高品質なブランド地鶏を確立する - 鹿児島大学 産学官連携推進センター

成長戦略シリーズ
農 業
サツマイモの機能性を活かした飼料で、
高品質なブランド地鶏を確立する
鹿児島大学 産学官連携推進センター
特任専門員
今回は農学部大塚彰教授の取組みを紹介します。
廃棄サツマイモを高機能飼料に変える加工法
栄養生化学・飼料化学研究室を率いる大塚氏
は、主に家畜の生産性向上を目指した研究に取
り組んでいる。その一つが黒麹菌を使った機能
性飼料。
「焼酎粕は良質な配合飼料になりますが、その原
因物質が黒麹菌であることを突き止めました。ブ
ロイラーに黒麹菌を与えると成長促進と筋量増加
に効果があり、暑熱ストレスも抑制。その効果は酵
母と組み合わせることで増強されることも分かり
ました」
。この成果は企業との共同研究により麹発
酵飼料として商品化、ブロイラーだけでなく牛、豚
等にも広く利用され、海外にも展開している。
「日本では食肉を作るコストの 6 割が飼料代。
飼料の 9 割は輸入されるため、天候や為替など不
安定要素も多い。国産飼料を増やすことは畜産業
の大きなテーマです」
。大塚氏は数年前からサツ
マイモの残さに注目して来た。サツマイモを焼酎
などに加工する際に、表皮・末端等の大量の残さ
が発生する。豚用飼料に加工される一部を除き、
多くは廃棄されている。
「サツマイモはビタミンC・Eやポリフェノー
ルなどを多く含みますが、栄養素は高熱加工する
と破壊される。72℃の低温で長時間乾燥させるこ
とで、栄養豊かなサツマイモフィード(飼料)が
できます」
。石焼き芋を作るのと同じ条件で製造
した飼料は、体重増や肉質向上に効果があること
がブロイラーで実証された。大塚氏はこれを鹿児
島の地鶏に与えることで、特産地鶏をアピールし
たいと考えている。
平原 彰子
食肉の価値に合わせた飼料作りの戦略が必要
「黒さつま鶏での試験では、肉質を保持するビ
タミンEが高くなり、赤味が濃くジューシーな食
味になることがわかりました」。大塚氏はこの成
果を、種子島のインギー地どりに応用するプロ
ジェクトを進行中だ。インギー地どりは種子島に
伝来するインギー鶏を交配改良した地鶏で、柔ら
かい肉質が特徴。南種子町を挙げてブランド化を
推進している。インギー地どりに規格外の種子島
産安納芋から作った安納芋フィードを給餌し、肉
質・食味を科学的に評価する。より高品質・高付
加価値のブランドを確立するのが目的だ。
「飼育業者、装置メーカー、飼料会社、他大学の
研究者、自治体など多くの方が関わっています。
様々な助成金も申請し、実現に向けて動き始めま
した」。全国各地に様々な地鶏が存在する中でブ
ランドを確立するには、差別化のための確かな品
質とストーリーが必要と考えている。
「食肉の二極分化はますます進むでしょう。生
産性が高くて、安価に大量供給できる肉と食味や
機能性に優れ付加価値を持つ肉。飼料も戦略的に
使い分ける必要があります」。ブロイラーは生後
2 カ月で 3kg に育つ。同量の肉を得るのに必要
な飼料は豚の半分、牛の 4 分の 1 で済む効率的
食肉。人口爆発を救うタンパク源として期待され
る。一方で地鶏の値段はブロイラーの約 10 倍。生
産性を上げる飼料と付加価値を上げる飼料は、異
なるのが当然だ。
「地鶏をブロイラーの飼料で育
てるのは、スポーツカーをレギュラーガソリンで
走らせるようなものです」。
新たな鹿児島ブランドの誕生が楽しみである。
サツマイモフィードの作製
●サツマイモフィードの作製
焼酎工場から廃棄
サツマイモ加工残さ
減圧加熱乾燥䢢
72℃、5時間䢢
デンプンのα化
デンプンのα化
サツマイモ内在
サツマイモ内在
βアミラーゼ
βアミラーゼ
による糖化促進
による糖化促進 50
減圧加熱乾燥装置
低温・短時間、変性・炭化が少ない
デンプン含量
マルトース含量
6
40
4
35
30
10
8
45
2
室温乾燥ᴾ さつまいもᴾ
サツマイモᴾ フィードᴾ
0
サツマイモフィード
室温乾燥ᴾ さつまいもᴾ
サツマイモᴾ フィードᴾ
▲郡 元 キ ャ ン パ ス 内 の 動 物 飼
育棟では、最大60羽の飼育
試験が可能。
▶種子島の期待を集める
インギー地どり
●問合先:鹿児島大学産学官連携推進センター
TEL099-285-8491 e-mail:[email protected]
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経済情報 2015. 3