青 年 海 外 協 力 隊 O B・ O G の 軌 跡 職人/企業 6回 第 相手に深く向き合う るようになるに従い、鈴木さんは 体験がある。「現地では、事故や 「場所が異なれば、日本と状況が 病気で手足を失くし、ぼろぼろの 鈴木さんはもともと、自動車用 違うのは当たり前。この現実を受 服装で物乞いをしている障害者を エンジンをつくる会社で電気技師 け入れ、自分にできることを考え 多く見かけました。彼らの悲惨な として働いていたが、「一度、開 るべき」だと思うようになった。 姿を見て、何かできないか、と思 発途上国で暮らしてみたい」とい こうした気持ちの変化をきっか いつつ帰国したところ、新聞で電 う憧れの下、青年海外協力隊に応 けに、鈴木さんはその後、現地の 気制御による義肢の記事を目にし、 募。バングラデシュの職業訓練校 教員と協力して電気回路の教科書 『これだ』と感じたのです」。 へ派遣されることになった。 をつくったほか、生徒たちには変 義肢の製作には、対象者との細 現地からの要望は、自動車用エ 圧器を使った実験を行うなど、電 やかなコミュニケーションが必要 ンジンの自動組み立て機に使うよ 気機器に触れさせるよう心掛けた。 になる。「オフィスワークをする うな高度な電気回路の構造につい こうした取り組みを続けることで、 人と農作業をする人では足の使い 現状を受け入れる て教えてほしいということだった。 生徒や先生の意欲が引き出され、 方が異なるなど、細かい点まで配 ところが実際に行ってみると、学 次第に「もっと電気回路について 慮しなければ、真に相手に合う義 校には教科書すらなかった。さら 教えてほしい」という輪が広がっ 肢はつくれません。協力隊で身に に、教員たちが電気回路の基本を ていったという。 付いた、自分の先入観を取り払い 十分理解していないため、壊れて しまった電気機器の修理に忙殺さ 真に関わることで見えるもの 相手と向き合う力が、今まさに生 きています」と鈴木さんは語る。 れる日々が続いた。 鈴木さんは現在、事故などで手 「いつかバングラデシュのよう 「何でこんなこともできないの や足を失った人に義手や義足を作 な開発途上国で、義肢を必要とす か」といら立つこともしばしばあ る義肢装具士として働いている。 る人々のために働きたい」。鈴木さ ったが、半年ほど過ぎ、現地の状 実は、義肢製作の世界に飛び込ん んは未来を見据えつつ、今日も目 況に多少慣れて冷静に物事が見え だ背景には、バングラデシュでの の前の一人一人に向き合っている。 (有) 吉田義肢装具研究所 義肢装具士 鈴木 裕さん(51歳) 18歳 自動車会社に入社、 併せて電気通信大学の夜学へ通う 32歳 青年海外協力隊として バングラデシュへ (職種:電気機器) 36歳 義肢装具の専門学校に入学 39歳 現職 義肢は一つ一つオーダーメイドでつくられる分、 相手とのコミュニケーションが重要だ 発足から50周年を迎えた青年海外協力隊。この連載では、協力隊の経験を生かして挑戦を続けるOB・OGを紹介します。 開発途上国では、日本と同じやり方では通用しないことが多くある。今回は、青年海外協力隊での体験 によって身に付けた 「相手に深く向き合う」 力を生かして活躍する義肢装具士、そして近年立ち上げら れた 「民間連携ボランティア制度」 を活用して協力隊に参加した企業人を紹介する。 サガミインターナショナル (株) 吉本 海外事業部 康之さん(41歳) 22歳 (株) サガミチェーンに入社。 営業、人事などを担当する 39歳 青年海外協力隊としてベトナムへ (職種:コミュニティ開発) 40歳 現職 協力隊時代には、農家を訪ねて衛生管理講習を行った 40代を前にしての決意 善に携わることになった。しかし、 イスができるようになりました」 日本的なビジネスのやり方を身に と吉本さんは振り返る。 日本企業の海外進出が近年、相 付けた吉本さんに、現地の人々の 次いでいる。こうした中、企業の 対応は戸惑うことばかりだった。 グローバル人材育成を支援するた 約束の時間に平気で遅れたり、 1年間の任期を終え帰国した後、 め、国際協力機構(JICA)は2012 仕事より家族との時間を優先する 吉本さんはサガミチェーンのベト 年、企業の社員を青年海外協力隊 など、活動を始めた当初は思うよ ナム事業の責任者に就任した。す 員として開発途上国へ派遣する うに計画は進まず、苦悩の日々が でに来夏にホーチミンに第一号店 「民間連携ボランティア制度」を 続いた。しかし、「何でうまく行 の出店が決まっており、現在はメ 創設した。吉本康之さんは、この かないのか」と考える中で、「自 ニューの選定や食材の仕入れルー 制度を活用し協力隊に参加した一 分は日本のやり方で進めようとし、 トの確保などに奔走する日々だ。 人だ。 現地にしっかり向き合っていなか こうした取り組みは、協力隊時 吉本さんは、大学卒業後、和食 った」と思い至った吉本さん。そ 代に現地の味の志向や、生活習慣 レストランチェーンを展開する の後は「計画にこだわり過ぎず、 を体得した吉本さんだからこそで (株)サガミチェーンで営業や人 現地の人たちとの交流をもっと大 きる仕事だ。「家族を大切にする 事を務めてきた。「40代を前に、 切にしよう」と、店のオーナーだ ベトナムの人々の価値観を肌感覚 新しいことに挑戦したい」と感じ けでなく、その奥さんや子どもに で知ったことで、店の形態や運営 ていたある日、会社で協力隊募集 も積極的に話し掛けるようになっ の仕方をどうすべきかといった点 の知らせを目にし、「自分の成長 た。時には子どもたちと遊んで丸 まで、具体的に想像できるように につながるはず」と応募を決めた。 一日つぶれてしまった日もあると なりました」と吉本さんは語る。 吉本さんはベトナムで、観光振 いうが、「おかげで現地の人々が 真に現地の人々の喜びを生み出す 興の一環として農村にある古民家 大切にしているものに気付き、彼 外食サービスの提供に向け、吉本 レストランの衛生や接客などの改 らの事情に深く寄り添ったアドバ さんの挑戦は始まったばかりだ。 現地を肌感覚で知る JICA中小企業海外展開支援事業へのアクセス 「JICA 中小企業支援」で検索してください。
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