレニアム世代(2000 年以降に社会人
になった世代)の関心も惹き付けるようにしています。非銀行利用者層は、 たとえば、オンライン広告には多額の投資を行ってきましたし、YouTube で
モバイル事業者が提供する SMS チャネルを使って Go Mobile を利用でき
気軽に閲覧 /共有してもらうためのコマーシャルビデオも製作してきました。
ます。一部のサービスは USSD でも提供されており、携帯電話が対応して
また、ショッピングモール、大学のキャンパス、人気イベントの会場などで積
いれば利用できます。重要なのは、非銀行利用者層がどのような仕様やモ
極的に説明会を開催し、
実際にサービスを使っているところをデモンストレー
デルの携帯電話でもサービスにアクセスできるようにすることです。
ションしています。利用者との交流を深めて関心を維持してもらえるように、
自作のコマーシャルビデオを YouTube に投稿してもらい、当行のサービス
「豊かな人々」向けでもある Go Mobile は、モバイルアプリの形でも利用で
のコマーシャルとして優れた作品を表彰する企画も実施しています。
きます。当行のモバイルアプリは、あらゆるオペレーティングシステムに対
応しており、利用者はスマートフォンにダウロードして使用します。モバイル
ソーシャルメディアは確かに効果的ですが、サービスのメリットや日常生活
アプリは、残高照会や各種取引に対応しているほか、位置情報に基づく追
での応用について、利用者を啓蒙・啓発することも同様に重要です。当行で
加機能も用意されており、最寄りの ATM や銀行支店を検索することも可能
はこの目的を達成するため、全 974 支店の全行員に対してトレーニングを
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言うまでもありませんが、年間 1 万米ドルの所得が得られるようになれば、
安定した将来に向けた生活設計を真剣かつ前向きに考えられるようになります。
住居、教育、旅行、
クレジットカードはもちろんのこと、ほかにも多くのことが可能になります。
実施し、全員がモバイルアプリを使いこなし、利用者からの質問にきちんと
寄りの ATM または CIMB Niaga 支店で現金を引き出す方法が通知されま
回答できる態勢を整えています。このアプローチはギャップの解消にもつな
す。受取人は、ATM のボタンを押して携帯電話番号と暗証番号を入力すれ
がります。CIMB Niaga が非銀行利用者層にサービスの利用方法を教える
ば、送金された金額を引き出すことができます。
と、今度はその利用者が周囲の人々に同じことを広めてくれるのです。
より多くの金額を送金したい利用者は、支店に登録しなければなりません。
つまり、身分証明書を提示して顧客本人確認(KYC)
プロセスを完了する必
(約 500 米ドル)
まで送金
要があります。登録が済むと、最大 500 万ルピア
モバイル展開のロードマップ
または受領することがインドネシア中央銀行から許可されます。
当行の経験からすると、モバイルバンキングサービスの導入展開をそれな
りの規模で成功させるためのカギを握っているのは、継続的な啓蒙・啓発と
マーケティングです。また、
この取り組みによって、CIMB Niaga がその他の
完全な商取引
サービスを段階的に投入するための道、つまり、モバイルウォレットから始
めてモバイルコマースへと徐々にサービスを拡大していくための道も開か
CIMB Niaga の次の重点目標は、モバイル決済サービスを提供してモバイ
れることになります。当行のロードマップには、どちらのサービスもしっかり
ルコマースを実現することです。携帯電話による決済機能が確立されれば、
と組み込まれています。
買う側にも売るに側も、新たな可能性が広がります。当行はモバイルバン
キング市場のリーダーになることを真剣に目指していると同時に、モバイル
モバイルウォレットについては、パイロット導入の成功を受けて 2013 年 3
コマースが、総合的なモバイルソリューションを利用者にお届けするため
月に Rekening Ponsel を開始しました。このサービスは CIMB Niaga の
の重要な要素であると確信しています。モバイルコマースの開発段階では
プラットフォーム上に構築されているため、利用者は受取人の携帯電話番
いくつもの選択肢がありますが、私たちは、利用者にとって最も理解しやす
号さえ分かっていれば、銀行口座を知らなくても、あらゆるモバイルネット
いサービスになることを重視して、その設計を検討しているところです。将
ワークを通じて国内で P2P 送金を行うことができます。また、登録された携
来的には、利用者が家を出るときには、財布ではなく、携帯電話を持ってい
帯電話番号を使って、支店の ATM から現金を引き出すことも可能です。こ
くだけで済むようにしたいと考えています。
の取引に ATM カードは必要ありません。
ただし、
このモバイルウォレットはユーザーが銀行口座を持たなくても利用
ワン・ラズリー ・アブドラ(Wan Razly Abdullah)氏は 2009 年 7 月から、
できるため、携帯電話で送金または受領できる金額は 100 万ルピア(約
PT Bank CIMB Niaga Tbk の戦略・財務担当ディレクターの職にあります。
までに制限されています
(銀行口座を持たない利用者の場合)
。送
1 万円)
それ以前には、Maybank Investment Bank、Northern Trust Company、
金が完了すると、受取人にはテキストメッセージが送信され、送金額と、最
PriceWaterhouse Coopers などで要職を歴任しました。
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